ゆっくりいじめ系2394 ずっとゆっくりするんだよ(前編)

罪のない野生ゆっくりが大勢アレされてしまいます



  ずっとゆっくりするんだよ  作:YT



 流水でえぐれた林道をゴトゴトと走ってきた軽トラックが、森のとっつきで止まった。
 車体には、専門業者特有の愛想のない書体で「㈲森浄サービス」と書かれている。
 長袖の作業服を着てブーツを履き、帽子をかぶった人影が降り立つ。男と女だ。
 すると、近くの熊笹の茂みの下から声がした。
「ゆゆっ、何かきたんだぜ!」
「じどうしゃだよ! にんげんさんがきたんだよ!」
「ゆっくり! にんげんさんはゆっくりできないよ、はやくにげるよ!」
「ゆっくち にげりゅよ!」
 そしてガサガサという音が遠ざかっていた。
 ポニーテールの若い女が目を輝かせて言った。
「さっそくのお出迎えですね。いっぱいいるんでしょうか?」
 それより一回りほど年上の男が、無愛想に言った。
「いるからおれたちが呼ばれたんだ。仕事始めるぞ」
「つまんないですねえ、主任って」
「まあ今のうちにはしゃいどけ、ヤマベ」
 二人は荷物を満載した軽トラの荷台から、まずはロールに巻いたネットを下ろした。
 緑色のナイロン繊維を編んだ網で、幅は四十センチ、網目が十センチぐらいある。
 新米らしい、ヤマベと呼ばれた女が尋ねた。
「これ、網目が粗くありませんか?」
「別に」
「でもこれだと、赤ゆっくりが出ちゃうじゃないですか」
「その網を通れるぐらい小さな赤ゆっくりは、もともと親から離れようとせんよ。もうちょっと育って子ゆっくりになると自活できるが、その網は通れなくなる」
「ああ、なるほど」
 ヤマベは納得してうなずいた。それならなら、この網でゆっくりの分散を防げるだろう。
「図面持ったか?」
「はい」
「コンパスと無線と笛は」
「あっ、笛忘れた」
「忘れるな。じゃ俺はこっち回るから、そっちを頼むぞ」
 主任と呼ばれた男は、手近の木にネットの一端を結びつけると、ぐるぐるとそれを伸ばしながらクマザサの中に入っていった。
 ヤマベも同じように、逆方向へ向かってネットを張り始めた。
 十メートルほど置きに木に結びつけ、網を立ててゆく。下端は杭となっているので、地面に刺していく。
 高さ五十センチほどの簡便な壁が、みるみる伸びていった。
 ネットを伸ばしつくすとトラックに戻り、次のロールを運び出した。
「ふう、こりゃなかなか大変だわ……」
 ヤマベが額の汗を拭っていると、近くのしげみから、声をかけられた。
「ゆっくりちていってね!」
 そちらを見ると、拳ほどの大きさの子ゆっくりが興味しんしんで眺めていた。
 ヤマベは会社で受けた教育を思い出した。「その時」が来るまでは愛想良くすること。
「ゆっくりしていってね!」
 にっこり笑ってひらひらと手を振った。
 すると子ゆっくりの陰からぞろぞろとゆっくり一家が出てきた。
 母れいむと父まりさ、双方の子ゆっくりが数匹というポピュラーな家族だ。
 かのゆっくりたちは疑わしそうな目で尋ねた。
「おねえさんはゆっくりできる人?」
「どうしてかべさんをつくってるの?」
 それに対する答え方もヤマベは習っていた。
「ええとね、この近くでキツネがたくさん出たのよ。キツネは知ってる?」
「ゆゆ、キツネさん! キツネさんはゆっくりできないよ!」
「とってもこわいどうぶつだよ! たべられちゃうよ!」
「たべられちゃうの? きょわいよおお!」
 一言でおびえ出したゆっくりたちに、ヤマベは笑って教えてやった。
「大丈夫よ、キツネが入らないようにするために網を張っているんだから」
「ゆうっ! あみってなあに?」
「この緑色のよ。キツネを防ぐためのものだから壊さないでね」
「あみさんがキツネさんをとめてくれるんだね!」
「おねえさんはやさしい人なの?」
「そうだよ、ゆっくりを守りにきたのよ」
「ゆっくりりかいしたよ! おねえさん、あみさんを張ってくれてありがとう!」
 ゆっくり一家は喜んで、すっかり打ち解けた態度になった。
 ヤマベはほっとしつつ、さらにポケットから飴の袋を出して、人数分与えた。
「わたしはヤマベっていうのよ。仲良くしてね、ゆっくりたち」
「おねえさんはヤマベさんなんだね! ゆっくりしていってね!」
 ゆっくりたちが喜び、ヤマベのブーツに次々と頬をこすりつけた。

