ゆっくりいじめ系2021 育児放棄?そんなもんじゃないんだぜ!! 中編




今回は赤ゆを言葉で苦しめます
ゲスまりさは今回出番なし
お兄さんが月気取りでストレスマッハ注意
ストレスを解消しきれない可能性あり
後編のための過程作品です

それでも構わないという方はどうぞ下へ




「おにいさん、おかえり」
「ああ、ただいま」

お兄さんが家に到着すると、縁側で赤れいむをお茶うけにオレンジジュースを摂って休憩しているゆうかが出迎えてくれた。
途中で回収したゲスまりさの入った箱を玄関に放置し、台所へと急ぐ。
畑で実の親まりさに見捨てられたうえ、重傷を負わされた姉まりさを治療するためだ。
罠用の箱から水槽サイズに赤まりさたちを移し替えると、お兄さんはすぐに瀕死だった姉まりさの状態を確認する。

「ゆ…ふ……ひゅぎゅ……」

今にも途切れそうな呼吸を繰り返すまりさ。
その様子は愛で派が見れば酷いと嘆き、虐待派が見れば心躍る惨状だった。
何度も壁に叩きつけられていたまりさの顔半分は潰れ、左目は眼窩からこぼれて頬にこびりついている。
許しを乞うために口を開いたせいで自らの歯により唇を裂き、舌の先端を噛み切ってしまっていた。
咥えられていた金色の髪は不揃いに千切れ、場所によっては毛根から引き抜かれて禿げてしまっている。
まりさ種自慢の帽子もぐしゃぐしゃに潰れ、ところどころに穴が開いている。もう水に浮かべることはできないだろう。
足に当たる部分も一部が破けていた。僅かばかり餡子が漏れ出しており、このまま放置すれば一時間後には衰弱死といったところか。
苦しいだろう、辛いだろう、そして悲しいであろう。お兄さんは心の中でほくそ笑む。

「……こんな状態なら、死なせたほうがいいような気もするけどね」

そう言いながら、まな板の上に傷ついた姉まりさを移動させるお兄さん。
いっそこのまま赤ゆ共の目の前で細切れにしてしまおうか。
そんな衝動が沸き起こるが、今はまだその時ではない。今回の目的のために理性で抑えつける。
二つの皿を準備し、片方には水で溶かすための小麦粉。もう片方にはオレンジジュースを注ぐ。

「しょんにゃきょちょいわにゃいぢぇー!」(そんなこといわないでー)
「おにぇーしゃんをちゃしゅきぇちぇー!」(おねーさんを助けてー)

彼の心境を知るはずもなく必死で姉を助けてほしいと懇願するのは、同じく箱に入れられたままの残りの赤まりさたち。
まりさ種にしては珍しい事だとお兄さんは思っていた。まりさと言えば自分のためなら家族すら捨てるゆっくりと認識されている。
その典型的なのが、コイツ等の親だろう。
そしてゆっくりは親からの餡子を通じ生まれるので、ゲス種からはゲスが生まれるのがセオリーである。
ましてゲスまりさに育てられた赤ゆ共ならば、姉を見捨てて命乞いをしないはずがない。
いったいこれはどうしてなのか…。もう片方の親がよほど教育熱心だったのだろうか。
そういえば…。と、お兄さんはふとあることに気づいて赤ゆたちに声をかけた。

「どうしてお前ら、全部まりさ種なんだ?」
「「「「ゆ?」」」」

お兄さんの質問の意図が分からないのか、赤まりさが全身を傾けて不思議そうな顔をする。
たしかあのまりさは母親だったか? お兄さんは赤ゆたちにわかりやすく訊き直した。

「おとーさんは誰なんだ? 他におねーさんは?」
「ゆゆっ! おとーしゃんはれいみゅだよ!」
「まりしゃたちはこりぇでじぇんいんだよ!」
「れいむ種が父親ねえ……」

通常ならば母性に強いれいむ種が母親役になり、行動力のあるまりさ種が父親になるものだが……。
新たな疑問が浮かび首を傾げるお兄さんだが、次の赤まりさの言葉でその謎が氷解した。

