ゆっくりいじめ系2966 野菜の生え方について本気出して叩き込んでみた 後

このSSは、fuku6877「野菜の生え方について本気出して叩き込んでみた 前」の続きです。
未読の方は、そちらを先にお読み下さい。





れいむは、俺の想像よりもずっと大きな苗を頭に宿していた。

「ゆ゛っゆ゛っゆ゛っ......ごぱっ」

根に支配されたまま跳ねてきたのであろうれいむの体は、凄惨たる有様だった。
皮膚に十数カ所の断裂を作り、その間から白い異物が見て取れる。
小刻みに痙攣しつつ、口からボトボトと餡子を吐き出す。
普通ならとても助からない状態だ。

俺はジュースのパックを開けるのももどかしく、注ぎ口を引きちぎってれいむの頭にぶちまけた。

「じじいいぃぃ!! はやぐ! はやぐれいぶをだすけるんだぜええぇぇ!!」

今やってる! 少し黙っとけ。
苗を抜くことよりも、まずは傷口をふさぐことが肝要だ。

「ゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っ」

オレンジジュースを掛けられた傷口がみるみるふさがっていく。
それにつれて痙攣も収まってきた。

「ゆ゛っ......ゆ゛っ......おにい......ざん」
「でいぶ! でいぶうう!!」

全ての傷口がふさがり、れいむの目に弱い光が灯った。
その目と俺の目が合うと、れいむはゆっくりと口を開いた。

「ごべんなざい......おにいざん......ごめんなざい......」

真っ先に出てきたのは、懺悔の言葉だった。



俺はこの4日間、盗聴器から全てを聞いていた。
結論から言えば、予定通り......いや、予定以上の成果だった。

おそらく昨日の早朝に発芽が発覚したのだろう。
その時は浮気者だとか婚約解消だとか、的はずれな言葉も聞こえたが、
今日になってきちんと理解されたようだ。
群れの長らしきぱちゅりーや、他の多数のゆっくりも視認しているはずだ。

そして何よりなのが、このれいむの物わかりが非常に良かったことだ。
俺の施した処置をちゃんと覚えていて、それが原因だと繋げることができた。
頭の回転は遅いが、論理的に考えることはできるようだ。
純粋なれいむを選んで良かった。一般的なゲスゆっくりならばこう上手くはいくまい。

「れいむ! あやまるひつようなんてないんだぜ! しゃべっちゃだめなんだぜ!
 じじいぃ!! はやくこのくきをぬくんだぜぇ!」

......このまりさのような。
盗聴している間から考えていたが、何故れいむはこんなまりさを選んだのだろう。どうにも疑問を禁じ得ない。

俺はれいむを優しく抱え上げた。

「いだっ!! ゆ゛うあぁ......」

普通のゆっくりにはない、固い感触がした。やはり根は全身を蹂躙している。

「いだい......おにいさん、ごめんなさい......れいむを、たすけて......」
「ああ、助けてやる。だから、今は楽にしてていい。ゆっくりしてていいぞ」

その言葉を聞いて、れいむはすぐに気を失った。
俺の中に、実験の当初にはなかった感情が芽生えていた。このれいむは絶対に助けてやりたい。

「まりさ、今かられいむを家の中で治療する。だから、お前はここで待っててくれ」
「なんでなんだぜ! れいむとまりさはいっしんどうたいなんだぜ!」
「すぐ近くに別のゆっくりがいると、失敗する可能性があるんだよ。暴発したら、れいむは死ぬかもしれない」

そんな物騒な治療方法ではないが、現場を見られると都合が悪いので適当なことを言っておく。

「ゆぐぐ......わかったんだぜ......じじい! もしれいむをゆっくりできなくさせたら、
 おまえもすぐにゆっくりできなくさせてやるんだぜ! わすれるんじゃないぜ!」

本当に、何故こんな奴を選んだんだ、れいむ。



さて。『治療する』といっても、俺はゆっくりの医者でも何でもない。思いつく方法は一つしかなかった。
ひたすらオレンジジュースを掛けつつ、無理やり茎を引っこ抜く。

俺がれいむの頭に埋めた種は3粒。そのうち発芽したのは1粒のみ。
1粒のみなのだが......それが明らかに暴走していた。
もともとキュウリは根の浅い植物だ。発芽しても、数日では命を脅かすまでは行かないだろうと高をくくっていた。
しかし実際には、今にも皮を突き破らんとするまで生長している。
このキュウリ、虐待お兄さんの魂でも乗り移っているのだろうか。花も咲いていないのに。

洗面器を床に設置。その中に気絶したれいむを投入。
新しいオレンジジュースの紙パックを開き、左手で紙飛行機を持つように構える。
左肘でれいむの頭を押さえ、手首を傾けてオレンジジュースをチョロチョロと掛ける。
右手で茎をむんずと掴んで――

