ゆっくりいじめ系2343 おまえはでいぶだ

ふたばネタ注意
うんしー注意



おまえはでいぶだ



作:慈絶院




「ゆ~」
「ゆゆ~」
「ゆっくり~」
大きな自然公園にて、たくさんのゆっくりたちが日向ぼっこをしていた。
公園のゆっくりは、普通の野良ゆっくりとは少し違った立ち位置にあった。
公園のゆっくりは基本的に人間を恐れない。
公園は憩いの場であり、人目も多いため、ゆっくり嫌いの人間もここでは大っぴらには虐待しないのだ。
それどころか、食べ物をくれたり可愛がってくれる人間も多かった。
なので公園のゆっくりたちは逃げ隠れせず、積極的に人間と関わろうとした。
といっても、露骨にお菓子を要求したりはしない。あくまで歌ったり踊ったりゆっくりしたりして可愛さをアピールするだけだ。
人間に迷惑をかけたら駆除されてしまう可能性があったからだ。
ゆん口にも気をつけなければならない。あまり増えすぎると間引かれてしまうからだ。
まったく危険がないわけではなかったが、都会の路地裏に比べれば格別に環境のいい棲家だった。
お行儀良くさえしていれば、人間に可愛がってもらえるし、もっとも運の良いゆっくりは拾ってもらえることすらある。
もちろん、すべてのゆっくりが公園に住めるわけではない。公園のゆっくりたちは小規模な群を作り、互いに掟を守らせた。
また、他所から来たゆっくりを受け入れるか否かも自分たちで審査した。
いわゆる“ゲス”を公園に住まわせたなら、公園のゆっくり全体に害が及びうるからだった。
公園のゆっくりはゲスな同族に神経質だった。



「ゆぅ?」
「ゆゆ?」
一人の人間がゆっくりたちの群に近づいてきた。
「ゆっくりしていってね!」
「にんげんさんゆっくりしていってね!」
「ゆっくりこんにちわ!」
「きょうはゆっくりしたおてんきですね!」
人間はゆっくりたちに側に屈みこんだ。にこやかに笑っている。
「ゆっくりしたきみたちにこれをあげよう」
そういって人間はお菓子をゆっくりたちに配った。
「ゆゆ! あまあまさんだよ!」
「にんげんさんありがとう!」
「ゆっくりたべるね!」
「むーしゃ! むーしゃ! しあわせー!」
「すごくゆっくりできるよ!」
ゆっくりたちは人間に感謝しつつ、美味しいお菓子を頬張った。
そんなゆっくりたちを、お菓子を与えた人間は微笑ましそうな表情で見回している。
ふと、人間の視線が一匹のゆっくりれいむの上で止まった。
そのれいむはお菓子を食べ終えて、幸せそうな表情で自分の口の周りを舐め回していた。
人間はそのれいむに腕を伸ばし、抱き上げた。
「おそらをとんでるみた~い!」
「れいむいいな~!」
他のゆっくりたちがうらやましがる。抱っこしてなでなでして可愛がってもらえるのだ。
もしかすると、拾ってもらえるのかもしれない。
人間はにこやかな表情で抱きかかえたれいむの目を見つめ、こう言った。
「おまえはでいぶだ」



