ゆっくりいじめ系3069 さよなら!ゆっくりまりさ!

さよなら!ゆっくりまりさ!





























スポーン!

「ゆっくちうまれたのじぇ!」

地面に降り立ったまりさは一瞬「ふにょん!」と体を平らに縮込ませると、
元の丸い体系に戻る反動で小さく弾んで元気な産声をあげた。

「うまれちゃよ!かわいいまりさがゆっくちうまれたのじぇ!」

まりさは自分を産んでくれたお母さんに元気でゆっくりしている所を見て貰おうと、
そのつぶらな瞳を爛々と輝かせながら何度も「ぽいん!ぽいん!」と地面を蹴った。
自慢のおさげを棚引かせてキャッ!キャッ!と笑いながらお母さんの返事を待つまりさ。

「お飾りの大きさが基準以下、マイナス1」
「お飾りに2箇所傷アリ、マイナス2」
「語尾が”のぜ”ですので、マイナス1」
「デフォルトで半笑い、マイナス2」
「なんかムカツクので、マイナス2」
「ゆっ?ゆゆっ?」

「とってもゆっくりしたおちびちゃんが生まれたねっ!」といわれる事を確信していたまりさ。
しかし辺りから聞こえる声は母親の声では無く、なにやらゆっくりできない気がする声のみだった。
お母さんの代わりにその場に居たのは、体の下に不気味なパーツを色々とつけた生き物達。

まりさはこの生き物を知っている。そう、これは「にんげん」と呼ばれる生き物だ。
何故人間がまりさのお母さんのゆっくりプレイスに居るのだろう?まりさには訳が分からなかった。
そしてここに居るはずのまりさのお母さんは一体何処へ行ってしまったのだろうか?
まりさは困ったような表情を浮かべて再びキョロキョロと辺りを見回す。

「ゆっ?ゆっ?おきゃーしゃん!どこなのじぇ!」
「これは何本?」

生まれて早々に困ってしまったまりさに気を使うことも無く、人間の1人がまりさの目の前に三本の指を突きつけた。
まりさは人間の大きな手を暫く目を丸くして「ゆゆーっ!」と見つめていたが、はたと今はそれ所では無い事を思い出す。
何故はぐれてしまったのかはわからないが、きっとお母さんも心配して一生懸命まりさを探しているだろう。

「ゆっ!人間さん!いま忙しいから後にしてにぇっ!」
「何本?」
「おうどん!」

眉毛をキリッ!とさせながら元気に答えるまりさ。
ケチの付け所の無い完璧な回答である。元気でゆっくりしつつ、何よりおいしそうである。
してやったりの表情のまりさを他所に、人間は淡々とチェックシートの「バカ」の項目に○をつける。

「合計、マイナス12点です」
「ねぇよ」
「にんげんさんっ!きいちぇにぇ!まりさはおかあさんを探してるよっ!」

もしかしたら人間さんがお母さんの居場所を知っているのかもしれない。
そう考えたまりさだったが、人間さんはこちらからの問いかけには全く耳を貸そうともしてくれない。
叫びつかれたまりさは「ゆふぅ」とため息をついてその場に「へにょり」と体を沈めた。

「ゆっくちうまれたよっ!」
「ゆゆっ!」

その時、頭上から声が鳴り響くと、赤れいむが「ふにょん!」と地面に降り立つ。
きっとこの子はまりさの姉妹だ。かわいい妹のれいむがゆっくりと生まれたのだ。
まりさは元気を取り戻してぴょんぴょんと地面を蹴って空から落ちてきたれいむの元へ向かう。

「「ゆっくちしちぇいっちぇにぇ!」」

取るものもとりあえず、互いに挨拶を交わす2匹。
やっとゆっくりできた。ようやくまりさの顔に安堵の表情が浮ぶ。

「まりさがおねぇちゃんだじぇ!」
「ゆっ!れいむがいもうとだにぇっ!」

自己紹介も終了してゆっくり同士のスキンシップである「すりすり」を行おうと「ぽすんぽすん」と駆け寄る2匹。
しかし、行く手を阻むように上から伸びてきた人間の手によってまりさは掴みあげられてしまう。

「ゆゆっ!やめてにぇ!まりさは・・・まるでおそらを飛んでるみたいっ!」

人間にれいむの傍へ行くから邪魔をしないで欲しい。と言うつもりだったまりさだったが、
掴み上げられたことによって、その視界が一気に広がるとそんな事もすぐに忘れてしまい、
一気に開けた広大な世界に目をパアァ!と輝かせると、フルフルと身を振るわせて喜びの声をあげた。

