ゆっくりいじめ系218 ゆっくりチルノの一日

ゆっくりチルノの一日

紅魔館の前に広がる巨大な湖。
正確な大きさすら分からぬその湖畔には妖精からゆっくりまで、様々な生物が生息している。
それは生態系ピラミッドの下層に位置するゆっくりにとっては天敵も多いという事実を示しているが、
それでもやはり豊富な水や食料と言うのは捨て難い魅力らしく、ゆっくり達は日々危険にさらされながらも
ゆっくりとした生活を送っていた。


そんなゆっくり達のうちの一匹、水色の髪に薄い色の羽、
氷精を模したゆっくりであるゆっくりチルノは今朝も狭い巣穴の中で起床の一声を挙げた。
「おはよう!あたいってばゆっくりね!」
近くには誰もいないのだが、そんなことは気にせずに伸びをする。
「ん~~~っ!」
さて、さっそく朝食を取ってこよう
そう思ったゆっくりチルノは草むらに穴を掘っただけの小さい巣穴から元気よく飛び出す。
実は昨晩のうちに明日の朝食にしようと思って巣穴に木の実をいくらか蓄えていたのだが、
そんなことはもう忘れてしまったらしい。
まぁしょうがないよね!⑨だもの!


夏の暑い日差しもこんな朝早くは厳しさを感じさせない。
だが晴れ渡った青空はその日も暑い一日となることを告げていた。
そんな日差しの射す湖畔をぴょんぴょんととび跳ねるゆっくりチルノ。
しかし空腹に悩まされているその体はあまり元気がない。
「う~~………あたいってば腹ぺこね……」
誰にともなく呟きながら餌を探すゆっくりチルノ。
そもそも燃費の悪いゆっくりにおいて昨晩から何も食べていないのだから元気がないのは当然であった。
しかしどれだけ探しても餌となりそうな虫も花もなかなか見つからず、段々とその足取りは重くなっていく。
実際は探し方が悪いだけでそこら中に食べられる物はあったのだが、
ゆっくりの中でも極めつけの餡子脳、ゆっ⑨りブレインではそんなことは分かるはずもなかった。

あたいってばここで死ぬのかしら、とゆっくりチルノ空腹で朦朧とした意識で考え始めていたその時、
急に足場を踏み外して湖の近くの池とう(小さい池みたいなもの)に突っ込んでしまった。
「1+1=11!!?」
意味不明な⑨ソウルを叫んでぷかぷかと池とうに浮かぶゆっくりチルノ。
早く上がらなきゃ、と僅かに残った意識が警鐘を鳴らすが最早そこから脱出する力は残されていなかった。
頭の中に走馬灯が流れ始める。
記憶力が無いので1秒で終わった。
「ゆっくりした結果が⑨だよ……!」
⑨なこととゆっくりしていたことはあまり関係ないのだが、
それはともかくそんなつぶやきとともにゆっくりチルノの意識は闇に沈んだ。







「ゆっゆっゆ~♪ゆゆゆ~ゆ~♪ゆ~ゆゆ~♪」
何やら音痴な歌声が聞こえてきてゆっくりチルノは意識を取り戻した。
体は相変わらず池とうに突っ込んだままだが、先ほどと違って空腹は満たされ、体は元気に充ち溢れている。
「んっぷはっ!あたいってばゆっくりね!」
何で元気になったのかはよく分からないが、とにかく元気になって復活したのだ。
あたいってばひょっとして最強に運が良いのかもしれない。
と幸せ脳回路で考えたゆっくりチルノ元気いっぱいな叫び声とともに池とうから抜け出した。
実際は運が良いとか何か特別なことがあったとかいうわけではなく、
ただ単にゆっくりチルノの体が氷でできており、池とうにはまったことで体が勝手に水分を吸収して
回復しただけなのだが、そんな理屈は当の本人は知る由もなかった。
だって⑨だもの。
因みにゆっくりチルノの氷は微妙に糖分を含んでおり、溶かすと砂糖水になっておいしいらしい。
ここでなんで氷のくせに常温で溶けないんだとか、そもそも氷が動くわけないだろとか言う突っ込みは、
饅頭が生きている世界においては野暮である。


さて、池とうから上がったゆっくりチルノは音痴な歌声の方に向かって跳ねていく。
「あたいってばゆっくりね!」
向かった先には予想通りゆっくりがいた。
それも一匹ではなくゆっくりれいむの家族である。
ゆっくりチルノよりも二回りは大きな母れいむ一匹に4匹の小さい赤ちゃんで構成されたその家族は、
歌を歌いながらお散歩を楽しんでいる最中のようだ。
「「ゆ?ゆっくりしていってね!」」
ゆっくりチルノに気付いた一家がお決まりの挨拶をする。ゆっくりチルノもそれに応えて
「ゆっくりしていってね!れいむってばゆっくりね!」
と返す。
「ゆ?おねえさんゆっくりできるちと?」
赤ちゃんれいむの問いかけに
「あたいってばゆっくりね!一緒にゆっくりしようね!」
とゆっくりチルノが楽しそうに返す。
「「一緒にゆっくりしようね!」」
あっという間に仲良くなった一家とゆっくりチルノは一緒に遊び始めた。


