永遠のゆっくり1

※初めまして、最初で最後のゆっくり虐待に挑戦してみます。
※どくそ長いです。(十回超の予定)
※うんうん、まむまむ描写あり。
※標的は全員ゲスです。
※最初の数回は読者様のストレスをマッハにすることに腐心しています。
※虐待レベルはベリーハードを目指します。

※以上をご了承頂ける方のみどうぞ。


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『永遠のゆっくり』1


「おちびちゃんたち、じじいのあたまにしーしーしてね!
くそじじいにはもったいないけど、あんまりきたないから
しーしーできれいきれいしてあげるんだからね!ありがたくおもってね!」
「ちーちーしゅるよ!ちーちー!」
「ゆっ!くちょじじい、もっちょあちゃましゃげちぇね!
りぇいむのちーちーできりぇいにしちぇあげりゅ!」

額を床につけている俺の頭に、正面から横から、
赤れいむのしーしーがびたびたと打ちつけられる。
気持ちよさそうに震えながらしーしーをしている赤れいむは四匹。
土下座の姿勢では見えないが、俺の正面では、
一匹のゆっくりれいむが嘲笑を浮かべながらこちらを見ている。

「ゆゆ?じじい、さっきからだまりこくってどうしたの?
なにかいうことがあるんじゃないの?ばかなの?しぬの?」
「ば~きゃ!ば~きゃ!」
「ば~きゃ!ば~きゃ!」

親のれいむが罵るのを聞くと、すぐに赤れいむたちが口を合わせて合唱を始める。

「ばかなじじいはいわれなきゃわからないみたいだから、
しんせつなれいむがゆっくりおしえてあげるね!
きれいきれいしてもらったらおれいをいうんだよ!
さあ、いいこだからおちびちゃんたちにおれいをいってごらん?」

俺はしーしーの水たまりに頭を伏せたまま黙って体を震わせていた。
握り込んだ手のひらに爪が食い込む。

「どうしたの?いいたくないの?
それともばかだからおれいのしかたをしらないのかな?
いいこだからよくきいてね。
「ぐずでのろまの、きたないくそじじいに
しーしーをめぐんでくださってありがとうございます」っていうんだよ!」
「いうんだよ!」
「はやきゅいえ!ごみくじゅ!」

「…………」

「ゆ?どうしたの?いえないの?
ばかにはむずかしかったね。
だったらいいんだよ!おねえさんにおしえてもらおうね!」

「ぐ……」
歯茎から血が出るんじゃないかと思うほど震えている顎を
苦労してこじ開けながら、俺は絞り出した。
「ぐずで、のろまの…」

「おそいんだぜ!」

俺の後頭部を衝撃が襲う。
バスケットボール大の饅頭、ゆっくりまりさが飛び込んできたのだ。

「ちゃっちゃというんだぜくそじじい!
いちにちはみじかいんだぜ?ごはんとそうじがまってるんだぜ!
あさのしゃわーぐらいてばやくすませるんだぜ!」

後頭部で飛び跳ねられる度に、俺は顔面を床に打ちつける。
床に鼻血が滴る。
背中のほうでは、ソフトボール大の赤まりさたちが飛び乗り、
親に便乗して俺の上で飛び跳ねはじめている。

「はやきゅすりゅんだじぇ!」
「まりしゃしゃまたちはおなきゃしゅいたんだじぇ!」
「ごはん!ごはん!」

「ぐずでのろまの汚いクソ爺に、
しーしーを恵んでくださってありがとうございます」

「ゆはははは!
いったよ、ほんとにいったよこのじじい!」

親れいむが爆笑した。
それに合わせ、赤れいむ、まりさ親子、
そして奥のほうから眺めているありす親子が笑い出す。

「ほんのじょうだんだったのに、
ほんとにいうなんておもわなかったよ!じじいはばかだね!
それともほんとにうれしかったのかな?
おちびちゃんたちはやさしいから、たのめばまいにちしーしーくれるかもね!」