「れいむおとーしゃんはね、かりがちょーっちぇもじょうずなんだよ」
「おかーしゃんよりずーっとじょーずだったんだよ!!」
「おきょるちょきょわいけりょ……」(怒ると怖いけど……)
「おうちゃちょかたくちゃんおしえちぇくりぇちゃんだよ!」(お歌とかたくさん教えてくれたんだよ)
「なるほど………ん? ……『だった』?」

気になるフレーズが耳に入り、お兄さんは濃度を調整していた小麦粉を混ぜる手を止める。
すると赤まりさたちは、泣いていた顔をさらに歪ませながら話を続け、それを黙って彼は聞き続ける。
赤まりさたちの発音は聞き取りづらく時間もかかったが、どうにかお兄さんは内容を掴むことができた。
その話を要約するとこうだ。父親役だったれいむは森でも指折りの狩りの名手(笑)だったらしい。
まりさ種が本来は狩りを得意とするだろうが、それよりも上手かったのだから父親のれいむはよほどの腕前だったのであろう。
まあ、ゆっくりの中ではの話だが……。
そしてゲスであったまりさの事だ。おそらく優れたれいむを餌集めに利用するため、自ら母親になったと考えられる。
秋の場合は番いで餌を探したのだろうが、雪解け以降はれいむを利用する算段だったに違いない。
また十匹という赤ん坊の数から推測するに、植物出産であることは一目瞭然。典型的な冬ごもりの失敗例と言っていい。
通常ゆっくりたちは、餌が切れてしまわないよう冬ごもり中に子作りを抑えるハズだ。
もしくは胎生出産で産みすぎないように数を調整するものである。
だが目の前にいる赤ゆの数は明らかに多い。こいつらの両親は残りの餌で十分冬を越せると見誤り子作りをしたのだろうか。
胎生出産ならまだ望みはあった。だが植物出産をしてしまったことが、この家族の不運を決定づけてしまったのだ。
蔓からの出産は赤ゆの数が多く生まれるのも早い。ましてや生まれたばかりだと食欲も旺盛なのは周知の事実。
母親のまりさも出産後の疲れと食欲に任せて、予定より遥かに上回った食事を続けたと赤まりさたちは話した。
結果として春を目前にして餌は尽き、空腹の日々を送ることになった一家。
そもそも燃費の悪い赤ゆには、こまめな食事が必要不可欠である。
このままでは一家全員が餓死してしまうと、親れいむは質量不足の餡子脳で考えただろう。
大黒柱であり生来母性の強いれいむにとって、子供を間引くなどは考えられなかったはずだ。
ならばれいむに残された道は一つしかない。
ゆっくりたちが使える生涯最期の大技。自らを食料とする『お食べなさい』。これを使ったのだという。
そうして一家は、本当にギリギリの所で冬を越せたということらしい。

「おとーしゃん、はりゅになっちゃりゃきゃりをおしえちぇくりぇりゅっていっちゃのに……」(春になったら狩りを教えてくれるって言ったのに)
「「「「ゆえーんゆえーん!!」」」」

亡き父親の面影を思い出したのか、また赤ゆたちは声をあげて泣き始める。
どうやら最初の疑問だった全員が赤まりさなのは、単なる偶然だったようだ。
さてさて、それにしても親れいむも運が悪いことこの上ないとお兄さんは苦笑する。
せっかく恵まれた身体能力を持って生まれてきても、冬ごもりの相手がゲス。そして子孫を残そうとすれば全員がまりさ種。
結果だけ見れば、まりさ種の便利な道具兼食糧となった。これだけである。
そしてそのまりさのせいで、いま現在一家全滅の危機にあっているわけだ。
ここで自分がゲスまりさもろとも赤ゆを叩き潰せば、そのれいむの覚悟も水の泡となってしまう。
あまりにも無駄な生涯。お兄さんは筆に小麦粉を塗りながら口を開いた。

「なんだ、やっぱりゲスなゆっくりか」
「「「「ゆっ!?」」」」

今まで黙っていたお兄さんが発した突然の一言に、赤ゆたちは泣くことすら止めて見上げてきた。

「母親…じゃなかったな、父親か。お前ら自分の親食ったんだろ?」
「ゆ……」

勿論これはお兄さんの嫌みだ。『お食べなさい』とは、あくまで相手に食べてもらいたいから出来る行為だ。
これは強い仲間意識のもとでしかできず、またこれを行われた相手はその思いに応えなければならない。
この場合に限ったことだが、れいむを食べた事は正しい行為なのだ。
だがそんな事彼には知ったこっちゃない。
赤ゆたちの心にある罪悪感を全力で抉り始めた。

