まりさは、群で一番狩りが上手かった。れいむは群で一番お歌が上手だった。
2匹はお互い惹かれ合い、番となった。そして沢山の子供を作った。
17匹の子供達。大きくなった子供達は、親に似て狩りが上手くてお歌も上手だったので、
餌には困らず、ゆっくりする事に事欠かなかった。
しかし、親れいむが再度にんっしんして赤ゆっくりが26匹産まれるた事で、おうちが手狭になってしまった。
ある程度赤ゆっくりが育つのを待った後、一家はおうちを変える事にした。
「あっちのほうに、すごくゆっくりできそうなおうちがあったよ!」
「にんげんさんがすんでるけど、まりさたちかぞくがいっしょにいけば、らくしょうでたおせるよ!!」
意気込む子まりさ、子れいむ達の意見に乗り、親まりさと親れいむは人間さんの家を乗っ取る事を決めた。
元々、親まりさ達は冷静で保守的な考えを持っていたので、人間に挑むという事はしていなかったが、
子供達は親譲りの賢さと機敏さを、若さに任せて暴走させる事が多かった。
人間の畑から、野菜を奪う事を何度もしたし、気にいらない群のゆっくりから餌を強奪した事もあった。
また、強い人間と弱い人間を見分ける事が出来るようで、主に老人を狙い、『あまあまさん』をひったくったりしていた。
弱そうな人間さん相手なら、自分達が少数でも倒すことが出来る。
強そうな人間さんに会ったとしても、自分達一家が総出で立ち向かえば余裕で撃退できるだろう、
という自信を子ゆっくり達は持つに至った。
そして、その自信から、おうちを引っ越す先として、人間さんのおうちを奪う事を積極的に親に薦めたのだ。
「「「このおうちが、すごくゆっくりできそうなおうちだよ!!」」」
「ゆゆっ! ほんとうにすごくおおきくて、ゆっくりできそうだね!!」
「ほんとだね、はにー! ここをまりさたちのゆっくりぷれいすにしようね!」
「「「ゆっくちぃ~~♪」」」
子ゆっくり達が先導して着いた家は、親ゆっくりと赤ゆっくり達も大満足のゆっくりぷれいすだった。
大きい事もあるが、家の外見が一風変わっており、なんだか奇妙なセンスが素敵に見えたのだ。
一家が、家のドアの前まで着た所で、一家はドアに張り紙が張ってあるのに気づいた。
『このいえにはいったものは、けっして「ゆっくり」といってはいけない。』
親まりさは、その張り紙の文字を声に出して読んでみた。
親まりさと一部の子供達は、遺伝からか文字を読むことが出来る。
「どういうことなの!? だーりん!」
「わからないよ、はにー……。けど、ゆっくりっていわなければだいじょうぶだよ! みんな、きをつけようね!!」
「「「ゆっくりりかいしたよ!!!」」」
全員理解したようなのを確認し、一家は玄関から家に入った。
意外にも、あっさりドアが開いたので、親まりさは拍子抜けをした。
ドアが開かないようなら、窓ガラスを割るつもりで石を持ってきていたが、無駄な用意をしてしまったらしい。
中に入ってみると、確かに広くてゆっくりできそうだな。と親まりさは思った。
「やっぱり、すごくゆっくりできそうなおうちだったね、れいむ!」
「そうだね! このいえをみつけたまりさのおてがらだよ!!」
子まりさと子れいむの1匹ずつが、ぴょんぴょん跳ねながら喋り出した。
しかし、その直後子まりさの頭上から何かが飛び出し、子まりさは動きを止めた。
「ゆゆっ! どうしたのまりさ!!?」
子れいむが必死に呼びかけるが、子まりさは動かない。
「ゆっくり!! ゆっぐりしてよ!! ゆっくりしてよぉおおおお゛お゛お゛!!」
「「「おねーちゃん! ゆっくちちてにぇえええ!!」」」
子れいむと、数匹の赤ゆっくりが叫んだ。無理もなかった。
動きを止めた子まりさはどう見てもゆっくりして居ない。
そして、叫んだ子れいむと赤ゆっくりも、頭上から何かが抜け、動きを止めてしまう。
「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ!!! れいむのおちびちゃんたちがああ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
「「まりざのいもうどがああ゛あ゛あ゛!!」」
「「「おねえちゃあ゛あ゛ーーん!!」」」
一家揃っての大絶叫であった。突如動かなくなり、ゆっくり出来なくなってしまった子ゆっくり達にゆんゆんと擦り寄る。
そんな中、親まりさと数匹の子ゆっくりが、もしかして……と玄関前の張り紙を思い出していた。
「うわ。こりゃまた大勢で着たな……。こんな大群は始めて見たよ。」
ゆっくり達の煩い声で、居間に降りてきた青年が呟いた。
「また着たよ……。」とうんざりしながら一家の前に歩み寄る。
「ゆぅう゛!? おにーさんはだれなの!!?」
「おいじじい!! おまえが、まりさのいもうとをこんなふうにしたのかだぜ!!?」
「ここは、れいむたちのゆっくりぷれいすだよ!! ばかなにんげんはでていってね!!」
「でていっちぇね!!!」
親れいむと子まりさが、青年に疑問をぶつけ、子れいむと赤ゆっくりがおうち宣言をかました。
巧みなコンビネーションであったが、次の瞬間には、子れいむが動かなくなっていた。
「ゆゆゆ゛ゆ゛!!? どぼじでええ゛え゛え゛え゛!!?」
「れいむのちびちゃんがあああ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
またしても、大音声を発する一家。
「このまま騒がれても面倒だな。」とばかりに青年は頬をかき、
ゆっくり達に、この家でのルールを説明し始めた。
「いいかい? このおうちでは、ゆと、つ、く、りを続けて言っちゃ駄目なんだよ。
もし言っちゃったら、そこの子供達みたいに、ほら、こうして魂を取られちゃうわけ。」
青年は、手の上に綺麗なもやもやを数個乗せていた。
一家の大部分は理解できないようだったが、
親まりさはようやく合点がいったとばかりに青年に噛み付いた。
「そのてにもっている、たましいをかえしてね!! それはおにーさんのものじゃないよ!!
