ゆっくりいじめ系343 優しいお母さんゆっくり_2


8匹のゆっくりが生れてから1週間が経った。
巣穴には1匹の親まりさ、1匹の子パチュリー、そして7匹の赤ゆっくりがいた。

 「むっきゅ!きょうのごはんはケムシさんね!ゆっくりしてておいしそう!!」

次々と口から確保したエサを吐き出す親まりさに子パチュリーは目を輝かせた。
毛虫といえば滅多に食べることができないご馳走だ。

 「ゆゅー・・・、おかあさん・・・ありすもケムシたべたいよ」
 「まりさもゆっくちしたいよ・・」

巣穴の隅に集まった7匹の赤ゆっくり達は、蚊の消え入るような声を上げた。
生まれて1週間が経った今も、この7匹はプチトマトサイズのまま変わっていない。

 「うるさいよ!!これはパチュリーのご飯だよ!みんなはいつもみたいにゆっくりしててね!」

後頭部を向けたまま、親まりさは恫喝する。
暗かった顔をさらに暗くし、7匹の赤ゆっくりは巣穴を出た。


 「ゆ・・・どうちてありすたちは ごはんをもらえないのかしら・・」
 「まりさもゆっくちちたいよお・・」
 「まりさ なかないでね!きっといつかゆっくちできるよ!」
 「そうだよ!パチュはからだがよわいんだからがまんだよ!」
 「おねーさんだからがまんしようね!!」

巣穴を出ると、小さな穴がある。
蟻の巣だ。

 「ゆ・・!アリさんゆっくちちてね!まりさとゆっくちだよ!」

巣から出てきた小さな蟻に舌を伸ばす。
粘着性のある舌に捕らわれた蟻は、そのまま赤まりさの口の中に納まった。

生まれてから1週間、7匹の赤ゆっくりが食べたものは蟻と草だけだった。
巣穴の周りの草は、赤ゆっくりの旺盛な食欲のため2日でなくなってしまった。
ほんの少し離れれば、草は無限に広がっていたが、赤ゆっくりにとって巣穴から離れることは恐怖である。
親まりさから離れたら危険、そう思うと草を食べることができなかった。

育児など一度もしてくれなかった親まりさであるが、いざとなったら守ってくれると赤ゆっくりは思っていた。


 「ぜんぜんおなかいっぱいにならないよ・・ゆっくちちたいよ・・・」

食欲旺盛な赤ゆっくりのお腹が膨れることはない。
思い出すのは親まりさが取ってきた、あの毛虫。
ふさふさでカラフルな毛と、はち切れんばかりに丸々とした体、とても美味しいそうだった。

 「ありすもケムシたべたいよ・・」

ふとこぼれる独り言。
それを聞いた6匹の赤ゆっくりは何も返事をしなかった。

一度も親まりさからご飯をもらえたことはない。
いつだって親まりさの持ってくるエサは子パチュリーのものだった。


一度、赤まりさが子パチュリーのエサに飛びついたことがあった。

 「ゆゆっ!おねーちゃんも食べちゃうよ!いっしょにゆっくちちようね!」

赤まりさはおちゃめのつもりだった。
親まりさは笑って許してくれる、そう信じていた。

周りの赤ゆっくり達も、それに便乗する形でエサに飛びついた。
そうだ、きっと許してくれる。だって自分達のお母さんだもの。
子パチュリーは病弱だから、ご飯を優先してるだけだ。
だから別に自分達は嫌われてるんじゃない、本当にお腹がすいたことが分かれば食べさせてくれるはずだ。
子パチュリーがかつてやってもらったように、きっと1匹ずつ咀嚼したご飯を口移しで食べさせてくれる。

赤ゆっくり達は無条件に親まりさを信頼していた。

しかし、親まりさにとってはもはや7匹は、最愛の子パチュリーからエサを奪おうとする敵にしか映らなかった。
結果、7匹は親まりさに巣穴からつまみ出された挙句、罵詈雑言を浴びせかけられ、死なない程度に体当たりをされた。

だが、それでも赤ゆっくり達は親まりさのことを信頼していた。
おそらく今日は機嫌が悪かったのだろう、だから次は大丈夫だ。
餡子脳と親への愛が入り混じり、現実味の無い答えが導かれる日々であった。


