「ゆゆ!ゆっくりしてないにんげんさんがいるよ!」
夕暮れに染まる山を、私は歩いていた。
「なにもってるの!!あまあまさんだったられいむにちょうだいね!!あまあまさんをおいていったらゆっくりしないではやくきえてね!!」
私が手に持っているのはコーヒーゼリー。かつて、一緒に暮らしていたぱちゅりーが大好きだった物だ。
「どぼじでむじずるの゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛」
私はこの山に、そのぱちゅりーを埋めた。他ならぬ、彼女の願いであった。
今日、私達がこの山に訪れたのは、ぱちゅりーの墓参りをするためだ。
一週間に一度、休日を利用して私達はこの山を登る。彼女が永遠にゆっくりしたあの日から、それを欠かした事はない。
「むじずるじじいはゆっぐりじね゛ぇぇぇぇ!!!!」
私の頬を伝う涙は、私がまだ彼女の死を乗り越えていないからであろう。
彼女は聡明であった。ゆっくりらしからぬ程、聡明だった。
心の中では、いまだに信じる事が出来ない。何故。何故、彼女が・・・
本当は判っている。死因は老衰・・・幸せそうに天寿を全うした彼女の死を、何時までもこうして引き摺り続けるのは、彼女への冒涜であることも。
だが、もう少しだけ、もう少しだけ・・・この悲しみに浸っていたい。
「じね゛ぇぇぇ!!ゆっくりできないじじいはゆっぐりじないでじね゛ぇぇぇぇ!!!!」
この、胸を締め付けるような苦しみに反して、私はどこか、愛おしささえ感じていた。
「ゆ゛ぅぅぅぅ!!!ゆ゛ぅぅぅぅぅ!!!!」
私が・・・彼女を愛していたという、証だから・・・
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「むきゅ、やっといなくなったわね。あのれいむ。」
そう言って顔を出したのは、彼女の娘であり、私の家族でもあるゆっくりぱちゅりーだ。
「れいむなんていたのか・・・。気が付かなかった。悪い事したな。」
「別にそうでもないわ。図々しい子だったし。」
「そうか、帰りにまた会う事があったら、前にお供えしたゼリーをあげないとな。」
「むきゅう・・・野生の子にそんな物をあげたら可哀想よ。舌が肥えちゃうわ。」
この子も、彼女に似て賢い。
血筋・・・ではなく、彼女の教育の賜物だろう。――何故なら、
「むきゅー・・・着いたのかしら?」
「ごめんなさい、ぱちぇ達が山を登れたら、お兄さんに運んでもらう必要もないのだけど・・・」
「むきゅ!少しなら私達も自分で歩けるわ!疲れたら遠慮なく言って頂戴!!」
彼女は、街で暮らす野良ゆっくりの群れのリーダーだった。
・・・彼女達に出会った後に知る事になるのだが、彼女達は全員、賢いゆっくりだった。
それはもう、他のゆっくりとは比べられない程に。
「気にする必要はないよ。それに、もう着いたし。よし、みんな外に出てくれ、一緒にお参りをしよう。」
「「「「むきゅ!わかったわ!」」」」
彼女の他に成体が7人、それに彼女の娘を加えた計9人のゆっくりぱちゅりーが彼女の群れであった。
今、ここにはいない残りのぱちゅりーは、伴侶を見つけて嫁いで行ったのが2人。
・・・娘を嫁にやる親の気持ちが判る。定期的に会う機会があるのだが、その度に幸せそうな姿を見られるのがせめてもの救いだ。
・・・もう1人は、彼女と同じ様に、永遠にゆっくりしてしまった。
悲しい事故だった。・・・私は自己嫌悪する。
事故の事ではない。私は・・・2人の死を・・・比べている・・・。
同じ、ゆっくりぱちゅりー。
同じ、家族の様に一緒に暮らしてきた。
同じ、死。
同じ、
同じ・・・同じはずなのに
悼む気持ちは変わらない。
なのに、何故こうも。
彼女を想うと胸が苦しいのか。
何故・・・
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あくる日の晩、私は、仕事帰りに空腹を満たそうと、飲食店を横目に街を歩いていた。
「ラーメン!・・・は昨日食ったばっかだしなぁ・・・牛丼・・・って気分でもないしなぁ。」
誰に言うのでもなく、独り言をつぶやきながら店を選んでいると、声を掛けられた。
「むきゅー!お兄さん!お腹が空いてるのならここでご飯さんを食べていかないかしら!」
見れば、透明な箱に入れられたゆっくり、と呼ばれる喋るお饅頭がこちらを向いてセールストークしている。
「・・・俺に言ってんの?」
「ええそうよ!お仕事帰りでお腹が空いてるでしょ!!ウチのお店でゆっくりしていってね!!」
ウチのお店?・・・そのゆっくりが乗っている台の横には"ゆっくりしていってね!キャンペーン中!!可愛らしいゆっくりがお客様を接客致します!!"
