永遠のゆっくり20(後編)

十八日目

連日、ゆっくり共は俺に奉仕しようとして空回りをし、
俺の命令に必死に服従した。

二週間ほどもそんな生活が続いたが、
ゆっくり共はあきらめようとしない。
本気で俺をゆっくりさせようと思っているらしい。

頃合いとみて、俺は言ってやった。

「お前ら、本気で人間に飼われる気か?」
「ゆぁ、あ、おねがいじばず!!
にんげんざんにみぢびいでほじいんでずううぅぅ!!」

涙を流して頭を下げてくるゆっくり共。

「まだ自分にそんな資格があると思ってるんだな」
「ゆぐっ!!ゆぐうううぅぅ!!おにっ」
「あんな事をしておいてよく人間の前に出られるよ。
お前たちは罪の清算もなにもできてないんだぞ」

ゆっくり共は泣きじゃくり、這いより、
俺の足元にすがりついて懇願してきた。

「おじおぎ!!おじおぎじでぐだざい!!
ばりざだぢにばづをあだえでぐだざいいいいぃぃ!!
づみをっ!!づみをづぐないだいんでず!!どうが!!どうがぁ!!!」
「知るかよ。
お前たちに罰なんか与えたって無駄だからな。
今度捨てていくから、人間に関わらないで森でゆっくりしていけ」
「ゆんやあああああああああぁぁぁあ!!!」
「おねがっ!!おにいざっ!!ばづを!!
ばづをおあだえぐだざいいいいいいぃぃぃ!!!」

必死に罰を懇願してくるゆっくり共に、さすがに気分が悪くなる。

罰を与えるということは、ルールを履行し、筋を通すチャンスを与え、
仲間として受け入れるということでもある。
人間の赤ちゃんを嬲り殺しておいて、
罰と許しを要求してくるこいつらの厚かましさ。

所詮ゆっくりの餡子脳では、その浅ましさが理解できるはずもなく、
ひたすら反省を表明すれば許されると思っている。
仕方のないことなのだろう。

そういった個人的感情を抑え、俺は台本通りの台詞を投げかけてやる。

「俺は知らん。無駄だからな。
どうしてもというなら自分たちでやったらどうだ?
罪を償う方法はいくらでもあるだろう」
「ゆゆゆっ!!」

ゆっくり共が何事か考える風を見せていた。
俺は無視し、通常通りの生活に戻った。


その夜、ゆっくり共は居間で眠っていたが、
親ありすだけがずっと起きていた。

ゆっくり共が眠っている間も、テレビは映像を流し続けている。

『ゆほおおおおぉぉぉ!!がぢぐのあがぢゃんぎぼじいいいいいいぃぃ!!
すべすべでどがいばよおおぉぉぉぉほほほおぉぉぉいぐわいぐわいぐわいぐわああぁぁぁ!!!
あでぃずのどがいばなあいをおうげなざあああぁぁいい!!
んっほおおおおおおぉぉすっきりいいいぃぃぃーーーーーーーっ!!!』

親ありすはテレビの前から微動だにせず、その映像を見つめ続けていた。

「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……
ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」

呟き続ける親ありすの頬を、涙が静かにつたって床に落ちた。


十九日目


俺の前にありす共が進み出て言った。

「おにいさん……ありすのおはなしをきいてください」
「なんだ?」
「ありすはいなかものです。
とってもとかいはなおにいさんとおねえさんをばかにしたごみくずです。
おにいさんたちのあかちゃんをころした、みにくくてけがらわしいけだものです」

そう言う親ありすの目には涙が浮かんでいる。

「ありすはけだものです。
すっきりがしたくなると、どうしてもがまんできなくなって、れいぷをします。
ゆっくりにもにんげんさんにもめいわくをかける、せかいのごみです。
ありすは、せかいでいちばんきたならしい、みっともないいきものです。
とかいはでやさしいおにいさんのおかげで、
ありすはそれをおしえてもらって、じぶんのことをしることができました」

