ゆっくりいじめ系2621 転覆(前編)

 注意
 1、前に書いたcapsizeってタイトルのSS関連です。読んでみないと意味不明な表現や登場物体などがみうけられます。
 2、いつもの様に二次要素満載です。適当設定も満載です。
 3、Y・Yが書きました。ごべんなさい。ごべんなざい。誰?って思った方にもごべんなさい。
 4、ゆっくり虐待描写少な目。
 5、毎度のように東方キャラ、今回は特に紅魔館の皆様のイメージが崩れる恐れが多分にあります。(例:妹に激甘な姉、等)
 6、緑髪が少ないです。
 7、上記の内、一個でも嫌だなと思ったら、ブラウザの『←戻る』、でも押して、頂戴。
 8、緑髪が少ないです。









 漆黒に浮かぶ白無き夜、優しく輝く月の光。
 幻想郷の四季ははっきりしていて住み易い。季節は夏。

 黒に映える空の下、夜に君臨する永遠の悪魔。
 色白の肌、幼き顔。夜の始まりには従者の入れた紅茶を楽しむ。
 白い椅子、バルコニー。
 口の中を広がる甘美な鉄の味、自分好みの出来。
 渇きを癒してくれた従者に、軽めの褒め言葉。その言葉を頭を垂れて受け取る従者。
 満天の星空の下、忠実なる従者と共にすごす。
 最愛の妹も無二の親友もこの席にだけは呼ばない。今この時は、咲夜と私以外の者は不要だから。


 いつもどおり。


 いつもどおり、夜一番のティータイムを満喫し、広間に戻る。少しの間をおいて妹が、いつもどおり、私の傍にやってくる。
 その時にはもう部屋には咲夜はいない。いつもどおり。咲夜はそういう人間だ。
 脆弱な人間の癖に私の事も妹の事も、館に住む全ての者を大切にし、私とフランとの壁を何とかしようと尽力していた。
 私達姉妹の問題であるのにも関わらず、過去に何度も私に対してフランとの関係を正すべきだと意見してきた。


 完璧な咲夜。忠実な咲夜。感情の起伏があまり無い咲夜。フランの事になると、生意気にも意見する咲夜。


 愛しの霊夢と黒白の泥棒が紅魔館に現れて私達を打ち負かし、フランの遊び相手をも務め終えたあの日、月の光が差し込む私の部屋で、咲夜は跪き私に言った。

「殺してくださいお嬢様。」

 切り出された言葉も、それに続く言葉も簡潔で解りやすかった。

「フラン様とお顔を合わせて下さい。」
「フラン様はお嬢様に憎しみなど抱いておりません。ただ寂しいだけなのかもしれません。」
「私などよりもフラン様にお時間をかけてあげて下さい。」
「私は侵入者を排除できなかった無能。お嬢様に意見をする従者として不相応な人間。申し訳ありません。」

 言葉と共にナイフを捨て、衣類を脱ぎ捨て、私の前に再度跪く咲夜。
 私の顔前には、目を瞑り穏やかな表情を浮かべる咲夜。
 清算は己が命で支払います。行動がそれを告げた。

 目下に広がる、赤い毛足の長い絨毯。青と白のメイド服。12を指す懐中時計。銀製のナイフ。
 美しい銀髪、女性らしいボディライン。永遠に幼い自分には手に入らないであろうソレ。
 銀の刃を拾い上げる私。触れた瞬間に“ジュッ”と音を立て魔族である私を払おうとする。
 それに怯むことなく刃を構え、咲夜の顔前に突きつける。