と、書いた看板が立っている。下に小さく"調理・食材の管理は全て人間が行っています。接客するゆっくりは、全て清潔な固体です。ご安心ください。"・・・と注釈してあるが。
「へぇ~、珍しいな。ゆっくりが接客・・・ね。」
「むきゅん!とってもゆっくり出来るご飯さんなのよ!ぱちぇが保証するわ!」
上に掲げてある看板を見上げると、○スバーガーという文字が煌びやかに光っていた。
「ハンバーガーか」
「お兄さんは物知りね!今ならとってもお買い得なクーポン券も付いてくるのよ!!」
「ほほう、いっちょ前に客引き出来るじゃないか。よし!今日の晩飯はこの店に決めたよ。」
「むきゅ!!一名様!!ゆっくりしていってね!!」
――ゆっくり、そう呼ばれる生命体がこの世に現れてから、十数年が経つ。・・・少なくとも、私の物心が付く頃には、いた。
・・・というのも、ゆっくりの歴史についてなんて、自分で調べない限り分からないし、知る由も無い。
小さい頃、田舎に帰るたびに野生のゆっくりと追いかけっこしたっけなぁ。今思い返すと、泣き叫びながら逃げてたけど・・・子どもなんてそんなもんだ。
そんなゆっくりが、街でも姿を見かけるようになったのは何時からだっけ・・・
確か・・・第一次ゆっくりペットブームが去った後に起きた、捨てゆっくり問題ってのを中学生の頃によくニュースでやってたから・・・
十年以上前か。あの後、増えすぎた野良ゆっくりが、ゴミを漁ったり、家に侵入して荒らしたりする問題が起きて。
一斉駆除されたり、また流行ったりと色々あったな。
今じゃ、収まる所に収まったと言うべきか、程々にゆっくりを飼う人がいて、程々に野良ゆっくりを見かける。
増えすぎれば駆除されて、減ってきたら放置される。まるで犬や猫だな。
・・・ただ、個人経営ならまだしも、チェーン店でアルバイト?をしてるゆっくりは初めて見た。・・・店長の趣味か?
まぁいいや、と自動ドアをくぐる・・・
「「「「「「ゆっくりしていってね!!!」」」」」」
・・・びっくりした。いや、店員としてはやる気に満ち溢れていて大いに結構なんだけど・・・。
「お好きな席にお座り下さい。ゆっくりが注文を聞きに参りますので。」
店員に促され、首だけの会釈をしながら席に座る。
辺りを見回すと、そこらかしこにゆっくりが跳ね回っていて、なんというか・・・その・・・凄く一杯一杯だな・・・。
てっきり、そういう訓練を受けたゆっくりがいるもんかと思っていたが、そうでもないらしい。
外にいたあのゆっくりは、手馴れた雰囲気だったが。
「むきゅー・・・い、いらっしゃいませ・・・ご注文はなんでしょう・・・」
しばらく待っていると、足元にメニューを重たそうに頭に乗せたゆっくりがやってきた。
・・・ゆっくりぱちゅりーだっけ?外にいたのも同じ奴だったな。
「ご苦労様。」
と、言いながら今にも潰れそうなゆっくりを机に乗せる。
「むきゅきゅ・・・ごめんなさい・・・」
謝られた。
「いえいえ、どういたしまして」
「メ、メニューです、ゆっくり注文が決まったら、ゆっくりよ・・・お呼び下さい・・・」
接客もたどたどしい、少し興味が沸いて、このゆっくりに話を聞いてみることにした。
「注文を決めている間、少しお喋りに付き合ってもらってもいいかな?」
「むきゅ・・・」
視線を逸らされてしまった。乗り気でなかったかな?
