ゆっくりいじめ系3096 反動の結果

※愛で派イジメに見えるところもあるかもしれない
※それが気になる人は読まない方がいいかも
※おれは全く気にしてないから皆さんも気にしないでください



「あまあまよこせジジィ!」
「よこちぇ!」
「甘いもんなんか持ってねえよ」
 大きな母れいむと子れいむの親子づれに絡まれた男は閉口して言った。
「なければ買ってくればいいでしょおおおお!」
「かっちぇこい! のろのろすりゅな!」
 ぽむぽむと足に体当たりをしてくる二匹に露骨にうんざりした視線をやると、男は相手
にせずに足早に去った。
「ゆゆぅ、使えないクズだね!」
「つかえにゃいね!」
 きょろきょろと辺りを見回すれいむ親子。
 場所は昼下がりの公園である。他にも何人もの人間がいたが、皆目をつけられてはたま
らないとそっぽを向く。
「君たち」
 そんな腫れ物扱いの親子に自ら声をかけた青年がいた。
「ゆゆっ、あまあまくれるんだね! はやくしてね!」
「ゆっきゅちちないでにぇ!」
「ああ、クッキーをあげるから、僕の話を聞いてね」
「「ゆわわわわ」」
 青年がクッキーを地面に置くと、れいむたちは一目散に飛びついた。
「君たち、さっきみたいな態度をしてたらいけないよ。人間さんがゆっくりできないよ」
「むーしゃむーしゃ、しあわせぇ~」
「むーちゃむーちゃ、ちあわちぇ~」
「君たちもゆっくりできないのは嫌だろ? だったら人間さんがゆっくりできないことも
しちゃ駄目なんだ」
「おいしかったよ! もっとクッキーちょうだいね!」
「まだおにゃかペコペコだよ! ちょうらいね!」
「うん、その前に僕の話をちゃんと聞いてね? 実は今度」
「いいからはやくクッキーちょうだいね!」
「はやくちろ! グズ!」
「ちゃんと話を聞いてゆっくりりかいしてくれたらもっと上げるよ、今度」
「クッキーよこせ、このクズ!」
「クジュのおはなちなんてききたくにゃいよ! それよりクッキーらよ!」
 れいむ親子は痺れを切らして青年に体当たりをし始める。
「お願いだから話を聞いてね、そうしたらちゃんとクッキーあげるから」
「おい」
 青年がなおも根気強く親子に語りかけようとすると、その背中に声がかかった。
 振り向けば、そこには二人の男がいた。
「あんた、愛護団体か。そいつらにそんなこと言ったって無駄だぜ」
「……」
 青年は、無言でいる。
「そうそう、こいつらそんなの理解できないって、餡子脳なんだから」
 もう一人の別の男が言った。青年はそれに対しても何も言わなかった。
「あまあまよこせえええ!」
「よこちぇえええ!」
 れいむ親子はクッキーをくれそうにない青年から、新たに現れた二人に標的を変えたよ
うだ。
「はやくよこせ、クズ!」
「クジュ! クジュ!」
「ああん?」
 男が敵意をこめた視線で親子を射る。
「ゆっ! なんなのその目はぁ! れいむたちに逆らうの? 馬鹿なの? 捕まるの?」
「ゆぷぷぷ、しょんな目でみちゃって、にゃんにもできにゃいくせにぃ」
 れいむたちは全く恐れる様子は無い。それどころかあからさまに侮蔑し挑発する。
「れいむたちに痛いことしたら、けーむしょ行きだよ! れいむたちはほーりつに守られ
てるんだよ!」
「ゆぷぷぷ、けーむちょはゆっきゅちできにゃいんだよ!」
 男は舌打ちした。
「ったく、餡子脳のくせにこんな知恵は回りやがる」
 けーむしょ、ほーりつ、この二つの言葉を出せばクズ人間たちは何もできない。こうや
って悔しそうな顔をするだけだ。
「まあまあ、あと少しの辛抱さ」
 もう一人の男が、ぽんぽんと男の肩を叩いて宥めるように言った。それを聞くと男はニ
ヤリと笑った。
「せいぜい今のうちにいきがっておくんだな」
「おい、あんたも無駄なことは止めちまいな」
 そう言って男たちは去って行った。
「ゆゆーん、クズが逃げてくよ! ぶざまぶざま!」
「ぶじゃまぶじゃま、ゆゆーん」
「君たち……」
「ゆん! クッキーくれないクズに用は無いよ! あっち行こうね!」
「むのーなクジュがいるから、ここはゆっきゅちできにゃいよ!」
 青年は再度話しかけようとしたが、れいむ親子は彼を罵り、去っていってしまった。
 一瞬、追いかける素振りを見せた青年だったが、ため息をついて公園を出て行った。そ
の帰路に、道行く人を罵倒しているゆっくりまりさの親子を見かけ、一度立ち止まったが、
そのまま無視して歩いて行ってしまった。

