ゆっくりいじめ系2790 さとれない

夕日に照らされた山道で、俺はゆっくりと仲良く追いかけっこをしていた。
それも、和気あいあいと談笑しながらだ。我ながら仲睦まじいね。
背景がきれいな砂浜であれば、より一層完璧であっただろう。

だが互いが話す内容を具体的に言うと、俺がバカにされたり、俺がバカにされたりである。
なんだこのゆっくり。

「おいこら! きっちり捕獲されろ!」
「あなたのような乱暴な人に捕まえられるわけないでしょう? ゆっくりりかいしなさい!!!」

相手は若紫の髪に、目玉のような奇妙な飾りをつけた『ゆっくりさとり』である。
俺はちょっとした虐待以外にも珍しいゆっくりを飼うのが趣味で、実際家にも何匹か飼っていた。
そこで捕獲しようと頑張っているのだが、どうもうまくいかない。

「い―――」
「『いいかげんにしろ』ですって? 私のセリフです」
「ゆ―――」
「『ゆっくりの癖に漢字を使うな』ですか。ほめ言葉ですね」
「し―――」
「『しゃべらせろ』……しゃべればいいじゃないですか」

さとりは心を読むことができる。
そのせいで他のゆっくりからも嫌われているようだが、人間の心も読まれるというのは致命的だった。
先回りして捕まえようにも、先回りすることが読まれる。
俺が偶然さとりと出会えたのだって、ぼーっと何も考えずに歩いていたからだ。無意識すげえ。

(しかし、こう走ってると疲れるな)
「なら帰ってくれませんか?」
「いや、お前を捕まえるまでは帰らん!」
「おやおや? 先ほど『やべっ、そろそろ限界』と思ったのはお見通しなんですよ?」
「……うぜぇまるよりうざいな、お前」
「えぇ、そうですね。では私はこれで」
「え?」

そう言うと突然真横にはねて、さとりは岩が組み合わさった小さな隙間の奥へとはいって行ってしまった。
どうやら最初からここに来るよう、俺の動きを誘導していたらしい。
なんだそれ。やはり漢字を使えるゆっくりは、賢さのレベルが一回り違うというのか。

「中に手を突っ込めば……いや、結構奥深いぞこれ。おうちなのか?」
「ゆっくりあきらめなさい。人間には捕まりません」
「くっ……」

悔しいが、さとりの言う通りだった。
何の道具もない俺では岩をどかすことも、中にいるさとりを引きずり出すこともできない。
木の棒を使えばかき出すことはできるかもしれないが、傷ついて死んでしまう可能性の方が高いだろう。
ここはおとなしく帰って、また今度リベンジするしかなさそうだ。

「いいか! 俺を退けたとしても、いずれ第二第三の俺が現れるだろう! それまでゆっくりと過ごすがいい!!!」
「……それ、全部あなたじゃないですか」

捨て台詞を残したあと、俺はゆっくりと来た道を引き返し始めた。
勿論、そこら辺の石で軽く木を削って、またここに来れるよう目印を付けながらだ。
家に帰って考えれば、一つか二つはいい案が思いつくはずである。
このまま諦めるのは癪だしな。



   ◇ ◇ ◇



次の日の夜のこと。
さとりがおうちで眠たげにうとうとしていると、どこからか心の声が聞こえてきた。

(うー! ゆっくりしね!!!)
「……ふらんですか。ゆっくりできませんね」

さとりはそんなに遠くの心の声が聞こえるわけではない。
おそらくこのふらんも、このおうちの近くを飛んでいるのだろう。
とはいえ、さとりも基本はゆっくり。
このおうちにはやってこないだろうと楽観的に思い、再びゆっくりしようとする。

(うー、ここがさとりのおうち?)
「!?」

しかし、なぜかピンポイントでさとりを狙った言葉に、寝ぼけた頭が一気に覚醒した。
ふらんは "れーばていん" という長い棒を持っている。
たとえ人間の手が届かないくらい奥でも、棒を使われたら関係ないことは自覚していた。
岩の裂け目はほとんどまっすぐだから避けることもできず、このままだと串刺しにされてしまうだろう。

「ゆっくり逃げます!」

夜におうちの外に出るのは自殺行為だが、ここにいれば確実に見つかる。
とりあえず木の影をうまく使えばうまくやり過ごせるだろうと思い、さとりはふらんが近づく前に家の外に出ることにした。
……実際はふらんがおうちを見つけた時点でかなり近いのだが、そのことは気づいてないらしい。

