ゆっくりいじめ系1916 自殺願望 後編



自然の豊かなところでちぇんは生まれた
家族は姉も母もれいむ種だった。だから必然的に自分もゆっくりれいむなのだと思い込んでいた

生まれて一週間足らずで飛び跳ねる方や、餌を取りの方法を覚えた
ちぇんの高い身体能力もあったが、早く一人前になって母親に褒められたいという一心で努力もした
認められて、母親にたくさん甘えたかった

しかし、ちぇんのそんな努力は報われなかった

「もうがまんのげんかいだよ! ちぇんみたいな、れいぷされてできたこはいらないよ!!」

犯されて望まずに生まれた子供にまで、愛情を注ぐ余裕がこの母れいむには無かった
ちぇんには母のその言葉の意味がわからなかった

「かおもみたくないよ! さっさときえてね!!」

れいむから体当たりを受けて転がった時、自分には二股の尾がついていることに初めて気付いた

――自分はここの家の子じゃない

幼い頭でそのことだけを理解した
ちぇんが自分の本当の母親を探す旅はこの時から始まった




―――― 自殺願望 後編 ――――


彼にとって、来るはずのない2日目

「おい。起きろ」
「ん〜〜〜〜〜〜〜」

箱を蹴って涎を垂らして幸せそうに眠るちぇん起こす
朝食をとり、ちぇんには昨日の残りであるキャベツを与えると元気良く頬張った
ガツガツガツと口を高速で動かして小気味良いリズムで食べるちぇんを尻目に押入れを開ける

「どこに仕舞ったっけ・・・・・あ、あった」
「?」

不用品の詰まった押入れに体を突っ込み格闘すること数十秒
引っ張りだしたのは、中型犬を入れて持ち運ぶのを目的としたキャリーバックだった
車の車庫を思わせるシンプルなデザインだった
それを持ちベランダに出てホコリをはらう

「ほら、こっちに入れ」
雑貨の箱の牢を取り払い。ゲージを解放する
「はいったらちぇんをころしてくれるんだねー、わかるよー」
「はいはい」
抵抗する様子もなく、すんなりとキャリーバックの中に入っていく

歯を磨き、寝巻きから私服に着替える
学校には風邪をひいたと連絡を入れた。電話を取った担任が何か言おうとしていたが、咳き込むふりをして無理矢理電源を切った

「出かける。昨日も言ったけどお前にも手伝ってもらうから」
「わかったよー。そのあとにちぇんをころしてくれるんだねー」

ちぇんの言葉を無視して彼は玄関のドアを開けた
自殺願望者の一人と一匹は、町へとくり出した



「おにーさん」
「なに?」

町を徘徊している途中でちぇんが話しかけた

「このなかはいぬのにおいがしてゆっくりできないよー、わかってねー」
「お前、結構鼻が利くんだな」




子供の頃、犬を飼いたいと何度も親にせがんだ
ペットを飼っている友達が羨ましかった

「動物は家で飼えないから、これで我慢しなさい」

親が持ってきたのは、小さなゆっくりちぇんだった
見た目が動物に近いという至極単純な考えだった
せめて犬に近いゆっくりもみじの方にして欲しいとも思ったが、それで妥協することにした
餌は毎日野菜。その中でもキャベツを頻繁に与えた
なぜキャベツなのか? と餌を買ってくる母に尋ねると「帽子がキャベツっぽいから、つい・・・」と意味不明なことを答えた
ちぇんは成体と呼んでも差し支えないないくらいに大きく成長した
ある日。相変わらず「わかる」「わからない」を繰り返すちぇんの頭にゆっくり用の手綱を取り付けて上機嫌で散歩をしていた

別れは唐突にやってきた

公園に続く歩道の信号待ちをしている途中、ジョギング目的で公園に行こうとするジャージ姿の中年の男性が後からやってきた
ここまで結構な距離を走ってきたのか、その男性は急にヨロけた
その時、ちぇんの二つあるうちの一つの尾を踏んでしまった

「わ゛っっか゛ら゛な゛い゛よ゛お゛お゛お゛゛おおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」

叫び、痛みに耐えかねて道路に飛び込んだ
水風船の爆ぜる音がした
親が、本物の犬を飼っても良いと言ってくれたのは、それから一週間後のことだった



犬笛も、キャリーバックも飼っていたちぇんが死んだ後に新しく飼った犬のものである
その犬は飼って一年程で病気で死んでしまった
しかし、不思議と彼は悲しいとは感じなかった
自分の不注意でちぇんが死んで以降、彼はどんなことに関しても興味が持てなくなってしまっていた
生活に支障が無い程度には興味関心は持てるが、それ以上の踏み込んだ感情は湧いてこなかった