「……やめるか」
「……」
 一時間後、とある一室で、一人の中年男と向かい合って座っている青年の姿があった。
「山田と中山も、やめると言ってきたよ」
「え……」
 青年は幾分戸惑ったような声を上げた。
「それじゃあ」
「……若いもんは、これで全員いなくなることになるな」
「……」
 正直、自分がやめてもまだあの二人がいるから……というのをやめる踏ん切りにしてい
たところがあった。
「おれ一人じゃ、活動しようがないな。本部にありのまま報告するしかないか」
 男の気落ちした様子に、ついつい「やっぱり続けます」と言いたくなってしまうが、そ
れは堪えた。
 男が、これから本部に行くと言って立ち上がったので青年も席を立った。
 部屋を出る時、壁に貼ってある写真が目に入った。A4サイズに引き伸ばされたそれに
は、十人の人間が映っている。
 みんなでやったお祝いの時に撮った写真だ。
 青年も、男も、山田や中山、その前にやめてしまった連中もみんながみんな満面の笑顔
をしていた。
 特徴的なのは、全員が手にゆっくりを抱いていることだ。青年はまりさ、男はありす、
他のみんなもそれぞれの飼いゆっくりと一緒にいた。
 後ろには、手作りの横断幕がかかっていた。
 祝! ゆっくり愛護法案成立!
 と、書かれたそれ。あの時はあんなにも誇らしく嬉しく思えたその文字が、今はいやに
両肩にのしかかっていた。
「やっぱり……」
 男も、同じ写真を見ていた。
「やり過ぎだったのかなあ」

