ゆっくりいじめ系527 ゆっくり腹話術(後)

※これはfuku1783 ゆっくり腹話術(前)の続きになります





子れいむと親れいむを失い、残り四匹となったゆっくり一家の後を追う。
親れいむが人間に連れ去られたショックはあるものの、ゆっくり一家にあるのは悲壮感ばかりではなかった。
残ったものが死んでいったものたちの分までゆっくりしよう、という思いなのだろう。

「ゆぅ、おにゃかちゅいたね…………」
ポツリ、と子れいむが呟いた。
「「ゆぅ……」」
その言葉に賛同するように声を漏らす二匹の子まりさ達。

このゆっくり一家は食べ物を求めて人里にやってきたが、狙った食べ物にはことごとくありつけなかった上に死ぬかもしれない思いまでしている。
空腹は既にかなりのものになっていることだろう。

腹を空かせる我が子の姿を直視できないのか、なんでもいいから食べ物を探そうとしたのか、親まりさは視線をキョロキョロと辺りに飛ばす。
すると、

「お~い、ノブナガ~。メシだぞ~」

近くの民家から一人の老人が皿を持って外へ出てきた。
どうやら飼っている犬にエサを与えに来たようだ。

老人が犬小屋の前にエサを盛った皿を置くと、バネ仕掛けのおもちゃのように勢いよく一匹の柴犬が犬小屋から飛び出してきた。
ガツガツと勢いよく食べる飼い犬の姿を満足そうに眺めた後、老人は家の中へと戻っていった。

「「「……………」」」
視線をゆっくり達へ戻すと、案の定というか子ゆっくり達は羨ましそうに犬のエサを見つめ、口の端からはだら~、とよだれまで出ていた。
親まりさも私と同じくその姿を見たのか、

「ゆっ、まりさにまかせてね。いぬさんからごはんをもらってくるよ!」

そう子ゆっくり達に言い残してすぐさまその場を駆け(跳ね)だした。
本来は人里の美味しい食べ物を狙いにきたのだろうが、犬のエサまで狙うとは。
余程腹を空かせていたのだろう。

「ゆっ、おとうしゃんがんばっちぇね!」
「むのうなおかあしゃんとはちがうもんね!」
「いぬしゃんなんかぶったおちちゃえ!」

親まりさの背後からは子れいむや子まりさの声援。
その声援を受け親まりさは犬のもとへ向かう速度を更に加速させると、そのままの勢いで食事中の犬のどてっぱらに体当たりを仕掛けた。

「ゆぉぉぉぉぉぉ!!」
「キャウンッ!?」

突然のことに思わずよろめき、その場から退く犬。
それを自分の勝利と思ったのか、親まりさは子ゆっくり達に「みんな~、おいで~。ごはんだよ~」と呼びかけていた。

「やっちゃー、さすがおとうしゃん!」
「おなかちゅいたよ~」

すぐさま親まりさの元へ結集する子ゆっくり達。
そしてゆっくり一家は犬のエサが盛られた皿に一斉に殺到した。

「「「む~しゃむ~しゃ、ちあわせ~」」」

犬のエサといえど野生のゆっくりの常の食事に比べれば豪勢だ。
子ゆっくり達の幸せそうな顔を、子の幸せは我が子の幸せだという顔で見つめる親まりさだったが、自分も腹を満たさねばと皿のエサを食べようとするが

「バウッ!!」

犬の鳴き声に驚き飛び上がった。

「ゆっ、ゆっ!? び、びっくりさせないでね! これはまりさたちのごはんなんだからいぬさんはさっさと────い゛だい゛いいい!!!!」

親まりさは抗議の声をあげたが、犬に言葉が通じるわけもなく、頭の一部を噛み千切られていた。
噛み千切られ失った左半分の頭部からは餡子が漏れ出ている。

「ゆっ、おとうしゃん!?」
「おとうしゃんににゃにするのぉぉ!!」
「だめぇぇぇぇ!! にげてぇぇぇぇ!!」

親の仇だ、と犬に突進しようする子まりさ達を諌める親まりさの声に、この犬も人間同様敵わぬ相手と悟ったのか、すぐさま逃亡を図る子ゆっくり達。
親まりさも噛み付かれたが頭部は千切られていたため、すぐにその場を離れることができた。

だが、子れいむが一匹、逃げ遅れていた。
犬から一番遠い位置に居て、犬に突っかかろうともせずに逃走の体勢に入っていた子れいむ。
本来ならば真っ先に逃げられていたであろうが、子まりさが子れいむを踏みつけていったため逃げ遅れていたのだ。