「…他に言い残す事は無くて?」

 目前に突きつけられた刃を見て、最後の猶予と受け取った咲夜は小さくうなずき
「家族を大切になさって下さいお嬢様。」
 目を瞑った。澄み切った笑顔だった。

「そ…。ここまでされても私に意見するのね。」

 この問いに答えは無かった。
 不意に、咲夜の片手を己の方にと引き、もう片方の手を後頭部に回し、向き合った。絨毯に落ちる銀。

「…まあいいわ。それよりも今夜の紅茶はまだかしら?」

 行動と言の葉の意を察し、信じられないと目を開く咲夜。見詰め合う沈黙が、夜に咲く。

 たった一度の失敗でここまでするのだからこの子は。
 だが、嬉しく思う。今の自分の表情はとても穏やかなのだろう。咲夜の目に映る自分の姿が想像できる。

 …

「お姉様?どうしたの?」

 考え事をしていた私を1対の紅が覗き込む。
「何でも無いわ、フラン。」
 二人で一つの毛布に包まり、愛しい妹の髪を撫でながら答えた。
 くすぐったそうに身をよじりながらも、無邪気な笑顔を投げかける妹。
 この子を閉じ込めていた事には意味があった。少なくとも、当時はそれが、その措置が最善であると判断した。
 今になって考えてみても、当時の考えは間違ってはいなかったであると言える。その結果フランの感情が歪んでしまったが。


 当時からこの子の持つ力はあまりにも強大だった。我が妹にして最高級の脅威になり得る存在。多分それは、今も変わらない。
 だが、変わった部分もある。きっかけは狂気に侵食された妹に人間が辛うじて勝利した事。
 自分が力を振るえばどんな物も必ず、破し、滅せる。妹はそう考えていた節があった。だが、敗北した。脆弱な人間に。
 地下の自室で不思議がる妹。他者、特に人間に興味を示し始める妹。咲夜に背中を押され、何年か振りに“フランドールのお部屋”とかかれた扉を叩く私。
 殆ど何も無い部屋。マボガニーの寝具と衣類棚。首の無い人形。寝具のすぐ脇の小さめのテーブル、パチュリーが与えたのだろう本。館の現当主(私)の肖像画。暗闇を照らすのは細いランプの火だけ。
「…お姉様?なにかごよう?」
 先に言葉を紡ぐのはベットの上に腰をかけていたフラン。小首を傾げたその様子、嫌悪の意は無く純粋に意外な来客に驚いていると見て取れた。

 この子を閉じこめていた間、私は何か姉らしい事をしてあげてあげたであろうか。否。
 私の行動は、運命調律はこの子の為に本当に仕方が無い行為であったのだろうか。否。
 これから先も、フランにこの責め苦を与え続ける事が私にが採るべき最善の事か。否。


 とるべき行動は
「…ええ。フラン、…隣に行ってもいいかしら。」
 解っている。


 更に意外そうにしながらも、隣をポンポン叩いて歓迎の意を示すフラン。
 内心ホッとしながら、微笑ましい仕草で歓迎してくれたフランの隣に座る。
 初めの内は、沈黙が部屋を包んでいたが、しばらくしたらフランがあれこれと話出した。

 パチュリーが持ってきてくれる本の事。この子は、人間の世界で言うところ“北欧”と呼ばれる地域の神話に興味があるらしくソレ関係の本を読むのが好きで、続きを早く読みたいとの事。“お姉様と私の得意な武器がでるんだよ!お姉様のは凄いんだよ!投げたら絶対に標的を…”身振り手振りを交えながら興奮気味に。
 咲夜の作ってくれる食事の事。甘くて鉄分たっぷりな紅茶とケーキ、食べ終わるまで傍に居てくれて、咲夜がクリームが付いた頬を笑顔で拭ってくれた事、“自分でちゃんと拭えるのに”とチョットだけ顔を赤らめて恥ずかしそうに。
 仕事の合間を縫って遊んでくれる美鈴の事。昨日は、追いかけっこに勝ったから、次のお仕事の時間までずっと肩車をしてもらった事。“四人に分身して追いかけてるのに美鈴の事捕まえるの大変だったんだよ?”ニコニコと楽しそうに。
 小悪魔がおやつを持ってきてくれる事。“和菓子”と言う物や、霊夢が狂信的に愛を注いでいる“緑茶”など、咲夜が持ってきてくれる物とは違った種類のお菓子やお茶をチョイスして来てくれる事、“…咲夜にはナイショにしておいてね?”と付け加えて小さく舌を出して。