 ヤマベがトラックに戻って主任に話すと、主任は渋面で煙草に火をつけた。
「名前を教えるなって講習で聞いただろうが」
「あっ……」
「もう手遅れだろうがな。ゆっくりの間じゃ噂はあっという間だ。
 まあ乗れ、今日は上がりだ」
「しまったなー」
 ヤマベは頭をかきつつも、まあそれぐらいいいか、と考えていた。

 二人は地図を片手に網を張り続け、五日で森全体を囲み終えた。
 使った網は四十メートルが三十二ロール。森の差し渡しが四百メートルほどだったことになる。
 森としては小さなものだが、ヤマベは疲労困憊していた。
「四百メートルをナメてました。かなりキツかったっす」
「東京ドームグラウンドの四倍以上の面積だぞ。キツいに決まってる」
 六日目からは別の荷物を積んできた。タブレット型のGPSマッパーと、大量の飴である。
 二人はそれを持って森に入った。例によって主任は「おまえあっちな」と指示しただけで去っていった。
 ヤマベは森の中を進み、適当なところで声をかけた。
「ゆっくりしていってね!」
「……ゆっくりしていってね!」
 ほんの数メートル先のクヌギの陰から声がした。回り込むと、ゆっくり家族がいた。
 初日に見たものと同じかどうかわからなかったが、構わずヤマベは声をかけた。
「ゆっくりしていってね! あのね、おねえさんに君たちのおうちを教えてくれないかな」
「ゆゆっ!? にんげんさんにおうちをおしえちゃいけないって、おかあさんがいってたよ!」
「それは悪い人間さんよ。私は悪い人じゃないからいいのよ。ほら、その証拠に、アメあげる」
「ゆ、あめ? あめってなあに? ……ぺーろぺーろ、ゆゆゆゆゆしあわせぇー!」
 ヤマベの飴を口に入れた途端、ゆっくりたちは派手に顔を輝かせて幸福に酔い痴れた。
「こんなにおいしいあまあまははじめてだよ!」
「ゆ! そういえば枯れ木のれいむたちが、ヤマベさんにあめさんをもらったっていってたよ!」
「おねえさんはヤマベさんなんだね!」
「ええそうよ、だからおうちを教えてね」
「ゆっくりりかいしたよ!」
 二頭は何の警戒もなくヤマベを案内して、二十メートルほど離れた倒木の陰の巣穴を教えた。
「ここがおうちなのね? わぁー、すてきなところね。二人だけ? そうなの。君たちは何歳?」
 ヤマベはGPSマップの画面をスタイラスでつついて、種別、頭数、年齢などを手早く書き込んだ。
「あなたたちは気持ちのいい、親切なゆっくりたちね。とってもゆっくりしているわ」
「ゆふふ~ん、れいむたちはにんきものなんだよ!」
「そうでしょうね。お友達がたくさんいそう。私にも紹介してくれない?」
「ゆっくり! それじゃついてきてね!」
 ヤマベはゆっくりからゆっくりへと紹介を受けて、芋づる式に次々と巣を突き止めていった。
「この辺にはたくさんゆっくりがいるのねえ。食べ物は足りてるの?」
「だいじょうぶだよ! まりさがたくさんごはんの木をしっているんだよ!」
「へえー、まりさ、それはどこなの?」
「ゆゆぅ……ごはんのばしょは秘密なんだぜ……」
 まりさは初めて言い渋ったが、ヤマベは彼女を抱き上げて物陰へ連れていき、
「あなたは今までに見た中で一番立派なまりさだわ。とっても狩りがうまいんでしょ?」
「ゆゆっ? ゆうんん、それほどでも……あるんだぜ?」
「そうなんだ、じゃあ一ヵ所ぐらい教えてくれてもいいんじゃない? まりさならすぐに新しい場所をみつけられるわ」
 おだて揚げるとまりさはすぐに得意げになって、秘密の場所、と称する果実の木やきのこの生える箇所を示した。
 ヤマベはそれも詳細にマップに書き込んでいった。
 夕方軽トラックへ戻ると、タブレットを主任に見せながら報告した。
「けっこう多いですよ、ここは。今日だけで巣穴が二十二箇所見つかりました。
 うち、れいむ種だけでも親が六頭、夫婦者が八頭、同居の子や赤ん坊は二十四頭もいました」
「どれ。……R三十八、M三十四、A二十二、P八? それにCやRaやMyも豊富と来たか。これ全部、一群か?」
「ぱちゅりー種が三頭体制で面倒を見ていました。いえ、ドスはいないみたいですが」
「別にDのあるなしはどうでもいい。しかし多いな」
