ゆっくりいじめ系3088 黄金の栄光2


「はい、ゆっくり目を覚ましてね!」
 そんな声とともに、ぱんぱんと音がする。
「ゆぅ……」
「ゆふぁ……」
「ゆゆーん、よくねちゃよ!」
「ゆっくちおはよう!」
「おちびたち、おはようなんだぜ!」
「ゆっくりおはよう!」
「よーし、お目覚めだねー」
 と、またぱんぱんという音。どうやら、人間が掌を打ち合わせた時の音らしい。
「ゆ? だれ?」
「ゆ? どこ?」
 一家は、状況のあまりの変化に呆然としてしまう。目の前にいるのは初めて見る人間、
初めて見るおうちだ。
「君たちは、前のおうちを追い出されてお兄さんに引き取られたんだ。ゆっくりりかいし
てね!」
「なにを言ってるんだぜ! あのどれいのクズはどこなんだぜ!」
「あらあら、金バッチともあろうものが、そんな汚い口の利き方しちゃいけないよ」
「うるさいよ! れいむたちは金バッチなんだよ! おまえもどれいにしてやるから言う
通りにしてね!」
「れいみゅたちはきんばっちのこどもにゃんだよ!」
「だからあまあまもっちぇきてね!」
「そうちたらゆっくりさせてあげりゅよ!」
「ゆっくち! ゆっくち!」
「ゆっくりさせてあげる! わかってるねえ、金バッチゆっくりは人間をゆっくりさせて
くれるんだよね!」
 人間は、大袈裟に感心してみせる。
「ゆふん、そうなんだよ、ゆっくりさせてあげるから、その代わりにごはんを持ってきて
ね」
「んー、でも、お兄さん全然ゆっくりできないよ」
「ゆ? なに言ってるんだぜ、まりささまたちと話していればゆっくりできるんだぜ、い
いからはやくごはんを持ってくるんだぜ、かわいいおちびたちがおなかぺーこぺーこなん
だぜ」
「ええー、君たち、本当に金バッチ? 全然、もう、ぜんっぜんゆっくりできないよ。む
しろ、凄くゆっくりしてない気持ちになっちゃうよ、君たち見てると」
 これまた大袈裟に呆れたポーズをとる人間。
「このクズにんげん! このバッチが見えないの? 馬鹿なの?」
 親れいむが、誇らしげにリボンについた金バッチを突き出して見せる。
「ふむふむ、それじゃ拝見」
 人間は、顔を近づけてそれを見ていたが、
「あー、これ、もう期限が過ぎてるよ、こんなの無効だよ」
 金バッチの裏に刻印してある数字を見ると、大きな声で言った。
「なに言ってるのぉぉぉ! どこから見ても金バッチでしょぉぉぉぉ!」
 いきり立つれいむに、人間はため息をついてみせる。
「定期試験受けてないでしょ。それじゃもう無効だよ」
 金バッチには定期的な更新試験が義務づけられている。当初は無かったのだが、金バッ
チと言えど中には堕落するものもいる。そこで金バッチの価値を守るために導入された制
度である。しかし、意外に知られておらず、金バッチをつけているだけで手を出さない人
間の方が多い。この一家が商品を食い散らかしていたスーパーの店長などがいい例である。
 わかっている人間は、期限が切れているのを確認すると、銅バッチと同じ扱いをする。
「そういうわけで、君たちは金バッチじゃないよ」
「うるさいよ! れいむたちは金バッチだよ!」
「そうなんだぜ! 金バッチのまりささまに逆らうんじゃないんだぜ!」
「あー、もう、それなら試験を受けてみるかい」
 今ここで金バッチの試験と同じ内容のことをしてみせてくれ、と言うのだ。
「ゆふん、口で言ってもわからない馬鹿には見せてやるしかないんだぜ」
「まったくむのーはめんどうくさいね!」
「おかあしゃん、がんばりぇ!」
