ゆっくりいじめ系3090 黄金の栄光4


箱の中。ゆっくり一家は揺られながら、少しの不安を顔にあらわしつつ、寄り添ってい
た。全く新しい場所で新しい飼い主さんとの生活に不安を覚えるのも当然である。
「ゆゆっ、やさしそうなお兄さんだったね」
 しかし、それも少しで済んでいるのは、迎えに来た青年が見るからに温和で優しそうだ
ったからだ。
「お兄さんの家族もやさしいんだろうね!」
「ゆゆーん、れいみゅ、みんにゃをゆっきゅちさせてあげりゅんだ」
「ゆゆん、そうなんだぜ、飼い主さんをゆっくりさせればまりさたちもゆっくりさせても
らえるんだぜ」
 揺れる箱の中、親まりさは改めて子ゆっくりたちに教え聞かせる。
「人間さんは色々な人がいて、ゆっくりできることも色々なんだぜ。どうしても人間さん
がゆっくりできてなかったら素直に聞くんだぜ、どうしたらゆっくりできるのか。……で
も、それを当たり前に思ったら駄目なんだぜ。初めて見る人には、今までお父さんとお母
さんが教えたゆっくりでいくんだぜ」
 懇々と説く親まりさの顔は真剣だ。
「飼い主さんをゆっくりさせるんだぜ、そうすればゆっくりできるんだぜ」
 親まりさがそう言った時、揺れが止まった。何か安定したものの上に箱が置かれたらし
かった。
 暗かった箱の中に光が差す。蓋が開かれたのだ。
「うん、確かに」
 見たことにない男が、箱の中を覗き込んでいた。
「それじゃ、まいど」
 これは先ほどの青年の声だ。
「よし、出ろ」
 乱暴に、男が箱を横倒しにしたので、ゆっくり一家はころころと転がり出てしまった。
咄嗟に親まりさが子まりさを、親れいむが子れいむを庇っているのはさすがである。
 無造作に男の手が伸びてきて、両親のお飾りについている金バッチを確認する。
「ふんふん、ちゃんとした金バッチのようだな」
 さらに男は箱と一緒に青年が持ってきた封筒に入っていた金バッチ試験の合格証書を見
て笑いながら頷いた。
「ゆゆぅ……」
 子ゆっくりたちが怯えている。さっきの優しそうな青年がいなくなって、なんだかゆっ
くりできない人間がいる。笑っているが、全然ゆっくりできない笑いだ。
「ゆ、ゆっくりしていってね!」
 親まりさが子供たちの怯えを見て取って、その前に出て言った。
「新しい飼い主さん、ゆっくりしていってね!」
 親れいむもそれに倣う。しっかりと位置は男と子ゆっくりの間だ。
「……」
 男は、じろりと一家を見る。
「まりさたち、飼い主さんをゆっくりさせてあげたいから、なんでも言ってね」
「れいむたち、がんばるよ! ゆっくりしていってね!」
 にこやかに、ゆっくりした笑顔で話しかける。
「……」
 が、無視。相変わらず、じろじろと一家を見ている。
「ゆぅ……飼い主さん、まりさたちに悪いところがあったら言ってね」
「れ、れいむたち、がんばってなおすよ」
 男の雰囲気に気圧されつつも健気に言った親れいむを衝撃が襲ったのは次の瞬間だった。
「ゆびぃぃぃぃ!」
 一家は男の腰の高さぐらいのテーブルの上に乗っていたが、親れいむがそこから転がり
落ちていく。
「ゆっ! ゆっ! ゆっ!」
 親まりさは、何が起きたのかわからずに戸惑う。
「ゆべっ!」
 だが、その親まりさも衝撃を受けて宙を舞っていた。その時ようやく衝撃の正体がわか
った。なんのことはない、男が殴ったのだ。
「ゆわぁぁぁぁん! にゃ、にゃんでぇぇぇぇ!」
「ゆぴゃあああん、きょわいよぉぉぉぉ!」
 しっかり躾けられてはいても、ここまであからさまな暴力の恐怖を身近に感じたことは
