まりさのキャベツ
書いた人 超伝導ありす
よくあるお話です。
このSSは以下の要素を含みます。苦手な方は読むのをお控えください。
- レイパー?ありす
- すっきり~♪(ぺにぺに・まむまむ表現はございません)
春。
キャベツ畑の一角で、一匹のゆっくりまりさがキャベツにかじり付いていました。
「むーしゃ、むーしゃ!しあわせ~!」
大きさ30cmほどの、成体のまりさ。
キャベツには大きな歯形と、よだれがべっとり付いています。
人様の畑を荒らすとは、いい度胸ですね。
森には草木が芽生え、生き物が活動を再開し、食べ物には困らないはず。
ですが、このまりさはどこかで人里の食べ物の味を覚えてしまったようです。
日本の野草に食べれないものはほとんどありませんが、食用には向いていないものばかり。
苦くて固い草を食べるよりは、やわらかくて美味しい野菜の方が、ゆっくり出来るに違いありません。
しかし、そのゆっくりも今日まで。
まりさは、畑の見回りをしていたお兄さんに、問答無用で取り押さえられてしまいました。
「ゆっ!?おにいさん、ゆっくりしていってね!?」
しゃべれる程度の力で地面に押しつけられていたまりさは、少し驚きながらもお兄さんにゆっくりを求めます。
「捕まえたぞ、畑泥棒め!」
「まりさ、どろぼうさんじゃないよ!?」
「ここのキャベツは、作った農家さんの物だ!勝手に食べたらいけないんだぞ!!」
「なにいってるの!?はっぱさんは、じめんからかってにはえてくるんだよ!うそはいわないでね、おにいさん!」
この低脳が……!
と、簡単に怒ってはいけません。
ゆっくりには農耕という概念がないのです。
「このはっぱさんはまりさのものだよ!ここにあるはっぱさんもぜんぶ、まりさのものだよ!」
なんといっても餡子脳。
天下御免の向こう見ず。
知らない事を理解しろというのも酷な話なのです。
だからといって、その悪行を許すわけにはいきません。
人里がどんなに危険かを、その身に刻み込んであげましょう!
「よこどりするおにいさんとは、ゆっくりできないよ!そしてはやくはなしてね!」
「だめだよ。悪い子にはお仕置きしないとね」
「ゆぐぅ!?」
お兄さんはまりさを持ち上げて、自分の家の庭先へと連行し、
そしておもむろに、まりさの帽子を取り上げました。
「ま、まりさのぼうしがぁぁ!!」
ゆっくりにとって、命の次に大事な『飾り』。
それを奪われ、元々大きな目を、さらに見開いて驚愕するまりさ。
「おにいさん、ゆっくりはなしてね!そしてかえしてね!?いまならゆっくりゆるしてあげるよ!」
すでにまりさは、お兄さんの腕から解放されていました。
帽子を取り上げていなければ、一目散に逃げているところですが、今はそれどころではありません。
「まりさ、おぼうしがないとゆっくりできないよぉぉ!」
ぴょんこ、ぴょんこ、とお兄さんの周りをジャンプするまりさ。
相手が応じないことを理解すると、まりさは大きく息を吸い込み、体全体を膨らませます。
これが、ゆっくりにとっての威嚇のポーズ。
しかし、膨らむとはいってもわずかな差。
同格の生き物ならともかく、人間にとってはまったく無意味です。
「ほ~。やっぱり色々と入ってるんだなあ」
まりさをガン無視して、お兄さんは帽子の中を覗き込みます。
帽子の奥には、色の付いた石ころやら、謎の破片、虫の死骸など、ガラクタがいくつも入っていました。
まりさ種が帽子に大事なものを入れておくのは本当のようです。
ぷひゅるるるる~!