7匹が巣穴に戻ると、ワラのベッドの上で親まりさが飛び跳ねていた。

 「ゆゆっ!パチュリーこうだよ!!ゆっくり飛び跳ねてね!!」

ワラのベッドには子パチュリーもいた。
同じように飛び跳ねる子パチュリーであるが、赤ゆっくりの身長ほどの跳躍しかなかった。

 「むっきゅ!むっきゅう!!ぜんぜんとべないよ!!どうしてなの!」

子パチュリーの大きさは、すでにソフトボールほど。
未熟児だったが、もう正常に生まれるはずだった大きさまで成長できた。

 「ゆっ!?どうして!?パチュリーがんばってね!!!ゆっくり跳ねてね!!」

お手本なのか、それとも勇気付けるためか、親まりさが跳ね続ける。
その高さは1メートルほどにもなる。

 「むきゅっ!むきゅー!!」

何度繰り返しても子パチュリーは、自身の身長の半分ほどしか跳躍はできなかった。
この大きさのゆっくりならば、30センチメートルをゆうに越える跳躍をするはずだ。

周りで眺めている赤ゆっくり達も、子パチュリーに飛び乗るくらいは跳ねることができる。

 「パチュリー、ゆっくちとびはねてね!!」
 「こうだよ!ゆっくちはねようね!!」

応援するように一緒になって飛び跳ねる赤ゆっくりを見て、親まりさは気が付いた。
7匹が栄養を吸ったせいで、子パチュリーに先天的な障害が生まれてしまったことに。

 「むきゅ!ありがとう!ゆっくりはねるね!!!」

7匹に笑みを向ける子パチュリーに、親まりさは顔を苦くする。
子パチュリーが今苦しんでいるのは、全てこの7匹が原因なのだ。
白々しい応援などするんじゃない、親まりさの体が怒りで震えた。

 「ゆっ!赤ちゃん達、ゆっくり外について来てね!!パチュリーはゆっくり練習しててね!!」

親まりさの言葉に7匹の赤ゆっくりは目を輝かせた。
今まで親まりさから話しかけてくれることなど、一度もなかったのだ。
もしかしたら美味しいご飯を食べさせてくれるかもしれない。

 「ゆ!ゆっくちついていくよ!!」
 「ごめんねパチュリー!おねーちゃんはゆっくちしてくるよ!」
 「ゆっくちできる!?」

 「むきゅん!ゆっくりしていってね!!」

子パチュリーは満面の笑みで親まりさと7匹の赤ゆっくりを見送った。

子パチュリーは親まりさのことは大好きだったが、7匹に対する接し方は理解できなかった。
同じ姉妹なのに、餡子の繋がる8人姉妹なのに、どうして親まりさは7匹を毛嫌いするのだろうか。
そんな疑問を子パチュリーはずっと抱えていた。

ご飯を7匹にも食べさせてと言っても、親まりさは外で食べさせているといって聞かなかった。
7匹がご飯を食べさせてもらえず、最近では蟻ばかり食べていることは知っていた。

 「むっきゅん・・。みんなでゆっくりしたいよ・・・」

巣穴に子パチュリーの跳ねる練習の音が響いた。


 「パチュリーがゆっくりできないのは、お前達のせいだよ!ゆっくり反省してね!!」

巣穴から出た途端、7匹の赤ゆっくり達は親まりさの体当たりを受けることになった。

 「ゆきゅっ!どうちて!?」
 「いたいよ!!おかあさんやめて!!」
 「ゆっくちできないよ!!」
 「まりさはわるくないよ!!」

口々に抗議を始める赤ゆっくりであったが、そんな言葉に親まりさは耳を貸さない。

 「黙ってね!!生まれただけで悪いんだよ!!ゆっくり理解してね!!!」

バスケットボールほどもある親まりさの体当たりは、プチトマトサイズの赤ゆっくりには脅威だった。
弾き飛ばされた赤ありすの中には、餡子を吐き出しているものもいる。

 「ゆゆ!ゆっくちやめて!!」
 「あやまるからゆるしてね!!ゆっくちゆるしてね!!」
 「ごめんだよ!!ゆっくちさせてね!!」

餡子を吐き出した赤ありすの周りを6匹の赤ゆっくりが囲む。
どれも吹き飛ばされた衝撃で皮は擦り傷だらけになり、目には涙が浮かんでいる。

まとめて踏み潰す、そう思ったが親まりさはその考えを押し込めた。
ここは巣の外。
どこで群れの仲間が見ているかも分からない。
もし子供を殺していることが見つかれば、群れを追われるどころか制裁で殺されてしまう。
それだけは避けなければならなかった。

