ゆっくりいじめ系3087 黄金の栄光1

「ぐずな人間はさっさとごはんをもってきてね! れいむたちは金バッチなんだよ!」
「ゆっくちしにゃいではやくちてね!」
「れいみゅたち、おにゃかがすいちぇるんだよ!」
「それというのもぐず人間がぐずぐずしてるからなんだぜ! 金バッチのまりささまが本
気で怒らないうちに持ってくるんだぜ!」
「ぐじゅ! にょろま! はやくちろぉ!」
「はいはい、ちょっと待ってろ」
 男は、台所に行って棚などを探し、市販されているゆっくりフードの箱を見つけた。開
封済みだが、かなり残っているようだ。
「待ちくたびれたんだぜ! ほんとうにぐずなんだぜ! 金バッチをなんだと思ってるん
だぜ!」
「あのじじぃの子供だけあって、ぐずだね!」
「しゃっしゃとちろ! ぐじゅぐじゅするにゃあ!」
「にょろにょろしてると、ゆっきゅちできにゃくするよ!」
「はいはい、ちょっと待ってろ」
 男は、床に敷かれた新聞紙の上に置かれた皿にフードを流し込む。
「どんぐらいだ? もういいならいって言えよ」
「いいからあるだけ入れるんだぜ! おちびたちはそだちざかりなんだぜ!」
「しょうだよ! れいみゅたち、たくさんたべりゅよ!」
「まりしゃもたーくしゃんたべりゅよ!」
「はいはい、全部な」
 ざーっと、袋に入っていたものを全部入れる。
「ゆはっ、うめっ! めっちゃうめ!」
「うめっ、まじぴゃねえ!」
「ちあわちぇ~」
 涎を撒き散らしながらフードを貪るゆっくりたちを一瞥してから、男はその部屋を出た。
「どーしたもんだか。あれ、親父が飼ってたんだよなあ」
 男は三十少し過ぎ。先日疎遠だった父親が死んだ後に、遺産としてこの家を相続した。
 そして今日引っ越してきたのである。男が住んでいたアパートよりもこの家はかなり広
く、ものの置き場所にあれこれ頭を悩ます必要は無さそうだった。
 異変に遭遇したのは、一階の南向きの四畳半の部屋を開けた時である。そこに、ゆっく
りがいた。
 大人のまりさが一匹にれいむが一匹、小さい子供のまりさとれいむが二匹ずつ。計六匹
のゆっくりがそこにはいた。
 野良が入り込んだのか、と一瞬思った。ここから近い所に住んでいる弟が親父の死後こ
の家に入っていたはずなのだが、その弟が戸締りを怠ったのか、と。
「このぐずぅぅぅぅ! はやくごはんもってくるんだぜえええええ!」
 いきなり、でかいまりさに怒鳴りつけられて、男は呆然としつつも、なんとか話を聞い
た。しばらくはごはん持って来いの一点張りだったのだが、それならばこちらも質問に答
えるまでは絶対にごはんをやらないと強硬に主張して、なんとか聞けたのだ。
 それによると、このゆっくりたちはでかいまりさとれいむが番の家族で、この家にずっ
と住んでいたらしい。彼らの言う「ジジィ」が自分の父親なのであろうとは容易に推察が
ついた。
 部屋には、小さなゆっくり用の出入り口がついていた。ゆっくりにも施錠開錠ができる
もので、そこから時々外出しているようだ。
 どうやら、弟が様子を見に来た時は一家が散歩に行っていたらしい。
 父親が死んでからの数日、ごはんが貰えずにゆっくり一家は大層お怒りであった。表に
出て不味い草を食べて凌いでいたとのこと。
 で、質問に答えたのだからごはんをよこせと言うゆっくりたちにゆっくりフードをくれ
てやったのが先ほどの光景というわけである。
 男は弟に電話して今一度確認した。確かに、弟はこの四畳半を見たが、その時は窓にち
ゃんと鍵がかかっているか確認するだけで室内はろくに見なかった。それでも大人サイズ
のゆっくりがいたらいくらなんでも気付く、と、まあもっともなことを言った。やはり丁
度その時外出中だったのだろう。
「で、あいつらの面倒おれが見るのか?」
 男は、げんなりとした。確かに長男の自分はこの家を相続した。しかしあんなものがく