 ゆっくり愛護法案は、なんとなく通ってしまった悪法である。
 と、反対派は口を極めて罵るのだが、なんとなく悪法が通ってしまうのは選挙民の怠慢
であろう。とはいうものの、選挙が近い過去にあったわけではなく、それを考慮して投票
したわけではないのだから、文句もつけたくなる。
 ゆっくり愛護法案は、議員の中にいた一部ゆっくり愛好家が起案し、これを愛護団体が
強烈に後押しし、それにマスコミが乗っかって、ゆっくり虐待はかわいそうだしいけない
ことだからそれを禁止する法案ならば通していいのではないか、という世論が作り出され、
そこへ少なくない人間の無関心が道を開いて成立した法案である。
 内容は厳しいものになっていて、飼いと野良とを問わずにゆっくりを虐待すれば罰金か
ら懲役刑までの罰則が科せられる。一部の愛好家が狂喜し、虐待家が憤怒し、大部分の人
間が「ゆっくり虐待なんかする気ないから自分には関係ない」と思っていたこの法律だが、
次第にどうも無関係とはいかないらしいと認識されてきた。
 法施行後、趣味でゆっくり虐待をしていた人間が何人か逮捕された。それらは何匹もの
ゆっくりを己の快楽のためにのみ殺害しており、人々はそれに納得した。
 きっかけは、道を塞いで食べ物を要求し、これを無視したところ罵倒してきたゆっくり
れいむを蹴飛ばした男が逮捕された事件である。
 蹴飛ばされたれいむが泣き喚き、折悪しくその側をゆっくり愛好家が通りかかっていた。
男は一番軽い罰金刑で済んだが、この一件によって人々は不安を持った。
 男は警察に対し「あれが虐待になるとは思わなかった」と言ったが、多くの人間が同じ
気持ちだった。邪魔なゆっくりを軽く蹴飛ばすぐらいのことは「虐待」の範疇に入らない
と思っていたのである。
 その上に、丁度その事件直後から、ゆっくりたちの横暴さが人々の口にのぼり始める。
あの法律で手を出されないことで増長したのでは? という意見は多く上がり、そしては
っきりと、自分たちに何かしたらほーりつというものによって人間はゆっくりできない目
に遭うのだと認識し、それを口に出す事例が現れてきた。どうやら愛好家がそれをゆっく
りたちに教えたのだが広まったらしい。
 そういったゆっくりの横暴ぶりを素人が撮影してネット上の動画投稿サイトにUPされ
始める。
 そしてまた一つの事件が起こる。
 二人の男が組んで、一人がゆっくりの相手をし、もう一人が隠れてそれを撮影する、と
いう方法で投稿するための動画を撮っていた。
 まりさとれいむの番に子まりさと子れいむの四匹構成というオーソドックスな野良一家
と遭遇し、案の定な横暴ぶりを撮影することができた。
「れいむたちはほーりつに守られてるんだよ!」
「はいはい、だから手は出さないよ」
 もうお決まりといっていいやり取りをしていると、突如親のまりさがごろんと転がった。
何事かと思っていると、凄まじい大声で泣き始めた。
「ゆわあああん、いだいぃぃぃぃ、この人間さんがいじめるうううう!」
 しばし呆然とそれを見ていた男と親れいむと子ゆっくりたちだったが、すぐに親れいむ
も転がった。
「ぎゃ、ぎゃくたいされでまずぅぅぅぅぅ! れいぶ、ぎゃくたいざれでまずぅぅぅ!」
 そう叫びながら、子ゆっくりに、
「おちびちゃんたちもするんだよ!」
 と言った。
 ころりころり、と子まりさと子れいむが転がった。
「ゆぴゃあああん、いぢゃいよぉぉぉぉ!」
「ぎゃくちゃいされちぇるよぉぉぉぉ!」
 思わぬ事態に隠し撮りしている男は、これはいいもんが撮れたとカメラを持っていない
方の手でガッツポーズをとっていた。わざわざこのような方法でゆっくりの横暴を撮ろう
というのだから、この男たちは元々ゆっくりのことは嫌いなのだ。この映像が衆目にさら
されたら、きっとゆっくり非難の声がさらに上がるに違いないとほくそ笑んだ。
「おいおい、何言ってるんだ。おれはなんにもしてないだろう」
 と、相手をしていた男が呆れたように言ったが、一家はお構いなしにウソ泣きを続けて
いる。
 そして、それだけでも男たちにとっては十分だったのに、そこへゆっくり愛好家が通り
かかったのである。
 泣き声を聞きつけてやってきた愛好家は、ゆっくりたちの言い分を全面的に信じて男を
罵った。男は自分は何もしていない、こいつらが勝手に転がってウソ泣きしてるんだ、と