 「ゆっ!わかったよ!ゆっくりやめてあげるよ!ゆっくり反省してね!!」

そういい残し、親まりさはそそくさと巣穴に戻っていった。



 「ゆっ?いたがじゃまではいれないよ!」

赤まりさの餡子流出が止まったのを確認して巣穴に戻ってくると、入り口に板が挟まっていた。

7匹が協力して板を動かそうとするものの所詮はプチトマトサイズ。
全く動かない。

 「うわぁああああん!!!おうちいれてええええええぇぇぇぇ!!!!」

最初に泣き出したのは赤まりさ。
それはすぐに伝染し、7匹の赤ゆっくり達は一斉に泣き始めた。


 「ふんっ!そのままゆっくり死ね!」

巣の中、親まりさはかすかに聞こえる板の向こうの泣き声を聞くと、奥へと入っていった。

中ではまだ子パチュリーが跳ねる練習をしていた。
もともとが病弱なのだ、あまり練習をさせては喘息で死んでしまうかもしれない。
親まりさは子パチュリーに近づくと頬を擦りあわせた。

 「ゆゆっ!今日の練習はここまででゆっくりしようね!!頑張ったご褒美にご飯だよ!!ゆっくり食べようね!」

子パチュリーは一緒に出て行った赤ゆっくり達が気になった。

 「おねーちゃんたちはどうしたの?」

親まりさの顔が歪む。

 「ゆっ・・・赤ちゃん達はお外でご馳走を食べているよ!だからパチュリーもゆっくりご馳走を食べようね!!」

その答えを子パチュリーは受け入れた。
きっと自分の今までのお願いを聞いてくれたのだと信じて。

 「おいしい蛾だよ!!!一緒にゆっくり食べようね!!!」

食料置き場から親まりさが引っ張ってきたのは、子パチュリーほどもある大きな蛾だった。
全体的に茶色く、ところどころに見られる毒々しい模様が美しい。
運んできた親まりさの顔は、そのリンプンで包まれている。

