ゆっくりいじめ系1880 マタニティゆっくり 中編 2

そしてその夜。家中の明かりが消され月光が差し込むのみの時間。
この部屋も窓からさす月明かり以外に光の無い世界を作り出していた。
月がうっすらと照らす部屋の中でまりさは眠らずにじっとしていた。まりさは眠れずにいた。
夕飯はもう済ませた。クズ野菜なんて元々たいした味はしないものだが、今日の夕飯は何の味すらもしなかった。
足元では先ほどから一匹の赤まりさが必死にさえずっていた。
「ゆっきゅちちてってね!ゆっきゅちちていってね!!おきゃーしゃん、ゆっきゅちちていっちぇね!!!!」
先ほど生まれ落ちた赤ちゃんゆっくりの赤まりさである。他の姉妹はまだ生まれていない。
赤まりさはゆっくり特有のあいさつを無視する母親に対してなんども同じ台詞を言っていた。
そんな赤ちゃんをまりさは見ないようにしていた。

ありすに無理やりすっきりさせられ、生まれた子など見ていたくはない。
そう自分に言い聞かせ、まりさは赤ゆっくりから目を逸らす。
だが本当は赤まりさが視界に入るたびに感じる正反対の感情が嫌だったので、まりさは赤ゆっくりから目を逸らし続けた。

「赤ちゃんはね、生まれてくる親を選べないの。
 だから親は赤ちゃんを幸せにするためにたくさんの愛情を注がなくてはならないの。
 自分から生まれたから不幸になっちゃったら赤ちゃんが可哀想だからね。
 まりさもそう思うでしょ?」
「ゆっ!あかちゃんがゆっくりできないとかぞくはゆっくりできないよ。
 だからあかちゃんゆっくりさせるためにたくさんごはんとってくるんだよ。
 まりさがんばるよっ!あかちゃん、ゆっくりさせるためにたくさんごはんとるよ。」

ふと一緒に暮らしてた女性と以前話した会話を思い出す。
あの時、親が狩りを満足に出来ないと赤ちゃんがゆっくり出来ないから、がんばってごはんを取りにいくもんだと思ってた。
しかし、もっと別の意味が込められてたのではないか。まりさはそう思った。
だが考えれば考えるほど自分にとって不都合な答えが出そうな気がしてまりさは考えるのをやめた。

赤まりさを意図的に見ないようにしてたまりさ。
しかし狭い箱に閉じ込められた状況では碌に見る物の無くなったまりさは赤まりさを見てみようと思った。

別に見たいわけじゃない。他に見るものがないから仕方なく見るのだ。
誰でもない自分にそう言い訳をし、まりさは赤まりさを初めてじっくりと見た。
叫び疲れもはや何も言わない赤まりさ。目からはポロポロと涙を流し泣いている。

まりさはそんな赤まりさを見て心を痛めた。
自分から生まれたばっかりに辛い思いをしてるその子を。
もし愛する夫婦の間から生まれたのだったら幸せになったであろう、その子の境遇に。
そう思っているうちに第三者目線で自分自身を扱っていることにまりさは可笑しくなった。
自分がその子を愛してやればすむことである。
しかし、ありすに無理やりすっきりさせられて生まれた子を愛するわけにはいかない。
まりさは込み上げる感情と頭の中で繰り返される女性との会話の思い出を無理やり押さえつけながら赤まりさを見ていた。

それから数十分間、まりさは赤まりさを見つめていた。その間に他の姉妹達も全て生まれ落ちていた。
まりさ種の赤ちゃん5匹とありす種の赤ちゃん4匹の計9匹が、
一生懸命親であるまりさに例の挨拶をしていたが、相手にしてもらえず今では叫び疲れて泣いていた。
赤まりさから視線を移す必要も無かったのでまりさは他の姉妹は一瞥しただけだった。

まりさはふとあることに気付いた。赤まりさの髪である。一部の髪の先っぽがくるっとカール状にくせ毛になっていた。
女性と暮らしていたころに鏡で自分の姿を見ていた時に、どうにかならないものかと思っていた部分である。
更に帽子が他のまりさ種の姉妹と比べて少し折れているのを発見した。それも以前、鏡で見た自分の帽子の特徴と一致する。
それだけでは無かった。自分にしかわからない自分との共通点が次々に見つかったのである。
他の姉妹達でも同様だった。一番最初に生まれた赤まりさと同じでは無かったが自分と似ている箇所をいくつも発見した。
驚いたことに、それはありす種の赤ちゃんでも同じことだった。
髪飾りや髪型など種特有の違いは別にして、自分と同じ微妙な身体的特徴が赤ありすにも見つかったのである。
もちろん赤まりさ達に比べたら少ないものではあったが。