まりさのこどもたちのだいじなものだよっ!!!」
「ん? 賢いのがいるな……?。仕方ない、ネタをバラしちゃうか。
確かに、この魂を元に戻すと、そこの子供達は生き返る。本当は秘密だったんだけどね。」
「さっさとかえぜええええ゛え゛!!!」
親まりさは青年に体当たりを仕掛けた。助走を付け、ゆっくりらしからぬ跳躍力を駆使した渾身の一発だった。
子ゆっくり達も、思わず「かった!」と声を漏らす。
しかし、青年の目の前に壁があったかのように、親まりさは跳ね返される。
ボスン、と親まりさは背中から無様に床に着地した。
何があった? とばかりに親まりさ達一家が揃って目を見開いた。
「ゆゆっ!!? どうして!?」
「このおうちでは、暴力は使えないの。まあ、賢い君に敬意を表して説明すると、
僕に、「ゆっく」、と「り」を続けて言わせれば君達の勝ち。僕は死んで子供達は生き返り、
そして……、君達はこの家を手に入れることが出来るよ。」
ゆっくりに対して、解り辛すぎる説明だったが、親まりさは理解したようで、「ゆゆーっ・・・」と呻いている。
一部の子ゆっくり達も何となくで解ったのか、難しい顔をした。
大半の赤ゆっくりは何がなんだかわからず、ただ、親まりさが負けた事にショックを受けてゆーゆー泣いていた。
「ぜんぜんわからないよ!! どうすればおちびちゃんたちがたすかるの!!?」
「じじいは、わかりやすいようにゆっくりせつめいしてね!!」
「「「ゆっくりじゃないとわからないよ!!」」」
「「「「「ゆっくりせつめいしちぇね!!」」」」」
「「「ゆっくちせつめいしちぇね!!」」」
親れいむが叫び、数匹の子ゆっくりが青年に解り易い説明を求めた。
赤ゆっくりの援護をも受けた大ブーイングコールだ。
先程の説明で理解できなかったゆっくりが多かった為に、騒ぎの大きさは並ではない。
わかるまでは、叫び続けるぞ、という気迫をもった声であった。
親ゆっくりは、子ゆっくり達に続いて「ゆっくりいいい!」と喚こうとしたが、
子ゆっくり達の声が出て来ることは無かった。
叫んでいた子れいむ4匹と子まりさ3匹、赤ゆっくり8匹は、ルール通りに動かなくなったからだ。
「ゆ゛っ!? ゆ゛ゆ゛!!? 」
ゆっくりと言ったら、ゆっくり出来なくなってしまう事に今の行動でようやく理解した。
親れいむの顔が蒼白になる。自分が今ゆっくり、と言わなかったのは偶然に過ぎない。
ガタガタと振動しながら親れいむは、くぐもった声を漏らした。
「少し大人しくなった所で、もう少し説明すると『ゆっくち』はセーフだね。
今、小さいのが生き残ったのは、そういった理由だよ。」
「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……!!」
親れいむは後悔した。やはり人間さんの家にくるべきではなかった。
「だーりん……!! もうおうちにかえろぉよおお゛お゛お゛!! おうちでみんなのぶんまで……!!!」
思わずゆっくりしよう、と言いそうになって口をつぐんだ。
「だめだよ! おちびちゃんたちをとりもどさないとかえれないよ!! はにーはひとりでおうちにかえってね!!!!」
「どぼじでぞんなごどいうのおお゛お゛お゛お゛!!! ゆっぐりじようよおお゛お゛お゛!!」
親まりさとしては、「ここは自分が青年を倒すから、はにーは安心して先におうちで待っててね。」
という意味で発言したが、言葉が足りないせいで親れいむを激昂させてしまった。
「ちなみに、今のはゆっぐり、だからOK。」と青年が小さい声で言う。
親まりさは慌てて、親れいむをなだめようとするが、
親れいむは泣き叫び、暴れまわっているのでどうすることもできなかった。
おろおろする親まりさを何とか助けようと、子ゆっくり達が親れいむを取り囲み落ち着かせるために歌を歌いはじめる。
「「「ゆ~~♪ゆゆゆ~~♪ゆ~♪ゆ~ゆ~♪(リピート)」」」
「ゆ゛っ!?」
何度も歌った、ゆっくりの為の、ゆっくりした歌が親れいむを落ち着かせる。
「おかーさん、おちついてね。おとーさんはそういういみでいったんじゃないよ!」
「そうだよ! おとーさんは、おかーさんだけにはゆっくりしてほしかったんだよ!」
「だから、おちついて、みんなでおうたをうたおうね!!」
「「ゆ~~♪ゆゆ~~……」」
簡易的すぎる小芝居であったが、親れいむをゆっくりさせるには十分であったようで、早くも笑顔を見せていた。
「ゆーっ……なんだか、とってもおちつくよぉ……。ありがとう、おちびちゃんたち!!!」
冷静になった親れいむは夫に謝る事にした。
「ゆ、だーりん……ごめんね。」
「いいんだよ。はにー。せっかくだから、まりさたちもおうたをうたおうね!!」
すっかり落ち着きを取り戻した親れいむを中心として、一家は再び歌を歌い始めた。
さっきの台詞の中で1匹、タブーを発した為に、さりげなく動かなくなった子れいむが居たが、
