永遠のゆっくり19(前編)

※最初で最後のゆっくり虐待に挑戦中です。
※どくそ長いです。
※うんうん、まむまむ描写あり。
※標的は全員ゲスです。
※虐待レベルはベリーハードを目指します。




※以上をご了承頂ける方のみどうぞ。




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『永遠のゆっくり』19




「みんな、これまでほんとうによくがんばってきたね!!」



その日、Y飾りのまりさが、
群れに向かって高らかに宣言した。
今では群れのゆっくり達は、Y飾り達を指導者として尊敬し、
その言葉に虚心に耳を傾けている。



「そろそろゆっくりぷれいすにむかえいれてあげるよ!!」



群れのゆっくり達から、割れるような歓声が起こった。
Yまりさが遮るように言葉をかぶせた。



「ぜんいんじゃないよ!!
このなかでとくべつゆっくりできているゆっくりからだよ!!」



群れの中に緊張が走る。



「どのゆっくりがゆっくりできているかは、
にんげんさんがさいていしてくれるよ!!
おねえさん、さいていをおねがいします!!」
「はいはい」



その場にいたお姉さんが、群れをじっくりと見渡す。
しばらくの間悩んでいる様子だったが、やがて十匹近いゆっくりを選び出した。



「この子たちは入ってきてね~」
「ゆゆゆぅぅぅぅ!!!やったよ!!やったよおおぉぉぉ!!!」
「ゆっくりできる!!ゆっくりできるよおおぉぉぉ!!!」
「すーりすーり!!おねえさん!!すーりすーりしてえええぇぇ!!!」
「はいはい、これから毎日してあげるわね」
「やったああああぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!!」



選び出されたゆっくり達が、うれちーちーを漏らしながら飛び跳ねる。
選ばれなかったゆっくり達のほうも声をはりあげていた。



「おねえさん!!おねがい!!れいむもつれてってえぇぇ!!」
「がんばります!!にんげんさんのいうことをききます!!ごみくずにおめぐみくださいいぃ!!」
「ゆっくりだまってね!!」



Yまりさが厳しい声で制止する。



「きょうはだめだったけど、まだちゃんすはあるよ!!
これからがんばれば、あとでまたえらんでもらえるよ!!」
「ゆゆゆぅぅぅ!!がんばりますうぅ!!」



希望に目を輝かせ、群れはおとなしくなった。



群れが見守る中、選びだされたゆっくり達は、
お姉さんに手ずからY飾りをつけてもらった。



Y飾りをつけて並ぶゆっくり達に、Yまりさは厳しく言い放った。



「これでおまえたちはゆっくりきょうのいちいんだよ!!
だけど、まだまだしたっぱだからね!!しゅぎょうはつづくよ!!
ゆっくりきょうととしてゆっくりできないことをしたら、いつでもまたおいだすからね!!」
「ゆっくりりかいしましたあぁ!!」



緊張を顔に浮かべながら、それでも嬉しそうに体を震わせ、
お姉さんの後についてゆっくり達は扉を通っていった。
ゆっくりプレイスの中に入ると、中のY飾り達が、
うってかわって優しげに、新たな仲間を迎え入れた。



お姉さんを囲んで存分にゆっくりしはじめた仲間たち。
羨ましそうに眺める群れに向かって、Yまりさは叫んだ。



「ああなりたかったらもっとがんばってね!!
きょうのおしえをはじめるよ!!」
「ゆっくりおねがいします!!」




その日から、数日おきにゆっくりが選び出された。
数匹のゆっくりがお姉さんの選別によってゆっくり教に迎えられ、
Y飾りを受け取ってゆっくりプレイス内でお姉さんにすーりすーりをする。
残された群れは、ガラス壁の向こうから歯噛みをして羨むしかない。



選別は順調に進み、
三週間ほどで、ほとんどのゆっくりはゆっくりプレイスに入った。
正確には、群れのゆっくり達全員である。



いまや残されているのは、
長浜圭一に飼われていた、プラチナバッジの十三匹のゆっくり達、
そして、金バッジをつけたれいむだけであった。




「選別の基準は?」
「デタラメ。茶番。あの子達を最後に残せればなんでもいいよー」




それまでは順調に選び出されていたのだが、
この十四匹が残ったところで、お姉さんが難色を示すようになった。



「おでがいじばず!!ながばにいれでぐだざい!!ずーりずーりざぜでぐだざいぃ!!」
「おぎでおぼえばじだ!!だぐざんおぼえばじだ!!おでがいじばずううぅ!!」
「うーん、駄目だなー」
「ゆうぐうううぅぅぅ!!!」