「おちょーしゃん、がんばりぇ!」
「よーし、それじゃまずは躾ができているかのテストだ! その次は体力のテストだよ!」
 人間がぱんぱんと手を叩く。

「ゆひぃ……ゆひぃ……」
「ゆぜぇ……ゆぜぇ……」
 数十分後、金バッチの試験と同じコースを一通りこなしたれいむとまりさは、息も絶え
絶えに床に転がっていた。
「はい、駄目! 全然駄目! 合格ラインの半分にも行ってないよ! 駄目!」
 れいむとまりさの点数を書いていた紙を見ながら、人間が言った。
 体力テストは、体がナマっていたとはいえ、そこまでひどくはなかったのだが、躾のテ
ストが壊滅的であった。
「こりゃあ、相当鍛え直さないといけないなあ。びっしびしいくから覚悟しといてね!」
「ゆひぃ……ゆひぃ……いいから、はやく、ごはん、だぜ」
「そうだよ……れいむたち、がんばったんだから、ごはん、もってきて、ね」
「れいみゅおにゃかすいちゃよ!」
「はやきゅごはんちょうらいね!」
「おいちーごはんじゃないとだめらよ!」
「ゆゆん、まりしゃたちはぐりゅめなんだじぇ!」
「うーん、まあ、なかなか頑張っていたのは事実だから、ごはんをあげよう」
 その言葉に、おめめを輝かせる子ゆっくりたち。
「はい、めしあがれー」
 しかし、そう言って男が皿に盛ったゆっくりフードを見て、子ゆっくりたちの希望は怒
りへと変わった。
「しょれはまじゅいやつだよ!」
「そうだよ! そんにゃのたべられにゃいよ!」
「べつのをもっちぇきてね!」
「おいちーごはんがないとゆっくちできにゃいよ!」
「駄目駄目、金バッチでもないのにそんな高いフードは上げられないよ。美味しいものが
食べたかったら、お父さんとお母さんに、早く金バッチを再取得するようにお願いしてね!

 男はにべもなく拒絶する。
「おとうしゃんとおかあしゃんはきんばっちでちょぉぉぉ!」
「いいからはやくちてね! おにゃかすいちゃよ!」
「ゆっくちできなくすりゅよ!」
「そうらよ!」
 と、二匹の子まりさのうち、やや大きめの方が前にぽよんぽよんと跳ねて出た。
「いうこちょきけ! くじゅ! むのー! まりしゃをおこらせるときょわいんだじぇ!」
「ゆーん、おねえしゃん、かっきょいい!」
「おねえしゃん、やっちゃえ!」
「おねえしゃーん、がんばりぇぇぇ!」
 と、他の三匹の言っていることからして、この子まりさは長女らしい。
「君たち……」
 男が、静かに言った。その声音が、先ほどよりも冷たくなっていることに、子ゆっくり
たちは気付かない。
「ゆゆん! くりゃええええ!」
 長女まりさが跳ねてきて、男の足に体当たりした。
「ゆん!」
 どうだ、痛いだろう、参ったか、と言わんばかりの勝ち誇った顔を上に向ける。
「僕は、君たちのお父さんとお母さんが今はともかく、前は金バッチだったことは認めて
る。そして、もう一度金バッチを取れるように鍛え直そうとしている」
 そこまで言って、男は背を向けて歩き始めた。隣室へのドアを開けて、顔だけをゆっく
りたちの方に向けた。
「でも、君たちは、金バッチでも元金バッチでもなんでもない。駄目元で一緒に鍛えてみ
ようかなとは思っているけど、あくまでメインは両親で、君たちなんかどうなってもいい
んだよ」
 そう言って、男は隣室に消えた。
「ゆゆん、にげちゃよ! よわいよわい!」
「おねえしゃん、しゅごーい!」
「ゆっゆっ、あのくじゅ、びびってちゃね!」
「きっとおいちいごはんをとりにいっちゃんだよ!」
 姉妹たちが話していると、すぐに男は戻ってきた。だが、その手にはおいしいごはんな