威嚇が意味を成さないことを理解したのか、ポーズを解くまりさ。
もしかしたら、疲れて気が抜けたのかもしれませんが。
「まりさはおこったよ!ゆっくりできないおにいさんはしね!」
まりさは猛然と、お兄さんの足に襲いかかりました。
しかし、衝撃を感じるものの、体勢を崩すまでには至りません。
ゆっくりはとても弱い生き物なのですが、それを自覚していないのが玉に瑕です。
「やれやれ?そっちがその気なら、覚悟してもらうぞ!」
語気を強くしたものの、お兄さんはまりさに直接暴行を加える気はありませんでした。
庭の端にある、大きな桶に向かって歩いていく、お兄さん。
そして、帽子を本来の向きに変えて、中身に入っていたゴミクズを、ばらばらと落としてしまったのでした。
ぼちゃぼちゃぼちゃ。
落ちた先は、水を張った浅くて広い桶。
「ゆぎゃああああ!まりざのだがらものがあああああ!でいぶどのおぼいでのじながああああ!!」
先ほどまでの勢いはどこへやら、目からだばだばと涙を流して絶叫する、まりさ。
「まりさがお兄さんを怒らすからだぞ。まりさがいけないんだからな」
「なにいっでるのおおおお!?おにいざんがぜんぶわるいんでじょおおおお!?」
このまりさは、そこそこ頭がいいようですね。
しかし、これはまりさが畑を荒らしたお仕置きなので、お兄さんはまったく悪くはありません。
「いいかい。さっきの場所のあったお野菜は、人間のものだから、勝手に食べちゃいけないんだよ?」
「ぞんなごどじるがあああ!!じね!じね!ゆっぐりじないでじねええええ!ぞじでがえぜえええええ!!」
完全に逆ギレ状態のまりさ。
もっとも、罪を未だ自覚していないのですから、本人は普通に怒っているだけかもしれませんが。
「宝物かあ。だったら、自分で取ってね!」
お兄さんは、空っぽになった帽子を、まりさの頭に被せます。
「ばりざのだがらものおおおお!!」
桶のふちには、まりさが水底をのぞき込めるよう、わざわざ板のスロープが渡してありました。
まりさはそれを跳ねて登り、桶の中をのぞき込みます。
浅いとはいえ、ゆっくりには深い水の底。
とりあえず宝物が視認出来ると、まりさは落ち着きを取り戻しました。
「これならとれるよ!ゆっくりとるよ!」
一度地面へ降りると、頭を揺すって帽子を降ろし、口で咥えてひっくり返します。
再びスロープを登り、帽子を水面に浮かべました。
手足がないというのに、なかなか器用ですね。
お兄さんはその光景を、ニコニコしながら静観していました。
まりさは帽子を浮かべると、すぐに乗り込もうとしましたが、何を思ったか立ち止まってしまいます。
それから数秒間、頭を傾げました。
「ん~~~~?」
そして。
「どうじで、まりざの『ぼう』がないのおおおおお!?」
再び目に涙を貯めるまりさ。
まりさ種は、自分の帽子を水に浮かべ、その帽子に乗り込んで水辺を渡ることが出来ます。
もちろん、乗り込んだだけでは思う方向へは進めません。
ですから、ボートに例えるならオールに相当する棒を、セットで持っているのです。
が……!
肝心要の『相棒』が見当たらない。
見れば、自分が手を出せない、遠くのほうに棒が浮いているではありませんか。
それを見て、まりさは呆然としました。
「ぼうがああああ!まりざおよげないいいい!?」
「取れないの?だったらゆっくり諦めてね!人里に降りてきたら、ひどい目に遭うってことを理解してね!」
「うるざいいいい!おにいざんはじねええええ!!」
まりさは、そう言い捨てると、スロープを降りて庭をかけずり回ります。
しばらくして、代わりになりそうな棒を見つけると、口に咥えて戻ってきました。
「ゆぎょああああああ!?まじざのぼうじがああああああ!?」
度重なる悲鳴。
まりさが離れている内に、今度は帽子が、桶の中央付近まで流れてしまっていたのです。
「せっかく返してもらった帽子を今度は自分で無くすなんて、まりさはお馬鹿さんだね」
「まりさはばかじゃないいいい!まりさのれいむにも、まりさはかしこいっていわれてるんだあああああ!!」
「じゃあ、自分で解決しようね。賢いまりささん?」
「ゆぅ……ゆぐぐぐ……ゆっぐり!?」
かくん?かくん?