「ゆー。それにしても暑いよ!ゆっくりできないよ!」
しばらく遊んだあと、体中から汗を流しながら母れいむがいった。
太陽は既に天頂近くまで上っており、夏の暑い日差しがぎらぎらと降り注ぐ。
先ほどまではキャッキャッと楽しそうに遊んでいた子れいむ達も今は暑さに疲れて
ぺたんと地面にへたり込んでいた。
「あたいってば暑くてもゆっくりね!」
そんな中、氷でできたゆっくりチルノだけが元気にしていた。
「ゆ?おねえちゃんつべたい?」
ふと一匹の子れいむがゆっくりチルノから発せられる冷気に気づき、側に近づいて行く。
「ゆー!おねえちゃん涼しくて気持ちいいよ!ゆっくりできるよ!」
「ゆ?ほんと?」
「れいむも涼しくなりたい!」
「ゆっくりさせてね!」
一匹の子れいむの言葉を皮切りにして次々と他の子れいむたちもゆっくりチルノに近づいて行った。
「ゆ!ほんとだ!とっても涼しいよ!ゆっくりできるね!」
「おねえちゃんすごいよ!」
「ゆっくりさせてね!」
そう言いながら4匹の子れいむはゆっくりチルノを取り囲んでその冷気にあたり、ゆっくりし始める。
「あたいってばとってもゆっくりねっ!」
ゆっくりチルノもわけはわかってないがとにかく子れいむ達が自分を頼ってくれるのが嬉しいようだ。
一方母れいむは
「おかあさんも入れてね!おかあさんもゆっくりさせてねっ!」
とその周りをぴょんぴょん飛び跳ねている。
自分も冷気にあたって涼みたいようだ。
しかしすでに4匹の子れいむで囲まれたゆっくりチルノの周りに巨大な母れいむが入る余裕はなく、
何とか押し入ろうと子れいむ達をぐいぐい押し始めた。
「ゆゆっ!どいてね!おかあさんも入れさせてね!」
しかしそんな母の態度に子れいむたちから非難の声が上がる。
「ゆゆっ!おかあさん押さないでね!」
「そんなにされたらゆっくりできないよ!」
「おかあさんはあっちでゆっくりしててね!」
「ここにおかあさんのはいる場所はないよ!ゆっくりりかいしてね!」
「どうしてそんなこというのぉぉぉ!!?」
一家が危うく親子げんかに発展しかけた時、ひらひらと何処からか蝶が飛んできた。
「ゆ!ちょうちょさんだ!ゆっくりしていってね!」
さっきまで押し入ろうとしていたのも忘れて蝶を食べよう追いかける母れいむ。
「ゆっ!ゆっ!ゆっくりして言ってね!早く食べられてね!」
何とか飛び跳ねて捕まえようとするもうまくかわせれてなかなか捕まえることができない。
そんな母の様子を、子れいむ達はゆっくりチルノの近くで涼みながら見ていた。
「ちべたいねー」
「きもちいねー」
「あたい!」
と、母親に追い立てられた蝶がふらふらとゆっくりチルノの方に飛んでいき、その顔の中心に止まった。
蝶の方も暑かったのかもしれない。
しかし突然の事に驚いたチルノは対応できず
「ゆっゆっゆ……ゆっくし!」
とくしゃみをしてしまったのだ。


本人は自覚していないがくしゃみはゆっくりチルノ最強の武器である。
体の奥の冷たい冷気と水滴を同時に飛ばすことによって向いている方向の物を一瞬にして凍らせてしまう
破壊力を持つのだ。
その冷気はゆっくりレティやゆっくりもこーでも無ければ耐えることはできないだろう。
上手く活用すればあっという間にゆっくりチルノはゆっくりピラミッドの上位まで
上り詰める事が出来るかも知れない。
最も意図してくしゃみしたりなんて出来ないので意味ないんだけど。

さて、そんなわけでその行動は本人の意思にかかわらず相応の結果をもたらす。
すなわち、その時ゆっくりチルノの正面にいた子れいむの凍結という結果を。
「ゆっ!」
短い悲鳴を上げて驚愕の表情をして凍結した子れいむを見てその場にいた他のゆっくりたちの表情も凍りつく。
茫然としたゆっくり達が凍った子れいむを見つめる凍った時間の中で、
くしゃみに驚いた蝶だけが時間が動いているようにひらひらと飛んで行った。
数秒後、我にかえった母れいむが激昂してゆっくりチルノに掴みかかる。
「れっ、れいむの赤ちゃんになにするのおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!??」
その叫び声を受けて他のゆっくり達の時間も動き出す。
「ゆっ、こんなことするおねえちゃんとはゆっくりできないよ!」
「ゆっくりどっかにいってね!」
「ゆっくりしね!」
今まで涼ませてもらっていたことも忘れてゆっくりチルノを罵倒しながら母れいむの陰に逃げ込む子れいむ達。
一方激昂した母れいむはゆっくりチルノを責め続ける。
「赤ちゃんを元に戻してね!早く元に戻してね!今すぐ元に戻してね!直ちに元に戻してね!
 マッハで元に戻してね!元に戻せたら許してあげてもいいよ!」
「ゆ、ゆー……」
一方責められているゆっくりチルノ。
さすがに自分が悪いことは分かっているのか申し訳なさそうにしていて何も言い返さない。
だが、凍ってしまった子れいむをすぐに戻す方法など思いつかなかった。
「黙ってないで何か言ってね!早く溶かしてあげないと二度とゆっくりできなくなっちゃうよ!
 それでもいいの!?」
「ゆ……ゆ!?」
ーその時、ゆっくりチルノに電流走る―!
溶かす!そうだ、溶かせばいいのだ!


