今、俺は自宅へと全力疾走していた。
腕にはゆっくりショップ印の買い物袋を抱えている。
そっくりれいむ。
新製品をチェックするために訪れたゆっくりショップ。
ついなんとなしに立ち寄った捕食種コーナーで、俺はこいつを見つけた。
100%人工の饅頭。
それだけならば、ただ買わずに通り過ぎただろう。
だが、なんとなく手に取った説明書にはこう書かれていた。
※飾りをゆっくりの物と取り替えると、生きながら腐るゆっくりが生まれる場合があります。
絶対にやらないでください。
超見てみてぇ。
早速そっくりれいむを買い、家へと猛ダッシュ。
生きながら腐るって。一体どうなるのだろう。すごいワクワクする。
久しぶりに感じたこの胸の高鳴り。
さぁれいむ。
お前に命を吹き込んでやるよ。その結果どうなるかは知ったことではないが。
黒い悦びを胸に、俺は走り続けていた。
そっくりれいむで遊ぼう!
「―――で、お兄さんはそのれいむをかってきたと」
「そうですその通り!ヒャア我慢できねぇ実験だ!」
流れる汗を拭き取り、爽やかに答える。
明らかにゆうかが冷めた目をしているのに気づいたのは2日後だった。
「今回はゲストをお呼びしています!カモンおりん!」
「じゃじゃーん!」
ゆっくりおりんを呼ぶ。
別にゲストとはいっても同居しているのだが。
「さぁおりん、ゆっくりの死体を操る君ならわかると思う。
このそっくりれいむは、100%人間の手で作られた饅頭だ。ゆっくりではない」
テンションをそのままに、俺は喋りだす。
おりんはいつもと違う俺の様子に戸惑っているようだ。
「ゆっくりは母から産まれる、それは当然だ。
母の胎内、あるいは茎に揺られ、この世に生まれてきた事を実感するのだ。
この世全てからの祝福、母の愛情に包まれてゆっくりは誕生する」
更にボルテージを上げ、真っ赤な嘘を並べ立てる。
そんな平和に生れ落ちることの出来るゆっくりなんて一握りしかいないっての。
「だがこのそっくりれいむは違った!
このれいむに母も無く、祝福も愛情も無い!
産まれてすらいない!人間の手で製造されたのだ!」
既にゆうかは居ない。
どうやら呆れてどこかに行ってしまった様だ。
おりんひとりを相手に、俺は演説の真似事を続ける。
「何と酷い事か!このれいむは冷たい工場の中で、餌として組み立てられた!
このれいむとゆっくりに何の違いがある!?小麦粉の肌、飴の歯、白玉の目!
全て同じではないか!何故れいむがこのような仕打ちを受けねばならないのだ!」
明らかにおりんは引いてる。
だが気づかない。イケイケモードとなった俺は止められない。
「だから俺はれいむに魂を吹き込む!
れいむは食べられるためのお饅頭ではなく、ひとつの生命としてこの世を生きるのだ!」
本当は生きながら腐るという地獄を味わってほしいんだけどね。
「だからさおりん、君のゾンビ饅頭から飾りを貰い受けたいんだけど。いいよね?」
「い、いいよ!おやすいごようだよお兄さん!」
ようやく素の状態になった俺に安堵するおりん。
そっくりれいむ用のリボンをくれることも快諾してくれた。
「死体のことならあたいにおまかせ!ゆっくりれいむならよりどりみどりだよ!さぁ!こっちにおいで!」
おりんが指を鳴らすと、ぞろぞろとゾンビ饅頭たちがやってきた。
「ユ゛・・・・・・ユ゛ックリジデイッデネ・・・・・・」
「ユ・・・・・・ユヒ・・・・・・」
「ユ゛ッユ゛ッユ゛ッユ゛ッユ゛ッユ゛ッユ゛ッユ゛ッユ゛ッ」
「カユ゛・・・・・・ウマ゛・・・・・・」
明らかに死んでいるとわかるゆっくり達。
片方の眼球が無いものや、腐り始めているものもいる。
「あー、じゃあこのゾンビれいむのリボン貰うぞ」
「ユ゛ッ!レイム゛ノ゛オ゛リボンガエジデネ!」
別に死体のゆっくりの飾りを使う必要はない。
ただなんとなく死体の方が相性がいいかなー、と思っただけだ。
「さぁそっくりれいむ!!お前はこのおリボン(死臭付き)で新たな生を手に入れるのだ!!」
れいむにリボンを装着する。
さぁ、何が起きるんだ。
「・・・・・・ゅ・・・・・・ゅっ・・・・・・ゆ・・・・・・ゆっ・・・・・・」
動き始めたそっくりれいむ。
おお、いきなり動くとは。後2つ~3つくらい飾りを変えて試すつもりだったのだが。
「ゆっくりしていってね!」
定番の台詞。どうやらそっくりれいむに魂が吹き込まれたようだ。
「やぁれいむ。ゆっくりしてるかな?」
「ゆゆ!れいむはゆっくりしてるよ!」
どこからどう見ても普通のゆっくりだ。ちゃんと腐っていくのだろうか?