ない子ゆっくりたちは、すっかり混乱して泣き叫んでいる。
「……」
 男は依然として何も言わない。無言のまま握り拳を子ゆっくりの前へ持ってくる。
「ゆ、ゆぅ」
「や、やめちぇね、いちゃいことしにゃいで、ゆぴ!」
 懇願した子まりさを男の中指が弾いた。それだけの衝撃でも小さな子まりさが後ろに転
がって激痛に泣き喚くには十分であった。
「いぢゃいぃぃぃぃ、おどうじゃぁぁぁん、おがあじゃぁぁぁん!」
「ゆ、まりしゃ! や、やめちぇあげちぇね、いたがっちぇ、ゆぴ!」
 制止しようとした子れいむだが、次の標的はその子れいむだった。同じく親指に引っ掛
けて弾き出された中指が襲ってきて子れいむを叩く。
「いっぢゃぃぃぃぃぃ!」
「ゆゆ、やめてあげてね、おちびちゃんたち痛がってるよ!」
「やめるんだぜ、まりさたちが悪いごどしたならあやばるんだぜ、だからおちびには痛い
ことしないで欲しいんだぜ」
 親れいむと親まりさが、ぽよんぽよんと戻ってきた。
「……」
 男は無言。そして、蹴り。
 親れいむと、そして親まりさを、立て続けに蹴り飛ばし、二匹は壁に激突する。
「ゆぴゃあああああ」
「やめぢぇぇぇぇ!」
 それを見て、子ゆっくりはさらに泣き喚く。
「……」
 やはり男は無言。
 そして子ゆっくりにデコピン、デコピン、デコピン。
 ぴし。
「いぢゃぃぃぃ、やめぢぇぇぇ!」
 ぴし。
「ゆびっ、ゆるじでぐだちゃぃぃぃ」
 ぴし。
「まりしゃ、にゃんにもわりゅいごとじでにゃいよぉぉぉぉぉ」
 ぴし。
「れいびゅもだよぉ、かいぬししゃん、ごめんなちゃい、ゆるちちぇくだしゃいいい」
 ぴし。
「にゃ、にゃんで、にゃんでおこっちぇるのぉぉぉ! まりしゃたち、かいぬししゃんを
ゆっきゅちさせちぇあげちゃいのにぃぃぃぃ」
 ぴし。
「にゃんでもいってくだちゃいぃぃぃ、ゆっきゅちさせまちゅぅぅぅ」
 そうしているうちに両親が戻ってくる。
「おちびぢゃあああ、ゆべ!
「ご、ごめんなさいなんだぜ、あやばるからゆるじでなんだぜ、ゆべ!」
 言ってることなんかほとんど聞かずに思い切り蹴る。
 一家は痛みに涙を流し、大切な家族が傷付くのに涙を流し、自分たちの言葉が聞かれな
いのに涙を流した。
 なんだかとてつもなくゆっくりしていない人間だ。どうすればいいのか。どうすればゆ
っくりしてくれるのか。
 何度も何度も言った。どうしたらゆっくりできるかを教えてくれ。その通りにするから
と、何度も何度も、何度も何度も。その度に殴られ蹴られ、弾かれながら、何度も何度も
言った。
「っと……」
 初めて、男が感情を顔に現し、声を出した。
「ゆゆぅぅぅ、おそらを、ゆぴ!」
 強く弾いたせいで、子まりさがテーブルから落ちてしまったのだ。床に激突した際に、
子まりさは餡子を吐いた。
「ゆ゛あ、あ、あ、あ、あ」
 親れいむは、それまでは高いテーブルの上で姿が見えず、聞こえる声でゆっくりしてい
ない目に合っているだろうことはわかっていたが、いざ目の前に傷付き瀕死状態になって
いる子まりさを見せ付けられて、感情が一気に弾けた。
 金バッチ? 人間さんをゆっくりさせる? クソ喰らえだ。
 このままでは子まりさが死んでしまう。
「ゆぅ……いぢゃいこどするにんげんしゃんは……ゆっぎゅち、ちね」
 子まりさは息も絶え絶えになりつつ、はっきりと言った。それを聞いて、親れいむの感
情が遂に一線を超えた。線の先には怒り、ただ怒りあるのみ。
 ゆっくりしね。
 知識としては知っていても、そんな言葉を口にする子じゃなかった。とってもゆっくり