 「むきゅーっ!!ゆっくりできそう!!!」
 「お腹のおいしい部分はパチュリーが食べてね!!」

羽を千切り、蛾の膨らんだ胴体部分を親まりさは差し出した。
子パチュリーが胴体を噛むと、飛び出した緑色の体液が口内に広がる。

 「むっきゅうーん!!おいしい!すごくゆっくりしてるね!!」

顔をリンプンだらけにしながら羽を貪る親まりさも満足げな顔だ。



一方、外に締め出された赤ゆっくり達は途方に暮れていた。

 「ゆっ・・・からだがいたいよ・・・」
 「うぅううう・・・どうちたらいいのおおおお・・・!!」
 「ゆっくちしたいよおお!!!」

季節は秋。
凍死するほどではないが、秋の風は容赦なく体当たりで傷つけられた赤ゆっくり達の体力を奪っていく。

 「ゆっ!みんなであつまろうね!そのほうがゆっくちできるよ!」

赤ありすの指示で7匹が一箇所に集まる。
風を遮るものが何もない、平野のど真ん中に位置する巣。

巣から少し離れたところには草もあるし、風を遮る大きな石もある。
だが、そこまで行くことは恐怖でしかなかった。

 「ゆっ・・・!きっとおかあさんがあけてくれるよ!ゆっくちまとうね!!」

板の前で7匹は身を寄せ合い震え続けた。




 「ゆっ、まだ生きてたの?」

親まりさが巣穴から出てきたのは数時間後のことだった。
いつまで経っても戻ってこない赤ゆっくりを心配に思った子パチュリーが騒いだため、仕方なく板を外した。

巣穴の入り口で7匹は一塊になって熟睡している。

 「ゆぅ・・・ゆゅ・・・」

いびきのような、寝息のような声を立てて眠っている7匹に殺意が芽生えた。
しかし親まりさは思いとどまる。

 「早く起きてね!ゆっくり中に入ってね!!」

砂利を口に含んだ親まりさが、寝ている7匹に向かって勢いよく吐き出す。
飛んだ砂利が赤ゆっくり達の体を容赦なく叩きつける。

 「いちゃいっ!!!」
 「ゆきゅああっ!!」
 「いっちゃいよぉぉおっ!!」

傷口から砂利が内部に入り込んだ赤ゆっくりもいるようで、尋常でない叫び声をあげるものもいる。

 「言わなくても分かってるよ!早く中に入ってね!今度は開けないよ!!!」

 「ゆっ!いちゃいけどゆっくちはいるよ!」
 「すぐはいるよ!しめないでね!!」
 「ゆきゅっ・・・!!いちゃいよっ・・・・」

傷が浅いものは飛び跳ねて、砂利が内部に入った赤ゆっくりは転がりながら巣穴へと入っていった。



それからまた1週間が過ぎた。

赤ゆっくり達はまだ赤ゆっくりであった。
食料は一切もらえず、最近では蟻の巣も壊滅状態で餓死寸前であった。

子パチュリーから見えない位置に体当たりで追いやられ、7匹は身を寄せ合い生きていた。

 「ゆっくち・・・ゆっくちできないよ・・・・」

土を食べていた赤ありすがたまらず吐き出した。
やはりここには食べるものなど何もない。

 「どうちてありすたちは ゆっくちさせてもらえないの・・・?」
 「ゆっくちしたいよ・・」

弾力のない皮をすり合わせる7匹。

すると、決心したのか1匹の赤ありすが言った。

 「おかあさんが ごはんをとりにいってるうちに あるものをたべてゆっくちしよう・・・!」

親まりさはいつも、子パチュリーがいつお腹を空かせてもいいように食料を溜め込んでいた。
赤ありすはそれを食べてしまおうと提案したのだ。

 「ゆっ・・・ゆっくちできなくなるくらいなら、おこられたほうがいいね・・・」
 「そうだね・・・みんなでたべようね・・・」

のろのろと食料を保管してある場所へと向かう。
自分達が隔離されていた場所からはそう遠くない。

ゆっくりと、確実に進む。

 「ゆっ!あれだよ!ゆっくちできるよ・・・!」

枯葉で隠してある食料保管庫だ。
すぐさま7匹が駆け寄り、中身を確認する。
蛾、ムカデ、ダンゴムシ、アゲハチョウにタンポポ。
御馳走だらけだ。

 「ゆっく!もうがまんできないよっ・・!」

赤まりさが飛びついたのを皮切りに、一斉に食料を貪り始める。

 「ゆっ!!めっちゃうめ!!」
 「ゆっくちできるぅー♪」
 「しあわせー♪」
 「ゆっゆっゆ!!!ゆぅあああーー!!」

単純な体のためか、あっというまにプクプクに膨れ上がる7匹。
保管庫に溜めてあった食料はあっという間に無くなった。

 「ゆー♪」
 「おいちかったね!」
 「ゆっくちできたよー♪」
 「ぷくぷくだね!!」
 「でっぷりちていってね!!」

お互いに、膨れ上がった体を見て笑い始める。
久々の満腹でテンションは最高潮だった。

 「でもおかあさんになんていうの?」
 「ぜんぶたべちゃったね・・」

もうすぐエサ取りを終えた親まりさが帰ってくることを思うと、赤ゆっくりの中に不安が芽生える。

 「だいじょうぶだよ!こんなにぷっくりしたありすたちをみれば、きっとよろこんでくれるよ!!」
 「そうだよ!げんきなまりさたちをみれば きっとゆるしてくれるよ!!」

餓死寸前に追いやられてなお、赤ゆっくり達は親まりさを信頼していた。
日々体当たりをされ、罵倒され、食事を与えられず、しかしそれでも赤ゆっくりは親まりさが好きだった。

 「だって、ありすたちのおかあさんだもん!!」

ただそれだけが唯一、この7匹を支えるものだった。



 「ゆっくり死ね」

帰宅した親まりさは、丸々と太った7匹とカラッポの食料庫を見て言った。
顔は般若のごとく変貌し、怒りで体は小刻みに震えている。

 「どうじでぇええ!!?まりさだち、ごんなにがわいいのにいぃぃぃ!!!」
 「ありず、ごんなにぷりぷりじてるんだよぉお!?」

見当違いの弁解に、親まりさは何も答えない。
親まりさの頭の中は、どうやって7匹を殺そうかという考えだけだ。

 「おがあざん!!ゆるじでええ!!だっで、ありずだちはおがあざんのこどもでじょ!!!??」

大粒の涙を流して許しを乞う赤ありすの一言に、親まりさの顔がさらに歪んだ。

ありすたちはおかあさんのこどもでしょ?
アリスたちはおかあさんのこどもでしょ?
アリス達はお母さんの子供でしょ?