「いくぞ、れいむ」

徐々に引き上げ始めた。
れいむの脳天が盛り上がった後、横に裂けた。

「ゆぐわあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ!!」

気絶していたれいむも起きてしまった。もっと一気に引き上げてしまえば、苦痛の時間が短くできただろう。
だが、そうすれば確実に致死量の餡子が飛び出てしまう。
オレンジジュースを供給しつつ、最も苦しい方法で、ゆっくりと抜いていくしかなかった。

「ゆ゛っ!! ゆ゛っ!! ゆ゛っ!! ゆ゛っ!!」

根は深い。それでいて複雑に絡み合っていた。
眼球の裏側に、とぐろを巻くように張っていた。反動で危うく目玉が転がりかけた。

「ゆ゛っ!! ゆ゛っ!! ゆ゛っ!! ゆ゛っ!!」

ぶちぶちという皮の千切れる音にも怯まず、俺は一定の速度で引っ張り続けた。
最深は上あごの辺りまで伸びていたんじゃないだろうか。

「ゆ゛っ!......ゆ゛っ!......ゆっ」

大量の餡子をまといつつも、根はれいむの体から完全に抜き取られた。
しかし絶え間なく注がれていたオレンジジュースのおかげで、れいむの中の餡子は即座に生成され減っていない。
頭部の皮もすごいスピートで回復していき、頭頂部に硬貨大の欠落を残すのみとなった。

ここで俺はジュースの滴下を止めた。根と一緒にくっついて出てきた、将棋の駒サイズの機械を手にする。
まりさを外に出したのは、こいつを見られないようにするためだ。
こいつをどうしようか。

......少し考えた後、俺は再び頭皮の裏に貼り付けた。念には念を入れて、というやつだ。
回収はできないだろうが、畑の被害がなくなると思えば悪い出費じゃない。

「ゆっ......ゆぅ......」

パックを逆さまにして、残りのジュースをかける。
ちょうど全て注ぎきったとき、れいむはどこにでもいる普通のれいむに戻っていた。

「......ゆっくり! ゆっくりしていってね!」

そして、弾けるような笑顔を俺に向けた。
俺は大きく息をついた。

「れいむ。痛いところはないか? 俺が誰だか分かるか?」
「ゆっ! だいじょうぶだよ! おにいさんはおにいさんだよ!」

摘出は後遺症を与えることもなく、無事に成功したようだ。記憶も失っていない......と見ていいのだろう。

俺はれいむを抱え、玄関から外に出た。

「れいむ! だいじょううぶなんだぜ!?」

まりさが待ちかまえていた。れいむを地面に降ろしてやる。

「まりさ! もうだいじょうぶだよ! ゆっくりしていってね!」
「れ、れ、れいぶううぅぅ!! よかったんだぜえええぇぇ!!」

抱擁を始める2匹。一段落するのを待ってやった。




その後、2匹を畑の一角に連れていった。

「れいむ、覚えてるか。ここにも、お前の頭に埋めたのと同じ種を蒔いたんだ」

そこには一株の芽が生えている。れいむの頭にあったものより成長は遅いが、同じ種の植物だった。
れいむは確認するまでもない、という風に目を閉じて頷いた。

「おぼえてるよ......おにいさん、ごめんなさい。れいむがまちがってたよ。
 おやさいさんは、にんげんさんが“たね”からそだててるんだね......ゆっくりりかいしたよ」

嘘みたいだろ。ゆっくりの本心からの言葉なんだぜ、これ。
不覚にも感動を覚えてしまった。

「うん。俺の方が正しいと証明されたわけだ。それで、約束の罰なんだがな」

れいむはビクッと飛び上がった。ゆっくり視線を上げて、今にも泣きそうな目で俺を見つめた。
だが、それだけ。文句はない。許しを乞う言葉もない。じっと、俺の次の言葉を待っていた。

「......散々苦しい思いしただろうし、無しでいい」

こんな状態なら、追い打ちは必要ない。むしろ逆効果だろう。
目的は虐待ではなく、ゆっくりに野菜の仕組みを知ってもらうことなんだから。

れいむは明らかに拍子抜けしたようだった。

「ゆ......?い......いいの?」
「ああ、いいって」
「ゆ......ゆ......ゆっ! おにいさん! ありがとう!」

涙をうっすらと浮かべたまま、にっこりと笑うれいむ。
またもや不覚。ゆっくりをかわいいと思ったのは初めてだ。

「そのかわり、群れのゆっくりに野菜の生え方をしっかり教えてやってくれ。
 あと、もうここの畑に入らないように、ともな」
「わかったよ! れいむ、ゆっくりおしえるよ!」