「ゆっ~、まっちぇぇ!」

背後からは犬が外敵を排除せんと追ってきている。逃げ遅れている自分。
恐らく子れいむは最初に死んだ自分の姉妹のことを思い出していたことだろう。

しかし、ここで子れいむを殺してしまっては私の計画が狂ってしまう。
私は子れいむを踏みつけていった子まりさに狙いを定めると、『腹話術』を使用した。

「ゆっ!? 〝ガメラが飛ぶ時の回転数すごすぎぃぃぃぃぃ!!!〟」

『腹話術』をかけられた相手はその間気を失う。
つまり、気を失った子まりさの足は止まるということだ。

足の止まった子まりさを追い抜いていく子れいむ。
理由は分からないだろうが助かったので特に気にすることはないだろう。

「…………ゆっ!? なんでれいむがまえにいりゅ────ゆ゛ーーーーー!!!!!」

子まりさが気が付いた次の瞬間には、子まりさは犬に咥えられていた。

「いだいよ゛ぉぉぉぉ!!! おどうじゃんだずげでよ゛ぉぉぉ!!」

噛まれ、宙に浮く子まりさは泣き叫び親に助けを乞う。
しかし親まりさは無力である。ゆっくりが自分より体の大きいものに敵うはずもない。

「ゆっ、ゆっ……!」

犬は鎖に繋がれているため鎖の長さ以上の距離を逃げている親まりさ達は襲われることはない。
だが犬の行動範囲内に飛び込もうものなら今度こそ問答無用に殺されてしまうだろう。
子まりさを助けることは最早不可能だった。

「ゆ゛っ、ごべんね、ごべんねぇぇぇぇ!!」

親まりさは涙を流しながら子まりさを見捨てた。
残った子まりさと子れいむを連れて全速力でその場を逃げ出したのだ。

「ゆっ、おとうしゃん、まりさのいもうちょがぁぁぁぁ!!!」
「だめだよぉぉぉ!! みんなしんじゃうよぉぉぉ!!」

親まりさに咥えられた子まりさは犬に咥えられた子まりさを助けるよう求めるが、それは叶わぬ願い。
子れいむも子まりさを助けようとしたのかいくらか逡巡していたが、やがてどうやっても助けられぬと分かったのか去り行く父親達の後を追っていった。

「どぼぢでぇぇぇぇ!!! なんでまりしゃを……ゆがべぺ……ゆ゛っ!!」

助けられなかった子まりさは、身の程を弁えぬ所業と身内を蹴落とすという外道な行いの報いを受ける。
子まりさは少しずつ咀嚼されるという苦しみの中息絶えていった。
その死に顔は私の胸がすっ、とするほどの絶望と苦しみに彩られていた。

「…………くふっ」

思わず笑いが漏れる。





遂に半分にまで数の減ったゆっくりの一家はその歩を人里の中心に向けていた。
だが当人達は気づいてないだろう。ただ襲い来る脅威から逃げていただけにすぎない。
やつらは気づいていない。自分達から危険に近づいていることに。

「……ゆっ? おとうしゃん、いいにおいがするよっ!」

それまで俯いてしょこしょこと小さく跳ねていた子まりさがその場で嬉しさを表現するように跳びはねた。
言われ親まりさと子れいむもその場で立ち止まり鼻(?)をひくひくさせて臭いを嗅ぎ取ろうとする。

「ゆっ、ほんちょだ! おいちしょうなにおいがしゅるよ、おとうしゃん!」
「ゆゆっ、ほんとうだね! こっちからするよ! ゆっくりできるよ!」

それまで沈んでいた家族の間に笑顔が戻ってきた。
ゆっくり一家はその笑顔のまま臭いのする方へとぴょこぴょこと進んでいった。
だがゆっくり一家がその先で「しあわせ~」になることはないだろう。

ゆっくり達の向かった先、「いいにおい」の出所は、焼き鳥屋だった。
私もよく行く馴染みの店だ。
夜になると人間や妖怪達が一緒に酒を飲み騒いでいる。
今日も店の中からは様々な笑い声や上手そうな焼き鳥の匂いが漏れ出ている。
中の者だけではなく近くを通りかかった外の者まで陽気にさせる、私の好きないつもの雰囲気だった。