「ゆ?」
少しの間、れいむは言われた言葉の意味がわからなかった。
うらやましがっていた他のゆっくりたちの表情は凍り付いている。
「おまえはでいぶだ!」
「ゆゆー!」
“でいぶ”、それはれいむの変異体とされ、低い知能と劣悪なゆん格を持つといわれる。
都会のゆっくりは人間の強さをよく知っていたため、普通はあまり無礼な態度をとらないように気をつけている。
だが、でいぶはまったくおかまいなしに、人間に対して傍若無人な態度を取り、迷惑をかけるという。
人間相手に“おうち宣言”すらするのだという。
しかし、れいむとでいぶを分ける明確な基準はない。ときにはゆっくり駆除、虐待のための方便に使われることもあった。
殺したゆっくりを「こいつはでいぶだった」と言い、なんらかの証拠を提出すれば、大抵はそれ以上追求されることなくでいぶ認定されたのだ。
いずれにせよ、れいむがでいぶと呼ばれたことは破滅を意味する。
「おまえはでいぶだ! ゲスゆっくりだ! 生きる価値のない腐れ饅頭だ! おまえはでいぶだ! おまえはでいぶだ!」
人間はさっきまでの優しげな様子とはうってかわって、厳しく激しい口調でれいむを罵倒する。
「れいむはれいむだよ! でいぶじゃ──ゆぎっ! ゆぎぎ……」
突然、れいむはすさまじい激痛に襲われた。餡の芯から響き渡るような猛烈な痛さだ。
あまりの痛さに叫び声も出せない。
「おまえはでいぶじゃないのか? おまえはれいむなのか? 言ってみろ! おまえはれいむなのか!?」
「でいぶだよ゛! でいぶだよ゛! でいぶばでいぶだよ゛!」
れいむは切羽詰って連呼したが、痺れるような痛みのせいでうまく呂律が回らなかった。
「ほらやっぱりでいぶじゃないか!」
「でいぶだよ゛! でいぶだよ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛! でいぶばでいぶじゃな゛い゛よ゛! でいぶな゛んだよ゛!」
仲間のゆっくりたちは急な事態の変化に、何もできずにおろおろと目配せしあっている。
ゆっくりたちからは、人間の指の間に仕込まれた針が見えなかった。──それには唐辛子エキスといくつかの薬を混ぜ合わせたものが塗られていた。
そのため、唐突に人間に詰問されたれいむがでいぶであることをカミングアウトしたとしか見えなかった。



「これだけゆっくりがいれば一匹ぐらいは腐った奴が紛れ込んでもおかしくないもんな!
どれ、他の人やゆっくりに迷惑がかからないようにちゃんと“印”をつけておこうか」
人間はなにかを指先につけてれいむの額をなぞった。そして、れいむを腕から解放して仲間たちの元に返した。
仲間たちは戻ってきたれいむを見て、慌てふためきれいむから後ずさった。
「どうしたのみんな! れいむはれいむだよ! れいむのおかおになにかついているの!」
「ふん、見せてやろう。おまえに刻まれた烙印をな」
人間は手鏡を取り出し、れいむに見せた。
ゆっくりは社会性の強い動物なので、大抵は鏡に映ったのが自分であることを認識できる。
特に鏡のありふれた都会ではそうだ。
「ゆゆー!」
れいむの額には“ゲス”と書かれていた。(都会のゆっくりの識字率は高い。ひらがなカタカナの単純な単語に限られるが)
「その烙印は決して消えないぞ。なぜならおまえはゲスだからだ! ゲスでいぶだからだ!」
「ぞんな……ぞんな……どぼじで……どぼじで……」



人間は立ち去って行った。
れいむはでいぶ認定されてしまったが、幸いにして制裁されることはなかった。
だが、仲間の態度は冷たかった。
明らかに距離をとり、ひそひそと囁き合い、れいむの方をちらちらと盗み見て、視線が合うと慌てて逸らした。
「みんな! れいむはれいむだよ! でいぶじゃないよ! ゲスじゃないよ! みんなのしってるれいむだよ!」
そのはずだった。そのことは仲間たちも知っている。
このれいむはゆっくりしたゆっくりだったはずだ。人間に迷惑をかけたことはなかったはずだ。
だが、実際に自分ででいぶだといい、しかも額にはゲスと書かれている。
れいむは必死になって額にかかれた文字を消そうとした。水で塗らして消そうとしたが、文字は消えない。にじみもしない。
このれいむはゲスであるとはっきり主張し続けていた。仲間たちもその様を見て、いよいよれいむから離れていった。
れいむは意を決して、額を石にこすり付けて傷つけようとした。皮ごと烙印を剥がそうというのだ。
「ゆぐっ! ゆぐぅ! ゆぎぎぃ! ぎえでぇ! ゆっぐりぎえでね!」
それはとても苦痛に満ちた行程だった。仲間たちも思わず目を逸らす。
それで、とりあえずは烙印を消すことが出来た。
仲間たちはれいむにある程度の距離をとり、ぎこちない態度を取り続けたが、あからさまに排除することはしなかった。