っついてくるとは思っていなかった。
「あ、先生」
 そこで、思いついたのが、男たち兄弟が遺産相続の際に世話になった弁護士であった。
ゆっくりごときのためにわざわざ電話するのも、とは思ったものの、これは立派に業務で
あろうと思い直した。
「え? ゆっくり? なんですか、それ」
 そうだろうとは思ったものの、やはり弁護士はあのゆっくり一家について何も知らなか
った。
「引き続き、貴方が飼い続ける気はないんですね?」
 と、言われて初めて、自分がその選択肢を最初から考えに入れていなかったことに気付
いた。
「ええ、私、そういう趣味ありませんので」
 弁護士の話によると、ゆっくりは基本的に物扱いなのだが、そもそもあのゆっくりたち
が親父の所有物なのかどうかということがある。なにやら金バッチをつけていたと言うと、
その辺には詳しくないと断りを入れつつも、それだと登録申請の際に自動的に飼い主の所
有物になっている可能性が高いとのことだった。
 この場合、厳密に言えば、遺産相続後に未分割の遺産が判明したというケースになり、
その未分割遺産が重要なものであれば相続協議がやり直しになることすらありうるのだが、
重要というのは要するにそんな遺産があるのならば自分が相続したかった、という意見が
出てくるであろうものである。
 つまりは他の相続人がなんと言うか、であろう。兄弟と相談しますと言って、男は電話
を切った。
「親父め……」
 音高く舌打ちして、もう一度、弟に電話する。金バッチと聞いて少し興味を持ったよう
だが、まあ、それでも大した値打ちではないと結論を出し、
「兄貴にやるよ。大体その家に居着いちゃってんだろ?」
 と、丸投げしてきた。
 遠くに住んでいる妹にも電話したが、案の定いらないから兄さんのほうでなんとかしと
いて、とのこと。
「なんとかしろ、って言ってもなあ」
 悩んでいると、表で車が停まる音がした。引越し屋が到着したのだ。男はとりあえずゆ
っくりのことは忘れて、家具等をどこへ置くかを社員に指示した。家具の一部は元々この
家にあったものをそのまま使うので、新たに運び込むものはそれほど多くもなく、作業は
すぐに終わった。
「ふう、荷解きは明日にするか」
 男は空腹を覚えて外に出た。今日は外食だ。
 近くの駅前に出る。弟に、この駅前ならば大抵のものは揃う、と聞いていた。
 一通り見て回ってから、ラーメン屋に入った。食べながら、そういえばゆっくりに食わ
せる餌がもう無いことを思い出す。処置を決めかねているが、とりあえずは何か食わせね
ばならないと思い、店を出た後、そのすぐ側にあったスーパーマーケットに行った。
「そんなに高くないんだな」
 ゆっくりフードのコーナーは店の片隅、キャットフードとドッグフードのコーナーの隣
にあった。値段を見ると、高くはない。高いのもあるようなのだが、安いものは本当に安
い。徳用と書かれた特大サイズだと、かなりの割安だ。
「このぐらいなら、飼ってやってもいいかな。餌だけやって、あとは放っておけばいいん
だし」
 ゆっくりを飼う趣味はないが虐待するそれも無く、人語を喋る一応生き物を殺すのにも
抵抗があり、父親が飼っていたゆっくりを父親が死んだからと言って捨てるのも無責任だ
と考えて悩んでいた男にとっては、それでようやく気持ちが落ち着いた。
 レジで支払いを済ませた時、店の奥の方が騒がしくなった。
「店長! 例の奴らが来てます!」
 とか店員が叫んでいたようだが、自分には関係ないのでさっさと店を出た。
 家に帰りゆっくり部屋を覗いて見ると、外出しているようでいない。餌の皿は空になっ
ている。またさっさとごはんよこせだの、ぐずだの言われてはたまらないので、今の内に
部屋がどうなっているのか点検して、ゆっくりフードを補充しておくことにする。