全てが、怖いくらいに計画通りだった。
これで帰ったれいむが報告すれば終わりだ。
群れのゆっくりは、二度と畑を襲うことはないだろう。

「......じじい」

その時、今まで一言も口を挟まなかったまりさがポツリと呟いた。

「ゆっ! まりさ! じじいじゃなくて、おにいさんだよ!」
「......おにーさん、おねがいがあるんだぜ」

まりさは無表情だった。声も平坦で感情がこもっていない。

「おやさいさんがにんげんのもの、だというのはわかったんだぜ。
 でも、それじゃまりさたちはおやさいさんをいっしょうたべられないんだぜ。
 けっきょく、にんげんのひとりじめと、かわらないんだぜ」
「ま......まりさ!そんなこといっちゃ、ゆっくりできないよ......」

れいむは慌てふためいていた。俺の顔色をちらちらと伺ってくる。
まりさはそれを気にもかけずに続けた。

「だから、その“たね”を、まりさたちにもわけてほしいんだぜ」
「......ふーむ」

機嫌のいい俺は、まりさの言葉に妙に納得してしまった。
確かに、このままではゆっくりたちが野菜を食べられることはなくなるだろう。
まりさの口ぶりは喧嘩腰だが、育てた野菜そのものをよこせとは言っていない。
種を分けてほしい――つまり、野菜を育てるチャンスをくれということだ。

「わかった。これっきりになるだろうけど、ちょっと分けてやるよ」
「......ありがとうなんだぜ、おにーさん」

あまり、後腐れさせる恐れがあるような接点は作りたくなかった。だがこれくらいなら許容範囲だろう。
それよりも、まりさの頭の回転の速さに感心してしまった。
ゲスゆえの知能か。いや、悪いのは口調だけで性格はそこまでゲスではないのかもしれない。
第一印象だけで判断してはいけないんだな。人間も、ゆっくりも。

れいむも「ありがとうおにいさん! これでおやさいさんがたべられるね!」とはしゃいでいた。

キュウリの種を十数粒持たせる。育て方も教えておいた。
土を軟らかく掘った所に蒔き、適度に水をやればいい、といった簡単なものだが。

「じゃ、これでいいな。ふたりともしっかり伝えてくれよ。
 もしゆっくりが野菜をかじりに来たら、これからはその場で叩き潰すからな」
「わかったよ! じゃあね、おにいさん! ゆっくりしていってね!」
「ゆっくりしていくんだぜ」

俺は山に戻っていく2匹の背中に手を振った。
見えなくなった頃、懐からワイヤレスイヤホンを取り出した。




れいむは軽くなった頭でうきうきと考えていた。
これでまりさと、ゆっくり結婚生活が送れる。
その上、これからは堂々と野菜が食べられるかもしれないのだ。
これもあのお兄さんのおかげだ。ありがとう、おにいさん。

「ゆゆっ!まりさ、かえったらおやさいさんゆっくりそだてようね!
 ゆっ!そのまえに、みんなにゆっくりおしえてあげようね!」
「......れいむ」

だが、まりさの返事は暗かった。跳ね方もうつむき加減で、どうも元気がない。
どうしたんだろう。

「れいむは、あのじじいがゆっくりできるじじいだとおもうんだぜ・・・?」
「ゆん、もちろんだよ! とってもゆっくりできるよ!」

即答したが、それへの応答は返ってこなかった。
代わりに、ギリッという歯ぎしりのような音が聞こえた。




群れに着くと、全てのゆっくりが一箇所に集まっていた。
2人が帰ってきたのに気がつくと、一斉に歓声を上げた。

「おかえり! あら! れいむのあたまが、とかいはにもどってるわ!」
「なおったんだねー、わかるよー!」
「ち、ちーんぽ!」

もみくちゃにされる2人。れいむはありがとうを言いながら、長ぱちゅりーのところまでかき分けて進んだ。

「むきゅ。ぶじだったようね......にんげんさんがなおしてくれたの?」
「そうだよ!......おさ、やっぱりれいむたちがまちがってたよ」
「むきゅ!? それは......」
「いまからせつめいするよ! みんな、ゆっくりきいてね!」

れいむは大声で説明を始めた。
野菜が何もない土から生えて来るというのは間違いで、種から生えてくるということ。
みんなも見たように、れいむの頭からは野菜が生えてきた。あれは種を埋め込まれたから。
そして、何もしなくても生えて来るというのも間違い。土を軟らかくしたり、水をやったりする必要がある。
それをやっているのが人間さん。つまり、野菜を育てているのは人間さん。