「まりさたちが巣の餌をバカになって食ったから、れいむは『お食べなさい』をしたんだ」
「ゆ……ゆ」
「じぇ、…じぇもまりしゃちゃちもおにゃか……」
「そんなの言い訳だろ? ガキだからって調子に乗って、父親の苦労も知らないで」
「ゆぇ……ゆぐ」
「どうせ『おにゃきゃへっちゃー』、『ちゃべもにょくりぇにゃいおとーしゃんにゃんかしにぇー』とか言ったんだろ?」
「「「「ゆあああああああああ!!!」」」」

お前らが父親を追い詰めたんだ。お前らが我慢していれば父親は助かったんだ。
何度もそう言いながら、お兄さんはまな板の上の姉まりさを治療していくことも忘れない。
瀕死だったまりさも、小麦粉を使った適切な処置で傷が塞がり、ジュースのおかげで窮地を脱した様だ。
意識もわずかばかり戻ってきているようで、残された右目でお兄さんを見つめている。
残されたその目に宿る感情は何か。お兄さんは小麦粉を塗り続けながら思う。

「ゲスから生まれた子はやっぱりゲスだよ」

そう吐き捨てると、彼は言葉を切って黙り込んだ。その間、一度も箱にいる赤まりさたちを見ることはなかった。
別に軽蔑していたわけではない。ただ手元が狂って姉の方を潰さないようにした為である。

「ま、まりしゃたゃちはげすじゃないよ!!」
「しょーだよ! おとーしゃんもげすじゃないよ!!」
「おとーしゃんちょまりしゃをばかにするおにーしゃんはゆっきゅりちね!!」

ちね! ちね! と騒ぎ始める赤まりさたち。
すでに半分近く治療を終えている姉まりさだけが、ただ黙ってお兄さんを見つめている。

「別にれいむをバカにするわけじゃないさ。お前らと母親に言ってるんだよ」

母親。その単語を聞いた直後、赤ゆたちは身を硬直させて黙り込んだ。
まな板の上の姉まりさも、その言葉に身体を震わせて反応した。筆先にわずかばかりの振動。

「だってそうだろ? こうしてのこのこ人間の住み家に野菜を盗みに来てるんだからな」

せっかく父親が命かけたのに、それで捕まってりゃ世話ねえっての。お兄さんは苦笑しながらオレンジジュースを染み込ませた筆に持ち替える。

「ゆっ! おやしゃいしゃんはかっちぇにはえちぇくりゅんだよ!!」(お野菜さんは勝手に生えてくるんだよ)
「しょんにゃきょちょもわきゃらにゃいじじいはばきゃにゃにょ? しにゅの?」(そんなこともわからないジジイはばかなの?)

相変わらず口うるさい…。今度こそ潰してしまおうかと思うが、それでも我慢してお兄さんは会話を続ける。

「あのさ、それ誰から聞いたわけ? れいむ? それともまりさ?」
「ゆっ、おきゃーしゃんだよ!!」
「おきゃーしゃんがおやしゃいしゃんのきょちょをおしえちぇくりぇちゃんだよ!!」(お母さんがお野菜さんの事を教えてくれたんだよ)
「へえ、お母さん………ねえ」