だが、数日もたたない内に剥がした皮は再生し、消えたはずの烙印も復活した。
「どぼじでぇぇぇぇぇぇぇ!!」
その不気味な様を見た他のゆっくりたちは、ここに至って完全にれいむを村八分にした。
これはれいむがでいぶである、ゲスであるという神様からのお告げとしか思えなかったのだ。
れいむは半狂乱になった。するとどういうことか、やたらと涎が垂れてくるようになった。
止めようと思っても止まらないのだ。れいむは不安に押しつぶされ、考えが他所に回らず、汚らしい格好のまま過ごすようになった。
ついに、公園のゆっくりたちはそんなれいむを見るに見かねて、公園から追放することを決定せざるを得なかった。
かつての仲間たちは暗に明に、「ゆっくりしないでさっさとこうえんをでていってね!」とれいむに迫った。
れいむは皆の非難の視線と言葉に耐えられなくなり、ある夜、ひっそりと公園を出て行った。
ゲスの烙印を背負って……。





「やあ、ゆっくりたち。きょうもゆっくりしているね」
「にんげんさんだ! ゆっくりしていってね!」
あのあまあまをくれた人間が再び、公園のゆっくりの群を訪れた。
多くのゆっくりは明るい声で人間を歓迎したが、一部のゆっくりはこの人間が仲間のれいむを追い出すきっかけになったことを思い出し、不安げな表情だ。
「ところであのでいぶはどうなったのかな?」
「ゆっ!」
人間が言ったのは、あの追い出されたれいむ、いやでいぶであることは明白だ。
「あいつはとんでもないゲスだったよな。なにか酷いことをされていないか? 大丈夫か?」
「……でいぶにはゆっくりおひっこししてもらったよ」
一匹のぱちゅりーが呟いた。
他のゆっくりたちも目を伏せ暗い表情をしている。
「そうか。ゲスを公園に住まわせておくわけにはいかないからな。おまえたちは正しいことをしたよ」
「ゆぅ……でも……」
「えらい。とてもえらい。とてもゆっくりしたゆっくりたちだ。きみたちにご褒美をあげよう」
「ゆゆー!」
人間はお菓子をばら撒いた。
それはとても甘い香りのする美味しいそうなお菓子だった。
お菓子を見ると塞ぎ込んだゆっくりたちの心も晴れた。人間が「正しいことをした」と褒めてくれたことも大きい。
「にんげんさんありがとう!」
「むーしゃ! むーしゃ! ……すごくしあわせー!」
「おいしいよ! このおかしすごくゆっくりしてるよ!」
「ゆぅぅん! ゆぅぅん! らめぇ! おいしすぎておかしくなっちゃう!」
「すごくっ! すごくぅ! あまあまだよ! あまあまのくいーんだよ!」
それはとても美味しいお菓子だった。
今までこんなに美味しいものを食べたことはなかった。
ゆっくりたちはお菓子に夢中になった。嫌なこともすべて忘れてしまった。
「気に入ってくれて良かった良かった。僕も嬉しいよ。それじゃあ今日はこのへんで」
「にんげんさんありがとう! ゆっくりまたきてね!」
「にんげんさんのおかげですごくゆっくりできるよ!」
「にんげんさんだいすき!」
ゆっくりたちは遠ざかる人間の背に向かって、いつまでも声をかけたり跳ねたりし続けた。



しばらくして、また人間が公園のゆっくりの元にやってきた。
「やさしいにんげんさんゆっくりしていってね!」
ゆっくりたちはこの人間の顔を完全に覚えた。
この人間はとても美味しいあまあまをくれるのだ。
「さあ、今日もあまあまをあげよう。一匹ずつあげよう」
そういって、人間はゆっくりを一匹ずつ抱き上げ、頭を優しく撫でて、手ずからお菓子を食べさせてくれた。
「ゆゆ~ん! なでなでくすぐったいよ!」
「あまあましあわせ~!」
「いいないいな~! ゆっくりはやくれいむのばんになってね!」
だが、お菓子を貰えたゆっくりたちの表情はそれほど幸せそうではなかった。
お菓子があまり美味しくなかったのだ。
不味いわけではない。だが、前にもらったあの特別なお菓子に比べればゴミと言わざるをえなかった。