ゆっくりチルノはそのゆっ⑨りブレインにも関わらず、水に沈んだゆっくり達がどうなるか知っていた。
そう、水に「溶ける」のだ。
ちょうど近くには大きな湖がある。そこに入ればすぐにでも「溶ける」だろう。


色々と間違っているがとにかくゆっくりチルノにとってこれは名案に思えた。
この子れいむを元に戻すことが出来ればまた一家と仲良くゆっくりできるに違いない。
あたいってば天才ね!

さて、そうとなれば善は急げ。ゆっくりチルノは母れいむに言い放った。
「分かったよ!あたいがこの子を「溶かし」て元に戻して来るよ!あたいに任せてゆっくり待っててね!」
そう言うと凍った子れいむを口にくわえ、一目散に湖に向かって走って行った。






湖畔に辿り着いたゆっくりチルノは、さっそく湖に凍った子れいむを浮かばせた。
ここで勢いよく落として氷を砕いてしまうような真似はしない。
同じ過ちを犯さないなんてあたいってば天才ね!
……実際このゆっくりチルノにそんな経験はないのだが、多分平行世界の記憶でも流れ込んできたのだろう。
とにかく、これで子れいむは氷が溶けて元に戻るに違いない。
戻った時にはきもちよく「すっきりー!」という声を聞かせてくれることだろう。
そう、「すっきりー!」という声が聞ければいいのだ。
ゆっくりチルノはゆっ⑨りブレインにそう刻み込むと、凍った子れいむがその声を聞かせてくれるのを
今か今かと待ちわびた。

落とされた凍結子れいむはぷかぷかと浮かんだあと、はたしてゆっくりチルノの思惑通り融解しだす。
その様子を見て得意満面のゆっくりチルノ。
「やっぱりあたいってばゆっくりね!」
表面の氷が溶け、やがて子れいむ本体にも水温が伝わりその体が徐々に熱を取り戻し始める。
「…ゅ…さむいよ……ゆ…?」
ついに子れいむが意識を取り戻した。
無事子れいむが生き帰ったことに全身で喜びを表すゆっくりチルノ。
すぐに元気になって「すっきりー!」という声を聞かせてくれるに違いない。
しかし聞こえてきたのは予想と真逆の悲鳴だった。


「ゆ……ゆ!?い、い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!み゛ず!み゛ずがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
急に寒くなって意識を失い、意識を取り戻したらそこは地獄だった。
子れいむの経験を端的に表すとこうなる。
本能的に水の危険性を知っている子れいむは、何とか岸に上がろうともがくがもがけばもがくほどその体は
岸から離れていく。
「ゆ?れいむってば何してるの?遠くに行かないで早く戻ってきてね!」
予想と違った状況にゆっくりチルノは慌て始める。
どうしてだろう、子れいむを「溶かせ」ばいいはずなのに。
「お゛ね゛え゛ち゛ゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛ん゛!!だずげでえ゛え゛え゛え゛え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!」
ゆっくりチルノの姿を認めた子れいむは必死に助けを求め始めた。
しかしどんどん離れていく子れいむはもはやゆっくりチルノが届く範囲とはかけ離れた位置にいた。
「なんでえええええええ!?!?どおじでだずげでぐれないのおおおおおおおお!?!?」
幸運なことにゆっくりチルノは知っていた。
ゆっくりは水に「溶ける」ということを。
そして不幸なことにゆっくりチルノは知らなかった。
………自分は水に入っても溶けないという事を。
「ゆ、ゆー。」
母れいむに責め立てらてた時のような困惑の声をあげるゆっくりチルノ。
助けにいこうとすれば自分が溶けてしまう。
何がいけなかったのだろう、自分は母れいむが言ったとおり子れいむを「溶かし」ただけなのに。
「ゆぅー!早くこっちに来てね!あたいが引き上げるよ!だから早くこっちに来てね!」
「ぞんな゛あああああああああああ!!!!だずげでよおおおおおおおおおお!!!」
ゆっくりチルノにできるのは応援の言葉を贈るだけだった。


