この作品は以下のものを含みます。
- ゆっくり対ゆっくりの構図
- 虐待でも愛ででもないそれは全く新しい(ry)お兄さん
- ドスまりさ
- ゆっくり改造
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復讐のゆっくりまりさ(前)
ざあざあざあざあざあざあざあざあざあざあざあざあざあざあざあざあざあざあざあざあざあ。
降りしきる雨粒と雨音は、まるでまりさを迎える死神の歌声だった。
ああ──自分は死ぬんだ。
まりさは、ゆっくりらしくあまり上等な頭の出来はしていないが、それでもそのことだけははっきりと理解した。
頭の中を走馬灯が駆け巡る。
ゆっくりしていたあの懐かしき日々。友と遊び、ご飯を食べ、それだけで満ち足りていた。
何よりも、幼い頃からとても仲の良かった、一匹のれいむ。その姿は何より輝かしくまりさの人生を照らしている。
──決して手の届かない太陽のように
「ゆへ、ゆへへへへへ」
土砂降りの雨に包まれているというのに、笑い声はどこまでも乾いていた。
曇天の空に光はない。このまま泥のように、自分は死んでいくのだろうと、まりさは思う。
だから、せめて、最期くらいは。思い出の中で笑いながら──
「…………ゆ?」
突然、雨の音が消えた。
帽子のつばから覗く視界に、いつの間にか、人間の足があった。
おずおずと顔を上げると、一人の男が無表情にまりさを見下ろしている。
「生きたいか?」
男はそう言った。
まりさはしばらくその意味を理解できながったが、やがて理解すると、自嘲気味に笑い出した。
「ゆへへ……もう、いいよ。まりさはここでしんでいくのがおにあいのごみくずなんだよ」
瞳に希望の色はない。ただ諦観と悲哀だけがまりさを満たす全てだ。
だが次の男の言葉は、まりさにとって思いがけないものだった。
「勝ちたいか?」
「──?」
ただそれだけでは意味の通らないようなその言葉は、しかし、清水となってまりさの中に染み渡っていく。
「勝ちたいか?」
重ねて、男は訊いた。
勝ちたいか。何にだ。──決まっている。倒したい相手、憎い相手は確かにいる。
でも、勝てはしない。強さが違いすぎる。そしてこの厳しい自然の中では、強い者こそ正しいのだ。
だから弱い自分は間違っていて、ここでこうして死ぬのが似合いだ。
だが──
「勝ちたいか?」
勝ちたくないはずなど、ない。
「……ちたい」
「聞こえないな。どうしたいって?」
「かちたい……!」
「聞こえない、と言っている。お前の気持ちはそんなものか?」
まりさは、強く身を震わせ、
「か゛ち゛た゛い゛ッッッッッ!!!!!」
「──よく言った」
男はまりさを抱き上げた。
「なら、俺がお前を強くしてやる。どんなゆっくりよりも、どのゆっくりよりも、強くだ」
温かい腕と、力強い言葉を与えられ、まりさの意識は遠のいていった。
「強い目をしているな。……いや、強くなるものの目だ」
だがそこに暗闇に落ちていく恐怖はなく、ただ真綿に包まれるような安らぎがあったように思う。
「……ゆ?」
まりさが次に目を覚ましたとき、そこは森の中ではなかった。
何もかもが見慣れないものばかりの、四角い閉ざされた空間。
まりさはその中心に寝かされていた。
「起きたか?」
とそこに、男が入ってくる。まりさは一瞬警戒したが、その男が自分を助けてくれたことを思い出すと、すぐに礼を述べた。
「おにーさん! たすけてくれてありがとう!」
「おう、中々礼儀のできたやつだ。まぁ気にするな。俺が勝手にやったことだからな。それよりも──」
男はまりさの前にどっかと腰を下ろすと、まりさの瞳を見透かすように目を細めた。
その目を、まりさは少し怖いと思った。
「──まりさ、お前は、勝ちたいんだな」
「……そうだよ」
搾り出すように、まりさは返した。
そう、勝ちたい。その思いは確かに、冷たく澱んだものしかなかったまりさの精神で、小さいながらも確かに光を放っていた。
「まりさは、かちたいんだ」