「おりん、こいつ操ってみろ。多分出来るぞ」
「あいあいガッテンだよ、お兄さん!」
むむむ、と念を込めてれいむを見つめるおりん。
釣られるようにれいむの身体が動き始める。
「ゆゆ!?れいむのからだがかってにうごくよ!!」
「お兄さん、ほんとにできたよ!」
そりゃそうだろう。なんたってこいつは元々ただの饅頭なのだから。
言ってみれば生きながら死んでいる。いや、死にながら生きてるのか?
「はーいそうとわかったらもう用無しですよーれいむちゃん」
「ゆっ!おそらをとんでるみたい!」
れいむを抱き上げ、透明な箱に入れる。
万一勝手にどこかに行って腐られたら困るからね。
「おにいさん!れいむをここからだしてね!じゃないとおこるよ!ぷくぅ!」
「はいはーいじゃあそこで腐っていってねー」
とりあえず放置する。
一体何日で腐ったりするのだろうか。ちょっと楽しみ。
「さあおりん、もう行こうか。3時のおやつでも食おうぜ」
「あたい、お兄さんに揚げまんじゅうつくってあげるよ!」
「ユ゛ッ!オマ゛ンジュウ!」
「ワ゛ーイ゛ヤッダー」
「ユ゛ッユ゛ッユ゛ッユ゛ッユ゛ッユ゛ッユ゛ッユ゛ッユ゛ッ」
ゾンビ饅頭どもをぞろぞろ引き連れ、俺とおりんは部屋を後にする。
「ゆ゛うううううう!!れ゛いむ゛も゛お゛まんじゅうだべだいいいいいいいいいいい!!」
部屋の中にはれいむだけが取り残されていった。
1日後。れいむの様子を見るべく部屋を訪れる。
「ゆっ!おにいさん、れいむをここからだしてね!れいむおなかすいたよ!」
ぷりぷりと膨れながら威嚇してくるれいむ。その様は普通のゆっくりと変わらない。
当然無視する。俺が見たいのは生きながら腐る饅頭なんだ。今のお前なんかと話す事はない。
「ゆうううぅぅ!!おにいざん、れいむだじでよおおおおお!!!」
さっさと部屋を出る。
一体変化が訪れるのはいつごろやら。
「おながずいだあああああああああああああああ!!!」
2日後。
「ゆううううう・・・・・・おにいざん、おながへっだよおおおおおおお・・・・・・」
元気がないが空腹によるものだろう。
ゆっくりが生きていくうえで必要な食料は少ない。大食いなのはゆっくりが必要以上に強欲なためだ。
ゆっくりは本来エコなナマモノなのだ。だから1ヶ月程度の長い絶食にも耐えられる。
まぁ普通に生きているこいつに興味はない。さっさと腐れよ。
そうでなければお前に命を吹き込んだ意味はないんだからな。
「だじでええええ・・・・・・おうぢがえる・・・・・・」
3日後。ようやく変化が現れた。
「ゆ゛・・・・・・おにいざん・・・・・・だじで・・・・・・」
少々様子がおかしい。
舌をべろんと出し、口からはだらだらと涎を流し続けている。
眼は焦点を失い、こちらを見ていない。
だがまだ意識があるな。それに外見に異常は見当たらない。
腐食は内部から始まったのだろうか?今れいむの体内はどうなっているのだろう。
箱の中にゆっくりフードを入れ、部屋を後にする。
ようやく楽しくなってきた。もっともっと面白くなれよ、れいむ。
「ゆ゛・・・・・・うめ゛・・・・・・めっちゃうめ゛・・・・・・」
部屋にはクチャクチャと、れいむの咀嚼する音だけが響いていた。
4日後。
「ゆ゛・・・・・・ゆ゛・・・・・・ゆ゛・・・・・・ゆ゛・・・・・・ゆ゛・・・・・・ゆ゛・・・・・・」
完璧に壊れたな、こりゃあ。
今にも飛び出そうなほどに開かれた両目は白く濁り、口からは涎と共に呻きのような声が絶えず漏れ出ている。
ゆっくりフードを与えてみる。反応はない。
「ゆ゛・・・・・・ゆ゛・・・・・・ゆ゛・・・・・・ゆ゛・・・・・・ゆ゛・・・・・・ゆ゛・・・・・・」