子供の心は繊細で、その時にできたトラウマは大人になっても誰もが引きずり続ける
しかし、彼の“ソレ”は人一倍強かった
生まれつきそういう性質なのか、ちぇんをそれだけ可愛がっていたからなのか、今となっては本人でもわからない





町で『声』を探し始めて、早くも時間は正午となる
駅の駐輪場のベンチに座り、横にちぇんの入ったバッグを置いてコンビニで買った昼食を口に押し込む
ちぇんには途中。八百屋で買ったキャベツを与えた

「かみさまのこえはきこえないよー」
「手がかり無し・・・か」

彼の考えた神様探しの方法は
ゆっくりが集団自殺した周辺を歩き、ちぇんが再びその声を感知したら彼に伝えて、その方向へ向かうという単純なものだった
だが、今のところその成果は無い

町はいつにも増して野良犬とカラスの数が多かった
原因はもちろん、ゆっくりの死骸にありつくため
午前中だけで50回以上はゆっくりの死体を彼は跨いだ

しかし昨日今日の保健所や自治体の積極的な清掃で町は段々と元の姿を取り戻しつつあった

『神様の声を聞いて』生き残っているゆっくりはもう、彼の横にいるちぇんだけかもしれない
先程、生きているゆっくりの家族を見つけたがそれは隣の町から新たに来たばかりのゆっくりだった

「なぁ、お前はまだ死ぬ気でいるのか?」
「あたりまえだよー、わかってねー」

彼はいつの間にか、このちぇんを昔飼っていたちぇんと重ねて見ていた

「自殺なんてのはボクみたいに弱い奴がする事だよ。お前みたいな強いやつがすることじゃない。お前なら努力したらいくらでも幸せになれるだろ」

ちぇんの生い立ちを知って、彼は素直に目の前にいる饅頭モドキに尊敬の念を抱いていた
このちぇんを死なせたくはなかった

「おにーさんのいってるいみがわからないよー?」
「お前は死ななくても良い。ってことだよ。この町を出てらんさまでも見つけて仲良く暮らせば良いだろう」

彼がそう言った瞬間、ちぇんの入っていたキャリーバックがガタンッと大きく揺れる

「ちぇんのじゃまをするやつは、だれだってゆるさないよー!!
 ちぇんのおかあさんはきっと、むこうにいるはずだよー。かみさまが“ほしいもの”はみんなあるっていってたからわかるよー!!」
「コラッ、暴れるな! この箱、古くて脆いんだから」

ちぇんは真剣に怒っていた
さっきまで友好的だった態度が一変している
そのちぇんに諭すように言う

「いいか。死は“ゴール地点”なんだ、その先には何もない。終わり、終点なんだよ。お前みたいなのが目指す場所じゃない」
「ちぇんたちにはかみさまはいるんだよーーーー! ゆっくりしないでわかってねーー!!」
「その『声』がそもそも嘘っぱちなんだよ!! いい加減気付けよ!! お前はそこまで馬鹿じゃないだろ!」

通行人が居ても気にせず怒鳴った

「うそじゃないよー!」

そう言うとちぇんは耳をピンと立てて学校の方向に体を向けた
そして彼を睨んで言った

「こえはいま、ちゃんときこえてるんだよーーー!!!」
「へ?」

彼は思わず間抜けな声を漏らした









『あーあーあー

ゆっくりのみなさーん、聞こえますかーーー

この声が聞こえるゆっくりのみんなは新しくこの町に引っ越して来た子ばかりかな?

ウェルカム!! ようこそ!! 私の町に!! 大歓迎します!!

そんなみなさんには耳寄りな情報を一つ。それはみんなががとってもゆっくりできる方法なんですが

すこし痛い思いをしてもらいます・・・・・・・・・大丈夫。怖がらないで

それは誰にでも訪れます、それがほっっんの少し短くなっただけ。そう思えばなんだかお得でしょ?