主張したが、愛好家はゆっくりがそんなことするわけはないと言って譲らない。
「そばに交番があるから、行こう」
 と、愛好家は男の袖を掴んだ。
「まあまあ、実は……」
 と、男はそこで自分たちが野良ゆっくりを撮影していたことを明かした。もちろん理由
はゆっくりの可愛い姿を撮ろうとしていた、ということにして。
 そこで、隠れていた男が現れた。その場で映像を再生して見せると、愛好家はゆっくり
性善説と言うか、ゆっくりはそんな悪辣なことはしないと信じ込んでいるタイプだったら
しく、愕然として、次の瞬間には上手く行ったとニヤニヤしていたゆっくり一家を怒鳴り
つけていた。
「お前ら! なんてことをするんだ!」
「ゆっ!」
 一家はてっきり自分の味方だと思っていた愛好家の剣幕に驚いた。
「ま、まりさたちに何かしたらけーむしょなのぜ!」
「そうだよ、ほ、ほーりつがれいむたちを守ってるんだよ!」
 その言葉を聞いて、愛好家はさすがに熱が醒めたような放心した顔になっていた。
「じゃ、おれの疑いは晴れたでしょうから、行きますね」
 という男の言葉に、むしろゆっくりの嘘を鵜呑みにして警察に連れていこうとしたこと
を逆襲で責められるのではないかと危惧していた愛好家は救われたように頷いた。
 そして、男たちは喜び勇んでその動画をUPした。さすがに愛好家の顔は隠し声も変え
たが、ゆっくり一家の一連の行動と、ゆっくりの言い分だけを信じて激昂するゆっくり愛
好家の姿は大反響を巻き起こした。
 法案を通す際には、愛護団体等は、ゆっくりの知能の高さを保護すべき理由に挙げてい
たが、そうした形でそれを証明してしまったのである。むろん、それは保護すべき賢さで
はなく、唾棄すべき狡賢さとして受け止められた。
 さらに問題視されたのは、これはたまたま隠し撮りをしていたからよかったものの、そ
うでなかったらそのまま逮捕されてしまったのではないか、ということである。実際は、
警察が本格的に動いて調べれば、ゆっくり一家に傷一つ無いことが判明して無罪放免にな
った可能性は高いが、この件をテコに愛護法案の改定を望む人間は多く、彼らはこぞって、
こんな狡賢いゆっくりがいたらいつ犯罪者に仕立て上げられて人生を無茶苦茶にされるか
わかったものではない、と声高に主張した。
 そして、それに影響を受けて、他にも同じ手で隠し撮りをする人間が現れ、同じく悪質
な狂言をはかるゆっくりが撮影されたのである。
 このネタにマスコミが飛びついた。
 空気は完全に変わった。
 愛護法案を廃案にしろ、ゆっくりなど保護する必要は無いという声が上がり始めた。
 そこで、愛護団体最大手のゆっくりんピースが動いた。ゆっくりんピースは慈善団体と
いうのは名ばかりでゆっくり愛護で金を儲けているという批判はあったが、逆に言うとか
なり空気を読む団体である。世間様の風向きが危ういと見るや、妥協を目指し始める。
 先に法案を提出した議員はほぼ全てがゆっくりんピースに繋がっている。それらが、法
案に反対票を投じ、近々改定案を出すと言われている議員たちに接触した。この空気のま
までは一切のゆっくりへの保護を否定するような法案が提出され、空気を読んでかつて賛
成票を投じた連中が今度もまた同じことをしてそれが通りかねない。
 そこで、こちらから先手を打って、飼いゆっくりへの保護をむしろ厚くして、その代わ
りに野良ゆっくりへのそれを全廃するような改定案を持ち込んだのである。
 反対だった議員たちも、もしかしたら中には隠れ虐待好きがいたのかもしれないが、一
応表向きはゆっくり虐待自体を肯定していたわけではないのでそれに応じた。
 こうして改定案が出来上がった。
 最大のポイントはやはり飼いゆっくりの虐待への罰則が重くなる代わりに、飼い主が負
う責任も大きくなり、飼いゆっくりが他人へ迷惑をかけた場合の賠償等についても重くな
った。これに関しては、ゆっくりを飼っている者はゆっくり単独での外出はさせない者が
多く、それほどの抵抗は無かった。
 そして、野良ゆっくりに対する扱いは、完全に物扱いとなり、もはや生物ではなくなっ
たと言っていい。先の動画などを見て、ゆっくり性善説が崩されてしまった愛好家の中に
は飼いゆっくりはペットショップなどで売っている躾済みのもののことであり、その辺の
野良はもう別の生き物と考えるべきだ、という者も多くいたのである。