 聞いている内に、自身の姉としての責務放棄振りが情けなく思えてきた。
 親友も部下も親友の使い魔ですら、こんなにフランの為にしてあげているのに。
 …自分は自分の考えのみでフランを閉じ込めていただけ。
 …閉じ込めていただけで話し相手になってあげる事も無く、顔も合わせない。


 とるべき行動は、
「…フラン。」
 解っている。


 笑顔のフランは嬉しそうに話を続けた。
「嬉しい!今日のお姉様は返事してくれる!」
 …え?
「…あのね、いつもは絵の中のお姉様にお話しするの。でもね返事してくれないの。答えてくれないの。いつも赤い瞳で私を見つめるだけなの。胸が“ギュッ”って苦しくなるけれど、でも私、一番にお姉様に聞いて欲しくて何時も…。」
 …フランが言い終わる前に行動していた。
「…あ、おねーさま…。」
 急な事でビクリと硬直するフラン。構わない。
 見る者には歪で異型に見える宝石のような翼。妹の肩越しにその根元に目を落とす。抱き回した手でその根元を撫でながながら
「…ゴメンね、フラン。私、お姉ちゃん失格だね…。ゴメン…。」
 謝った。取り繕った体裁や威厳など要らなかった。思ったことを素直に口に出した。出た。
「おねーさま…。私の事、嫌いじゃなかったんだ…。よかったぁ…。」
 そんなわけ無いでしょう?抱きしめる力がやや強くなる。
「この、“ギュッ”あったかい…。」
 フランの呟き。硬直もとけ、私に体を預けてきてくれる。
「なら、今から日が明けるまでこうしていてあげる…。…これからはもっともっと我侭聞いてあげる。」
 己に科す運命。能力抜きにしても、こういう調律なら悪くないでしょう?

 …。
 ……。

「んもぅ!お姉様!」
 目の前にはあの時と比べてもっと自分に甘えてくるようになった妹がいる。またも物思いに耽ってしまった。
「ゴメンね、フラン。ボーッとしちゃって。」
 ぷくーっと頬を膨らませる姿。こんなにも表情豊かに私を慕ってくれる妹。
「怒らないの。…咲夜、咲夜!」
 従者の名前を呼ぶ。お詫びも兼ねて、この子に何か持ってこさせよう。そう思ったから。
 呼ばれてすぐに現れる従者、見慣れた光景、空気の中から現れる銀髪。
「お嬢様、妹様、如何なされましたか?」
 呼ばれて本当の意味で“すぐ”に現れる。無駄の無い動作、動線。時を操ることが出来る咲夜には造作も無いこと。
「フランにも何か飲み物を持ってきなさい。後、服も。」
 フランが咲夜を歓迎する為に立ち上がった。毛布が落ちた。続いて“なっ!”とだけ小声で言って、咲夜も落ちた。
「あれ?咲夜、大丈夫??」
 不思議そうにするフラン。

 …下着姿の姉妹。咲夜が倒れるのは仕方が無いこと。

 …
 ……。

「はい、急だったので、はい、すみませんでした。」
 ハンカチで鼻を押さえながらもなお瀟洒に振舞おうとする咲夜。
「無様な振る舞い、申し訳ありません、お嬢様。」
 何度も謝る咲夜を制しつつ
「…まったく。ビックリして鼻を打ちつけて血を出すなんて…。フランと私にも紅茶を……いえ、それでいいわ。」
 その顔に指をさす。“ソレ”がなんの事かわからずに考える咲夜。姉の意を理解したフラン。
「「えい♪」」
 二人の息はぴったりだった。