「ゆっ、ここからおいしそうなにおいがするよ」
「ゆっ♪ ゆっ♪ これでゆっくりできるね~♪」

パンドラの箱に残った希望を見つけた人間のような表情をしながら焼き鳥屋の方へと跳ねていくゆっくり一家。
焼き鳥屋の入り口は引き戸なのでゆっくりには開けられないかと思ったが、誰かが閉め忘れたのか若干開いており、そこに親まりさが自分の頬を突っ込んでむりやり戸をこじ開け入っていった。
私は店に入るか入るまいか若干迷ったが結局入ることにした。

「ゆ~♪ おいちちょ~♪」

中に入ると子ゆっくりが歓喜の声をあげていた。
店の者達は入ってきたゆっくりを気にもとめず(というか気づいていない)皆好き勝手に飲み騒いでいた。
まだ日が沈んでから一刻も経っていないというのに気の早い連中だ。

ぴょこぴょこと跳ねながらゆっくり一家はカウンター席の方へと向かっている。
私もゆっくりの後に続いてカウンター席へと向かう。
普通に歩いてはゆっくりを追い抜いてしまうから牛歩戦術だ。

ゆっくり一家はカウンター席の下まで辿り着くと、親まりさが空いている席の椅子へとジャンプした。
そして椅子からカウンターへと再びジャンプ。カウンターの上に乗った親まりさはカウンターの向こう側で焼き鳥を焼いている店主(私達は敬意と親しみを込めて〝マスター〟と呼んでいる)に向かってこう要求した。

「ゆ~、おじさん! まりさたちにもごはんちょうだいね!」

どうやらマスターが客に注文された酒や焼き鳥を渡すのを見て、マスターが食べ物をくれる人だと勘違いしたようだ。

「おぉう? なんだ、ゆっくりじゃねぇか」

親まりさにマスターよりも先にすぐ隣の席で酒を飲んでいた客が気づいた。
って、誰かと思えば飲み癖と悪食とロリコン趣味で有名なタケさんじゃないか。
流石に稗田家の当主はやめておいた方がいい、と今日こそ言うべきか?

「なんだ? 誰がゆっくり入れたのは」

タケさんが親戚のわんぱく坊主でも見るかのような反応を示したのに対し、マスターは明らかに不機嫌そうだった。無理もないか。

「いや、店の戸が半開きだったんですよ」

タケさんの隣の席に座り、誰かに濡れ衣が着せられる前に私がフォローに入った。

「おぉう、なんだ、お前がゆっくりを連れてきたのか? ……ゥィック」
「違いますよ」

やんわりと否定しておく。どっちかっていうとゆっくりが私を連れてきたようなものだ。
というかタケさんもう酔ってるんかい。

「ゆっ! ゆっくりむししないでね! さっさとまりさとまりさのこどもたちのためにごはんをよういしてね!」

見ると親まりさがその体を膨らませて怒っていることをアピールしていた。
それを見てタケさんがゲラゲラと笑い、マスターが更に不機嫌そうな顔になり、私の虐待エナジーが高まる。

「ちょうだちょうだ! さっさとまりしゃたちにごはんをよういしてね!」

カウンター席の下、タケさんの足元で子まりさも親に続き抗議の声をあげる。
タケさんがその声で子ゆっくりが居ることに気づき視線を下に向け
「おぉう、ちみっこもいるのか~」
と陽気に笑った。

…………決めた。
親まりさ、貴様を潰すのは後だ。
ここでは子まりさを潰す。
私は『腹話術』を、今度はゆっくりではなく、タケさんに向けて発動させた。

「〝おぉう、マスター! ちょいとこの子ゆっくり焼いてくれや!〟」
「「ゆっ!?」」

親まりさと子まりさが跳ね上がる。
私は『腹話術』をかけられ自分が注文したことを知らないタケさんに代わり、床にいる子ゆっくりを拾い上げた。

「ゆっ!? まりしゃをどうちゅるの! ゆっくりはなちてね!」
「はなちぇ~!!」

掴まれた子まりさがジタジタと身をよじり、側にいた子れいむがピタンと体当たりをしかけるが効果は無し。
なんの障害もなく子まりさは私からマスターへと手渡された。

「まったく、タケさんの悪食っぷりは相変わらずだねぇ」

マスターはそうぼやくだけで特に疑問ももたず子まりさの調理にかかった。マスターも馴れたものだ。
「まりさのごどもがえせぇぇぇぇぇ!!!」と私が子まりさを掴んだあたりから親まりさが騒いでいたが、タケさんが面白がって押さえつけていたので何もできていない。

