ゆっくりいじめ系1915 自殺願望 前編

注意
  • 設定にやや難有り



『あーあー。テステス

もしもーし?

この声が聞こえる範囲にいるゆっくりのみなさーん。元気ですかー?

唐突ですが。私は、あなたたちゆっくりをこの世界に生み出した神様です

その証拠にこの声はあなたたちゆっくりにしか聞こえません

周りを見てみてください。ほら。こんなにも大きな声なのに人間は誰も不審がっていないでしょう?

ところで、この町で暮らすゆっくりの皆は今、本当にゆっくりできているかな?

                    • そうだね。出来ていないね

でも、それにはワケがあります

実は神様
みんなが
生まれる
世界を
間違えちゃいました

本当はみんな、もの凄くゆっくりできる世界に生まれる予定だったんだけど
手元が狂ちゃって、こんなつまんない世界にポトリ・・・と

オーケー、オーケー。怒らないで。神様、ちゃんと責任は取ります

でもそのためにはまず、みんなに一度死んでもらわなくちゃいけません

え? 死んだらゆっくりできない? 大丈夫。死は終焉ではなく始まりなのです

死んだ子から順番に本当にゆっくりできる世界に送り届けてあげます

死に方は自由。だからなるべく痛くない死に方を選んでね?

コッチは良いよー。美味しい食べ物はたくさんあるし、お日様は気持ちいいし。ほしいものはなんでも揃ってる・・・・・ 』




















授業が終わり。学校に隣接した駅で彼はもうじき来る電車を待っていた

「16時、34分・・・うん、時間通りだ」

遺書の入った学生鞄を駅のホームのベンチに置いて、ようやく見えた下り電車の光を出迎える
遺書には自分を虐めた同級生の名が全て挙げ連ねてある

場内アナウンスが始まる
その指示に従い、白線の内側に立つ。あとは電車がここを通過するよりも一歩だけ早く前に出ればいい

不思議と怖くは無かった
それ以外の感情も特に湧いてこなかった
彼の麻痺した感覚は、自殺という行為を単一な作業と同等視してしまっていた

「ゆっくりりかししたよ、かみさま!」

電車が近づき、いよいよ一歩踏み出そうと何の躊躇もなく足を上げた瞬間“それ”は彼を後から追い越した
赤いリボンを付けた丸い物体
彼を差し置いて、それが勢い良く電車の前に飛び出した

風船が割れた時のような音がした
列車が急ブレーキをかけて、鉄と鉄の擦れる耳障りな音が響いた

ゆっくりれいむが列車に身投げした
気のせいだろうか、そのれいむは飛び込んだ瞬間、とても幸せそうな、なにか満たされたような顔をしていた

「先を・・・・・越された・・・・・」

目の前で起きたことに思考が追いつき最初に頭を過ぎった言葉を、彼はそのまま口にした



―――― 自殺願望 前編 ――――




ゆっくりれいむが列車に投身自殺をしたそのすぐ後
駅前の道路で車のブレーキ音やクラクションがけたたましく鳴り響いた

「なんだよコレ」

音が気になり、彼が鞄を持って駅の通りに出ると、道路の所々に黒い塊が散らばっていた
全てゆっくりの死体だった
カステラ菓子の包みを開けた時にする甘い香りを何倍にも濃縮した臭いがした
道路で止まっている全ての車にはそのゆっくりの餡子や皮、装飾品が付着しており
市営バスには、まるで雪かき後の除雪車を思わせるほど死骸が張り付いていた

彼はその光景を見て、吐き気がこみ上げて来た

「おい! どぉいうことだ!? こいつらがいきなり前に飛び出してきやがった!」
「こっちもだ。通過してから道を渡るのかと思ったら、急に道路に」

ドライバーが車から降りて口々に自分に起きたことを叫び、身の潔白を訴える
幸い車は突然道路に飛び出したゆっくりを撥ねた程度で、事故らしい事故は無かった
何が起きているのか? その場に居合わせた全員理解することが出来なかった

