- 原作キャラ(慧音・妹紅)
- 善良なゆっくり(今回は出ません)
- 悪辣なゆっくり
- 虐待要素よりも多めの制裁要素に見せかけたもこたんフィーバー
それでも良い方のみ、以下にお進みください
ゆっくり焼き土下座(中)
森からゆっくりの姿が消えて三日後、慧音は狩人達に頼んで、森のゆっくりの群れがあったと思しき場所を捜索させた。
するとそこら中から、衰弱したゆっくりが見つかった。
足が焼かれ印が押されていたことから、先日のまりさの集団であったことに間違いない。
慧音はそれを全て一箇所に集めさせた。
「さて……」
先日と同じ柵に入れられた、先日と同じ面子(区別はつかないが)を見下ろしながら、慧音は吐息した。
「お前達、なんで自分がここに集められたのか分かっているか?」
「わがらないよぉぉぉぉぉぉぉ!!! おながずいだよぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「おねーさん! はやくまりさたちにごはんをよういしてね!」
「どうじでだれもいないのぉぉぉぉぉ!?!? れいむは!? ばちゅりーはどこおおお!?」
当然、喚くばかりでまともな答えなど帰ってこない。
このゆっくり達は、今まで世話をしてくれていた仲間達から見捨てられたのだ。
「お前の仲間達は、お前達を見捨てて旅立ったぞ」
「どぉぉぉぉじでぇぇぇぇぇ!!! なんでぞんなごどずるのぉぉぉぉ!!!???」
「じねっ! れいむだぢをおいでったやづらはみんなじね!」
「まりざだぢなにもわるいごどじでないよぉぉぉぉぉぉ!!!」
「……全然反省しとらんな」
慧音は呟いた。前回あれだけ仕置きされておきながら、自分達の行為の意味を理解できていないのか。
恐らく群れで世話をされていたときも、厚かましく餌を要求するだけで、礼を述べたりなどしなかったのだろう。
騒ぎ立てるゆっくり達の中で、しかし静かなグループが二つだけあった。
一つはあのリーダーまりさと取り巻きのありすとれいむ。
もう一つはみょんとちぇん、それに妹紅が一番最初に焼いた、幼いれいむの三匹だった。
まりさ達は何故か余裕めいた表情をしていたが、とりあえずそちらは放っておく。
慧音はれいむ達三匹だけを柵から出してやった。
「ゆ! どうしてそのこたちだけだすの! わたしたちもだしてね!」
「そっちのれいむじゃなくてこっちのれいむをたすけてね!」
当然、他のゆっくり達からは抗議の声が飛ぶが無視し、慧音は語りかけた。
「お前達は、分かっているんだな」
「ゆ……」
「みょーん……」
「わかるよー、ちぇんたちがわるかったんだよー」
この三匹だけは、ここ数日のうちに、自分達の過ちに気づいたようだ。
慧音はこくりと頷くと、妹紅に場所を譲った。
「……お前達の身体じゃ、もう餌は取れない。仲間がいなくなった以上、餓死していくしかないだろう」
餓死、という言葉に、三匹がびくりと身を震わせた。
飢えの辛さを、生物は本能的に理解している。それはゆっくりとて例外ではない。
「でも私は、お前達を一瞬で苦しまずに死なせてやることもできる。
最初は生かしておきながら、今更殺すだなんて、矛盾した話ではあるさ。悪いことをしたのはお前達だけど、餓死する原因は私だからな。
かといってお前らを飼うこともできない。お前達が野菜を盗んだせいで、お前達を養える余裕はどこの家にもない。
だからせめて、というわけじゃないが、私がお前達を殺そうと思う。……どうする?」
三匹はしばらく俯いて沈黙していたが、やがてちぇんが言った。
「おねがいするよー」
「うん、分かった」
妹紅が腕を一振りすると、突如巻き起こった炎の渦が三匹を飲み込む。
後には何も残らず、ただほんのわずかな黒い欠片が宙を舞った。
「……あ゛あ゛あ゛あ゛ああああああああああ!!!」
「どうじでざんにんをごろじだのぉぉぉおぉ!? だずげるんじゃながっだのぉぉぉぉぉ!?」
一瞬呆気に取られていたゆっくり達だったが、事態を理解すると、激しく慟哭し始めた。
「仲間の死に憤る程度の情はあったんだな」