輪の外で発言した為に気づかれなかったようだ。
「よく子供達が仮死してる中で歌えるもんだな……。歌劇じゃあるまいし……。」
一家に聞こえないよう青年がぼやいた。
そんな中、歌はヒートアップし、サビの部分に突入していた。
「「「ゆゆ~♪ゆ~ゆ~♪ゆ~♪♪」」」
「「「ゆ~♪ゆゆ~♪ゆっく) り(ち)していってね~~~♪♪」」」
「「「あああ゛あ゛あ゛!!!!???」」」
途中で気づいた親れいむと親まりさ、一部の子ゆっくりは事なきを得たが、
またしても数匹の子ゆっくりと赤ゆっくりが犠牲になってしまった。
ルールを理解した後での痛恨のミスであった。
「「ゆゆーぅっ……。」」
さすがに、ショックを受けたのか、一家は盛大に溜息をついた。
残ったのは親まりさ、親れいむ、子まりさ4匹、子れいむ3匹、赤ゆっくり11匹(まりさ5匹、れいむ6匹)だった。
さすがに、このくらいの数になると一杯いた家族が少なくなってしまった、と感じるのか、一家は黙って泣いていた。
「ちびちゃんたち……」
「いもうとたちが……」
「おねーちゃん……」
ゆっくりと言ってしまう事を恐れ、口数も少なくなる一家。
お通夜ムードに入ってしまっていた。
「まあ、暗くなるのは解るけどさ。まだ沢山居るんだし、もう帰ったら?」
「そーいうわけにはいかないよ……。」
「じゃあ、僕にあの言葉を言わせるんだね。」
「わかってるよ……。」
駄目だな、これは。と青年は思った。これは長期戦だと覚悟し、ご飯を食べ始めた。
ご飯と言っても、携帯食料とジュースだったが、それを見たゆっくり達が色めき出した。
「ゆ~~……おいししょうだよ……。」
「ごめんね、ちびちゃん……。まりさがしっかりしてないせいで……。」
「……。おかしいんだぜ!! ここはまりさたちのおうちなのに、なんでまりさたちはごはんがないんだぜ!!?」
「そうだね!! きっとじじいがとっちゃったんだね!! はやくれいむたちにごはんをもってきてね!!」
「ゆゆっ!!ちびちゃんたちはあたまがいいね! じじいはさっさとごはんをよういしてね!!」
「あまあまでもいいよ!! はやくしてね!!」
「「よこしぇ! じじい~~!!」」
勝手な言い分だったが、ようやくゆっくりらしい思考を取り戻してきた、とも取れる。
とりあえず元気を出して貰って、出て行くか早期に決着をつけるかしてくれないと困るな。と思った青年は
冷蔵庫からジュースを、戸棚からお菓子を取り出し、お皿に盛って出してあげた。
「さいしょからだせばいいのに、まったくきのきかないじじいだね!!」
「ほんとに、にんげんさんはばかだね!!!」
文句を言いつつも、一家はお菓子とジュースを囲み、食事を開始した。
「むーしゃ、むーしゃ……… し、しあわしぇえええ!!!!」
「むっちゃむっちゃ~………、ち、ちちちあわしぇええええええ!!!!!」
ゆっくり一家は、目を潤ませ、口元をだらしなく歪め、歓喜の声を発した。
これが、あまあまか! と驚く美味しさだった。普段、老人から強奪していたアメさん等、比較にならない。
毎日群の皆に羨ましがられたお野菜さんは、もはや眼中に入っても無視するだろう。
普段食べている虫さんやお花さんごときは、もはやゴミ以下の味でしかない。
まさに、味覚の革命であった。涙を浮かべながら美味しい、幸せ、と食べるゆっくり一家。
今まで生きて来た、一生分のゆっくりでも釣り合わないゆっくりっぷりを味わった。
「おいしかったね!!」
「「すごくゆっくりできたよ~~♪♪」」
「「「ゆっくりありがちょう! おにーしゃん!!」」」
「おじさんは、れいむたちのけらいにしてあげるよ! ありがたくおもってね!!」
「もっとゆっくりしたあまあまさんをもってくるんだぜ!!」
「ゆっくりしないではやくもってきてね!! ばかなの!? しぬの!!?」
美味しい物を持ってきてくれた青年に、赤ゆっくり達は感謝した。
そして、子れいむと子まりさ達は、青年をじじいからおじさんに昇格させ、自分達の家来にしてあげる事にした。
--5分後。
「ゆっぐ、ゆっぐ……!!」
「あー……。」
またしてもお葬式会場が再現されていた。
頭の中がゆっくりしてしまった事で、つい禁句を言ってしまい、
子まりさ2匹、子れいむ2匹、赤ゆっくりが3匹動かなくなってしまった。
青年としてもやや不本意な展開であったようで、どうしたものかと唸っている。
しかし、親まりさだけは落ち込むのではなく、考え事をしていたようで、
頭の上に変な電球マークが出たような「ぴこーん」という効果音を口から発した。
「おにーさん! このルールはまりさたちにふりだよ! るーるのへんこうをようきゅうするよ!!!」
「ゆ!? どうするの? だーりん?」
「せつめいするから、おにーさんは、いっかいこのるーるをやめてほしいよ!!」
「ん……まあ構わないけど。」
ルールが変更可能であるという事を説明してなかったが、まあいいか。と青年は思った。