どは無い。それどころか、その右肩に、丸い物体が乗っていた。
「うー」
「れ、れみりゃ、だぁぁぁぁぁ!」
 その物体は、通常種ゆっくりの天敵、捕食種のれみりゃであった。
「れみりゃ、おりて」
「うー」
 男の声に応じて、れみりゃが肩から飛び降りる。床に落ちる前に羽をパタパタさせてふ
わりと着地した。
 そして、男は子ゆっくりたちに近付いていく。
「このくじゅぅぅぅぅ! あのれみりゃをどっかにやっちぇね!」
「れみりゃがいるとゆっくちできにゃいよ!」
「は、はやくちちぇね!」
「まりしゃしゃまのめーれーがきけにゃいの! ばきゃにゃの?」
「えっと、お前か」
 男が、一番大きな長女まりさを摘み上げる。
「ゆゆっ、はなしぇ、このくじゅ!」
「はい」
 ぽい、と投げられる。
「ゆべ!」
 床に顔から落ちて転がった長女まりさは、クズ人間に抗議しようとしてそれも適わず硬
直する。
「うー、あまあま……」
 目の前に、れみりゃがいたからだ。
「ゆ、ゆ、ゆ、ゆわわわわ、まりしゃ、おいちくにゃいよ!」
 ぶるぶると震えて懇願する長女まりさ。餡子が遺伝して記憶を継承するというわけのわ
からん性質のあるゆっくりだが、人間への恐怖はいまいち受け継がれないのに、捕食種へ
のそれは色濃く受け継いでしまう。捕食種は一度も見たことがなくともその恐怖が理解で
きる。れみりゃよりも遙かに巨大な人間に立ち向かった長女まりさも、この体たらくであ
った。
「おちびちゃん! ゆっくりしないではやく逃げてね!」
 回復した親れいむが、声を限りに叫ぶ。
「れみりゃぁぁぁぁぁ! まりささまのおちびに手をだしたら、どうなるかわかってるん
だぜえええええ」
 とかなんとか言ってる親まりさは、言ってるだけでれみりゃには近付こうともしない。
「うー」
 れみりゃは、今にも長女まりさに噛み付いて餡を吸いたそうにしていたが、ちらちらと
男の方を見ては、残念そうに唸るばかり。男は、掌をれみりゃに向けて突き出していた。
「ゆゆ? ……どうしちゃの?」
 いつまでも飛び掛ってこないれみりゃに、幾分落ち着きを取り戻した長女まりさが泣く
のを止めて疑問を呈する。
「ゆゆ、きっちょおとうしゃんとおかあしゃんがこわいんだにぇ!」
「ゆっ、きっちょそうらね!」
「ゆゆーん、しゅごーい」
「ゆゆ? まりさぁ……」
 子供たちに褒め称えられた親れいむだが、さすがにれみりゃが自分たちを恐れるなどと
は思えないらしく、番のまりさを見る。
「ゆゆゆゆゆ……まりささまたちほどの金バッチになると、れみりゃでも手が出せないの
かもしれないんだぜ!」
 素晴らしい餡子脳で素晴らしい結論を出した親まりさは、ゆふん、と笑う。
「ゆゆっ、そうなんだ! れいむたち、思ってたよりすごいんだね!」
「しゅごーい!」
「ちゅよーい!」
「これなられみりゃがいちぇもゆっくちできりゅね!」
 その声を聞き、長女まりさも元気を取り戻す。
「ゆん! そうだったんだにぇ! こわがってそんしちゃよ!」
 大丈夫だと思うと恐れを無くしてれみりゃに体当たりする。
「うー」
 れみりゃは、黙ってされるがままにしている。ちらりと視線を転じた先には男がいて、
依然として掌を突き出していた。
「ゆゆーん、おねえしゃん、ちゅよーい!」
「いいこちょかんがえちゃよ!」
「ゆゆ?」
「あのれみりゃ、れいみゅたちのどれいにすりゅよ!」
「ゆゆん、それはいい考えだね! ゆっくりできるよ!」