目尻から一滴の涙があふれ出る。
間を置いてから親ありすは続けた。

「こんなごみくずをあわれんでしんせつにしてくれたおにいさんを、ありすはばかにしました。
じぶんはごみくずのゆっくりのくせに、
おにいさんとおねえさんをばかにして、かちくあつかいして、
ちょうしにのって、おにいさんたちのあかちゃんをころしました」
「だから?」

俺が聞くと、一瞬口をつぐんでからありすは続けた。

「ありすは、つぐないたいとおもいます」

言うが早いか、親ありすは身体を揺らし始めた。

「ゆふ、ゆふ、ゆ、ゆっゆっゆっゆっ………」

あひる口を突き出し、目がとろんとゆるみ、全身が粘液で湿り始める。
俺は手近にあった棒でその顔面を突いた。

「ゆごぇっ!!」
「汚らしいものを見せるんじゃないよ」

口から少量のカスタードを吐き出し、震えながら必死に起き上がる親ありす。
へこんだ顔面を俺に向けて懇願してきた。

「ずびばぜん!!ずびばぜん!!
けがらわじいものをみぜでぼんどうにもうじわげありばぜん!!
でぼ、でぼ!!みでぐだざい!!いまだげ、どうが、おでがいじばずうぅ!!」
「……やれよ」
「あじがどうございばずううう!!」

痛む体を引きずり、親ありすは俺の前に這いずると、振動を再開した。

「ゆぐっ、ゆぐぐぐゆゆゆ、ゆほ、ゆほっほっほっ……」

親ありすはついに発情し、ぺにぺにを屹立させた。
快感にゆるんだその顔は、しかし涙を流して歪んでいる。
荒い息をつきながら、親ありすは言い放った。

「あ、あり、ありずは………ぼう、にどど……ずっぎりをじばぜん」

そのまま横を向き、我が子に目配せをした。
子ありすは頷くと、自らの親に飛びつき、
屹立するぺにぺにに噛み付いた。

「ゆぎゃあああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーっ」

部屋中にけたたましい悲鳴が満ちる。

「あ、あ、あが、あ、ゆぐ、ゆ、ゆっ……ゆぐううぅぅ…………!!」

かつて、子供よりもカチューシャよりも大事だと言ったもの、
他のすべての五感を破壊されても、それだけは守りとおそうとしたぺにぺに。

涙と涎を滂沱と垂れ流し、親ありすは歯を食いしばって呻きながら、
子ありすが吐き出した自分のぺにぺにのなれの果てを食い入るように見つめていた。

別の子ありすが、小麦粉の溶液を刷毛で親の傷口に塗り込む。

「おにいさん……。
ありすたちも、……ありすたちも………」

四匹の子ありす共が、親にならって振動を始めた。


五本のぺにぺにが床に並んでいた。

かつてはありす種の第一の存在意義であったそれを、
ありす共はしばらくの間放心したように見つめ続けていたが、
やがて顔をあげると、俺に向かってこう言った。

「……これが……ありすのおわびです。
ありすは、……ありずは……これでっ、ぼう………にどと……ずっぎりが、でぎばぜん……
……っぐ………ゆぐぅっ………ごれがら、は……にんげんざんの、だめに……」
「で?」

ありす共は弾かれたように顔をあげ、絶望を顔に浮かべて俺を見つめた。

「お前たちは俺の子供を殺したんだ。
いいか、俺の子供は死んだ。
すっきりどころか遊ぶことも、食べることも、喋ることさえもうできない。
そんなことで償えると思うな」
「…………ゆ…………ゆあぁ…………」
「まだまだだ。わかったら失せろ。それは捨てとけ」
「………あじがどう、ございばじだ…………」

呻き、泣きながら、ありす共は緩慢な動作でぺにぺにをかき集めた。
他の八匹は、その様子をじっと見つめていた。


その日から、ゆっくり共のショーが俺の前で連日開催されることになった。


二十日目


「ゆぐうううぅぅ!!あゅううううううぎいいい!!」

ぶちぶちぶち、と音をたてて髪が引き抜かれ、床に散らばる。

「まだのこってるよ!!がんばってね!!」
「れいぶがんばるよ!!がんばっでおわびずるよおおぉぉぉ!!」

三匹のれいむが子れいむを取り囲み、
その髪を唇と歯で挟み、よってたかって片端から引き抜いている。
そのうち、親れいむの頭はすでにほとんどの髪が引き抜かれ、
髪飾りのついたもみあげと頭頂部のひと房だけが残って落ち武者のようになっていた。