「ゆわぁぁっ!とっても高いにぇ!ゆっくち!ゆっく・・・・ゆ゛っ!?」

その時、まりさがゆっくりと産まれた場所からずっと上の位置に
器具によってガッチリと固定されて宙に吊られている丸い物体がまりさの視界に入った。
その大きなゴム毬の様なつるつるした丸い物体にはいくつものチューブが挿入されており
時折、身を揺らしながら苦しそうに体をビクン!と波打たせていた。

「ゆっ!こわいよっ!ゆっくちむこうへいってにぇっ!」
「お゛っ・・・お゛ぢびぢゃ・・・」

まりさは丸い物体に背を向けてプルプルと体を震わせながら、
人間の軽く握られた拳の中にスルリ!と潜り込むと目を瞑って丸い物体が居なくなる事を祈った。
そのまま、まりさは人間の手によって運ばれて丸い物体から遠ざかっていく。
その得体の知れない丸い物体はまりさの姿が見えなくなるまで、何時までも食い入る様にまりさを見つめていた。

「ゆゆっ!まってねっ!おねぇちゃんっ!れいむをおいていかないでにぇ!」
「マイナス2、マイナス1、マイナス2、マイナス・・・・あぁ、駄目だこりゃ」
「この母体はもう寿命だな、規格外しか生まれて来ないぞ、機械を止めないと・・・」
「上の馬鹿どもに連絡してくれ、暢気にお茶ばっか啜ってんじゃねぇってさ」

徐々に遠ざかって聞こえなくなっていく人間達の声。
得たいの知れないゆっくりできない生き物から逃げる事ができたので、
まりさは人間の手の隙間から「にゅる!」と顔だけを出してニコニコと安堵の表情を浮かべた。

「ゆっ!これでゆっくちでき・・・ないよっ!れいむっ!れいむはどこなのじぇっ!?」

しかし、可愛い妹のれいむがあの場所に置き去りだった事を思い出して、途端にまりさはオロオロと狼狽し始めた。
それに、あの場を離れるとお母さんに見つけて貰えなくなってしまうのではないだろうか?
折角助けてくれた人間さんにまた我侭を言うのはゆっくりできないかも、とも思ったが
背に腹は変えられず、せめてさっきよりも大きくて元気なゆっくりした声でまりさは人間に話しかけた。

「にんげんしゃん!ゆっくちしちぇいっちぇにぇ!」
「・・・・・・・・・」
「ゆっ!ゆっくち・・・ゆっくり!しちぇ・・・して!・・・いってね!」
「・・・・・・・・・」
「ゆぅ!まりさちゃんとゆっくち言えたよっ!」
「・・・・・・・・・」
「きいてねっ!にんげんしゃん!まりさはおかあさんにあいたいのじぇ!」
「・・・・・・・・・」
「きいてねっ!いもうとも連れてっ・・・・おきゃー・・・しゃ・・・ゆふぅ・・・」
「・・・・・・・・・」

その時、まりさの体を突然急激な眠気が襲った。
目を何度もしぱしぱと瞬かせながら、必死に眠気と戦うまりさ。
生まれて早々にまりさに降りかかったゆっくりできない出来事の数々、
そして、人間に何度話しかけても無視され続けた為に、まりさは「ゆっくり不足」に陥ってしまったのだった。
肉体が本能的にゆっくりを求めて強制的にまりさを眠りへと誘う。
まりさはそのゆっくり特有の生理現象に逆らう事ができずに「すーや!すーや!」と元気に眠りについてしまった。

きっとまりさは今、お母さんの所へ向かっているのだろう。
目が覚めれば、きっとお母さんとゆっくりできるのだろう。まりさはそう思った。そう思うことにした。
何故なら、返事はしてくれなかったが、人間さんの手はとても暖かくてゆっくりできそうだったからだ。
悪い人ならば、きっとこんなにもゆっくりできない筈。だから大丈夫だ。ゆっくりゆっくり。
こうしてまりさはゆっくりと眠りについた。
そして目が覚めると、何時の間にか傍らで笑顔を浮かべていたお母さんに「ゆっくりおりこうさんだね」とゆっくり待てた事を褒めてもらった。

そんな夢を見た。

「ゆっ!ごはん!?」

ガタガタと揺れる地面に違和感を覚えたまりさは目を覚ました。
ここは一体どこなのだろう?まだ完全に覚醒していない重い体を引きずりながら辺りを見回すまりさ。

そこは細い一本道だった。そしてその地面はガタガタと常に僅かに振動している。
どこまでも続いていく道の脇を白い服を来た人間達が立ち並んでいる。
そして、まりさの周りには足の踏み場も無いほど、無数の赤ゆっくり達が居た。
何匹もの同種のまりさ、そしてれいむ、ありす、ぱちゅりー、ちぇん。
人間には「通常種」と呼ばれるゆっくり達である。