「にんげんさん、まえのおかしはないのぜ?」
お菓子を貰った一匹のまりさが人間に尋ねた。
「まえのって? あああれか……あるけど」
「よかったらそっちをもらいたいんだぜ?」
「いいよ」
そういって人間は再びまりさを抱き上げた。
「ええ~! まりさずるいよ~!」
「とかいはなありすにもあのおかしをくださいね!」
ゆっくりたちから不満の声が上がる。とはいえ、あの美味しい方のお菓子もくれるというのだ。
ゆっくりたちは期待に心が弾んだ。
だが人間は、まりさを抱き上げるだけで一向にお菓子を与えようとはしない。
「にんげんさん、どうしたんだぜ?」
痺れを切らしたまりさが訪ねる。
だが、人間は動かない。お菓子もくれず、黙りこくったままだ。
「はやくおかしがほしんだぜ! ゆっくりしないでまりさにおかしをくれなのだぜ! ……はっ!」
まりさはつい催促をしてしまった。
これは人間と付き合う上で禁忌とされる行為のひとつだった。
美味しい方のお菓子を要求するのも(ゆっくりたちの偽らざる本音であったが)、本来は避けるべき行為であったが、
人間を急かすのは完全なダウトだった。



途端に人間の表情が険しくなった。まりさを握った指に力が込められるのがわかった。
「ゆ……ゆわ! ゆわわ! にんげんさんごめんなのだぜ! もうまりさはおかしはいらないのぜ!
ゆっくりはなしてほしいんだぜ!」
ゆっくりはよく空気の読めない生き物と言われる。
このまりさはそれに関しては多少はましな部類と言えただろう。食べ物を辞退するというのはゆっくりにはなかなかできないことである。
人間は、まりさの謝罪を聞き入れたのか、険しい表情を緩めた。
だが、まりさを離すことはなかった。
そしてこう言った。
「おまえはばりざだ」



「ゆへ?」
まりさは間抜けな声を漏らした。
だが、その意味するところは完全に理解していた。
“ばりざ”はれいむにおけるでいぶとほとんど同じ意味だと思っていい。
まりさはあの追い出されたでいぶと同じ境遇に陥ったのだ!
「おまえはばりざだ! クソ生意気なばりざだ! 人間を舐めて無礼な態度を取るゲスゆっくりだ!」
人間は矢継ぎ早にまりさを糾弾する。
「ま、まってほしいんだぜ! ゆっくりあやまるんだぜ! まりさは! まりさは! まり──ゆぎぃ!」
すさまじい激痛がまりさの全身を貫き、まりさは二の句が告げなくなった。
さらに、そのショックでしーしーを漏らしてしまった。
「ゆあ、ゆああ……ああ……」
まりさのしーしーは人間の膝にもろにかかってしまった。
これをやってしまって無事で済んだゆっくりはほとんどいない。
しーしーとは砂糖水であり、たいして汚いものではない、ということはこの場合無関係だ。
“しーしーかけ”がゆっくりが行う究極の侮辱行為であることは人間にもよく知られている。
「ふん、わざわざ問うまでもないな! これが明白な証拠だ!」
人間はゆっくりの群の中にまりさを放り出した。