 …お嬢様と妹様に押し倒された。
 眼前に広がる光景が、私の理性を蝕む。
「咲夜のお顔、近くで見ても凄く綺麗!」
「…ええ。血液も、ね。…最高級のロゼのよう。…フランにも飲みやすいわよ。きっと。」
 信じられない。二人の唇が、舌が、私の血液を舐めとって、二人の息がかかる、鼓動が、音が、止まらない。
 二人を止めようとしても、二対の紅に見つめられて全身が麻痺したかのように動かない。言葉を出せない。
 吸血鬼。魅了。目。紅。
 頭を渦巻く思考。視界。出来る事、血液の流失を止める事、早く業務へ戻らないと、血が止まらない、意識をするな、二人の吐息、髪の甘い香り、時を止め…、思考が、止まる。……もう、ダメ…。

「「…ごちそう様。」」

 “はい、お粗末さまでした。”言葉出ずに、昏倒する意識、体。私。

 …
 ……。

「…くや…ん!」
 うん…騒がしいわね…。
「咲夜さん!しっかりしてください!!」
 私?何かあって?
 目を開けて状況確認をしよう。…美鈴ね、この声は。
「私は大丈夫よ、美鈴。」
 ベットに横にされていたらしい。美鈴に制されるのを無視して上半身を起こし、周囲を見渡す。
 私の部屋、パチュリー様が安堵の表情で胸を撫で下ろしており、パチュリー様の使い魔をしている赤い髪の司書、小悪魔が力が抜けたかのようにその場にへたり込んでいた。
 美鈴は目に涙イッパイ溜めて“よかった”を連呼する。
 そして、パチュリー様の足元で正座なさっているお嬢様と妹様。
「…あの、お嬢様、妹様?どうかなさったのですか?」
 当然の疑問が口から出た。
「レミィとフランは反省中よ。外の世界の書物によると、Seizaというものらしいわ。」
 答えたのはパチュリー様。先程の表情とは一変して、相当お怒りのご様子だ。
「まったく、妹と一緒になって吸血プレイ??『そこまでよ!』レミィ。普段から私がどれだけ苦労しているか解っているのかしら?」
 なぜか知らないが、怒られている理由は理不尽な気もする。
 だが、お二人ともシュンとなさっており、その様子がもの凄く可愛らしくて、不謹慎だが“倒れてよかった”と思ってしまった。

 …今日の日記の内容は決まり。…お嬢様にお仕え出来るのはとても短い期間。どうしようもない種族の差。私は人間、主は吸血鬼。
 ソレは仕方の無い事。でも、私が消え去ったあと、お嬢様の中からも“私”が消えてしまうのが怖い。
 おこがましい我侭、だけれども、私は日々の記録を書にして、最後の時にお嬢様に渡そうと考えている。絶対に忘れて欲しくない。
 …今日の日記は長くなりそうね。ちゃんと謝罪の言葉も綴っておかなくてはね。

 …
 ……。

 軽い貧血ですんだ私は、直ぐに仕事に戻った。
 時を止め、お掃除。舞う事を忘れた埃、伸びる事を知らない汚れ。
 広い屋敷ではあるが、毎日の日課であるため欠かさずに行わないとかえって気持ちが悪い。

 食事の準備をはじめようと、キッチンに向かう。
 だが、
「…参ったわね。血液と茶葉のストックが無いわ…。」
 買出しに行くハメになるとは。
 仕方が無い事。食事は日々する事だから。何も苦ではない、あの方にお仕え出来るのならば。
 外出の準備を済ませ、外へ
「今日は外出しちゃダメです咲夜さん!門番の私が許しません!!」
 出掛けるのも難しそうね。
「何も問題無いわよ。それに、中の人を阻む門番なんて聞いた事無くってよ?」
 本当に大丈夫なのに。心配性な子ね、美鈴は。
「…ですが…。…アレ?」
 自分の異変に気が付く。頭に手を当てる。…帽子がない。
「ほら。大丈夫なのよ私は。」
 イジワルな笑顔を浮かべつつ、すれ違いざまに帽子を返す。
「行き先は人間の里よ。お茶の葉が切れたから、ね。」
 美鈴は小さく唸って私を見送った。簡単に自分の頭上の物を奪い取れる相手、見送るしかなかった。
 その様子は自分の未熟さが気に入らないといった感じ。私はずるしたのに、ね。