いや、どうやら人間の店員を気にしているようだ。
「・・・サボってると思われたら後で大変か、ちょっとここで待っててね。」
言うや否や、ゆっくりを机に放置したまま、店員の元へ足を運ぶ。
「・・・申し訳ございません。ウチのゆっくりが何か粗相をしてしまいましたか?」
謝られた。
「いえ、そうではないです。少し彼女とお喋りを楽しみたいと思いまして。」
「はぁ・・・」
「彼女の業務の邪魔になるのなら無理にとは言いません。駄目でしょうか?」
「いえ、お客様をご満足させるのが、あの子達の仕事ですから。どうぞ、お構いなく。」
すみません、とお互い頭を下げつつ席に戻る。ボソッと「愛で派の人だったか・・・」なんてつぶやきが聞こえたが、バイトをするゆっくりに興味が沸くのは珍しい事なのかね。
「お待たせ、店員さんも許可してくれたけど、君は嫌かい?お喋りするの。」
目の前にいるゆっくりが首?身体?を必死に横に振っている。否定の仕草かな?
「・・・どうして判ったの?ぱちぇが店員さんを気にしてるって・・・」
「そっちに視線を動かしてたからね。」
むきゅん!と言いながら顔を染めている。なんか可愛いなコイツ
「まだ仕事に慣れてないようだけど、君は入ったばかりなのかい?」
「むきゅ!ぱちぇ達は今日が始めてなの・・・」
・・・はい?
「えっ、初めてって、研修とかは?」
「けんしゅう?ぱちぇには判らないけど、人間さんのお仕事を手伝うと、後でご飯さんが貰えるって聞いて・・・」
「もういやだなんだぜぇぇぇ!!!はやくごはんさんをもってくるんだぜぇぇぇ!!!!」
大声がする方に視線を移すと、黒い帽子を被ったゆっくりが泣きながら騒いでいた。懐かしい、小さい頃、よく追いかけっこをしたゆっくりまりさだ。
「こんなはなしきいてないんだぜぇぇぇ!!!はやくまりさにあまあまさんをもってくるんだぜぇぇぇ!!!!!」
・・・初めて、って言うのは嘘じゃないらしい。・・・というか、ここにいるゆっくりって特殊なゆっくりじゃないんかい!
「はなぜぇぇぇぇ!!!ゆっぐりできない゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛」
・・・あっ、店員さんに連れて行かれた・・・
・・・・・・・。
「ゆ゛ぴゃあ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛」
「ごべんなざい゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛」
「おじおぎはゆっぐじできな゛い゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛」
・・・断末魔が・・・あれ、さっきのゆっくりの声だよな?
「むきゅー・・・」
「・・・君達ってさ、そういう訓練を受けたゆっくりじゃないのかな?」
「・・・ぱちぇ達は野良ゆっくりよ、まりさ・・・もう少しの我慢だったのに・・・」
・・・これは酷い。
「詳しく聞かせてもらえるかな?」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・・・わーぉ・・・
聞いた話を整理すると、ここで働いているゆっくりはみんな野良ゆっくりで、ろくな説明も受けずにいきなり現場に放り出されるらしい。
仕事成り立たないだろっ!って突っ込みたくなったが、周りの客はそれでいいらしく、思い思いに仕事が出来ないゆっくりを虐め・・・
虐めてるよ・・・くそっ、そういう店かよぉぉぉぉ・・・・・・
・・・ここにいるゆっくり達は、労働の対価として仕事が終わればご飯を分けてもらえるらしいが、あの途中退場したまりさは貰えないだろうな・・・てか、生きてんのか?