その日も、泣き喚いてすがりつこうとする一同をお姉さんは拒絶した。



それまでのペースから考えて、次は自分たちの番だ。
そう確信していた親れいむ達にとって、突然の拒絶は思いもかけないものだった。



この十四匹だけになり、すでに一週間。
毎日テストは行われるが、お姉さんが迎え入れてくれる気配はない。



「ゆっくりのあかちゃんはゆっくりできる?」
「ゆっくりできません!!」
「ゆっくりのおうたをきいたにんげんさんはゆっくりできる?」
「ゆっくりできません!!」
「ゆっくりぷれいすをてにいれるほうほうは?」
「にんげんさんにごほうしして、にんげんさんにおめぐみしてもらいます!!」
「ゆっくりにとって、いちばんゆっくりできるしにかたは?」
「にんげんさんにしょぶんしてもらうことです!!」



今日のテストも、すべての設問に正解することができた。
教わっている掟は、何度も何度も反芻し、十四匹の脳裏に刻まれている。



「だめー」
「ゆぅううううう!!?」



お姉さんがまたも拒絶し、ゆっくり達は呻く。
これまで、全問正解できたゆっくりはむしろ少ないほうだったが、
それでも多くのゆっくり達が選ばれ、ゆっくりプレイスに迎えられてきた。
しかし、この十四匹は、どれだけ正答を答えても許可が下りなかった。



「どぼぢでぞんなごどいうのおおおぉぉぉ!!?」
「あー、ほらほら。ゆっくりできないなー」
「ゆぐぅっ」



焦りと苛立ちに叫ぶ十四匹に、お姉さんが指を振ってみせる。



「また人間に逆らったー。
君たち、心の底から教えを信じてないでしょ。目を見ればわかるもん」
「しんじてます!!ぼんどにじんじでばずうぅ!!」
「ゆっくりきょうのおしえはとってもゆっくりできます!!」
「信用できないなー。口先だけっぽいんだよね。
心の中では人間を見下してるでしょ?」
「ぐぢざぎだげじゃありばぜええぇぇん!!」
「ゆっくりの役目は何かな?」
「にんげんさんのおやくにたつことです!!」
「んー、本心からそう思ってなさそう。はい今日もダメー」
「ゆびゃあああああああーーーーーーっ!!!」



お姉さんはすげなく扉の中に引っ込んでしまった。
泣きわめきガラス壁に体当たりする十四匹を、
Yまりさが後ろから掴み、ひき剥がして転がしていく。



「これだけおしえてるのにまだしんっこうっできないんだね!!
すじがねいりのごみくずだよ!!」
「しんっこうっしてますううぅぅ!!ぼんどうでずうううぅぅ!!」
「うそをついてもおねえさんにはわかるんだよ!!
にんげんさんをだまそうとするなんてゆっくりできないごみくずだね!!」
「ゆぎゃあああぁ!!」



その日もしこたま体当たりを受けた。
何度も岩場に転がされる十四匹に、
かつての仲間たち、今はY飾りをつけた群れのゆっくり達がガラスの向こうから罵声を浴びせる。



「れいむたちはゆっくりできてないね!!」
「しんっこうっしないゆっくりはこなくていいよ!!ゆっくりのたれじんでいってね!!」
「にんげんさん!!あのこたちはぜったいいれないでね!!げらげらげら!!」



かつて群れに尊敬された親れいむ、憧れの目で見られた金バッジれいむが、
いまでは底辺の存在として侮蔑と嘲笑の対象となっていた。



「おねえさん!!あのれいむはゆっくりできないよ!!
あのれいむはこんなことをいってたよ!!」



親れいむがかつて行った演説を又聞きした群れ出身のゆっくり達が、
お姉さんに向かって告げ口をしていた。
ゆっくりが一番ゆっくりできる、人間はゆっくりに奉仕するべきだ。
そうした自らのかつての主張を目の前で告げ口される。
親れいむはガラス壁に張り付いて泣き喚きながら弁解したが、
ゆっくりプレイス内のお姉さんは聞く耳を持たず、ふんふんと得心して頷いていた。