「…パチェ、もう解除してもいいでしょう?いい加減痺れてきたのだけれど。」
 かれこれ四時間ね…。微動も許さぬ正座の刑は。
「…まあ、いいわ。…余興はいいの。本題よ、レミィ。…貴女の運命視は彼女に何を見たのかしら?」
 フランは三時間前に釈放した。多分、この場には居ない方がいいと判断したから。…何だかんだでフランに甘いのは否定しないが。
 運命視。レミィの持つ能力を考えれば当然持ちうる能力。…もっとも、完全、正確に見ることは出来ないし、先が見えたとしてもごく短い未来だけ。それも、漠然とで予言のように難解だそうだ。
「…漠然と見えた。」
 …続きの言葉、直ぐに紡ぐでしょ、レミィは。
「…咲夜がいなくなってしまうの。」
 …やはり。レミィは咲夜を大事にしているが、今まで吸血行為はしていなかった。
「…それで、咲夜の魔力の“匂い”と“味”を自分の舌で覚えたわけね。」
 血は魔力を運び体を循環する。魔に精通している者以外は疎いが、生命活動のほかにも確かに魔力を運んでいる。
 魔力は個々に唯一無二で同じ色、同じ匂い、同じ光の魔力は存在しない。魔女である私はそう考えているし、この持論はほぼ間違っていないと考えている。そして、それは血液のスペシャリストにして、我が親友のスカーレットデビルも同じであると考えている。
 運命視。レミィは己が見た運命を余程回避したいのであろう。咲夜に何かあったら直ぐにでも、と。
「いやな天気ね。」
 ええ、そうね。そう答えて二人で部屋を後にした。



 ―魔法の森、某所。
 羽付きゆっくりと大きいゆっくりが対峙していた。
 羽ばたく羽音、獲物を捕食する為の牙。…ゆっくりと呼ばれる存在の天敵、捕食者。
 黒い帽子、金の髪、何処か憎たらしい目。…ゆっくりと呼ばれる存在達の、先導者。
「うー!うー!」
 今まで見た事も無い大きな相手を威嚇する羽付き。空を蔽い尽くす葉の天井から現れる数多の羽付き。
 ひるむ事も無く睨みつける黒い帽子。少しだけ怖いけれど、自分なら
「ゆっくりしていってね!!」
 大丈夫だから。


「おお!大分仲間が増えたじゃないか!ゆっくり私!」
 黒白の服、帽子が特徴的な金髪の少女が声を出す。
「ゆっくり集まったよ!きっとこの力はゆっくりと他の皆が一緒にゆっくりするために与えられたんだね!!!」
 そう、皆だ。怖い怖いれみりゃも今は皆と一緒にゆっくりしている。何も怖くない。平和にゆっくり出来る。
 大きな変異種ゆまりさが楽しそうに「ゆゆゆ」と笑う。その背後には沢山の人影と饅頭。
「でも、友達がイッパイでもうココじゃ狭くてゆっくり出来ないよ!!」
 変異種は困った顔で続けた。
「それなら、私に考えがあるぜ。大きな家を持ってる奴を友達にして、そのまま家を借りるのさ。」
 泥棒らしい提案。
「流石だね!!ゆっくり大きな家がある所に運んでね!!仲良く住まわせてもらうね!!」
 皆にゆっくりして貰うという使命感がゆまりさを駆り立てた。


 …。
 ……。


 …運命は残酷ね。
 その夜、咲夜は帰ってこなかった。私の制止も聞かずに探しに行った美鈴も、二人とも、二人とも居なくなってしまった。
 …不甲斐ない。不甲斐ない。不甲斐ない!
 知っていて、予期していて回避できない自分。理由は!誰が、何者が!私の従者と部下を!!