「ゆゆんっ!ゆっくちしていってねっ!」
「「「「「「ゆっ!ゆっくちしていっちぇにえぇぇ!」」」」」

まりさは周りの沢山の同属のゆっくり達に目を輝かせながら挨拶をした。
一同に元気良く、挨拶を交し合う赤ゆっくり達。
何も教えられずに連れて来られた得体の知れないこの環境に不安な表情を浮かべていた赤ゆっくり達だったが、
ゆっくりとした挨拶を交わしたことによって辺りは少しだけゆっくりとした活気に包まれた。

「ゆっ!ここはどこなのじぇ!」

隣に居たありすに頬を摺り寄せて、挨拶代わりの「すりすり」をしながらまりさは問いかけた。
まりさとのすりすりに嬉しそうに頬を高揚させながら、ありすは答える。

「ゆっ!ありすはちらないよっ!」
「ちぇんもわからにゃいよー」
「むきゅん!でもこの道さんはゆっくち動いてるわっ!きっとお母さんの所にむかっているはずよっ!」
「ゆゆっ!ぱちゅりーは賢いんだにぇ!」
「わかるよーこの奥にお母さんがいるんだねーわかるよー」

ぱちゅりーの鋭い推測に周りの赤ゆっくり達は目を丸くして「ゆぉぉ!」と感心したような唸り声をあげた。
先程まで水を打ったように静まり返っていた細長い道の部屋は、赤ゆっくり達の笑顔で溢れるゆっくり空間へと様変わりした。
しかしこの勝手に動く道、人間の名づけた名前は「ベルトコンベアー」という。

「ゆっ?」

突然、白い服を纏った人間がまりさの隣に居たありすを鷲づかみにして持ち上げると、
ありすの体をマッサージするように「ふにふに」と揉み出した。

「ゆっ?ゆっ?やめてねっ!ゆふふっ!くすぐったいよっ!」

ありすは屈託無い笑顔を浮かべながら楽しそうに「プルプル」と体を振るわせる。
そのありすのゆっくりとした様子を見て他の赤ゆっくり達も身を弾ませながら声をあげた。

「ゆっ!ちぇんもやってほしいよー」
「むきゅん!人間さん!ぱちぇにもっ!ぱちぇにもちてにぇ!」
「ゆゆーん!ありすはとってもゆっくりしてるねー」

次々と人間の手によって掴み出されていく赤ゆっくり達。
最初に連れて行かれたありすはマッサージが終わると、ボールに満たされた水で体を綺麗に洗ってもらっている。
「ゆふぅ」と気持ちよさそうな声をあげて満面の笑顔でゆっくりを満喫するありす。
きっとお母さんの所へ行く前に体を綺麗にして貰っているのだろう。

「ゆーっ!まりさも!まりさもきれいきれいにするよっ!」

地面を跳ね回って自分をアピールするかの様に周りの人間に笑顔を振りまきながら声をかけるまりさ。
そんな和気藹々とした雰囲気に包まれていた「勝手に動く道」だったが、
次の瞬間、辺りの様相は一変する。

「ゆ゛ぎっ!!」

突然、背後で響いたその声に驚いて思わず振り返るまりさ。
そこには先程、体を綺麗に洗ってもらってうれしそうな声をあげていたありすが
お飾りを奪われると、髪の毛を引きちぎられて苦悶の表情を浮かべていた。

「い゛っ!い゛びゃい゛っ!なにするにょぉぉ!」

人間はありすの様子に気をかける事もなく、ありすの体を押さえつけながら残った頭髪を握り締めると、
雑草を抜くかのように無造作に真上に引っ張り上げた。

「ん゛ぎゅぅぅぅ!!」

まりすは顔を真っ赤にしながら大きく縦に伸び上がる。
先程までキラキラと可愛らしい光沢を放っていたつぶらな瞳が醜く縦に歪んで血走る。
そして、体が引き千切れてしまうのではないかという位に体が伸び上がった瞬間、
ありすの頭髪は根元からゴッソリと抜けてプルン!と元の丸い体系に戻った。
見るも無残な禿饅頭になってしまったありす。
人間は足元の青いバケツの中に引き抜いたありすの頭髪とお飾りをゴミの様に投げ捨てた。