泣きじゃくり、痛む体を引きずりながら十四匹は岩場に身を横たえる。



渡された何冊かの本は、ほとんど暗記してしまった。
テストで何を聞かれてもすらすらと答えられる。



今や親れいむ達は、それらの教えを心から信じていた。
自分たちをゴミクズと認識し、人間に奉仕することを望んでいた。
一刻も早くゆっくりプレイスに入り、お姉さんにすーりすーりして、人間さんのお役に立ちたい。
それが親れいむたちのただひとつの望みだったが、
当の人間は、自分たちを信用してくれなかった。



特に親れいむは、
かつて激情のままに、人間に向かって叫んだ説教を心底後悔していた。



あんなことを言わなければ。
あんなことを言わなければ、今頃はきっと。



夜毎親れいむ達が流す涙は、何日経っても涸れる気配がなかった。




「どうやっだらじんじでぐれるどおおおぉぉ!!?」



十四匹だけになった日から三週間が経ったころ、一匹の子まりさが叫んだ。
泣きわめく子まりさにお姉さんが答える。



「どうやってっていっても、本気で信じればいいだけだよ。わかるから」
「じんじでるんですうううううう!!ぼんどうに!!
ぼんどうにごごろのぞごがらじんじでばず!!!
ばりざだぢはみにぐいごみぐずでず!!にんげんざんにみぢびいでぼじいんでずうううぅぅ!!!」



腕を組み、お姉さんは考えていたが、
やがて腕を解き、決心して言った。



「よし、じゃあ仮入信を認めます!」
「ゆ、か、かりにゅうしん……?」
「とりあえず入れてあげるってこと」
「ゆっ…………やっだああああぁぁぁぁああああああ!!!」
「すーりすーり!!すーりすーりしてええぇぇぇ!!ゆっくりいいぃぃ!!」



絶叫し飛び跳ねる十四匹に向かって、お姉さんが釘を刺した。



「待ちなさい。まだすーりすーりはしてあげません」
「どぼぢでええぇぇぇ!!?」
「言葉遣い!」
「ゆ、ど、どうしてですか……?」
「最後のテストをします。
これに合格できたら正式に仲間に入れてあげますよー」
「ゆぅううううう!!!がんばるよおおぉぉ!!!」



そして扉は開かれた。
お姉さんに促されるままに、十四匹は夢にまで見たゆっくりプレイスに招き入れられる。



「ゆううぅぅぅ………!!ゆううぅぅぅぅ~~~~~~!!!」



内部に流れるゆっくりできる音楽、色とりどりの調度品、遊具。
それらは十二分に親れいむ達の心を浮き立たせたが、
何より親れいむ達を喜ばせているのは、
お姉さんにすーりすーりするチャンスが与えられた事実であった。



いまだY飾りを与えられていない十四匹を、
Y飾りのゆっくり達がじろじろと見つめる。



「君たちはこの中に入ってね」



そう言うと、お姉さんが親れいむの頬を掴んで持ち上げた。



「ゆ!!ゆううううううぅぅぅぅぅ~~~~~~!!!」



頬に触れられただけで、電流に打たれたようなゆっくりが全身を貫く。
快感に頬を紅潮させて震えていると、あっという間に床に下ろされた。
同じく快感のうめき声をあげながら、十四匹のゆっくりが次々とそこに下ろされる。



そこはゆっくりプレイスの壁際、高めの柵で区切られた隅の一角だった。
柵の格子の間隔はだいぶ広く、遮られているとはいってもゆっくりプレイス内は充分見渡せた。



「それじゃ、最終テストを始めまーす。ちょっと待っててね」
「ゆゆっ!」



お姉さんが姿を消し、しばらくしてから大きな籠を手に持って戻ってきた。



「君たちにはコレの世話をしてもらいます」



お姉さんが、籠を柵の内側に下ろす。
十四匹がその籠に群がり、中を覗きこむと、籠の中から声が響いてきた。



「だあぁぁ……」



それを目の当たりにした十四匹は、目をうるませ、あひる口を突き出して唸った。



「ゆっ………ゆっ………ゆっくりできるよおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」



猛烈なゆっくりが十四匹を支配していた。
生まれてこのかた体験したこともないほどの、中枢餡の芯を貫くゆっくり。
その生き物はこのうえなく可愛く、魅力的で、ゆっくりしていた。
あのお姉さんよりもゆっくりしている。まして、ゆっくりなどとは比較にならない。
一同は矢も楯もたまらず群がり寄り、その生き物にすーりすーりをしはじめた。