むしろ意外そうに慧音は言う。てっきり「いいきみだね!」とか言うと思っていた。
そしてちらりと見たリーダーまりさ達は、唇の端を歪めて笑っていた。
慧音はそれらをなるべく見ないようにしながらゆっくり達に近づくと、こう言った。
「仲間が死ぬのは悲しいか?」
「あだりまえでじょおおおおお!? なにいっでるのおねーざん! ばがなの!?」
「ぢぇんもみょんもれいぶもいいゆっぐりだっだのにぃぃぃぃぃ!!!」
「おねーざんどはもうえいえんにゆっぐりでぎないよぉおおおお!!!」
「人を冷血みたいに言うな。私だって、仲間や家族が死ねば悲しいぞ」
そして屈んで視線を落とすと、いいか、と前置きした。
「私達がお前の仲間を殺したのは、お前達にとっては確かに理不尽なことだったろう。
だがお前達も、私達に対して理不尽を働いたんだ。それは分かるか?」
「わがんないよぉぉぉぉ!!!」
「……じゃあ、教えてやろう。お前達のしたことと、お前達がそうなった理由を」
あ、せんせースイッチ入った。妹紅は思った。
それから、慧音は実に根気強くゆっくり達に語りかけた。
ゆっくり達が襲った野菜は、この里の人間が管理し、一生懸命育てたものであること。
それを、ゆっくり達が自分の都合で奪い去ってしまったことを。
「喰った野菜は美味かっただろう。そこらの草とは比べ物にならないくらいに。
それは、人間達がとても手間隙かけて……そうだな、お前達風に言えば、とても野菜をゆっくりさせたからだ。
とても長い時間ゆっくりさせて、あんなに大きくて甘い野菜に育つことができたんだ。
子供を育てたことがあるやつはいるか? 子育ては大変だろう?
野菜を育てるのも、同じくらい大変なんだ。きちんと面倒を見てやらなければ、すぐにダメになってしまう。
子供は可愛いだろう? 大きくなっていくのが嬉しいだろう?
あの野菜を育てた人間達も、それはそれは野菜を可愛く思っていたし、大きくなっていくのが嬉しかったんだ。
大切に育ててきたこどもが、れみりゃに襲われ食べられてしまうところを想像してみろ。
哀しいだろう。辛いだろう。ちょっと目を離した隙に、大切にしていた子供が殺されてしまったのだから。
でも、お前達はそんなひどいれみりゃと、同じことをしたんだ。
それに、お前達が野菜を盗んだせいで、ゆっくりできなくなってしまった人間もいるんだ。
でもその人間も、他の人間に支えられて、今はなんとかゆっくりできている。
そして、自分がゆっくりさせてもらった分、他の人間達をゆっくりさせようと頑張っている。
お前達はどうだ? 傷ついたお前達をゆっくりさせてくれた仲間達は、ゆっくりできていたか?
できなかったんだろうな。できなくなってしまったから、ゆっくりできないお前達の元を去っていったんだ」
……というような内容の話を、慧音は何時間も語り続けた。
時々反発するゆっくりがいたり、言葉の意味を理解できなかったりするので、その度に逐一慧音は分かり易い言葉に置き換えて説明する。
とても根気強く、教えていく。
ゆっくりに人間の農業の概念を教えるのは難しいが、慧音はそれをゆっくり・家族・れみりゃといった分かり易い例えを出して説明していった。
慧音の話と、何かを伝えようとする態度に、最初は騒がしかったゆっくり達も段々静かになっていった。
ようやく、自分達がしでかしてきたことの意味を理解し始めたのだ。
完全に理解したとは言えなくとも、自分達が人間のとても大切なものを奪ってしまったということだけは分かった。
ゆっくり達は一様に神妙な顔つきになっていた。
ただし、理解しながらも、いや、最初から理解していながら──それを毛ほども悪いと思っていない者もいる。
「ふん! それがどうしたというんだぜ! にんげんのものだろうとなんだろうと、おいしいたべものはすべてまりささまのものなんだぜ!」
相変わらず反省する様子のない、まりさとありすとれいむを、慧音は冷めた目つきで見下ろした。
「お前には、大切な家族はいないのか?」
「かぞくなんてさいしょからいないし、これからもいらないんだぜ!