だが人間はまりさになにもしなかった。制裁するわけでもなく、あの烙印を刻むこともしなかった。
かといって立ち去るわけでもなかった。
怒りに満ちた表情でまりさを中心にゆっくりたちを睨みまわしていた。
「あ、あの……にんげんさん?」
ぱちゅりーが不安の滲んだ声で問いかける。
「あの……あの……どうすればゆるしてもらえますか?」
人間の怒りを解かなければ、まりさだけでなく他のゆっくりも制裁されてしまうかもしれない。
それにあのお菓子ももうもらえなくなるだろう。あの美味しいお菓子。素晴らしいあまあま……。
「もちろん制裁に決まっている!」
「ゆひぃ!」
まりさは悲鳴を上げた。他のゆっくりたちもつられて痛々しい声を漏らした。
「だが、俺がやるつもりはない」
「え……?」
「おまえたちだ。おまえたちが制裁するんだ!」
「そ、そんな!」
ゆっくりたちはただならぬ成り行きにあわあわと唸ることしか出来ない。
「仲間の不始末は仲間内で片付けろ。いいか、ゲスを見逃すことはゲスなんだ。
わかるか? ゲスを制裁しないゆっくりもまたゲスなんだぞ!」
「ゆひぃぃぃぃ!」
まりさを、いやばりざを制裁しなければ群全体がゲスと見なされる! 人間はそういう意味の言葉を放った。
ゆっくりたちは恐慌状態に陥った。



「とかいはぁぁぁぁぁ!!」
一匹のありすが、わめきながらばりざに体当たりを食らわせた。
「ゆげぇっ! ありず、なにずるんだぜ!」
「ゲスなまりさ……いえばりざがわるいのよ! ばりざがわるいのよ! ばりざはとかいはじゃないわ!」
ありすが口火を切ると、他のゆっくりたちも次々にまりさを攻撃し始めた。
「そうだよ! まりさはばりざだよ! ゲスなんだよ! にんげんさんにめいわくをかけたんだよ!
だから……だから! ゆっくりしんでね!」
「ゆぎ! ゆがっ! ゆぶっ!」
まりさは右に、左に跳ね飛ばされる。裂けた皮の下から餡を撒き散らしながら。
「ばりざはばりざなんだぜぇぇぇ! ばりざばゲズゆっぐりなんだぜぇぇぇ!
ばりざばごうえんでいぢばんづよいんだぜ…… 
ごごばばりざのおうぢなんだぜ、ばがなじじいはざっざどででいぐんだぜ……
ざっざど……あ゛ま゛あ゛ま゛を……よごずんだぜ……」
まりさは跳ね飛ばされながら、一般的なゲスが言うとされる台詞を喚き続けた。
まりさは痛みの中で錯乱したのか、自分をゲスだと認めれば助かると思い込んだのかもしれない。
あるいはゲスそのものになりきったのかもしれない。



「もういいだろう」
「ゆふぅ……ゆふぅ……」
「ゆ゛……ゆ゛……ゆ゛……」
ゆっくりたちは皆荒い息をついていた。
蹂躙されたまりさは虫の息だ。まだ死んでいないがもう助かるまい。
「えらいぞゆっくりたち!」
人間は元の穏やかな表情に戻っていた。
そして、ゆっくりたちの労をねぎらい、褒め称えた。
「ゲスを制裁しなければゲスとなる。だが、ちゃんと制裁するならきみたちは善良なんだ!
わかるよな? きみたちはとても善良なゆっくりだ! ゆっくりの鏡だ!」
「ゆふぅ……ゆふぅ……」
「大変な仕事をして、お腹がすいただろう! 素晴らしいゆっくりたちにご褒美をあげよう!」
人間はお菓子をばら撒いた。
ゆっくりたちは匂いだけで、そのお菓子があの特別なやつだと気がついた。
身も心も疲れ果てていたゆっくりたちは我先にとお菓子に飛びついた。癒しを求めて。
「うめぇ! これめっちゃうめぇ!」
「むーしゃ! むーしゃ! しあわせー!」
「ありすたちはとかいなのね! とかいはだからこんなおいしいあまあまさんをもらえるのね!」
「ばりざざまぁ! ゆっくりじごくでゆっくりはんせいしていってね! ゲスがうつっちゃうよ!」
人間のくれたお菓子は美味しかった。
とても美味しかった。
これに比べればどんな食べ物も色あせてしまう。
ゆっくりたちは自分たちが泣いていることに気がついた。
涙が出るのはお菓子があまりにも美味しすぎるからだろうと思った。