「ば~きゃ!ば~きゃ!」
「ば~きゃ!ば~きゃ!」

「おい、しーしーじじい!ごはんをよういするんだぜ!
まりささまのせわをさせてあげてるんだから、
ごみくずはかんしゃしてちゃっちゃとうごくんだぜ!はやくしろ!」

尻に親まりさの体当たりを受け、再び俺は床のしーしーに顔を打ちつけた。

「ば~きゃ!ば~きゃ!」
「ば~きゃ!ば~きゃ!」


話は二か月前に遡る。

「「ゆっくりしていってね!!」」

大学から帰ってきた俺を出迎えたのは、
居間の真ん中に転がる二つの饅頭だった。

部屋中は惨憺たる有様で、
あちこちひっくり返して見つけ出し食べ散らかした食べカスや、
排泄物らしき餡子、砂糖水、びりびりに破られてまき散らされた雑誌類などが
そこらじゅうにぶちまけられていた。
冷蔵庫も開けられ、中の食材がすべてやられているようだ。
カーテンは半ば引きちぎられ、ポットも炊飯器も倒され、
寝室から引きずり出された毛布が汚れを吸って無数の染みを作っている。

案の定、窓ガラスは割られて床にガラス片が四散していた。
ここはマンションの一階。
お定まりのパターンというやつで、
石を投げてガラスを割り、侵入してきたようだ。

その時、俺が部屋に帰ってくるのは三日ぶりだった。
友人が婚約したとかで、
その祝いでひとしきり飲み騒ぎ、外泊が続いたのだ。
その間中、このゆっくり二匹が部屋を蹂躙していたわけだ。

最近になって、俺の住むこの街でも
ゆっくりの被害が幾度となく取り沙汰されるようになった。
ゆっくりの数は全国で着々と増え続けているらしい。
被害に遭った知人の話を聞くにつけ、俺も対策しなければとは思いつつ、
もう少し後でいいだろうとたかをくくり、ずるずると先延ばしにしていた。
きちんと対策していれば。思い起こすたび後悔で身をよじる。

侵入してきたのは、ゆっくりまりさとれいむの番いだった。
野良のゆっくりらしく、二匹はひどく汚かった。
成体になりたてのようで、大きさは共にバスケットボール大。
全身にこびりついた土の汚れが、そのまま部屋中に足跡を残している。

「ゆ!ここはまりさのゆっくりぷれいすだよ!!」
「にんげんさんはたべものをもってきて、ゆっくりしないででていってね!!」

さっさと追い返せばすむ話だった。
だが、この時はさらに不幸が重なっていた。

「きゃあ、可愛い~!!」

恋人の由香を同伴していたのだ。
友人との飲み会でもずっと一緒に騒いでいた。
騒ぎ疲れてこの家に帰ってきて、ついでに一戦交えるつもりもあったが、
ゆっくりに水を差された形になった。
悪いことに、由香は筋金入りのゆっくり愛好家だった。

「かっわいいわあ~。すーり、すーりっ」
「ゆゆっ!おねえさんなにしてるんだぜ!?」

小汚いゆっくり二匹を両方抱え上げ、頬ずりを始めた。

「ゆ、ゆっくりやめてね……すーり、すーり♪」
「まりささまのびはだによいしれてるんだぜ!」

ゆっくりの方もまんざらではなさそうだ。

「お、おねえさん!まりささまはおなかがすいてるんだぜ。
とっととたべものをもってくるんだぜ!!」

まりさの方が早くもしびれを切らし、食事を要求してきた。

「あ、ごめんね!」

由香がゆっくり共を床に下ろし、周囲を見渡した。
しかし部屋の様子はすでに記述した通りである。
仕方なしに由香は立ち上がった。

「ちょっと待っててね。食べ物持ってくるからね」
「ゆゆっ、さっさとするんだぜ!
ぐずにいきるかちはないんだぜ!!」

まりさの方はゲスなんじゃないか、と思っている俺に由香が言う。

「コンビニ行こ!」

この部屋の様子を見て、部屋の主を目の前にして
なんで呑気にそんな事が言えるのか。
由香も承知の上らしく、俺の反論を封じるように
腕を引いて外へぐいぐい引っ張っていく。

「とっととするんだぜ!!」

背中から苛立たしい声が聞こえてきた。


「なに考えてるんだよ!?」
「ごめん、圭一!」

圭一は俺の名である。
部屋からある程度離れた路上で、由香は俺に手を合わせた。

「あんまり可愛いものだからつい……」
「どこが!?」
「全部!」

由香のゆっくり愛好ぶりはただごとではなかった。
ゆっくり愛護会だかなんだかの会員である。
携帯電話にはゆっくりキーホルダーがごちゃりとぶら下がり、
ゆっくりバッグの中には他にもゆっくりグッズが満載だ。
いつもゆっくりショップの前を通るたびに立ち止まり、
陳列されているゆっくり共を前にため息をついている。
俺には苛立たしいだけなのだが、
彼女の目には天使のように映っているらしい。