やがて水を吸った子れいむの皮がぶよぶよと伸びはじめ、体内から餡子が漏れ始める。
その事に気づいた子れいむが涙と絶望と恐怖と後悔にまみれた悲鳴を上げた。
「いやだああああああああああああああああああああ!!!じにだくない!じにだくないよおおおおおおお!!!
 も゛っどゆっぐりじだいよおおおおおおおお!!まだゆっぐりじだいごとだぐざんあ゛っだのにいいいいいいい!!
 ぎょうはがぞぐみんなでどっでもゆっぐりずるはずだっだのにいいいいいいいい!!!
 まりざとあじだあぞぶやぐぞぐもじでるよおお!がまんじでどっでおいだりんごまだだべでないよおおおお!!
 ほがのおいじいものももっどもっどだべだいよおおおおお!!いつかどおぐまでおざんぽじだがっだよおお!!
 おうだももっどうまぐなりだがっだよおおおお!!ぶゆのゆぎもみだがっだよおおおおおお!!
 ぞれにいづがおがあざんになっでおがあざんとれいむどこどもだぢでゆっぐりしたがっだよおおおおおお!!
 それなのにどおじでれ゛いむ゛がごんなめ゛に゛あう゛どおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?!?
 なにもわるいごどじでないのでぃいいいいいい!!おがじいよおおおおおおおおおおおお!!
 ゆめならざめでええええええええええ!!どうじでざめないのおおおおおおおおおおおお!?!?
 がみざま!もうゆるじで!ゆっぐりじでないでれいむをだずげでよおおおおおおおお!!!
 おがーざん!おねーぢゃん!まりざ!だずげでええええええええええええええええええええ!!
 どおじでだずげでぐれないのおおおおおおおおお!?!?もうやだおうぢがえるううううううううううう!!
 ゆっぐりじだいいいいいいいいいいいいい!ゆっぐりざぜでええええええええええ!!!
 ごんなどごろでじにだぐないのにいいいいいぃぃ…ぃ……あ、あんごが……あ………ぁ…………」
胸の内の全てを吐露するようなうざくてクソ長い断末魔の後子れいむの声は聞こえなくなっていった。
やがで皮も餡子も全て水に溶け、残されたリボンだけが子れいむの生きた証であるかのように水面に
ぷかぷか浮かんでいた。
「ゆっ……うっうっ……」
その一部始終を見届けていたゆっくりチルノは耐えられない悲しみに涙を流し始める。
涙なのか氷が溶けてるだけなのかハタから見ると良く分からないが本人は泣いているつもりである。
「うっうっ……うあああああああああああああああああああああああ!!!」
耐えきれずついに大声をあげてゆっくりチルノは泣き始める。
どうして、どうして。そう聞きたいのはゆっくりチルノの方だった。
自分は子れいむを助けるために湖に落としたのに。
何で子れいむは死んでしまったのだろう。
母れいむの言うとおり「溶か」そうとしただけなのに。
わからない。わからない。
ただ悲しかった。さっきまで一緒に遊んでいた子れいむが死んでしまった事が、ただ悲しかった。
「うえええええええええええええええええええええええええんんん!!!!!」
あたりにゆっくりチルノの悲壮な鳴き声が響き渡った。







そしてひとしきり泣いた後













ゆっくりチルノは泣いていた理由を忘れた。
精神の防衛本能なのかとにかくなぜ自分が泣いていたのかすっぱり忘れてしまった。
さすが⑨!俺達に出来ない事を(ry
そしてその後に残ったのは思う存分泣いてすっきりしたという感覚のみ。
「すっきりー!」
思わず声に出して叫ぶゆっくりチルノ。
そういえばよく覚えていないが確か自分は「すっきりー!」という声を聞きたがっていた気がする。
素晴らしい。目的は達成されたのだ。
何となくうれしい気分になるゆっくりチルノ。
「あたいってばゆっくりね!」
と思わず叫ぶ。そして湖に背を向け、戻ろうとしたその時

「やっと見つけたよ!」
という声が響いた。驚いてそちらを見ると先ほどのゆっくりれいむ一家だった。
いきなり子れいむをくわえて走り去ったゆっくりチルノをずっと探しまわっていたのだろう。
母はともかく子供たちはやや疲れた表情をしている。
「れいむの赤ちゃんはどこ!?早くれいむに返してね!」
母れいむがゆっくりチルノの側に娘がいないのを見て急いで詰め寄る。
しかし当のゆっくりチルノは困惑の表情を浮かべるばかり。
何故ならこの一家のことも既にゆっ⑨りブレインからは消え去っていたからだ。
「おねーさんだれ?なにいってるのかわからないよ?」
正直に自分の気持ちを言ったゆっくりチルノだったがその言葉を聞いた母れいむは驚愕の表情を浮かべたあと、
体(顔?)中を怒りで真っ赤にしてゆっくりチルノに詰め寄った。
「な゛っ……ふざけるのもいい加減にしてね!今すぐ赤ちゃんを返してね!じゃないと本当に許さないよ!」
そう言ってゆっくりチルノに軽く体当たりをする。
「ゆっ!?なに!?」
突然ことに後ろに転げるゆっくりチルノ。それを視線で追った母れいむはその先に信じられないものを見た。