「だあああぁぁ……びえええぇぇ!!」



ゆっくり達の涙と涎にまみれ、生き物は泣き始めた。
お姉さんから鋭い叱責が飛ぶ。



「泣かさない!!嫌がってるじゃないの」
「ゆっ……ごべんなざい!!」



狂おしいゆっくり欲に苦労して抗い、その生き物から身を引きはがす十四匹。
そんな十四匹に、お姉さんが説明を与えた。



「それは人間の赤ちゃんよ」
「ゆっ!?」
「あなたたちが本当に人間に奉仕できるか、最後のテストをします。
その赤ちゃんを世話して、ゆっくりさせてみなさい。
赤ちゃんがゆっくりできると言ったら合格。君たちをゆっくり教に迎え入れてあげるわ」
「ゆっ………ゆっくりがんばるよおおおぉぉぉ!!!」
「必要なものがあったら言いなさい。調達してあげるから。
じゃ、頑張ってちょうだい」
「ゆっくりいいいぃぃぃぃ!!!」



最終テストを行うと聞かされ、一同は緊張していたが、
与えられたのは夢のような環境だった。
これほどゆっくりできる人間の赤ちゃんと一緒に、水入らずで柵の中。
一同は無意識のうちにうれちーちーを漏らしていた。



一方、Y飾りのゆっくり達は外側から柵にしがみつき、
このうえなくゆっくりできる赤ちゃんを羨みの目で凝視していた。
何匹もが、自分にもこのテストを受けさせてくれとお姉さんに願ったが却下される。
いまや、十四匹は再び一同の羨望を一身に受けていた。
これから彼らに待っているのは、優越感とゆっくりに満ちた甘い生活だった。



「ゆっゆっおー!!ゆっゆっおー!!」



十四匹は満面の笑みで、気合いを入れるのだった。




「あんなものでも本物に見えるんだな。
実物を一度見たことがあるくせに」
「ま、所詮ゆっくりだしね。
あんな人形でも、そのへんのオモチャよりずっと手間かかってるよ。
食べ物を口に入れたりできるし、
スピーカーのセリフに合わせた口パクもできるんだ。
擬似的なうんちを出す機能まであるよ」
「操作は?」
「係が遠隔操作で動かしてるよ。ラジコンみたいなもん。
言葉も、係がリアルタイムで吹き込んでるよ」
「手間をかけるもんだ」
「そりゃ、本物使ったほうが早いよ。
ゆっくりに赤ちゃんを預けようなんて人間がいたらの話だけどね」
「まさかな」
「さて、あの人形には言うまでもなく、例のゆー水を特別たっぷり振りかけてます。
っていうか、内部にゆー水の香りを振りまく装置を内蔵させてるの。
効果はごらんのとおりってわけだね」




それは、十四匹のゆん生の中で一番楽しい日々だった。
家族や友人、恋人と一緒にいるときのゆっくりも、
あまあまを食べているときのゆっくりも、
人間の赤ちゃんを世話している時に感じる、今のこのゆっくりとはまるで比べものにならない。
これほどのゆっくりが世界にあったことに、彼らは心底感動していた。



赤ちゃんは手間がかかったが、それは楽しいやりとりだった。
最初の頃は、全員が脇目もふらずにすーりすーりをしていたが、
あまり大勢で強くやりすぎると赤ちゃんがむずがることを知り、
二匹ずつ交替で、優しくやるようにした。



最初の日、赤ちゃんがあまりに泣くので親まりさが問いただした。



「なにがゆっくりできないのぜ?まりさにいってみるんだぜ」
「おなかすいたぁ!」
「ゆゆっ!!そうだね!!きがつかなくてごめんなさいなのぜ!!
おねえさんにおねがいしてみるのぜ!!」