今また子れいむの頭もほぼ禿げあがり、
床に散らばる自分の髪を見つめて子れいむは泣きじゃくった。

「あが………あ……ゆああぁぁ………
でいぶの……でいぶのぎれいながみざんが…………」
「ゆ!!めったなことをいわないでね!!
ごみくずのかみさんなんてきれいじゃないよ!!」
「ゆぐっ!…ごべんなざい……!!」

ゆっくりの髪は、一度抜けると二度と生えそろうことはない。
人間が髪を切るのとは喪失感のレベルが全く違う。
たった今子供を叱咤した親れいむ自身も、ずっと目に涙を浮かべ続けている。

「まだまだだよ!!つぎはれいむのかみをぬくよ!!」
「ゆぐっ……ゆっぐりぬいでね!!」

次の子れいむが選び出され、聞きあきた絶叫がまた部屋に響く。


「ゆぐっ、ゆっぐ……お、おに、おにいざ……でいぶのおわび……」
「捨てとけ」

俺は新聞を読みながら、
髪の束を差し出してきた禿げ饅頭共の方を見もしないで言った。

「ゆぅううぐううううう!!!」

子れいむが歯噛みして叫んでいる。

「おにっ、おにいざん!!みでぐだざいいいい!!
でいぶのがみざん!!でいぶはがんばっで!!ゆううあああああ!!」
「あ?」
「れ、れいむ!!やめてね!!しつれいなことをいっちゃだめだよ!!」

親れいむがあわてて叱咤するが、
俺は立ち上がり、その子れいむを恫喝した。

「今何を言った?」
「ゆぁ……あ………あ……!!」
「見ろと言ったのか?
薄汚いゴミクズからむしり取ったカスを、わざわざ見ろと?」
「あ………あ……ごべんなざい!!ごべんなざい!!ゆるじでぐだざびゅうっ」

禿げあがった頭部を踏みつけ、踏みにじる。

「ゆぎゅぶうううぅぅ!!ぎゅうううう!!」
「ゆっくり如きがよくも人間に向かって指図をしてくれたな。
ゴミが髪をむしったから何なんだ、え?
それは人間がわざわざ注目しなきゃならないほどの大事件なのか?」
「ぢ!!ぢがいびゃっ!!ぢがいばじゅううう!!
うずぎだないごみぐずのがみざんなんで!!なんのがぢぼありばぜえええええんん!!」
「汚いゴミを、人様の家にまき散らしやがって」

言いながら何度も踏みつける。

「ゆぎゅっ!!あびゅ!!ずびっ!!ずびばぜんでじ、だ!!あぎゃば!!びゃあああ!!」
「ゴミを出したら掃除をしろ。さっさとやれ」
「ばいいいいぃぃぃ!!」
「あじがどうごじゃいばじだああああぁ!!」

れいむ共が、床の髪を舌でかき集める。

「ゆぐっ……ゆびっ…………えっぐ、あぐ…………ゆぐぅううああああああ………」

俺にさんざんに踏まれた子れいむが、うつぶせになったままいつまでも泣き続けている。
他のゆっくりはそいつを慰めるでもなく、ただ陰鬱に掃除を進めていた。



二十一日目


どん、どん、というやかましい音がさっきから響いている。

口を引き締めたまりさ共が壁に向かって、顔面から突進していた。
顔面の中でも口や頬を前に突き出して激突し、
その度にうずくまり、苦痛に震える。
それでもまた立ち上がり、突進を再開するのだった。

