ゆっくりいじめ系3018 おうちかえる!

 おうちかえる!


      十京院 典明




 気がつけば…!そこは地の獄っ…!


 れいむは地霊殿に迷い込んでいた…!



 が、まずはいつものようにご挨拶。
「ゆっくりしていってね!」
 返事なし。
「ゆっくりしていってね!ゆっくりしていってね!」
 返事なし。
「ゆっくりしていってね…」
 遠くで猫の鳴き声がしたような気がするが、れいむの呼びかけに答えるものは今のところない。
「……」
 辺りを見回す。
「ゆゆっ!ゆっくりひろいよ!」
 地面を見る。ワインレッドの濃淡で方眼に区切られた床張りと、華麗なステンドグラスが目を惹く。
「ゆ〜!とってもきれいだね!」
 そしてれいむはおうち宣言をした。
「ここをれいむのおうちにするよ!」

 そこへ一人の少女が通りかかった。地霊殿の主である古明寺さとりである。
 すかさずれいむは挨拶をする。
「ゆっくr」
 ほとんど同時にさとりが口を開く。
「”ゆっくりしていってね”ですか……?
 ここは私達の居住地で、貴方に”ゆっくりしていってね”と挨拶される謂れはないのですが……
 まあ大目に見ましょうか。
 こちらこそ、どうぞ”ゆっくりしていってね”」
 皮肉を含んだ長台詞に、大事な挨拶を邪魔される。
 れいむはたちまちぷくぅぅぅと膨れた。
「おねーざんなんかやだ!なんかやだよ!れいむのゆっくりじゃましないでね!」 
「なんだか随分と身勝手な子ですね、何処から来たのかしら」
「きいてるの!ゆっくりしてね!」
「挨拶ひとつ邪魔されても安息を得られないとは、難儀なことです。
 それにしても…なんというか…癇に障りますね…」
 さとりは腰をかがめて、ゆっくりれいむに触れる。
 とたんにれいむはご機嫌になった。
「ゆゆっれいむかわいいでしょ!ゆっくりしていってね!」
「……まあ、大きな問題を起こすこともないでしょうが……」
 どこか引っかかりを覚えて、さとりはれいむを調べることにした。


「ゆ!おなかすいた!ごはんたべたい!」
「……?勝手に食べて下さいな」
「おねーさんかわいいれいむにあまあまちょうだいね!」
「どうしてそうなるのでしょう」
「れいむがおなかすいたからだよ!れいむのぽんぽんゆっくりしてないよ!」
「……まあ、いいでしょう」

 飛んできた妖精に頼んで、食べ物を用意してもらう。
「なぜカレーまん……いえ、ありがとうございます」
 妖精に礼をのべるさとりと、礼など一言もなく食べ始めるれいむ。
「むーしゃ、むーしゃ……」
「おいしいですか、そうですか」
「むーしゃ、むーしゃ……
 がらい゛いいいいい!!!ゆっぐぢでぎないいいいい!!」
 外側部分は美味しく食べていたれいむだったが、中の部分まで食べ進めたところで絶叫する。
「辛いものは苦手ですか……そんなに泣かないでくださいよ」
「おねーさんれいむあまあまがたべたいよ!あまあまもってきてね!」
「しょうがないですね……」

 飛んできた妖精に頼んで、食べ物を用意してもらう。
「なぜあんまん……ですが、これならきっと大丈夫。ありがとうございます」
「あまあまさんのにおいだよ!あまあまさんゆっくりしていってね!」
「……あなたは少し感謝の心を知るべきですね……」
 先ほどと同じように、すぐさまがっつき始めるれいむ。
「むーしゃ、むーしゃ……あまあまさんほかほかだね!れいむにゆっくりたべられてね!」
「あ」
 覚りの能力を使うまでもなく、読めてしまった未来。
「ちょ、ちょっとお待ちなさい……」
「むーしゃ、むーしゃ……あぢゅいぃぃぃぃぃ!!!!!ゆっぐぢじだいよぉぉぉぉぉ!!!」
「やれやれ……」
「ゆぐぅぅぅぅ!!ゆぐぅぅぅぅ!!」
 あんまんの中身って、どうしてあんなに熱いのだろう。