「むーしゃむーしゃ、しあわせぇ~」
「……」
「ゆ? お兄さん、どうしたんだぜ? ゆっくりしてないんだぜ?」
 飼っているまりさに言われて、青年は微笑んだ。
「ああ、ちょっとテレビに夢中になっててね」
 テレビには、明日、ゆっくり愛護法案の改定案の議決がなされるというニュースが映し
出されていた。おそらく、賛成多数で可決されるだろうという見通しも報じられている。
 ゆっくりんピースの代表者による記者会見の模様も流されていた。飼いゆっくりの保護
がさらに進んだことを自画自賛して終始していた。立場上、意地でも前進したということ
にしないといけないようだ。
 青年は、徒労感しか感じなかった。例のゆっくりの狂言の動画が広まってから、青年の
所属していたゆっくり愛護団体は、ゆっくりたちを説諭する方針をとった。最初こそ意気
込んだものの、全く聞き入れられない。やりがいもなにも感じることができないためか、
一人二人とやめていく者が出てきた。どうも皆、いくら言っても聞かないゆっくりに腹を
立ててきつく注意したところ、例のけーむしょだのほーりつだの言われて気持ちが一辺に
醒めてしまったらしい。
 ゆっくりはやはり賢い。
 それだけの知恵があるのだ。決して馬鹿ではない。
 先の愛護法案は、そのゆっくりたちに余計な知識を吹き込み、ゆっくりをそれほどに嫌
ってはいなかった人間たちに、嫌悪、憎悪を芽生えさせただけではないのか。
 そう思うと、やりきれなかった。
「ゆゆん、ごちそうさま! とってもゆっくりしたごはんだったんだぜ。お兄さん、まり
さはおさきにすーやすーやするんだぜ!」
「ああ、おやすみ」
「おやすみなさい、なんだぜ」
 まりさはぽよんぽよんと、部屋の隅に跳ねていき、敷かれたタオルの上に飛び乗り転が
った。
「ゆぴぃ~、ゆぴぃ~」
 すぐに、安らかな寝息を立て始める。
 もうやめよう。
 青年は徒労感を引きずったまま思った。
 ゆっくり愛護とか、そういうのはもういい。あのまりさを守りゆっくりさせることにの
み全力を注ごう。そう決意すると、ふっと両肩が軽くなったような気がした。