見れば、れいむの頬に黒いシミのようなものが浮かんでいる。カビだ。
れいむの内部を蹂躙したであろうカビは、とうとうれいむの外側にまで及ぼうとしている。
眼を凝らせば少しずつカビが広がっていくのがわかる。異常なスピードといえた。
今日はこのままれいむを観察しよう。
このカビがれいむを覆い尽くすところを見てみたい。
おそらくだが、多分まだれいむは生きているはずだ。生きながら腐る。俺はこれが見たかったんだよ。
「ゆ゛・・・・・・ゆ゛・・・・・・ゆ゛・・・・・・ゆ゛・・・・・・ゆ゛・・・・・・ゆ゛・・・・・・」
そして5日後。そこにはカビ饅頭があった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
もうれいむは動かない。呻き声を上げることすらない。
カビはれいむの全身を覆い、れいむの顔面は真っ黒のグズグズになっている。
正直、ここまで凄まじくなるとは思っていなかった。まだあのゾンビ饅頭の方がマシだ。
「おーい、おりん。来てくれ」
「よんだかい、お兄さん?」
おりんを呼ぶ。流石にもうどう見ても死んでいるが一応おりんに死亡確認してもらう。
「お兄さん、このれいむまだいきてるよ」
「マジで!?」
驚いた。こんななりになってもまだ生きているのか。
まぁこんな状態では生きていても死んでいても変わらないだろうが。
どうせなので動かそう。
「じゃあおりん。こいつ操ってくれないか?」
「がってんだよ、お兄さん!」
むむむ、と念を込めてカビ饅頭を見つめるおりん。
とうに壊れたはずの精神を強制的に黄泉還され、腐れいむは覚醒する。
「ユ゛ユ゛!ユ゛ッグリジデイッデネ!」
がらがらに皺枯れたおぞましい声で挨拶をする腐れいむ。
予想以上にキモイ。
「やぁれいむ。ゆっくりしてる?」
「ユ゛ッ!ナ゛ンダガゼナガガガユ゛イヨ゛!」
俺の言葉を無視し、箱に身体を擦り付ける腐れいむ。
ぬちょぬちょと腐汁が飛び、背中がぐちゃりと崩れた。中からどす黒く水っぽい何かが垂れてくる。
やばい。何でこんなの蘇らしたんだろう。少し後悔した。
「ユ"ア゛ア゛!!ガユ゛イヨ゛!!ガユイ゛ヨ゛!!」
己の公開解体ショーを見せ付ける腐れいむ。
ちょっとした精神的ブラクラに眩暈を覚える。
「あのーれいむさん、俺の話を・・・・・・」
「ユ゛ブゲロ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛!!!!」
いきなり吐いた。
背中から垂れてるものと同じ黒い粘液状の何かを大量にぶちまける。箱越しからでも伝わる腐臭。
これは酷い。
やっぱりこれは罰なのか。使用上の注意に真っ向から反逆した罰なのか。
ゆっくりの腐乱死体程度、飯を食いながらでも見れると思っていたのに。予想以上に気持ち悪い。こっちまで吐きそう。
たかがゆっくりと侮った結果がこれだよ。
「おりん、こいつ黙らしてくんね?」
「ごめんお兄さん、それはむりだね」
どうやら腐れいむは元々生きていたために、おりんのコントロールを離れて勝手に動き回っているらしい。
こいつを止めるには物理的に破壊する必要があるんだとか。
だがこんな気持ち悪いモノに触る気は俺には毛頭ない。それはおりんも一緒らしかった。
どうしよう。ほんの遊び心だったはずなのに、何でこんなことになってるんだ。
やっぱりメーカーの言うことは素直に聞くべきだったのだ。
「どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう・・・・・・あ」