マスターは子まりさを軽く水あらいして「ゆぐがぼべっ!!」、さっと振って水気を飛ばすと「ゆゆゆっ!?」、焼き鳥を焼く金網の上に子まりさを乗せた。

「あ゛ぁぁぁつ゛つづっっいいいぃいぃよおおぉぉ!!!」

ボロボロと涙を流す金網の上の子まりさ。零れ落ちた涙はすぐにジュッと蒸発する。
なんとか金網の上から逃れようとするもマスターが上から菜箸で押さえつけているため動けない。

「ゆぎゃ"ぁ"ぁぁ"!!!ま゛り゛ざのごどもがぁぁぁ!!いぎゃ"ぁ"ぁ"!!

タケさんに押さえつけられている親まりさがカウンターで泣き叫ぶ。
ガハハハハハと笑いながらタケさんに押さえつけられている無力な親まりさは素晴らしい程に滑稽だった。
「ぶわっはっはっはっは」
とついつい私も笑ってしまう。
私のことを知らない他人が見ればどこの大根役者だと思うことだろうが。

「おどうじゃん、だずげでよぉぉぉ!!! いぎゃ"ぁ"ぁ"!! まりじゃのあぢがぁぁぁぁ!!」

金網の上で泣き喚く子まりさを、マスターは無慈悲に菜箸で転がす。
今度は顔面が金網のつく形になった。

「ゆ゙ーーっ゙!!! も゛う゛や゛め゛でえ゛えええ!!」

ハッキリ言って煩いが顔面を焼かれているためすぐに大人しくなるだろう。
もう一つのうるさい親まりさはと言うと
「グワッハッハッハ、なんだお前、頭ないじゃんぶわっはっはっは」
と欠けた頭部からタケさんに箸を突っ込まれ頭の中の餡子をグチャグチャにされていた。
「ゆ゛! ゆ゛! ゆ゛! ゆ゛…!」
なんだか白目を向いて痙攣していた。はっきり言って気持ち悪い。キモイじゃなくて気持ち悪い。

「へい、焼きゆっくり一丁!」

やがて子まりさが焼き上がり小皿に乗せられタケさんの前に置かれた。

「ま"り"ざのごどもがぢんじゃっだぁ"ぁ"ぁ"!!どぼじでごんなごとずるのぉ"ぉ"!!」
「あれ? 俺焼きゆっくりなんて頼んだっけ?」
「なんだい酔っ払いすぎだよタケさん」
「そうだよタケさん、酔いすぎだよ」

焼きゆっくりの注文は私が『腹話術』で頼んだためタケさんは覚えているはずがないのだが、マスターの言葉尻に乗って酔ったせいにしておく。

「んあ~、そう言われれば頼んだ気も…………でもいらねぇや」

タケさんはそう言って子まりさを掴むと床に叩きつけて草履の踵部分でグリグリとすり潰した。
その光景を子れいむは間近で見ることになったことに、私は気づいていた。

「あぁ、もう。やめてくれやタケさん、掃除するの俺なんだから」
「おっと、わりぃなマスター。代わりにもう一杯くれや」
「何が代わりなんだか」
「ゆぐ……ぐずっ……なんでごんなごどするのぉ……まりざのごどもがぁ……」
「なんだ、まだいたのかこのゆっくり」
「あ、私が外に出しておきますよ」

マスターの不機嫌が本気でヤバい段階にいきそうだったのでマスターに潰される前に私は親まりさを抱えて外に向かっていく。
もちろん子れいむも忘れずに足で外へと蹴飛ばしながらだ。