「ゆゆん、れみりゃをどれいにしているなんて、まりささまたちぐらいのものなんだぜ!」
「あー、お前らお前ら」
「ゆん、なんなんだぜ、れみりゃをどれいにしたらお前みたいな役立たずはもういらない
から、まりささまたちのゆっくりプレイスから出て行くんだぜ」
「いや、れみりゃが何もしないのは、お前らを怖がってるんじゃなくて、僕が止めてるか
らだぞ」
「ゆ? にゃにいっちぇるの! くじゅはにゃんにもしちぇないよ!」
「そうだよ、うそつかないでね! どれいのくせに!」
「ほらほら、この手、こうやって掌を向けて突き出すのは、動くな、っていう合図なんだ
よ。だから、僕が命令したら、れみりゃはあのまりさを食べちゃうよ。だから、お兄さん
に逆らわない方がいいよ!」
 そう言った男を、ゆっくり一家の軽蔑の視線が刺す。心底馬鹿にしきった顔で、ため息
すらつきながら、親まりさが言った。
「それなら、めーれーしてみればいいんだぜ、クズのめーれーをきく奴なんかいないとま
りささまは思うんだぜ」
「ゆぷぷ、くじゅがめーれーだっちぇ!」
「にゃにをかんちがいちてるんだろうにぇ!」
「ここまでむのーだとかわいそうだにぇ!」
「おい、れみりゃ!」
 と、親まりさは、一際大きな声を出した。
「まりささまのめーれーなんだぜ、おちびに手を出したら、たっぷり痛めつけて、ゆっく
りできなくしてやるんだぜ! ゆっくりりかいするんだぜ!」
「よし、じゃ、僕も命令するね」
 男は、手を下げた。れみりゃがそれを、食い入るように見つめ、男の次の行動を待つ。
「よし、よく我慢したな、れみりゃ、そのまりさ食べていいぞ!」
「うー!」
 それを聞くや、れみりゃは一飛びに長女まりさに噛み付いた。
「ゆぁぁぁぁ! いぢゃいぃぃぃぃ!」
 長女まりさは悲鳴を上げるが、おあずけで焦れに焦れていたれみりゃは、間髪入れずに
中の餡子を吸い始める。
「ゆぎゅぅぅぅ、ず、ずわにゃいでぇぇぇ!」
「うー!」
「だ……だじゅげ、で、おどーじゃ」
「ゆゆ」
 全く想像していなかった光景に、親まりさは竦んで動けない。
「ま、まりざぁ、おちびぢゃんが、死んじゃうよぉ……だずげであげでえええ」
「おどーじゃーん、おねえじゃんがぁぁぁ」
「だじゅげであげでええええ」
「はやぐじでえええ」
「ゆ……そ、そんなの、むりなんだぜ、れいむが行けばいいんだぜ」
「れ、れいむは! ま、ま、まりざが行っだら、行ぐよ!」
「あー、もうあのまりさ、死んだぞ」
 男に言われて見てみると、れみりゃが、ほとんど皮だけになった長女まりさをぺっと吐
き出しているところだった。
「ゆ゛ああああああ、おちびぢゃん!」
「おねえじゃんがぁぁぁぁ!」
「ゆ゛ええええん、ぎょわいよぉぉぉぉ!」
「だじゅげでえええええ!」
「ゆ、ゆ、ゆるざないんだぜ! あのれびりゃ、まりざさまが、制裁してやるんだぜ!」
 精一杯に強がった親まりさを後ろからの衝撃が襲った。
「おう、頑張れ」
 男が、軽く蹴飛ばしたのだ。そして、転がっていった先には……
「うー!」
「ゆ゛びぃぃぃぃ! れみりゃ、だぁぁぁぁぁ!」
「うー」
 れみりゃが、ちらりと男を見る。男は掌を突き出していた。
「ゆ゛……ゆ゛……ゆ゛」
 親まりさも、元々金バッチをつけていたのだから決して頭は悪くない。今はもう、男が
ああやっている間は、れみりゃは襲ってこないことは理解していた。
「よーし」
 男が、手を下げた。
「や、やべでええええ、おでで下げないでええええ!」
 それがなにを意味するのか悟った親まりさが叫ぶ。