したおちびのまりさ、新しい飼い主さんをゆっくりさせてあげるんだと張り切っていた。
そんないい子に、そんなことを言わせた奴がいる。あの男だ。許せない。
「やべろぉぉぉぉぉ! おちびぢゃんを殺そうとずるにんげんはクズだよっ! ゆっくり
しねえええええ!」
 親れいむが男に飛び掛る。男はしっかりと親れいむを受け止めて、後頭部を掴む。指が
体の内部にめり込むほどに力を入れる。
「ゆびぃぃぃぃ!」
 親れいむの悲鳴が上がる。男は微かに呼吸してなんとか命を繋いでいる子まりさの側ま
で行くとしゃがみ込む。
「ゆ、ゆっぎゅち、ちね」
「ゆっぐりじねえええええ!」
「死ぬのはお前らだ。ゲス」
 男は、親れいむを掴んでいた手を振り上げて、思い切り下ろして親れいむの底部を床に
叩き付けた。ぶち、と親れいむの底部に嫌ぁな感触。
 そこには……そこには確か……。
「も……ぢょ……ゆ……ぎゅ……ちだが……ちゃ」
 もっちょゆっきゅちちたかった、と言いたかったのだろう。子まりさは切れ切れの断末
魔を残して潰されて死んだ。愛する母親を凶器にして。
「次はお前だ」
 男が露骨な悪意を顔中に浮き立たせて親れいむをそのまま幾度も子まりさの死骸に叩き
つける。
「やべでえええ! おちびぢゃんがあああああ!」
「おらっ、おらっ!」
「や、やべろぉぉぉぉ、このクズぅぅぅぅぅ!」
 子供の死、迫る愛する伴侶の死。それらを目の当たりにして、とうとう親まりさもキレ
た。二度と口にすまいと思った言葉が溢れ出る。
「クズ! クズ人間! ゆっぐりじねえええええ!」
「おらあっ!」
 渾身の力で跳ねた親まりさだったが、男に蹴り飛ばされてしまう。
「こっちにもゲスがいたか、制裁してやる」
 男が近付いてくる。
 ゲス。
 ゲスか。
 だが、それならば、男はなんなのだ。なんにも悪いことをしていない子まりさを惨たら
しく殺して、それはゲスではないのか。自分たちは何度も聞いたではないか、悪い所があ
ったら言ってくれと、謝ると、悪い所は直すと、答えはどこにあるのだ。
 答え――。
 飼い主さんをゆっくりさせるべし、と教えられて育った。
 最初の飼い主さんを、ゆっくりさせてあげたつもりだ。しかし、何時の間にか自分たち
はゲスになってしまっていて、最初の飼い主さん以外の人間をとってもゆっくりできなく
してしまった。
 だから、次の飼い主さんには捨てられた。でも、その次の飼い主さんのところで反省し
て、子供たちを失い、再び金バッチの輝きを取り戻し、新しい子供を作って、そして新し
い飼い主さんのところへ来た。
 自分もれいむも子供たちも、新しい飼い主さんをゆっくりさせてあげたいと願っていた。
自分たちはバッチの輝きに負けないゆっくりしたゆっくりだ。きっと飼い主さんもゆっく
りしてくれる。もしもゆっくりしてくれなかったら、どうしたらゆっくりできるのかを聞
いて、飼い主さんがゆっくりできるように頑張ろう。みんなでそう誓っていた。
 そして、そこで与えられたのは無言の暴力だ。理由すら教えてもらえない。ただひたす
ら暴力を振るわれる。
 答えは、どこだ。
 一体、どうすればよかったのだ。どうすれば子まりさは死なずに済んだのだ。
「どうじろっでいうんだぜえええ! どうじたらよがったんだぜええええ!」
 叫んだまりさの顔に、餡子がついた。
 目の前で、れいむが死んでいた。男が叩き付けた後に踏み潰したのだ。
「れいぶぅぅぅぅぅ! じ、じねえええ! ゆっぐりじねええええ!」
 まりさは必死に男の足に体当たりする。ぽむ、ぽむ、ぽむ。