なぜ私がそんなことを話すのかというと、実は神様の手違いで、みんなが生まれてくる世界を・・・・・・・・』



校舎に入っても彼は他の生徒と出くわさなかった
昨日、担任がこの日からテスト週間に入り授業は午前中だけになる。と言っていたことを思い出す

彼はまず二階にある自分の教室に行き、机の上にちぇんの入ったキャリーバックを置き、窓を開けた
新鮮な空気と同時に、教室にゆっくりにしか聞こえない『声』が入り込んできた

「きこえるんだよー! かみさまのこえだよー!」
「だからそれは人の声だって言ってるだろ」
「ちがうんだよー! かみさまはいるんだよー!!」
「ああ、もう!・・・・・この話は後だ。ここで待ってろ。いいな、絶対に死のうなんて考えるなよ」
「わからないよーーー!!!」

バッグの中で暴れるちぇんを残して、彼は放送室へ向かった





「ふぅ・・・」

放送室のマイクの前で原稿用紙二枚分の文章を読み終えて、彼女は呼吸を整える意味で小さく息を吐いた

「ん?」

誰かが戸を叩いた

(誰だろう? 部員はみんな帰ったし)

ドアを開けると幽霊部員がそこに立っていた

「どうしたの、しかも私服で?」
「あの放送。部長なんですね。アイツが『学校から声』がするって言わなかったら、ずっと駅のアナウンスから声がしてたんだと思ってました・・・・」
「何の話?」
「ゆっくりに自殺を促してるのは、部長なんですね」

彼の目は真剣だった。おふざけを言えば女でも容赦なく殴り倒すとその目が語っていた

「・・・・・・その格好じゃ人目につくでしょ? 入ったら?」

言い逃れ出来ないと悟り。彼を中に招き入れた
室内は複数の種類のマイクに、高価な音響装置、収録用の部屋と設備が充実していた

「伊達に大会で良い成績取ってないわ」

彼女は沢山ある音響のツマミのいくつかを指差した(どれもこれも横文字で彼にはそれぞれのツマミがどんな役割を持つのかはわからないが)

「ゆっくりにしか聞こえない音を見つけたのは本当に偶然・・・・みんなで機械をガチガチャいじってる時にね。知ってるのは私だけだけど」

指差した部分を上手く調節したら、声が例の音に変換されて大音量で町に流れるのだろう

「私ね…」
「部長の動機はこう言ったら悪いですが・・・興味ありません。金輪際、ゆっくりに自殺を促すのを止めてくれれば。それ以外は知ったことじゃありません」
「・・・・・・・・いいわ。やめる。もうしないわ」
「ありがとうございます」

特にこの事態に執着していなかったのか、彼女はあっさりと観念した

神様騒動の決着は呆気なく
だれにも知られることなくひっそりと終わりを迎えた





頭を大きく下げて一礼してから放送室を出て、彼は屋上に登った。下見のつもりでここにやってきた
駅前や学校の前の道路でまたクラクションが鳴り響いている
部長のアナウンスの内容を鵜呑みにしたゆっくり達が自殺を始めているのだろう
ここに来る途中で通った生物部の部室の前からも騒ぎ立てる二匹の声が聞こえた

屋上の空気は相変わらず新鮮で、教室の淀んだ空気とは大違いだった
ここだけ世界と切り離されているような気がした

部長はもうこんなふざけたことはしないと約束してくれた
2〜3日したら、この騒ぎも収まる
その時に死ねば、自分の死は深く印象づけられるはずだ

(あ、鞄。放送室に忘れてきた)

あの中に遺書を入れっぱなしだったことを思い出す

(もう、いいや。先延ばしにすると未練が残るし、今更だれもボクの自殺とゆっくりは絡めないだろ・・・・)

今ここから飛ぶのが時期的に最適だと彼は考えを変えた

校庭を見渡す。グラウンドには、大会が近いごく少数の学生が残って自主練習をしているだけだった

「にしても、高いな」

真下を見たら眩暈がした、高所恐怖症ではないが。さすがにいつまでも見ていたくはない
地面はアスファルトのため、落ちたら間違いなく死ねるだろう
一歩後に下がり縁の段差から降りて、目を閉じて頭を切り替える
二日前の電車に飛ぼうとした時の気持ちを思い起こす

「よし・・・・・・・大丈夫、怖くない」

静かに目を開けた
躊躇いなく、また屋上の縁に立てた。真下を見ても怖いとは思わなかった
幸い、今日は風が無かった。事故ではなく、自分の意思で飛べたことを証明できそうだ
あの時踏み出せなかった一歩を今度こそ成功させる
先程よりも鮮明に、真下の様子が見えた







部長は彼の封筒を握り締めて階段を駆け上っていた
封筒には『遺書』と筆ペンで書かれていた

彼が去ってから、少し経って鞄を放送室に忘れていったことに気がついた
別に盗み見をしたわけではない
届けてやろうと持ち上げた瞬間、鞄の蓋が開いていたらしく。中身を派手に床にぶちまけてしまったのだ
その中に非常に目立つ封筒があった