「心配しないでも、お前は殺さないよ。もう一度栄光の金バッチを取らせるんだからね」
 優しい笑顔で男は言い、
「れみりゃ、そのまりさと遊んでいいぞ、でも噛み付いたり食べたり、殺したりしたら駄
目だぞ」
「うー!」
 れみりゃが、思い切り親まりさに体当たりしていった。
「やべでえええ、いだいぃぃぃぃ!」
 親まりさは、れみりゃに立て続けに体当たりされてボロボロになってしまった。
「うー?」
 時々、れみりゃは動きを止めて、親まりさの様子をうかがう。
「うー」
 ぱたぱたと飛んで男の前に着地する。
「よーし、えらいぞ、れみりゃ」
 男は、その頭を撫でてやる。
「うー」
 れみりゃが、これ以上やったらまずい、というのを自分で判断して攻撃を止めたのに、
男は満足していた。
 このれみりゃは、男が飼って調教し、こうやって通常種の調教の手伝いもさせていた。
本当はふらんを飼いたかったのだが、扱いが困難を極めるふらん種はプロのブリーダーで
も手を焼く代物だ。しょうがなく、れみりゃにしたが、なかなか使える。
「はい、君たち、このおうちは誰のものかな」
「ゆ、もちろんれい」
「まさか自分たちのおうちだ、なんて頭の悪いこと言わないよね!? そんなこと言う子
はれみりゃと遊んでもらわないといけないんだけど、今、なんて言おうとしたの? ねえ、
なんて言おうとしたの?」
「ゆひっ、お、お兄ざんの、おうぢですぅぅぅ」
「うん、そうだね、ゆっくりりかいしてくれてありがとう! もちろん一番えらいのは僕
だよね! それじゃその次にえらいのは誰かな?」
「ゆっ、それは」
「まさか自分たちだ、なんて言わないよね!? ねえ、れみりゃはどう思う?」
「うー!」
「ゆ゛っゆ゛っ、れ、れみりゃでずぅぅぅ」
「うん、ようくわかっているね。さっすが元金バッチだ。これなら、すぐにもう一度金バ
ッチをつけられるようになるよ! それじゃ、今日はもうゆっくりしていいよ、はい、こ
こ、この新聞紙を敷いたとこが君たちがいていい場所ね」
「ゆ゛っ、せ、せまいよ……」
「ここから出たら、お仕置きだからね、れみりゃ、この子たちがここから出たりしたら注
意してあげるんだぞ。噛み付いたり食べたり、殺しちゃ駄目だよ」
「うー!」
「それじゃ、ごはん食べて好きにゆっくりしてていいよ。明日からまた特訓だからゆっく
り休んでね!」
 男はそう言うと、部屋から出て行った。
「ま、まりざぁ、ぺーろぺーろしてあげるから元気になっでね」
「ゆ゛ぅ……ゆ゛ぅ」
 親まりさは、まだ回復しておらず、死んだように眠ってしまっている。
「ゆぅぅ、こんなごはんじゃちあわちぇーじゃないよ」
「このなかだけじゃせみゃくてゆっくちできにゃいよ……」
「ゆっ! ゆっくちできにゃいのはいやじゃよ。まりしゃはこーろこーろしてゆっくちす
るじぇ!」
「あ、おちびちゃん!」
 番のまりさをぺーろぺーろしていた親れいむが気づいた時には、子まりさはころころと
転がってあっさりと男が定めた新聞紙の領域から飛び出していた。
「ゆっきゅちー! こーろこーろ!」
 楽しそうに転がる子まりさを羨ましそうに見ていた子れいむ二匹だが、すぐさまその羨
望は消え失せることになる。
「うー!」
 少し離れたところで目を閉じて眠っていたかに見えたれみりゃが飛んできて、羽で子ま
りさを叩いたのだ。
「ゆび! いっぢゃああああい!」
「うー!」
 新聞紙の中に戻れ、と言うように痛がって泣きじゃくる子まりさを羽で叩き続ける。
 しかし、戻ろうにも痛みでまともに動けない子まりさは、結局、何度も叩かれて戻るこ