「い゛ぎっ!」
「ゆ゛べぇ!」
「ぴきゅう!」

ありすの叫び声を皮切りに次々とお飾りを奪われ、髪を毟られていく赤ゆっくり達。
その光景を見て、まだ人間に捕まっていない赤ゆっくり達もパニック状態に陥った。

「いやぁぁぁ!なにちてるのぉぉぉ」
「やめちぇねぇ!やめちぇあげちぇにぇ!」

ダラダラと汗をかきながら必死に人間に説得を始めるゆっくり、
何とかこの場から離れようと涙を撒き散らしながら右往左往するゆっくり。
自分は捕まるまいと目に涙を溜めながら、体を膨らませて精一杯の威嚇をするゆっくり。
その中で、まりさは何もすることができずに、
カチカチと歯を鳴らしながら周りの惨状を呆然と眺める事しかできなかった。

「おねぇちゃぁぁん!おねぇぇちゃああん!」

その時、1人震えるまりさにすがり付くように「ふにふに」と頬を摺り寄せて来たれいむ。
その赤ゆっくりは、先程逸れてしまった妹のれいむだった。

「きょわいょおおお!ゆっくちできないよぉぉ!」
「ゆぐっ!れいむっ!ゆっくち!ゆっくちだよぉぉ!」

再開できた事を喜び合う事もできずに、抱き合うように頬をすり合わせながら、
ガクガクと震えるまりさと妹れいむ。

「びっぎゅうううううう!!!」

視界に広がる悪夢の様な光景に耳を劈くような奇声が鳴り響いた。
まだ逃げ回っているゆっくりも、不幸にも人間に捕まってしまったゆっくりも無意識にその声がした方向へ思わず視線を移す。

「やべちぇぇぇ!やべちぇにぇぇぇ!」

視線の先には最初に捕まって禿饅頭にされてしまったありすが、作業台の上に体を押さえつけられていた。
ありすの体にあてがわれているのは、野菜の皮を剥くときに用いられるピーラーである。
何とかして人間の手から逃れようと必死に体を「にゅるん!にゅるん!」と左右に振って暴れるありす。

「はなちぃてぇぇっ!ゆっくりちゃちぇ・・・・ん゛びゃぁい゛っ!!ゆ゛っぐりゃれ゛っ!!」

人間がピーラーでありすの体をひと撫ですると、必死に暴れていたありすの動きはピタリと止まった。
人間の手馴れた手つきによってあっという間に中身が剥き出しの黒饅頭の様になったありす。
その想像を絶する痛みに歯をギリギリと食いしばって痙攣している。

人間はありすをまりさたちが乗ったベルトコンベアーと併走している隣のベルトコンベアーに投げ捨てると
次の赤ゆっくりを求めて逃げまどう赤ゆっくり達の群れに手を伸ばした。
クワッ!と目を見開いてその手に捕まってなるものかと、必死に跳ね回って逃走する赤ゆっくり達。

「やめちぇにぇ!あっちいっちぇにぇ!」
「いやぁぁぁぁ!!いやぁぁぁ!!」
「わがらないよー!!わがらないよー!!」

まりさと妹れいむは人間達の手を縫うようにして掻い潜ると、何とかありすの近くへとたどり着いた。
隣のベルトコンベアーの上で苦しそうに目を丸くして微動だにしないありすに向かってまりさは叫ぶ。

「ありすっ!ゆっくりしてねっ!ゆっくりしてねっ!」
「ゆ゛っ!までぃさっ!いだいよっ!ゆっぐりできないよっ!」

中身が透けて見えるほどに薄く削り取られてしまった皮は外気に晒されているだけで激痛が走る様で、
ピクリとも体を動かせずに剥き出しになった丸い眼球からポロポロと涙を流すありす。

「ばでぃざっ!いだいのっ!どうなっだの!?あでぃずはどうなっだのぉぉぉ!?」
「な、なんともないよっ!ありすはとってもゆっくりしてるよっ!だからゆっくりしようねっ!」

まりさの目から見てもありすの置かれた状況は絶望的だった。
しかしありすを不安にさせない為に必死に無事であるとウソをついてありすを励ますまりさ。
しかし、次々とありすの居るベルトコンベアーに投げ込まれる無残な姿のゆっくりを見たありすは、
自分が今どういう事になっているのかをゆっくりと理解して、千切れそうな程に大口を開くと断末魔の叫びをあげた。

「ぴゅっ!!ぴゅみ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!!」

狂ったように異様な奇声を発するとコロリと力なく地面に倒れこんだ。
その瞬間、併走していたベルトコンベアーが途切れてありすは忽然とその姿を消した。

「ありすっ!どこいったのっ!ありすぅぅ!」
「おねぇぇちゃん!にげでえっ!にげえちぇにぇぇぇっ!!」
「ゆっ?」

妹れいむの大声に驚いて、咄嗟にれいむの居る方へ体を捻るまりさ。
しかしその方向にいる筈の妹れいむはまりさの視界には入らなかった。
代わりにまりさの瞳の映ったのは大きな大きな人間の白い手だった。