全身をでこぼこにしたまりさ共が、俺の前に這いずってくる。
そして必死に閉じていた口を開いた。

口の中から、ぼろぼろと歯がこぼれ出す。
壁に激突することで自ら口内の歯をへし折っていたらしい。
口内もさんざんに傷つけたらしく、少なくない量の餡子が飛び散った。

「おひいひゃん、こりぇが……こりぇが、まりふぁほ、おわひのひるひ……へひゅ」
「何を言ってるんだかわからん。意味はわからんが、捨てろ」
「ひがっ!!おわひ、まりふぁふぁ、ほうひわひぇひゃひっひぇ!!」
「おい。まさかそれで償うつもりじゃないだろうな」
「!!」

まりさ共が口をつぐみ、ぶるぶる震えだす。

「まさかそんなわけないよな。
ゴミクズの歯なんか何本抜いたって、
俺の子供の痛みにはぜんぜん釣り合わないもんな?」
「……は………はいいぃぃ………!!」
「なんの遊びだか知らんが、目障りだ。捨てろ」
「あひがひょうごひゃいひゃひひゃ!!」


二十二日目


「だめ………だめ…………でぎないわぁぁ………」
「がんばりなさいよぉ!!ありすのきもちはそのていどなのおぉ!?」
「いや……いや……いやよおおぉ!!」

子ありすが抵抗していた。
何より大切なはずのぺにぺにをすでに差し出した者とは思えないほど恐怖している。
やはり、棒が自分の目に向かって迫ってくる恐怖は堪え難いものがあるようだ。

逃げ出そうとする子ありすを、他のありす共が抑えつける。

「おわびしたくないの!?
にんげんさんにめいわくをかけたつみをつぐなわないつもり!?
つぐなわないとゆっくりできないでしょぉぉ!!」
「っひ……ゆひいいぃぃ………!!」

抑えつけられた子ありすの眼窩に、親ありすが耳かきを突き入れた。

「ゆぁぎゃああああああああ!!!」
「がんばりなさい!!」

そのまま、口にくわえた耳かきで眼窩をえぐる。
ばたばたと身悶えして叫び続ける我が子の眼球を、
親ありすは両方ともえぐり出し、
糸のような器官をぶら下げた二つの球体が床に転がった。

「ゆがああぁぁ!!ゆぎゃあああ!!」
「つぎはありすよ!!めをだしなさい!!」
「ゆ、ゆ、ゆっくりがんばるわ!!」

四匹の子ありすが目をえぐり出され、八個の眼球が集められる。

最後の親ありすが、盲目となった子ありすに耳かきを手渡して言った。

「ありすのめもとりなさい。
まえにだして。もうちょっとみぎ……うえ……そう、そこよ。
………ゆぎぃ!!ゆうぐぎぎぎぎぎぎいいいいい!!!」

見えない状態で、手探りで不器用に親の眼窩をえぐる子ありす。
加減がわからず、明らかに眼窩を超えた深さにまで耳かきが出し入れされる。

「あぎゃああああ!!ううあああああああ!!ばやぐ!!ばやぐじでえええぇぇ!!!」

壮絶な苦痛のあと、ついに親ありすの眼球もえぐり出された。
手探り、もとい舌探りで眼球を集め、親ありすが聞いた。

「おにいさん………どこですか……?」
「ここだよ」
「ゆっくり……いきます………」

声のしたほうへずりずりと這ってくる、盲目の五匹のありす。
テーブルの足に頭をぶつけながら、俺のほうに来る。
ついに親ありすが俺の足元に顔を押し付けた。

「汚い顔をつけるんじゃない」
「あぎゃ!!」

顔面を蹴飛ばしてやると親ありすは飛ばされ、
また戻ってくるまでに時間がかかった。

俺の前に並ぶありす共はぶるぶる震えている。
見えない状態では、どこから何が飛んでくるかわからず、恐怖感も倍加するのだろう。

「おにいさん…………。
ありすの、ありすのおわびのきもちです………」

親ありすが、口の中に集めた十個の眼球を俺に向かって吐き出す。

「ありすたちは……もう、なにもみえません。
にどと………にんげんさんも、ゆっくりもみません。
ありすたちがころしたあかちゃんも、もう、みえないから……
ありすたちもにどと………」
「で、二度と人間の役にも立てないってわけだ」
「ゆっ!!?」