とになった。
「ゆ゛ええええん、いぢゃいぃぃぃぃ! ゆっぎゅぢできにゃいぃぃぃぃ!」
「ゆゆぅ……まりしゃぁ、ぺーろぺーろしてあげりゅね……」
「ゆぐっ、あのくじゅがわりゅいんだよ! あのくじゅめえええええ!」
 子れいむが叫ぶのに、親れいむは恐怖を露にして制止した。
「駄目だよ、そんなこと言ったら、お兄さんが怒るよ! おねがいだからゆっくりやめて
ね!」
 その様子を、隣室から男が覗いていた。
「さすがに元は金バッチだっただけあって、両親はすぐに従順になりそうだな。問題は子
供たちだが……」
 前の飼い主(と言っても数日間だけだったらしいが)が聞き出した話によると、あのま
りさとれいむは金バッチとしてペットショップで売られていたのを買われてきて、子供た
ちはそれから作ったものらしいので、親と違ってきちんとした躾を受けたことがない。
「まあ、駄目なられみりゃの餌だな」

「はい、はい、ゆっくりゆっくり!」
「「「ゆぴぃ……ゆぴぃ……」」」
「おちびちゃん、がんばってね! もうすこしだよ!」
「がんばるんだぜ、まりさたちのおちびなんだから、できるんだぜ!」
 本格的な金バッチ取得のための特訓が始まったが、両親はすぐに適応したものの、やは
り子供たちにとってはしんどかった。
 今は、人間さんをゆっくりさせる会話の特訓で、下手を打ってお仕置きされているとこ
ろである。既に三日間ほど懇々と言い聞かせているのに、未だに人間を「にんげんさん」
或いは「お兄さん」と呼ばずに「くじゅ」だの「どれい」だの言う子供たちに、とうとう
男がキレたのだ。
 お仕置きは、持久走であった。ロープで作った円の周りを、男がいいと言うまで走るの
だ。もちろん、そんなことは嫌だと言っていた子ゆっくりたちだが、そこはもう餡子の奥
まで恐怖心を植え付けられているれみりゃが脅かすと不承不承走り始めた。
 それでも最初の頃は元気一杯に跳ねていたのだが、そのうちに速度が落ちてくる。
「ゆゆ、お兄さん、おちびちゃんたちもうへとへとだよ」
 と、暗にもう許してやってくれと言う親れいむを男は完全に無視。
「ゆーっ! もうちゅかれたよ! 走れにゃいよ!」
 やがて、妹れいむが前に進むのを止めてその場でころりと寝転がった。
 数歩跳ねて行った姉れいむと子まりさも、そこで立ち止まり、ゆひぃゆひぃと息をつく。
「れみりゃ、あの子に気合入れてあげてね」
 男が言うと、れみりゃはぴょんと飛び上がって妹れいむの方へ向かっていった。
「おちびだぢぃぃぃぃ! はやく! はやく走るんだぜええええ!」
 なにをするのかを嫌でも悟ってしまった親まりさの必死の呼びかけも、子供たちには聞
こえていないようだ。
「うー!」
「ゆぴっ!」
 転がって気持ちよさそうにしていた妹れいむは、れみりゃに叩かれてごろごろ転がって
いった。その先にいた姉れいむと子まりさは、驚いて走り始める。
「ゆぴゃああああ! いぢゃいぃぃぃぃ!」
 背後で、妹れいむの悲鳴が鳴り響くと、姉れいむと子まりさは一層跳ねる速度を上げた。
「うー!」
「や、やめぢぇ、走りゅから、やめぢぇね」
「うー!」
 ぽよぽよと跳ねる妹れいむを、れみりゃは、遅い遅いと言わんばかりに後ろから軽く叩
いた。
「はーい、あと一周、がんばってねー」
「ゆゆっ、おちびちゃんたち、あと一回ぐるってすればいいんだよ!」
「がんばるんだぜ、一回なんてすぐなんだぜ!」
 なんとか、姉れいむと子まりさは自力でゴールした。