ここで、「ルールは変更出来ないんだ」と言って、膠着状態を続けるのは、青年側にとっても得策では無い。
さっさと帰ってもらうか、とっとと全滅して貰わないと、無駄な時間を過ごす羽目になるからだ。
「ほい、ルールを解いたよ。『ゆっくり』説明してね。」
「はにーと、ちびちゃんたちもゆっくりきいてね。こんどは、ゆっくりっていわないとだめなるーるにするよ!!」
「ゆゆぅっ!!?」
「しゃべるたんびに、ゆっくりっていわないとだめなんだよ!! このるーるならぜったいまけないよ!!!」
「ゆゆ! さすがれいむのだーりんだね!!」
「おとーしゃん、しゅごーい♪♪」
「成る程な」青年は感心した。まさかゆっくりごときに、ルール変更を提案されるとは思っていなかった。
ゆっくりならつい言ってしまうであろう言葉だが、青年にとっては、馴染みのない言葉だ。
中々よく考えたじゃないかと、青年は思わず顔をニヤけさせた。
「それでいいけど、ちょっとルールが曖昧だから、細かく決めさせて貰うよ。
『ゆっくり』と言わなければならないのは、一呼吸の間にしよう。
それと、発言のどこに『ゆっくり』を付けても良い事。」
つまり、人間で言えば、息を吸って喋ってから吐ききるまでに『ゆっくり』と言えば良い。
文章で言えば、ひとつのカギカッコの中に『ゆっくり』という単語が含まれればいい訳だ。
「それでいいよ!! まりさたちはいつでもじゅんびおーけーだよ!! ゆっくりしていってね!!!」
「「「ゆっくりしていってね!!!」」」
ゆっくり一家に気力がみなぎり始めた。折れた心を立ち直らせるとは、大したゆっくり達だ。
青年はちょっと、興味が出て聞いてみた。
「やっぱり、自分の子供達を助け出したいかい? その気力は、家族の為のものって訳かな?」
「そうだよっ!! ぜったいにちびちゃんたちをたすけだすよ!!」
「ゆゆっ!!? ……そうだね!! がんばろうね、だーりん!」
「「「えいえいゆーー!!!」」」
実を言うと、親まりさは少し打算的な考えがあった。先ほどのあまあまさんである。
このおうちを手に入れれば、この先ずっとあまあまさんを食べれる事が出来る。
子供達も生き返るし、良い事尽くめではないか。
まりさは、そんな現金な欲望で心を立て直したのだった。
親れいむと子れいむは、仮死状態の家族の事をほぼ忘れていた。
ここには、美味しいあまあまさんがある。けどもう心は折れている。
ここはゆっくりできない。群にある本当のおうちに帰りたい。
親まりさが、必勝できる今のルールを考えなかったら、すぐにでも帰ろうと発言する所であった。
子まりさは、どうにかあまあまさんをもっと食べれないか考えていた。
今のままでは、食べている内にルールを忘れてしまい、気づかぬうちに、ゆっくり。と叫んでしまうだろう、と思っていた。
あまあまさんでゆっくりしたいけど、ゆっくり出来なくなるのは絶対に嫌だった。
だから、親まりさが新ルールを発表した途端、これでゆっくり出来る。と叫びそうになった。
赤ゆっくり達は、まだ高度な考えは出来ない。ゆっくりって言えばいいんだね。と考えるのみだ。
「よし、じゃあ7時ちょうどから始めよう。あの時計が、ボーン。って鳴ったときからスタートだよ?」
「「「ゆっくりわかったよ!!!」」」
ボーン……ボーン……ボーン……
「「「「ゆっくりしていってね!!!」」」」
「「「ゆっくちしていっちぇね!!!」」」
振り子時計が7時を刻むと同時にゆっくり一家が叫んだ。第2ラウンド開始である。
さて、どんな手を見せてくるか。と青年は身構えた時には、赤ゆっくりが3匹動かなくなっていた。
残る5匹の赤ゆっくりに「ちびちゃんたちはもうゆっくりしゃべらないでね……。」と懇願する親まりさ。
盛り上がらないスタートを見せつつ、青年とゆっくり一家の戦いの火蓋は切られた。
「むーしゃむーしゃ! ゆっくりしあわせーーー!!!」
「「ゆっくりおいしいね!!!」」
「とってもゆっくりしてるね!」
ゆっくりと言っても良くなったので、思う存分ゆっくりとお菓子を食べている一家。
そんな一家を青年は冷やかな目つきで見ていた。
「どうせすぐに、ゆっくり。という単語を言うのを忘れるに決まっている。」そういう目だった。
開始後、「まずは、ゆっくりお菓子を食べさせてね!!」と叫んだ親まりさに、青年は失望していたのだ。
どんな手を打ってくるか少し興味があったのに、単にお菓子が食べたいだけか。と溜息が出るほどであった。
10分後。
お菓子をあらかた食べ終わると、親まりさはニヤリと笑いながら自信満々に叫んだ。
「おにーさん、まりさたちはゆっくりねむるよ!!!」
「!?……ゆっくり寝るの?」
親まりさの理解できない発言に、思わず青年は発言を誤りそうになった。
思う存分お菓子を食べたら寝るとは、どういう事か。子供達を取り返すという意思は何処へ行ったのか。