親まりさがすぐに、柵の外でY飾りとじゃれているお姉さんに要請する。



「おねえさん!!あかちゃんのごはんさんをおねがいします!!」
「あら、そうね。待ってなさい」



すぐに、お姉さんはミルクと哺乳瓶を持ってきてくれた。
お姉さんに使い方を教わり、苦労しながら哺乳瓶のフタを開け、ミルクを注ぐ。
家事といえる家事をほとんどやったことのない十四匹だったが、
赤ちゃんのためとあって、文句も言わずに従事した。



散々こぼしながらも、苦心してミルクを詰めた哺乳瓶を、
赤ちゃんの口元に優しく当てて傾ける。



「ゆっ!ゆっ!ゆっくりごーくごーくしてね!!」
「ごーく、ごーく、おいしい~♪」



両手をぱたぱたさせて、赤ちゃんは喜んでくれた。
その笑顔を見て、十四匹はこのうえなくゆっくりするのだった。




教わりながら、十四匹はひとつずつ覚えていった。
赤ちゃんを着替えさせる方法。おしめを替える方法。
もみあげを駆使してのいないいないばあ。「ねんねんころりよ」の子守歌。
赤ちゃんに必要な世話を考えつくその都度、お姉さんが教授してくれた。



赤ちゃんのためと言えば、お姉さんはいろんなものを持ってきてくれた。
ガラガラや人形といったおもちゃは自分たちで遊びたいほどだったが、
赤ちゃんの笑顔を見たいその一心で、すべてを赤ちゃんのために使った。



時にはむずがり、時には暴れる赤ちゃんを、
苦労しながら十四匹のゆっくりは献身的に世話をした。
大変だったが、その世話を皆が心から楽しみ、充実していた。
今では、お互いに口を開けば赤ちゃんの話しかしない。
赤ちゃんはかわいくてゆっくりできるね。
こうしたら赤ちゃんは喜ぶかな。
昨日はこんなことして遊んでたよ。




人間さんのお世話はこのうえなくゆっくりできる。
実体験を通して、十四匹はそう確信していた。



そのゆっくりは、かつて自分の子供を世話していた時とは段違いだ。
いまでは、あんなけたたましいだけのチビ饅頭にあんなに執心していたのが不思議に思えるほどだった。
この赤ちゃんのためなら、喜んでどんな艱難辛苦にも耐え、必要とあれば死をも厭うまい。
ゆっくり達はそれほどの心境に達していた。




一方で、十四匹はY飾り達の生活も柵越しに覗き見ていた。



いまでは一日中、Y飾り達の私生活を観察できる環境にいた。
Y飾り達は、お姉さんがいる時はお姉さんにじゃれつき、
いない時は自分たちで遊んでいたが、その他、勉強のために多くの時間を割いていた。



大きなテレビジョンの前で、Y飾りたちは上映されるビデオを見る。



以前に見せられた、レイプや野菜泥棒などの悪事を行うゆっくりの姿も頻繁に繰り返し上映されたが、
他にも勉強用のビデオはたくさんあった。



自然界におけるゆっくりの立ち位置が、詳細に解説されていた。
多くの捕食種に捕食されるゆっくり達。
外敵に怯え巣にこもりながら、それでも生存率は極端に低く、冬籠りを完遂できる割合は10%に満たない。
他種の動物の冬眠のしくみ、野生での生活がわかりやすく解説され、
ゆっくりの暮らしぶりがいかに非効率で愚かなやり方であるかが対比されて語られる。



直接的な力関係も学ぶ。
犬、猫、そして人間、馬や猪やライオンに至るまで、
さまざまな動物の身体的能力や殺傷力が事細かに解説される。
ほとんどの動物がたやすく破壊できた硬質の発泡スチロールに悪戦苦闘するゆっくりが映された。
見ているゆっくり達の前に実際にスチロールの箱が運ばれ、
実地に試すことで、ゆっくり達は自分の非力さを理解する。



飾りが取られただけで、自分の子供さえ個体認識できずにいじめ殺すゆっくりの無能さと残虐性。
あらゆる動物が悠々と泳ぐなかで、唯一水にたやすく解けて沈むゆっくり。
仔犬にさえまるで追いつけない移動の遅さ。