 だが、妹れいむは、結局れみりゃに叩かれ転がって無理矢理ゴールさせられた。
「よし、今日の特訓は終わり。いつもの場所でゆっくりしてていいよ」
「ゆゆっ! おちびちゃん、すぐにおかあさんがぺーろぺーろしてあげるよ!」
「あー、ちょっとお前らには話が……」
「ゆ! れいむは、すぐにおちびちゃんをぺーろぺーろしてあげたいよ」
「人間さん、お話ならまりさが聞くんだぜ、れいむにおちびをぺーろぺーろさせてあげて
欲しいんだぜ。お願いなんだぜ」
「ゆゆ、ゆっくりお願いします。ゆっくりお願いします」
「あー、まあ、しょうがないね、じゃあれいむは行っていいよ」
「ゆっくりありがとうございます。ゆっくりありがとうございます」
「ゆっ、それでお話っていうのは?」
「ああ、他でもない君の子供のことさ」
 男のその言葉に、親まりさの顔が強張る。数日の特訓で三匹の子供たちは、これでもか
というぐらいの失望を男に与えていた。
「お、おちびたちは、まりさとれいむがちゃんと躾するから、もうちょっと待って欲しい
んだぜ。お願いなんだぜ、お願いなんだぜ!」
 もう駄目だと確信したられみりゃの餌にする、ということは既に伝えてある。親まりさ
は必死に懇願した。
「ふむ」
 男は、その様子を見て、少し考えて、やがて口を開いた。決してその声は厳しいもので
はなかった。
「お前もよく短期間でここまで更生したもんだな。言葉遣いはそう育てられたからだし、
とてもゲスだったとは思えない」
 男は本心から、感心しているのだった。言葉遣いに関しては、親まりさはどうしても語
尾の「~だぜ」が抜けなかった。どう脅かしても痛めつけても無理なのだ。それ以外のこ
とに関してはさすが元金バッチと思えるような成績を出しつつあったのに、だ。
 そこで不思議に思って、生まれてからどういう教育を受けたのかを詳しく尋ねてみると、
どうもこのまりさはそういう言葉遣いを矯正されたことがないということがわかった。
 飼いゆっくりというのは所詮は飼い主が気に入ればいいのだ。中には、あまりに丁寧な
言葉遣いでおとなしくほとんど動かないようなゆっくりよりも、多少砕けた言葉遣いで活
発に動き回るものを好む飼い主もいる。
 特に独居の老人などが、この手のゆっくりを求める場合が多い。わんぱくな孫のような
感覚で可愛がっているのだろう。
 そういったニーズに合わせて、~だぜ、という程度ならば矯正しない場合もあるし、そ
れだけで金バッチ試験に落ちるということもない。このまりさはそのタイプであろうと思
い、だぜ言葉についてはそのままにしておくことにした。
「ゆぅ……まりさはゲスじゃないんだぜ……」
「ん?」
 親まりさがぼそりと呟いた言葉に男が反応すると、親まりさは慌てて言った。
「ゆっ、ゆっ、怒らないで聞いて欲しいんだぜ」
「ん? よし、聞いてやろう」
「ゆぅ、まりさもれいむも、最初はちゃんとしてたんだぜ、でも飼い主さんがゆっくりし
てないみたいだったんだぜ」
「飼い主さんっていうのは、最初の飼い主のおじいさんだね」
「ゆん、餌はくれたけど、全然遊んでくれないし、話してても楽しそうじゃなかったんだ
ぜ」
 飼い主をゆっくりさせるべし、と育てられたまりさたちにとって、それはとてもゆっく
りできない状態であった。そしてある時、老人が呟いた。
「やっぱり猫にしとけばよかったの、犬は散歩させてやれんからな」
 その言葉に、とうとうまりさはキレた。
「なんでそんなこと言うんだぜ! まりさたち、ゆっくりさせてあげようとしてるんだぜ!