どうせこのつよいまりささまをたよってくるごみくずばかりになるんだから!」
「……。仲間はどうだ? こいつらは、お前の仲間じゃないのか?」
「へっ、そんなやつら、やくたたずどもばかりだぜ!」
「! どうじでぞんなこどいうのぉぉぉお!?」
「じじつだぜ! どいつもこいつも、まりささまにかなわぬごみくずばかり。
ゆいいつやくにたつのは、このありすとれいむぐらいなものなんだぜ。
ほかはみんな、まりささまのちからめあてにあつまった、くさったきせいちゅうどもなんだぜ!」
「ちがうよおぉぉ!! まりさがかっこよかったから、つよかったから、いっしょにいたかっただけなのに!」
「いっしょにかりにいって、れみりゃをたおしたこともあったでしょぉぉぉぉ!?」
「うるさいんだぜ!! べつにおまえたちなんか、いてもいなくてもかんけいなかったんだぜ!!
それをじぶんのてがらみたいに……むしずがはしるってやつなんだぜ!」
「そうよそうよ! まりさにはこのびゅーちふるなありすと、かしこいれいむさえいれば、ほかにはなにもいらないのよ!」
「まったくひどいものだよね! わたしたちがいないと、むれのなかでもいばれないくされまんじゅうども!
そういうのを『とらのいをかるきつね』っていうんだよ。このことばのいみもりかいできないだろうけどね!」
「…………」
慧音は、今度は視線をありすとれいむに移す。
「お前達はどうなんだ。家族はいないのか? 子供は、親は?」
先にありすが喋りだした。
「こどもはたくさんいたけど、みんなころしてしまったわよ!」
「「「「「ゆ゛っ!?」」」」」
他のゆっくり達がいっせいに驚いた。ゆっくり達の間でも、同族殺しは禁忌なのだ。
ましてや自分の子供を殺すなど、人間社会と同じく、非常に忌み嫌われる行為だ。
「だってどいつもこいつも、きもちわるいかたちをしたできそこないばかりなんですもの!
せっかくこのうつくしいありすがにんっしんさせてあげたのに、どのまりさもれいむもそんなのしかうまないの!
きっとありすのちょうぜつてくにっくに、からだがついてこれなかったのよ。かわいそうに!」
さも当然の如く、ありすは語る。ツンと澄まして、他のゆっくりが震えていることにも気づかない。
「お前は?」
今度はれいむに聞いた。
「れいむをうんだれいむなら、とっくのむかしにころしてあげたよ!」
「……ほう」
「あのばばあ、れいむをうんだくせに、とってもぐずでのろまなでくのぼうだったんだよ。
ふゆはすあなをふさぎわすれるし、えさがたりなくなってうえじにしそうになるし。
あのときはこのれいむまでしんじゅうするはめになるところだったよ」
「このありすがたすけてあげたからそうはならなかったけどね!」
「それに、ふゆのあいだじゅうからだくっつけてきてうざったらしくてしょうがなかったよ!
あんこのしんまでひえちゃってて、ぜんぜんあったかくならなかったしね!
はるになったらうごけなくなってて、まったく、どっちがおやで、どっちがこどもかわかんなくなったよ!」
「それは……お前を寒さから守ろうとして、お前を包んでいたんじゃないのか?