ふむ、と男は顎を撫でた。
「なら、まず聞かせてくれないか。お前が勝ちたい相手と、その理由を」
まりさは、あるゆっくりの群れの長の息子だった。
聡明で強い成体まりさの子として、自らも将来は皆のリーダーとなるべく日々を生きてきた。
実際、既にまりさのリーダー性は発揮されつつあった。群れの若いゆっくりのまとめ役として、充分な働きをしていたのだ。
ゆくゆくは、その同年代のゆっくり達が成長したとき、それをまとめあげる存在に、まりさはなる予定だった。
両親も、群れの皆も、勿論まりさ自身もそれを確信していた。
だが──
ある日のことだ。群れに3メートルはあろうかというドスまりさが現れた。
精々が30センチ、大きくても50センチ程度のゆっくり達にとって、ドスまりさはまさに天を衝くような大きさだった。
ドスまりさは、土砂崩れで自分の群れの仲間を喪い、旅をしていたのだという。
そうして立ち寄ったのが、まりさのいる群れだったのだ。
ドスまりさは数日滞在しただけで立ち去るつもりだったのだが、それをまりさの父が引き止めた。
『どす! せっかくだからまりさのむれでゆっくりしていってね!』
『ううん、そんなことをしたらまりさたちに悪いよ。わたしは旅をつづけるよ』
『そんなこといわないでね! もしよかったら、まりさのあとのりーだーになってね!』
それを聞いて色を喪ったのはまりさだった。
何故なら、次のリーダーには自分が内定していたはずなのだ。
だというのに皆、そのことを忘れてしまったかのようにドスまりさを支持した。
唯一、あの愛しいれいむだけは何も言わず、まりさを悲しそうに見ていたが、それだけだ。
結局ドスまりさは群れに留まることを決め、まりさの父はその日のうちに引退宣言を出した。
群れはドスまりさを中心にして、再構築されていった。
……自分を差し置いてリーダーになったドスまりさを、まりさは快く思わなかった。
しかし一方でこれほどリーダーにふさわしい者もいないと分かっていた。
実際、ドスのお陰で群れの食糧事情は格段に良くなったし、ドスが授けてくれた知識は狩り以外の局面でも役に立つものばかりだ。
そうして群れが繁栄していくのなら、まりさとしても、不満を言い出すような筋合いはなかったのである。
だがやがて、まりさはドスの行動に違和感を見出し始めた。
ドスは普段は深い洞窟の奥に住んでいるが、そこに他のゆっくりを招き入れ始めた。
入っていったゆっくりは、ひどいときには一週間以上姿を現さなかった。
しかも出てきたときには身体はやつれ、だというのに目はきらきらと輝いていたのだ。
『むっきゅん、だいじょうぶよ。どすはぱちゅりーたちにいろんなことをおしえてくれているの』
友人のぱちゅりーはそう言ったが、今にも倒れてしまいそうだった。
日に日に洞窟の中に入っていくゆっくりの数は増えていく。
その中には──自分が愛したれいむもいた。
ある夜、まりさはドスまりさの家に忍び込んだ。
洞窟の中は外からは考えられないほど広く、そこかしこに小部屋があった。
部屋のいくつかには人間の文字で色々書かれていたが、まりさにそれらは読めなかった。
そしてやがて、一つの部屋に辿り着く。
その部屋には、ドスの体格と同じほどはあろうかという量の食料が集められていた。
──ドスが皆に命じて食料を集めさせていたのは知っている。
もし何らかの事情で餌が取れなくなったときのため、あらかじめ保管しておくというのが言い分だった。
実際、何週間も雨が降り続いたときは、ドスは溜めておいた食料を皆に分け与え、飢える心配をなくした。
だがここに集められている量は、そのときの倍以上はある。
まさかドスはこれを独り占めしているのでは──まりさはそう思いつつ、別の部屋を見て回った。
石がたくさん集めてある部屋。木がたくさん集めてある部屋。そして、葉っぱが敷き詰められている部屋──そこで、まりさはドスを見つけた。
そこはドスの寝床だったのだ。だがそこにいたのはドスだけではなかった。
(れいむ……!)