「ゆ、ゆぎゃああああああ!」
「いぢゃいぃぃぃぃぃ!」
 ゆっくりの声を耳にして青年は足早になる。早く通り過ぎてしまおうと思い足を急いで
運ぶが、ついつい気になって見てしまう。
「あ……」
 公園の中でいつか声をかけてきた二人の男がいて、一人が楽しそうに何かを蹴っていた。
 もしや……と思いよく見ると、やはりあの時のれいむの親子だ。
「おら、おら、おら、もう一度言ってみろ」
「ゆ、ゆげえ、れ、れ、れいぶは、ほーりづに守られでるんだよ!」
「はい、よく言えましたー」
 すぱーん、といい音を立てて、男の蹴りが親れいむの顔面にめり込んだ。
「だ、だれがだずげでええええ! このひど、ぎゃくだいしでるよ! れいぶ、ぎゃくだ
いざれでるよおおおお!」
「してるよ、それがどうした!」
 今度は髪の毛を掴んで持ち上げ、思い切り地面に叩き付けた。
「ゆべっ! ゆ゛ひぃぃぃぃ」
 もう一人の男はそれをニヤニヤと笑いながら眺めていたが、足元で、
「ゆぴぃ……いぢゃい、いぢゃいよぉ」
 子れいむの声が上がると、思い出したように踏みつけた。
「ゆ゛ぴっ! ぎゅ、ぎゅる、じぃぃぃ」
「おし、そろそろ終わりにしてやんべ」
 男が子れいむを軽く蹴った。既に体が崩れた子れいむはころころ転がっていくというわ
けにはいかず、ずずず、と地面の上を滑っていった。
「よし……んー」
 男は少し考えてから、子れいむを摘み上げた。親れいむの口を開けてその前歯の間に子
れいむを挟む。
 親れいむは力を抜いているためにその歯が子れいむにめり込んだ。
「いぢゃぃ!」
「ゆ゛ゆ゛っ!」
 子供の悲鳴に親れいむが口を開けようとした瞬間、男の足が降って来て親れいむの頭を
踏みつけた。
 がちん、と上下の前歯が激突し、
「ゆ゛っ!」
 と呻いて、子れいむは絶命した。
「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛、お、お、おぢびぢゃんがぁぁぁぁ!」
「お前も死ね」
「や、やべでえ、じにだくない、れいぶ、じにたぐないよぉぉぉ」
「知るか」
 思い切り踏み潰され、親れいむの右の眼球が飛び出した。
「いだいぃぃぃ、れ、れ、れいぶはほーりづにまもられ、ゆべ!」
 右目が飛び出したのを見た男は、今度は狙って左目の上に足を落とした。
「ほーりづ、ほーりづ、ほーりづぅぅぅぅ」
「死ね!」
 ぱん、と踏み潰されて親れいむもまた子の後を追った。
「ぜってー実は法律がなんなのかわかってねえって、この餡子脳」
「ははは、だろうな。悪知恵ばっかありやがるくせによ」
 男たちが満ち足りた、すっきりした笑顔でそう言った時には、青年は走り出していた。
 慣れなければいけない。これからしばらく、表を歩けばいくらでも今のような光景には
出会う。慣れなければいけない。早く、早く帰ろう。まりさが待っている。かわいいかわ
いいまりさが待っている。

 男が歩いていた。
 その前に、ゆっくりまりさが立ちはだかる。
「おい、あまあまをよこすんだぜ!」
「……」
「ゆゆぅ! まりささまをシカトとはいいどきょーなんだぜ! ゆっくりできなく」
 男はまりさを蹴った。
 まりさは飛んで電信柱に激突する。
「ゆ゛、ゆ゛ああああああん、いだいんだぜええええ! ぎゃく、ぎゃく、ぎゃくだいだ
ぜええええ! あいつがまりざをぎゃくたいしたんだぜえええええ!」
 人通りが全く無いわけではなかったが、通りがかる人はほとんどまりさに意識を向ける
ことなく去っていく。
「ふん」
 男は、満足した顔で歩いていった。彼は以前、ゆっくりを蹴飛ばしたことで罰金刑を受
けたことがあった。
「いだいんだぜえええええ! ほーりつ、ほーりつなんだぜえええ!」
 男はあくまでも邪魔するゆっくりは軽く蹴る主義で、罰金刑以後もそれを変えていなか
ったので実際はまりさの受けたダメージはそれほどでもなく、とっくに痛みは消えている
のだが、とにかくこういう時にはひたすら泣き喚いていれば自分にひどいことをした人間
はゆっくりできなくなると思っていた。
 そうやって大声で騒いでいるものだから、通りかかった高校生に目をつけられてしまっ
た。
「うるっせえなあ、ゆっくりか」
「いだいんだぜえええ! ほーりづ、ほーりづ! はやくほーりづはまりささまをだずげ
るんだぜええええ!」
「せい」
 高校生が遠慮なしにまりさを蹴飛ばした。さっきの男と違ってほぼ全力である。
「い、い、いだいぃぃぃぃぃ、ゆっぐりでぎないぃぃぃ、ほーりづはなにじでるんだぜえ
ええええ!」
「その辺歩いてるもんじゃねえわな」
 また蹴る。高校生はこのまま学校まで暇潰しにまりさを蹴っていくことにした。