「飲みにきたんじゃないのか?」
「焼き鳥を家で食おうかな、と思っただけです。後でまたとりにきますから焼いといてください」
「あいよ」

成り行きで今晩の飯が決まった。
だが飯の前に、最後の仕上げだ。
ふっふっふっ、最後は私自ら手を下そうぞ。




どこのラスボスだよ。










私は親まりさを抱え子れいむを蹴りながら焼き鳥屋と隣の酒屋の間の狭い路地に入った。
その間親まりさを子れいむも子供のようにボロボロと涙を流し続けていた。

「さて、と」

子れいむを蹴飛ばすのをやめ、子れいむの脇に親まりさを置いた。
ゆっくりと視線を合わせようと、その場にしゃがみこむ。それでも私の方が視線が上だが。

「おいゆっくり。なんでこんなことになっているかわかるか?」
「ゆっ、ゆぐっ……まりざのごどもがぁぁぁ……」
「質問に答えろよクズ饅頭」

親まりさの口に拳を突っ込む。喉までだ。
そして体の奥底の餡子を一握り掴むと勢いよく引っ張り出した。

「ゆべぇぇぇぇぇ!!!」

叫び、咽る親まりさ。
その顔に親まりさの体から抜き出した餡子を叩き付け、もう一度問う。

「なんで、こんな、ことに、なって、いるか、わかるか?」

脳の足りないゆっくりにも分かりやすいように一語一語区切りながら。
それで流石に理解したのか親まりさは泣きながら答えた。

「ゆぶっ、にんげんだぢがまりざだぢのじゃまずるがらだよぉぉぉ!!」
「残念、不正解だ」

罰として今度は親まりさの歯を引っこ抜いてやる。
もちろん道具など使わない。素手だ。
左手で上顎を掴み、右手で前歯の一本(歯は飴だった)を情け容赦なく引っこ抜いてやった。

「ゆぼぉぉぉ!?」
「ゆゆっ、おとうしゃん!!」

それまで親まりさの後ろでガタガタ震えていただけの子れいむも恐怖を忘れて親まりさを心配する。
だが子れいむ。貴様は今は後回しだ。

「正解を教えてやるよ」

私はそう囁きかけながら引っこ抜いた歯を親まりさの右目にぐりぐりとおしつけてやる。

「ゆがっ、べぽ……ぜいがいっでな゛に゛ぃぃぃぃぃ!!!」
「お前らが身の程も弁えず人間の里に来たこと。それと家族を見捨てたことだ」

親まりさはその言葉でカッと目を見開く。何故知っているのかという顔だ。
だが今はそこを言及する場合ではないと分かっているのか、口にしたのは弁解だった。

「ゆっ、だっで、だっで、ごはんがもうないんだよっ! にんげんのごはんをもらわないといぎでいげないんだよっ!」
「それはお前等の怠慢だ」

罰として頬をちぎってやる。

「ゆ゙ーーっ゙!!! …………ぞ、ぞれに、みずでだわげじゃないんだよっ!
 あぁじないど、みんなゆっぐりでぎないがら、じがだがなかったんだよっ!」
「ほぉ、つまりお前は多数を助けるために少数を尊い犠牲としたと?」
「ゆ゛っ! そうだよ! まりさはかぞくをたすけるためにしかたなく────!」

私は親まりさの行動を思い返す。
確かに、親れいむほど悲しみに打ち震えていなかったが、子まりさほど死んだ者を罵倒してもいなかった。
子れいむの足を引っ張って死なせたのも子まりさだ。親まりさじゃない。
親のほうのまりさは、割といい親だったのかもしれない。
こいつの言い分を鵜呑みにするならば、必要以上に悲しみに暮れなかったのも、一家の大黒柱の責任故だったのかもしれない。

でもそんなの関係ねえ。

「でもな、まりさ?」
「ゆっ?」
「そのまりさが助けたようとした家族、子れいむ以外みーんな死んじゃってるけど?」
「ゆっ!? ゆゆゆゆっ……!」

私の言葉にガタガタを震える親まりさ。
気づいたのだ。多数を助けるために少数を犠牲と成すやり方で、助かったのは少数なのだと。

「で、でもっ! れいむはいぎで────」
「こんなクズな親のもとにいたられいむゆっくりできないから、この子は私がもらっていくね?」
「「ゆっ!?」」

それまで黙っていた子れいむまで驚愕する。
そんなゆっくりには構わず私は子れいむを掴むと着ていた服の懐に入れた。
くぐもった「ゆ゛っーーー!!」とした声がわずかに聞こえてくるが無視しておく。

「ゆ゛ぅぅぅぅ!! ゆっぐりやめてね!!! まりざのごどもがえじでね!!」

子供を取り返そうと飛び掛ってくる親まりさの顔面を掴んでやると私は立ち上がり、そのまま表まで歩いていった。
手の中で「ゆがぁぁぁぁ!! はなぜぇぇぇぇ!!」と親まりさが喚いている。
吐息が気持ち悪かった。

私は人里の中を親まりさを掴んだまましばらく歩く。
道行く人、妖怪が親まりさの叫びに気づいてこちらを見やるが、私がゆっくりを掴んで歩いているのを見ると「なんだ、ただの虐待お兄さんか」と視線を外した。
そして私は人里の中で、二つの通りが交差する場所まで来ると、親まりさを地面へと落とした。