青年を混乱させるには、十分な威力であった。
親れいむや、子ゆっくり達も親まりさの意図が読めなかったらしく、首をかしげながら親まりさの後に続いていく。
部屋のすみっこに移動すると、「これもさくせんだよ。ゆっくりりかいしてね。」と親まりさは家族にそっと囁いた。
親まりさの作戦はシンプルなものだ。朝を迎えたとき、ゆっくりの第一声は「ゆっくりしていってね!」だ。
対して人間は、「おはよう。」これは、もはや条件付けされたような反応であるため、回避することは出来ない。
シンプルゆえに完璧な作戦。親まりさは、起きた時が決着の時だと細く笑みながら眠りについた。
人間である青年は、それほどにゆっくりとした作戦に付き合って居られるわけがなかった。
今から一家が起きるまでの時間、あー、とでも呟いたら死んでしまうのだ。冗談ではない、寝言でもアウトだ。
暴力が使えない空間である以上、このルールで相手に眠られるのは辛い。
「ゆっくりによる、ゆっくりとした持久戦……か。やられたな……。」
先程の、こちらを混乱させる発言やこの持久戦。
確かに効果的な作戦と言えるかも知れないな。と青年は本当に関心していた。
そして、青年はゆっくり一家が自滅するのを待つ事を諦め、
手早くゲームを終らせるべく行動を開始した。
ちょきん、ちょきんとリズミカルな音で、親まりさは目を覚ました。
「ゆっくりしていってね!!」
「ゆっくりのお客様、今日はどのようなヘアスタイルにします?」
「ゆっくり?」
何故か親まりさは、鏡の前に固定され、髪を切られている所であった。
「おにーさん! まだゆっくりあさじゃないよ! それに、いきなりびよういんさんごっこなんてだめだよ!!」
「まぁ、落ち着いてよ。君の奥さんのゆっくりれいむも、僕がきってあげたんだよ?」
「ゆっふ~~ん♪ ゆっくりしてるでしょ!! かわいくってごめんねー!!!」
見れば、親れいむは子供達に、綺麗になった髪を見せびらかしている。
子供達も、「ゆっくりしてるよぉー。」と羨ましそうである。
青年に、美容師的なスキルなどは一切無い。寝ぼけ眼の親れいむを引っ張り出し、
シャンプーして、1cmばかり髪を切っただけである。
だが、野良ゆっくりの清潔感など、家族でぺーろぺーろと舐め合うだけだ。
人間が作り出したシャンプーで髪に艶を与えるだけで、別人のようになるのは当然であった。
勿論、青年はそれを言わない。多少意識を覚醒させた所で、
「ゆっくり髪を切ってあげたよ。」と微笑んだだけだ。
「ゆゆ~ん♪ まりさもゆっくりしたかみさんにしてほしいよ!!」
「はいはい、ゆっくりお任せあれ。」
そういって、青年は、ちょきちょきと軽快に髪を切っていった。
最初は、切られる度に「ゆっゆ~、ゆっくり~」と歌っていた親まりさだったが、
パサリ……パサリ……。と嫌な音が続くようになると、
親まりさはなんだかゆっくり出来ないものを感じ、目を見開いていった。
「お、おにーさん? ゆっくりきりすぎないでね?」
「ゆっくり解ってるさ。」
そう言いながらも、青年はジョキジョキと親まりさの髪を刈り込んでいく。
ジョキン、ジョキン、ジョキン……
数分後、鏡に見える部分が切られていくのを見て、親まりさは叫んだ。
「きりすぎでしょおおおお゛お゛お゛!!! ゆっくりできなくなっちゃうよおお゛お゛お゛お゛お゛!!!」
「ゆっくりぃいいい゛い゛い゛!!! だーりんのこうとうぶがかりあげになっちゃっでるよおお゛お゛お゛!!?」
「おとーさんのゆっくりしたかみがああ゛あ゛あ゛!!!」
親まりさの叫び声で、親れいむのゆっくりヘアーショーが中断されたようだ。
親れいむが、変わり果てた夫の姿を見て、泣き叫んだ。
世界一ゆっくりした夫婦に変身するはずだったのに、愛する夫の姿は、
親れいむの予想とはかけ離れたモノになりつつあった。
「「おとーーしゃーーんん゛ん゛!!」」
2匹の赤ゆっくりが、親まりさの髪がズタボロになっていく恐怖に耐えられず、泣き叫んでしまった。
脆いな、と思いながら青年は親まりさの髪を刈り込んで行く。坊主頭では面白くないので、
いかにも素人がやりました、というような、凸凹な短髪にするまで切り続ける。
もちろん暴力というルールに触れないように、ゆっくりと、だ。
徐々におかしな髪型になって行く自分自身の姿を見せ付けられた親まりさは、目を白黒させながら黙って泣いていた。
親れいむと子ゆっくり達は「ゆっくりしていってね! ゆっくりしていってよおおお゛お゛お゛!!」と泣いて跳ねるのみだ。
本来なら、体当たりしながら、「もうやべでええ゛え゛え゛!!」と言いたかったが、
暴力禁止と「ゆっくり」と言ってはいけないルールの為に、子供の癇癪のような行動となっている。
「ゆ゛っ……ゆ゛っ……ゆっくり……。」
「ああああ゛あ゛あ゛あ゛!!! だーりんのずでぎながみがああ゛あ゛!!!!……ゆ!!!!、、ゆっくりぃ……!!