そうしておうちの外に出た瞬間、さとりのあんよにねっとりとした何かがついた。
そのまま跳ねようとするが、うまく跳ねれずに転んでしまう。

「え?」
「うー! みつけた♪」

さらに動けないところをふらんに見つかり、あっさり回収されたのだった。



   ◇ ◇ ◇



ふらんが戻ってきたとき、俺は真っ先にさとりの足についているものをはがした。
小さなダンボールの板にとりもちをぬった、よくあるネズミ用のトラップである。
あらかじめさとりのおうちの前にこれを置いておき、ふらんが襲ってきて逃げ出すところを捕まえる作戦だったのだ。

「くっ! 罠とは卑怯ですね」
「罠じゃない。そこは優雅にトラップというんだ」

そんな冗談を言いつつも、足早に準備した部屋へと連れていく。
心を読まれるとまずいからな。
俺の虐待は肝試しとおんなじだ。なんでこうなるのかわからないからこそ怖い。
……いや、肝試しはわかってても怖いけど。

「それがあなたのトラウマですか」
「……知らないなら教えてやろう。お化けが怖くない人なんていない!
たとえ百戦錬磨のプロレスラーでも、幽霊だけは怖いんだぞ!」
「『嘘だけど』」
「…………」

やっぱこいつ生意気だな。



   ◇ ◇ ◇



「それじゃあ、ここで生活してくれ。ごはんはそこに五日分あるから、計画的に食べるんだぞ」
「きゃっ!」

何か気にしているところでも突かれたのか、さとりは心なしか乱暴に放り投げられた。
ぜんぜんゆっくりできない人間だ。

とりあえず起き上がって周りを見てみるのだが、当然ながらさとりの知識ではよく解らないものだらけである。
ここが壁さんに囲まれていることは解るけれど、なぜか他の壁さん(柵のこと)にも囲まれていた。
それにさっきまでお外は夜だったのに、この部屋の太陽さん(電球のこと)は明るい。
人間のおうちって、なんて変な場所だろう。

ここにはさとりの他にもゆっくりがいた。
れいむとありすがシーソーで遊んでいるし、ぱちゅりーは本を読んでいる。
ちぇんは滑り台を滑っているし、ゆらゆらと揺れるブランコにいるのはまりさだ。
どれもさとりの知らない遊具であったが、誰もが楽しそうな声を上げているのを聞いて、さとりはちょっと安心する。
六匹にはちょっと狭い場所だけれど、どうやらそんなにゆっくりできないわけではなさそうだ。

「ゆっくりしていってね!!!」
「え? えぇ、ゆっくりしていきます」

突然、まりさに声をかけられた。
新しくこのゆっくりプレイスやってきたから、挨拶を求めているのだろう。
全然気配がしなかったため驚いたが、さとりは普通に挨拶を返した。


「……え?」

そう、全然気配がしなかった。
第三の目を済ませてみるが、心の声は一切聞こえない。

まりさの考えていることが解らなかった。
れいむの考えていることが解らなかった。
ありすの考えていることが解らなかった。
ちぇんの考えていることが解らなかった。
ぱちゅりーの考えていることが解らなかった。

距離が足りないということはない。なにせ目の前にいるのだ。
心の声どころか、本当の声まで聞こえている。
さとりの経験上この柵に囲まれた中であれば、どこでも全員の声が聞こえるはずだった。

「どうして……?」

心の声が聞こえなくなった事実を受け入れたさとりは、顔を青くしてゆっくり達のいる方向から後ずさる。
彼らが何を考えているのか、まったくわからないこの状況が恐ろしかった。


『あー、テステス。さとり、聞こえてるか?』

その時、さとりを捕まえた人間の声がどこからか響いてきた。
さとりはとっさに身構えるが、人間の姿は見えない。やっぱり心の声も聞こえない。
これはいったい、どういうことだろう。

『とりあえず用件だけ言うとな、お前にはちょっとそこで五日間ほどゆっくりしてもらおうと思うんだ』
「ゆっくりしてもらう……本当にそれだけですか?」
『おいおい、お前は心が読めるんだから言わなくても解るだろう?』

まるで当然のようにそう返されたため、さとりは口を噤んでしまう。
この人間はどうやら、この状況でも考えが読めると思っているらしい。
さとりにとって相手の心の声が聞こえないというのは、武器が使えないのと同じである。
ここは、嘘をつくのが一番だろう。