適当に相槌を打つと、もう一度小麦粉の筆に持ち替えた。餡子の流出は止まり、潰れた顔もようやく元の形に戻ってくる。

「お前らを捨てた親が何を教えたって言うんだよ」
「「「ゆっ!?」」」

捨てた。この決定的な一言に、赤ゆたちは意気込んでいた表情を強張らせた。

「お前らさ、さっき捨てられたんだよ? このまりさを殺そうとした母親にさ」

そう言ってお兄さんは、まな板の上の彼女たちの姉を筆で示す。
そこには餡子が漏れなくなったものの、未だ動けず片目を失ったまりさが横たわっていた。

「お、おねーしゃ……」
「まりさたちが教わった事って、全部嘘なんじゃない?」
「しょ、しょんにゃきょちょ……」
「おかーさんが狩りしてるとこなんて、見たことないんだろ?」
「「「……!?」」」
「どうせにがーい草さん食べさせられたんじゃない?」
「……にゃ、にゃんでしっちぇるにょ?」
「ほら、やっぱり騙されてたんだ。だってゲスな子供だし真面目に育てても意味無いよね」
「ゆ………ゆぐ」
「美味しいご飯を、どうして可愛くもない子供にあげなきゃいけないの?」
「ま、まりしゃたちはかわいよ、ぴゅんぴゅん……!」
「そんな子供に美味しいご飯なんて勿体ないよね!」
「まりしゃたちのはにゃしきいちぇりゅにょ? ばかにゃにょ?」(まりさたちの話聞いてるの? 馬鹿なの?)
「聞いてるとも。でもさ、かわいい子供を危険な外に出すわけないじゃない?」
「ち、ちぎゃうよ! きりぇーにゃおはにゃしゃんとかみしぇてくれるって」
「それなら普通は親が持ってきてくれるんだよ? 大事にされてなかったんだね!」
「しょ、しょんにゃきょちょなぃ……」
「そんなお野菜さんと子供じゃ交換しても割に合わないよね。役立たずのゴミなんて誰が欲しいの!?」
「まりしゃたちはごみじゃ……」
「そんなのが傍にあったら、ゆっくりできないね! まりさたちといてもゆっくりできないよね!」
「どうちでしょんにゃきょちょいうのおおおおおお!?」
「そんなゆっくりに価値なんてある? ないよね! 生ゴミ以下だよね!!」
「ゆびぃぃぃぃぃ! ちぎゃうゅうううううう!!」
「そんなゆっくりなんて、死ねばいいのにね!!」
「「「「ゆあああああああああああああああああああ!!」」」」

お兄さんは先ほど同様一気にまくしたてた。
ここで正しい正しくないなど餡子脳には判断できない。お兄さんは子供のケンカのノリで喋っただけだ。
だがそれは効果的で、単純な赤ゆたちは何一つ反論ができなかった。
とはいえお兄さんの言葉にも一理ある。先ほどの主張にも根拠が無かったわけではない。
山の自然界に於いて、生まれて間もない子供を狩りに連れていく動物はそういない。
ましてやゆっくり。場合によっては虫より脆弱なナマモノが大手を振って跳ねまわれるほど世界は甘くない。
しっかりした親ならば、子ゆっくりになるまで巣の中で外の知識を教えるものだ。
楽しいこと。嬉しいこと。危険なもの。怖いもの。それを餡子に刻み、子ゆっくりたちは外へ飛び出していく。
だが、こいつらの母親まりさはゲス。人間はゆっくりできないことなどを教えるわけがない。逆に弱くて便利な下僕だと教育したかもしれない。
またギリギリで冬を越したのだから、親まりさにも満足な体力はなかったであろう。
この赤ゆたちが生まれてどれだけ日が経ってるかはわからないが、雪解け直後は家の傍に生える雑草しか食べさせてもらえなかったはずだ。
赤ゆたちにも心当たりがあったのか、ガタガタと震えている。
自分たちは愛されているはずだ。そう母親を信じ切っていた子供たちの思いはすでに崩れかけていた。

「ゆ……、みゃみゃ…みゃみゃああ……」
「おきゃーしゃんにょばきゃああああ……」

やれやれと呆れてため息をつきながら、ここでようやくお兄さんは赤ゆたちに視線を移す。
そこにあったのは、絶望感に支配された小さな饅頭が10個ほど。
ある物は涙を流し、またある物は口から餡子を吐いて気絶し、そしてある物は放心状態のまま失禁していた。
まな板の上の赤まりさも残った眼からぽろぽろと砂糖水を流してただ震えている。
なんでもいい。あと僅かでこいつらが信じていた母親像は砕け散る。
お兄さんは大きく息を吸うと、さらに赤まりさを責め立てた。