「だから、にんげんさんはひとりじめしているわけじゃないんだよ! ゆっくりりかいしてね!」

それを聞いた群れのゆっくり達に、大きなざわつきが広がった。

「ゆ......そうなの? たねさん......からはえてくるの?」
「おきゃーしゃん、ほんと?」
「ゆぅ! そんなわけないよ! にんげんさんがひとりじめしてるんだよ!」
「でも......れいむのあたまからはえてきたんだねー。わからないよー」

あまり即座に信じてくれるゆっくりはいないようだ。当たり前か。これが本当なら、ゆっくりの常識がひっくり返る。
でもれいむは真実を知っている。物的証拠を見せることにした。

「まりさ、みんなにたねさんをみせてあげてね!」
「......」

まりさは面白くない、という顔をしつつも、帽子から種を取り出してれいむに渡した。
透明な袋に入った、たくさんの白い粒。みんなによく見えるように頭に乗せた。

「これがたねさんだよ! これがれいむのあたまにうまってたんだよ!」

群れのゆっくり達が、なおさら大きくざわめいた。

「あれが......たねさん? ちいさすぎるよ!」
「でも、れいむのあたまからはえてきたのよ。じじつをみとめないのは、とかいはじゃないわ」
「おきゃーしゃん、おやしゃいしゃんたべちゃいよ!」
「ゆ、ゆう! でも、あんなつぶつぶ......おかしいよ!」

今度は賛否がすっぱりと分かれた。
れいむは困ってしまった。これ以上の説得の手段はない。

「おさー、ほんとうなのー? わからないよー」

そんな時、長ぱちゅりーに尋ねる声が聞こえた。
そうだ、ぱちゅりーにも言ってもらえばいい。頭のいい長の言うことなら信じてくれるだろう。

「おさからもいってあげてね!たねさんからおやさいさんがはえるんだよ!
 このたねをうめれば、おやさいさんがたべられるよ!」

そう言って、ぱちゅりーの前に種を置いた。
ぱちゅりーはじっとその袋を見つめる。
群れのゆっくり達もいつの間にか静まっていて、ぱちゅりーの言葉を待っていた。

そして。


「うそよっ!!」


ぱちゅりーが叫び、袋の上に跳び乗った。そのまま何度もストンピングする。
透明な袋は破け、固い地面の上に白い粒が散らばった。

「ありえないわ! にんげんさんが、こんなちいさなたねからそだててるなんて、ありえないのよ! むきゅう!
 みんな、よくかんがえて! ゆっくりのあたまからおやさいさんがはえるなんて、おかしいでしょ!」

群れのゆっくりはみんなポカンと口を開けた。
普段は温厚なぱちゅりーが、すごい勢いで取り乱している。

「でも、おさ......れいむのあたまから、おやさいさんがはえてきたんだよー」

1人のちぇんが恐る恐る発言した。ぱちゅりーはそれをキッとにらみつけると、また口を開いた。

「ぱちぇとしたことがうかつだったわ......むきゅ、あれは『さいみんじゅつ』よ!」
「さ、さいみんじゅつ?」
「そう! さいみんじゅつは、にんげんがかけるまほうのことよ! かけられたものはまぼろしをみせられてしまうの!
 れいむはさいみんじゅつをかけられて、じぶんのあたまにやさいがはえているとおもいこんでしまったのよ!」
「で、でもみんな、れいむのあたまのやさいをみたわよ?」
「つよいさいみんじゅつは、まわりにもうつるの! ぜんいんがさいみんじゅつにかかって、うそをみていたのよ!」

ゆうううぅうぅ!? という驚きの声が重なった。

「ちーんぽ!......ぜんぶうそだったちーんぽ!?」
「つまり、おやさいさんはたねさんからはえてこないのね!?」
「だまされたんだねー、わかるよー!」

全てのゆっくりが、否定側に傾いていく。
れいむは唖然としていた。長は、ぱちゅりーは、何を言っているんだ?
さいみんじゅつ?まぼろし?

そんなわけ、そんなわけない。あの痛みが、全部嘘だったって?