「も、もちろんわかりますよ?」
『……そうか。それじゃあ頑張ってくれ』

そしてそれ以降、人間の声は聞こえなかった。
さとりはうまく騙せたと思い、ほっと一息つく。
とりあえず、なんとかなるだろう。



   ◇ ◇ ◇



監視カメラを使って隣の部屋を見ていたしていた俺は、ほっと一息ついた。
こちらの部屋にいる自分の心が読まれないことを確認したからだ。
……あれだけばればれな態度なのに、本当にこちらが気付いてないと思ってるんだろうか。

「柵を使ってこの部屋と距離を取ったんだが……いや、よかった。賭けだったからな」

さとりの能力は物に遮断されない。ということは、壁越しに心を読まれて当然なのである。
だからわざわざ柵を用意して、壁の近くに移動できないようしたというわけだ。

しかし一つだけ問題があった。
それに気づいたところで、どのくらいの距離を離せばよいのかさっぱりわからないのだ。
最初はネットに頼ろうと思ったのだが、さとりの情報がすごい少ない。
まともに書かれているのが片手で足りるってどういうことだよ。



「……とりあえず今日はこのまま部屋の電気を切って終わるか。れみりゃ、最後にもう一杯―――」

そう言った時、俺は思いだした。
俺はれみりゃをメイド長として給仕などをさせていたのだが、
この部屋には今、その姿はない。
それどころか、家の中のどこにもれみりゃはいない。

「…………」

この家で一番役に立っていたれみりゃ。
なんだかんだで言うことを聞いてくれてたっけ。

「れみりゃ……」





――ドタドタドタ。

「う~♪ れみぃをよぶこえがきこえたどぉ~☆」
「なんだ、せっかく殺そうとしていたのに」
「うぅー!?」
「いや、それよりどうしたんだ? 今の時間は外に出て遊んでもいいって言ったろ?」
「うー! おすそわけだどぉー♪」

そう言って手渡されたのは、れいむの死体だった。
先ほど仕留めたばかりなのか、まだピクピク動いている。
おそらく、これを持ってくるためにわざわざ戻ってきたのだろう。
……かわいいやつめ。

「でも汚いから捨ててこい」
「うぁぁっ!?」



   ◇ ◇ ◇



一日目


さとりは最初、この生活を甘く見ていた。
ゆっくりできるごはんに、ゆっくりできるおうちがあるのだ。
野生の考えであれば、それだけで十分ゆっくりできる。

「きゃっ!」

だが、普段から一匹で暮らしていたさとりは忘れていた。
この狭い空間の中には、自分以外のゆっくりが五匹もいることを。

「……うぅ」

背中から突き飛ばされたさとりは後ろを振り向くが、すでに誰もいない。
きっと起き上がる前に、遊具のところまで移動したのだろう。
先ほどからこんなことが続いていた。

大皿に乗ったご飯を食べようとすれば、横から体当たりされる。
遊具で遊ぼうとすれば、誰かが先に遊んでいた。
要するに、陰湿ないじめである。

さらに、ここに単独で連れてこられたさとりには味方がいなかった。
誰も話そうともせず、遊具で楽しそうな声を上げているばかり。
唯一さとりに許されていることといえば、みんながゆっくりする様子をただ見るだけである。


さとりは何故第三の目で読み取れないのか、不思議に思った。
そうすれば邪魔しようとした瞬間に気付けるのに。




二日目


れいむたちは昨日の陰湿ないじめは何処へやら、堂々とさとりをいじめ出した。
ごはんを食べようとするのを邪魔するのは勿論、食べている最中まで体当たりをしてくる。
かろうじて必要な分を食べたあとも、ゆっくり気を抜くことできない。
常に誰かが隙を見ては、付き飛ばそうとするからだ。

「ゆっくりできませんね……」

さとりはたった二日にして、強気な性格がすっかり崩れ去っていた。
それにはやはり、心の声が聞こえなくなったことが一番の要因として挙げれるだろう。
今まで自由に使えたはずの能力が何の反応も示さない。
持っていて当然ものが失われるというのは、大きな不安を生み出すのである。