湖に浮かぶ子れいむのリボンである。

「あ、あ、あ、あ……」
信じられない、といった表情で母れいむが体を震わせる。そして次の瞬間感情が爆発した。
「れいむの赤ちゃんに何したのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?!?!?」
ようやく体勢を立て直したゆっくりチルノにゆっくりとは思えぬ勢いで体当たりする母れいむ。
しかも今度は手加減抜きの全力である。
「れいむの赤ちゃんをどうしたの!?今すぐ答えてね!!赤ちゃんはどこ!?」
涙を流しながら激怒の表情でゆっくりチルノを問い詰める。
それを見て他の子れいむ達も状況を察したのか、ゆっくりチルノに攻撃を始めた。
「れーみゅをかえせええええええええええ!!」」
「よくもおねーちゃんを殺したなああああああああああ!!」
「ゆっくりしねえええええええええええええ!!!」
一家の総攻撃が始まる。
氷でできたゆっくりチルノは比較的硬いのでダメージは少ないが、それでも袋叩きはたまったものではない。
まるで抵抗できずに
「あたいは何も知らないよ!本当だよ!信じてよ!」
ただ必死に弁解をするだけだ。
「れいむの赤ちゃんを返せえええええええ!一緒にゆっくりしてた、これからもゆっくりするはずだった
 赤ちゃんを返せええええええええ!!」
「「ゆっくりしね!ゆっくりしね!」」
ひたすら体当たりを続けるゆっくり一家。並のゆっくりならとっくに餡ペーストになっているだろう。
「れいむってばゆっくりしてないよ!今すぐ辞めてよ!」
ゆっくりチルノは責められる心当たりがないものの必死にやめるよう懇願する。
やがてただ攻撃してもあまり効果が無い事に気づいたゆっくり一家は新たな行動に出た。
「「「ゆっくり落ちてね!」」」
ゆっくりチルノを湖に突き落したのである。
「ゆっ!?やべで!だずげてよ!」
先ほどの子れいむの凄絶な死にざまを覚えているわけではないが、それでも水はとても危険なものだと
頭に刻まれている(本当は何ともないのだが)ゆっくりチルノは必死にもがく。
しかし子れいむの時と同じようにもがけばもがくほど体は岸から離れていってしまう。
「あたいってば水だめなのおおおお!いやああああああああ!!!助けてえええええ」
必死に助けを請うゆっくりチルノ。
それに対してゆっくり一家は罵声を浴びせる。
「そうやってたすけをもとめてたれーみゅを殺したんだね!」
「おねーちゃんと同じくるしみを味わってしね!」
「おねーちゃんの仇、ゆっくりしね!」
「死ぬまでここで見ててあげるよ!感謝してね!だから苦しみながらゆっくり死んでね!」
「⑨~~~~~~!?!?!?」
ついにゆっくりチルノはパニックに陥る。
本当はゆっくりチルノは羽を使って飛ぶことができるため、簡単に水から脱出する事が出来るのだが、
パニックに陥った彼女はそれに気づくことができなかった。
例え冷静であっても自分が飛べる事を思い出せたかあやしいが。
「「ゆっくりしね!ゆっくりしね!ゆっくりしね!!」」
もはや一家は完全にゆっくりしねコールだ。
どうやらゆっくりチルノが溺れ死ぬまでそこで鑑賞し続けるつもりらしい。
だが溺れることもなく、また脱出する方法も思いつけないゆっくりチルノはいつまで待っても死ぬことはない。
このままではいつまでもコールを続けることになっただろう。
そしてその事に気付けなかったのが、ゆっくり一家の命取りとなった。
ゆっくりチルノを湖に落としたらさっさと立ち去っていればよかったのに、大騒ぎを続けたせいで、上空を
飛んでいた天敵に自分たちの存在を気づかせてしまったのだ。


「うー?」
気分よくお空を飛んでいたれみりゃは下の湖面が騒がしい事に気づいた。
自分のご機嫌なお散歩を邪魔するなんて許せない。食べちゃうぞ。
そう思って下降しながら湖面に近づいていくれみりゃ。
そこによく見るゆっくりれいむの一家とあまり見かけない青いゆっくりを見つける。
何やら騒いでいるようだがれみりゃにとってはどうでもいい。
それよりお腹がへってきた。やっぱりみんな食べちゃおう。
そう思って一気に狩りの態勢に移るれみりゃ。
ゆっくり一家が気付いた時には、すでに手遅れだった。



「れみりゃだぁぁぁぁーーーー!!」
一匹の子れいむの叫びで一家が慌てて空を見上げた時、もうすぐそばまでれみりゃが近づいていた。
逃げる間もなく、二匹の子れいむがれみりゃの両手に捕われる。
「い、いやあああああああああああああ!!はなしてえええええええええええ!!」
「れーむ食べられたくないよおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
悲鳴を上げる子れいむ達。
残った一匹の子れいむは訳もわからず一目散に逃げ出して行った。
それに対して一瞬ためらいを見せたものの果敢にれみりゃに立ち向かう母れいむ。
もう一匹たりとも自分の赤ちゃんを死なせたりするものか。
「れーむの赤ちゃんをはなせええええええええええええええええ!!!」
その瞳には強い決意が宿っていた。