「結局さ、親を食った時点でお前らはゲスなんだよ!! そんなゲスなんて誰も要らないんだよ!!」
「「「ゆびゃああああああああああああああああああああああ!!!」」」
「おとーしゃ……おとーしゃああああああ!!」
「ごべんにゃじゃいいいいいい!!」
「おぎゃーしゃんすちぇにぇいでええええええええ!!」
「もう遅いよ! お前たちのお母さんはみんな要らないって言ったからね!!」
「まりしゃのきょちょきりゃいににゃらにゃいでえええええ!!」
「いや、きっとだいっきらいだろうね! だってさっき捨てられたじゃないか!!」
「おねが…ゆげ…! おねぎゃいだぎゃ…ゆげぇ………まりじゃ、を…きりゃいににゃらにゃいいでええええええ!!」
「捨てたゴミなんて誰が好きになれると思うの? 馬鹿なの? 死ぬの?」
「ちが…ゆげぇ…! げぅ……まりじゃだぢはごみじゃ…!」
「ゴミが喋るな!! 虫唾が走る!!」

バァンッ!!!!

お兄さんは心底怒った声をあげて、姉まりさのすぐ上の台を叩いた。演技でやったとはいえ、手が痛い…。
声とは違う空気の震える衝撃。少し前に畑で蹴りあげられたショックが、まだ意識を保っていた数匹の餡子に蘇る。
忘れていた。今まで何にもしてこなかったが、この人間は自分たちよりずっと強い。
箱の中の赤まりさたちは、お兄さんを怒らせてはいけないと餡子の危険本能で悟ったのか、口を閉じる。
その様子に満足したお兄さんは、優しい笑みを浮かべて箱の赤まりさたち一匹一匹を見て回った。
恐怖と絶望。二つの感情に支配された今の赤ゆたちの餡子はさぞかし甘くなっていることだろう。
お兄さんは頬笑みを崩さないまま、今度は囁くような優しい口調で語りかける。
ただしその内容は、ゲスに優るとも劣らないほど悪辣極まりない。
元々彼は話術でゆっくりを狂わせるタイプであるため、こちらの方が得意なのだ。

「いいかい、ゴミまりさ? 君たちにはもう誰も頼れる人がいない。食べ物を獲ってきてくれる親がいない。お勉強を教えてくれる親がいない。生き方を教えてくれる親がいない」
「……………」
「そんな赤ちゃんは、すぐに死んじゃうだろうね。もしかしたらさっきおかーさんに潰されていた方が幸せだったかな?」
「……………」

必要とされない物には生きる価値がない。
赤まりさにはもう生きている意味がない。
意味を見いだせない命は必要じゃあない。
お兄さんは本当に優しい声で、延々と赤まりさに自分たちの無価値さを説いた。

「そもそもね、まりさ種っていうのは最低のゆっくりなんだ。自分のためなら親兄弟も見捨てるやつらなんだよ」
「おきゃーしゃん………」
「うん、そうだね。さっきのまりさ達のおかーさんがいい例だね。皆もあんなゆっくりになるんだよ」
「まりしゃたちはそんにゃきょちょ……」
「いいや、絶対になるよ。だってゲスまりさから生まれて育てられたまりさたちなんだよ? しないわけないじゃないか」
「あ、あんにゃにょもうおやじゃにゃいよ……! まりしゃたちはちぎゃうんだよ!!」
「そう。じゃあ誰から生まれたんだい? れいむはおとーさんだよね?」
「ゆぅ……」
「そもそもみんなまりさ種じゃないか。都合の悪いことは全部人のせいにする、ゲスで乱暴で最低のゆっくりだろう?」
「まりしゃたちはちぎゃううううううう!!!!!」
「まさかまさか。だって母親にそっくりじゃないか。まだれいむ種に生まれればよかったかもねぇ……。うふふふふふふ」
「そにょわらいきゃちゃはゆっきゅりできにゃいいいいい!!」

餡子を吐き散らしながらも、自分たちの存在意義を主張する赤まりさ達。
お兄さんに散々罵られたせいで、赤ゆたちの葛藤によるストレスは多大なものであった。
さて、弄ることにも飽きたしそろそろ十分だろう。お兄さんはようやく話を本題に移すことにした。

「まあ、必要とされれば誰かが好きなってくれるだろうけどね」

赤まりさたちは、必要と好き。この二つの単語に敏感に反応した。

「それじゃあ試してみようか? まりさたちが本当に必要とされて好かれているのか」
「……ゆぁ、どうしゅればいいの?」

言葉責めされて精神を擦り減らされた赤まりさたちに、その提案を拒否する余裕なんてない。
すでに出来レースである賭けに乗るしか道はないのだ。

「さっき言ったよね。うちのゆうかからお野菜さんの勉強をしてもらうって」

彼の言葉に首を傾げる赤ゆと、うなずく赤まりさの二種類。
さすがに餡子脳では覚えていないかと予想していたが、どうやら賢い個体もいくつかいるようだ。
お兄さんは頷いた赤まりさたちを見て話を続ける。