まりさは、体を右に傾け、左に傾け、さも考えているような表情を浮かべます。しかし。
「わがんないよおお!!おにいざん、いじわるじないでどってよおお!」
もはや出来ることは、お兄さんにお願いすることだけでした。
思い切りジャンプすれば、届かない距離ではありません。
ですが、そんな勢いを帽子が受け止められるかどうか。
万が一、水に落ちてしまえば、桶の外に脱出することは困難でしょう。
もっとも、まりさがそこまで深くは考えているようには見えませんでした。
深い水に対する先天的な恐怖心から、ほぼ思考は停止状態というのがいいところ。
お兄さんは、まりさが精神的に相当追いつめられているだろうと予測し、ここで畳みかける事にしました。
「あ~あ。帽子をなくしたまりさは、もう二度とゆっくりできないゆっくりだね」
「ゆ、ゆびぃい!?」
「れいむにも仲間にも見捨てられて、ゆっくりゃに食べられておしまいだね!」
「いやああああ!まりざゆっぐりじだいいい!」
「ゴミクズなんか無くてもいいだろ!」
「ごみくずじゃないよおおおお!ほんとうに、たいせつなものなのおおおお!!」
まりさの泣き顔は、痛々しいほどに歪んでいました。
それを見て、お兄さんはここらで優しく諭すことにしました。
人里に来てはならない。
分かってもらえばよかったのです。
ナマモノとはいえ、森に住まう動物の一種。
このお兄さんは、無用な殺生は好まないのでした。
「もう二度と、人里に来ないって約束できるなら、取ってあげてもいいよ?」
「やぐぞくじまず!だがらどっでええ!」
「ほいよ」
帽子をまりさの目前まで、届けてあげるお兄さん。
「ゆゆっ!これでたからものをかいしゅうできるよ!」
まりさは、いつものふてぶてしい顔に戻ると、水面に浮かべた不安定な帽子に、ぽすっと乗り込みました。
口に咥えている棒で、水面を一生懸命にかき乱します。
オールのように、水を押しのけやすい形ではないですし、川のように流れもないのですから、最初は苦労します。
しかし、その甲斐あって、帽子はゆっくりと進み始めました。
「ゆんしょ!ゆんしょ!」
これだけ泣いて、苦労すれば、考え方を変えるだろう。
もし改心しなかったとしても、嫌な思い出があれば、二度とここには来ないだろう。
お兄さんは、そう考えていました。
そうしているうちに、帽子は、桶のちょうど中央にまで届きます。
まりさはすでに息が上がっていました。
「ぜーはー、ぜーはー。ゆっくりついたよ!これで…………。これで……?ゆゆ?」
まりさは大事なことに、ようやく気がつきました。
宝物は水の底なのに、自分は水に浮かんでいるのです。
どうやっても、宝物を回収できるはずがありませんね。
ゆっくりの悪い癖。
根拠のない自信が裏目に出てしまったようです。
まりさは他の種類のゆっくりと違い、帽子を使って泳げるので、水に関することは特に自信があったのでしょう。
何にも考えないで、帽子を浮かべてしまったのです。
「どうじで!?ごれじゃどれないいいい!」
実はお兄さん、最初から結果は予想できていました。
一度優しくして、油断した所に致命的なダメージを再度与える。
まさに泣きっ面に蜂で、まりさにトラウマを生み付けようと考えていたのです。
「残念だったね、まりさ。取れないものは、しょうがないだろ?今回は諦めて帰ろうね」
しかし、今回はお兄さんの思い通りにはいかなかったようです。
「おにいさんにはっ……!」
しょんぼりと気落ちするかと思いきや、まりさは、歯を食いしばり、お兄さんを見上げたのでした。
「おにいさんには、まりさのたからものが、どれだけだいじなものか、わからないからぞんなごどがいえるんだっ!」
桶の中央で、ぷかぷか浮きながら、力強く抗議するまりさ。
「とくに、れいむとのおもいでのいしはっ!とってもとっても、だいじなものなんだよ!!」
「まりさが悪いことをしたのが、そもそもの始まりなんだぞ?畑は人間の物なんだ」
「かんけいないよ!たからものをかえしてね!おにいさんはわるいにんげんさんだよ!」
予想以上に、まりさのガラクタは大事な物のようでした。
まりさを奮い立たせてしまうほどの宝物。
お兄さんは、どうやってまりさを諦めさせようかと考えます。
「しかしどうする、まりさ?相手の悪口を言うゆっくりを助けるほど、僕は優しくないぞ?」
「ゆ…っ!!」
お兄さんを見つめる瞳が、わずかに振動し。
しばらくして、まりさは自らその解決策を提示したのです。
「もう、ここにはぜったいこないよ。はんせいしたよ。だから、たからものをかえしてね」
「分かった。僕も鬼じゃない。一番大切な宝物は、返してあげよう。どれだい?」
「あかい、いしころさんだよ。れいむとのおもいでのいしだよ」
それは宝石の原石でもなんでもなく、表面がツルツルしていろだけの、単に赤い石です。