 部屋はほとんどものが置いておらず、新聞紙とその上に皿、毛布が一枚だけだった。
 買ってきた徳用フードを皿に入れたところで、丁度ゆっくり一家が帰ってきた。
「おう、おかえり」
「ゆゆっ! ごはんがよういしてあるんだぜ、クズにしては気がきくんだぜ!」
「ゆん! これからもそのちょーしでやればいいよ!」
「くじゅにしてはよくやっちゃよ!」
「れいみゅがほめちぇあげりゅよ」
「はやくむーちゃむーちゃしようじぇ!」
 まったく口の悪い連中だなーと思いつつ、さすがにこの調子で悪口を浴び続けたらスト
レスなので男はさっさと部屋を出ようとした。
「ゆっ、それとジジィをつれてきたから相手してやるんだぜ」
「は? ジジィ?」
 その時、インターホンの音が鳴った。
「おい、どういうことだよ」
「まりささまはむーしゃむーしゃするんだぜ! いいからはやく行くんだぜ! まったく
ぐずな人間なんだぜ!」
 質問には答えず、ゆっくりたちは餌皿に群がっている。
「みんな、ゆっくりたべてね!」
「ゆっきゅちたべりゅよ!」
「むーちゃむーちゃ……ま、まじゅぃぃぃぃぃぃ!」
「ゆげぇぇぇ! にゃにこりぇぇぇぇ!」
「きょんなのたべられにゃいよ!」
「おいしくないんだじぇ! いつものちあわちぇーなごはんじゃないんだじぇ!」
 フードを食べた子ゆっくりたちが口に入れたものを吐き出し、声を限りにその不味さを
罵倒する。
「ゆゆっ……むーしゃむーしゃ……ゆぺっ! なんなんだぜこれは! まずくてたべられ
ないんだぜ!」
 親まりさも一つ食べてすぐに吐き出した。
「おい、人間! このまずいごはんはなんなんだぜ! まりささまたちに喧嘩を売ってる
んだぜ?」
「いや、そんなはずは、ちゃんとしたゆっくり用のフードだぞ」
 と、言い合っている間にも、インターホンの音は鳴り続けている。
「ええい、ちょっと出てくるから、待ってろ」
 そう言って部屋から出ようとしたところ、親まりさが猛然と体当たりを仕掛けてきた。
痛くもなんともないが、鬱陶しい。
「邪魔すんな!」
 男は、いい加減に腹が立ったので、親まりさを軽く蹴飛ばしてから素早くドアを閉めた。
向こうでは親まりさに暴力を振るった男にありとあらゆる罵詈雑言が放たれているが、無
視して玄関に向かう。
「はいはいはいはい、すいませーん、お待たせしました」
 ドアを開けると、そこには中年の男が立っていた。歳は五十ぐらいだろう。
 これが、先ほどまりさの言っていた「ジジィ」なのだろうか。
「あー、息子さんだね」
「え? ……ああ、はい。親父の知り合いの方ですか?」
 話によれば、この中年男は、さっき男がゆっくりフードを買ったスーパーの店長らしい。
 用件は、あのゆっくり一家が食べた商品の弁償をするか否か、ということである。
「え? あいつら、そんなことしてるんですか」
 男の言葉に、やっぱり何も知らないんだな、という顔をして店長が説明したところによ
ると、あの一家は散歩中に店に入ってよく果物やお菓子を食べていたらしい。普通ならば
叩き出すところだが、なにしろ金バッチであるから手が出せない。手が出されないことを
よく知っている一家は傍若無人の振る舞いだったようだ。
 金バッチには危害を加えることはできない。それをやると器物損壊の罪に問われる。だ
が、言い換えれば、金バッチゆっくりのその特権を担保するのは、器物の持ち主である飼
い主が全ての責任を負うということである。
 飼い主である、男の父親に弁償を求めたところ、あっさりと応じた。そして、それから
も一家の行為は変わらず、弁償を求めれば応じる。何度か、そもそもそういうことをしな
いように躾けては、と言ったのだが、明らかな空返事であった。
「あー、その、すいませんでした。なんていうか、変な人で……悪い人じゃなかったんで
すけど」
「まあ、ちゃんと弁償はしてもらってたからねえ」