はっとして顔を上げるありす共。

「ゴミクズの上に目が見えないゆっくりなんか、
それこそ何の役にも立たないもんな。
役に立たないゆっくりを飼ってくれる人間なんかどこにもいないだろうよ」
「ゆぁ………!!あ………ありずは……!!」
「なかなか感心じゃないか、人間に飼われる望みを自分で断つなんて。
野良にでもなって野垂れ死にするわけだ、その目じゃ生きていけないだろうし」
「ゆ………ゆ………ゆうあああああああ!!!
にんげんざん!!おにいざん!!あでぃずを!!ごみぐずを!!
どうが!!どうがあわれんでぐだざい!!みずでないでぐだざいいいいいいぃぃ!!」
「知るか。おい、それ片付けとけ」
「おでがいじばず!!おでがいじばずうううぅぅ!!あでぃずをがっでえええええ!!!」
「騒ぐな!!」

すがりついてくるありす共を片端から踏みにじる。

「ぎゃあぎゃあやかましい!
さっさと片付けて失せろ!俺の命令が聞けないのか?」
「やりばず!!ごべんだざい!!ごべんだざいいいぃぃ!!」

見えないままで泣きむせび、四散した眼球を必死に集めるありす共。
そのまま立ち去ろうとするが、見えない状態ではどうすることもできなかった。
何度も俺に蹴り転がされて泣きわめき、慈悲を乞う。
結局、それぞれがあらぬ方向へ這いずっていき、
その後、壁沿いにのろのろと這いずる生活を強いられた。


二十三日目

「ゆぉあああああああがああああああああうううううう!!!」

毎日やかましいことだが、今日わめいているのはまりさ共だ。

親まりさが限界まで舌を突き出し、
その舌の根本を子まりさが包丁でぎこぎこと鋸挽きをしている。

「あがあああああああゆぅおおおおおおおおああああああああ」

歯を失なったまりさ共が、今また舌を失おうとしていた。
すでに半ば切り落とされようとしている舌をびくびくと踊らせながら、
親まりさは泣き、しーしーを垂れ流している。

歯がなく、包丁の柄を掴む力が弱いこともあり、
作業は遅々として進まず、親まりさの苦痛も長引いた。
埒が明かないと見た子まりさは、
鋸挽きからざくざくと包丁を突き立てるやり方に変えた。

「あぎょ!!ごっ!!ごおぉぉ!!ぎゅああぁぁ!!」

真上から包丁を突き立てられるたびに、舌の切り口がずたずたになって切り拡げられた。

ついには舌が切り落とされ、ぼとりと床に落ちた。
餡子まみれの舌は想像以上に長く、1メートルはありそうだった。

例の小麦粉の溶液で傷口を治療された親まりさは、
包丁を口に咥えると、手近な子まりさの口をこじ開けた。


「ゆー………ゆー…………」

歯もなく舌もなくしたまりさ共は、
もはや言葉を喋ることはできず、ゆーゆーと呻くしかなくなった。
あれほど高慢にふんぞり返り、憎まれ口をきいていたまりさ共も、
こうなると少しはしおらしく見える。