 主任は縮尺をいじって表示範囲を広げ、自分が集めてきたデータをインポートした。ヤマベは息を呑む。
「すごいじゃないですか。そっちは三つも群れを?」
「俺もこの仕事長いからな。明日コツを教えてやるよ。
 よし、おまえんとこの群れがP1な。こっちはR1、R2、A1とする」
 主任はゆっくりをイニシャルで呼び、頑なに種族名で呼ぼうとしなかったが、腕は確かだった。
 翌日、ヤマベは彼に同行して、その仕事振りを始めて目の当たりにし、驚いた。
「そうかそうかー、ちぇんはとっても足が速いんだね! すごいねえ!」
「そうだよー! ちぇんは森で一番はやいんだよー?」
「わかるわかる。ちぇんは速くて可愛いんだね!
 ひょっとして、夕方までにお隣の群れのみんなを呼んでこられるかな?」
「ゆゆっ、そんなのらくしょうだよー! そのはんぶんでいってこれるよー!」
 ちぇんが勢いよくぴょんぴょんと飛び去ると主任は振り向いたが、ヤマベを見て妙な顔になった。
「なんだその鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔」
「どこの愛護家かと思いました。さっきのデレデレな可愛がりっぷり」
「仕事だ」
 主任は眼鏡を指で押さえてぶっきらぼうに言った。
 まず足の速い伝令役のちぇんを口説き落とすと、その後の展開がずっと楽になるということをヤマベは学んだ。
 木々と下ばえが生い茂り、落ち葉に覆われた枯れ川や沼や泉の点在する森の中は、四百メートルという数字以上に広く、複雑だった。
 二人は何日もかけて森中の巣を見つけ、ゆっくりをカウントしていった。
「北東地区、今日はP15、P16とR9の三つの群れを見つけました。もうじき終わりそうです」
「おまえ、センターのあたりが手薄だったろう。あの辺は俺もやってないから、明日はまた合同だ」
 二人はまた森の中の餌場を調べ上げ、植物や動物の生育状況を調べた。
「餌場は全部で四十五箇所でした。重複を削ったらやや減ると思います。
 植物ではイチゴやキノコなどの目立つものはすでに消滅寸前、
 ワラビ、ゼンマイ、ユリ根、セリなどの山菜類もかなり採集困難な状況でした。
 動物は樹上のリスなどを除いていません。鳥類も見当たりません。昆虫類が減少しているためでしょうね。
 それから、巣穴掘りや跳行による表土の荒れも目立っています。いずれ土砂の流出につながるでしょう」
「煮詰まってんなあ」
「ゆっくりたち自身も危機を自覚しているようです。食べ物が少ないよ、とこぼしていましたから……」
「それは自覚じゃなくて、ただの愚痴だ」
 主任は煙草をふかしながらむっつりと言い、尻ポケットからICレコーダーを引き出した。
「P7の群れの会議とやらを録音してきた。聞くか?」
 ヤマベはうなずき、再生した。
「ぱちゅりー、たべものがすくないよ! おなかがすいて、ゆっくりできないよ!」
「どうしたらいいか、ゆっくりかんがえてね!」
「むきゅう……そうだわ、お隣のありすのむれが、昨日みなみへ引っ越していったわ。
 お隣があいたから、ゆっくりそちらへうつりましょう」
「ゆっくり!」
「ゆっくりひっこそうね!」
「むーちゃむーちゃできりゅね!」
「でも、ありすたちは食べ物がなくなったっていってたよ?」
「ゆゆん、ありすはかりがへただからだよ! まりさならたっぷり食べ物をみつけてやるんだぜ!」
「ゆうー、まりさはたのもしいよ! ゆっくりさがそうね!」
 ヤマベはスイッチを切り、暗い顔で言った。
「崩壊目前じゃないですか」
「そうだ」
 うなずくと、主任は煙草を携帯灰皿に押し込んで立ち上がった。
「だから、急がなけりゃな。ああ、それと」
「はい?」
 立ち去ろうとしたヤマベに、主任は指を向けて言った。
「リリース体は俺が選ぶからな」
「えっ……なんでですか!?」
 ヤマベがショックを受けた顔をした。主任は首を横に振った。
「当ててやろうか。おまえ、初日に出会った一家をリリースしてやろうと思っているだろ」
「は……い」
 図星だったので、ヤマベは動揺した。主任がため息をついた。
「それではだめだ。無作為抽出するんだから。俺がやる」
「……はい」
 駆け出しに過ぎないヤマベは、うなずくしかなかった。