「むきゅ! そうよ! そしてきょう、さいみんじゅつをといただけよ! じつはれいむはなにもされてないの!
 むきゅう! にんげんさんはゆっくりできないのよ! ひとりじめしかかんがえていないわ!」

違う。ちがうよ、おさ。あのおにいさんは、種さんも分けてくれたゆっくりできる人間さんだよ。
そう言おうとして、口を開いた――

「ゆっへっへっへ! やっぱりだぜ! あのじじいはゆっくりできないげすにんげんだったんだぜ!」

口を開いたまま、れいむは固まってしまった。
隣でまりさは笑っていた。口の両端をつり上げ、顔全体を歪めた笑みを浮かべていた。

「あのじじいは、れいむを『ちりょうする』とかいって、いえのなかにつれてったんだぜ!
 でもまりさはいれてもらえなかったんだぜ! 
 だってするのは『ちりょう』じゃなくて、さいみんじゅつをとくことだったんだぜ!
 それでも、れいむはひめいをあげてたんだぜ!きっとゆっくりできないまぼろしをみせられて......
 ......ゆがあ゛あ゛あ!! ゆるせないんだぜえええ!!」

話し終える頃には、憤怒の表情に変わっていた。

「おさ! まりさはあのげすじじいをぜったいにゆるさないんだぜ! いまからやっつけにいってくるんだぜ!」
「むきゅ! だめよまりさ! ひとりでいってもかえりうちにあうだけよ!
 みんなでいっせいにおそいかかるの! いまからさくせんかいぎよ!」

いつものぱちゅりーからは考えられないセリフが飛び出す。

「ま......まって! まってよ! どうしてそんなこというの?
 おさ、にんげんさんにはさからえないっていってたでしょお!?」

れいむはやっと口を挟むことができた。しかし、それも一蹴される。

「だいじょうぶよ! さいみんじゅつをつかうにんげんは、ひよわなにんげんがおおいのよ!
 みんなでたたかえば、かてないあいてじゃないわ!」
「ゆっへっへっへ! みんなでいけばまけるはずないんだぜ! 
 ゆっくりできなくさせてやるついでに、おやさいさんもまきあげてやるんだぜ!」
「むきゅ!! みんな! よくきいて! にんげんさんをやっつける、さくせんかいぎをはじめるわ!」 

群れのゆっくり達は、全ての元凶が人間の『さいみんじゅつ』だと信じたようだ。

「おさがいうのならまちがいないわ! うそをつくなんて、にんげんはいなかものね!」
「ひきょうものなんだねー! わかるよー!」
「おかーしゃん、にんげんしゃんやっつけちゃうの?」
「ゆゆ! そうだよ! やっつけるよ!」
「「「「ゆーっ!!」」」」

ほとんどのゆっくりが、人間を倒す決意を固めたようだった。

れいむは、急転する事態に付いていけずに立ち尽くしていた。



それから、作戦会議が始まった。
様々な意見が飛び交ったが、最終的にはこう決まった。

まず、装備としてみんな尖った木の棒を口にくわえる。そして編隊を組んで突撃するのだ。
先頭は素早いちぇん達で攪乱。次に運動能力の高いみょん達で主力攻撃。最後にれいむとまりさとありす達全員で波状攻撃。
部位はどこでもいいから、とにかく人間の体を刺す。刺しまくる。
それを人間が謝るまで続ける。抵抗が止まなかったら、永遠にゆっくりさせることもやむなし。
また、直接現場を見たことのあるまりさは最後方で指揮。同じく現場に行ったれいむはその補佐。
ちなみに長ぱちゅりーや子ども、赤ちゃん達は作戦には参加せず、群れに待機。

会議は時間がかかり、終わった頃には陽が沈みかけていた。
よって今日の襲撃は諦め、明日の朝一番に襲うことにした。

「むきゅ! あしたのあさははやいわ! みんなすぐにおうちにかえるのよ!」
「「「わかったよ!」」」

次々と散っていくゆっくり達。
そんな中、れいむは長ぱちゅりーを捕まえて尋ねた。

「おさ......どういうことなの?」
「どうもこうもないわ。むきゅ。れいむはにんげんさんに『さいみんじゅつ』をかけられた。
 そのひきょうなにんげんさんをやっつけにいくのよ」

やはり、ぱちゅりーはどこかおかしかった。いつもの聡明なぱちゅりーなら、こんな短絡的に考えない。

「ゆぅ......でも、れいむのあたまからは、おやさいさんが」
「それはまぼろしだったのよ。ゆっくりのあたまからおやさいさんがはえてくるわけないでしょ?」

確かに、3日前まではれいむもそう考えていた。それが常識だった。

「ゆぅ、そうだけど、でも......」
「れいむ、なんどでもいうわ。ゆっくりのあたまからおやさいさんがはえてくるわけないでしょ?
 むきゅ。そして、しろいつぶからおやさいさんがはえてくるわけもないのよ。
 そうよ......そうなのよ......」

ぱちゅりーはブツブツと呟きながらうつむいた。

れいむもうつむいて考え始めた。
確かに、『さいみんじゅつ』だと考えればつじつまは合う。お兄さんに騙されていた。それだけだ。
しかし、お兄さんに騙されていないとすれば、真逆の方向でつじつまが合うのだ。間違ってるのは、ぱちゅりー達。
れいむ自身は、あの痛みが偽物だったとは思えない。だが、その証拠もない。
わからない。結局どっちが正しいのかなんて、わからなくなってしまった。