 またもれいむは膨れる。
「ぷっくぅぅぅぅぅぅ!!おねーさんはさっさとゆっくりできるあまあまもってきてね!」
「まったく……」
「きいてるの!?かわいいれいむがたのんでるんだよ!」
 さとりはため息を一つ吐くと、
「ゆ゛っ!!」
 れいむのお腹をつま先で蹴った。
「いい加減にして下さい」
「ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ」
「人並みに口を利くなら、人並みに礼儀を知ってください」
「ゆぅぅぅぅ……!もうゆるさないよ!れいむほんとにおこったよ!」
「で?」
 またもお腹にめり込む小さなつま先。
「いぢゃいぃぃぃぃぃ!!ゆっぐりでぎないぃぃぃぃ!」
「自業自得です。少しは反省して下さい……」
「もうやだ!!おうちかえる!!」
「え……何ですって」
 さとりの顔色が変わった。
「こんなところやだ!れいむおうちかえるよ!」
 ぽいんぽいんと跳ねてゆく後姿に、さとりは攻撃を仕掛ける。
「食らいなさい…!」
 それも先ほどのような物理攻撃ではなく、小手調べのテリヴル・スーヴニールでもない。
 対象の心的外傷を抉る、本気の想起攻撃だ。
「想起『お兄さん48の虐待技』(何これ…変な名前)」
「ゆ゛っ!ゆ゛っ!ゆ゛っ!ゆ゛っ!」
「想起『加工所の春夏秋冬』(訳が解りません)」
「おぢびぢゃぁぁぁぁぁぁん!!!!ばりざああああああああああ!!!!!」
「とどめです……想起……『狂血玄翁』!」
「ゆぽびゅっっっ!!」


 * * * *


 ゆっくりは自分のいる場所全てを自分の家だと思い込んでいる。
”ゆっくりぷれいす”というのは、その中でもお気に入りの場所、というだけに過ぎない。

 ゆっくりが「おうちかえるよ!」と言う時、それは、ただ単におうちに『帰る』のではなく
 おうちを『換える』のだと言う。

 それが解ったから、さとりは討った。
”対象者だけの痛み”――それゆえさとり自身が読心による痛みの反響を受けず攻撃できる――『想起』で、
 一切の仮借なくあの不思議な物体を葬り去った。

「おうちかえるよ!」と言ったゆっくりは、そのほとんどが潰れてその命を終えるという。
 あるいは、少なくとも観測者の視点からはフェードアウトする。
 もし、そうならなかったら?
――つまり、「おうちかえる!」と言ったゆっくりをそのままにしておいたら……
 そんなことが本当にあるとも思えないけれども、

(こんなところれいむのおうちじゃないよ!れいむかえる!れいむおうちかえるよ!)
 そう、あのれいむが望んだように、

 強い現実の否認によって、ゆっくりのおうち=ゆっくりの視点を中心としたこのあまねく世界が、
 本当に”換え”られてしまったなら?

 言葉のみで意志を通じ合う人間には気づきえない。
 心を読む覚りである彼女だけが気づいた誤謬。
『おうち』『換える』。
「どうせ地上の産物なんでしょうが……地上は大丈夫なんでしょうかねえ……」

 もちろん土の上では人々がゆっくりを葬り去っている。
 それが自らの命を繋いでいると、誰一人気づくこともなく。



 * * * *


−遠い遠い過去−


「ゆゆっさうろぺるたさんゆっくりしてね!」
「……」
「ゆっくりしていってね!ゆっくりしていってね!」
「ぷっくぅぅぅぅぅ!!どぼじでゆっぐりじでいっでぐれないのぉぉぉぉ!!!」
「……」
「もういいよ!れいむおうちかえる!」
 サウロペルタは何も言わずのしのしと歩き去り、れいむもまた安らげる居場所を求めて跳ねてゆく。

 その時、唐突に冷たい風が吹いた。
「ゆゆっ!つめたいよ!かぜさんもっとゆっくりしていってね!」
 それはよく晴れた、白亜紀の終わりごろの、或る一日のことだった――









 END

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最終更新:2013年08月27日 21:02
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