「ね、飼お!」
「はあ!?」

えらいことを言い出した。
あんなゲス(俺の中では決定)は一刻も早く追い出したいのだが。

「人間の手がついちゃったゆっくりより、
野生のゆっくりとお友達になりたかったの」
「あんな尊大な奴らと?おかしいんじゃないか?」
「おかしいのは自分でもわかってる。
でも、あのわがままさがたまんない……わかってもらえないと思うけど」

このあたりが筋金入りなのだ。
そこらにいる半端なゆっくり愛好家なら、
人の手でしつけられたゆっくりを愛護し、ゆっくりショップを利用する。
野生のゆっくりと付き合うほどの忍耐力を持つ者はそうはいない。
しかし、あのゆっくりならではの傍若無人ぶりをこそ愛する
本物の愛好家が稀にいる。
俺に言わせれば物好き、あるいはキワモノ好きだが。

「お前の家で飼ったら?」
「だめ。うちはもうゆっくりでいっぱいだし、
飼いゆっくりと野生のゆっくりを一緒に置いておくと
喧嘩になったりするらしいの」

由香の家族もゆっくり愛好家で、
家に何十匹のゆっくりを飼っていた。
由香の家庭についてはあとで触れる。
由香は飼いゆっくりは十二分に堪能できているはずだが、
野生のゆっくりと触れ合いたい欲求もあったようだ。
つくづくマニアである。

「あたしも毎日通ってお世話するから、お願い!」

俄然、揺れた。
ここまで読まれた方にはとんだ我儘女に見えたかもしれないが、
由香は本当にいい女なのだ。
可愛く美人、スタイルもよくて理知的だ。
飲み会でも出しゃばらず、いろんなところによく気が回る。
そして家が金持ち。
いつも周囲の友人に羨まれる、極上の女であった。

その彼女の唯一の欠点が、病的なほどのゆっくり好きという点だ。
それでも俺にとっては、
ひとつぐらい欠点があったほうが安心するぐらいのもので、
そこも含めて愛する気満々だった。

俺の家で飼いたい、というのにはさすがに躊躇したが、
家に毎日来てくれるという。
ゆっくりを餌にすれば、いつでも家に連れ込める。
これはなんとも魅力的だった。

結局、俺は首を縦に振ることになった。
ちゃんと世話しろよ、と釘を刺しつつ。

「やった、ありがと!圭一大好き!」

俺の肩に飛びつき、熱烈なキッスを浴びる。
たまに見せるこういうところが可愛い女なのだ。


「ゆっくりおそいんだぜ!!おねえさんはぐずだね!」
「ごめーん」
「ゆ、さっさとたべものをおいてでていくんだぜ!」

由香はゆっくりに詫びると、
コンビニで買ってきたプリンの蓋を開けてゆっくり共の前に置いた。
ゆっくり共はわき目も振らずにプリンに突進し、容器を突き倒した。
床にぶちまけられたプリンにゆっくり共は顔を突っ込み、
涎やらプリンやらをまき散らしながらむさぼり食う。

「うっめ!!これむっちゃうっめ、まじうっめ!ぱねぇ!!」
「むーちゃ、むーちゃ……ししししあわせえぇぇ!!」

感涙しながら食べ尽くしたまりさとれいむは、
顎の下にあるあにゃるを突き出していきみ始めた。

「うんうんするのぜ!」
「うんうんするよ!」

たらふく食べて満足したあとは、排泄である。
俺の部屋の床に、二匹のゆっくりはうんうんをひり出した。

「ゆっ!にんげんさんはまりささまのうんうんをそうじするんだぜ!!
さっさとするんだぜ!!」
「おぉ、くさいくさい。ゆっくりしないでかたづけてね!!」

臭いうんうんの前から自分は一歩も動こうとせず、
片付けるように命令してきたゆっくり共。
由香は文句も言わず、にこやかにティッシュにくるんで捨てた。

「ゆっくりできた?」
「まりさはゆっくりしてるのぜ!!」
「れいむはとってもゆっくりしてるよ!!」

由香の質問に答えるまりさとれいむ。

「よかった。これからもここでゆっくりしていってね」
「ゆ?あたりまえなんだぜ!!
ここはまりささまのゆっくりぷれいすなんだぜ?」
「あ、ごめん。そうだったね」
「ごはんはたべたからにんげんさんにようはないんだぜ!!
とっととでていくんだぜ!!」
「あ、あたしたちもここでゆっくりさせて!」