だがれみりゃにはそんな母れいむの気持ちは分からない。
両手の小さいれいむを見て、自分に向かってくる大きいれいむを見て、それから考える。
―両手が塞がっていては大きいれいむが食べられない―
大きいれいむを捕まえて食べるためには両手を空ける必要がある。
ではどうするか。
そこでれみりゃが取った行動は小さいれいむをさっさと食べて両手を空けるという合理的な方法
――ではなかった
「うー!小さいのはいらないからぽいするの!ぽい!」
そう言って両手の子れいむを湖に投げ込んだのだ。
「み、みずいやああああああああああああああ!!れーむ死んじゃうよおおおおおおおおおおお!!」
「おねーちゃんみたいになりたくないよおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
水に放り込まれた子れいむ達が絶叫を上げる。
それを見て母れいむは慌てて方向転換して子れいむ達に向かって突進する。
「待っててね!今すぐ助けるからね!」
そして湖に飛び込もうとジャンプした瞬間れみりゃの手に捕われた。
「ゆ!?ゆっくりしないで離してね!赤ちゃんが死んじゃうよ!」
慌ててれみりゃの手の中でもがく母れいむ。
だがその訴えはれみりゃの耳を右から左に抜けていった。
れみりゃが考えるのは別のこと。
―大きいれいむも片手で持てる―
つまりそれはもう片方の手にもう一匹持つことができるということだ。
どうせなら両手に持たないともったいない。
そう考えたれみりゃはのこったゆっくりの物色を始める。
「うー♪一番おいしぞうなのをだべるどぉー♪」
結果、れみりゃが選んだのは残ったゆっくりの中では一番大きく珍しい、ゆっくりチルノだった



ゆっくりチルノは既に自分が何で水の中にいるか忘れていた。
もがくのも疲れたので顔を水につけて水の中を見ながらぷかぷか浮いている。
「おさかなさんがいっぱい!あたいってばゆっくりね!」
もごもごと泡を出しつつ誰にも聞こえないつぶやきをもらす。
「!?」
と、急にその体が持ち上げられた。れみりゃである。
「う~♪あっかいぷでぃんとあっおいぷでぃん~♪」
楽しそうなその歌声の間違いに突っ込むものはこの場にはいなかった。
ただ両手にゆっくりを抱えて楽しそうに飛び上っていく。
「はなじでえええええええええええええ!!!あがぢゃんが!れーむのあがぢゃんが死んじゃうううううううう!!」
「あたいってばお空を飛んでるみたいね!」
対照的な声音を上げつつ、れみりゃに抱えられた二匹は空に上がっていった。
「おがあざああああああああああんん!!いがないでえええええええええええええええ!!」
「どおじでだずげでぐれないのおおおおおおおおおおおおおおおお!?!?!?」
絶望の声を上げる二匹の子れいむを残して。



飛び上がったれみりゃはさて、どっちから食べようかと二匹のゆっくりを眺めた。
かたや
「れーむの赤ちゃんが……なんで……どうじでごんなごどにいいぃぃ……」
悲しみに暮れて嗚咽を漏らすゆっくりれいむ。かたや
「たかい!たかい!あたいってば最高ね!」
自分の危機的状況を理解していないのか、楽しそうにしているゆっくりチルノ。
ちょっと悩んだ後、れみりゃはとりあえず大きい方から食べることにした。
「う~♪おっきいぷでぃんをだべちゃうど~♪」
「ごべんねえええええええ……守れながっだおがあざんをゆるじんぶぎゅっ!?」
自分の世界に入り込んでいた母れいむにいきなり走る激痛。
れみりゃが後頭部を齧り取っていた。
「いだいいだいやべでえええええええええ!!れーむまだあがぢゃんづぐるんだがらああああああああああ!!
 たべぢゃらめえええええええええええええええええ!!!」
「うっ♪うっ♪うぁうぁ~♪」
絶叫を上げる母れいむに楽しそうなれみりゃ。
―こっちのぷでぃんはなかなかの甘さだ。もう片方のぷでぃんはどうだろう―
そう思って今度はゆっくりチルノを食べることにするれみりゃ。
どうやらこのれみりゃは本物のプリンを食べた事が無いらしく、
食べ物の総称としてぷでぃんと言っているらしかった。
「う~♪あ~ん♪」
大口を開けてゆっくりチルノに噛み付く。


がぶっ



その瞬間二つ分の悲鳴が上がった。
「い、いだいいいいいい!あだいってば食べられないいいいいぃぃぃぃ!」
「う゛あ゛ぁぁぁぁぁ!ざぐや゛ああああああああああぁぁぁぁ!!」
何度も述べているようにゆっくりチルノは氷である。
当然固い。そして冷たい。
そんなものに思いっきり噛み付けば……痛いに決まっている。
「ざぐや゛あああああああああああ!!ざぐや゛どごおおおおおおおおお!?!?」
噛み付いた歯から頭に響く冷たさと痛みにれみりゃは悲鳴を上げて見知らぬ人物の名を呼ぶ。
そして勢いのまま抱えていた二匹を放り出し、何処かに飛んで行ってしまった。
「い、いやああああああ!!!!いがないでええええええええええええ!!」
「あたいってばおぢぢゃうのおおおおおおおおお!!」
放り出された二匹はたまったものではない。
さっきまで離してと言っていたのに今度はそのれみりゃに助けを乞う。
が、その願いが聞き入れられることはなかった。
「もっどゆっぐりじだがっだよおおおおおおおおおおお!!!」
「アイシクルウォールイーーーーーズィィィィィィィ!!」
重力に任せて二匹はばらばらに落ちていった。