 その弁償っぷりはきっぷがよかった、と店長は言った。これは本当にうちのゆっくりが
やったのか? 等の詮索は一切せず、求めた金額を即払ってくれる。それで営業妨害で訴
えて事を荒立てるよりはその方が……と思ったために、それがずるずると続いてしまった
ようだ。
 だが、その飼い主が倒れ、そのまま死んでしまったらしいと聞いて、これから一体どう
なるのかと思っていたら、ゆっくり一家は変わらずやってきて商品を食い散らかそうとす
る。さすがにこれは許さずにつまみ出した。
 しかし、今日は親まりさが偉そうに、
「あのジジィの子供がまりささまのおうちに居候することになったんだぜ。そいつにべん
しょーしてもらえばいいんだぜ」
 と言ったので、こうしてやってきたというわけである。
「あの……大体どれぐらいになりますか?」
 なし崩しとは言え、世間的にはどうも自分があいつらの現飼い主のようだと認識してい
る男は、奴らが父親にどれほどの金を使わせていたのかを聞いた。。
「週に……五千から一万円ってとこかな」
「……そうですか」
 そこそこの金額である。払えないことはないが、理由が理由だけに払いたくはない。
「わかりました……もう、あいつらは家から出さないようにします」
 その答えは予想していたのだろう。店長は頷いた。
「あ、そうだ」
 店長が帰ろうとする時に、ふと先ほどのことを思い出して、一家が不味いと吐き出した
徳用ゆっくりフードの箱を持ってきた。
「すいません、ちょっと教えていただきたいんですが、これをゆっくりたちにやったら不
味くて食べられないって言うんです」
「ああ、一番安いやつだね。……ちょっと舌が肥えてると駄目かもしれない。野良なら喜
んで食べるんだろうが」
 そう言われて、今度はゴミ箱から、先の箱を持ってきた。
「これが家にあったんで、これをやったら文句を言わずに食べてたんですけど」
 その箱を見て、店長が納得したような顔をした。
「ああ、それは一番高い部類のゆっくりフードだ。それを食べ続けてたら、さっきのやつ
は受け付けないというのは大いにありうる」
「ちなみに、これってお値段はいかほど?」
「ええっと、そのサイズで、さっきの徳用フードの10倍ぐらいかな」
「え? 10!?」
 いくら一番高いものと低いものとはいえ、まさかそこまで差があるとは思わなかった。
「そうですか……ありがとうございました」
「いえいえ、それじゃ何卒これからもご贔屓に」
 店長は帰っていった。その間際、あの超高級ゆっくりフードはこれから売れ行きが減る
だろうから仕入れを控えようとか思っていたのだが、まあ、それは男の知ったことではな
い。
「う~~~ん」
 男は、どうしたものかと頭を抱えた。安い餌を与えて放っておくだけでは済まなくなっ
てきた。
「とりあえず、外に出れないようにしとかないとな」
 と、そこで思い当たる。
「あいつら! 行ったんじゃ!」
 不味くて食べられないというフードを与えっぱなしである。またスーパーに行ったかも
しれない。どうせつまみ出されるだけだろうが、たった今、もう家から出さないようにす
ると言ったばかりでそれはちと恥かしい。
 急いで行ってみると、いない。
 外に出てみると、丁度、家の敷地から出ようとしているところであった。
「まったく、あのぐず人間! あんな不味いごはんをたべさせようとするなんてゆっくり
してないんだぜ!」
「おみせに行ってお菓子を食べようね。あの人間のせいだよ!」
「まっちゃくだめなにんげんだにぇ!」
「まえのジジィはくちはわるかっちゃけど、ごはんはちゃんとくれちゃよ!」
「れいみゅしっちぇるよ、ああいうのをむのーっていうんだよ!」
「むのーむのー、むのーなにんげんはゆっくちちね!」
 好き勝手言いながら跳ねている。男はダッシュでその前に立ちはだかると、軽く蹴って