手を合わせてお願いしはじめる由香。
ゆっくり相手にこんなことをする人間は他にいるまい。

「ゆゆ?なにいってるんだぜ?おねえさんはばかなんだぜ?
やくにたたないくずをおいておくよゆうはないんだぜ!!」

これだけ広い部屋を、饅頭二匹で占拠するつもりらしい。

「そろーり、そろーり」
まりさの背後に、れいむが大声で何か言いながら近寄る。
そして耳打ちした。
「まりさ、ちょっとこっちにきて!」
「ゆっ!なんだぜれいむ!ばかなにんげんをいまおいだすところなんだぜ!」

そう言いながられいむに促され、まりさはこちらから離れていった。
俺たちから離れていくと、二人はこちらに背を向けながら相談を始める。

「ひそひそ、これくらいはなれれば
ばかなにんげんさんたちにきこえないよ!」

1メートルしか離れていない。
当然丸聞こえであるが、まりさは気づく様子がない。

「ばかなにんげんにきかれてこまることなんてないんだぜ?」
「まりさ、よくきいて!このにんげんさんたちはたべものをもってるよ!
まりさがかりにいかなくてもこいつらにもってこさせれば、
このゆっくりぷれいすでずっとゆっくりできるよ!」
「ゆ!めいあんなんだぜ!!
まりさがちょっとおどしてやれば、
にんげんどもはばかだからいくらでもごはんをさしだすんだぜ!!」
「まりさ、むちだけじゃだめだよ!
あめとむちをじょうずにつかいわけて、にんげんたちをしつけるんだよ。
こんきよくがんばれば、にんげんだってきっとやくにたつよ!」
「れいむはあまいね!でもわかったんだぜ。
いかさずころさず、なるべくながいあいだつかってやるんだぜ!!」

そんな会話を、由香はニコニコしながら聞いていた。
俺のほうは、聞いていて気分のいいものではなかったが、
ゆっくりの馬鹿さ加減はよく知っていたし、
あとで躾けてやればいいだろうぐらいにその時は考えていた。

「おねえさんたち、よくきくんだぜ!!」

密談らしきものを終え、まりさがこちらに向かって声をはりあげた。

「まりさたちのゆっくりぷれいすにいたかったら、
まいにちまりさたちにごはんをもってくるんだぜ!
そうじもするなら、とくべつにここでゆっくりさせてあげるんだぜ!」
「やったあ、よろしくね!」

大げさに喜んでみせる由香。
話を合わせて、このゲスぶりを堪能するつもりらしい。
ゆっくり愛好家を称する人間は多いが、
ゲスをすら楽しむほどの物好きは、
日本中探しても五人もいないのではなかろうか。

その日から、ゆっくり共との生活は始まった。


二匹のゆっくりは部屋の中で傍若無人に振舞った。

「まりささまにごはんをもってくるんだぜ!!」
「かわいいれいむにあまあまをちょうだいね!!」

腹が減ればいつでもどこでもわめき出す。

「ゆっくりうんうんするのぜ!!」
「しーしーするよ!!」

うんうんとしーしーも、気が向いたときに垂れ流し、
それが終わると俺たちを呼びつけて片付けさせた。

「それはなんだぜ!?まりささまにさっさとよこすのぜ!!
ここのものはぜんぶまりささまのものなんだぜ!!」

ちょっと興味が沸くと、すぐに俺たちが持っているものを差し出させた。
勉強中には鉛筆を奪われる、掃除をしていれば掃除機を奪われる。
そのうち飽きて放り出すからまだいいが、
何をするにも中断させられるはめになり、邪魔でしょうがない。