「おにーさん、ちょっといいかなー?」
「?」

足元で声がした、そこに視線を移すとゆっくりちぇんがいた
大きさはサッカーボールよりも一回り小さめで、まだ成体ではなかった

「なに?」
「ちぇんをころしてほしいんだよーゆっくりでいいからわかってねー」

いきなりそんなことを言ってきた

「殺す? お前を?」
「そうだよーおにいさんならかんたんでしょー?」

餌でもねだるように、殺して欲しいと言うちぇんに彼は苛だちを覚えた
彼の死は取るに足らない存在であるゆっくりにより延長させられた
ゆっくりが自殺したせいでしばらくどこの駅でも警戒態勢が引かれるであろうことは予測できた
そのため、また新しい自殺方法を考えなければならない

「嫌だね、死にたいのはボクのほうだっていうのに。お前等が邪魔しなかったら今頃は…」
「わかるよー。おにーさんもかみさまの『こえ』がきこえちゃったんだねー、だからしにたいんだねー」
「声? なんだそれ?」
「かみさまがいったんだよー。『しねば、ゆっくりできるせかいにつれていってくれる』ってー」
「もしかしてその声で他のゆっくり達は自殺し始めたの?」
「そうだよー。だからちぇんもしにたいんだよー。おにーさんならいたくないようにころしてくれるよねー?」
「・・・どうしてボクがゆっくりの命令を聞かなきゃいけないんだよ」

彼はちぇんを乱暴に掴み持ち上げた
ちぇんを持ったまま、自宅へと向かった
学校から15分歩いた場所に、彼が一人で暮らす2LDKのアパートがある
家族は、父親の仕事の関係で去年県外へ引っ越していた
彼だけが現在通っている高校の都合でこの町に残っている

「それで、そんな声いつした?」

部屋に戻り開口一番ちぇんに尋ねた
神も仏もいない世界で(少なくとも彼はそう思っている)、ゆっくりがその名を口にするのに彼は僅かに興味を抱いた
自分の自殺を邪魔した者の存在を突き止めたかった

「おにーさんに、はなしかけるすこしまえだよー。わかってねー」
「(少し前ってことは、ボクが電車を待ってる間か)・・・・・・・・で、話の内容は?」
「かみさまはいったんだよー、ちぇんたちのいるほんとうのせかいは“ここじゃない”ってー」
「ここじゃない?」

ちぇんの目が輝きだした。その生気の宿る目は自殺志願者のものにはとても見えなかった

「かみさまは、ちぇんたちがうまれてくるせかいをまちがえてしまったんだよー。だからしんだゆっくりからじゅんばんに、ほんとうにうまれるべきせかいにおくりなおしてくれるんだよー」
「それってどんな世界?」
「ほしいものがなんでもそろってるんだよー。だからはやくしにたいんだよー、ちぇんにはかなえたいゆめがあるんだよー」
「あっそう」

雑貨を詰め込んであるプラスチック製の透明な箱をひっくり返して中身をカラッポにすると、それを逆さまにしてちぇんにかぶせた
取り出した雑貨をその上に乗せて重しにした
ちぇんを箱の中に完璧に閉じ込めた
箱は、詰めれば同じ大きさのちぇんがあと三匹入れるほどの広さがあった
持ち手の部分に穴が開いているため、酸欠になることはない

「お陰で予定が滅茶苦茶じゃないか。このタイミングで死んだらゆっくりと同レベルの人間だって思われるだろ」

彼は死ぬ前に一つ、どうしてもやらなければいけないことが出来た
ゆっくりに自殺をけし掛けた神様気取りの何ものかを突き止めて、自殺をやめさせなければならなくなった
そうしなければ自殺を実行しても、自分の死がゆっくりの自殺に埋もれてしまうような気がした

テレビをつけると、地元のテレビ局でゆっくりの大量自殺が報道されていた
ゆっくりが自殺したエリアは駅とその駅に隣接する学校の周辺だった
被害の報告と現場の映像が一通り流れると、次のニュースである政治家の汚職に内容が切り替わった
たった1分足らずの報道。世間はゆっくりの集団自殺をその程度の認識でしか捉えていなかった