まりさが愛したれいむは、ドスに寄り添うように眠っていた。
それだけならまだいい。れいむは全身傷だらけだった。何かゆっくりできないことがあったのは明白だった。
まりさの視線は、ドスに向いた。
ドスの力は、まりさも認めている。そのドスの近くで、れいむが傷を負うようなことなどないはずだ。
だとしたら、何故れいむは怪我をしているのか。もしかしてその傷の原因は──ドスまりさ自身ではないのか。
まりさの頭の中を、やつれたぱちゅりーや仲間達の姿が駆け巡っていく。
あのときのぱちゅりーの目の光は、明らかに異常だった。本当に大丈夫だったのか?
ドスが無理矢理従わせているのではないのか?
いや、ドスは『ゆっくり光線』なるものを持っているという。まさかそれによって、無理矢理ゆっくりさせられているのでは──?
次々と疑念が膨らんでいく中、眠るれいむが身じろぎをした。
『まりさ……』
寝言で紡がれた言葉は、とても悲しそうに聞こえた。
その声を聴いた瞬間、まりさの中で一つの事実が確定した。
このドスまりさは、良いドスまりさなんかじゃない。
まりさ達を騙している、悪いドスまりさ──いや、ドスまりさですらないのだ!
まりさはドスの家を飛び出すと、夜が明けるなり、群れの皆に主張した。
あのドスまりさは偽物だ。まりさ達を騙して、搾取するつもりでいるんだ。
当然、群れの皆は反発した。だがまりさは諦めずに主張を繰り返した。
あんなになってしまったれいむを、一分たりとも放っておくことはできない。
少しでもいい、仲間ができてくれれば、その仲間と一緒に虐げられているゆっくり達を救い出すのだ。
──だが結局、まりさの言葉を聞いてくれるゆっくりは一匹もいなかった。
最後には、まりさは父親の手で群れから追い出された。
『ざんねんだよ! おまえはどすの、いちばんのたすけになってくれるとおもってたのに!
ゆっくりできないおまえはもうまりさのこどもなんかじゃないよ! ゆっくりでていってね!』
そして皆から石もて追われ、まりさは独りきりになった。
群れから追い出された辛さよりも、ドスに騙された皆を救えなかった自分の無力さに腹が立った。
何日も森をさまよい続け、やがて怒りの後に来たのは、諦め。
そしてまりさは、あの雨の中、静かに朽ちていく──はずだった。
全てを語り終える頃には、まりさの身体はすっかり乾いていた。
「そうか」
男は頷き、それだけを口にした。
慰めや励ましなど一切なかった。ただ、確認するようにまりさに問うた。
「お前は強くなりたいんだな? 強くなって、ドスを倒し、群れの皆を救いたいと、そう言うんだな」
「そうだよ!」
まりさの心は、今や炎のように燃え盛っていた。
回想するうちに、一度は忘れていた怒りに再び火がついていた。
「まりさはどすにかちたいよ! そしてみんなをたすけるよ!」
「そうか……だが本当にいいんだな? 俺はお前を強くするが……その結果、お前は二度とゆっくりできないゆっくりになるかもしれんぞ」
「ゆっ……! そ、それでもいいよ! まりさはぜったいどすにかつんだから!