「むきゅ、わかった? れいむ」

ぱちゅりーの声に、れいむは泣きそうな顔を向けた。
わからない。わからないよ――

「むきゅ! しょうぶはあしたなのよ! しっかりまりさの“ほさ”をおねがいね!」
「わ、わかったよ!」

有無を言わせぬ強い口調で言われ、れいむは頷いてしまった。




れいむも自宅へと歩を進める。まりさは先に帰ってしまったようだった。

「おねーちゃん」

不意に、草むらから声が聞こえた。
そこにいたのは、れいむの半分くらいの、小さなれいむ。実の妹だった。
妹と言っても同じ出産機会に生まれた姉妹ではない。
れいむが子ゆっくりの時に、両親が新たに赤ちゃんを作ったときの妹だ。
今ではれいむが成体の一歩手前、この妹れいむが子ゆっくりの大きさだ。

この妹れいむは子ゆっくりの中でもしっかり者で、群れの子ども達のリーダー的存在になっている。

「れいむ......あしたは、あかちゃんたちをゆっくりさせてあげてね」

明日、親ゆっくり達がいない間もリーダーとして働くだろう。
たくさんの赤ゆっくりの世話をするのは大変だ。ねぎらいの言葉をかけてあげた。

「......わかったよ」

妹れいむは、姉の顔をじっと見つめた後、一言だけ返事をした。
すぐに背中を向けて、れいむの実家の方向に跳ねていく。
......何がしたかったんだろう。ねぎらって欲しかったのだろうか。



家に着くと、上機嫌なまりさが待っていた。

「ゆっへっへっ......あしたは、れいむにしたことをおもいしらせてやるんだぜ!!」

まりさに適当に相づちを打ちながら、れいむは考えた。
どうしてこうなってしまったんだろう。
お兄さんと戦いたくなかった。お兄さんをやっつけるなんて、とても想像できない。悪い予感でいっぱいだ。

......結局、間違ってるのは、れいむ達かもしれないのだ。
どうして、こうなってしまったんだろう。

「わからないよ......」

舌の上だけで転がって、消えてしまいそうなほど。
小さく、小さく呟いた。





あー、胸くそ悪い。
朝日が射し込む下で、俺はひたすらスコップを動かしていた。汗が頬を伝う。

『ゆっ! それじゃあしゅっぱつするんだぜ! たいれつをみだしちゃだめなんだぜ!』

聞こえてくる忌々しい声。イヤホンを握り潰そうとする手を抑えるのにかなりの精神力を要した。



昨日、俺はイヤホンから流れてくる音声に、開いた口がふさがらなかった。
何を言うかと思えば、『催眠術』である。一体どこで覚えてきたのか。
そしてそれを簡単に信じる饅頭共。
ゆっくりできないにんげんさんはやっつけるよ!

もう間違いだらけだ。
催眠術は伝染するだとか。それを使う人間はひ弱だとか。
突っ込みどころが満載で話にならない。

やはり「野菜は勝手に生えてくる」という、ゆっくりの常識にぶっ刺さってる観念は変えられないのか。
何匹か惜しいゆっくりもいたようだが、長のぱちゅりーがとんちんかんなのが痛かった。
あいつの一言で、場は『催眠術』一択になってしまった。

そして何より失望させてくれたのが、れいむだ。
説明しているときははきはきと喋っていたのに、いざ反論が出るとだんまりである。
いくらか葛藤もしていたようだが、最終的には「わかったよ!」とぱちゅりーにいい返事をしていた。
奴に対しては、怒りというより虚しさが先に立つ。
俺のしたことは無駄だったのだろうか。



まあいい。もうしょうがない。これで、畑を荒らすゆっくりは全滅だ。

ゆっくり達は山から下りてきて、俺を発見次第こちらに向かってくるだろう。
だから俺はトラップをしかけた上で、畑の前で待ち構えることにした。
山の入り口から畑に至る道を分断するように溝を掘る。
幅はゆっくり2匹分。深さは思いきって1mほど。
そして掘った土は溝の前に積み上げる。
山からやってきたゆっくり達から溝を隠すように、高さ50cmくらいの土の壁を作る。

道の端から端までを分断するバリケードが完成した。結構重労働だった。
畑の前の地面にスコップを刺し、取っ手の上に腰かけて腕を組む。
これで、奴らはバリケード越しに俺の顔くらいは見ることができるはずだ。