「ゆ~ゆ~ゆ~っ」
「ゆぅ、おかあしゃんのおうたはゆっきゅちできりゅよ~」
「ゆ~ゆ~ゆ~っ、おかあしゃんみちゃいにうまくいかにゃいよ、れいみゅもはやくおう
たがうまくなりちゃいよ」
 とある家の庭の片隅の犬小屋に、ゆっくり一家が住み着いていた。この犬小屋の主は何
年も前に死んでいて、家だけが残っていたのをおうち宣言したのである。
 すぐ横の大きなおうちには人間さんが住んでいるようだったが、特に何も言ってこない
し、おうちのそばには美味しいお花がたくさん生えているし、以前など番のまりさが美味
しいお菓子を狩ってきたことがあった。
 ここは最高のゆっくりプレイスだった。
「ゆゆぅ、おとうしゃん、まだかにゃ?」
「ゆゆん、きょうのごはんはにゃんだろーね」
「ゆっゆっ、もう少し待ってようね。まりさはかりのめーじんだからね」
 今は二人の子供とともに、番のまりさが狩りから帰ってくるのを待っていた。
「ゆ゛……ゆ゛……」
「ゆゆ?」
 表からまりさの声が聞こえてきた。
「おとうしゃんだ!」
「ゆわーい、おきゃえりなしゃい!」
 子供たちが喜んで出迎える。親れいむは、ふと不安を覚えた。なんだかまりさの声がと
てもゆっくりしていないように思えたのだ。
「ゆぴゃああああ」
「にゃ、にゃにこりぇぇぇ!」
 すぐに表から子供たちの悲鳴が聞こえてきた。親れいむは慌てて自分も外に出た。
「ゆ゛……にげ……るんだ……ぜ、はやぐ……」
 そこにはズタボロになったまりさがいた。体のあちこちが破れ、帽子もボロボロ。ちら
りとしか見えなかったが、どうやら歯も何本か失っているようだ。
「ゆゆっ! どうしたのまりさ! ゆっくりしてね!」
「おとうじゃん、じっがりちでえええええ」
「ぺーりょぺーりょするからげんきになっちぇぇぇ」
 健気に親まりさを舐めようとした子まりさが、まさにその舌を掴まれて引っ張り上げら
れる。
「ゆ゛ぴ! ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛っ」
 子まりさの舌を掴んだのは、人間の男であった。
「ゆ! 人間さん! 何してるの!」
「い、いぢゃいぃぃぃ」
「ベロさんを引っ張らないでね! おちびちゃんがいたがってるよ!」
「に、にげるんだ、ぜ、はやぐぅぅぅ」
 まりさが声を限りに叫んだ。
「そ、その、にんげん、ざんに、まりざはやられだんだぜえええ」
「ゆゆゆっ!」
 その時、男が子まりさの舌を離した。
「ゆっ、おしょらを」
 お決まりの脳天気な台詞を吐きつつ落下する子まりさが地面に接触する直前、男が右足
を振って子まりさを蹴り飛ばした。
 小さな子まりさは物凄い勢いで飛んで一家のおうちの壁に激突して弾けた。餡子が飛び
散り、帽子がぽろりと落ちる。体の大部分はひらべったくなって壁に張り付いている。一
目で死んだとわかる状態であった。
「ゆ゛わあああああ、おちびぢゃんがぁ!」
「ゆべ!」
 親れいむが子まりさの亡骸を見て叫んだ時、後ろでまりさの声がした。
「まり……ゆぎゃあああああ!」
 まりさは、人間に踏み潰されて死んでいた。
「ゆ゛、ゆ゛、ゆ゛、どぼじで、どぼじでごんなごとずるのぉぉぉぉ」
「れいびゅだち、にゃんにもわりゅいごとじでにゃいのにぃぃぃぃ」
「うっせえ、クソ饅頭ども」
 男は初めて口を開いた。侮蔑の響きを隠さぬ声であった。
「今まで散々やってくれたな、この時を待っていたぜ」
 男はこの家の者である。少し前から以前飼っていた犬の犬小屋にゆっくり一家が住み着
いた。なんとなく、犬を偲んで置きっぱなしにしてあった犬小屋である。本来ゆっくりな
どに住まわせてやるつもりはなく、すぐにでも叩き出したいところだが、愛護法があるた
めにそれができなかった。
 野良ゆっくりが悪知恵をつけて、手を出そうとすればすぐに法を盾に騒ぎ出すことを知
っていた男は、ここでじっと耐えた。
 このれいむたちの一家は野良としてはかなり善良で、人間とことを構えることを好まな
かったために、言葉で恫喝すればこのゆっくりプレイスを惜しみつつも出て行ったかもし
れない。しかし、男はそんな可能性は頭から考えずに、ひたすら時を待った。既に当時、
こんな法案はおかしい、行き過ぎだ、との声が上がっていたのである。
 そして、とうとう馬鹿げた法律は改められ、野良ゆっくりを駆除するのになんの遠慮も
いらなくなった。
 花壇の花を食い荒らし、一度など家に侵入してお菓子を盗んでいったゲスゆっくりだ。
殺すのになんの躊躇いもなかった。
「おらああああ、制裁だあああああ!」
「ゆ゛びゃあああああん」
「ゆ゛ぴゃあああああん」
 親子の恐怖に満ちた声が響き、その後に何度も何度も執拗に打撃音が響き、その合間合
間に悲鳴が上がり、そしてそれらの音声に気を止める者はいなかった。人間たちも感覚が
麻痺していた。ゆっくりの悲鳴を聞けば、ああ、どこぞのゲスが制裁されているのだろう
と思って聞き流すのが当たり前になっていた。