「やさしいやさしいにんげんさんがきてくれたよ!」
「ゆっくりしていってね!」
「いっぱいゆっくりしていってね!」
あの人間がまたしてもやってきたとき、ゆっくりたちは大歓迎した。
あれからゆっくりたちはなんとなく不満を感じていた。
何を食べてもあんまり美味しくないのだ。
公園を訪れる人々から珍しい食べ物を貰うこともあったが、それらもいまひとつ美味しく感じられなかった。
ゆっくりたちは、特別なお菓子をくれる人間が来るのを今か今かと心待ちにするようになっていた。



だが、人間はお菓子をくれなかった。
にこにことゆっくりたちに微笑みかけてくれたが、それ以外には何もしなかった。
ゆっくりたちは、前回のまりさの失敗を覚えていたので催促することはなかった。
ただ待ち続けていた。
瞳を輝かせながら待ち続けていた。
涎を垂らしながら待ち続けていた。
だが、人間はお菓子をくれなかった。



群の中に一匹のぱちゅりーがいた。
ぱちゅりーは賢かった。
だから、このままではいつまでたっても人間はお菓子をくれないだろうと気がついた。
ぱちゅりーはお菓子が欲しかった。他のゆっくりもそうだろう。
ぱちゅりーは考えた。考えに考えた。
ゆっくりとしては賢い脳餡を最大限に働かせて考えた。
なぜ特別なお菓子がもらえないのかを。
どうすればお菓子が貰えるのかを。



(おもいだすのよ! ゆっくりおもいだすのよ! にんげんさんがおかしをくれたじょうきょう……)
一番最初に貰ったお菓子は、普通のお菓子だった。
次にもらったお菓子は、特別なお菓子だった。欲しいのはこのお菓子だ。
あのとき……あのとき……そうだ! あのときはでいぶを公園から追放した翌日だった!
三番目にもらったお菓子は不味いお菓子、すなわち普通のお菓子だった。
だが、その後すぐさま美味しい方のお菓子をもらえた。
その間になにがあったか?
ばりざの制裁だ!
ぱちゅりーは理解した。ゆっくり理解した。
なぜ特別なお菓子がもらえないのかを。
どうすればお菓子が貰えるのかを。



「むきゅう! みんなゆっくりきいて! みんなのなかにゲスがいるわ!」
「ゆえええええ!!」
ぱちゅりーは意を決して言い放った。
他のゆっくりたちは、ぱちゅりーの突然の告発に驚いたが、すぐさまもっともだと思い直した。
──お菓子がもらえないのは、群の中にゲスがいるから。
簡単なことだった。簡単だったのでゆっくりたちにも理解可能だった。
「だれ! だれ! だれなの! ゲスなゆっくりはゆっくりしないでさっさとでてきてね!」
「ぱちゅにはだれだかわかってるわ!」
「ぱちゅりーゆっくりしないでおしえてね! わるいゲスゆっくりがだれだかおしえてね!」
ぱちゅりーの、群の中にゲスがいるという言葉を疑うゆっくりたちはいなかった。



「それは……そこのありすよ!」
皆の視線が一斉に一匹のありすに注がれた。
「え? え? ええっ!?」
ありすは突然非難の矢面に立たされてうろたえた。
「そのありすはれいぱーよ!」
レイパーありす……これはもはや説明不要だろう。
ゆっくりたちはレイパーを恐れることこの上なかった。
「れいぱー? れいぱー! ありすはれいぱー!」
「ちがうわ! ありすはれいぱーなんかじゃないわ! とかいはよ! とかいはなのよ!
みんなしってるでしょ! れいぱーなんかとしでんせつよ!」
レイパーは都市伝説。──ありすの言葉はたしかに一理あった。
レイパーを恐れるのはゆっくりだけではない。ゆっくりを飼う人間も同じだった。
無闇にゆっくりの数を増やすというのも、普通の人間にとって頭痛の種だった。
あるとき、市は巨額を投じてレイパーの一斉駆除を行った。
ゆっくりの駆除は、世論がうるさいのでなかなかできないのだが、対象がレイパー限定となれば、
愛護派も反対するどころかむしろ積極的に支持した。
レイパーありすは都会の人間にとってあまりに不都合な存在だったのだ。
根絶とまではいかなかったが、今や生まれついてのレイパーは激減していた。