「やめぢぇぇぇ、みんにゃ、ゆっぎゅぢぢねとか言っちゃらめぇぇぇ! ゆっぎゅぢでき
にゃいよぉぉぉぉ!」
 この期に及んで、テーブルの上の子れいむはそんなことを言っていた。
 男はまりさを踏み潰してからその子れいむの声に気付き、少し驚いた顔をしてから、お
もむろに拍手し出した。
「はい、おめでとー、れいむは合格だよっ!」
「ゆ? ゆ゛ぅ?」
 何が何やらわからぬ子れいむに男の手が伸びる。
「ゆぴっ!」
 それを恐れて縮こまる子れいむを男は優しく掌に乗せた。
「もう怖がらないでいいよー」
「ゆ? ゆゆ?」
「に、にんげん、ざん」
「っと、生きてたのか」
 足元の親まりさが声を出したのに、てっきり死んだと思っていた男は驚いた。
「ど、どういうごとなんだぜ……」
「……だから、今のは試験だったんだよ!」
「し……しげ、ん?」
「うん、君たちは一度ゲスになったんだろ。だから、本当に更生したのか試験したのさ。
……残念ながら、君も大きなれいむも小さなまりさも、ゆっくりしね、なんてゲスの本性
を出したから不合格になっちゃったけどね」
「ゆ゛……ゆ゛ゆ゛……」
 答えが、あった。
 殴られても蹴られても、耐えていれば、そこに答えがあったのだ。
「れ……れいぶは……そのおちびは……ごうかく、なんだぜ?」
「うん、この子はゲスじゃないみたいだからゆっくりさせてあげるさ。もちろん、代わり
に僕もゆっくりさせてもらうけどね!」
「ゆ゛……にん、げん、ざん、れいぶと……さいごに……話、じだいんだ、ぜ」
「……いいだろう。ほら」
 男が、死に行くまりさの前に子れいむを置いた。指で弾かれて傷付いているが、命に別
状は無いだろうその姿を見て、まりさは安堵のため息を漏らす。
「お、おぢょーじゃぁぁぁん、ちんじゃやじゃああああ」
「れ、れいぶ、飼い主ざんの言うごど聞いでゆっぐりさぜてあげるんだぜ、ぞうすれば、
れいぶもゆっぐりさぜで、もらえるん、だぜ」
「ゆ、ゆ、ゆ、ゆっぎゅちりがいしぢゃよ!」
「ゆ゛ゆ゛ーん、いい子なんだぜ、さすが、まりざとれいぶの、おぢび、だ、ぜ」
「お、おぢょーじゃん、おぢょーじゃぁぁぁぁぁぁん!」
 子れいむがすがり付いて泣き叫ぶ。もう、まりさは何も言わない。
 みんな、苦しんで死んだ。
 れみりゃに食べられた子供たち。
 母親を凶器に殺された子供。
 子供の死を見せ付けられ踏み潰された番のれいむ。
 あの最後に残った子れいむだけは、あの子れいむだけは、ゆっくりとした笑顔で死ねる
ようにまりさは願った。
 まりさは、死んだ。
 残された子れいむが答えを見付けて、これからはゆっくりできるであろうと信じて死ん
だ。
 一家が、この部屋に入った瞬間、いや、一昨日ここに引き取られることが決まった瞬間
に、もう正しい答えなど無かったのだということを知らぬままに死んだのは、幸せであっ
た、と言い切れるものではないが、それでも、知ってから死ぬよりかは遙かにマシであっ
たことは間違いない。

「それ、それ!」
 ぴし、ぴし。
 男の声に合わせるように音が響く。
「ゆぴっ、ゆぎっ!」
 音はそれだけではない、搾り出すような子れいむの悲鳴も同時に上がっていた。
 男は手に持ったハエタタキを振るっていた。
 ハエタタキは、簡単な力加減でゆっくりに致命傷を与えずに痛みを与え続けることがで
きることから好んで虐待に使われる道具だ。
「おら、なんだその顔は! ゆっくりできないなあ、あー、ゆっくりできない!」
「ゆっ! ゆ、ゆ、ゆへっ」
 男が聞こえよがしにゆっくりできないと言うと、子れいむは慌てて笑顔になった。
「それ!」