……ゆっくり、ゆっくり……ゆっくりぃ……。ゆっくり…ゆっくりゆっくり……。」
切り終わった後、親まりさは、痙攣し、口から泡を吹きつつもルールを守り続けていた。
親れいむは危うくルールを外れそうになった所で、ギリギリ気づいたらしい。
そして、ルールを破らないように、小声でぶつぶつと「ゆっくりゆっくり」と唱える機械と化した。
子れいむは、素敵な髪をした親れいむに夢中の様子で、
「れいむもおかーさんみたいなゆっくりになりたいな、ゆふふふふ。」と甘い声をだしている。
現実を知らないのは、ある意味幸せな事かもしれなかった。
子まりさ2匹と赤ゆっくり達は親まりさの姿にガタガタと怯え、「ゆっくりこわいよおお゛お゛お゛!!」と泣いている。
徐々に、ゆっくりできない姿にされていく肉親を見る事は、一家にとって過大なストレスを与えていた。
「せっかくやる気を出したのに、……ゆっくりは脆すぎるな。」青年はがっかりした声を出した。
青年は、ハサミをしまい、髪の毛がついた手を洗う為にトイレ向かった。
その時、奇跡的ではあったが、振動で机から落ちた小さなお菓子が、1匹の子まりさの前に転がった。
--反射的に、子まりさはそのお菓子を口にする。
「むーしゃ……むーしゃ……!!! ……むーしゃ、むーしゃ!!!! ……!!! ……!!
ゆっくり……、……ゆっくりこのままじゃ、だめだよ!! このままじゃおわれないよ!!!」
たった一つのあまあまさんが、一匹の子まりさの精神状態を最大限まで回復させる。
自分が、青年に勝って、沢山のあまあまさんを手に入れるんだ!! 子まりさは当初の目的を思い出した。
恐慌状態から立ち直った一匹の子まりさは、青年と対峙するべく部屋の中央へ身を躍らせた。
「おとーさんのかたきは、まりさがゆっくりとるよ!!」
「ん? まだ元気なゆっくりが残ってたのか?」
「さいごのしょうぶだよ!! まりさとゆっくりしょうぶしてね!!!」
手洗いから戻った青年に、子まりさは挑戦を叩きつける。
現在、残った一家は、痙攣している親まりさとさっきルールを破りそうになった親れいむ、
部屋の隅っこで泣いている子まりさと赤まりさ1匹、赤れいむ2匹。そして、ゆふふふと笑っている子れいむ1匹。
今、青年の目の前にいる子まりさだけが、唯一戦意を喪失していない事になる。
確かに最後の戦いとなるかもな。青年はこれで最後だとばかりに気を張りなおす。
「おにーさんのかけてるめがね、ぜんぜんゆっくりしてないよ!!
それに、いまどきそんなかみがたをしたにんげんさんなんて、みたことないよ!!!
おにーさんは、いなかものだね!! はずかしくないの!? それでかっこいいとおもってるの!!?」
子まりさは、ペラペラと喋り始めた。人間を挑発する事にかけては、自信があった。
これまで何度となく、人間を怒らせて自分に注意を引き寄せ、その間に妹達に野菜を盗ませたりしてきたのだ。
相手を怒らせれば、そのうち青年は「ゆっくり」以外の言葉を喋るだろう。
人間が「ゆっくり」という台詞を吐くのは不自然だ。頭に血を昇らせれば勝機はこちらにある。そう子まりさは確信していた。
舌戦がしたいのかな。と感じた青年は、空気を読んで口上での反撃を試みる。
「髪型については、君に言われたくないなぁ。君の親である、ゆっくりまりさの髪型は今どんなのだい?」
「ゆぅっ……!! けどそれはおにーさんがきっちゃったからだよ!! ゆっくりひとのせいにしないでね!!」
「まあ、そうだね。でも君の帽子については、僕は何もしてないのにゆっくり変な方向に折れ曲がっちゃっているよね。」
「ゆ゛っ!!? ゆっくり……。」
「家族の中で、君だけがゆっくりしてない変なお帽子だね?」
この子まりさの帽子は、生れ付きまっすぐピンと立っておらず、途中でクニョリと曲がっていた。
家族の中でも1匹だけ。 それは、子まりさにとって指摘されたくない身体的特徴というものであった。
おかーさんや妹達は「気にしなくていいんだよ。」と言ってくれていたので、それほど気には病んでいなかったが、
青年に指摘された事で、「やっぱり変だったんだ」という影が心に刺し、子まりさは動きを鈍らせた。
「か、かんけいないよっ!!! おぼうしがまがってても、だれにもゆっくりめいわくをかけてないよ!!」
子まりさは強がった。本当は「やっぱり変なの?」と聞きそうになったが、ここで引いたら駄目だと思った。
「それより、おにーさんはこんなへんなおうちでまりさたちをだましたりして、ゆっくりめいわくだとおもわないの!?