「うそよ! ぱちゅはみたもの! ちゃんとみたもの! むりやりすっきりさせられて、
たくさんのくきをはやしてしんだまりさをみたもの!」
「ゆゆーっ!」
たしかにレイパーは減ったが、それでも以前ゆっくりにとって恐怖の対象である。
むしろ、減ったがために半ば伝説めいた存在となり、ますます恐ろしく思われるようになったのかもしれない。
「ゆぐ……ゆぐぐ……そうだわ! ちびちゃんよ! ちびちゃんがいるはずだわ!
すっきりしたならちびちゃんがうまれたはず! でもあたらしいちびちゃんはいないわ!
ほらね! ありすはレイパーなんかじゃないわ!」
「ゆ……」
さすがのぱちゅりーも押し黙る。
すっきりをすれば赤ゆっくりが生まれる。たとえレイパーであってもそれは変わらない。自然の摂理だ。
「きっと、ちびちゃんともすっきりしたんだぜ!」
一匹のまりさが唐突に叫んだ。
まりさ種はレイパーありすに狙われやすいため、ゆっくりの中で一番レイパーを恐れていた。
レイパーの噂には尾ひれ背びれをつけたのは主にまりさ種だった。
「ゆゆー! ありす、ちびちゃんとすっきりしたの!」
「してない! してないわ!」
「むきゅ、ちびちゃんがすっきりさせられたらしんでしまうわ。そしてちびちゃんから、ちびちゃんはうまれない……」
「だからちびちゃんがいないんだね!」
「ひどいよ! ひどいよありす! とかいはじゃない! ゆっくりじゃないよ!」
その猟奇的な発想にゆっくりたちは戦慄した。あまり性欲の強すぎるレイパーは生まれた子供まですっきりさせてしまうことで知られていた。
ゆっくりたちは恐怖と怒りの虜になった。
ありすは、うまく切り返したつもりだったが、逆に墓穴を掘ってしまったのだ。



こうなると後は、自然と私刑が始まるのを待つばかりだった。
誰が最初にありすを攻撃したのかは定かではない。複数匹が同時に動いたのかもしれない。
「ちょっ! やべ! やべで! ありずば! どがい! どがいばぁぁぁぁぁぁ!!」
「しね! しね! ゆっくりしね! れいぱーありすはゆっくりしね!」
「ちびちゃんごろしのれいぱーはせいさいだよ!」
ありすは、先日のまりさのように、圧倒的な数の暴力に翻弄された。
「むほお! んほおお! んほおおおおおおおおお!!」
それはレイパーの嬌声として知られるものだった。
恐怖の中で自分をレイパーだと思い込んだのか、それとも本当にレイパー化したのか……。
「ゆゆ! ほんしょうをあらわしたよ!」
「みんなでこのばけものをやっつけるんだぜ!」
「ゆー!」
たとえ本当のレイパーとなって、膂力が増大したとしても、この頭数にはかなうはずもない。
やがて、ありすは物言わぬつぶれた饅頭と化した。



「えらいぞ! えらいぞゆっくりたち! ついに恐ろしいレイパーを倒したな!」
「ゆゆーん!」
人間はゆっくりたちを称える。ゆっくりたちも誇らしげだ。まりさ制裁のときは後ろめたい気持ちがあったが、
紛れもないレイパーとなればこれはどこからどう見ても正当な制裁だ。
「さあ、お菓子をあげよう! もちろん美味しい方のお菓子だ! 善良なゆっくりだけが食べられるお菓子だぞ!」
「にんげさんありがとう!」
「きょうもみんなでゆっくり~!」