そうしたところで、ちょうど林道から「ゆーっ!!」という声が聞こえてきた。
林の向こうから、枝をくわえた十匹程度のちぇんが顔を出した。

「にんげんさんがいたよー! やっつけるよー!」
「わ、わからないよー! ばりけーどができてるよー!」
「でもあんなひくいばりけーどなら、よゆうでとびこえられるよー!」
『そのままとつげきなんだぜ!にんげんだけをみるんだぜ!』

れいむはまりさの近くにいるようだ。最後方で補佐するとか言ってたもんな。
おかげで、指揮をするまりさの声もイヤホンから聞き取れる。

「「「ゆーっ!!」」」

雄叫びをあげて、ゆっくりの突撃隊が姿を現した。大体全部で80くらいか。意外と多い。

『いくんだぜええええ!!』

昨日は長々と作戦会議とやらをしていたが、まとめると“枝くわえて順番に突撃”だったな。
なだれを打って一斉にこちらに跳ねてきた。先頭のちぇんがバリケードを飛び越える。

「こんなのじゃ、ちぇんたちはとめられないよー!」
「にんげんさんはばかなんだね! わかるよー!」

バカはお前らだ。防衛線の死角を確認しないで突っ込むなんて自殺行為だぞ。

「しんで――」
「わかる――」

俺の目の前で、ちぇん達がバリケードの陰になっていた溝に吸い込まれていった。

「ゆぎゃあ゛あ゛あ゛あ! いだっ、えださんが、わがらなっ!」
「いだいよお゛お゛!! だすけ、べっ!」

そのあとにも、みょん隊やれいむ・まりさ・ありす隊が次々と溝に落ちていく。
全員枝をくわえたまま、下を向いて。

「ちちちーん、ぼっ!」
「どぼしでじめんさんが、ゆべっ!」
「いだい、いだい、えださんがあ゛あ゛ぁぁ!!」
『ま、まつんだぜ! とまるんだぜ!』

指揮役のまりさが後方で停止を呼びかけるが、遅かった。
最後尾にいた、指揮のまりさと補佐のれいむの2匹だけを残して、突撃隊は全員溝に落ちてしまった。

腰を上げ、スコップを引き抜いた。
溝に近づいて中をのぞき込むと、そこは地獄絵図だった。

「ゆ゛っゆ゛っゆ゛っ......えだざん、ぬいで......」
「あでぃずの......ほっぺが......」
「お、おもい゛よ゛......つぶれりゅ......」
「ゆわあ゛あ゛あ゛あ!! みんなゆっぐりじでえ゛え゛え゛!!」

80匹のゆっくりが、狭い溝の中でうごめいている。
ほとんどが誰か彼かの枝に刺し貫かれていた。餡子とチョコとカスタードの混じった匂いが立ち上ってくる。
下層のゆっくりの中には、重さに悲鳴をあげているものもいる。おそらくちぇんは圧力で全滅だろう。
一番上のゆっくりには無事な奴もいたが、泣き喚くだけで這い上がろうとはしなかった。

ふと顔を上げた。バリケードの上で、呆然としつつ溝をのぞき込んでいるゆっくりがいた。
まりさだ。まりさも顔を上げて、俺と目を合わせた。

俺は目を合わせたまま、スコップを高く持ち上げて――溝の中に垂直に振り下ろした。

まりさの顔が、クシャクシャに歪んだ。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁ!!」
「ゆぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁ!!」
「ぢい゛い゛い゛い゛い゛ん゛ぽおおぉ!!」
「ゆ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁあ゛!! やべるんだぜえ゛え゛え゛ぇぇ!!」

溝の中と、まりさの口から同時に響く絶叫。
俺は気にもとめず、再度振り上げて、振り下ろした。
ゆっくりの中に刃先が埋まる感触が手に伝わる。土よりずっと柔らかくて、ちょっと気持ちよかった。

「やべろお゛お゛お゛お゛ぉぉ!!」

まりさがバリケードの上から俺に跳びかかってきた。
スコップから一旦右手を離し、握り拳を作って前に突き出す。

まりさの顔面にめり込んだ。きれいなカウンター。

バリケードの向こうまで吹っ飛び、そのままころころ転がっていった。

『ばりざあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!』

れいむの声がイヤホンと、すぐそこから聞こえる。転がっていったまりさを追いかけて跳ねていくのが見えた。
そういえば、あいつ今日は今まで一言も喋ってなかったな。だからといって、どうというわけでもないが。

俺は溝の中にスコップを差し込む作業に戻った。

「ゆぎょお゛お゛お゛お゛お゛ぉぉ!!」
「やべえ゛え゛え゛え゛え゛ぇぇぇ!!」
「どぼじでえ゛え゛え゛ぇぇ!!」
「まりざ、だずけでえ゛え゛え゛え゛!!」
「ご、これはさいみんじゅつよぼお゛お゛お゛お゛!!」
「いだ......もっど、ゆっぐびっ」
「......がばっ」
「ゆ゛ぎょっ」