「おにーさんおなかがすいたんだよー、わかってねー」
「餓死できるからいいんじゃないの?」
「おなかがへってしぬのはぜんぜんゆっくりできなんだよー」

痛みを感じず楽に死にたい。人間もゆっくりも考えることは同じだった
だから電車や車、飛び降りなど(ゆっくりにとって)即死できる方法を選んだのだろう

彼はちぇんを死なせる気はなかったので。冷蔵庫に残っていたものを与えようと立ち上がった

「何かあったっけ・・・・何もないな・・・」

死ぬ予定だったので、冷蔵庫は空にしてあった

「ん・・・」

流し台の下に残っていたキャベツを見つけ、それを半玉分与えた
与えると勢い良く食べ始めた。床にはちぇんの涎しか残らなかった
床が汚れたが別に気にならなかった

食べ終えて、満腹になったら気が抜けたのか、ちぇんはウトウトしだしてやがて眠ってしまった

(夕飯買いにいくのも面倒だしな・・・・・ボクも寝るか・・・)

そう思ったら。時間はまだ夕方だが自分も急に眠くなった
今日一日特に何かをしたというわけではないが、疲労感がこみ上げて来た
それだけ気を張っていたのかもしれない

(明日学校どうしよう…まあいいや、朝考えよう、眠い)

そう思い、風呂にも入らずに彼は布団にもぐりこんだ









翌日
続くはずのない明日がやってきた
来ないはずの一日が始まった

朝、彼は学校に行くかどうか迷っていた
もうじき死ぬ予定の人間が行っても時間の無駄だと思っていた

(でも昨日のこともあるしな・・・・)

学校で何か異変は起きていないか気になり、行くことにした

しかし、世間は相変わらずだった
学校へ着くといつも通りのホームルームがはじまり、1限2限と授業が続いていく
冷静に考えたらそれが当然である
日常の変化を少しでも求め、それに淡い期待をした自分が心底嫌になった
目新しいことを言えば、通学中に見かけるゆっくりの死体の量が増えたことくらいである

ようやく4限目の終了チャイムが鳴る
その音と同時に彼はひっそりと教室を抜け出た
午前中、彼は教室で言葉を一言も発していなかった

昼休みはロクな事がない
この教室にはロクな奴がいない
いるのは加害者と傍観者だけ

虐めのグループに目を付けられたのが4ヶ月ほど前
休み時間にいきなりボールをぶつけられたのが始まり
その日以降、親しかった者達は徐々に彼と距離を置くようになった
だが彼は友人を恨んではいなかった。自分が同じ立場ならきっと同じような行動を取っていた。お互いその程度の間柄だったと割り切っている
ちなみに、眼鏡を三度割られてから使い捨てのコンタクトレンズに変えた

いじめっ子曰く。彼は【イジメ菌】の保有者で、彼に触れた者は感染して新しい【イジメ菌】の保有者になるらしい
そうなると新しい感染者が虐めの対象になり。前の感染者はお役御免となる
そんな理不尽なゲームルール


校舎の階段をひたすら登っていく
「立ち入り禁止」と書かれた看板を何食わぬ顔ですり抜けて、扉にかかる鎖を慣れた手つきで外して、鍵のノブを乱暴に回した
ドアを開けると冷たい風が流れ込んできた

彼は屋上に出た
屋上にはフェンスはなく、だだっ広い面積の中央に貯水のタンクだけが虚しく鎮座していた
屋上の床とその縁の段差は30cmもなかった
飛び降りようと思えば、簡単にできた

「何してるの?」
興味深く下を覗き込んでいると、背後から声がした
一つ学年が上の女の先輩だった。その人が屋上のドアの所で彼を心配そうに見つめていた
彼女は放送部の部長で、学校行事やアナウンスコンテストなどの大会に熱意をもって取り組んでいる生徒だった
新入生歓迎会がきっかけで偶々知り合いとなって、近からず遠からずの関係だった
彼が二年生に進級する際、彼女が所属している放送部が人員不足で廃部の危機になった時「幽霊部員でいいから籍を貸してほしい」と頼まれた
そのことで彼女は恩義を感じてくれているのか。なにかと彼を気にかけてくれていた