親まりさを家の方に戻した。
「なにずるんだぜええええ!」
「もうゆるちゃないよ! このくじゅ!」
 子まりさが体当たりしてくる。
「ええい、いいからさっさと家に戻れ」
 それを掴んで持ち上げると、他の家族は罵倒しつつ周りに群がって体当たりをしてきた。
「はやくきたない手をおちびからはなずんだぜ! このクズ!」
「かわいいおちびちゃんをかえぜ!」
「おねえしゃんをはなちぇえ!」
「ばきゃなの? しにゅの?」
「このくじゅ、ちょーちにのっちぇるよ! いちどみんにゃでこらしめようにぇ!」
「うるせえ、馬鹿ども」
 男は子まりさを掴んだまま、家に戻ると一家も着いてくる。こりゃ具合がいいと思った
男はそのまま一家をゆっくり用出入り口のところまで誘導した。
 そして、扉を開けて、そこへ子まりさを放り込んだ。
「いぢゃいぃぃぃ!」
 中から、床に打ち付けられた子まりさの悲鳴が聞こえてくる。
「このクズぅぅぅ! もうがまんのげんかいなんだぜ! ゆっくりできなくしてやるんだ
ぜえ!」
「まりさ、やっちゃえ!」
「おちょーしゃん、がんばりぇ!」
「もうあやまっちぇもゆるさにゃいよ!」
「ばきゃだね、このくじゅ、おちょーしゃんにやられてないちゃうにぇ!」
「はいはい、ゆっくりゆっくり」
 男は親まりさの渾身の体当たりを無視して、子ゆっくりたちをどんどん部屋に投げ込ん
で、親れいむも同じようにした。
「はいはい、おまえも」
 親まりさの体当たりをキャッチして、投げ込む。しかし、まりさは入り口のところで踏
ん張ったので、爪先で蹴って入れてやる。
「このクズぅぅぅ! ゆるさないんだぜ! もうゆるさないんだぜ!」
 親まりさが出てこようとするのをもう一度蹴飛ばして、男は扉を閉め、表から鍵をかけ
た。
「これで大丈夫、かな」
 と言いつつ、見てみると、なんだかチャチな鍵だ。これで本当に大丈夫なのかと不安に
なってくる。
 すぐに、男は板を買ってきて扉を塞いだ。
 家の中からドアを開けて中を見ると、ゆっくり一家が必死に昨日は不味いと言って食べ
なかったゆっくりフードを食べていた。
「ゆぐっ、まじゅいよぉ」
「おちびちゃん、がまんしてね、これしかないんだよ」
「むーちゃむーちゃ、ふちあわちぇー」
「もっちょおいちいのたべちゃいよぉ」
「おちょーしゃん、なんちょかちてよぉ」
「まつんだぜ、あのクズ人間をやっつけてやるんだぜ!」
 その会話を聞いて素早くドアを閉めた。
「このドア、ゆっくりには開けられないよな?」
 ドアノブの高さからして、無理には決まっているのだが、執念に燃える連中が何をやら
かすかわかったものではない。
「これで、よし」
 ゆっくり部屋のドアの前にさし当たってすぐに開ける必要の無いものを入れたダンボー
ル箱を置いて、それでようやく一安心した。
「うーん、しかし、どうしようかなあ」
 このまま放っておけばいつかは餓死するだろうけど、そこで怨念を抱いてゆっくり一家
が死んだかと思うと、あの部屋を使う気が無くなるだろう。
「そういえば、あとで回線の工事来るんだよな。調べてみよう」
 そう言って、男はパソコンの入った箱を開いた。
「よし」
 数時間後、工事が終わり、パソコンの設置も終わった男は、早速ネットに繋いで、ゆっ
くりについて調べ始めた。考えてみれば、ゆっくりについてろくに知らない。
 ゆっくりの飼い方、金バッチのゆっくりについて、などなど思い当たる言葉で検索する。
色々なサイトを見ているうちに、ゆっくりの飼い主が集う巨大掲示板に過去の質疑応答が
Q&A集としてまとめられているところを発見し、そこを読み耽った。
 そもそも金バッチを取得しているということは躾の行き届いたゆっくりなのではないの
か? 堕ちるにしてもああまで口や態度が悪くなることはあるのだろうか? あの一家が
特別なのか?