つまる所、ゆっくりが働く珍しい店だと思って入ったこの店は、仕事に不慣れなゆっくりを小突きながら食事を楽しむ店だったって事だ。
店のイメージダウンに繋がるんじゃないかとも思ったが、野良のゆっくりに対する感情なんてたかが知れてる。はぁ。
「・・・ありがとう。じゃあ・・・悪いけど、このベーコンレタストマトバーガーのセットのサイドメニューはポテトで飲み物は・・・」
「むきゅー・・・ごめんなさい、もう一度・・・」
「言うのが早かった?ごめんね。えーっと、ベーコン、レタス、トマト、バーガーの、サイドメニューは・・・」
「むきゅきゅきゅ・・・」
・・・ですよねー。
「びー、える、てぃー、って言うのを2つ貰えるかな。」
「むきゅ!わかっ・・・かしこまったわ!!!」
・・・空しい。
「お待たせ致しました。こちら、BLTの単品がお二つになります。ご注文は以上でお間違いありませんか?」
あぁ、物を持ってくるのは人間なんだ。そりゃそうだよなぁ。ゆっくりって手足ないし。
「・・・あの、すみません。」
「はい?」
「ゆっくりを使うのって、逆に疲れませんか?なんでゆっくりなんか・・・?」
「申し訳ございません、本部の意向でして・・・」
・・・ですかー。
「判りました、スミマセン・・・」
「いえいえ、ごゆっくりどうぞー!」
・・・帰ろう。さっさと食ってさっさと帰ろう。
「ありがとうございましたー!!」
・・・ふう。
「むきゅ!お兄さん!」
外に出ると、入り口で客引きをしているゆっくりに声を掛けられた。
「ゆっくりできたかしら?」
「ゆっくりは・・・どうかねぇ、ハンバーガーは美味しかったよ。ご馳走様。」
そう言いながら、透明な箱にポンポンと手を置く。
「むきゅん!また、ゆっくりしていってね!!」
「おー。(多分もう来ないけどなー)」
コイツだけ、妙に手馴れてるんだよな。
店内で生き残ってるのも、殆どゆっくりぱちゅりーだったし、他のに比べて頭がいいって話は本当だったんだ。
店のすぐ横で、一服すべくタバコに火を着ける。
ゴミ捨てに勤しむ店員さんと目が合ってお辞儀された、お辞儀を返し、心の中でご苦労様です。とつぶやく。
・・・非日常な体験をして少しテンションがおかしかったのか、店員さんにふとした疑問をぶつけてみる。
「あの外で客引きしてるゆっくりは、他のとは違うんですかね?」
「え?あぁ、いえ、アイツも他と一緒ですよ。そこらへんから集めた野良の内の一匹です。」
「にしては手馴れてるなーと、あなたもそう思いません?」
「ですね、あそこまで賢い固体ってのはなかなかいませんからね。アイツに限らず、アイツが連れて来た他のパチュリー種も。」
「・・・というと?」
「店内に居るぱちゅりー種は、アイツが連れて来たんですよ。」
・・・そういや、店内にいたゆっくりって、ぱちゅりーが殆どだったな。
「ほーほー、経験者なんですかね?こういうのの。」
「・・・いや、元飼いゆっくりとかじゃないんですか?だってこの後、生き残ったのも全部潰しちゃいますし。」
・・・・・・は?
「・・・えっ?彼女達って、ご飯が貰えるから仕事してるんですよね・・・?」
しまった・・・という顔をして、慌てて店員が取り繕う。
「い、いえ、まぁ表向きはというか・・・ほら、野良に餌をあげると条例違反ですし・・・」
・・・世知辛いな、頑張った挙句、待っているのは死・・・か。
「あぁ、確かに・・・条例違反ですけど・・・」
「えぇ、すみませんが、そういう決まりですので・・・」
店員さんの目には、私がどこかのゆっくり愛護団体に見えるのか、居心地が悪そうにそそくさと店内に戻ろうとしている。
・・・街に住むゆっくりは、その日の糧を得るもの難しいのだろう。
というのも、たまに見かけるゆっくり達はまるで、浮浪者のような姿をしているし、ゴミを漁るのだって、他に食べ物がないからだ。
・・・ゆっくりには、今まで関心すら持っていなかったが、こうして人間と一緒に共存?しようと頑張っている姿を見ると、なんだか可哀想に思えてくる・・・。
・・・・・・。
「あの、何度もすみません――」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ただいま・・・」
自宅に戻り、電気を付ける。
ただいまと言った所で、誰もいない我が家。一人暮らしを始めてからどのくらい経ったっけ?