だからおにーさん、まりさをつよいゆっくりにしてね!」
「…………」
男はしばし、まりさの目をじっと見つめていた。
三十秒だろうか、一分だろうか。それとももっと長い時間だろうか。
それでもまりさは目を逸らすことなく、強い思いを込めて男の瞳を見つめ続けた。
やがて男は力強く頷き、言った。
「……分かった。いいだろう。俺がお前を強くしてやる。ドスに勝てるゆっくりにしてやる」
男はまりさを抱え上げ、そして部屋を出た。
その日のうちに、まりさは三本の注射を打たれた。
一つは餡子増強剤。ゆっくりは餡子の量や密度によって知能が上がるというのは周知の事実だ。この薬物は餡子の密度を高めるものである。
一つは繁殖抑制剤。万が一発情期のありすに襲われても大丈夫なように、生殖能力を立つ。要は去勢だ。
また去勢することにより、エネルギーを他のことに回せるという利点もある。
一つは皮硬化剤。饅頭であるゆっくりの皮を、弾力性に富んだ硬いものに作り変える。
いくら強い力を得たところで、中身の餡子を喪えばそれでゆっくりは同じだからだ。
「…………! …………!」
三つの薬品が自分の身体を作り変えていく感覚に、まりさは悶え苦しんだ。声も出せぬ痛みが全身を襲う。
まるで死んだほうがましなような痛みの中、
「ドスまりさを倒すんだろう?」
「────!」
男の声が、まりさの気力を復活せしめた。
そうだ、こんなことでへたばってどうする。あのドスを倒し、群れの皆を救う使命が自分にはあるのだ。
まりさは歯を食いしばり、痛みに耐え続けた。
三日後、ようやくにしてまりさは痛みから生還した。飲まず喰わずだったせいで、その身体はやつれきっている。
「食事だ」
「ゆ! いただきまー……!」
そう言ってまりさの目の前に出されたのは──縦に潰された、ゆっくりの屍骸だった。
「お、おにーざん! ごれ……!」
「喰え」
「ゆ゛!?」
男は冷たく言い放つ。
「喰え。そのゆっくりを喰って、その餡子を自分のものにするんだ」
「で、でもっ」
「いいから喰え。言っておくが、今後一切食事はゆっくりしか出さん。飢えるのが嫌なら、喰え」
そうだった。自分は三日も何も食べていないのだ。ここで食べなければ、本当に死んでしまう。
だが──いいのか。同族殺しは最大の禁忌であり、それを食することも同様だ。
既に死んでいて、他のゆっくりも見ていないとはいえ、その禁忌を犯してもいいのか。
「何をためらうことがある。言ったはずだ、お前はもうゆっくりできないゆっくりになるかもしれないと。
それに、ゆっくりであるドスに復讐するお前が──同じゆっくり程度喰らえなくて、どうするというんだ?」
「ゆぅ……」
確かに、ドスに勝つのは生半な覚悟では無理だろう。そのために力をつけなくてはいけないというのは分かる。
そのために、このゆっくりの屍骸を食べねばならないというのも分かる。
だがその一線を、まりさは中々越えられないでいた。
男は仕方なさそうに溜息をついた。
「良心が咎めてるのかもしれんが、一つだけ言っておくぞ。
そのゆっくりは、人間の畑に忍び込んで、野菜を盗んだゆっくりだ。俺が捕まえて殺して、今そこにいる」
「ゆ……なら、このゆっくりは、わるいゆっくりなの?」
餡子増強剤によって知能の高まったまりさは、男の言葉の意味を正確に理解できた。
「そうだ。どんな事情があれ、他人のものを不正に奪うのは悪いことだ。
それはお前が一番知っていると思うがな」