ずっとそうしていたせいで、足が動かなくなってしまったんじゃないのか?」
話の断片から推測される真実を、慧音は告げた。或いはれいむにとって残酷かもしれない真実を。
「なにいってるのおねーさん。はなしきいてたの? ばかなの?
すあなふさぎわすれたのはそのくそばばあだよ。だったら、いりぐちでじぶんがふたになるのがすじってものでしょ?
だってのにわざわざいきのこって、れいむにえさをとってこさせるなんて、とてもあつかましかったよ、あのばばあ!」
だがれいむは、それを完全に把握していた。把握した上で、母親を罵っていた。
「…………」
「だからあのばばあは、ありすにくれてやったよ!」
「でもあのれいむも、けっきょくできそこないのこどもしかうめなかったよ! まったくしつれいしちゃうわ!」
「きっとあんこがふるかったんだよ。いっしょにつぶしたときも、でてきたあんこがくさかったもん。ねー」
「ねー。ゲラゲラゲラゲラゲラ!!」
「ゲラゲラゲラゲラ!!」
「ゆーっへっへっへっへ!! まりさは、ありすとれいむのそういうところがきにいっているんだぜ!」
「…………」
一緒になって、三匹は笑っていた。
ひどく醜かった。
「……妹紅」
妹紅は何も言わずその三匹を掴みあげると、言葉を発させる暇もなく、畑に打ち立てた木の台の上に乗せると、上から透明なケースを被せた。
内側からなにやら抗議をしているが、ケースは完全防音のため聞こえない。
「さて……」
妹紅は、残ったゆっくり達に向き直った。その全てが、可哀想なくらいガタガタと震えている。
ゆっくり達がまりさを見る目は、まるで化け物を見るかのようであった。
無理もない。今まで頼り信じてきたまりさ達は、ゆっくりの中でも最も忌まわしい存在だったのだから。
「で、どうする? お前達、このままほっとくと餌取れなくて死んじゃうけど。
ゆっくり飢え死にする? それとも今ここで私に殺されておく?」
妹紅は最初の三匹と同じように、説明した上で選ばせようと思ったが、もうこの連中にはまともな判断能力が残っている気がしなかった。
仕方ないのかもしれない。自らの罪を自覚し、その直後、自らの罪の行き着く、最も醜いものをまざまざと見せ付けられては。
抱いていた憧れを、尊敬を、木っ端微塵に粉砕されてしまっては。
ゆっくり達はすぐに答えた。
「……ごろじでぐだざい! あのまりざどもがらまりざだぢをはなじでぐだざい!」
「あんなのれいぶだぢのじっでるまりざじゃないよおおお!!! いやああああああ!!!」
「ありすは……ありすはちがうよ……あかちゃんころしたりしないよ……」
ゆっくりにも恥の概念があったのか、それとも半分狂気に陥っているだけなのか。
恐らくは後者がほとんどであろうと妹紅は思った。
「……少々薬が効きすぎたか?」
数日前、このゆっくり達を生かし、そして今日罪を教えたのは慈悲などではない──そう慧音は自分で思っている。
どうせ殺すことに変わりはないのだから、罪を自覚した上で死んでいってほしかったのだ。
それが盗みを働いた者への最大の罰になると考えたし、同じ死ぬにしても、閻魔の心証も多少良くなるだろうと考えたのだ。
が、その慧音をして、今のゆっくり達は哀れに過ぎた。
「信じてるものから裏切られるってぇのは辛いもんだしねぇ」
妹紅が一歩足を踏み出し、そっと、差し伸べるように手を出した。
「まぁなんだ。次があるなら、悪いやつらには引っかからないようにしなよ。己を悔いて狂えるだけ、見込みあると思うからさ」
妹紅が手を振ると、業火の渦が顕現してゆっくり達を残らず飲み込み、そして消えた。
あっさりと、まるで全てをなかったことにするように。
「さて、と。これで始末はついたな。──帰るか」
夕暮れの風が余熱を攫っていくのを見届け、慧音は畑を出る。妹紅は少し慌てた。
最終更新:2009年03月06日 18:53