「い゛や゛あああああ!ゆ゛っくちっ!ゆ゛っくちぃぃ!」

人間の手に鷲づかみにされて上空に連れ去られるまりさ。
その時、ようやくありすが何処へ行ってしまったのかわかった。いや、わかってしまった。

「ゆ゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

併走していたベルトコンベアー、その途切れた部分の床には青いバケツが置いてあり、
そこにはギッシリと皮を剥がされた黒いゆっくり達が詰まっていた。
全員、苦しそうに歯を食いしばりながら苦悶の表情を浮かべて、時折思い出したかの様に「びくん!」と痙攣している。
そして次々と「ポトリ、ポトリ」と描き写した様な同じ形相を浮かべた黒いゆっくり達が青いバケツに吸い込まれていく。
まりさには、もうどれがさっきのありすだったかはわからなかった。

「ゆ゛っ!ゆ゛ぎっ!ゆ゛ん゛っ!」

逃げるように地獄絵図から視線を逸らすまりさ。
視線を逸らしたその先にはジッとまりさを見つめる人間の両目があった。
その目だけでまりさの体くらいの大きさがある。大きい。余りにも大きかった。

「ゆぐり・・・っ!ゆぐっ!ゆぐんり゛!でいっでっ!」

何とかこの場を収めようと、できるだけ元気に、明るく、そして友好的に
「ゆっくりしていってねっ!」と叫ぼうとまりさは口をあける。
しかしカラカラに乾いた喉、震える口先、爆発してしまうのでは無いかという位に波打つ餡子の鼓動。
とても挨拶などできる状態ではなかった。
まりさはダラダラと汗を流しながら口の端を引きつらせて人間の顔を見つめる事しかできない。

「ゆぴっ!」

だが、次の瞬間まりさは元のベルトコンベアーに戻された。
わからなかった。何故助かったのかはわからなかった。生還!よくわからないが生還!
しかしそれを喜ぶ暇など無かった。
何故ならまりさを放した人間が次に掴んだゆっくりは・・・

「おねぇぇぇちゃあああん!!だじゅげでええええっ!」

妹のれいむだったからだ。
暫く、れいむを凝視していた人間は小さく頷くとれいむの体を揉み始めた。
最初はゆっくりできるマッサージだったその行為は「死刑宣告」にその姿を変えていた。
皮だけ切り刻み易くなる様に寄った餡子を解しているのだ。

「まっでねっ!やべでねっ!れいむはどっでもゆっぐり・・・っ!ゆっぐりじでるのにぃぃ!」

ベルトコンベアーの上を必死に跳ねてその流れに逆らいながら、れいむを握った人間に向かって叫ぶまりさ。
他の逃げ惑うゆっくりにぶつかり、体を地面に叩きつけられてもすぐに立ち上がって何とか妹へと近づこうと跳ねる。

「までぃざはっ!どうなっでもいいがらっ!れいむはだずげでねっ!」

「ゆふぅゆふぅ」と荒い呼吸を繰り返して地面を跳ねながら必死に人間に向かって懇願の声を張り上げるまりさ。
ゆっくりしていたまりさは助かった。だから同じ位ゆっくりしているれいむもきっと助かる筈。
まりさはそう信じた。お母さんが居なくて途方に暮れている時、空から降ってきてまりさをゆっくりさせてくれたれいむ。
白い人間さんが突然、まりさ達にゆっくりできない事を始めた時、まりさの元へ駆けつけてくれたれいむ。
そんなとってもゆっくりとしたれいむが助からない訳がない。そう、助からない訳が無いのだ。

しかしれいむは助からなかった。

妹れいむはまりさの前で髪の毛を引きちぎられて、皮を剥がれて、あっという間に黒いゆっくりになった。
併走するベルトコンベアーに投げ捨てられた妹れいむは先程のありすの様に
他の黒いゆっくり達と混ざってあっという間にどれがれいむなのかわからなくなってしまった。

「どぼじでぇぇ・・・どぼじでごんなごとしゅるのぉぉぉ・・・」

体力も限界に達してその場に倒れこむまりさ。
ベルトコンベアーに流されてどんどん遠ざかっていく妹が居るであろう場所。
そしてどこまでも続いていると思った一本道の終点が見えてきた。
ベルトコンベアーが途切れて「ずるり」と奈落へ落ちるまりさ。ゴールに居たのはお母さんではなく、赤いバケツだった。

ぱちん!