男に言われ、まりさは目を見開いた。
他人から奪った食べ物を、自分勝手に扱う──それはあの洞窟で見た、ドスまりさの姿そのものだ。
まりさには、目の前の屍骸がドスまりさと同じものに見えてきた。めらめらと、心が暗黒の炎で沸き立っていく。
「──ゆっくりしね!」
がぶり、と大口を空けて、その顔だったと思しき部位に食らいついた。
そしてそのままがつがつと、一時も休まずゆっくりを胃の腑に納めていく。
甘いはずだが、味はしなかった。ただ憤怒の熱だけが舌を焦がしていく。
その様子を見て、男は一つ頷くと、部屋を出て行った。
翌日から、まりさの本格的なトレーニングが始まった。
平均台を渡らされたり、高さの違う台を乗り継いだり、飛んでくる石を避けたり様々だ。
硬化剤を注入されたまりさは、強い弾力が生まれた身体を上手く動かせなかったが、
「三日で自在に動かせるようにしろ。でなきゃ死ぬぞ」
その言葉通り、三日目からは全てのトレーニングに死の罠が設置された。
平均台の下には鋭い棘が並び、台は動き出して外側にはやはり棘がある。飛んでくるのは石の変わりに鉄球だった。
まりさは、その訓練を必死でこなした。クリアできなければ死ぬ。死への恐怖がまりさを突き動かす。
だが訓練は日に日に厳しくなり、一度ならず、まりさは生を諦めかけた。
その度に男の檄が飛んだ。
「そんなことでどうする。お前はそれでいいのか。ドスを殺すんじゃなかったのか。
ドスの魔の手から、皆を救うんじゃなかったのか」
その言葉がまりさにいつも勇気を与えてくれた。
そうだ。自分がここにいるのは、ドスを倒すため。お兄さんは、そんな自分に付き合ってくれている。
一刻も早く強くならなければならない。こうしている間にも、ドスは皆から搾取を繰り返しているだろう。
友は無事だろうか。
パチュリーは生きているだろうか。
愛するれいむは、笑えているだろうか。
「れいむ、れいむ……!」
記憶の中で鮮やかに輝くれいむの笑顔が、まりさに無限の活力を与えてくれる。
そして今日も、より厳しい訓練に取り組んでいくのだ。
二週間が過ぎた。
食事の方法にも変化があった。最初のほうはゆっくりの屍骸だったが、やがて生きたゆっくりが与えられるようになった。
どれも男が村を襲いに来たのを捕まえたものばかりだった。
始めは足を焼かれたれいむやまりさからだった。生きているゆっくりをそのまま食べるのは気が引けて、殺してから、数度に分けて喰った。
足を焼かれていないゆっくりを相手にしたときは、幾度となく傷を負った。
発情したありすは、嫌悪感から即座に噛み殺してしまった。その勢いのまま全て口の中に納めていった。
足の焼かれていないゆっくりの中でも、巨大なまりさは特に手強く、そして一番憎い敵でもあった。
「あのゆっくりは、他のゆっくりを働かせて搾取していたらしいな。お前が言うドスと一緒だ」
そう男から聞いたとき、まりさから一切の情けの心が消えたのだ。
激しい死闘の末、まりさは巨大まりさを内側から食い殺し、そして一日をかけて全て消化した。
一ヶ月が過ぎた。
この頃から、まりさはただ身体を動かすだけでなく、戦うための知識や道具の使い方を教え込まれた。
自分より大きな敵を相手にしたときの立ち回り方や、ゆっくりの弱点。
また一対一のみならず、大多数の敵を相手にした場合の対処法まで。
それだけではない。れみりゃやふらんといった凶暴な捕食種を想定した戦闘技術の伝授も行われた。