心が読めないさとりは、ただのゆっくり。
本来野生では生きていけない個体なのだ。
その事実が本能的に、さとりを劣等感で苦しめていた。




三日目


さとりは何もされなかった。本当に何もされなかった。
みんな柵の隅っこでじっとしており、たださとりの方を見ているだけ。
ごはんに口をつけても、誰も襲ってこない。
思い切って遊具で遊んでみても、誰も付き飛ばさなかった。
ただ、ただ、さとりの方を見ているだけである。

さとりは知らなかったが、注目されるというのは慣れていなければ極度の緊張状態をもたらすのだ。
ましてや、見つめているのは二日間さとりを攻撃してきた相手。
いつ襲ってくるかもしれない恐怖でびくびくしながら行動する様子は、
見られているというよりは一挙一動を監視されてるような感覚だったであろう。

「――うぷっ。えれえれえれ……」

そのうち、十個の目に見つめられ続けるストレスにより、一回だけ中身を吐いた。
それでも彼らは静かだった。気味が悪い。
何もいじめられてないはずなのに、さとりはゆっくりできないままであった。

「どうして私がこんな目に……」


さとりは今こそ心を読みたいと思う。
あのれいむたちが何を考えているのか、まったくわからなかった。
わからないのが、怖かった。




四日目


朝食を食べようとゆっくりフードが置いてある大皿のところに行くと、何も入ってない大皿が一つ。
一体どういうことかと周りを見渡すと、遊具のところにいた一匹が答えてくれた。
最初にあいさつをしにきた、あのまりさである。

「ゆっくりできないさとりには、ごはんさんをわけてあげないよ!」

それを聞いたとき、いったい何を言われたのかよくわからなかった。
じゃあいったい何を食べればよいのかと。
その時、ちぇんが目配せと尻尾で昨日自分が吐いた中身を示す。
まるで『わかるねー?』とでも言いたいかのように。

瞬間、さとりはこれまで感じたことがないような憤りを覚えた。
自分の吐いた物を食べろというのは、今まで考えたこともないほどの屈辱だったのだ。
怒りに身を任せてちぇんに襲いかかろうとするも、すぐに他のゆっくりに押さえつけられる。
だがそのくらいでは生まれて初めて知った憤怒の炎は消えない。
押さえつけられてもしばらくの間、ちぇんをじっと睨み続けるのであった。


けれども、生物(?)である以上お腹は空く。
あれからしばらくして仕方なしにさとりは自分の吐瀉物を食べ始めるのだが、
丸一日時間がたっていることもあってか気が遠くなるような味である。
しかし昨日さとりが失った分を補うためには、何か食べなければいけない。
皮肉にも今のさとりに食べることが許されているものは、自分が吐いたものしかないのだ。

ふと遊具の方を見ると、誰もがおいしそうにゆっくりフードを食べてるのが見えた。
どうやら昨日まで大量にあったゆっくりフードは、あの遊具の影に隠されているようだ。
一生懸命さとりが汚らしい中身を無理やり飲み込んでいく最中も、ちぇん達はゆっくりフードを幸せそうに食べ続ける。
さとりは悔しさのあまり泣いてしまった。
ここに来て初めての涙だった。


このころになると、さとりは本当に心を読む能力が使えるのか疑問を抱き始める。
もしかしたら人間に捕まった時に、何かされたのかもしれない。
次に心の声が聞こえるときは、もう二度と存在しないのかもしれない。
何にしても、さとりにはどうしようもないことだった。




五日目


最初に告げられていた通り、さとりがこの部屋にいる最後の日である。
―――もっとも、そのことに気付ける状況ではなかったが。

「いだっ! いだいでず! やべてくだざい!」

今日は、朝から全員のサンドバッグにされていた。
それは二日目の堂々としたいじめとも違う、ただの公開リンチである。

数匹がさとりの周りを囲み、適当に体当たりで痛めつけた後交代する。
さとりは空腹感で反撃しようという気持ちすら失われており、昨日のような怒りを捻り出す気力もない。
さらに、リンチするゆっくりが一様に無表情なのも恐ろしかった。
その何を考えているかわからない状況は、さとりに三日目のような不気味さを思い出させる。

「も、もうやべてぇ……」

何でこんなことをするのか解らない。
何でこんなことをされているのか解らない。
何で心が読めないのか解らない。
何も解らない。
解らない。


前述したとおり、心が読めないさとりはただのゆっくり。
不意打ちにも対応できず、ただ無力で、優位に立つことなく、簡単に捕まってしまう。
暴行を受け続ける中、さとりは自分が野生で暮らしていた時のことを思い出していた。
周りのゆっくりから嫌われてはいたが、一匹で十分ゆっくりした生活ができ、能力を使って人間から逃げ切ることもできたころ。
もう一度心が読めるなら、何を失ってもよかった。