バケツの底に体を打ち付けてその激痛にギュッ!と目を瞑るまりさ。
お母さんにも会えずに、それどころか唯一の肉親だった妹のれいむも死んでしまった。
どうしてこんなことになっているんだろう?まりさは涙をボロボロと零しながら泣き叫ぶしかなかった。
その時、けたたましい唸り声をあげていたベルトコンベアーの振動音がピタリと止まる。

「よーし、次のクズ餡子用ゆっくりが来るまで休憩」
「はーい」

遠くで人間達の声が聞こえる。
そこから聞こえる笑い声とリラックスした雰囲気にまりさは唖然とした。
あんなにゆっくりできない事をした人間達が「ゆっくり」しているのだ。
まりさにはわけがわからなかった。ただただまりさはゆっくりできなかった。
人間に当てはめるとその感情は「悔しい」という気持ちだったが、まりさにはそれを理解する事ができない。

そして、ずしん、ずしんと地面に響く轟音が徐々にこちらへと近づいてくる。
まりさが痛む体を少しだけ動かして上空に目をやると、高いところからまりさを見下ろす人間の巨大な顔が見える。
それを見てまりさはビクリ!と体を振るわせた。
「きゅう!」と小さく声を漏らして地面に顔を擦り付けて縮こまるまりさ。

「3匹も混入してるじゃねぇかよ」
「こんなザルでいいなら俺でもできますよ、識別なんてさ」
「普通にゃあそこへは就けないんだよ、知り合い同士で楽な仕事回してんのさ、死ねばいいのにな」

よくわからないが、ゆっくりできない人間達が苛立たしそうに話をしている。
まりさが、視線を赤いバケツの中へ移すとそこには、ぱちゅりーとちぇんの姿があった。
2匹ともたった今起きた惨劇を受け入れることができずに、呆然とした表情を浮かべてガクガクと震えている。

「わからにゃいよぉぉぉ・・・わからにゃいよぉぉぉ・・・」

2本の尻尾を自分の体に巻きつけてキュッ!と縮まって震えていたちぇんが、
地面にこすり付けていた顔を僅かに持ち上げた。

「ぱちゅりーぃぃ、お母さんの所に行くんじゃなかったのぉぉぉ・・・?」

涙をポロポロと零しながらぱちゅりーに問いかけるちぇん。
ぱちゅりーは震える体をカタカタとちぇんの方へ向ける。

「むきゅっ・・・ぱ、ぱちぇにもわかにゃいわ・・・っ、むぎゅっ!けふっけふっ!」

顔を真っ青にして時折激しく咳き込むぱちゅりー。
何もしていなくても時折生きる事を諦めてしまう程に体の弱いぱちゅりー種にとって
この状況はいつお迎えが居てもおかしくない程に過酷なものだった。

「ゆっ!ゆぅ・・・ぱちぇ!ちぇん!ゆっくち!ゆっくちしようにぇ!」

まりさはズルズルと這うようにして2匹に近づくと、
抱きつくように頬をすり合わせて「すんすん」と泣き始めた。
2匹を何とか元気づけようという気持ちもあったが、
まりさは自分の他にも生き残ったゆっくりを見つけてすがるように飛びついたのだ。
その「ゆっくりしよう」と言う言葉も自分に言い聞かせるという意味合いのほうが強かった。
明るい言葉とは裏腹にこの世の終わりの様な表情を浮かべるまりさを見て、
ぱちゅりーとちぇんもその表情をグシャグシャに歪ませた。

「わっわがるよぉぉぃ、ゆっくち!ゆっくちちようにぇ!」
「むっ!むきゅっ!大丈夫よっ!ぱちぇが居ればあんしんよっ・・・ゆっくちできるわっ」

身を震わせながらも「むきゅん」と胸を張る様な姿勢をとるぱちゅりー。
そんな何やら頼もしいぱちゅりーの態度に、まりさはまりさにお姉ちゃんが居たらきっとこんな感じなのだろうと思った。
その時、まりさの脳裏にゆっくりとした笑顔を浮かべている妹のれいむの姿が過ぎる。
まりさはれいむにお姉ちゃんらしいことを何一つしてあげる事が出来なかった。
このぱちゅりーの様にまりさは頼りになったのだろうか?ただ一緒に抱き合って泣いただけである。
まりさがもっとしっかりしていればれいむは死なずに済んだかもしれない。