リンゴのように赤くなった親まりさは唾を撒き散らしながら怒鳴りつけた。

 「お前達は悪魔の子供だよっ!!!ま゙り゙さはお゙前らな゙んか一度だっで子供だと思ったこどはな゙いよ゙ぉっ!!」

一瞬、巣穴が静寂に包まれる。
赤ありすの眼は焦点が定まらなくなる。

自分は親まりさの子供だ、それだけを頼りに今日まで必死で耐えてきたのだ。
それなのに悪魔の子だと言われ、大好きなお母さんは鬼のような顔で自分をにらみつけている。
受け入れられるわけなかった。
信じたくなかった。

 「お゙前らな゙んか誰に゙も望ま゙れずに生まれてきたんだよ゙っ!!!わかったらゆっくり死ねっ!!!」

親まりさの手前にいた赤ありすが、手加減のない強烈な体当たりを受けて弾け飛んだ。

 「ゆっ・・・!?」

いつも一緒だった、7匹の赤ゆっくり。
その大切な1匹が、餡子を撒き散らしながら死んでいた。
満足にゆっくりできることもないままに。

 「ゆぁ゙あ゙あ゙あ゙っ!!!な゙んでごどずる゙の゙っぉぉぉぉお゙っ!!!!」

潰れた餡子に跳ねよるが、もはや皮はバラバラで蘇生はどう見ても不可能だ。
だとすればどうすればいいのだろう、赤ありすは必死で少ない餡子を回転させる。

 「ゆっ!!みんなにげるよっ!!!」

赤ありすは巣を離れる決心をした。
ここにいては危険だ。
親への愛を、間近に迫る脅威が上回った。

 「ゆっ!わかったよ!!」
 「ゆっくちしないでにげるよ!」

6匹がいっせいに巣穴から飛び出した。
それを追うのは狂乱状態の親まりさ。

もはや親まりさは怒りで我を忘れている。

赤ゆっくり達は、初めて巣穴から遠く離れたことに全く恐怖は感じなかった。
それよりもすぐ後ろまで迫ってくる親まりさから、いかに逃げ延びるかが重要だ。

草むらに飛び込み、大きな石を越え、森へと逃げ込んだ。

森は身を隠すのに適したものがいくつでもあった。
赤ゆっくり達6匹は大きな石の裏に隠れ、親まりさをやりすごすことにした。

 「ゆっ・・・どうじでぇ・・どうじでなのぉ・・・」

こぼれる涙と、理不尽な運命への怨みつらみ。
親まりさの怒号が遠くになっていくのを感じ、6匹は森の中をふらふらと当てもなくさまよった。



 「ゆっ!?こんなところに赤ちゃんがいるわよ!どうしたの!?」

森をさまようこと数時間。
目の前には自分たちよりも遥かに大きい、バレーボールほどのゆっくりアリスがいた。

始めてみる成体ゆっくりに、6匹は警戒する。

 「ゆんゆん、そんなに構えなくても大丈夫よ!とかいはのありすは優しいのよ!!」

6匹は不思議な感じがした。
なぜだか、このゆっくりアリスは信頼できるような気がする。

気が付くと、6匹はまるで警戒心がなくなっていた。

 「とかいはのお姉さんに、ちょっとお話をしてみるといいわよ!」

赤ゆっくり達はいままでの経緯を簡単に成ありすに説明した。

生まれたときから相手にされなかったこと、ご飯を貰えず大きくなれなかったこと、追い出されたこと。
そして、これからどうするかを決めていないことも。

成ありすは、赤ゆっくりの話をちゃんと聞いてくれた。
生まれてから、成体ゆっくりと一度も会話らしい会話などしたことがなかった赤ゆっくりにとって、それはとても新鮮であった。

赤まりさ2匹は、成ありすにすぐに懐いた。
自身と同じ魔理沙種の親まりさが、あんな酷い親だったのだ。
アリス種の姉妹は優しい、そして目の前の成ありすもそうだ。
赤まりさの目には、アリス種はとても素敵な種族に映った。