さて、ここで場面は変わってさきほどの襲撃から逃げ出した子れいむである。
パニックになって逃げ出してしまって家族と離れ離れになったが、今は何とか落ち着きを取り戻していた。
そしてその落ち着きを取り戻した餡子脳は先ほどの襲撃の一つの結論を導き出していた。
―もう自分の家族はいない―
れみりゃの恐ろしさは子れいむもよく知っている。
あの状況で他の家族が助かったとは思えない。
これからは、自分はひとりで生きていかねばならないのだ。
「ううっ、おかーしゃん……おねーちゃん………」
ついさっきまでみんなでゆっくりしていたのに、いきなり自分一人になってしまった。
その悲しみはいかほどのものであろうか。
「みんなともっとゆっくりしたかったよ……でも……これからはみんなの分までれーむがゆっくりするね……」
新たな決意を胸(顔?)に子れいむが顔をあげた時、上から懐かしい声が聞こえてきた。
「ゆううううううううううううううううううううっっっ!!!!」
「おかーしゃん!?」
その声に驚いて上を見上げる子れいむ。そこには空からものすごいスピードで
自分に向かってくる母の姿があった。
「ゆ!?おかーしゃん!てんごくから会いに来てくれたんだね!とってもうれしいよ!またいっしょに
 ゆっくりしようね!!」
喜びでぴょんぴょん飛び跳ねつつ母へと言葉を投げかける子れいむ。
そんな娘の姿に母れいむも気付き、思わず喜びのあまり落下と言う絶望的状況を忘れる。
「ゆ!れいむの赤ちゃん!生きててくれたんだね!とっても嬉しいよ!
 もうほかの赤ちゃんはいないけど一緒にゆっくりしようね!」
親子の感動の再会である。
二人の距離はどんどん近付いていく。
そして……
「おかーしゃあああああああああんぶべっ!?!?」
「れえええええええええええむぎゃあっ!!!!!」
天文学的な確率で二人の距離が0になった瞬間、お互いの名を叫びつつ仲良く餡ペーストになった。





一方同じように投げ出されたゆっくりチルノ。
重力に引かれどんどん地面が近づいてくる。
「あたいってばゆっくりしてないいいぃぃぃぃぃ!!!」
ゆっ⑨りブレインでもこのままでは死んでしまうことは分かる。
ゆっくりチルノの頭にこれまでの楽しかった思い出が走馬灯となって流れ始めた。
その走馬灯は……今度は0.5秒で終わった。
楽しかった思い出も忘れてしまうゆっ⑨りブレインの悲劇である。
そしてそんな事とは関係なく死という現実が迫ってくる。
「あたいってば幻想郷最速ねぇぇぇぇぇぇっ!」
どこぞの天狗が聞いたら怒りそうな事を叫びつつ、ゆっくりチルノは恐怖で目を閉じる。
加速された体は地面に向かって一気に落下し激突――-――


しなかった。


「ゆ?」
疑問の声を上げてゆっくりチルノが恐る恐る目をあけると、何と自分の体が浮かんでいるのではないか。
そう、この危機的状況でゆっくりチルノの本能が彼女の羽を無意識に羽ばたかせるという行動をさせたのだ。
何という奇跡!生命の神秘!

次第にゆっくりチルノも自分が飛んでいることに気づいたのか、喜びの声を上げ始める。
「すごい!あたいってば飛べたのね!」
しばらくパタパタと低空飛行を楽しんだ後、着地するゆっくりチルノ。
ふぅ、と一息ついて空を眺める。
あれほど太陽が輝いていた空は、いつの間にか夕焼け色に染まっていた。
よく覚えていないけど今日はもう疲れた。
さっさとおうちに帰って休もう。
そう考えたゆっくりチルノはゆっくりとおうちに戻っていった。




おうちの場所を忘れて3時間ほどさまよった後、
ようやくゆっくりチルノは自分のおうちを見つけることができた。
途中で自分が何をしているのかも忘れたりしたため余計に時間がかかった。
「ふぅ、あたいってばゆっくりね!」
そう言って巣穴に潜り込むゆっくりチルノ。
しかしそこには………先客がいた。


「むーしゃむーしゃ、しあわせー♪……ゆっ?だれ!?ここはまりさのおうちだよ!」
ゆっくりチルノが蓄えていた木の実を頬張っていた黒帽子のゆっくりが振り向き、自分のおうち宣言をする。
一瞬呆気に取られるゆっくりチルノだが、しかしさすがのゆっ⑨りブレインでもこれには黙っていない。
ここは頑張って自分が掘った巣穴なのだ。他人に渡すわけにはいかない。
「何言ってるの!ここってばあたいがつくったおうちよ!その木の実もあたいが集めたものだよ!」
「ふざけないでね!この木の実は最初からここにあったんだよ!ここはまりさが先に
 見つけたからまりさのおうちだよ!」
傍若無人な事を言うゆっくりまりさ。
普通のゆっくりならここでさらに強く言い返すところだが、ゆっくりチルノの頭は既に混乱し始めていた。