これらのビデオにより、ゆっくりの非力さと無能さをこれでもかと見せつけられ、
同時にナレーションから、それゆえに身の程をわきまえなければならないのだと訓戒を受ける。
Y飾り達はその度に唇を引き締めて頷いた。



そして、「よいゆっくり」の理想像も教えられた。



手始めに、正しい挨拶を躾けられる。



「ゆっくりできるね!!」



それが、ゆっくり同士で交わされることになる新しい挨拶だった。
それまで使っていた「ゆっくりしていってね!」は、
存在自体が不快と迷惑をふりまくゆっくりが言うべき言葉ではない、と教えられた。
視界に入るだけでゆっくりできないゴミクズ、それがゆっくりなのだから。



ゆっくり同士では、「ゆっくりできるね!!」という挨拶を交わす。
それは、人間のおかげでゆっくりできている、という意味だった。
本来ゆっくりする権利も能力もないゆっくりがゆっくりできているとき、
それはすなわち、慈悲深い人間がゆっくりさせてくれているということに他ならない。



それ以外の動物、特に人間に対する挨拶も教えられる。
おはようございます、こんにちは、こんばんは。
ゆっくりおめぐみありがとうございます。
ゆっくりごしどうおねがいします。



新しい挨拶を、親れいむ達は抵抗なく受け入れ、喜んで家族と交わした。




人間に飼われ、行儀よく人間の言うことを聞くゆっくりの姿が上映される。
鍛えられた身体能力を生かし、掃除機や雑巾を巧みに使って部屋を掃除するゆっくり。
飼い主の留守中、ペットや赤ちゃんの世話をするゆっくり。
台所の上で、簡単な調理で飼い主の食事を作るゆっくり。
風呂を沸かし、戸締りの確認をし、ベッドメイクをし、朝には決められた時間に飼い主を起こす。
ゆっくりの能力の範囲内でできるさまざまの奉仕がビデオで上映され、
そのための訓練が、先輩やお姉さんの指導のもと実地に行われた。



そうしたゆっくりが飼い主に褒美を与えられる様子も映される。
ゆっくりに笑いかけ、頭を撫でさすり、すーりすーりをしてやる。
あまあまやおもちゃを与えられることもあったが、
そんなものよりも、視聴しているゆっくり達は飼い主とのスキンシップを羨み、憧れた。



ゴミクズとして世に生まれた自分たち。
そんな自分が「あなたのおかげで本当に助かっているわ」と人間に褒められている姿を、
ゆん生における最終目標として、それぞれが心の中で定めた。



それらのビデオや、ゆっくり教の教えの朗読を、
柵を隔てているとはいえ同じ部屋にいる十四匹のゆっくり達も見聞きすることができ、
一同もまた、ただただ蒙を啓かれる思いだった。
ゆっくりたる自らを恥じ、人間に奉仕したいという思いを日毎につのらせていった。



ときには「休み時間」と称して、野生のゆっくりプレイスが上映されることがしばしばあった。
巣の中にこもり、沢山の子供たちに囲まれてゆっくりしているゆっくりの番いが映される。
外から運び込んだ蓄えをむーしゃむーしゃする子供たちを見守り、微笑んでゆっくりしている番い。



ここに来る前であれば、ゆっくりの最終目標であったその光景が、
いまではみっともない、わずらわしいものだった。
薄汚い小さな饅頭共がもぞもぞと蠢き、雑草を食べちらかし、
傲慢に顎を反らす光景に怖気を奮い、
多くのゆっくり達が「にんげんさんをうつしてね!」と抗議の声をあげた。
そんな時は、柵の中の十四匹も賛同して声をはりあげた。




「ここまで旨くいくと馬鹿らしくなってくるな、最初から馬鹿らしい計画だが。
人間にとっちゃ実に都合のいい宗教だが、
しかし、人間の目から見ても目茶苦茶のこんな教えをここまで信じるものか……」
「あのさ、理屈に筋が通ってるかどうかは全然無関係なの。
一日中朝から晩まで教えを聞かせ続けられ、周囲もみんながその教えを信仰してる。
そんな状況でずっと暮らしてると、生き物っていうのは、信じるの。演技じゃなくね。
その効果は人間でも実証されてるんだな。
例外な意志の強い人がたまーにいないでもないけど、
今回、相手はゆっくりでしょ。そりゃもう、簡単簡単」
「なんて安っぽい生き物なんだ」
「そりゃ、饅頭ですからー」