「よく考えたらゆうかが気に入ってくれないと、君たちには勉強をさせることもできないしね」
「ゆ……! わかっちゃよ! やりゅよ!」
「まりしゃちゃちのかわいしゃで、めりょめりょになりゅにきまっちぇるよ!!」
「おにーしゃんしょんにゃきょちょもわきゃらないにょ? ばきゃなの?」

なんとまぁ…、さすがゆっくり。あまりの余裕ぶりにお兄さんは爆笑したくなる。
一匹に好かれればみんなに好かれると思いこんでる赤まりさたち。
お兄さんは、まだ縁側でゆっくりしているゆうかを呼び出した。

「なに、おにいさん?」

しばらくすると、口元の餡子を舐めながらゆうかが現れた。

「ゆうか。たしか畑の手入れが大変って言ってたよな。それでお手伝いに赤まりさなんて必要かと思ってね」

敢えて『必要』という単語を強調するお兄さん。
無論大ウソだ。ゆうか種は畑を作ることを楽しみとしており、そこに邪魔が入るのを極端に嫌う。
野生でも単独で行動する個体が多く、何より彼女は捕食種だ。他のゆっくりを無条件で好きになる謂れはない。
もしこの赤ゆたちが台所でなく彼女の領域内で出会っていたなら、瞬く間に全て始末されていたことだろう。
そして彼は、今回の話をゆうかに全て伝えていた。つまりは彼女も共犯者。
普段は物静かなゆっくりゆうかだが、その根っこはオリジナル特有のドSさを潜ませている。
当初は面倒事に巻き込まれることを渋っていたゆうか。
だが協力すれば夏には向日葵畑用の場所を用意するという旨を伝えると、彼女は二つ返事で了承してくれた。
本音を言えば、お兄さんは無条件で畑の一部をあげるつもりだったが…。ゆうかかわいいよゆうか。
そんな彼らの事情は露も知らない赤ゆたち。
見たことないゆっくりだが、きっと自分たちを可愛いと言ってくれるに違いない。
同族が現れたことで早速自分たちをアピールする赤まりさ達。

「「「「「ゆっきゅりしちぇいっちぇね!!!」」」」」
「ゆっくりしていってね。……おにいさん、これが?」
「そう、それじゃよろしく」

そう言うとお兄さんは、ほとんど治療を終えた姉まりさの方に向き直った。今度は破けた帽子の修復に取り掛かる。
修復といっても、黒い布切れに糊を張り付けるだけで済むやっつけ仕事なので一分もかからない。
台の上に乗せられていた姉まりさは、やはり黙ってお兄さんを見つめ続けている。
その目は先ほどまでと違い、何か意思を含んでいるようだ。

「ゆっきゅり! ゆっきゅり!!」
「ゆ、おねーしゃんまりしゃたちかわいいでしょ?」
「ゆっきゅりできりゅよにぇ?」
「おにぇーしゃんにしゅりしゅりしちゃいよ〜!」
「まりしゃたちちょゆっきゅりしよーにぇ!!」
「ゆぅ〜ん、おねーしゃんまりしゃおなきゃしゅいちゃよぉ〜!」
「…………………」

お兄さんが黙々と作業を進める背後では、赤まりさ達の声が何度もあがる。
自分たちは可愛い。自分たちはとってもゆっくりしている。
だからこそ、自分たちを嫌うゆっくりなんて絶対にいるわけない。
ほら、緑の髪のお姉さんだって自分たちの可愛さに声も出ないではないか。
あの母親と目の前にるお兄さんは、ゆっくりしていないからそんな事を言ったんだ。
根拠のない絶対的な自信を持って、まりさたちはひたすらゆうかに自分たちを売り込む。
もう少し、もう少しでおねえさんが自分たちを大事にしてくれる。
結果を餡子脳に浮かべて赤まりさたちが精一杯の笑顔を見せた次の瞬間、