「ゆべっ!?」

ずでん、と転がる親まりさを一回蹴った後、私は懐からさっきの子れいむを取り出した。
「ゆっ! れいみゅをかえちてくれりゅの?」
無視。

「さてまりさ。選ばせてやる」
「ゆっ、ゆっ、まりざのごどもをがえ────」
「黙れクズ饅頭。喋っているのは私だ」

まともに会話できそうにないので口元を踏みつけて黙らせた。
しばらく「ゆ゛ーーー!! ゆ゛ーーー!!」と身を捩じらせていたが私が足をどけないと分かると少し静かになった。

「さて、お前に選ばせてやる」
そういいながら手の中の子れいむを眼前に突き出してやる。
子れいむも煩いので指を口に突っ込ませて黙らせている。

「お前があくまでこいつを返して欲しい、と私に戦いを挑むのであれば、こいつは死ぬ」
「「────っ!?」」
ゆっくりの目が見開かれる。
「だが、お前がこいつの命を助けて欲しいと願うのであれば、私はこいつをゆっくりさせてやるし、お前も逃がしてやろう」

私はそこで足をどけてやる。

「ゆっ! おじさんほんと!?」
「おにいさんだクズ饅頭」
口に蹴りをぶち込み歯を二、三本折ってやる。
「あぎゃぁッああ!! …………ゆ゛っ、おにいさん、ほんどう?
 そのごゆっぐりざぜでぐれる?」
「ああ、もちろんだとも」
「このまままりざががえれば、そのごゆっぐりでぎるの?」
「その通りだ」

このやり取りの間、子れいむはずっと声も出せず泣いていた。
目の前で親が見るも無惨にやられている。
悔しいのか、悲しいのか。

私にとってはどちらでもどうでもいい。
ただ指にたれてきた涙の生暖かさが、こいつは〝私流〟にゆっくりさせてやろうと決意させただけだ。
私は親まりさの頭をつかむと後ろを向かせてやった。

「道が二つある。どちらでも好きな方へ行って帰れ」

そう言ってやると、親まりさはしばらくその場で悩んだ。
だが、答えはもう決まっているだろう。

「ゆ゛っ、わがっだよ。まりざはおうぢがえるよ。だから、まりざのごどもゆっぐりざぜてね?」
「ああ、約束だ」
「じゃあね…………バイバイ……」

そう呟く親まりさの語尾は尻すぼみに消えていった。
やがてとぼとぼと左右のうちの右の道から里の外へと向かっていく親まりさ。
私は子れいむの口を塞いでいる指を抜いてやった。

「ゆぐっ……! おとうしゃぁぁぁぁぁん!!」

親を呼ぶ子の声。
今生の分かれとなる親子の、最後の会話。
親まりさは子れいむの声に振り返ると、くしゃり、とその顔を涙で崩すと、精一杯の声で叫んだ。



「ゆっくりしていってね!!!」



それで最後。
親まりさは子れいむの反応も見ずに全力で駆け出した。我が家へと。
親まりさの選択は正しかった。
命あってのものだねだ。

最後は二匹になってしまったが、全滅はしていない。
あの親まりさも私が見逃してやったことによって、やがてまた新しい所帯を持つことだろう。
この悲劇を教訓に、次こそゆっくりとした生涯を送るであろう。
次こそ、そう次こそ────。




















「見逃してあげても、よかったんだけどねぇ」

君が悪いんだよ、まりさ。
私は選ばせてやった。〝どちらの道で帰るか〟を。
なのに君はそっちを選んだ。

あぁあ、なんてこったいまりさ。
君が逆の道を選んでいれば、幸せになれたかもしれないのに。
君が、いけないんだよ。
君がそっちの道を選ぶから

「君は、彼女へのプレゼントだ」

親まりさが選んだ道。
そこにはある伝統の家系の家がある。
幻想郷を見続けてきた、幻想郷縁起を編纂してきた名家。

稗田家が、ある。

全力で駆けるまりさが、稗田家の前に来た瞬間、私はまりさに『腹話術』をかけた。




「〝あっきゅうちゃ~~~ん。あっそびましょ~~~う〟」





おわり


─────────
あとがきのようなもの

コミックス版「魔王」最新刊五巻を読み終わった勢いで書いてしまいました。
そのため文体が安定していないかもしれません、申し訳ありません。



他に書いたもの:ゆっくり合戦、ゆッカー、ゆっくり求聞史紀、ゆっくり腹話術(前)


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最終更新:2008年09月14日 06:55
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