思いついた。別に俺が触る必要はないじゃないか。
こいつは(今となっては、多分)ゆっくりなんだし、ゆっくりの問題はゆっくりで解決してもらおう。
ぶっちゃけた話、コンポストにでも捨てよう。
よしそれがいい。そうと決まれば早速、腐れいむをコンポスト送りにするために行動を起こす。
こいつを蘇らせようと考えた数分前の自分を恨みつつ、箱を持つ。
箱の中では腐れいむが「おそらをとんでるみたい」と聞き取れなくもない音と一緒に腐汁を吐き散らしていた。
やべ、すんげー臭い。本格的に気持ち悪くなってきた。泣きそう。
ダッシュでコンポストのある台所まで移動する。
途中ゆうかとすれ違ったが、腐臭に思いっきり顔をしかめ俺を睨んでいた。本当にスイマセン。
コンポストの前に立ち、蓋を開ける。
中にはゆっくりまりさが一匹か。
「やあまりさ!ずっと一人で寂しい思いをしてきた君にお友達をあげよう!」
「ゆっ!?ほんと!?ありが―――」
ほぼ涙目で宣言する俺。
まりさの言うことなんぞいちいち聞かずに、腐れいむを投下する。
あとでこの箱洗わないといけないな。
「ゆぎゃあああああああああああああああああああ!!!!ばげものおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「ユ゛ッ!!レ゛イム゛バゲモノジャナ゛イヨ゛!!」
絶叫するまりさ。そりゃそうだろうな。
空から腐乱死体が落ちてきて、しかもそれが動き出したなら誰だって驚く。
「じゃあ、まりさ。今日からそいつと一緒に暮らせよ。頑張ってね~」
「ゆ゛ぁっ!?まっでえええええええええええおにいざああああああああああああああん!!!」
「レ゛イム゛マ゛リザドイ゛ッジョー」
コンポストの蓋を閉める。
まだ中からまりさの絶叫が響いてくるが無視。いやあよかった。まりさも良い友達に恵まれたようだ。
本当に仲良く暮らすか共食いするかはまりさに決めてもらうとしよう。
それにしても酷い目にあった。
れいむに地獄を見せるつもりが、逆にこっちが痛い目を見てしまった。
やはり取扱説明書は偉大なものなんだなと再認識する。
大体おりんのゾンビ饅頭すら定期的に捨てさせているグロ耐性のない俺にはきついものだったのだ。
好奇心は猫をも殺す。全く以ってその通りだ。下手な好奇心なんかは持つものじゃない。
―――もう二度とこんな事しないよ。
その思いを胸に、俺は台所を後にした。
それから一週間後。
俺はまたゆっくりショップにいた。
目の前には新商品のゆっくりの移植用パーツ、「おめめ」。
注意書きにはこう書かれている。
※3つ以上付けると見た目がキモくなります。
超見てみてぇ。
前回の実験こそアレな結果で終わったが、今度は成功するはずだ。
百々目鬼ゆっくり。結構じゃないか。非常に面白そうだ。
そうと決まれば膳は急げ。「おめめ」を20セットほど買い、家へと直行する。
久しぶり(たった一週間だが)に感じたこの胸の高鳴り。
今度の実験体は誰がいいだろう?
れいむかまりさかありすか。ぱちゅりーもいいかもしれない。
目が2個以上あるという感覚は一体どんなものなのだろう。きっと楽しくなる。
黒い悦びを胸に、俺は走り続けていた。
―――ちなみに全くの余談だが。あのまりさと腐れいむの間に子供が出来たらしい。
その子供の見るもおぞましい姿に卒倒することになるのだが、それはまた別のお話。
おわり
―――――
新製品シリーズのそっくりれいむの説明を見た瞬間ついカッとして書きたくなった。
反省している。
あとグロ耐性のない俺にゾンビ描写とか不可能なのも思い知った。
最終更新:2009年04月16日 01:42