群れのゆっくり達が、ガラス壁ごしにあれほど憧れていたゆっくりプレイス。
しかし今ここにいて、群れはさらなる上のプレイスに憧れていた。



それは、人間に飼われるという境遇。
人間に奉仕し、人間をゆっくりさせ、人間にゆっくりさせてもらう。
それが、ゆっくりにとってこのうえなく重要な二つのもの、
すなわち自尊心とゆっくりの二つを満たす理想の環境だった。
人間に愛されるという条件なしに、もはや安心してゆっくりすることは不可能だった。



希望はあった。
人間の手になる「しんっぱんっ」制度である。



このゆっくりプレイスの中でも、ゆっくり教のゆっくり達は勉強と鍛練を積み、
教団の中でもランクを上げていった。
そして、教団の中でも生え抜きの成績を残したゆっくりは、
「しんっぱんっ」の儀式を経ることで、人間の家に引き取られていくシステムになっていた。



「しんっぱんっ」とは、罪を清め洗い流す儀式だった。
すべてを見通す人間にとって、ゆっくりの悪事はすべてお見通しである。
その過去の悪事が、教団一同の前で白日の元に明かされ、
それに見合った罰を受けることで罪を償い、仕上げの再教育を受けて、
ゆっくりはようやく人間に引き取られる。



何日かに一度ほどの割合で、ゆっくりが一匹ずつ選び出された。



「しんっぱんっ」を受けるゆっくりの前で、テレビがビデオを放映する。
そこで上映されるのは、そのゆっくりの過去の悪事だった。



隣のゆっくりの食事を盗み食いしたこと。
人間さんに向かって不平を鳴らしたこと。
人間さんへの疑いをこっそり口にしたこと。
勉強中に居眠りをしていたこと。
所定のトイレ以外でしーしーをしたこと。
上映されるのは、ゆっくりプレイス内で隠れて行われたそうした行いだった。



これらを目の当たりにして、ゆっくり達は人間の全能を新たに認識する。
絶対に見つからないはずだと確信していた悪事が、すべて人間にはわかっていた。
その裁きにおののき、裁かれたゆっくりは泣いて詫び、粛々と罰を受け、
残されるゆっくりは人間を畏れ、さらに私生活を引き締めた。



「ごべんなざい!!ごべんなざい!!でいぶがわるがっだでず!!ばんぜいじばず!!」



裁かれたゆっくりは泣き叫びながら、しかし抵抗はせず、人間に別室に連れていかれる。
別室で行われる罰の様子は、リアルタイムでゆっくりプレイスで上映された。
罰の重さに応じて、ゆっくり用の鞭で尻を叩かれたり、
眼前でぶんぶん首を振るきめぇ丸を見せられたり、
さまざまな罰を受けるゆっくり達。



しかし、罰を与えられて罪を清算したゆっくり達は、
改めて、最後の訓練を施された。



最後の仕上げとして、人間と同じ部屋に住む。
人家の家具の性質や使い方、触ってはいけないものなど、
さまざまな知識を同居する人間に教わり、
人間への奉仕のしかたと礼儀作法を正式に覚えこむ。



そうして、人との暮らし方をマスターしたゆっくりは、
ついに他人の手に渡り、飼いゆっくりとして残りのゆん生を過ごすことが決まる。
そこに至るまでの様子はすべて中継され、
ゆっくりプレイスのゆっくり達は身悶えするほどに羨み、訓練に精を上げた。




ゆっくりプレイスに来てから、すでに数か月が経過していた。
その間、十四匹はずっと柵の中にいたが、
たっぷり勉強をしつつ、赤ちゃんを囲んで存分にゆっくりしていた。
いまだに柵から出してもらえる気配はなく、ゆっくり教に入れるめども立っていなかったが、
そんなこと自体、十四匹はもう忘れていた。