「ゆっ・・・ゆぐっ!ゆわぁぁぁん!!」

まりさはポロポロと涙を零しながらぱちゅりーの頬に自分の頬を摺り寄せた。
ちぇんもそんな2匹を見ながらオロオロと尻尾を振って「ゆっくちだよ、ゆっくちだよ」と頷いている。
しかしその時そんなゆっくり達の「ゆっくり模様」を嘲笑うかの様に、
地面が大きく揺れて3匹の体が「ふわり」と宙に浮くと、壁に全身を叩きつけられた。

「「「ゆべぇ!」」」

まりさがコロコロと地面を転がりながらも何とか空を見上げると、
景色がグルグルと回りながら物凄い速さで移動している。
人間がバケツを持って何処かへ移動しているのだ。

「むぎゅっ!だ、だいじょううぶよっ!ぱちぇにゆっくちつかまってにぇ!」

真っ青な顔色もなんのその、ぱちゅりーがガクガクと身を震わせながら、
まりさとちぇんをかばう様に体を伸ばして立ち上がるような体勢を取る。
2匹はぱちゅりーにしがみつく様に体を押し付けると、まるで念仏の様に「ゆっくりゆっくり」と何時までも唱え続けた。

「これ、そっちのCラインのゆっくりだわ、こっちに来てたぞ」
「えっ?Cラインはさっきので今日の運転は終わりだぞ?」
「マジかよ、どうすんだよこれ」
「この品質じゃCラインより上には持っていけないしな」
「明日まで持たないだろうし、処分すれば損失として記録されちまうぞ」
「あぁ、鬱陶しい糞饅頭だ」

人間達の苛々としたゆっくりできない声が赤いバケツの中に響く。
まりさ達と一緒に居てゆっくりできないのなら、ほおっておいてくれればいいのに。
あの暖かいゆっくりできた人間さんの手はまりさの思い違いだった。
人間さんはゆっくりできない。
それなら、ゆっくりできない同士、関わる事無く「えいえん」にお互いに顔を会わせないで、
人間さんとゆっくり達は別々の場所で好きにゆっくりすればいいのに。
再び「ゆっくり不足」に陥ってしまったまりさは、泥の様な睡魔に襲われながら、ふとそんな事を考えた。





所変わって施設の外。
紺色のシンプルな作業着を着た男がトラックの荷台に荷物を運び終えて一息ついている。
そこに先程の白い防塵服を来た男のひとりが小さな箱を抱えて男の元へ駆け寄って来た。

「ご苦労さん!」
「は?・・・・あぁ、お疲れ様です」

別段親しくも無い防塵服の男の気さくな様子に運転手は、少し戸惑った様な表情を浮かべて挨拶に答えた。
防塵服の男は運転手の肩に馴れ馴れしく手を回すと、手に持った小さな箱を運転手に押し付けるように手渡す。
それを無理やり握らされたトラックの運転手は怪訝な表情を浮かべた。

「は?何ですかこれ?」
「これから○○までぶっ通しでしょ?甘いものだよ、おすそ分け」
「えぇ・・・?はぁ、どうも・・・ご馳走様です・・・」
「運転気をつけてな、ゆっくりしていってねっ!ってか?」
「はっ・・・・ははっ・・・・いってきます」

軽快に立ち去る防塵服の男。
それを何とも言えない複雑な表情で見ていたトラックの運転手は小さくため息をついてから運転席に乗り込む。
そして手に持っていた小さな箱を暫く見つめていたが、面倒臭そうに蓋を開いた。
中には先ほどのまりさ、ぱちゅりー、ちぇんの3匹が身を寄せ合いながら「すーや!すーや!」と寝息を立てている。
ボロボロの3匹は閉じた瞳から薄っすらと涙を浮かべてモゴモゴと口を動かしている。

「お、おきゃーしゃん・・・まっちぇちぇにぇ・・・」
「食えるかッ!!!」

すぐさま、蓋を閉じて運転席の後ろ側の荷台に小箱を投げ捨てる運転手。
加工所の奴等は頭のネジが何本か抜け落ちて居るのではないだろうか?
何故、人語を操るこいつらにその辺の駄菓子と同じような扱いができるのだろう?
別に可愛いとか愛くるしいとかそういう感情が沸くからではない。
一言で言うと「面倒くさい」のだ。

原型を残してぐったりとうな垂れた豚や、羽を抜かれてぶら下がる鳥を好き好んで買う人間が居るだろうか?
物を食べるという人間として避けて通る事の出来ない行為にそういった負の要素を持ち込みたくない。
何も難しい事を考えずに屠殺場によってバラされた肉をお手軽に調理してパクつきたい。それが運転手の考えだ。
そして何よりも重要な問題はこの運転手、生粋の辛党である。