   ◇ ◇ ◇



次の日の朝、俺は日曜日独特のさわやかな気分に包まれて目を覚ました。
さとりと出会ってから、今日でちょうど一週間である。

「さて、どうなってるかな」

簡単に着替えた後、さっそく例の部屋の扉を開けてみた。
そして柵に近づいた瞬間、さとりが急に起き出してこちらを向く。
……ああそうか。突然心の声が聞こえだしたらびっくりするわな。

「よっ! ゆっくりおはよう!」
「…………」

直接会うのは一週間ぶりだったが、初日のような生意気な反応は一切返ってこなかった。
なんか驚いて硬直している。心が読めることがそんなに衝撃なのだろうか?
でも挨拶ぐらいは返してほしい。

「全身に痣ができてひどい有様だな」
「……そうですね」

やっと反応が返ってきたので、ほっとする。
これから我が家の飼いゆっくりにするつもりなのだ。壊れていたらどうしようもない。

「飼いゆっくり?」
「どうだ? 俺の飼いゆっくりになるならここから出してやる。
簡単なルールを守るだけで、おいしいごはんに安全なおうち。賢いお前ならルールも楽に学べるだろう。
後は俺を怒らせなければバラ色のゆん生の始まりだ!」


飼いゆっくりにならないのなら、もう一週間ここで暮せ。
もしくは今すぐ潰してやる。


ぶっちゃけ脅迫なのだが、本当に悪い扱いはしない。
それに、こういう元から賢いゆっくりは便利だしな。

さとりはこの一週間を思い出したのか、一瞬だけ身震いをする。
どうやら相当に堪えていたようだ。

「……『もう一週間ここで暮せ』なんて、選べませんね。ゆっくりりかいしました。飼いゆっくりになりましょう」
「おお、そうか! それは良かった!」

俺は心から喜んだ。いや、実は飼いゆっくりにならなければ俺も困るのだ。
さすがにもう一週間同じことをするのは飽きる。
見ればさとりの表情も、なんだかほっとしていた。俺の喜びが偽りでないと知ったからかもしれない。





「じゃあ、さっそく『おしおき』な?」



「え?」
「いや、最初にお前と出会った後、山道にちょっと迷ってな。木に目印をつけていなかったら本当にやばかった」

あの時の恐ろしさを言葉にするのは難しい。
徐々に空が暗くなっている中、一人で道なき道を通って山を下るのだ。
一度やってみろ、遭難する怖さがマジでわかる。

「部屋から出たばかりで悪いが、なんとかなるだろ。……とりあえず今回は何をしようか」

できれば後遺症を残したくはないし、死んでもらっても困る。
最初は口を縫うことから始めよう。
そのあと適当に針を刺したり、蠅叩きでたたいたり……
そういや中身ってなんだ?
目玉が付いた飾りはグミでできてるみたいだが、中身は食べてみんと解らんしな。
小さな穴でもあけて食べてみるか。

……あれ、なんかさとりの様子が変だ。


「いやですいやですやめてくださいいやいやいや……」

なんか血の気が引いた顔ですごい嫌がってる。
涙目で小刻みに震えている様子はとてもかわいらしかったので、ちょっと抱き上げてみた。
おお! ぷにぷにがぶるぶるで気持ちいいぞ!?

「どれも簡単で易しいものなんだ。安心しろ、別に足を焼いたりするわけじゃない」
「やめてくださいそんなことを考えないでいやだそんなのやりたくない……」
「おいおい、世の中にはもっと酷いことをする奴らがうようよいるんだぞ? このくらいじゃあ序の口だって」
「なんでそんな方法がいやでずもうぞんな心なんで読みだぐないですだがらやべで……」