まりさの目の前に石を置いてやると、まりさはそれを咥え、帽子を降ろしてその奥に、大事そうにしまいました。
「じゃ、もう二度とくるなよ?」
「ゆっくりりかいしたよ!」
まりさは、ぽすんぽすん、と力なく跳ねていくと、庭の出口で振り返りました。
そして、ニヤリと浮かべる不敵な笑み。
「かかったねおにいさん!もうここにはこないけど、はっぱさんはまりさのものだから食べるよ!」
そう言うと、勢いよく逃げ出したのです。
「ばかなおにいさんだね!れいむのためにも、おいしいはっぱさんは、たっぷりもらっていくよ!」
死地を脱したとばかりに、軽快に跳ねていくまりさ。
とはいえ、まりさは理解していませんでした。
並のゆっくりの逃げ足では、人間の小走りにさえ、到底敵わないということに。
ほどなくして、まりさはお兄さんにがっしりと捕まってしまいます。
「はなしてね!まりさは、はんせいしたよ!おにいさんにはちかづかないよ!?」
まりさは再び、お兄さんの庭に戻されてしまいました。
お兄さんの心に浮かぶ情動は、怒りではなく、悲しみ。
両手が、まりさを地面に押しつけます。
「許せまりさ。どうしようもなく悪い子は、最終鬼畜コースしかないんだ!」
「それってなんなのおおお!?」
「おーい、ありすー!」
地面に押しつけられたまま、方向転換をさせられる、まりさ。
『あんよ』がひりひりと痛みます。
お兄さんの呼びかけに応じ、家の縁側に現れたのは、一匹のありす。
同属を見つけて、まりさはすかさず、助けを求めました。
「ありす!このおにいさんがひどいことするんだよ!ゆっくりしないでたすけ……あ、ありすうぅ?」
助けを求める途中で、まりさは、姿を見せたありすの様子がおかしいことに気がつきました。
そのありすには、表情がまったく無いのです。
瞳は虚ろで、まっすぐ正面しか見ていません。
どすん。
跳ねたというよりは、落ちたと表現した方が正しい挙動で、ありすは縁側から地面に着地しました。
そこから先は跳ねることなく、ゆっくり、ゆっくり這ってまりさに近づいてきます。
このありすは、お兄さんが飼っているありすです。
お仕置きのために飼っている分けではありませんが、口で言って分からない悪い子には、もはやこうするしかない。
そう考え、お兄さんは虎の子のありすを呼び出したのです。
しかし、もはやこれをありすと呼べるのかどうか。
すでに自我は崩壊し、犯せと言われれば生殖行動をし、食べろと言われれば餌を食べ、疲れれば勝手に寝る。
本能と、体の機能が残っているだけの存在。
もちろん、まりさの目前に迫ってくるまで、一言も喋らず、さかりの付いたありす特有の荒い息づかいさえありません。
まるで死体が音も無く忍び寄ってくるイメージ。
「ゆゆゆゆゆ!!?ゆっくり!ゆっくりしていってね!?」
そんなありすの姿に、まりさは恐怖するしかありませんでした。
「ありす。この悪いまりさにおしおきだ。すっきりしてね!」
「ごめんなさいおにいさん!もうわるいことしません!だからゆるじ、げえええええ!?」
ありすは、愛撫も無しにまりさにのし掛かり、激しく動き始めました。
「いだいいいいい!?ゆっぐりじでえええええ!?」
本来であれば、たっぷりと体液を滴らせてから始まる本番行為。
いったいどのような苦行を加えられたのか、ありすの体の表面は、ガサガサでささくれ立っていました。
近くにあった柵に押しつけられ、ゴリゴリと荒いヤスリを擦りつけられる、まりさ。
「ゆぎゅえええええ!?いだいいよおおお!?いだいいいいい!」
まりさの柔肌は容赦なく傷つけられ、餡子を含んだ緩い液体がにじみ出ていきます。
「でいぶううううう!でいぶだずげでええええ!!まりざじんじゃううよおおおおお!!」
まりさが泣き叫ぶ、その目の前で、ありすは機械的に動き続けます。
同時にありすのささくれだった肌も、無事では済みません。
しかし、もはや壊れてしまったありすが、痛みを感じる様子は微塵もありませんでした。
ありすは当然としても、双方、快感など感じてはいないのでしょう。
お互いが傷だらけになってから、ようやく粘液がじっとりと流れ始めました。
「まりざのあいではでいぶだげなのにいいいい!!でいぶうううううう!どうじでだすげでぐれないのおおおお!!?」
この場にいない、れいむに助けを求めるまりさ。
もはや現実逃避しなければ、心が耐えられなかったのでしょう。
とはいえ、まりさは嫌がりながら、無情にも現実に引き戻されようとしていました。
「いだいのにいいいい!しんじゃううのにいいいい!?ずずずず、ずっぎりいいいいいい!」
ありすの遺伝情報、UNAが、遠慮なくまりさの体に浸透してゆきます。
レイプされた悲しみに、呆けていられたのも一瞬。
ぞりぞりぞりぞり!