・・・でも、もう一人じゃない。
「窮屈だったろ、今出してやるからな。」
モ○バーガーの袋に入れてもらったある物を、袋から取り出していく。
「むきゅ・・・」
「むきゅん・・・」
「むきゅきゅ・・・」
「むきゅ?」
「むきゅー・・・」
「むry」以下省略
計8匹のゆっくりぱちゅりーだ。
・・・あの後、閉店まで待って、結局生き残った・・・仕事をやり遂げたのは、ぱちゅりー種だけだった。
気に入ったので、良かったら譲ってくれませんか?と尋ねたところ、二つ返事で了承された。
ゆっくりなんて飼った事もないし、エゴと言われればその通りなのだが、どうしても放ってはおけなかった。
「・・・お仕事お疲れ様。えーっと、ゆっくりしていってね?」
「「「「「「「「ゆっくりしていってね!!」」」」」」」」
「むきゅ・・・?ここはどこかしら?」
「あー、俺の家。えーっと・・・」
「お兄さんの・・・?お兄さんはお客さんではなかったのかしら。」
もっともな疑問です。
「うん、そうだったんだけど・・・その、君達の仕事ぶりに感動してね、譲ってもらったんだよ。あのお店から・・・」
「「「「「「「「・・・・・・。」」」」」」」」
反応がない。ちょっと無理があったかな?
「むきゅー・・・ゆっくり理解したわ・・・あのね、お兄さん」
8匹いるゆっくりぱちゅりーの内、私と会話をしているのは1匹だけだ。他の7匹は少し下がった所で整列?している。
「なんだい?」
「・・・お仕事の対価を貰いたいのだけど・・・」
ものすごく申し訳なさそうな顔をして、ゆっくりは言う。
「あぁ、ごめんごめん!!おなか空いたよね!はい!これがご飯だよ!」
そう言って、私はモス○ーガーの袋から、譲ってもらったお礼とばかりに買い込んだハンバーガーを出す。
「「「「「「「「・・・・・・・。」」」」」」」」
「・・・袋開けないと食べられないよね!!ごめんごめん!!」
「「「「「「「「・・・・・・。」」」」」」」」
あれ?もしかしてゆっくりって・・・コレ食べられない?
「あー・・・もしか「むきゅー!お兄さん・・・」」
「おぉ、なにかな?」
「ゆっくりありがとう!・・・でもね、ぱちぇ達はここじゃご飯さんは食べないの。」
そっかそっか、そりゃ家に帰ってから食べるよな。普通。
「・・・あのさ、ちょっといいかな?」
「むきゅー・・・なにかしら・・・?」
怯えてるのか・・・これは。
「君達がよければ、ここに住まないかい?」
あのお店からゆっくりを引き取ると決めた時に、飼えるなら飼おうという決心はした。
それが衝動的な行動だったとしても、一応は、分別の付いた大人であると思いたい。飼うからには、責任をもって。
「むきゅー・・・」
なんか焦ってる・・・とても喜んでいる風には見えん。
「あのね、怒らないで聞いて欲しいのだけど・・・」
雲行きも怪しい。
「ぱちぇ達は、お家におちびちゃんを残してきてるから、お兄さんの家には居られないの・・・。」
そりゃ、今日初めて会った間柄だもんなー。信用・・・え?