「さいあく、なんで『まりさ』なの?」




ゆうかの一言で凍りついた。
まって、いまこのお姉さんは何て言ったの? 聞き取れなかったよ?
その答えを聞いて口を開けたのはお兄さんただ一人。

「ははは、ごめんよ。捕まったのがそれだけでね……」
「まりさなんて、はたけをあらすだけよ。そんなゆっくりとはゆっくりできないし、いらないわ」
「要らないかい?」
「いらないわ。わたし、まりさなんてだいきらいだもの」
「言いきったね……。じゃあ、この赤まりさたちはどうする?」
「たべちゃえば?」

不機嫌そうに話すゆうかと苦笑するお兄さん。
二人の声も聞こえるし、姿も見える。けれど、赤まりさたちにはそれが餡子に入っていかない。
いらない。だいきらい。その言葉を言われないためにあれだけ努力したというのに……。
赤まりさの努力は一分も持たずに否定された。
お兄さんは母親に捨てられた時と同じような表情をして固まる赤まりさに振り返ると、少しだけ困った表情を浮かべてこう言った。

「だってさ………残念だったね?」
「ゆ………ゆびゃ! ゆびゃびゃびゃびゃ!!!」
「ぱぴぷぺぽ! ぱっぺぽおおおおおおお!?」
「ゆびゃらびゃばゆびゃびゃらゆびゅあ!?」
「ゆげ!? ゆっげげげげげげげげ!!」
「っと、やべ。壊れたか……?」
「だいじょうぶ。ただこんらんしているだけ。すぐにおちつくよ」

突如奇声を上げ始めた赤ゆっくりの様子に慌てるお兄さんに対し、落ち着いて同族の反応を見極めるゆうか。
その言葉通りお兄さんが姉まりさを治療し終えてしばらくする頃には、叫ぶことに疲れた赤まりさたちが箱の底につっぷして泣き始めた。

「まりしゃ……まりしゃいりゃにゃいきょなにょ?」
「いいきょににゃりゅよ……すちぇにゃいぢぇ……」
「みんにゃまりしゃをきりゃいなにょ…?」

そのどれもが完全に打ちひしがれていた。
最初は母親に。次はお兄さんに。そして最後は見知らぬゆうかに。
自分たちが今まで出会ってきた存在全てに否定されてしまった赤まりさたち。
途方に暮れた表情というのはこういうものを言うのだろうか……。お兄さんはしばしその様子を眺めていた。
すると、赤まりさたちの泣きじゃくる声が響く台所で、ほんの僅かな異音がお兄さんの耳朶を刺激した。

「さ…。…い…。お……、に……さん」
「……ん、誰だ? 僕を鬼さん呼ばわりするのは?」
「おにいさん、うしろ」

ゆうかの言葉に従って振り返ると、そこにはまな板の上で何度も身を捩じらせる姉まりさ。
先ほど彼を呼んだのは、この姉まりさだ。
潰れていた顔は膨らみを取り戻し切れていた唇なども綺麗に治されていたが、失った左目の部分だけは瞼が閉じたままだ。

「目が覚めたのか?」
「ゆ……、ゆっと、…おきちぇ……よ」(ずっと起きてたよ…)
「身体はどうだ、もう痛くないだろう」
「ゆ…ん……でも、あんよしゃんが……」
「それはお前の母親のせいだから、僕に言われてもね……」
「………ゆぅ……」

本音を言えば、あえてお兄さんは足を完治させなかったのだ。このままでは這いずりでしか移動できない。
足が満足に動かない状態では、腕のないゆっくりは起き上がるだけでも時間がかかる。

「お……、おに、…しゃん……は」
「待ってろ、今ジュースかけてやる」

動きは鈍く、話もたどたどしいのでは時間がかかってしまう。
体力回復のため、お兄さんはオレンジジュースを皮がふやけない程度、姉まりさに染み込ませると摘んで立ちあがらせた。

「あみゃあみゃしゃんだよ…、ゆっきゅりできりゅよ……」
「「「「「ゆああああん、おねえぢゃああああああん!!」」」」」
「だいじょーぶだよ、まりしゃは、もう、いちゃくにゃいよ……。ちょっとまっちぇちぇね…」(もう痛くないよ。ちょっと待っててね)