昨日屋上で見た彼の後姿を思い出す
アレは冗談ではなかった

もう一つ階段を登れば、屋上にたどり着く
何がなんでも彼を止めなければならないという使命感に駆られ、運動音痴なりに懸命に走る

「痛っ」
「きゃっ」

踊り場で何者かと肩がぶつかった

「すみません部長、急いでるんで!」
「え?」

ぶつかった相手は遺書の持ち主だった
彼はそのまま階段で下の階に下りていった





「頼むよ・・・見間違いだよな・・・」

飛び降りようと決意した時、下で嫌なものを見た
それは黒と緑と黄土色の点
そんなわけがないと、教室いるちぇんの姿を確認しようと走る

教室には、ドアのネジが外れてドアの取れたキャリーバックだけが残されていた

長い間押入れの中で圧迫されていたキャリーバックのドアは、ちぇんの数回にわたる体当たりで簡単に壊れた

窓が開いていた。窓を開けたままにしておいたことを思い出す
ちぇんの身体能力なら机の上によじ登って、窓辺まで行くのは容易いだろう

窓から身を乗り出してアスファルトを見た
この世で一番見たくないものがそこにあった

靴も履き替えず外に出る
その物体の近くまで歩み寄る

「なぁ」
「わかる・・・・・・・・・・・わかるよぉ・・・・・おにーさんなんだねぇ」

ちぇんはまだ辛うじて生きていた
罵倒したかった。「なんで飛んだんだ!!」と本当は怒鳴りたかった

「大丈夫か? 痛くないか?」
「わか、らな、いよぉ」

ちぇんの体の底は大きく破けて、餡子がでろりと出ている。顔は真横を向き、目の焦点が定まっていなかった
餡子を全部戻したら、もしかしたら助かるかもしれない

「さわらないでほしいんだよー・・・・・・わかってねー」

手を出そうとしたら拒まれた

「ちぇんはおかあさんにあうんだよー、じゃましないでねー」

それを聞き、彼の肩から力が抜けた
言ってやりたいことが全部、言えなくなった
静かに見送ってやることしか、今の自分には出来ないと悟った

「そうか・・・・・・うん・・・会えるといいな」
「ぜ、たいにあうんだよ・・ぉ」
「お前に似てさぞ美人なんだろうな」
「ぁたり、ま、えだよぉー」

口周りが僅かに動いた、ちぇんが微笑んだのがわかった
だから彼も笑い返した

二つあるうちの一つ目の尾が、べたりと地面に倒れた

「おにーさんに、も、・・・・しょうかいする、よぉ・・・」
「ボクに? 良いの?」
「あたり、まぇ、だ・・・よぉ。おにーさんは、ちぇん、に・・・・ごはんを・・・くれ・・る。いい、ひ、と、だから・・・」

ちぇんの呼吸のペースが徐々に短くなる

「さきに、い、って、るよ。ゆっ、く・・・・り、まってるよ」
「必ず会いに行くよ。それまでにお母さん見つけとけよ」

「わ、わかる・・・わかるよぉ・・・わかる・・・・わかる・・・わか・・や、っぱり・・・・・わか・・・ら・・・ない、よ・・・・ぅ・・ぃ・・」

二つ目の尾も力なく地面に垂れた
一つの命が、終わりを迎えた瞬間だった

「お前が死ぬ必要なんて・・・・どこにもないだろ」

目の前に“死”が転がっていた

二度と動くことのなくなったちぇんを見て、彼は膝まづき両手を組んで震えだした
それは祈る姿に似ていた

歯の上下がぶつかり自分の意思とは関係なくカチカチと鳴る

昔飼っていたちぇんが死んだ現場でも、こんな風に死体の目の前で蹲っていた事を思い出す
あの時、自分が綱をちゃんと持っていれば、悲劇は起こらなかったとずっと後悔してきた
なのに。キャリーバックが脆いことをわかっていながらちぇんを教室に放置した
一匹なったちぇんは死ぬことを目指し、行動することくらい少し考えたら想像できたはずだ