「ゆっっっぎゃああああああ!?」
ありすは相変わらず、表情一つ変えずに、行為を続けていました。
目の前に居るありすの目は、いまだにまりさを見つめようとすらしていません。
まるで、異形の化け物に犯され続けているような錯覚に囚われる、まりさ。
「ゆるじてねええええ!ゆるじでねえええええ!」
それはありすに向けられたものか、愛するパートナーを裏切る結果になったことへの謝罪か。
ソレが終わるまで、まりさはずっと、同じ事を叫び続けていたのでした。
「ゆ、ゆっぐりじだげっががごれ……」
ありすに穢し尽くされた、ずっとずっと放心状態のまりさ。
頭には、すでに小さなつぼみが成った蔓が、3本伸びていました。
帽子を避けるようにして、一度横に伸びた後、上を目指しているのが滑稽ですね。
「久しぶりに最終兵器を使ってしまったか……」
宴が続いていた間、その場を離れていたお兄さんが、戻ってきました。
瞳は光を失い、微動だにしないまりさの顔を見て、眉をひそめます。
「どれ、このままじゃ跳ねづらいだろ」
お兄さんは親切心から、蔓をまとめて帽子の内側に押し込んでやりました。
続いて刻んだキャベツを、まりさの目の前に置いてあげます。
これは、最初にまりさがかじった、もはや商品にはならないもの。
「ごくろうだったな、ありす。今日はごちそうだ」
「…………………」
相変わらず、無表情のありす。
お兄さんに抱き上げられても、表情に変化はありませんでした。
とある心のないお兄さんによって、心を破壊されたありす。
もしかしたら、このありすも悪いゆっくりだったのかもしれない。
そう思うと、心ないお兄さんにも無遠慮な怒りをぶつけることは出来ませんでした。
ありす種にとって、最上位の本能である『すっきり』をさせれば、何かしらの反応があるかもしれない……。
なんとか、この哀れなありすの心を取り戻してあげたい。
お兄さんのチャレンジは、まだ始まったばかりでした。
一方、空が赤く染まり始めるころまで、その場に立ちつくしていた、まりさ。
それでも、お兄さんが次に気づいた時には、まりさの姿も、キャベツもありませんでした。
「ゆ!ゆっくりおかえりなさい、まりさ!」
地面に穴を掘った巣で待っていたのは、つがいのれいむでした。
このまりさとは、幼い頃から苦楽を共にした仲です。
つがいになったのは、本当に自然な流れ。
『まりさと仲良くするんだよ!』
そう、母れいむに送り出され、同居を始めたばかりでした。
「ゆっくりかえったよ……」
「ゆゆゆ!?どうしたのまりさ、げんきがないよ!?」
「なんでもないよ!はっぱさんをあつめて、つかれただけだよ!」
まさかパートナーの目の前で、ありすにレイプされたとも言えず、さりとて人里を荒らしてきたとも言えません。
人間が危険な存在であることは、ゆっくりたちの中でも共通の認識だったからです。
人間が独占するはっぱさんは、とてもゆっくりできるもの。
その味をれいむに教えてあげよう。
そんな好意が、れいむを愛する行動が、まさかこんな悲劇を引き起こすことになろうとは。
人間に害を為しに行ったのではない。
ただ、人間が独占しているはっぱさんをちょっとだけ拝借したいだけ。
まりさはその辺りを都合良く解釈していたのでしょう。
とはいえ、目的は達することはできました。
頬の中には、刻まれたキャベツがいっぱい入っています。
まりさは、キャベツを口から出して、れいむに振る舞いました。
「れいむのために、ごちそうを取ってきたよ。ゆっくりたべてね!」
「ゆ?きれいなはっぱさんだね。むーしゃ、むーしゃ。ゆゆ!?」
それを口にしたれいむは、ぷるぷると頬を振るわせました。
「うめええ!めっちゃうめええ!がーつ、がーつ!」
生まれて初めて食べたキャベツの味に、れいむは感動しました。
人間が育てる野菜は、食用に向いた植物に、さらに口品種改良を加えたもの。
口当たりのよいキャベツは、野生のゆっくりにとって極上の美味だったようです。
「しあわせぇぇぇぇ!!」
目をきらきらとさせて、れいむは喜びを表現しました。