ほかのにんげんさんがきたら、まりさたちみたいにしんじゃうんだよ!? おにーさんはしゃかいのくずなの!!?」
「別に騙しちゃいないさ。ちゃんと玄関に張り紙が張ってあるしね。この家に入ってきて『ゆっくり』なんて
言う奴の方がおかしいのさ。」
「まりさたちはおかしくないよっ!! ゆっくりできないおうちにすんでるおにーさんが、みんなのめいわくなんだよ!!」
「迷惑、って言うのなら、ゆっくりできない君の臭い身体の匂いの方が迷惑じゃないのかい?」
「ゆっくりくさくないよっ!!!」
「あらら……。気づいてないのか。試しに君のお母さんのゆっくりれいむと、君の帽子の匂い、比べてご覧よ。」
「くらべるのはいいけど、まりさはくさくないよ!! とってもゆっくりいいにおいだよ!!」
「はいはい、言葉ではなんとでも言えるけどね。いいからゆっくりれいむの匂いを嗅いできなよ。自分が臭いって解るから。」
「ゆぎぃいいいいい゛い゛!!!! またゆっくりくさいっていったああああ゛あ゛あ゛!!!」
違う。臭くない! まりさは臭くない!! 小さいころに、まりさはお日様の匂いだね。って褒められた事もある。
だから、この人間の言った事は嘘だ。匂いを確かめた後で、
「ほら、くさくないよ! うそをつくなんてほんとくずだね! いきててはずかしくないの!!」
って言ってやる! まりさは親れいむの側に寄り、匂いを嗅いだ。
「ゆゆ~ん♪ おかーさんはゆっくりいいにおいだよぉ~~♪♪ やっぱりにんげんさんはうそつきだね!!!」
「……で、ゆっくりした君のお帽子の匂いはどうだい?」
当然、ゆっくりした匂いだよ。と言わんばかりに自分の帽子を眼前に置き、
匂いを嗅ぐために身を寄せた瞬間、子まりさは息を詰まらせた。
「ゆ゛っ!!!?? ゆっくり……した匂いだよ……。」
親れいむの、自分の母親の匂いは、まるでお花のようだった。
いつまでもその匂いをかいで居たい様なそんなゆっくりした香りだ。
そして、おかーさんの子供である自分も同じゆっくりした香りがする。と当然のように思っていた子まりさは驚愕した。
まるで、腐ったご飯のような匂いだった。青年には、ゆっくりした匂いだと誤魔化したが、
自分自身を誤魔化す事は出来ず、何度も親れいむと自分の帽子の匂いを比べた。
(どぼじでぇっ!!? どぼじでごんなにゆっぐりじでないにおい゛なの゛っ!!?)
何故こんなにも自分が臭いのか理解できなくて、子まりさは混乱する。
「そんなに激しく行ったり来たり動いちゃって、全然ゆっくりしてないな。何度確認しても臭いものは臭いんだよ。
君の帽子は、ひん曲がって格好悪い上にくさい匂いを撒き散らす、ゆっくりしてないお帽子なんだ。
勿論、それを生まれた時からかぶっている君は、家族で一番ゆっくりしてないまりさだってこと。……解るかな?」
「ちがう゛っ!!! まりざば!! まりざはゆっくりじだゆっぐりだっ!!!」
悔しいけど、否定する為の言葉が出てこない。だから子まりさは、精一杯大きな声で叫ぶ事しか出来なかった。
「ほら、今もそんなゆっくり出来ない声なんか出しちゃって。後ろを見てみなよ。臭くて、格好悪くて、
ゆっくりしてない君には、誰も近づかないだろ? 本当は家族の皆も君の事が嫌いなのさ。」
子まりさが後ろを振り返って見ると、確かに皆離れた所で自分をゆっくりしてない目で見ていた。
全身の温度が下がるのを子まりさは感じた。そして、目を見開き、呆然と「うそだ……よ」と呟いてしまう。
「うそだよね? まりさはくさくないよね? おかーさん、おねがいだから……」
其処まで喋った所で、子まりさは動かなくなった。
生まれた時から洗う、という事をしてこない野生のゆっくりの匂いと、
香りつきの石鹸で洗ったばかりのゆっくりの匂い。両者は比べるべくもない。
子まりさに、家族が近寄らなかったのでは無い。近くに居なかっただけだ。
だが、自ら青年と戦うために、家族の元から離れた距離は、混乱していた子まりさにとってとんでもなく遠く感じたはずだ。
そして、戦意を失い、恐怖に支配されただけのゆっくり一家は、子まりさを見ていなかった。
焦点の合っていないその目を見れば、ゆっくりした目で見てくれない。と思ってしまっても仕方がない。
「ま、ゆっくりには、考え付かないだろうけどね。」
戦う気も無く、出て行く気配の無い一家を成年は家の外へ追い出す事にした。