 その疑問に対する答えもあった。
「勘違いされている方も多いのですが、金バッチといっても、所詮はそれ用の試験に合格
したという以上のことではありません。中には、本当に金バッチ合格の条件である礼儀正
しくわがままをいわずに飼い主の言うことを聞いて云々といったことを「ゆっくりしてい
ること」と認識しているゆっくりもいますが、それをやれば美味しいものが貰える、飼い
主に可愛がって貰えるという打算で行っているものが大半です。後者のタイプは、躾をし
ないでいるとどんどん堕ちていきます」
 正に、あのゆっくり一家がそのタイプだ、と男は思った。連中の話によると、男の父親
は口が悪く、しょっちゅう一家に「おい饅頭」だの馬鹿だのアホだの言って罵倒し合って
いたらしいが、美味しいごはんはくれるし、雨露を凌げるおうちも明け渡したので、それ
に免じて「勘弁してやっていた」ということだ。
 その話を聞いて、なんとなく父親の気持ちがわかったような気がした。偏屈であまり人
好きがせず、仕事を辞めてからは友達付き合いも無く、伴侶が死んですぐに子供たちは家
を出る。その性格ゆえに口には出さぬが寂しかったのであろう。男も弟も妹も、そこまで
嫌っているわけではなかったのだから、そのことを正直に吐露すれば、時々遊びに来たり
もしただろうに、それができずに話し相手にとゆっくりを買ったのではないだろうか。
 あのまりさとれいむも、金バッチなのだ。最初はちゃんとしていたのだろう。それが、
口は悪いが何をしても怒らない父親に甘えて増長していったに違いない。まりさ曰く「あ
のジジィはまりささまに勝てないのがわかってるから手は出してこなかった」そうだ。
 父親の方も父親の方で、馬鹿だのジジィだのと呼び合って憎まれ口を叩き合う関係を、
気心の知れた友人同士の擬似関係のように思っていたのではないだろうか。あくまで想像
だが、ゆっくりなんぞに罵倒されつつ家はやり飯はやり、食い荒らしたスーパーの商品は
弁償してやり、それでいて口は悪かったとなると、それぐらいしか父親の心情が思いつか
ないのだ。
 父親は、最寄の病院にごく普通に診察を受けに来て、そこの待合室で意識を失ってその
まま逝ってしまったので、あのゆっくり一家について後事を託すこともできなかったのだ
ろう。
 既に語らぬ死者のことを想像していると限りがないが、とりあえず当面の問題は、自分
の家に始末に困る連中が住み着いているということである。
 幾分悩みつつも、男は、
 ゆっくり 安楽死
 という言葉で検索をかける。一番簡単なのは叩き潰すこと。直接手を触れたくないのな
らばゆっくりキラープロなどの強烈な殺ゆっくり剤を使用するか水につけて放置するのが
よさそうだった。
 風呂に水を張り、そこに一家をぶち込んで蓋を閉めて重しを置いて放っておけば、溶け
て死ぬだろう。
 決意して部屋へ行くと、そこにはその決意を根こそぎ揺らがせる光景があった。
「ゆぅゆぅゆぅ」
「ゆぴぃ~」
「おちびたち、おねむなんだぜ、ゆっくりしてるんだぜ」
「ゆゆーん、おちびちゃんたちかわいいよぉ~」
 昼寝をする子供たちを穏やかな顔で見守る親たち。
 当たり前のことを思い知る。こいつらも親子の情はあると。
 そうなると、父親のことを思い出してしまう。こいつらと罵り合いながら、一人暮らし
の寂しさを紛らわしていた父親。本来、それは自分たちがやるべきことだったのに。
 そう思ってしまえば、そこから部屋に踊りこんで問答無用でゆっくりたちを袋に入れて
風呂場に行き、水葬に処してやることなどできるわけもなかった。
