ゆっくりいじめ系642 満員電車とゆっくり

「ゆっくりしていってね!」
電車で通勤していると、突然足元から声が聞こえた。
見ると、生首のようなものが俺を見上げている。大きさは、俺の脚から膝までの半分といったところか。
「おじさんはゆっくりできるひと?ゆっくりできないなられいむのおうちからでていってね!できるなられいむにたべものをもってきてね!」
なんだこれ?生き物?
人生で一回だけ、電車の中に迷い込んだ鳩を見たことがあるが、コイツもその類なんだろうか?
周りにいた人たちも一瞬俺の足元を見るが、すぐに視線を逸らす。
それはそうだろうな、もし電車の中で足元に生首をまとわりつかせた奴に遭遇したら、俺だってスルーするに決まっている。
周りの雰囲気に合わせ、俺もその生首を無視することにした。
「おじさん、むししないでね!!」
まだ足元から何か聞こえてくる。無視だ、無視。俺は正常!幻覚に返事なんかしない!!
「れいむをむしするおじさんはゆっくりでていってね!!!」
うお、足元に何か当たってる。ぶよぶよした感触がズボンを通して足に伝わってくる。
見ると、奇妙にひしゃげた生首が俺の脚を押している。このまま電車の外に押し出す気なのだろうか。
つーか俺はまだ二十代前半で、生首におじさん呼ばわりされる筋合いは無い。
「な゛ん゛でうごがな゛い゛の゛お゛お゛お゛!!!!」
いや、確かに押し出そうとする感触は伝わるが、力が弱すぎる。そんなんじゃ子供も押し出せないだろう。
「もういいよ!!ゆっくりできないおじさんはゆっくりしね!!!」
そういって生首は車両の奥のほうに跳ねていく。なんだったのか。俺から数歩離れたところで
「おじさん、あしをどけてね!!」
と喚く。言われた中年の男性も困ったような顔をしてすぐに視線を逸らしている。
……早く会社に着かないかな。こんなこと思うの初めてかもしれない。

そうこうしているうちに、電車はとある駅に到着する。この駅、十近い鉄道が通っており、乗り換え客が多い。
そして、ここからが俺と満員電車との戦いだ。
いつものように来る戦いに向けて気合を入れ、ふと、あの生首は満員電車に耐えられるのだろうか、と思った。

ドアが開くと同時に、大量の人間が駆け込んでくる。自然と俺は電車の隅のほうへ追いやられていく。さっきの生首のいる方向だ。
みると、生首は驚いた表情で人ごみを見ているが、気を取り直したのか
「ここはれいむのおうちだよ!!おじさんたちはゆっくりでていってね!!」
と怒鳴っている。俺のときと違い初っ端から出て行けという辺り、いらついているのだろうか。
しかし、それで出て行く人がいるはずも無い。
生首に気づいた人たちは一瞬ぎょっとした顔をするが、やはりスルーして読書なり音楽なり携帯なり、自分の世界に入り込んでいく。
一方生首のほうは、
「どうじではい゛っでぐるの゛お゛お゛お゛お゛ぉ!!!!!」
と喚き散らしていた。そうこうしているうちに電車の中は一杯になり、動き出す。
先ほどの生首はというと、俺と、近くの三人ほどの足に挟まれて縦長にひしゃげていた。
「ゆ゛っぐり゛でぎない゛い゛い゛い゛!!!どいでよ゛お゛お゛お!!!!!!」
いや、そういうけど俺だって身動き一つ取れないんだって。ちなみにこの満員状態、あと三十分は続くんだが。



ようやく会社に最寄の駅に着いた。そこも大きな駅で、乗り降りをする人間は多い。
ドアが開き、周りの人間がいっせいに降り始める。
掛かる圧が消えて縦にひしゃげた形から開放された生首だが、さすがに堪えたのか倒れこみ(?)、平べったくなってゆぅゆぅうなっている。
先ほども言ったが、この駅は降りる人間は多いが乗る人間も多い。
このまま放って置けば、この生首はまた満員電車に乗る人間達の足に潰されることになる。
…さすがにかわいそうな気がしてきたので、降りる際足で生首をドアのほうに押しやり、ホームに出してやった。
生首を蹴りながら移動する俺を見て、他の客達は一瞬ぎょっとするが、やはりスルーして読書なり音楽なり携帯なり(ry。
そのまま蹴り転がして、下り方面の乗り場まで誘導してやる。ここなら電車待ちの人に踏み潰されることも無いだろう。
これでちょっとした善行にはなったのかもな。そんなことを思いつつ、出口のほうに向かう。
と、後ろのほうから
「ゆぶげぇえっぇぇぇぇっ!!」



あまりに人間離れした声に驚いて振り向く。いや、そもそも人間じゃないか。
みると、生首は口から黒いものを吐き出していた。
「ゆぶおぷはっがげぇえええ!!」
あー、アレはきっと吐いてるんだな。たまに満員電車で具合が悪くなった女の人とか見るし。
で、嘔吐の終わった生首は取り乱して、
「れ゛い゛む゛のながみ゛があ゛あ゛あ゛!!!」
中身なんだ、あれ。見た目は餡子みたいだけど。あ、吐き出した中身を必死こいて食い始めた。それで治るのか?
しかし、そうもいかないようだ。駅に住み着く鳩が数羽、生首の元に舞い降りてくる。
生首のほうは吐き出した中身を食うのに必死で気づいていない。
が、鳩たちが生首の食べてる餡子をついばみ始めてから事態に気づいたようだ。
「ゆ゛う゛う゛う゛!!!!とり゛ざん、れ゛い゛む゛のながみ゛たべぢゃだめえ゛え゛え゛!!!!」
おーおー、跳ね回っては鳩を追い払おうとしている。
しかし鳩のほうもせっかくの餌を手放す気は無い様で、生首の体当たりを飛んで避けながら餡子をついばんでいく。
「ゆ゛ーっ!!!!とりざんはゆっぐりじね゛え゛え゛!!!!」
キレた。一羽の鳩に体当たりしようとし、鳩は上空に飛んで避ける。
そして勢い余った生首は勢いを殺しきれずにホームに飛び出し…あ、通過電車にはねられた。
凄い勢いで回転しながら吹き飛び、俺のすぐ傍、時刻表の看板に叩きつけられる。
その拍子に口から体の餡子をほとんど吐き出してしまったようで、体の厚みがいまや1cmにも満たない。
しかも、看板に張り付いてしまったようだ。口元から餡子をたらしながら、なんかつぶやいている。
「もっと…ゆっくり…した…かっt………」

時刻表を見る人が迷惑だと思ったので、引っぺがして捨てた。後で鳩が食べるだろう。



その日の夜。帰宅のための電車を待っていながら、朝に生首が死を迎えた場所に目をやると、
『鳩の糞害が多発しています!決して饅頭などのエサを与えないでください!』
と、看板の隅に手書きの張り紙があった。まんじゅうだったんだな、あいつ。






/****
ゆっくりいじめSSは初。通勤途中に思いついた。お楽しみいただけたら幸いです。
ちなみに電車に迷い込んだ鳩なんて見たこと無い。

by町長

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最終更新:2014年04月19日 20:37
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