「まりさ、ありがとう!こんなにおいしいたべものを、れいむのためにあつめてくれてたんだね!」
「れいむによろこんでもらって、まりさはうれしいよ!」
まりさは体に刻まれた悲しみを紛らわすため、れいむに身をよせ、すりすりと頬を擦り合わせます。
れいむも、快くそれに応じてくれました。
「すーりすーり。しあわせー!」
まりさとれいむは、心地よい感触に包まれたまま、眠りにつきました。
子作りをするには、巣にもっと餌を貯めなければなりません。二匹の夫婦生活はこれからなのです。
まりさとれいむは、翌日から餌集めを再開しました。
人間にお仕置きされたことで、心身ともに傷ついたまりさ。
餡子脳は、そのつらい記憶を排斥しようとしていました。
それは、心の弱いゆっくりの自衛本能なのか、あるいはまりさが、元々脳天気だっただけなのか。
毎晩、れいむと頬を擦り合わせ、将来の夢を語り合っているうちに、まりさは徐々にその記憶を失っていきました。
蔓が帽子に収納され、目に触れなかったことも一因でしょう。
「ゆっくりしたあかちゃんをそだてようね!」
「ぱちゅりーにまけないような、かしこいこにしようね!」
ポジティブと言えばポジティブ。
野生を生きる生物としては、それってどーなのよ?というツッコミも、したくはなりますが。
ただし、あの事件はまりさの深層心理に、確実なトラウマを刻み込んでいました。
その証拠に、まりさは二度と人里に行きたいとは思わなくなっていたのです。
餌集めは続きます。
それは、嫌な記憶を思い出せなくなった頃。
まりさは狩りをしながら、違和感を感じて立ち止まりました。
「なんだか、まりさおなかぺこぺこだよ?」
先ほど、お昼分のご飯を食べたばかりだというのに。
でも、考えている時間ももったいない。
そう思ったまりさは、頬の中から追加の昼食を喉の奥に押し込めました。
食べても食べてもお腹が空く。
帽子に食べ物を入れようと思っても帽子が外れない。
狩りの途中、まりさは毎日そんな疑問を感じ……。
その都度忘れていました。
忘れてしまっても問題なかった理由は、毎日の狩りの成果が上々だったから。
今年の春、まりさの巣の周囲は、例年よりも肥沃になっていたようでした。
おかげでまりさは、狩りの途中で、たっぷりとご飯を食べることができました。
帽子を使い、一度に運ぶ量をムリに増やさなくても、巣の貯蓄は確実に増えていったのです。
そんなこんなで二週間後。
十分な餌が集まり、まりさとれいむは互いの労を褒め称え合っていました。
しかし。
「ゆ?まりさ、なんだかまりさのぼうしがういてるよ?」
異常に気づいたのは、れいむでした。
「ゆゆ?ぼうしの中にはなにもいれてないよ?」
不思議そうな顔をするまりさ。
「まりさ、ぼうしをおろしてね。れいむがみてあげるよ」
まりさは最近、帽子が取れないことを思い出し。
「ぼうしのさきを、くわえてひっぱってね!」
頭をれいむの方へと、傾けました。
「じゃあ、ゆっくりとるよ!」
れいむが帽子の先端を咥え、引っ張ってやると、そこには。
「ゆぎゅうう!?まりさのあたまにあかちゃんがああああああ!?」
「ゆえええええ!?なんでえええええ!?」
二匹は途端にパニックに陥りました。
本来、頭に赤ちゃんを生やした親は、そうそう活発に動かないようにするもの。
活発に動いていたまりさが、にんっしんっしているはずなど無かったのです。
ゆっくりの常識としては。
その事をすっかり忘れ、餌取りをしていたまりさ。
すでに半分以上のつぼみは、黒ずんでいました。
何かにぶつかり、そのショックで流産になってしまったのでしょう。
忘れていたとはいえ、まりさは頭上にある重みに気づくべきでした。
皮肉にも、必要十分な餌を得たことで、まりさの体は時間を掛けながら、重さに耐えられる体に成長していたのです。
順調に育つ個体がある一方で、総数は減っていくので、負担はより軽微でした。
「どうじでまりざが、にんっじんっじでるのおおおお!?」
「どうじでまりざのあだまに、あがじゃんがいるのおおお!?」
れいむは、キッとまりさを睨み、問いただします。