「後姿を見かけて、なんとなくついて来たんだけど。もしかして飛び降りる気だった?」
「まさか。度胸試しで立ってみただけですよ。そんなことしませんよ」

『声』の正体を突き止めるまで死ぬつもりはなかった

「昨日の放課後、学校にいた? 今日はみんなその話題で持ちきりだったよ」
「ボクは用事があってたまたま駅前にいたから、その現場をモロで見ちゃいましたよ」

お陰で全てが台無しになった

「私その時、放送室にいたから知らなくて・・・・・どんな感じだった? 私が行った時にはほとんど片付けられてたから」
「グロかったですよ。そこらじゅう餡子まみれで。道路が斑(まだら)模様みたいになって気持ち悪いのなんのって・・・」

両手を広げて、ジェスチャーを使い状況の説明する

れいむとまりさの親子が、段差のある塀の一番高いところまで登り「せーの」とタイミングを合わせて落ちた。親子は仲良く潰れた

みょんが自転車通学の生徒の前に飛び出して自転車に轢かれた

川に身投げしたゆっくりの群れ。溺死はゆっくりが予想していたよりも苦しかったらしく
川で死んだ全部の死体が苦悶の表情で固まり浮いたり沈んだりしている。溶けて魚の餌になるまであのままなのだろう

歩道橋から落ちた親子もいた。体の小さな子供はすんなり地面に落ちて車に潰されたが、親は柵の格子を抜けられず先に死んだ我が子を羨ましそうに見ていた

「あとからままもいくからね! さきにいってゆっくりしててね」
「わかったよみゃみゃ!!」
嬉々として自分の子を踏み、噛んで殺していくありす

わざと人間を挑発して、踏み潰されるゆっくりちぇん

ひたすら壁に体当たりを繰り返すゆっくりめーりん

自らの舌を噛み切って悶え苦死んだぱちゅりー

各々が思い思いの方法で自らの命を絶った
異常だった。ただただ異常だった
彼女はその話を興味深げな顔で話を聞いてくれた
彼は久しぶりに学校の生徒と話をした

5限、6限、HRが終わり放課後になった
鞄の中身はすでにまとめてある。あの連中に絡まれる前に教室から脱出しなければならなかった
おっかなびっくり、まるで敵のアジトに侵入した工作員のようにビクつきながら教室を出る
幸い、連中は放課後どこに遊びに行くかを教室の後ろで話していたため、絡まれることはなかった
彼は常にいじめっ子の気紛れに翻弄されていた

教室を出て、彼は家には向かわず、生物部の部室を訪れた
この高校で唯一ゆっくりを飼育している場所だった。『声』のヒントになるものはないかと探しにやってきた
虐めの対象になるまでは、ここに何度も足を運んで、部に所属していた友人と雑談をしていた

「いらっしゃい」
「どうも・・・」

部室には顧問の教師しかいなかった
ちなみに、この教師は彼のクラスの担任でもあった

「し゛な゛せ゛て゛え゛えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!! お゛ね゛か゛い゛た゛か゛ら゛し゛な゛せ゛て゛え゛えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「も゛と゛のせ゛か゛いにかえじでええええええええええええええええええええええええええ!!」

十匹以上いたゆっくりは、今はれいむとまりさの二匹だけになっていた
二匹とも窮屈な水槽の中に押し込められていた

「部員はみんな出払っているんだ。明日からテスト期間で半日授業だろ? 今日中に死んだ子を全部埋めないといけないからね」

席を勧められたので座ることにした
教師は棚からマグカップを二つ取った

「先生はどうしてこんなことになったと思いますか?」

短刀直入で訊いた。理系のこの教師なら何か知っているかもしれないと、半ば藁にもすがる気持ちだった

「さぁ。わからないな。ゆっくりにはまだまだ謎が多いからね・・・・・砂糖は?」
「あ、二つで・・・・頂きます」

コールタールのような深い色をした教師特製コーヒーの注がれたカップを受け取る

「先生も流石に今回のことは無視できないな」

この教師にとって、ゆっくりの自殺など本当はどうでも良かった。しかし、彼があまりにも真剣だったので、少し会話に付き合うことにした
もしかしたらこの先の会話で、学級で起きている虐めについて彼が何か話してくれるかもしれないという打算があった

「この地域だけ、ゆっくりが自殺するというのがどうも解せませ・・・・・苦っ」

コーヒーにミルクと砂糖をもう2個追加した

「最初。一匹のゆっくりが変な夢を見て、その情報が仲間の間に行き渡って鵜呑みにするようになった。というのがこの部の考えだよ。アレは思考が単純だからね」
「でも。それだとこの部室にいるゆっくりまで死にたがりになる説明がつきません」