それからも、ときおり人間はゆっくりたちを訪れた。
人間がやってくると、ゆっくりたちは仲間の内からゲスを見つけ出し、制裁した。
それらは自然に行われるようになっていった。
ゲスは殺しても殺しても、次から次へと現れた。
ゆっくりたちは仲間の腐敗を嘆き、隠れたゲスを見つけ出そうと目を光らせた。
やがて、お菓子の人間はやってこなくなったが、それでもゲス制裁は続けられた。
ゲス制裁は善良なゆっくりの義務だからだ。
ゆっくりたちはお互いを告発しあった。
餌探しをサボった。仲間の持ち物を盗んだ。所定の場所以外でうんうんをした。人間さんに迷惑をかけた。
人間さんに舐めた態度を取った。人間さんを睨んだ。人間さんの前を横切った。……告発の種はいくらでもあった。
告発することは身を守ることにもつながった。一度告発されると、それを覆すのはほとんど無理だったからだ。
自分を告発しそうなゆっくりを先に告発するのが最善の手だった。
ゆっくりたちはお菓子をくれる優しい人間を待ち続けた。
あの特別なお菓子はいつまでたってもゆっくりたちを魅了し続けたのだ。



ゆっくりたちはゲス制裁を、公園を訪れる人々に見せ付けるように行った。
ゲス制裁は善良なゆっくりであることの証だからだ。自分たちが善良であることを知らしめたかった。
最初、人々はゆっくりたちが遊んでいるのだと思った。やがて様子がおかしいことに気がついた。
ようやく、仲間をいじめ殺していることに気がつくと、人々はゆっくりを無視するようになった。
人間に迷惑をかけてはいない。態度も生意気ではない。むしろ、卑屈なほどに腰が低いくらいだ。
だから、ゆっくりを駆除することはしなかった。ただ、そこにいないものとして扱った。
たまに、食べ物を与える人間もいたが、食べ物をもらってもちっとも幸せそうにしないゆっくりたちを見ると、
もう二度とゆっくりには関わらないようになった。
ゆっくりたちも、自分たちが人間に無視されてることに気がついた。
それはゲスの仕業にされた。ゲスゆっくりが群の中に潜んでいるから人間さんは冷たくなったのだと思った。
ゲス制裁はさらに苛烈になっていった。





お菓子を与えた人間──れいむ、まりさ、ありすをゲス認定した人間は、その様の一部始終を見ていた。
怒りに満ちた表情で。
この人間はあるとき、“ゆっくりの間でいじめが流行っている”という情報を得た。
特に公園のゆっくりの間でだ。
いわゆる“でいぶごっこ”と呼ばれるそれは、ある日突然、群の中の一匹をゲス呼ばわりし、苛め抜き、
最後には追放するか殺してまうというものだった。
群の掟を守らせるためのみせしめなのか。
人間同士のいじめを目撃して影響されたのか。
増えすぎたゆん口を自前で調節するためのものなのか。
理由は諸説あった。
だが、この人間にとってはどうでもいいことだった。
重要なのは、ゆっくりがゲス行為を働いているということだけだった。
この人間はゲスゆっくりが嫌いだった。憎んでいるといってもいい。
公園のゆっくりはすべて潜在的なゲスと見なすようになった。



一連の出来事も、制裁対象か否かの最終確認だった。
ついでに、制裁しやすい状況になったことは思わぬ幸運であったが。
──そう、もはや公園はゆっくりたちにとってのゆっくりプレイスではない。
人々はゆっくりに愛想を尽かしている。
今なら、白昼堂々大っぴらにゆっくり虐待しても、誰も咎めるものはいないだろう。
むしろ、誰かが駆除してもらうことを密かに望みすらしていることだろう。
もう、この事実は虐待派たちに宣伝してある。
あとは実行に移すのみ。



「醜い生首饅頭ども! ゲスゆっくりども!
おまえらに本当の制裁を教えてやる! おまえらの拙い模倣ではない、
真の制裁、真のゆっくり地獄をな!
餡の一粒に至るまで苦痛で満たしてやる!」

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2009年03月18日 01:33
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。