そしてその日学んだことを活かさせるかのように、『食事』が与えられていく。
やがてまりさは、胴付きのれみりゃやふらんでさえ物ともしないだけの戦闘力を身につけるに至る。
道具──武器については、ゆっくりはその体格のため、一度に一つずつしか使うことができない。その辺りも踏まえての訓練が行われた。
「落とした武器を拾おうと思うな。お前が身体を下に向けるのは、相手にとって最大のチャンスだ。
武器は基本的に使い捨てるものだと憶えろ。最後に残るのは、お前の身体一つだ」
その日は、その言葉通りの訓練が行われた。
まりさに与えられたのは、数本の、重石のついた竹の棒だけ。
敵はそれと同数の、飢えたゆっくり。
まりさは一本一本を的確にそのゆっくり達に突き刺し、重石の重みで自由を奪ってから仕留めていく。
途中、二本の棒を落としたが、男の助言に従いまりさはそれを拾わず、自らの身体能力だけで勝利を収めた。
そのような戦い=食事を幾度となく繰り返した。
絶対的不利な条件下からの逆転を求められ、それに応えた。
全ては、そう、ドスに勝つためだけに。
強く根付いた復讐心だけが、まりさを動かす全てだった。
一ヶ月と二週間が過ぎた。
この頃から、再度、まりさ自身の身体に手が加えられ始めた。
一日ごとに薄めた硬化剤を塗りつけ、ありとあらゆる薬物投与が行われた。
その苦しみたるや、最初の三日間の比ではなかった。
だがそれは、まりさがドスまりさに勝つために、必要な措置であったのだ。
ドスの『ゆっくり光線』や幻覚を見せる能力は、戦いに利用すればこの上なく危険な代物である。
まりさはそれを無効化する必要があった。そのための改造だった。
しかし、それはまりさが真にゆっくりできなくなることと同義だ。
『ゆっくり光線』を浴びてもゆっくりしないということは、その者の肉体と精神に、『ゆっくりする』という概念が存在しないということだ。
まりさが薬物によって与えられたのは、『痛み』だった。
内側から餡子を責め立てるような痛みが、常にまりさには満ちていた。
その痛みがある限り、まりさはゆっくりすることがない。
まともに動くことも、眠ることすらできないほどの痛みを受け、しかし男はそれ以外のスケジュールに一切の変更を加えなかった。
戦う相手は日ごとに強くなっていき、殺して喰らわねば明日を生きる命(しかく)はない。
「──お前はここで終わるのか?」
胴付きふらん五匹と相討ち同然の死闘を繰り広げたまりさに、男は声をかける。
まりさは答える気力すらない。
「これがお前の望んだ結末か?」
「ゆ゛ぅ……」
「お前がもうゆっくりしたいと言うなら、俺は止めはしない。楽に殺してやろう。
だが、お前はそれで良かったのか? 何故お前はここにいるんだ?」
ああ、それは、もちろん。
「ドスまりさを、殺すためだろう?」
そうだ。
「ドスまりさから、皆を救い出すのだろう?」
そうだ。
「愛する友や、家族たちに、再びゆっくりしてもらいたいんだろう?」
そうだ!
「──いい目だ。
立て。そして喰え。お前が生き延びるため、そして、仲間の明日を護るために」
「ゆ゛、ゆ゛ぅぅぅぅ」
まりさは、激痛の走る身体を動かして、ふらんの屍体に齧りついた。
自分ひとりの痛みなど、それがなんだというのだ。
今頃仲間達は、ドスに騙されていることにも気づかぬまま、ゆっくりと死の道を歩き続けているというのに。
その自覚なき苦しみに比べたら、この程度の痛みで弱音を吐いている暇などない!