 ぴし。
「ゆ、ゆへっ!」
 叩かれる。しかし笑顔は変わらない。
「おら、マゾれいむ。これがいいんだろ。え、いいんだろぉ?」
「ゆ、ゆっきゅちきもちいいれしゅぅぅぅぅ!」
 子れいむは、笑顔のままで叫ぶ。ぴし、ぴし、と叩かれながら。
「ほーら、感謝の気持ちはあ?」
「ゆっ……きもちよくさせちぇくれちぇありがちょうごじゃいましゅぅぅぅぅ!」
 あれから子れいむを待っていたのは地獄のような日々であった。
 もうあんな痛いことはされない、と安心していた子れいむに浴びせられたのは冷徹な男
の声であった。
「おれはゆっくりを叩くとゆっくりできるんだ。ゆっくりさせてくれるんだよね?」
 言葉遣いも変わっていて、一人称も僕からおれになっていた。
「もちろん、その代わりにゆっくりさせてやるさ」
 実際、その言葉に嘘は無く、虐待されない時はここに来る時に入っていた箱をおうちと
して与えられ、食事もゆっくりフードやお菓子を貰った。
 だが、男の要求はエスカレートし、遂には、
「れいむが痛そうにしてるとゆっくりできないなあ! もっと笑ってよ!」
 と、無茶なことを言い出した。
「よーし、叩かれても笑っていられるように特訓だ!」
 叩かれた。笑え、笑え、と言われながら。
 やがて、子れいむの皮が叩かれ過ぎて少し分厚くなってきた。段々と痛みに耐えて笑う
ことができるようになった。
「おおっと、れいむはマゾだったんだな! 叩かれて笑ってるなんて、すげえ変態だ!」
 男は、そうするように強要しておいてそう決め付けた。
 れいむは、叩かれ、笑わされ、叩かれて気持ちいいと言わされ、気持ちいいことをして
貰ったお礼を言わされた。
 ある時、男の知人が遊びに来て、れいむを見物していった。
「うわ、すげえ、叩かれながら笑ってるぜ!」
「ドM過ぎるにも程がある!」
「叩かれてお礼言ってるぜ、このド変態!」
「おい、これ撮ってUPしたら面白いんじゃね?」
 一人がしたその提案が、れいむにとってのさらなる地獄の幕開けであった。
 男は、痛めつけられたれいむが笑い、気持ちいいと叫び、お礼を言う一連の光景を撮影
してその動画をインターネット上にUPした。
 マゾれいむシリーズ、と題されたそれは多くの再生数とコメントを稼ぎ、男の自尊心を
満足させた。
 その内、叩かれているだけではすぐ飽きられると思った男は、あの手この手の虐待をれ
いむに加えた。れいむに求められることは変わらなかった。
 笑え、気持ちいいと言え、お礼をしろ。
 針を刺された。
 火で炙られた。
 万力で死ぬ寸前まで潰された。
 ゆっくりにとっては毒にも等しいタバスコを傷口に擦り込まれた。
 幾度となく餡子を吐いた。餡子と一緒に言葉も吐いた。気持ちいいと、気持ちいいいこ
としてくれてありがとうございます、と。
「ゆぅ……ゆぅ……ゆぅ……」
 れいむは、その日、昼寝をしていた。
 束の間の休息。
 男が部屋に入ってきた音を聞いて、その安眠は妨げられる。
 何度受けても、痛みも屈辱も、慣れることはできなかった。
 それでも、れいむは頑張った。
 なぜなら、それで飼い主さんがゆっくりできるから。そうすれば、こうしておうちをく
れて、あまあまもくれて、ゆっくりできるから。
 だが、もう男が来れば本能的に怯えてしまうのだけはどうしようもない。
「うーん、もう潮時かなあ」
 男の独り言が微かに聞こえてくる。
「再生数もコメント数も減ってきてるしなあ、さすがにみんな飽きるよなあ。当のおれが
飽きてんだもんなあ」
 男はしばらく、唸って何か考えているようだった。