「ゆ………ゆゆー………ゆーゆううううゆー………!」

俺の前に四本の舌が差し出される。

「捨てろ」

俺は決まり切った答を返した。
まりさ共の目からぼろぼろと涙が流れ出す。

「全然わかってないんだな、お前らは。
そんなままごと遊びで詫びになると思ってるのか?」
「ゆうううう!!ゆーーーーーーー!!」

身体をぶんぶん横に振るまりさ共。

「ゆーゆー鬱陶しいんだよ。失せろ」


二十四日目


今日のショーはゆっくりにしてはだいぶ手間がかかっているようだ。

台所をかき回し、れいむ共はそれを引きずり出してきた。
説明書を読み、スイッチを入れたそれを前にして、
禿頭のれいむ共はがたがたと震えている。

「ゆぐ…………ゆ…………ゆ…………うううぐうううう……」

眼前に見えるあまりにも絶望的な末路を前にして、親れいむが涙を流す。

ぺにぺにも、髪も、歯も、目も、舌も、
人殺しの罪を償うことはできなかった。
そして今、れいむ共はあんよを選んだ。

親れいむが、意を決して跳び上がった。

「ゆあああああづぁあああああああああーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

油をひいた高熱のホットプレートの上に乗り、
親れいむは苦痛の絶叫をあげる。
もみあげをぶんぶんと振り、眼球をぐるぐる回転させ、苦痛に身もだえていた。

ゆっくりに限らず、野生に生きる獣は脚を傷つけることを本能的に恐れる。
移動手段を失うことは、狩りをすることもままならず、
天敵から逃げることもできなくなる。
足を傷つけることは自然の中ではほぼ死と同義だ。

いわゆる「足焼き」が、
ゆっくりを苦しめる虐待方法として親しまれているのはそのためだ。
ゆっくりにとって、あんよを焼かれる恐怖はあまりに大きい。

それゆえ、世界広しといえど、
自らあんよを焼くゆっくりはこいつらぐらいのものではないだろうか。
計画を発案し、春奈博士のお膳立てに加担した俺だったが、
ゆっくり相手とはいえ、宗教というものの恐ろしさを実感する思いだった。

「あぎょあああああああああゆぎゃあああああああああああああああああづあづあづあづおおおおおぎょごおおおおあああああああ
あああぎゃあああああゆううううぐううううううづううううーーーーーっづおおおおおおおおおゆぎょおあああああああああああ」

今までで一番やかましいショーだった。
あんよが焼かれ焦げ付いてゆく間、親れいむは体中から汗のような体液をだらだら染み出させながら、
あらん限りの声を張り上げて絶叫しつづけた。

「ゆぎょおおおおおあおおおおおぎゃあああああああああおぎいいいぎいおおおぎぎぎぎおぎらっおおぎぎられないいい!!!」

あんよが真っ黒になったころ、れいむが身を震わせて絶叫しはじめた。
ホットプレートに足がはりついて動けないらしい。

結局、子れいむやまりさ共が手助けをして親れいむを引っ張り出した。
床にごろんと転がった親れいむの底面は真っ黒になっており、
黒い消し炭のカスをぼろぼろとこぼしている。

子れいむ共はゆぐゆぐと泣きじゃくりながらしばらくそれを見ていたが、
やがて、新しい油をホットプレートにひき始めた。


もはや動けなくなったれいむ共が、声をはりあげて俺に叫ぶ。

「で、でいぶのおわびでずぅ!!
でいぶは!あじをっ!!やいでっ!!うご、うごげばっ」
「お前も役立たずになったなあ」

新聞に目を落としながら俺は言い捨てた。

「人間の役にも立たない、森でも生きていけない。
まあ、処分はしないから、勝手に野垂れ死んでいってくれ」
「ゆううううういいいいいいいいいぃぃ!!」
「つぐなっ!!つぐないだぐで!!でいぶはっ」
「それが償いだと?馬鹿にしてるのか、え?」
「ゆぐぅっ」
「目障りだからさっさと失せろ」

俺はそう言ったが、れいむ共はもはや動けない。
結局、まりさ共に押してもらい、泣き叫びながら視界から消えていった。


饅頭共が、償いようもない殺人を償おうとして、自らの体を痛め続けていた。

その光景は滑稽の一言だった。
まるで人間のように贖罪のために苦しむその様は、失笑しか誘わない。

その罪悪感は、俺たちがわざわざ手間暇かけて植え付けたものだが、
饅頭相手に倫理感を教え込んだところで、
何をしようと道化たコントにしかならないのだった。
そして言うまでもなく、
一番の道化は、その道化に家族を殺され、その道化を教育しているこの俺だろう。

俺は今、こいつらを憎む気も起らなければ楽しくもなかった。
新しい生き甲斐、人類の発展のために、割り当てられた仕事を淡々とこなすだけだ。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2011年07月28日 19:53
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。