「ゆ゛っ、まりざは、がづんだ……どずをごろじで、みんなを、れいぶを、だずげるんだ……!」
うわ言のように、しかしゆっくりとしては考えられないほどの強固な意志で、まりさは言う。
そこに溢れる漆黒の殺意を感じ、男は満足げに頷いて、部屋を出た。
あとにはまりさがふらんを咀嚼する音だけが響いている。
ある日、まりさは初めて男の家から出された。
「お兄さん、どこにつれていく気なの?」
まりさが来て、もう二ヶ月近く。この頃にはまりさは人間同様の明朗な発音が出来るようになり、また痛みに苛まれる様子もなくなった。
だが痛みは消えたわけではなく、今もまりさと共にある。ただそれに慣れ、寝食を共にすることを可能としただけだ。
その事実を示すかのように、まりさの目には、最早かつてのような奔放な輝きは宿らない。
復讐の業火で灼かれ、苦痛の鎚で叩かれた、刃の如き鋭さを湛えていた。
男はある大きな柵の中で立ち止まった。
「……!」
そこには、大小さまざまなゆっくりが掻き集められていた。
大きいものから小さいものまで。まだ赤子のゆっくりもいる。その数は百は下らないだろう。
「こいつらは昨日、群れ丸ごとで村を襲いに来たやつらだ。大規模な罠仕掛けて一網打尽にはしたが、反省する様子はない」
ゆっくり達は男に興味などないように、必死に柵に対して突進を繰り返している。
仲間と励まし合うもの、お互いに責任を押し付けあうもの、泣き叫ぶ子と、それをあやす親、気にせずゆっくりしているもの。
そこには様々なゆっくりの様々な在り方があり、それにまりさは、かつていた群れを思い出した。
復讐の炎が、ほんの僅か、ゆらぐ。
まりさの心を悟ったかのように、男は続けた。
「これだけの数が丸ごと押し寄せてきたんだ。何か、並々ならぬ事情があったんだろうさ。
だとしても俺ら人間にとって、許す理由にはならないが──お前にとっては、どうだろうな」
「ゆ……」
まりさがたじろいだのは、これだけの数を前にしたからではない。
もっと心の奥底の、どこかに置いてきたものが、まりさに訴えかけてきたのだ。
「まりさ、これを咥えろ」
男が差し出したものを、まりさは反射的に口で受け取る。
それは、工具のノミだった。
戸惑うまりさをよそに、男はまりさを柵の中に放り込んだ。
「「「「ゆゆっ!? ゆっくりしていってね!!」」」」
いきなり放り込まれた同族にゆっくり達は驚いたようだったが、すぐにお決まりの言葉を返した。
だがまりさは何も返せなかった。ひとたび『武器』を咥えた口は貝のように閉じ、それを落とすことを許さなかった。
「まりさ、そいつらを全員殺せ」
男は、まりさにだけ聞こえる声で言った。
「ゆっ!? でも……!」
振り返り、思わず抗議しようとするまりさに男は取り合わず、今度は他のゆっくり達を向く。
「おい、お前ら、よく聞け!」
「「「「「「「ゆゆゆ!!!???」」」」」」」
そして、思いもかけぬ言葉を発した。
「このまりさを殺したら、お前ら全員解放してやる! 餌もたっぷりやるぞ! どうだ!?」
「「「「「「「「ゆ゛!!!!????」」」」」」」」
驚きの声は、まりさからも発せられていた。
「お、お兄さん! どうしてそんなことを──!」
「「「「「「「ゆっくりしんでいってね!!!!!!!」」」」」」」
まりさの声は、後ろから叩きつけられた数多の殺意に押しつぶされた。
(ああ────)
何かが急激に冷めていくのを、まりさは自覚した。
さっきまで、励まし合っていたゆっくりが、責め合っていたゆっくりが、泣き叫んでいたゆっくりが。
親が、子が。良いゆっくりが、悪いゆっくりが。れいむがまりさがありすがぱちゅりーが。
百二十一匹のゆっくりの群れが。
今はその全ての意志を、まりさ一匹を殺すために向けている──
「殺せ」
男は見もせず、まりさに言った。
背後からはゆっくりの跳ねる音が、波濤となって押し寄せてくる。
まりさは振り向いた。
そして、一方的な虐殺が始まった。
虐待でも愛ででもない、全く新しいジャンルを生み出そうとして、試行錯誤した結果がこれだよ!
書いてる途中でいつのまにか40KB越えてたんで分割しました。しかもまだ途中です。
文章が無駄に長くなってしまうのは自分の悪い習性ですね……
簡潔かつ効果的に感情をゆさぶれる他の書き手さんたちが羨ましいです。
続きは近いうちに。
ゆっくり実験室
ゆっくり実験室・十面鬼編
ゆっくり焼き土下座(前)
ゆっくり焼き土下座(中)
ゆっくり焼き土下座(後)
シムゆっくりちゅーとりある
シムゆっくり仕様書
ゆっくりしていってね!
ゆっくりマウンテン
最終更新:2008年09月14日 08:03