「まりさ、これはどういうことなの?ゆっくりせつめいしてね!」
「まりさもわからないよおおお!?れいむとすっきりしてないのに、なんであかちゃんがいるのおお?」
「ゆゆっ!しかも、あかちゃんはまりさとありすだよ!まりさはれいむに、ひみつでうわきしてたんだね!?」
「ちがうよお!しんじてれいむううう!」
信じてと言われても、帽子に赤ちゃんを隠していた以上、後ろめたいことがあってもおかしくはありません。
しかも、赤ちゃんたちはもうすぐ生まれそうです。
こんなになるまで秘密にしていたのですから、れいむは悔しくてたまりませんでした。
みるみるうちに、その顔が真っ赤になってゆきます。
ふと、何かが帽子の中から落ちてきたことに、れいむは気づきました。
それは、赤い、とても赤いもの。
「ゆゆ。これは…」
れいむにとっても、それは思い出深いものでした。
将来を誓い合った時に、れいむが渡した赤い石。
愛するまりさのために、一日掛けて河原で見つけてきた、赤い石でした。
「すっきりするありすなんていないよお!?……ゆぐ……ゆぐぐぐ!?」
この状況になって、ようやくまりさは忘れていた記憶に辿り着きます。
「あああああ、ありすううう?れ、れいむ!このこたちは、ごうかんまのありすにおそわれたときにできたこだよ!」
「なんでいままでだまってたのおおおお!?」
「いたかったんだよおおお!わすれなきゃやっていけなかったのおおおお!」
れいむとは逆に、まりさの顔は真っ青に。
それを見て、れいむはまりさが本当の事を言っているのではないかと、気づくのでした。
赤い石を大事にしまっていたまりさは、やっぱりまりさだったんだ!
そうなると憎たらしいのは、まりさの頭の上に成っている、強姦魔の赤ちゃんです。
まりさゆずりの顔つきをした、赤ちゃんまりさも同様です。
生き残っている赤ちゃんは六つ。
まりさ種の赤ちゃんだけは、すでにぱちぱちと目を開き、突然の夫婦喧嘩を、不思議そうに見下ろしていました。
そして、その時が来ました。
自らぷるぷると震えて、茎との接合を断ち切ってゆきます。
ぽとん。ぽととん。
四つの、赤ちゃんまりさが、先んじて地面に落ち。
『ゆっきゅりしていっちぇね!!!』
母親であるまりさに、産声を聞かせたのです。
「ああああ!まりさの!まりさのあかちゃん!」
まりさは本能的に喜びに打ち震え、満面の笑顔を、赤ちゃんたちに向けました。
その笑顔は、今までれいむが見たこともないほど清々しいもの。
れいむが嫉妬の炎を燃やすのに、三秒とかかりませんでした。
「のろわれたあちゃんは、ゆっくりしね!!」
べちゃり。
突然、れいむが一匹の赤ちゃんまりさの上に、飛びかかりました。
気持ちいい音がして、れいむがその場所を退くと、そこには今まで赤ちゃんまりさだったはずの残骸が。
「ゆう?」
まりさも、残った赤ちゃんまりさも、何が起こったのか、すぐには理解できませんでした。
「ば、ばりざのあがじゃんがあああああ!?」
『おねえじゃああああああああ!!』
白黒の帽子はぺちゃんこに潰れ、その周りに黒いシミが広がっています。
「でいぶううううう!?どうじでええええええ!?まりざのあがじゃんだよおおお!?」
それはそれは、ひどい顔でした。
悲しみと怒りが混じり、目から涙が。恐怖から体液が。口からは涎が。
まりさは、今までの人生で、最大の感情を顕わにしていたのです。
自分がもっとも信頼するパートナーが、どうしてそんなことをしたのか。
まりさは理解できませんでした。
望まぬ子とはいえ、まりさの赤ちゃんはこんなに可愛いのだから、まりさのれいむも、きっと祝福してくれる。
そのはずだと、信じて疑っていませんでした。
「ぴゅぎゃ!」
「ぎゅぺっ!?」
その間にも、れいむは次々と赤ちゃんまりさを踏みつぶしてしまいます。
「これは、まりさのかおをしたあくまのこだよ!いらないこだよ!れいむのまりさをきずつけたゴミクズだよ!」
「ゴミクズじゃないよおおお!?」
はっと、まりさは気がついてしまいました。
「ゴミ…くず…?」
あの日、お兄さんに言われたゴミクズという言葉。