無傷なゆっくりは大方いなくなった。溝と土のバリケードをいっぺんに飛び越えて、反対側へ。
......土というものは、掘るのは大変だが埋め立てるのは簡単だ。

「ゆばあ゛ああぁぁ......」
「やべでえ゛えぇぇ......」
「もっどゆっぐぢぢだがっ......」

土を全部流し入れると、あれほど騒がしかった溝が嘘のように沈黙した。




「こ、こんなわけないんだぜ......まりざは、れみりゃよりづよいんだぜ......」
「......まりさ......」

残りの2匹に向かって、俺はゆっくりと歩を進めた。
それに気付いたれいむが、こっちを向いて、涙をボロボロと流しながら口を開いた。

「ごべんなざい! ごべんなさい! おにいざん、ごべんなざい!」

出てきたのは、懺悔の言葉だった。

「ごべんなざい! ごめんなざい! ごべんなざい! ごめんなざい!」

少し前にもこんな風に謝られたことがあった。
だが、今回はその時と違い、心を打つものが何もなかった。
ただただ、虚しさが湧いて出てきた。

そんなに必死に謝るんだったら、もうちょっと群れを止める努力をして欲しかったな。

「ごべんなざい! ごめんなざい! ごめ――!!」

れいむの大口に、つま先を叩き込んだ。
喉の奥にめり込む感触。今度は足に感じた。

「が、ががあぁ!!」

れいむは遥か前方へ吹っ飛ばされる......と思ったが、そうはならなかった。
振り抜いた右足にくっついていた。下の歯が長靴のかかとに引っかかり、投げ出されるのを防いでいた。
まるでスリッパのようだ。

俺はそのまま、右足で地面を強く踏みつけた。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

足の下で、舌が弾ける音がした。
そして足を地面に押しつけたまま、手前にずりずりと引いて、すり潰していく。

「あ゛......あ゛......あ゛......」

歯茎が引きちぎられ、顎が崩れた。
前歯がかかとに引きずられて転がる。靴が通り過ぎた跡に、それと同じ幅の餡子の線路ができた。
下あごを失ったれいむは、そのトンネルのようだった。

れいむの両目が俺を見上げた。涙を流しながら、必死に、何かを訴えかけるかのような視線を向けてくる。

それを無視して、頭を両手でこじ開けた。盗聴器を回収する。

「あ゛あ゛あ゛あ゛っ!......あ゛っ......あ゛ぶっ」

最後に、開いた脳天を踏みつぶして楽にしてやった。




「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! でいぶ! でいぶう゛う゛ぅぅ!!」

最後の1匹。結局こいつ、ただのゲスだったな。
......こいつはここで殺す気はない。

「ゆべっ!」

醜く泣き叫ぶまりさを蹴飛ばす。またころころ転がっていき、一本の木に激突して止まった。

「ゆああ......こ、これはさいみんじゅつなんだぜ!ぜんぶ、ぜんぶうそなんだぜ!」
「現実だよ」
「ゆぎゃああ!!」

まりさの左頬をわしづかみ、顔の高さまで持ち上げた。

「群れまで案内しろ。ぱちゅりーのところにな」
「ゆっ!? なんでしってるんだぜ!? や、やっぱりさいみんじゅつで」
「しつこい」

まりさの右頬を木の幹に押しつける。
そしてそのまま、一気に膝の高さまで振り下ろした。

「ゆ゛っぎゃあ゛あ゛ぁぁあ゛あ゛!! ば、ばりざのほっべがあ゛あ゛あ゛ぁぁ!!」

まりさの右頬が消滅する代わりに、幹が黒い線で塗り潰された。

「言うこと聞かないと、催眠術が解ける前に死ぬぞ」
「ゆぐ......わがっだんだぜえぇ......」

こいつとぱちゅりーは、真実を知ってから旅立ってもらおう。
ミニトマトの植木鉢にしてやる。

ぐずぐずと泣く饅頭を片手に、俺は山林をかき分けて進んでいった。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あとがき
すっきりもしないし、感動もしない。かといって深刻な鬱でもない。
何とも半端な終わり方になってしまったのは自覚しております。ですが、こうなるのが自分の中では一番自然でした。
少しでも楽しんでいただけたのなら幸いです。
もう一つだけ次があると思いますので、まだ付き合えるという方は読んでやってください。

過去作品

  • ゆっくりバルーンオブジェ
  • 暗闇の誕生
  • ゆっくりアスパラかかし
  • 掃除機

  • ゆっくり真空パック


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最終更新:2011年07月29日 18:25
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