「・・・えーっと、ごめん、もう一回言ってくれるかな?」
「むきゅん・・・ごめんなさい、お兄さんの好意は嬉しいんだけど、お家でおちびちゃんがお腹を空かせて待ってるのよ・・・。」
あぁ、そういう事か。
「なら、一緒におちびちゃんを迎えに行こうか。」
「「「「「「「「むきゅ!!」」」」」」」」
え?なにこの反応。
「むきゅん!!だ、大丈夫よ!ぱちぇ達は自分で帰れるわ!!」
・・・話が掴めない・・・
「遠慮なんかしなくてもいいんだよ?」
「ち、違うのよ!!むきゅー・・・むきゅー・・・」
困ってる・・・なんでだ・・・あっ
「ごめんね!!ちょっと、5分くらい待っててもらえるかな!?」
急いでパソコンの電源をつけ、グーグルにこう打ち込む。
"野良ゆっくり"
・・・・・・。
検索結果の一番上に出てきたのは、"【ヒャッハー】野良ゆっくり駆除スレ536匹目【虐殺だァー!】"・・・だ。
恐らく、私の機嫌を損ねないように、なんとかこの窮地を脱しようとしているんだろう。
人間は、野良ゆっくりにとって、危険な存在なのだから・・・・・・。
「・・・お兄さん・・・?」
物凄く不安そうな声。予想は当たってたみたいだ。
「・・・・・・ごめんね。」
「むきゅ・・・?」
「いきなりこんな所に連れて来られて、怖かったよね。・・・ごめん。」
「そ、そんな事ないわ!!」
一度気が付くと、一生懸命私の機嫌をとろうとしているのが判る。うかつだった。
「・・・でもね。」
でも、現実問題として・・・
「外はもう暗いし・・・家から君達のお家までの道のりって・・・判るかな?」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
街灯に照らされた道を歩き、街灯に照らされてない公園へとたどり着いた。
「怖っ・・・夜の公園怖っ・・・」
街灯一本に照らされた夜の公園は、中々ホラーな雰囲気を醸し出している。
これでブランコがギィギィ揺れているものなら、間違いなく帰路に着くだろう。
・・・用事がなければ。
「むきゅ、この公園よ!」
前に抱えたリュックサックから、半分だけ顔を出してそう声をあげるのは、私が保護・・・半ば攫って来たゆっくりぱちゅりーである。
あの後、どうしたものかと情け無い顔で悩んでいる私に、ぱちゅりー達はある提案をした。
●
●
●
「・・・みんなで相談する時間が欲しいのだけど・・・」
提案というか、完全に怯えちゃってます。本当にごめんなさい。
「・・・うん、判った。」
既に、元々無い信頼をマイナス地点まで持っていってしまっている私は、せめて、彼女達が怯えないように優しく声を掛ける。
・・・嘘。落ち込んでいて流されるがままだ。
・・・・・・。
「人間さんにお家の場所を教えるのは・・・」
「でも、私達は捕まっちゃってるし・・・」
「子どもを見捨てるわけには・・・」
「でも・・・」
「・・・・・・」
盗み聞きをするつもりはないのだが、ちょくちょくショッキングな会話が聞こえてきて、更に落ち込む。
「・・・隣の部屋・・・は無いから、玄関にでも行っておけばよかったなぁ」
都会の一人暮らしといえば、大半がワンルームな訳であって、狭い部屋の反対側まで移動しても、彼女達の会話は聞こえてしまうのだ。
「むきゅー・・・でも、あのお兄さんは、ゆっくりできる人間さんだと思うわ・・・」
お?
「ぱちぇがお仕事をしている時、優しくしてくれたもの・・・」
・・・という事は、あの子は店の前で客引きをしていた子か、注文を聞きに来た子かな?
「そうね。あの人はゆっくりできる人かも知れないわ。」
一人だけ他のゆっくりと違って、人間さんって言わないんだよなぁ。なんでだろう。
「あなた達がそう言うなら・・・」
「どうせ助からない命だし・・・賭けてみるのも・・・」
肯定意見も出ているみたいだ、ちょっと傷つく事を言っているけど・・・
「お兄さん。」
「は、はい!」
「私達のお家は、ほにゃらら自然公園と言う所にあるのだけど、ご存知かしら!」
「あぁ、その公園なら知っているよ。」
この近くに、公園は一つしかないしね。
「みんなで行ったらお兄さんの迷惑になるし、私だけそこへ連れて行って欲しいの。」
迷惑?