それになんだか、成ありすも赤まりさのことを気に入っているようで、赤ありすに対してよりも長く頬擦りをしていた。
赤まりさは生まれて始めての成体との頬ずりに感動し、親まりさに追われていることも忘れてはしゃいだ。

 「ゆっ!おねーさんはすごくゆっくちできるよ!」
 「まりさ、おねーさんとゆっくちしたいよ!」

その言葉が嬉しかったのか、成ありすはヨダレを垂らしながら微笑を返した。


誰かに悩みを聞いてもらうことは、自身の心の整理に繋がる。
成ありすとしばらく話をしていると、だんだん赤ゆっくりも落ち着きを取り戻していた。

 「ゆ、みんなそろそろ落ち着いたみたいね!これからどうするのか、ゆっくり考えてね!!」

成ありすの一言に、6匹は円陣を組むように集まった。



親まりさの元に帰るという結論を出したのは、赤ありす4匹であった。

 「ちゃんとあやまったら ゆるしてくれるよ!」
 「そうだよ!ありす、あくまのこじゃないよ!おかあさんのこどもだもん!きっとゆるしてくれるね!!」
 「おかあさんとはなれたくないよ!」
 「おかあさんといっしょじゃないと ゆっくちできないよ!!」

赤ゆっくりは生存能力の無さから、親に頼らざるを得ない。
その本能が、またしても赤ありすから正常な判断を奪ってしまった。

さっきはいきなりだったから怒ってしまったんだ。
ちゃんと謝れば許してくれる。

いつもと同じ考えだった。

対して、親まりさの元には戻らず、成ありすと行動を共にすることを選んだのは赤まりさ2匹だ。

 「あんなのおやじゃないよ!」
 「おねーさんといっしょのほうがゆっくちできるよ!!」

親に対する愛情よりも、生きるためならすぐ裏切る魔理沙種の本能が強く現れたのだろう。
成ありすが一緒に暮らすことを提案したとき、すぐに赤まりさは賛成した。


姉妹は一緒に行動を共にしたかったが、結局どちらも折れることはなく、ここで別れることになった。



森の入り口の近くまで、成ありすに赤ゆっくり達は連れてこられた。

 「ゆっ!じゃあここでお別れをしようね!ちっちゃいありす達もゆっくりしていってね!!」

成ありすの声に、赤ありす達が振り向いた。

 「ゆっ!きっとまたあえるよ!まりさもゆっくちしててね!!」
 「はなれてても しまいだからね!!ゆっくちしていってね!!」
 「おねーさん!!まりさをゆっくちさせてあげてね!!」
 「ありすたちもゆっくちするからねー!!!」