「よし、次で丁度十回目だし、最終回にしよう。惜しまれてる内に止めたほうがいい」
 男の足音が、れいむのおうちに近付いてくる。
「ほれ」
 男は、れいむの前にたくさんのお菓子を置いた。食べきれないほどだ。
「これ食ってしっかり体力つけろよ」
「ゆぅ……」
 れいむは暗澹たる表情になる。こうやってたくさん食べさせてくれる時は決まって翌日
撮影があるのだ。
「明日は最後の撮影だ」
「ゆぴぃぃぃ……ゆ?」
 思っていた通りの男の言葉にれいむは恐怖の叫びを上げたが、気になる言葉を聞いて男
を見た。
「しゃいご?」
「ああ、明日の撮影で最後だ。それが終わったら、お前の欲しいものをやるよ。もう痛い
ことはしない。約束する」
「ゆ、ゆっきゅちちていいの?」
「ああ、もうたくさんゆっくりさせてもらったからな」
「ゆ、ゆわぁぁぁ、れ、れいみゅ、しゃいごのさつえいがんばりゅよ!」
「おう、頑張ってくれよ。最後、だからな」
 男はそう言って去っていった。
「しゃいご、しゃいご……あちたで、しゃいご」
 れいむは、いつまでも、その言葉をかみ締めるように呟いていた。

「はーい、マゾれいむ、最終回でーす」
 覆面をした男が言うと、その声は口元のマイクに拾われる。
「今日は最終回なんで、今までで一番凄いの行っちゃいます。ゆっくりしていってね!」
 男がマイクに手をやった。スイッチをオフにしたのだ。
「れいむ、いくぞ」
「ゆ、ゆっきゅちがんばりゅよ!」
「よし」
 マイクをオンにして、ハエタタキを手に取る。
「じゃ、まずは軽くウォーミングアップ、おなじみのハエタタキだ! そーれ!」
「ゆ゛っ! ゆ゛っ!」
「それ、それ、そーれ!」
「き、き、きもぢいいぃぃぃぃ、ゆ、ゆっぎゅぢできりゅよぉぉぉぉ! ハエタタキじゃ
ん、ごっちゅあんでーじゅ!」
「おおっと、れいむ、最終回だけあって気合入ってるねえ!」
 針で刺す、火で炙る等のこれまでにもやった虐待を少しずつやっていく。
「うーん、もうれいむほどのドMになるとこれぐらいじゃ感じないみたいだね! それじ
ゃ、これいこうか、タバスコ注射!」
 男がタバスコの入った注射器の針をれいむに突き刺す。
「ゆ゛っ!」
「前に、傷口にタバスコを擦り込んだことがあったよね。今度のこれは中から行くよ!」
 遠慮もなにもなく、一気に押し込んでタバスコを注入する。
「ゆ゛……ゆ゛びぃぃぃぃ! い、いぢゃいぃぃぃ、あ゛あ゛、あぢゅいぃぃぃぃ、から
だのなきゃがあぢゅいぃぃぃぃ!」
 そこで男はマイクをオフにする。
「ほら、笑顔は?」
「ゆ゛、ゆ゛、ゆ゛、ゆ゛べえ」
 すかさずマイクをオンにして男が叫ぶ。
「うおっと、駄目かと思ったがれいむのドMパワー恐るべし! タバスコ注射すら快楽に
取り込んでしまったぞぉ!」
「ぎ、ぎもぢいいでじゅぅぅぅぅ! たばずござんごっちゅあんでーじゅ!」
「さぁさぁ、底知れぬマゾれいむのドMパワー、これに対抗するには……あれ行っちゃう
かあ! ちょっと見た目地味なんだけど、こいつだぁ!」
 男は、細い棒のようなものを取り出して、それをカメラのまん前まで持っていった。
「知ってる人は知っている! こいつは、こう!」
 男がスイッチを押すと、棒の先端が割れて開き、さらに別のスイッチを押すと、それが
音を立てて回り始めた。
 男はれいむを掴んで後ろを向かせ、後頭部をカメラに向けさせた。
「よーし、れいむ! こいつを喰らえ!」
 ぶす、と先ほどの棒を突き刺す。一度開いた先端は畳んでただの棒になっている。