「それそれ」
「ほい」
「おっと、よし」
「あ、死んだかな?」
「んー、ああ、死んだな」
 二人の男が、空き地で一匹のゆっくりありすをサッカーボールのように蹴り合って遊ん
でいた。
「じゃ、次は……」
「や、やめちぇぇぇ、ありしゅちにちゃくにゃいぃぃぃ」
「んー、小さすぎるな」
 摘み上げた子ありすを見て、男は呟くと、なんでもないことのように地面に叩きつけて
殺した。本当に何をしたということもなく、虫を殺した程度の感情も無い。
「おいおい、でかいのがいたぜ」
「ゆ゛わあああ、やべでえ、ゆるじでぐださいいいい」
 男が成体サイズのれいむが物陰に隠れているのを見つけて引っ張り出してきた。
「ああん? なんだよ、随分下手じゃねーの」
「れいむたちはほーりつにまもられてるんだよ! 馬鹿なの? 捕まるの? って言わな
いの? ねえ、言えば助かるかもしれないよ、言わないの?」
「ご、ごべんなざいぃぃぃぃ、もう、もう人間ざんに生意気いいまぜん、ゆるじでぐだざ
いぃぃぃぃ」
「ふーん、まあ賢い方だね。ちゃんと立場が変わったのはわかってるんだね」
「ははは、そらまあ目の前でこれだけ殺されるの見たらなあ?」
 空き地には、ありすと子ありすだけでなく、何匹ものゆっくりの死体があった。全て男
たちがなぶり殺したものだ。みんながみんな、けーむしょやらほーりつやらを伝家の宝刀
と信じて振るったが、男たちは全く相手にしなかった。さすがにそれを見続けて、れいむ
もそれが全く人間に効かなくなってしまったことを理解したのだろう。
「ど、どぼじでごんなごとずるのぉぉぉぉ」
「そら、お前らが生物未満のゴミだからさ」
「これ見てみ」
 男が、カメラを取り出して操作すると、モニターに映像が映し出された。そこでは、男
の一人がゆっくり一家と問答し、ゆっくりたちが何もされていないのに勝手に転んで泣き
叫ぶ姿が映されていた。そう、この二人は例の狂言をするゆっくりたちを撮影した二人組
みだったのである。
「こういうきったねえことするからみんなに嫌われて、殺されてもしょうがねえ、ってこ
とになっちゃったんだよ」
「まあ、こいつらだけのせいでもねえけど、恨むならこいつらを恨みな」
「ゆ゛あああああああ!」
「うわ、なんだ」
「びっくりするだろうが」
「れ、れいぶとまりざぁぁぁぁ!」
 モニタの映像を食い入るように見ながら、れいむが叫ぶ。
「……おい、もしかして、こいつら知ってるのか?」
 人間にとってはどれも同じに見えるが、ゆっくり同士はお飾りや微かな顔の特徴の違い
を識別することができる。
「公園に住んでるれいぶとまりざだよ!」
「……ほう、おい、案内しろ」
 男たちは、れいむに導かれて近くの公園にやってきた。一挙に風当たりが強くなった野
良ゆっくりたちだが、それでも人間がみんながみんな虐待に走ったわけではないし、虐待
をする人間の中にはもちろんそれまで逼塞を余儀なくされてきた根っからの虐待好きもい
たが、大抵は愛護法のおかげでゆっくりに嫌な目に遭わされたことへの腹いせでやってい
る人間だ。それらは、一応、おとなしくしているゆっくりにはそう無闇に手は出さない。
 この公園には、そういうゆっくりたちが流れて来ているらしかった。
 れいむが案内したのは、その中にある段ボールハウスだった。ここに、あの一家が住ん
でいるらしい。
「れいぶぅぅぅぅ、まりざぁぁぁぁ、ででごーい!」
 れいむが怒りの形相で呼ばわると、中から親まりさと親れいむ、子まりさと子れいむの
四匹家族が出てきた。
「ゆゆーん、うるさいよれいむ、いったいなんなの?」
「れいむたち、おひるねして」
「ゆぴゃ!」
「ゆひっ!」
 そこで二人の人間がいることに気付いた一家は硬直する。
「むきゅ……どうしたの? ……れいむ、その人間さんたちは?」
 声を聞きつけて、周りのゆっくりたちが集まってくる。
「ゆゆぅ! 実はね!」
 と、れいむは一部始終を説明した。れいむに頼まれて、男はさっきの映像を他のゆっく
りたちにも見せてやった。
「むきゅきゅきゅきゅ!」
 ぱちゅりーが叫んだ。
「こ、こんなことしてたら人間さんたちが怒るのは当たり前よ! む、むきゅ、ゆっくり
がゆっくりできなくなったのは、こいつらのせいだわ!」
 ぱちゅりー種というのは、その賢さを一目置かれている場合が多い。このぱちゅりーも
そうだったようで、他のゆっくりたちもぱちゅりーの言葉を聞いて、一家を見る目が変わ
った。
「な、な、なんなのぜ? ゆっくりできないのぜ?」
「ゆ、ゆ、み、みんな、ゆっくりしてないよ? ゆっくりしようよ」
「ゆ、にゃ、にゃんかみんにゃがきょわいよぉ~」
「ゆっ、こ、こっちこにゃいでにぇ! こにゃいでぇぇぇ!」
 じりじりとゆっくりたちが一家に寄っていく。
「ゆっ……ゆわあ!」
 親まりさが後ろを見ると、何時の間にか、通常種の中では足の速いちぇん種が回り込ん
でいた。
「ゆゆゆゆゆっ! おまえらのせいだぁぁぁぁぁ!」
「ゆっぐり、じねええええええ!」
「ゆっくりやっぢゃええええええ!」
「ゆぎゃああああ、や、やべるんだぜええええ! い、いだいぃぃぃ!」
「れ、れいぶだぢわるいごどじでないよぉぉぉぉ!」
「た、たじゅけで……たじゅげで、ゆるじちぇ……」
「お、おぼうちとらにゃいで! ゆぴ、いぢゃい!」
 一家への制裁が始まった。
 男たちはそれをニヤニヤしながら見ている。
「どーする、こいつら?」
「まあ、どうも近隣住民にはそんなに嫌われてないっぽいし、念のために止めとこ」
「優しいねえ、おれたち……でも、おれたちより優しくないのはたくさんいるからなあ」
「そこまではおれたちの知ったこっちゃないさ。ま、いい世の中になったもんだ」
 くくく、と笑い合った男たちが視線を転じると、一家の処刑が終わるところだった。既
に子ゆっくりたちは死に、まりさとれいむは皮をはがれて転がされていた。
「ゆん、そこでゆっくりしんでいってね!」
「まったく、こいつらみたいなゲスのせいでこっちはいい迷惑だよ!」
「ゆっくちちね、ばきゃ!」
 ゆっくりたちが離れていく。
「ゆ……ゆ゛……」
「ゆゆ……ゆ゛っ……」
 まだ処刑は終わっていなかったようだ。このままこの二匹は死ぬまで放置されるらしい。
皮の無い体は、風が吹いても痛むことだろう。
「さて、帰るか」
「おう、じゃあ、ゆっくり死んでいってね!」

 これ以降、野良ゆっくりに対する悪印象は定着し、これを殺すことに抵抗を覚えない人
間がどんどん増えていく。
 一方で飼いゆっくりは法律とゆっくりんピースなどの愛護団体に守られてますますゆっ
くりしていき、ただでさえ存在した両者の格差は広がる一方になったのである。

 そして、あのまりさを飼っている青年は、まりさに惜しみない愛情を注ぎつつ、野良ゆ
っくりの悲鳴にも、野良ゆっくりの苦痛に歪む表情にも、助けを求める野良ゆっくりの懇
願を無視するのにも、慣れた。

                                    終わり


 ゆっ!(挨拶)
 またまた好きなシチュ、人間の都合で上げて落とされるゆっくりの話になりました。



 書いたのは、はがくれみりゃの人


今まで書いたもの
2704~2708 死ぬことと見つけたり
2727 人間様の都合
2853・2854 捕食種まりさ
2908 信仰は儚きゆっくりのために
2942~2944 ぎゃくたいプレイス
2965 ゲロまりさ
3011~3012 水上の救出劇
未収録(たぶん3087~9ぐらいになるはず) 黄金の栄光


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最終更新:2021年02月18日 16:49
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