その顔に迷いはなかった。
赤まりさ達も、飛び跳ねながら返事をしている。

 「まりさはゆっくちするよ!みんなもゆっくちしていってね!!」
 「ゆっくちするよ!!みんなもゆっくちだよ!!」

離れていく4匹の赤ありすの後頭部を3匹は見送った。


 「それじゃあ、とかいはのありすのおウチへ案内するわよ!」

 「ゆ!ゆっくちしようね!おねーさん!!!」
 「ゆゆっ!これからいっしょにゆっくちだよ!」

成ありすの笑った口元からは、とめどなくヨダレ、そして赤まりさが見たこともない粘着質のある体液が溢れている。

きっと、家族が増えて嬉しいんだろう。
赤まりさ達は自分を歓迎してくれる成ありすのことが大好きだった。




森を抜けると、見慣れた巣穴が少し遠くに見えた。

 「ゆゆっ!あのおねーさんはすごいね!!!」
 「ほんとだ!おうちがあるよ!!」

成ありすには巣穴の場所は教えていない。
やっぱり大人のゆっくりアリスは凄いんだね、赤ありす達は深く考えずに納得した。

 「ゆ!はやくかえろうね!!」
 「おかあさんにゆっくちあやまろうね!!!」


森を抜け、石を飛び越え、巣穴の前の草むらに飛び込んだときだった。

 「ゆぴゅぼあっ!!!」

気が付くと、4匹いた赤ありすが3匹になっていた。
空に舞う黒い影は、かつて赤ありすだったものだ。

 「ゆっくり死ねっ!!!」

草むらに潜んでいた親まりさが飛び出してきた。
3匹は殺された1匹を諦め、すぐに謝罪を始める。

 「ゆっ!ありすはんせいしたよ!!ごはんをたべてごめんなさい!!」
 「おかあさんゆるちて!!ゆっくちはんせいしたよ!!」
 「ゆっくちさせてよ!!」

 「うるさいよ!!ゆっくり死んでね!!それが反省だよ!!」

飛び跳ねた親まりさが、まとめて2匹の赤ありすを踏み潰す。
完全に下敷きになった赤ありすは、悲鳴をあげる間もなく絶命した。

 「ゆっぐっ!!ゆ゙っ!!!おがあ゙さん゙ん゙ん゙!!ありずいいごにずるがらあああああ!!!ゆるじでえええ!!!」

ひどくゆっくりした動作で近寄ってくる親まりさ。
次の瞬間、信じられないようなほど空高く親まりさは飛び上がった。

ああ、お母さんはあんなにジャンプができるんだね。
凄い。
ありすもお母さんの子供だもん、大きくなったらあんな風に跳べるかな?

視界が黒に染まるまで、赤ありすはそんなことを考えていた。






 「まりさ、まりさはゆっくりできないんだね。自分の赤ちゃんを殺すようなまりさはゆっくり死んでね」

餡子にまみれた親まりさが振り返ると、そこには1匹のゆっくり霊夢がいた。

体の大きさは親まりさと同じくらい。
ご近所に住むゆっくり霊夢だ。

親まりさは何度かエサ取りで一緒に協力したことがあった。

 『自分の赤ちゃん』

親まりさは、ゆっくり霊夢の言ったことに苛立ちを隠せない。

 「ゆ!あんなのはまりさの子供じゃないよっ!!れいむはゆっくり理解してねっ!!!」

れいむになぜあんな子供のことを言われなければならないのだろう。
親まりさはれいむに背を向けた。
こんなバカは放っておいて、さっさと巣に帰ろう、親まりさはそう思ったのだ。

 「ゆっ!?」

しかし、そこには10匹近くの成体ゆっくり、そして1匹の大きなゆっくり霊夢がいた。
バランスボールほどあるゆっくり霊夢は群れの長だ。

 「ゆっ。まりさは赤ちゃんを殺したね、ゆっくりあの世で反省しようね!それがこの群れの掟だよ」

長れいむが言うと、成体ゆっくりが親まりさをとり囲む。
四面楚歌。
成体ゆっくりの大きさは全てが親まりさと同じか、それ以上だ。
それに長まででてきては、勝ち目はなかった。

 「ゔるざい゙よ゙ぉ゙っ!!な゙に゙も知らな゙いバカなヤツら゙はゆ゙っぐり゙死ね゙っ!!!ゆっぐり゙死ねぇ゙え゙ええ゙っ!!!!」

平原に親まりさの呪詛の言葉が響いた。




 「むきゅう・・・おかあさん、まだかな・・・」

一人巣穴に残っていた子パチュリー。
食料保管庫を赤ゆっくりに荒らされ激怒した親まりさは、子パチュリーが止める間もなく出て行ってしまった。

子パチュリーは親まりさが帰ってきたら、ゆっくりと話し合うつもりであった。

赤ゆっくりを目の敵にするのは理由があるのだろう、だが子パチュリーはそれでも赤ゆっくりを平等に扱って欲しかった。
なぜなら、自分達は姉妹なのだ。
餡子の繋がった、かけがえのない姉妹。

自分の見えない位置に追いやられ、餓死しそうになっていた赤ゆっくりを子パチュリーは眺めることしかできなかった。
悔しくて悲しくて、ワラを涙で濡らすこともあった。
親まりさに直訴しても、苦笑いをするばかり。

でも、それも今日までにするつもりだったのだ。
帰ってきた親まりさと話し合いをし、折れてもらわなければ巣を離れる決意までした。

 「おねーちゃんたちと、ゆっくりしたいもんね!むきゅっ」

自分より遥かに小さなお姉さん。
いつも満足に跳ねることができない自分に、お手本を見せてくれた優しいお姉さん。

子パチュリーは赤ゆっくりのことが大好きだった。


 「おかあさんがもどってきたら、ぱちゅががんばるからね。きっと、みんないっしょにゆっくりできるよ・・」


幸せな日々を夢見つつ、ワラの上の子パチュリーは親まりさを待ち続けた。



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最終更新:2011年07月28日 00:20
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