「ゆ~♪ゆ~♪ゆっゆ~♪ゆゆゆゆゆ~♪」

突然大声で歌い出すのでうるさくてかなわない。

「ゆぁああああ!!なんだぜこれぇえええ!!?」
「おにいさあああん!!はやくきてかわいいれいむをたすけてねぇえええ!!」

慣れない家の中で勝手に動き回るものだから、
本の山に押しつぶされたりそのへんの隙間に挟まったりして、
しょっちゅう俺たちを呼びつけた。

「おそすぎるんだぜ!!もたもたなにしてたんだぜぇええ!?
やくにたたないにんげんはごみくずなんだぜぇ!!」
「なんでもっとはやくたすけないのおおぉ!?
かわいいれいむがくるしんでてもへいきなの!?ばかなの!?しぬの!?」

助けてやったところで、礼を言われたことは一度もない。
何度となく叩きつぶしたくなったが、その度に由香に止められた。

「この子たちは好きにさせてあげて、ホントにごめん!」

その可愛い顔のために、俺は耐えつづけた。
もともと俺は、愛護派でも虐待派でもなく、ゆっくりに興味はなかった。
思い入れがないぶん、ただの饅頭の言うことだと聞き流し、
まじめに取り合うことなく一歩引いて接することができていた。
とはいえ、それでも我ながらたいした忍耐力だったと思う。
結局、おれも変人だったのかもしれない。

ゆっくりという生物は、甘やかせばどこまでもつけあがる。
後日、このゆっくり達の存在は日本中に知れ渡るのだが、
そのつけ上がり具合に、誰もが驚愕することになる。
よくもそこまで、殺さずにつけ上がらせつづけたものだと。


ある日、由香が祖父を伴って俺の住むアパートにやってきた。

「やあ、圭一くん。こんにちは」
「こ、こんにちは。おじい……長浜さん」

この老紳士、長浜氏は政財界では名の通った名士である。
建築業の重鎮で、大企業長浜建設の名誉会長を務めると同時に、
多くの著作をものした社会学者でもある。
すでに述べたように、恋人の由香の祖父であり、
可愛い孫の恋人である俺の動向にさりげなく目を光らせている人だ。
お祖父さん、と一瞬呼びかけた俺に対する視線が一瞬きらりと光ったのは気のせいではあるまい。

人当りがよく、理知的な人であり、俺との関係もひとまず良好だ。
安アパート住まいとはいえ、自分で言うのもなんだが、
俺が国立有名大学に通い、トップクラスの成績をマークしてそれなりに優秀なことも大きいだろう。
これほどの人だから、孫の相手には、
トップクラスと言わず首席級の男をと言いだしても不思議はないが、
そこは孫の意思を尊重してくれている。
漫画に出てくるような偏屈爺とは違う、ごく普通に良識的な紳士というわけだ。
とはいえ、やはり会うたびに緊張してしまう。

「どうぞ、何のおかまいもできなくて」
「いやいやいや、こちらこそ。急に押しかけてすみませんでした」

若輩の俺に対しても、長浜氏は礼儀正しく頭を下げる。

「孫の話を聞きましてな。ぜひ見せていただきたいと思いました」

そう言い、長浜氏はさっきから喚いているゆっくり共のほうを見た。

「おじいさんはゆっくりできるひと?
かわいいれいむにあまあまをちょうだいね!!はやくちょうだいね!!
きこえないの?ばかなの?ばかなにんげんさんなの?」
「くちょじじい!!さっさとあまあまをよこすんだぜ!!
よこしたらまりさのゆっくりぷれいすからでていくんだぜ!!」
「これはこれは……」

長浜氏は目を細めて笑い、懐から飴玉を取り出すとゆっくり共に投げ与えた。
わき目もふらずに飴玉に食いつくゆっくりを見届け、彼は俺に向きなおった。

「いやはや、大したものですな」
「いや、どうも毎日大変で……まあ」

挨拶を交わしながらソファを勧めようとしたが、
ゆっくり共のうんうんやしーしーで汚れきり、とても人を座らせられる状態ではない。
来るとわかっていればせめて洗濯していたのだが。

床にありあわせの座布団を敷き、座ってもらう。
それまでのやりとりで大体の事情はわかったが、一応話を聞くと、
孫がゆっくりを全力でゆっくりさせることに挑戦していると聞き、興味を抱いたらしい。