「それは全然構わないけど、いいのかい?全員で行かなくても」
「えぇ、子どもの無事を確認できたらもう、一度、子どもと一緒にお兄さんの家に連れて行ってもらって、後は自分達の足で帰るわ!!」
「判った!子どもも心配しているだろうし、そうと決まれば早く行こうか!」
「お願いするわ!むきゅん!」
・・・これも後になって判る事だけど、普通のゆっくりは一回行って帰ってきた位じゃ道なんて覚えられないらしい。
人間が歩いて10分"も"掛かるほど遠い場所なんか、特に・・・。
こうして私とぱちゅりーは、彼女達の家があるという公園にやってきたのあった。
「・・・どうする?不安なら私はここで待ってよっか?」
気が付けば、彼女達に対しての一人称が、俺から私になっている。
少しでも不安を和らげるために、編み出した苦肉の策だ。
「そこまで気を使ってくれなくてもいいわ、私達は、あなたを信用することに決めたんだもの!」
・・・彼女達と接していると、ゆっくりが駆除される理由が判らなくなってくる。
「・・・ごめんね。」
「むきゅ!謝らないで!・・・私達のお家は花壇さんの中にあるわ・・・」
"立ち入り禁止!!花を踏まないで!!"の看板がでかでかと立っている花壇に、入るのは気が引ける。
んな事言ってる場合じゃないか。
「ごめんなさい、花壇さんの中にお家を作れば、人間さんに見つかる可能性も低くなると思って・・・」
あれ?人間さん?
てっきり、人間さんって言わない子を連れてきていると思っていたけど・・・見間違えたかな?
「いやいや!すんばらしい自衛手段だと思うよ!うんうん!」
花壇を整備している人にごめんなさいをしつつ、なるべく花を踏まないように足を進めていく。
・・・自然公園と銘打っているだけあって、花のエリアを抜けたら、木々が蔓延る魔境が見えてきた。
・・・正直帰りたい。怖い。
「むきゅ、もうすぐ着くわ!」
「お?じゃあリュック外に・・・」
・・・あ、やべ。外に出そうとしたのに、リュックの中に落としちゃった・・・
「ご、ごめん、今すぐ出してあげるから!!」
「むきゅきゅ!!ゆっくり出来ない人間さんが来たわ!!」
お?
「これは早くお家に帰らないと!!」
お?
「むきゅきゅきゅ!ぱちぇは人間さんなんかに捕まらないわ!!むきゅー!!」
・・・あれは、ぱちゅりーかな?なんか言ってたけど・・・
怯えさせてごめん。
「・・・と、それどころじゃない、早く助けないと!!」
・・・・・・。
「むきゅー・・・酷い目にあったわ・・・」
「本当にごめん。」
「いいの、あなたは悪くないわ。ここまで連れて来てくれて、本当にありがとう。」
・・・野良が駆除される理由が本当に判んない。
「・・・むきゅ、こっちよ、ゆっくり着いてきてね。」
「あ、うん。」
・・・ぱちゅりーの案内に従って、道無き道を行く、少し前に怯えさせちゃったゆっくりが跳ねて行った方向とは別だったに、ちょっと安心した。
「むきゅー・・・」
木の根元に穴が開いている。ここがお家なのだろうか?
「どうしたんだい?」
「いないわ・・・子どもが。」
・・・なんとも言えない空気。
「むきゅう・・・ごめんなさい。ぱちぇ達の帰りが遅かったから・・・」
恐らく、亡くなってしまったであろう、子どもに向けられたその言葉は、グサグサと私に胸に突き刺さってます。
「・・・ごめんね、私が勝手なことをしたばっかりに・・・」
「むきゅー・・・・・・」
弔いの気持ちを込めて、黙祷を捧げる・・・。
「どぼじでおうぢの前に居るのー!!?」
お?
「さっき、ぱちぇのおうぢは向こうにあるっでいっだでしょー!?!?!」
あれは・・・さっきの
「むきゅ?・・・ぱちゅりーなの!?」
・・・どっちの台詞だ?
「むきゅー!?お母さん!!?人間さんに捕まっちゃったの!?」
なるほど、・・・え?
「むきゅー・・・生きてたのね、良かったわ・・・。」
「帰りが遅くて心配したんだから・・・!」
・・・生きてた?
「人間さん、お願いだからお母さんを放してくれませんか?」
放してくれと言われても、ぱちゅりーは私の目の前にいる。
「・・・むきゅ、ぱちぇの話を聞いてね。」
・・・・・・続く
最終更新:2013年01月10日 22:23