 ヤマベはその日、なじみの群れを避けて別の群れへ向かった。そこで出会ったゆっくりたちに飴を与え、しばし歓談を楽しんだ。
「ヤマベさん、ヤマベさん!」
「なあに、まりさ」
「この辺りはずいぶんごはんが減っちゃったのぜ! まりさは旅に出たいのぜ!」
「そう、まりさは勇敢ね」
「ゆっふん! その通りだぜ! でも、あみさんがじゃまだからどけてほしいのぜ!」
「ごめんね、まりさ。それはだめなのよ。外にはまだ狐さんがいっぱいいるの」
「ゆううう……」
 憮然とするまりさの後ろから、ぴょこ、ぴょこっ、と三匹ほどの子供が顔を出す。
 丸くて愛らしい赤まりさが一匹と、赤ちぇんが二匹だ。
 まだその子たちの食べ物を削るほど深刻ではないらしく、つやつやと頬を光らせている。
「おねーしゃん、ゆっくち!」
「ゆっくちちていってね!」
「わかりゅよー! ゆっくち、ゆっくち!」
 ぽいん、ぽよんと赤ゆっくりたちは靴先に群がる。親まりさが目を細めて言った。
「ゆっくり、ゆっくり……。しんだちぇんの、わすれがたみなんだぜ。まりさのとってもゆっくりしたおちびたち」
「可愛いわね」
 ヤマベは、手を伸ばしてまりさの帽子を撫でた。使い込んだフェルトの毛羽立った感触が手に残る。
 一抱えもある黒帽子の周りを、ほんのクッキーほどの大きさの黒帽子と緑の頭巾が、ぴょんぴょんと跳ね回った。


後編

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最終更新:2009年03月29日 04:41
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