(レミィ!直ぐに図書館に来て!)
 不意に親友からの念話、何か解ったのかもしれない。
 最速の余波で館の備品をふっ飛ばしながら図書室へ向かった。
 …咲夜、片付けの仕事作ったんだから早く戻ってきなさい!


 図書館には見慣れてはいるがこの場には相応しくないスキマ。
「早く行くわよ!」
 状況が飲み込めずに居る私と、今呼ばれたのであろうフラン。顔を見合わせハテナマーク。
 咲夜と美鈴の安否がわかる物と思っていたのに!肩透かしを喰らい怒る私達を無理矢理スキマに押し込み、パチュリーと小悪魔もそれに続いた。


 案内されたのは広々とした和室。見た事のある顔が何人も居た。
「これで全員、かしら。」
 声がした方を見ると、月の時の赤青の天才が居た。
 お掛けになってください、誰かにそう言われた。滾る怒りを抑え、状況が把握できない今は乗っておく事にしようと考えた。
 そんな私を見てフランもそうすると決めたようだ。


 天才は言った。
「…異変が起きたわ。」
 見れば誰でも解るわ。…幻想郷の殆どの妖怪がこの場所、ただの一箇所、マヨイガに集まっているこの時が異常な事くらい。


 話によれば、ここ数日、妖怪も人間も等しく失踪しているらしい。更に言うと、ソレの犯人と思わしき存在に襲撃されて何とか無事だった目撃者がこの場に居るらしい。
 直ぐにでも知りたい。この手で犯人を殺さなくては気がすまない。
「唯一の目撃者がこの子。」
 そう紹介された、緑髪の妖精が、おずおずと説明を始める。

 自分が仲間達と遊んでいたら、ソレがやってきて仲間をおかしくしていった。
 おかしくなった仲間を止めようとしたら容赦の無い攻撃を浴びて瀕死になった。
 …要約すればこんな所だ。だが
「…あんな下賎な存在が?夢、幻、でまかせじゃなくて?」
 思わず口から出た。妖精は悪戯好きな個体が多いから。
「本当なんです!信じてください!!」
 妖精が私に言い返す。
「私は、大切な従者が行方不明になっているの。そんな事信じられないわ。あの子がまさかあんな存在、に…。」
 言葉が止まった。妖精の背後に居る存在に思い切り睨まれている事に気が付いたから。
 真っ赤な瞳。緑の髪。…私は太陽が苦手。まさか、地上にも太陽があるとはね。
「…皆そういったわよ。私とて初めはそう思ったわ。」
 睨む瞳を緩め、口を開いた。
 この場に居たほとんどの者から安堵の溜息が漏れる。多分、この場に姿のない家主も。
「十中八九、間違いないわよ。…この子の有様、本当に、酷かったんだから。」
 一転して憂いを帯びる瞳。花の時に屋敷に帰還した咲夜が言っていたあの妖怪で間違いないであろう。
 膨大すぎる魔力。噂通りの存在。ゾクりと背中に感じる寒気。…この花は美し過ぎて危険ね。
 …この子、先ほどの妖精の事か。…ともかく、本当であればかなり面倒な相手であろう。…洗脳、懐柔、操作の能力者が相手なのでは。