「なんで・・・・・二回も、同じ失敗してるんだよ・・・ボクは」

横隔膜が自分の意思に関係なく痙攣を始めた

その痙攣が、彼の中で感情をせき止めていたダムに小さな亀裂を作った

凍りつき、麻痺したはずの精神に生温かい血が流れ込み躍動を始めた

気付けば泣いていた

「う・・・・う、うぅぅ」

ようやく体が死が怖いことを再認識してくれた

今までずっと“死”が見えていなかった
見えてるつもりでいた。希釈された薬品のように、都合の良い所しか見ていなかった

校舎に背中を預けて両手で顔を覆った

このちぇんと全く同じものがこのすぐ近くで繰り返されている
この町で自殺したゆっくりはさっきまでの自分と同じだった
死が救いになると勝手に錯覚して、疑うことなく死を選ぼうとする
ゆっくりを下等生物を見下していながら、その根っこの部分では自分も同じだった

でも“違う”と、死の間際で自分はそのことに気付けた。ちぇんが引き返させてくれた

部長が駆けつけてもしばらく彼は泣き続けた
彼の自殺願望は、ちぇんの命と共にどこかに消え失せた









『あーーあーーー・・・・・ん゛ん゛っ

ゆっくりのみなさーん。毎度お騒がせしてます、神様です

誠に勝手ながら、死んだゆっくりの受け入れをここで打ち切りたいと思います

「どぉしてそんなことい゛うのおおおおおおおおおおおおおおおおお」って声が聞こえてきそうです…

死ななかったゆっくりのみなさんはせいぜい頑張ってこの世界で這い蹲って生きていってください

ゆっくりのみなさん。あなた達は弱いです。どれだけ集まっても弱いです。ありえないくらいに弱いです

私がこうして話している今も、きっと多くの理不尽に苛まれているのでしょう

だからといって、それに屈していいとは神様、思いません

戦ってください。醜く、意地汚く、悪辣に、無様に、滑稽に、無意味に、

きっと、足掻いても。足掻いても。あなたたちは報われないでしょう

それがゆっくりなんです。ご愁傷様です

だから、せめて自分の納得のいく形で死ねるように、精一杯頑張ってください

神様はそんなあなた達を嘲笑いながも、心のどこかで応援していると思います・・・・多分。』














冬空にも関わらず日差しは暖かく。風は静かで、雲は緩やかに流れていた

学校の裏手
生物部が部で飼育していたゆっくりの墓の前

「クラスのイジメが担任の耳に入ることになりました。虐めグループは全員しばらく停学になるそうです」
「そう・・・・」

そこに一つ、部で飼育されていないゆっくりの墓が追加されていた。キャベツが一玉供えられている

「結局、突き詰めていけば『ゆっくりが嫌い』で部長はこんなことを?」
「いや、そうじゃなくて。ゆっくりってさ、なんていうか。こう・・・嗜虐心をそそられるのよ。
 幸せだったら邪魔したくなるような。寝てたら抓りたくような。気まぐれで理不尽に潰したいというか。わかんないかなぁ?」
「全くわかりません。しかもそんな理由で公共機関止めるとかありえないですよ」
「最初はゆっくりがどれくらい単純かな〜〜〜って調べようと思った好奇心で・・・・すみません、反省してます。悪ノリが過ぎました」

彼にジト目で睨まれて、すぐに謝罪する
しかし、それが彼の自殺を間接的に二度も阻止させていた
彼女の悪ふざけが無ければ、数日前に彼はこの世を去っていたのは紛れも無い事実である

「この子にも、酷い事しちゃったね」

ちぇんの眠る墓の前で部長が手をあわせる

「もしかしたらアイツ。気付いてたのかもしれません。神様も、自分の本当の母親も、何処にもいやしないって」

「なぜ?」という表情で彼女は顔を上げる

「あいつは死ぬ“きっかけ”を探していたんじゃないでしょうか? 自分の死の恐怖を薄めさせてくれるモノが・・・」

少し前まで、自分も同じ場所にいたからそう感じる
死ぬ間際にちぇんは「わからない」と言った。そこに全てがあるような気がした
もちろん、それは彼の勝手な推測でしかないが

「ボク転校することにしました。来学期に両親が暮らす町の学校に途中編入することに。だからすみません、放送部を退部します」

一年近く疎遠だった家族と話し合いで決めたことだった

「いいよ、人数が減っても今年一杯までは部として成立するし、私は卒業だし・・・・・・でも少し、寂しくなるね」
「そう言ってくれるのは、この学校で多分部長だけです」

墓から立ち去る時に、一度だけ彼は振り向いた

(ちぇんが、むこうで本当の母親と出会えていますように・・・)

生まれて初めて、彼は神に祈った



fin






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最終更新:2009年01月10日 07:24
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