それは封じられた記憶を次々と、数珠繋ぎのように脳裏に蘇らせてしまいました。
忘れたはずの記憶。
失われたはずの記憶。
しかし、あの事件がトラウマとして刻みつけられている以上、完全にその記憶を忘れさせることは、
餡子脳には荷が重すぎたのかもしれません。
『これはたからもの』
『なによりもたいせつなたからもの』
「おきゃあしゃん~!だじゅげでええええええ!!」
最後の赤ちゃんまりさの絶叫が、まりさに母性を呼び覚まさせました。
「やべろおおおおおお!!!」
まりさが渾身の力を込めて、れいむの体にぶち当たります。
まりさと同じように、まさか最愛のパートナーから攻撃されるとは思っていなかったれいむ。
その衝撃をモロに受け、巣の壁に叩きつけられてしまいます。
「ゆべっ!?ぶぽっ!ぶぽっ!」
口から餡子がこぼれ、起きあがることも出来ないれいむに、まりさは上から何度も踏みつけます。
「しね!しね!しね!しね!しね!しね!しね!しね!」
まさに般若。
混濁した記憶と母性が混ざり合い、まりさは理不尽な怒りに突き動かされていました。
自分がどうして、あんな目に遭わなくてはならなかったのか。
どうして、赤ちゃんが死ななければならないのか。
どうして?
どうして?
どうして?
「ゆっぐりじねええええええ!!」
れいむはすでに、すべての餡子を吐き出し、絶命していました。
れいむの餡子に埋もれてしまった、赤い石。
二匹の仲を約束したはずの赤い石が、れいむの見た最後の記憶となってしまったのです。
これは何?
この黒い塊は何?
非現実な感覚を覚えるまりさ。
それよりも、まりさはすべきことがありました。
「ふう、ふう、ふう、ふう。大丈夫!?おちびちゃんたち!」
まりさは巣を見渡します。
ですが、待っていたのは、どうしようもない悲劇だけ。
すでに赤ちゃんまりさはすべて潰れてしまっていたのです。
まりさの荒い息だけが、うすぐらい巣の中に響き渡り、怒りが悲しみへと変わっていきます。
「ゆっくりしたけっかがこれだよ!」
まりさは泣きじゃくりました。
と。
ぽとぽとっ。
頭の上から、二つ分の何かが落ちた音に、まりさは気がつきます。
それは、遅れて茎から離れた、赤ちゃんありすでした。
あの騒動の中、奇跡的に離れず・潰れず、残っていたのです。
ぱああああ、とまりさは泣き顔をほころばせました。
生きてた。
まりさの赤ちゃんは、まだ生きてた!
「ゆっくりしていってね!」
『ゆっきゅりしちぇいきゅわ!うふふふ、うふふふふふ』
元気よく返事する、赤ちゃんありすたち。
しかし、どうにも様子が変ですね。
赤ちゃんありすたちは、返事の後に怪しい含み笑いを始めたのです。
しかもその両目は、双方が別々の場所を見ている状態ではありませんか。
赤ちゃんだというのに、下半身を突き出して、誰もいない空間に向かい体を細かく振るわせている始末。
生まれる直前に、蔓を通じて母親の狂気に触れてしまったのが原因か。
あるいは、元々狂っていた親ありすのUNAが作用しているのか。
それはわかりません。
「うふふふふ……」
「とかいは。とかいは」
赤ちゃんゆっくりとは思えない、奇怪な行動を取る我が子を前に、まりさは訝しがる様子もなく。
「まりさのあかちゃんは、ゆっくりしたあかちゃんだね!おかあさんはうれしいよ!」
巣穴の中からは、いつまでも気味の悪い笑い声と、子供を褒める声が響いていましたとさ。
おしまい。
あとがき
文章が長くなればなるほど、面白さを持続させるのが難しくなると痛感。
先達の方々はやはり、すごいんだなぁと。
え?コレの続き?需要あるんかな…。
と、思ってたら期待されてるようなので、ただいま考案中です。
びくびく。
是非、感想をお聞かせください。
補足(本スレで頂いた質問)
Q:UNAって何?YNAじゃないの?
A:遺伝情報DNAのゆっくり版ということで、YにしようかUにしようか迷いました。
最初はゆーNAと記述してましたが、間が抜けていたので読みを優先してUNAとしました。
最終更新:2009年02月20日 10:51