「ゆびぃ! ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ」
「スイッチオーン!」
「ゆぎぎぎっ!」
 そこで、男はれいむを元の位置に戻し、正面をカメラに向ける。
「はい、この地味ぃな道具で何をするかわかりましたね。そうです。こいつでれいむの中
枢餡をもうぐっちゃぐちゃに掻き回してしまおうというわけ!」
「ゆ゛ゆ゛ゆ゛っ、ぎ、ぎぼぢいいいいいい!」
「現時点でも中枢餡けっこう傷付いてるはずなのに、どこまでMなんだお前は! よーし、
それじゃ行くぞぉ」
 第二の回転するスイッチが押される。
「ゆ゛びゃあああああ! いっぢゃいぃぃぃぃぃぃ! いぢゃ、いぢゃいぃぃぃ!」
「ああ! さすがにこいつは辛いか! 頑張れれいむ! お前が痛みに屈しないでにっこ
り笑って気持ちいい! って言うのがおれも他のみんなもとってもゆっくりできるんだよ
っ!」
「ゆ゛……ゆっぎゅぢ、ゆっぎゅぢ」
「ゆっくりさせてね! ゆっくりさせてね!」
「ゆ゛……べべ、ゆ゛っぎ……」
 れいむは笑った。死に繋がる激痛の中、笑った。
 なぜなら、これで飼い主さんがゆっくりできるから、そうしたらゆっくりさせてもらえ
るから。
 おとうさんが、そう言っていたから……。
「おおおおおおお、笑ったぁ! 中枢餡を掻き回されながらこの笑顔! すげえぜ! ゆ
っくりできる! すごくゆっくりできるよぉ!」
「ぎ……ぎ……ぎも、ぎぼぢ、いぃぃ、ぃぃ……」
 飼い主さんがゆっくりしている。そして、あのカメラさんの向こうには大勢の人間さんがいるらしい。その人間さんたちもきっとゆっくりしているはず。
 おとうさんとおかあさんとまりさ、それから自分とまりさが生まれる前に死んでしまっ
たというおねえさんたち、みんなの分までゆっくりするんだ。
 れいみゅ、がんばりゅよ!
 いぢゃいけど、がんばりゅよ!
 いぢゃいけど、ゆっきゅちわらうよ!
 みんにゃ、れいみゅを見てゆっきゅちちてね!
 おとうしゃん、れいみゅ、がんばっちぇるよ! いわれた通りに飼い主しゃんたちをゆ
っきゅちちゃちぇてるよ!
 ゆっきゅちちていっちぇね!
「れいむ! れいむ! れーいーむ!」
 男が、笑顔のまま動かなくなったれいむを軽く叩く。
「えー、ご覧の皆様。これにてマゾれいむシリーズ、完結でございます」
 カメラに向き、男は厳かに言った。
「皆様に愛されたマゾれいむは、永遠にゆっくりしました。……ですが、見てください、
この顔を……あなたは、こんな顔で死ねますか?」
 そこには、今にも、
「ゆっきゅちちていっちぇね! れいみゅとっちぇもゆっきゅちちてりゅよ!」
 とでも言い出しそうな、ゆっくりした笑顔の、れいむの死骸があった。

                                   終わり


 ゆっ!(挨拶)
 人間さんの手前勝手な都合でぶん回されるゆっくりが大好きです。


 書いたのは、はがくれみりゃの人

今まで書いたもの
2704~2708 死ぬことと見つけたり
2727 人間様の都合
2853・2854 捕食種まりさ
2908 信仰は儚きゆっくりのために
2942~2944 ぎゃくたいプレイス
2965 ゲロまりさ
3011~3012 水上の救出劇

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最終更新:2011年07月29日 02:39
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