「レミィ…。私も彼女等の手伝いをするわ。…霊夢も魔理沙も、失踪、しちゃったって…。」
 顔を伏せるパチェ。…霊夢が?じゃあ!!
 ハッとして顔を上げると、目の前には
「ええ。そうよ。…最悪の事態ね。」
 いつの間にか、八雲紫。コイツに普段とはまったく違う落ち着きと緊張が混じった声で言われてしまっては、信じるなという方が無理であろう。
「…咲夜や霊夢は、無事なのかしら?」
 問うた。コイツなら解るだろうから。
「美鈴や魔理沙は!?」
 隣に居たフランも続いた。
「…全員無事みたいね。」
 少しだけほっとした。だが
「相手の能力下ではあるけれど。」
 続く言葉が、また焦燥をうんだ。

“紫様、そろそろ…。”奴の後ろにはその従者のナインテール。

「…協力して頂戴。」
 八雲紫らしからぬ声色、セリフ。

 パチェを見る。“レミィ、協力しましょう。”
 フランを見る。“お姉様、やろうよ!”
 …。

「…任せなさい。手伝ってあげるわよ。」
 答えた。少しだけ笑顔になった紫、
 “有難う”颯爽と去る紫が発した言葉は部屋の空気に溶けて、消えた。


 …。
 ……。

 広間に集まっていた妖怪達はバラバラと割り振られた部屋へと案内されていった。
 亡霊少女が割り振った。天衣無縫なその振る舞い。…勝手知ったる親友の家。
 その流れで亡霊少女はヒラヒラと手を振って何処かへ。
 広間に残ったのは
「…ヨロシクね、参謀さん。当てにしてるわよ。」
 天才と
「…此方こそ、ね。お医者様。」
 賢者。
 『巫女救出作戦本部』が動き出した。


 ―幻想郷、某所。



「ほら、私の言った通り、上手くいっただろ?」
 得意そうに語る黒白の少女。
「ゆゆ!!ほんとうにうまくいったね!!!大きなお家いっぱいだよ!!!これで皆がゆっくりできるプレイスが確保できたよ!!!」
 首尾よく皆がゆっくりできるゆっくりプレイスを確保し興奮気味の変異種。
「…本当は妨害があると思ったんだけどな。」
 やや拍子抜け気味の黒白。
「何が来てもまりさの美声でゆっくりとお友達になるからだいじょうぶだよ!!」
 力を得た愚者は傲慢で。
「ま、幻想郷がゆっくりの為の世界になろうが私はゆっくりと研究さえ出来ればいいぜ。」



「ゆ?ココって“げんそうきょう”っていうの?じゃあ今日からは“ゆっくりきょう”だね!!!!」 
 高らかと宣言される。方舟全体をさしての“お家宣言”。この世界の支配者は自分たちなのだと。


 …。
 ……。


 マヨイガの一室。

 慣れぬ敷布団に包まり、考え事。
「お姉様…。咲夜と美鈴、大丈夫かな…。」
 …直ぐ隣からは不安そうな声、顔。
「…大丈夫よ。…フラン、眠れるかしら?」
 …こんな時なのに、フランにとって初めての外泊なんだなと考える自分。そう、これでいい。焦る必要は無い。パチェと医者と紫が必ず必勝の策を練り上げるだろうから。
 私に出来る事は
「…おいで、フラン。一緒のお布団で寝よ?」
 妹の不安を少しでも和らげて奮起してもらう事だけ。

「おねーさま…。怖いの。二人が居なくなっちゃったらやだよぉ…。」
 なおも不安に己の心中を語るフラン。
「…運命は咲夜が居なくなってしまうビジョンを見せたわ。」
 不安を煽ってしまうような言葉だが
「…え!?…やだ!嘘だよね!おねーさま…!」
 事実。だけれど
「だからこそ、貴女に頑張ってもらいたいの。そんなふざけた運命、壊して頂戴。」
 この子には奮起してもらわなければいけない。この子が重要になるという運命が見えたから。
「…!…うん、がんばるね…。お姉様もがんばろ?皆で私達のお家にかえろ?」
 “ギュッ”と抱きつく妹の頭を撫でながら、自分も奮起していく事に気が付いた。
 やって見せるわ。この子もパチェも健在なら、出来ないことなんて、無い!
 紅の悪魔を怒らせた報いは必ずうけてもらうから。