「なんでと言われてもお前ら、いい子すぎてつまらんのじゃよ」
「ゆぅぅぅぅっ! ジジィこそつまらないんだぜえええええ!」
「なにをこのクソ饅頭が!」
 それから罵倒し合っているうちに、なんだか飼い主さんがさっきよりもゆっくりしてい
るように見えた。
「まったく、とんでもない駄目ゆっくり掴まされてしまったわい」
「ゆぅぅぅ! 駄目ゆっくりじゃないんだぜえ!」
「まあ、お前らみたいなのは外に放り出したらのたれ死にじゃろうからわしが面倒見てや
るか」
「ゆぅぅぅ、面倒見るんだぜえええええ!」
 と、まりさが思わず返したら、老人が、ぷっ、と吹き出した。
「なにがおかしいんだぜえええ!」
 それからは、そんな調子で罵り合いつつ、一緒に生活していた。勝手にすっきりーして
子供を作った時も老人は怒らなかった。
「おお、クソ饅頭がクソ饅頭作りおって、餌代がかかるわい」
 と、口では言っていたが、決して不機嫌には見えなかった。
「うーん、それは」
 わんぱくな孫……というには明らかに態度も口も悪かったが、その老人にとっては、そ
うやっているのが寂しさを紛らわす一番いい方法だったのかもしれない。
「わしゃ、ちょっと出かけるぞ。餌を多めに置いておくから勝手に食え」
 ある日、そう言っていつもより多くの餌を皿に入れて部屋を出て行ったのが、まりさた
ちがその老人と会った最後であった。
 なんだか苦しそうだったので、まりさが、
「ジジィ、顔色が悪いんだぜ、まりささまたちに餌持ってくる仕事があるんだからしっか
りするんだぜ」
 と言ったら、老人は少し嬉しそうな――まりさに言わせるとゆっくりした――笑顔で、
「お前に心配されんでも、わしゃまだまだ大丈夫じゃ」
 と、言った。
 あからさまに態度が悪くなっているくせに、飼い主の様子に気付いてそんなことを言え
るまりさは、やはり飼いゆっくりとしては相当に優秀だ。一応、その態度の悪さも、まり
さなりにこの方が飼い主さんがゆっくりできる、と思ったからだ。
「そうか、事情は大体わかったよ。一応飼い主さんをゆっくりさせようと思ったのがきっ
かけなんだね。その後それが当たり前になって最初に受けた教育を忘れたのはまずかった
けどね」
「ゆぅ……」
「うん……薄々思っていたが、やっぱり君はとても賢いし優秀だね。でも、君の子供は…
…」
「ゆゆっ、おちびたちは、生まれた時からそうだったから、にんげんさんへの言葉とかも
あれでいいと思ってるんだぜ」
「うん、それで提案なんだけど」
「ゆゆ?」
「あの、妹のれいむ……あれはいけないよ」
「ゆゆぅ……」
 うな垂れたところを見ると、親まりさも密かにそう思ってはいたのだろう。先ほどのお
仕置きの時のような感じで、妹れいむは何をやっても一番最初に音を上げ、不平を言い、
駄々をこねる。
「あれに引きずられて、他の二匹もよくない影響を受けてる」
「ゆゆぅ……ゆっくり長い目で見てあげて欲しいんだぜ」
「どっちか選んで欲しい。あの妹れいむを捨てるか、それとももうしばらく様子を見るか。
ただし、その場合は、何かあった時には他の二匹の子供もまとめて罰を与える」
「ゆっ! ゆぅぅぅ」
「僕としては……妹れいむを今すぐに見捨てることを勧めるよ。他の二匹は金は無理でも
銀バッチぐらいならまだ望みは無いわけじゃない」
「……も、もうしばらく、様子を見て欲しいんだぜ」
「……それは、もしあの妹れいむが何かやったら他の二匹も連帯責任ってことでいいんだ
ね?」
「ゆぅ……それで、いいんだぜ」
「よし、わかった」
 男としては、この親まりさのことは大いに認めていた。それより劣るといっても親れい
むの方もなかなかのものだ。
 だから、いっそのこと、もう望み薄な子供は切ってしまいたいと思っていた。そういう
意味では、男の望む選択を親まりさはしたことになる。絶対にあの堪え性のない妹れいむ
は何かやらかす、と男は見ていた。
 しかし、ゆっくりの考えることは人間には結局は理解し難いものなのか。妹れいむは、
男が全く予想もしていなかったことをやらかしたのである。


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