この長浜氏、やはり非常なゆっくり愛護派である。
大きなゆっくり愛護団体の会長をも務めるほどで、
日々ゆっくりを苦しめる虐待派のふるまいに心を痛め、ゆっくり愛護を市井に呼びかける一方、
都市部に繁殖するゆっくりへの対処問題に腐心している。
由香の住む家は長浜氏所有の邸宅であり、
家族ぐるみでゆっくりと付き合っているのはこの人の影響によるものだ。

「ね、とっても可愛いでしょ!!」
「いやはや……こら、じいちゃんは圭一くんと話してるんだ。
ちょっと静かにしていなさい」

孫娘に飛びつかれ、やや困り顔ながらもこぼれる笑みを抑えられないようだ。
しかし由香を引き離すと、改めて俺に向きなおると、深々と頭を下げた。

「このたびは、孫娘のわがままでまことにご迷惑をおかけしとります」
「あ、いえいえいえ!」

予想外の成り行きに慌ててしまう。
まさか俺ごときが、この人に頭を下げられるなんて思っていなかった。

「我儘放題なゆっくりの言うことを聞き続け、自由にさせる。
なんと馬鹿なことをと、わしは説得しました。
わし自身、なんとも困ったゆっくり狂いという悪癖を持っておりますが、
それでもわがまま放題にさせるなんてことは、
人間にとってもゆっくりにとってもためにならん。
それぐらいはわきまえとるつもりです」
「……はい」
「しかし、こやつは言うのですな。
人間の都合でゆっくりを飼う、いや、飼わせてもらっている。
だから、人間は全力でゆっくりをゆっくりさせる義務があるのだと。
わしは……返答に困りましたわい」
「ですが……人間の社会で生きていくんだったら」
「もちろん、そうです。
ここで生きるならここのルールを教えるのがゆっくりのためだ、
そんな御託はいくらでも並べられますし、正論です。
しかし、それでも、わしは答えられませんでしたわ。
確かに、わしらは飼わせてもらっておる。ここで生きることを強要したのはわしらだ。
強要しておいて、そのための忍従を強いるのは、やはり横暴でしょう。
ゆっくり狂いの馬鹿な戯言とお思いでしょうがな」
「…………」

答えられなかった。
事実、そう思っていたからだ。
良識ある人かと思っていたが、子供じみたセンチメンタリストなのか。

「甘やかされきったゆっくりの行き着く末路は、もちろん想像がつきます。
しかし、こやつは全力でゆっくり達を守るという。
圭一くんも協力してくれるからと。
それなら、一度、やってみる手かもしれんと思いました。
無茶な実験をするようですが、これもまた、ゆっくり研究の一環ではありましょう。
なにしろ愛護者でさえ、そんな事をやり通した者はほとんど聞きませんからな。
ゆっくりのわがままにとことん付き合うのは非常に、非常に骨の折れる話です。
それに挑戦してみることは、ある意味、こやつの為になるかもしれんです」

長浜氏はそこで、再び居住まいを正して、俺にふかぶかと頭を下げた。

「どうか、孫娘に付き合ってやってはくださらんか。
ゆっくり馬鹿、孫馬鹿の耄碌爺の戯言ではありますが、聞いて下されませんか」

一瞬、慌てながらも言葉に詰まった。
少々意外だったからだ。
良識と常識ある人かと思っていたが、孫娘のこんな暴挙、
しかも他人である俺を巻き込んだ暴挙、止めるのが普通というものだろう。
しかしこの人は、他人の俺に、我慢して共に耐え忍んでくれという。
ずいぶんと非常識な願いと思わざるをえない。
いや、一応、結婚すれば他人ではなくなるのだが……

あ。
そうか。

俺はそこで、老人の目論見がわかった。

この人は俺を試しているのだ。
可愛い孫娘の恋人、あるいは夫として、俺がふさわしい男かどうか。
甘やかされて育った娘を受け入れられる忍耐強い男かどうか、
このゆっくり共を試金石にして確かめようというのだろう。
確かに、忍耐力を試すのにゆっくりほどお誂え向きの存在もない。
また、由香の家族と付き合うのならば、ゆっくりとの付き合いもできたほうが断然いい。
そういう方向でも試す目論見がありそうだ。

そういうことならば、迷う理由はない。
あなたの孫娘を任せられる男であることを、見事証明してみせようではないですか。
俺は笑うと、力強く言い放った。

「万事お任せください」

頭を上げ、俺の表情を確かめた長浜氏は、満足げに目を細めた。


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最終更新:2011年07月30日 01:59
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