泣いて喜ぶ姉妹たちに対し、弱々しくも笑みを見せて応える姉まりさ。
まだどこか元気が無いように見えるが、これは精神的なものなので気にしない。
我ながらいけしゃあしゃあと対応できるものだと思うが、この程度のことなど虐待お兄さんにとっては最低スキルだ。

「で、どうしたんだい?」
「あの…にぇ…、まりしゃおにぇがいがあるにょ……」
「……お願い? それは何かな?」

お兄さんの質問に、姉まりさはしばし戸惑いを見せて悩む。
この先を言っていいものか、もし拒否されたらどうすればいいのか。そんな感情がありありと見て取れる。
そんな赤ゆっくりを見るのも一つの楽しみだ。お兄さんは何も言わず、ただ笑みを浮かべながら姉まりさの言葉を待つ。

「あのにぇ……、まりしゃちゃちをたしゅけちぇほしいにょ…」
「おねーしゃん?」
「どういうきょちょ?」
「ねえ、まりさ。それはどういう意味だい?」
「……まりしゃたちに、おやしゃいしゃんやいりょんにゃきょちょをおしえちぇくだしゃい!!」(お野菜さんやいろんな事を教えてください)

計画どおり。全てが彼の掌の上で進んでいた。
もちろん、彼はこの先の姉まりさの言葉を手に取るように予想していた。
そのためにここまで赤ゆたちを責めたのだ。幾度となく繰り返し赤ゆたちの心を抉り、餡子脳でも忘れにくいトラウマを植え付けたのだ。
全ては彼の楽しみのため。
そんな彼の計画をスムーズにしてくれたのは、この姉まりさであった。
おそらくこの姉は外見こそまりさ種だが、父親のれいむの餡子を一番強く受け継いでいるのだろう。
生きる事に執着するゲスの餡子と、仲間を思いやれる知性を兼ね備えた姉まりさ。
だからこそ彼は、わざわざ瀕死の姉まりさを治療したのだ。自分たちを見捨てた母を信じ、姉妹の事にも気を配れた姉まりさを。
無論姉まりさのような知性のあるゆっくりがいなくとも、お兄さんにはこの流れに持っていく用意はあった。
だがこれは嬉しい誤算だった。こうして姉妹の誰かが指揮を執ることによって、計画がさらに円滑に進められるからだ。
事実、待っていろと言われた妹たちは大人しく、事の成り行きを見守っている。
縋る物すべて失った赤ゆたちが生き残るには、姉まりさの考え付いたことしか方法がない。
人間の庇護下に入り、そこでルールを学ぶ。たとえゲスの母が言った通りの奴隷のような扱いをさせられるとしても…。
それでもどうにかして生き延びたい。姉妹を一匹でも多く救いたいという姉としての責任感を抱え、まりさはその道を選んだのであった。
ゆん生一代の決心をした姉まりさを見て、お兄さんはゆっくりと笑みを深めた。

「………わかったよ。君たちをしっかり教育してあげるとも」
「ほ、ほんちょ!? まりしゃたちをたしゅけちぇくりぇゆの!?」
「いいとも、もちろんしっかり勉強してくれるならだけどね」
「がんびゃりゅよ!」
「ゆぅ〜ん! おにーしゃんありがちょうね!!」

お礼を言うのはこっちの方さ。君たちのおかげで、しばらく楽しめそうなのだから。
お兄さんは赤まりさたちと出会った時のように、口を三日月の形に歪めて玄関の方へ顔を向けた。
すでに彼の意識は箱に入れらたままのゲスまりさへと向いている。
さあ準備は整った。ゲスまりさ、お前の苦しみはこれからだ!





後編




あとがき
………反省します。ほんとごめんなさい。どんだけ月気取りだよお兄さん。
最初は二回に分ける予定だったのに、無性に赤ゆを苦しめたくなってしまいもうgdgd。
モニターの前で一度土下座しました。もう一回します。
そしてせっかくゲスまりさを徹底的にいじめ抜くハズだったのに、いつの間にか赤ゆの洗脳ルートに……。
次回で締められるように努力するとともに、もし読んで下さっている方がいるならば、この場を借りて感謝を意を述べさせて頂きます。
次回こそ……次回こそ……ヒャア! 虐待だぁ!!

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2022年01月31日 03:25
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。