「何回言えばあいつら俺が辛党って覚えるんだろ」

苛立たしげにキーを回してトラックにエンジンをかける運転手。
けたたましい轟音と共にトラックが施設内を駆け抜けて出口へと移動する。
眠そうな顔を隠そうともしない警備員とすれ違うと、トラックは巨大な施設から抜け出して国道へ飛び出した。

ゆっくりの繁殖からその加工まで一手に担う「ゆっくり加工所」
この加工所は生まれたゆっくりをその品質によって様々な分野へ商品として販売していた。
ここで生まれたゆっくりが生きたまま外に出られる事は極めて稀である。

様々な偶然が重なってこの地獄の加工所から出る事ができたまりさ。
揺れる荷台に無造作に放り込まれた小箱の中でまりさ達は疲れ果てて弱々しい寝息を立てる。
そこでまりさはまだ生まれてから一度も会った事の無いお母さんの夢を見た。
夢の中に現れたまりさのお母さんは・・・

(怖かったね。もう大丈夫だよ、おちびちゃん)

と、優しい笑みを浮かべてまりさをすりすりをしてくれた。
そんなお母さんのゆっくりした様子にまりさの寝顔は幸せそうに少しだけ綻んだ。





「ゆ゛っ!!」

加工所の施設内、台車に乗せられたでっぷりと太った禿れいむが人間に殴られて目を覚ました。
目を丸くして驚いた表情を浮かべながら、キョロキョロと辺りを見回している。

「うるせえぞ、禿饅頭」
「ゆっ!ゆっくりごめんなさいっ!れいむつい、すーや!すーや!しちゃったよっ!」

ある日、れいむは目を覚ますとこの加工所に居た。
人間さん達によって体中にゆっくりできない器具の数々を無理やり取り付けられて、
「すっきり」をしていないのに「にんっしん」を繰り返し、来る日も来る日もおちびちゃんを産み続けた。
しかし、今日のゆっくりできない「おしごと」が終わった時、人間さんの口からこれでれいむの仕事は全部終わったと告げられた。

「れいむはおちびちゃんの夢を見たよっ!お外に出たらすぐにおちびちゃんを探してあげないとねっ!」
「うるせぇってんだよ!」

再び人間の拳がれいむの脳天に突き刺さった。
れいむは再び「ゆっくりごめんなさい」と謝ったが、その表情は先程と変わらずにニコニコと嬉しそうなままだった。
全部の仕事が終わったので、れいむは自分のゆっくりプレイスに帰してもらえるだろう。
そうしたら逸れてしまった沢山のおちびちゃん達を探して、元々住んでいた森の群れへと帰ろう。
髪の毛さんが無くなってしまったので、最初はれいむがれいむだと言う事に気がついて貰えないかもしれないけれど、
ゆっくりと説明すれば大丈夫だろう。だってれいむの群れにいたゆっくり達はとってもゆっくりしていたのだから。

れいむはやっとお外に出られる。だってれいむのお仕事は全部終わったのだから。

人間が分厚い扉を両手で開けてれいむをその中にいれると、荷台を傾けてれいむだけを置いて荷台だけを部屋から取り出した。
地面に体をぶつけたれいむが「ゆっ!」と、もぞもぞと体を動かして立ち上がり、「ゆっ!ゆっ!」と辺りを見回している。
その分厚い金属で四方を囲まれた狭い部屋は真っ暗で、はじめて見たれいむにはそれが8畳ほどの狭い部屋とわからないようだった。

「ゆっ!お外は今まっくらだねっ!人間さんっ!ゆっくりさようならっ!れいむはおうちにかえるよっ!」

こちらにキリッ!とした表情を向けてペコリと器用にお辞儀をするれいむ。
人間はそんな禿饅頭の様子に気をかける事もなく、分厚い扉を閉じると閂を落として扉の脇にあるレバーを下に引いた。
入り口の傍に設置してあるランプが点灯して辺りに低い振動音が響く。
暫く扉の内側から何かがぶつかる音が何度も響いたが、すぐにそれも収まり、低い機械の起動音だけが辺りに何時までも鳴り響いていた。

しつこい様だが、ここからゆっくりが生きたまま外に出られる事は極めて稀である。












つづく









  • ゆっくり見せしめ
  • ゆっくり電柱
  • ゆっくり脳内補完
  • 副工場長れいむの末路1234
  • ゲスの見た夢12
  • 元野良れいむの里帰り
  • ゆっくりできない四畳半1
  • 黒い箱123
  • さよなら!ゆっくりまりさ!1

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2011年07月29日 03:11
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。