これ以上関わるのも面倒だし、家の外の空気を吸えば、勝手にゆっくりの群にでも帰るだろう。というのが青年の本音だ。
家の外へ放り出された一家は、ゆっくりと群にある自分のおうちへ帰る事にした。
沢山の家族を失い、精神的にボロボロの一家は、行きの倍の時間を掛けて、ようやくおうちに帰る事ができた。
その日の夜は、生きている喜びを噛み締め、お互いにぺーろぺーろと慰めるように舐め合った。
今日は、ゆっくり眠ろう。そして、明日からはゆっくり暮らそう。そう思いながら眠りについた。
翌日。
「ゆげぇっ!! まじゅいいいい゛い゛い゛い゛!!」
「こんなの、ぜんぜんたべられないよおお゛お゛お゛!!」
青年の家で食べたお菓子は、一家の味覚を肥えさせ過ぎた。
一生懸命溜め込んでいた虫さんやお花さんは、もはや毒のようなものでしかなかった。
しかし、昨日の今日で、畑まで移動する気力は残って居ない。
明日はお野菜さんを取りに行くから我慢しようね。と空腹を我慢し眠った。
2日後。
一家は畑に侵入していた。
「ゆっくちまりしゃにたべられちぇね!!」
赤まりさが、お野菜の切れ端を齧った瞬間、駆けつけた農夫の蹴りを受け、餡子を吐き出しながら空に散った。
数の理を活かし、見張り役を立てられた頃とは違って、人間への注意を払えなかったのだ。
その代償が、家族である赤ゆっくり一匹の命。得られた報酬は、今までからすれば、塵にも満たない野菜の切れ端。
しかし、赤ゆっくりが犠牲になって手に入れたお野菜でさえ、一家の舌を満たすことはできなかった。
3日後。
人間さんがあまあまを捨てている。と噂で聞いて一家は別れてゴミ捨て場を徘徊した。
親れいむはゴミ捨て場でゴミ袋を漁っている所を業者に見つかり、
靴の裏で圧力を徐々に掛けられながら、ゆっくりと潰されて死んだ。
4日後。
公園でお歌を歌って、あまあまさんを貰ってくるよ。れいむ達は可愛いから楽勝だよ。
と息巻いた子れいむと赤れいむ2匹は、1時間のフルコーラスを披露した。
「おうたをきいたんだから、ゆっくりあまあまさんをよこしちぇね!!!」
「きくだけきいちぇ、おかねをはらわないなんて、じゅるいよ!!!」
「どぼじでれいむたちをむしずるのおおおおお゛お゛お゛!!!」
子れいむと赤れいむ達は、歌を歌ったにもかかわらず、無反応の人間に対して体当たりをかました。
何故何も寄越さないのか、と怒り叫んだ。
駅前で乞食をやっていた親まりさと子まりさが、子れいむ達を迎えに着た時には、
子れいむと、赤れいむ達の姿は原型を留めておらず、保健所の職員に袋詰めされている所であった。
5日後。
親まりさと子まりさは、もう一度、あの青年の家に挑戦しようと決めた。
畑に行ったり、ゴミを漁ったり、乞食をしたりしても良い事は一つもなかった。
やはり、あの極上のあまあまがある青年の家こそが、自分たちのゆっくりぷれいすなのだ。
青年を倒せば、おちびちゃん達も生き返るというのに。この数日間自分たちは何をしていたのか。
親まりさが、急にやる気を取り戻したのには、理由がある。青年を倒す方法を考え付いたのだ。
親まりさの考えた作戦は、こうだ。
やはり「ゆっくり」以外の台詞を言わせるには、「おはよう」しか無い。
青年が、朝起きるときに言うであろう、「おはよう」を確実に言わせるには、
朝に家に侵入し、奇襲を掛ければ良い。そうだ、奇襲だ。なんと素晴らしい作戦だろう。
子まりさもこの作戦を考えた親まりさをしきりに褒めた。2匹は、勝利を確信していた。
明朝6時。青年の家に辿り着いた親まりさと子まりさは、眠い目を御互いぺろぺろと舐める。
朝に青年の家に着く為に、眠いのを我慢して夜中に移動をして来た為に体力も限界であったが、
どうせ、一撃で勝負は決まる。と気合を凝縮させる。
「おにーさん! ゆっくりしていってね!!! まりさたちともういちどゆっくりしょうぶしてね!!」
「こんどはゆっくりまけないよ!! けど、しょうぶのまえにおかしをちょうだいね!!!」
親まりさと子まりさは、居間に入るなり、青年が起きてくるように大声を張った。
まりさ達は、玄関の張り紙を確認していなかった。
玄関の張り紙にはこう書かれている。
『このいえにはいったものは、けっして「ゆっくり」といってはいけない。』
前に書いたの
まりさとの平日
ぱちゅりーとおにーさん
お野菜が勝手に生えてくるゆっくりぷれいす
ゆっくりと眼鏡
うちのありすのばあい
イジメられたれいむ
最終更新:2009年04月18日 07:29