彼は昨日、ちぇんが自分に話した内容をこの教師に話そうと思ったが、自分の自殺にも多少関わる内容だったの内容をぼかした

「ゆっくりの神様みたいなのがいて。それがこの地域にいるゆっくりに『死ね』と命令したとか?」
「いいねそれ。その発想は無かったよ」

真剣に話す彼には悪いと思ったが、教師は思わず笑ってしまった

「ああ、ごめん。でも確かにそれならあの水槽の子たちの言動にも説明がつくね。確かに、ゆっくりにしか聞こえない音域で話されたら信じるかもね」
「でも、そんなことは…」
「あるよ」
「あるんですか?」

思わず身を乗り出した

「ああ、ゆっくりの雑誌に普通に載ってることだよ。ラジオのチューナーをいじるか、家にもしあれば犬笛を吹いてみるといい。反応するはずだよ」

教師は無糖のコーヒーを一気に飲み干した

「そもそも音域なんてものは、似たような容姿の生物でさえ全く異なっているんだ。むしろ同じ音域の生物がいること事態が稀だね」
「・・・・・・・」

彼がすっかり黙ってしまう。教師はゆっくりの自殺に興味を失くしたと思ったので、話を自分のしたかった本題に移す

「そういえば、今クラスで…」
「ご馳走さまでした。カップ洗ってきます」
「あ、まだ話は」

素早くカップを洗い。逃げるように部室を出た







「ただいま」
「おかえりなんだねー。わかるよー。それとおなかがすいたんだよー? ゆっくりしないでちょうだいねー」

帰りに弁当を買うために寄ったスーパーでついでに買ったキャベツを箱の中に入れた

「なあ」

キャベツを食べるちぇんに小さな筒を見せた
たった今、机の引き出しから取り出したものである
小指ほどしかない小さな筒を口に咥えて、息を流し込む
しかし部屋はちぇんがキャベツを食べる音しかしていない
彼は静かに筒から口を離す

「聞こえたか?」
「うるさいんだよー、わかってねー」
「本当だ」

彼が咥えたのは犬笛だった。捨てられずに今まで引き出しに眠ってた
人間と野生動物に聞こえる音の幅が異なるように、人間とゆっくりの間にも、聞こえることの幅で違いが確かにあった
神様の声が何なのか段々とわかってきた


彼も買ってきた弁当を食べて、シャワーを浴びた
着替えて部屋で一息つくと、またちぇんが「ころせ」とわめいてきた

「そういえばお前家族は?」

よくよく考えたら、彼はこのちぇんが死にたがりだということ以外は何も知らなかった
だから尋ねた

「ちぇんはずっと、てんがいこどくだよー」
「親はお前が生まれてすぐに死んだの?」
「ちがうよー、おかあさんが「れいぷされてできたこはいらない」っていわれてからずっとひとりだよー
 れいぷっていうことばのいみは、わからないけど。あのおかあさんは、ほんとうのおかあさんじゃないことは、わかったよー」

―――育児放棄
喉から出掛かったその言葉を。寸でのところで飲み込んだ

「その大きさだから、お前は生まれて半年〜9ヶ月ってところか?」

彼は過去に、ゆっくりちぇんを飼っていた。事故で失ったが
そのちぇんを成体になるまで育てたからわかる
親に捨てられた赤ゆっくりが、今の大きさになるのは決して楽なことではないと
相当な強運と生に対する貪欲さがなければならない
『母親に会いたい』という願いがちぇんをここまで生きさせたのかもしれない

「同じ死にたいでも。ボクとは、えらく違うな・・・」
「わからないよー?」
「わかんなくて良い。明日は『声』の主を探す、お前にも手伝ってもらうからな。だから今日死ぬのは諦めろ」

無理矢理電気を消した

「お休み」
「もうねるんだねー。わかるよー。あしたこそちぇんをころすんだよー、わかってねー」
「うるさい」

軽く怒鳴ると、ちぇんはすぐに静かになった


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最終更新:2009年01月10日 07:23
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