 ―『巫女救出作戦本部』発足から三日目。

 部屋の戸…“Husuma”の向こうに何者かの影。
「戸越しで、失礼します。…レミリア様、フラン様、広間にてパチュリー様がお呼びです。」
 小悪魔の声。パチェがとても可愛がっている司書。
「…ええ、解ったわ。直ぐに行くわ。」
「それでは他の皆様にもお伝えしてまいりますので、失礼します。」
 忙しそうに去る小悪魔。
 …パチェ、奴等のアキレス腱を見つけたのかしら。
「いこ?お姉様!!」
 ソックスを穿きながら此方を見るフラン。闘志に満ちた瞳は可愛らしくも頼もしかった。


 作戦の内容は簡潔だった。
 “奴等の根城となった紅魔館、博麗神社、永遠亭の三箇所を同時に制圧し、洗脳されている連中を全員捕縛する事”
 簡潔ではあるが難しい。連中は本気、ゆっくりする為に殺す気で襲ってくるであろうから。
 洗脳対策は八雲紫の能力。本人曰く、十数人が限界でそれ以上は結界に悪影響が出るそうだ。
 結果、作戦は少数で行くしかなくなった。

 誰が何処に行くか。最後の会議は分隊編成についてだった。


「当然、紅魔館は私達が行く。」
 私達以外に誰が行くというの?挙手する私を見て、一緒に手を上げるフラン。
「お姉様!はやく行こう!お姉様と一緒に遊べるなんて、夢みたい!」
 …そうだったわね。今日は派手に遊びましょうね、フラン。
「…そうね。今回の遊びは、館のゴミ掃除と咲夜と美鈴の再調教。…もちろん二人は壊しちゃダメよ?」
「うん!咲夜も美鈴も壊さないようにして遊ぼう!」
 その場にいた者達から何も声は上がらなかった。ただ一部を除いては。
「レミィ、私達も行くわ。館の中、特に本を汚されたくないから。」
「お嬢様!パチュリー様!お掃除なら任せてください!」
 当然許可よ。私達全員で行く事が重要なのだから。

 永遠亭には、永琳と幽々子が向かうらしい。…不死者と不生者が相手とは、敵方が気の毒になるわ。
 最も敵方も不死者が二人もいるのか。…それでも、この二人同時は私だったらあまり相手にしたくないわね。

 神社には、神奈子と諏訪子と河童とブン屋が向かうらしい。何時もの、ほのぼのを絵に描いたようなユルイ雰囲気は微塵も無い二柱。
 ブン屋がカメラを置いていく宣言をして周囲をどよめかせた。それだけ本気なのだろう。こればかりは私も驚いた。
 河童はしきりに光学迷彩?のチェックをしている。上手な奇襲は大部隊相手であれば面白い結果を生むのを知っての事だろう。

 分隊編成をし終えると、河童の傍に居た厄神が出撃の厄払いをしてくれた。
「…御武運を。」
 ダンスのようにくるくると回転し、厄を抜き去った後、お辞儀した。

 出撃前の作戦のチェックをしていたら
「…厄神、私達にも頼むわ。」
 緑髪、赤いチェックの服。あの太陽が居た。
 もう一人、目撃者の大妖精を連れて。
 …いや、あの妖精か?…何かおかしい。時折違う存在がブレて見える。
「パチェ、どうしたの?」
 その様子を見ていたパチェの様子が変であったので思わず口を開いた。
「…レミィ、あの存在が味方だった事が今回の事件の幸運の内の一つなのは間違いないわ。」
 確かにね。…まったく同じ魔力の持ち主が二人も存在するわけがないのだから。


後編

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最終更新:2009年05月14日 23:56
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