……はて。そこまで言われるほどのことなのか?
別に体の中に蟻の巣を作るわけじゃないし、他のゆっくりと合体させるわけでもない。

大丈夫。飽きたらすぐに終わるから。



「なんで心が読めるのにごんなごどにいやだぼう知りだぐないでずやべでやべでぐだざい……」



   ◇ ◇ ◇



あの部屋で生活していたころのさとりは、心が読みたかった、読めるように戻りたかった。
それこそどんなものでも差し出す覚悟だったはずだ。

今のさとりは、心を読みたくなかった。
次々と人間の頭に思い浮かぶ『おしおき』の数々に、それこそ心から恐怖していた。

この部屋から抜け出せると聞いたときは、ゆっくりできると思ったのに。
飼いゆっくりになると聞かれた時は、ゆっくりできると思ったのに。

最後まで期待を裏切られたさとりは、壊れたレコードのように拒絶の言葉を吐き続けるだけだった。

「知りだぐないでず考えないでおねがいだがら心なんでぼう読みだぐないっ―――!」


そしてさとりは一つの結論を悟る。
第三の目で相手の考えを知ることは、別に武器でも何でもなかったのだと。


結局心が読めても読めなくても、さとりはゆっくりできないのだ。



   ◇ ◇ ◇



その後まもなくして、さとりは気絶した。
気絶したゆっくりに『おしおき』という名の虐待をやっても仕方ないので、
とりあえず台所に置いておいておき、今はおりんに監視させている。

ちなみにおりんは『これでさとりさまとゆっくりできるよ!!!』と言って喜んでた。
最初から様付けかよと思ったが、さくやとれみりゃみたいな関係なのだろう。


「それじゃあ、とりあえず片付けるか!」

柵を取り外して仕舞った後、遊具を元の場所に戻す。
よし、片付け終わり!

その間、れいむやぱちゅりーたちは一切動かなかった。
それもそのはず。これはゾンビゆっくりだ。
見た目だけは野生にいるころと変わりないが、帽子の下は中身が丸出しになっていて、中枢餡を抉り出した跡がある。
数あるゾンビゆっくりの中でも、これほど綺麗なゾンビゆっくりはそういないだろう。

「ユックリシテイッテネ!!!」
「はいはい、ゆっくりゆっくり……って、ゾンビに言っても仕方ないか」

今回の虐待も、おりんの協力が不可欠だった。ゾンビって便利だね。
しかしさとりを虐めるのはいやだったのか、ちょっとぐずってしまったので、
『今回の虐待が終われば飼いゆっくりにする』と言ってなだめすかした。
――勿論、最初から飼いゆっくりにする予定だったなんて教えてない。


その時、まりさが何か言いたげな目をしてこっちに向かってくる。
こいつだけはゾンビゆっくりじゃない。ちゃんと生きているゆっくりである。
ゾンビゆっくりは複雑な会話ができないから、今回のバランサーとして紛れ込ませていたのだ。

「おにーさん! こいしにぼうしさんをかえしてね!」
「解ってるって。……ほらよ」

そう言ってゆっくりこいしはまりさの帽子を脱ぎ棄てて、黄色いリボンが巻かれた黒帽子をかぶり直す。
実は一番苦労したのってこいつかもしれないな。

「しかし……本当に帽子を入れ替えただけで解らないのか」
「ゆっ! こいしの "むいしき" で、だれにもわからないんだよ!」
「いや、たぶんそう言う意味じゃない」



突然、台所から悲鳴が聞こえてきた。
この叫び声は、おりんのものだ。
驚いた俺は、すぐにこいしを抱えて台所に向かう。

「どうしたっ!? さにーがガスコンロをいたずらしてるのか!?」
「ざどりざまが……ざどりざまがぁ……」

さとり?
さとりがどうかしたのだろうか。

俺はさとりを置いていた場所を見る。
そこには気絶から回復したさとりの姿が―――あ、あれ?





「こいし、こいこがれるようなゆっくりがしたいな!!!」

どうやらさとりは第三の目を閉じたようです。











あとがき

おにーさん、こいし二匹目GET。
さとりが第三の目を閉じるとこいしになるという設定です。

いつも通り初見でも虐待部分は楽しめますが、過去作を読んでくれれば節々がわかりやすいと思います。

しかし、ゾンビは本当に便利ですよね。
炎で攻めても電気で攻めてもそこそこ動き続けることができますし。

せめて、おりんを使った虐待が増えてくれないものでしょうか……

前に書いたもの

ゆっくりいじめ系2744 B級ホラーとひと夏の恋
ゆっくりいじめ系2754 ゆっくりできないおみずさん
ゆっくりいじめ系2756 ゆっくり障害物競走?
ゆっくりいじめ系2762 れみりゃはメイド長
ゆっくりいじめ系2775 信じてくれない

ゆっくりいじめ小ネタ517 見えない恐怖

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最終更新:2011年07月27日 23:35
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