しかしある日、変化の時が訪れた。



「ゆっくりできるよー」



赤ちゃんが、ゆっくり達の前でそう言っていた。



「ゆゆゆぅっ!!?」
「ゆっくりー、ゆっくりー」



連呼する赤ちゃんの前で、十四匹は感動に身を打ち震わせた。
口に咥えていたガラガラを取り落とし、
目に涙を浮かべてゆっくり達は叫んだ。



「ゆ!!ゆっぐり!!ゆっぐりじでねええぇぇ!!!」
「ありがとううぅぅ!!ゆっぐりじでぐれでありがとううううううぅぅぅ!!!」
「ゆっぐりだよおおおぉぉ!!ぞれがゆっぐりなんだよおおおおぉぉぉ!!!」
「ゆっぐじじでいっでね!!ゆっぐじじでいっでねええええぇぇ!!!」
「ゆっくりしていってねー、ゆっくりしていってねー」



手を叩きながら、赤ちゃんは繰り返し挨拶を返してくれた。



ついにゆっくりしてくれた。
自分たちのお世話で、ついに、赤ちゃんがゆっくりしてくれた。
餡子の奥からあふれ出す感動と達成感が十四匹を満たす。



自分たちはゆっくりさせたのだ。
こんなゴミクズのような自分たちでも、人間さんをゆっくりさせられるのだ。
その事実が、春の雪解けのように救いとなってゆっくり達の体中に沁みとおっていった。
嬉し泣きに泣きむせびながら、十四匹は叫び続けた。



「ゆっぐじじでいっでね!!ゆっぐじじでいっでね!!ゆっぐじじでいっでねええええぇぇ!!!!」
「はーい、合格ー」



振り返ると、お姉さんが立っていた。
柵の外から屈みこみ、赤ちゃんの入っている籠を掴み上げる。



「よくできましたー。
テストに合格したので、君たち十四匹をゆっくり教に迎え入れてあげます。
おめでと!」
「ゆうううぅぅぅ!!?」



突然奪い取られた、かけがえのない生き甲斐である赤ちゃん。
それにすがりつこうとして、十四匹は舌を伸ばして飛び跳ねた。



「ゆっくりかえしてください!!あかちゃんかえしてくださいいい!!」
「ゆっぐじじでぐれだんでず!!やっどゆっぐじじでぐれだんでず!!だいじなあがぢゃんなんでずうう!!」
「あがぢゃあああん!!ゆっぐじじでえええぇぇ!!」
「静かにしなさい!!」



お姉さんに一喝され、泣きじゃくりながらも一同は黙りこむ。



「最初に言ったでしょう?これはテストでしかないの。
この赤ちゃんは本当は人間の子供、あなたたちのものじゃないわ。
人間と一緒になりたいなら、もっと訓練をがんばればいいのよ」
「ゆぐううぅぅぅ………ゆっぐうううううぅぅぅ…………!!」



お姉さんの言っていることは理解できたが、
返事をする気力もなく、ゆっくり達は泣きじゃくった。
あれほど大切にしていた、あれほど愛しい存在を奪われた喪失感は堪え難いものだった。



そんなゆっくり達に、お姉さんがさらに念を押した。



「頑張ってゆっくりできるゆっくりになりなさい。
そうすれば、赤ちゃんだってまた育てられるわよ」
「ばいいいぃぃ………!!がんばりばづううぅぅ……」
「じゃ、いらっしゃい。迎え入れてあげるわ」



お姉さんが柵の鍵を開ける。
ついに十四匹は柵から解放され、Y飾りをつけられ、
正式にゆっくり教の一員となって、人間に奉仕する訓練を始めることになった。




ずっと勉強の様子を覗き見ていた十四匹にとって、
訓練はたやすいものだった。
必死に覚え、実行し、真心を込めて教義を唱える。
数週間たった頃には、十四匹はY飾り達の中でも生え抜きのゆっくりになっていた。
再び、十四匹は仲間から憧憬の眼差しを向けられている。



人間さんとゆっくりしたい。
一度その生活を体験した十四匹にとって、その渇望は決定的なものになっていた。
ただそのために、十四匹は遊びもせず、脇目も振らずに勉強と訓練に勤しんだ。




後編
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最終更新:2011年07月29日 20:42
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