―そういえば勢いで言ってみたけど、自分がその木の実を集めた記憶はない。
 このあたりは草が茂っていて場所が分かりにくいし、もしかしたら本当に巣穴の場所を間違えたのかも…
 そうだとするとここはこのまりさのいうとおり自分のおうちじゃないんじゃないんだろうか―
うーん、と悩むゆっくりチルノにゆっくりまりさの言葉がとどめを刺した。
「ここはまりさのおうちだよ!でも今すぐ出ていくなら木の実を少し分けてあげてもいいよ!」
既に傾きかけていたゆっくりチルノにこの言葉は決定的だった。
―自分がおうちを間違えてとても失礼なことをしたのに、食べ物を分けてくれるなんてなんて親切なんだろう―
「ごめんね!間違えちゃった!あたいってばゆっくりね!」
照れるように笑ってゆっくりチルノが言う。それを聞いてゆっくりまりさは
「分かったのならさっさと出て行ってね!もう来ないでね!」
そういっていくつかの固い、食べかけの木の実をゆっくりチルノの側に投げた。
「ごめんね!ありがとね!」
ゆっくりチルノは礼を述べると木の実を口に詰め込み、巣穴を抜け出していった。
後にはニヤリと笑うゆっくり魔理沙が残された。





「むーしゃむーしゃ、⑱ー!」
巣穴の側で木の実を食べてよく分からない叫びを発するゆっくりチルノ。
18は9の2倍なので2倍幸せと言う意味である。
こんなギャグを思いつくなんてあたいってば天才ね!
と自己満足に浸りつつゆっくりチルノは木の実を食べ終えた。
色々あったとは言え何度も水没したことで既に必要な食事量はほとんど満たしていたので、
少ない木の実でもゆっくりチルノは満腹だった。
しかしそろそろ本当に急いでおうちを探さなくてはならない。
もうすでにまんまるのお月さんが浮かんでいる。
「あたいってばゆっくりしてらんないわ!」
慌てておうち探しを再開する。
が、いくら探しても自分のおうちはみつからなかった。
さきほどの巣穴が本当のおうちなのだから、当然である。

さらに一時間ほど涙目で巣を探し続けたがついに見つからず、
ついにゆっくりチルノは木陰にばったりと倒れ伏した。
「あたいってばゆっくりしすぎね……」
もう仕方が無い。きっと巣穴の場所を忘れてしまったのだろう。
今から巣を掘ったり探したりなんてできないし、今夜はこの木陰で眠ろう。
きっと明日になったら巣の場所も思い出すに違いない。
そう考えたゆっくりチルノは木の側で隠れるように横(縦?)になった。


しかし瞼を閉じ、いざ寝ようとすると頬にあたりがなにかかさかさするものがいる。
何かと思って目を凝らしてみると、それは蟻の行列だった。
「あたいってばラッキーね!」
目を輝かせながら目の前の蟻をパクンと食べるゆっくりチルノ。
何匹か食べたところで今度は蟻たちに息を吹きかけ始めた。
「ふーっふーっ」
本来、ゆっくりチルノが他の生物を凍結させるほどの冷気を出すにはくしゃみをするしかないが、
蟻ぐらいの小さい生き物相手であればただ息を吹きかけるだけでも凍結させることが可能なのである。
こうして蟻を冷凍保存しておき、明日の朝起きたら食べよう、と言うのがゆっくりチルノの考えだった。
20個ほど蟻の氷塊を作ったところでゆっくりチルノは眠ることにした。
そして、その氷塊を眺めながら、これなら明日の朝ご飯はごちそうね!と幸せな気分で眠りに就いた。



しかしそこはゆっくりチルノ、ちゃんと作戦に穴が開いている。
いくら凍らせたとはいえこの夏の熱帯夜、小さな氷塊などすぐ溶けてしまう。
ゆっくりチルノが熟睡した後、溶けた氷塊から蟻たちが抜け出していくのに、気づくものはいなかった。





そして翌朝。
水色の髪に薄い色の羽、氷精を模したゆっくりであるゆっくりチルノは今朝は
木陰で起床の一声を挙げた。
「おはよう!あたいってばゆっくりね!」
そして昨日作った朝食用の氷塊など当然のように忘れ、また朝食探しに飛び跳ねていく。

果たして今日はどのような一日になるのだろうか。
夏の青い空は、昨日と変わらぬ晴天の色を湖畔に住む生き物たちに伝えていた。













あとがき
今まで何度もSSを書きかけて途中で挫折したけど、初めて一つ書き上げる事が出来ました。
こういうの書く時は勢いって大事ですね。
しかしおかげで貴重な時間が6時間ぐらい潰れてしまった。
ゆっくり虐待してた結果がこれだよ!

あれ?そういえばあんまり虐待はしてないような……

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最終更新:2008年09月14日 06:22
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