 パソコンを置いた部屋に戻り、なんとなくまたQ&Aを眺める。
 とある事情でゆっくりを飼えなくなったという相談があり、それならば掲示板で新たな
飼い主を募集しては? という答えがあった。
 掲示板を見ると、ゆっくりの里親募集のスレッドが立っていた。
 藁をも掴む思いで、男は包み隠さず全てを明かし、あのゆっくり一家を引き取ってくれ
る人がいないかを尋ねた。
 これで駄目なら……やるしかないな。
 とりあえず24時間待ってみよう。
 そう思っていた男だったが、意外に反応は早く来た。いきなり苦しまないように殺して
やれ、というレスがつき、それに賛同する書き込みが続いたが、とうとう引き取ってもい
いという人間が現れた。
 通りすがりのあまぶりーだー、と名乗っているその人間は、その名の通り、趣味でゆっ
くりブリーダーの真似事をしているそうで、堕ちた金バッチを更生させるのを丁度やって
みたいと思っていたそうだ。
 基本的に、堕ちた金バッチには、プロのブリーダーは正式に更生の依頼が無い限りは目
も向けない。一度堕ちたものには、他人に販売する際にその旨を明記する必要があり、当
然値段を安くしないと買い手がつかない。結局は、生まれたばかりの赤ゆっくりを仕込ん
だ方がいいからだ。
 金バッチなのは親の二匹だけだが、四匹の子供も一緒に引き取る、とのことだった。
 もちろん、男は大喜びで引き取ってもらうことにした。
「おーい、おまえらー」
 厄介払いができた嬉しさにニコニコと笑み崩れた男が部屋に入ると、一家揃って就寝中
であった。
 叩き起こして、別の人に引き取られることになったと告げたが、
「なに言ってるんだぜ! ここがまりささまたちのおうちなんだぜ!」
「金バッチのかわいいれいむたちに会いたいなら、その人がここに来てね!」
「あまあまもっちぇきちぇね!」
「もっちぇこにゃいとゆっくちさせてあげにゃいよ!」
「うん、そうか、わかった」
 予想はしていた返事を聞いて、男はさっさとドアを閉めた。一応聞いてみて了解を得ら
れたならば穏当に扱おうと思っていただけで、拒否されてもそんなものは構うものではな
い。
 真夜中、再びやってくると、ゆっくり一家はすーやすーやと寝ていた。そーっと優しく
刺激しないように持ち上げて、あらかじめ柔らかいタオルを敷いておいた段ボール箱に入
れて蓋を閉め、念のためにガムテープで止め、蓋には空気穴を開けておく。

「ゆぅゆぅ……」
「ゆぴぃ~」
「ゆゆぅ……あまあま、おいちーよー」
「ゆふふん、おちびちゃーん」
 朝になっても一家は目を覚まさずに寝ていた。
「ゆぅ~」
 ただ一匹、親まりさだけが、半分起きたような寝たような微妙な状態であった。
「それじゃ、お願いします」
「ええ、立派に更生させますよ」
 そんな声が聞こえてきた。
「これが、金バッチ登録の証明書です。それとこれもどうぞ、ただ、こいつら不味いって
言って食べたがらないんですけど」
「ははは、更生したら、これを食べてしあわせーって言いますよ」
 この声は……おうちに居候させてやってるのに全く役に立たないクズ人間の声だ。別の
声も聞こえるようだが、それは初めて聞く。
「ゆぅ~、クズにんげん、はやく、ごはんをもって……くるんだぜ」
 寝ぼけながら親まりさは言い、すぐにまた寝入ってしまった。

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最終更新:2011年07月30日 01:55
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