目の前にいる自分の頭の蔓から生まれ落ちた赤ちゃん達は本当に自分の子供なんだな。
当たり前のことだがまりさは改めてそう実感した。
果たして望んだ子じゃないからと言って、この子達を見捨てていいのだろうか。まりさは次第にそう思いはじめた。
自分との共通点を見つけたのもそうだが、もしこの子達を見捨てたら、あの女性は二度とまりさに笑いかけてくれないのではないか。
そんな予感がしたからである。やがて次第に眠くなってきたのでまりさは考えながら寝た。

朝が来た。まりさは結局答えが見つからないままだった。
「ゆっきゅちちていっちぇね!ゆっきゅちちていってね!」
起きた子供達は再びまりさにゆっくりの挨拶をする。返事をもらえないまま。泣きながら。
「おはようさ~ん。まりさちゃ~ん、元気な赤ちゃん生まれたぁ~?」
男が部屋に入ってくる。
「ゆっ・・・・・・」
初日に自分を針で滅多刺しにし、前日は自分をありすに無理やりすっきりさせた張本人。
自分がこんな思いで悩んでるのも全てこの男のせい。まりさはとっさに身構えた。

だが男は何もしてこなかった。話しかけてきただけである。
手には何も持っておらず、今のところ何かしてくる気配はなかった。
「おお~。いっぱい生まれたねぇ~。これじゃこの箱じゃちょっと狭いね。引っ越そうか。」
「ゆっ!?」
男はそう言うとまりさの箱を部屋の隅にやった。
そして部屋の中心部に外から運んできた大きめの箱を置いた。
壁が透明なのは今の箱と変わらず、広さが今の四倍ほどあるだろうか。
天井部は狭い箱が透明な板だったのに対し、こっちは正方形の骨組に網状のネットを組み合わせたものになっている。
ネットの隙間の大きさは子ゆっくり程で、どう見ても成体のまりさには通り抜けられそうに無い。
男は天井を外すとひょいひょいとまりさ達を移動させた。
赤ゆっくりは突然掴まれて驚いたようだが、何か言う前に素早く別の箱へと移動させられた。
まりさはこれが本当に場所を変えるだけの行為だと理解したので抵抗はしなかった。
すぐにまりさの家族のお引っ越しが完了した。

箱を移ってからすぐに赤ゆっくり達はまりさにゆっくりの挨拶を再開した。
しかし、まりさは先ほどと同じ表情で黙ったままだった。
「ん?どうしたの?赤ちゃん生まれたのに全然嬉しそうじゃないね。」
「・・・・・・ま、まりさはちょっとかんがえごとをしててそれどころじゃないんだよ。」
まりさがそう答える。本当は「お兄さんには関係ないでしょ」と冷たく言いたかったが
怒らせるのが怖かったために男を刺激しないような適当な言葉でお茶を濁した。
「あっそ。ねぇ、それはそうとさっきから赤ちゃん達必死できみに例の挨拶、
 ゆっくりしていってねって言ってるけどお返事してやんなくていいわけ?」
「・・・・・・・・・どうして・・・まりさがへんじしなくちゃいけないの・・・?」
「だってまりさちゃんのかっわいい赤ちゃんじゃないの~?」
この言葉にまりさはムカッとした。
こいつは昨日自分が何をしたか覚えてないのだろうか。
よくもまあ、こんな何も知らない人のような無神経な一言が言えたものだ。
男に対する反抗心でまりさは男の考えと正反対の答え返さずにはいられなかった。
こんな無神経な奴が、自分について考えてることが正しくあっていいはずがない。
「・・・あんな・・・きたないありすにむりやりすっきりさせられて・・・・・・・・・そんなわけないでしょ・・・・・・。」
すぐ近くにいる赤ちゃんには意味が分かり辛い言い回しで男の言葉を否定した。

「ふ~ん。そ。じゃまりさはこの赤ちゃん達いらないってことなのかな。」
「・・・・・・・・・・・・・・」
まりさは答えなかった。
「ああ、わかった。悪かったねまりさ。まりさの気持ちボク全然考えてなかったよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「じゃ、この赤ちゃん達はいらないってことでボクが始末しといてあげるよ。」
そう言って男は箱の中のまりさの子供達をヒョイヒョイとつまみあげていった。
「ゆっ!?おきゃーしゃん、きょわいよ!たちゅけてっ!!」
男の手の中に全て収まった赤ゆっくり達がまりさに助けを求める。

まりさは男の突然の行動に抗議の声を上げる。
「ゆううううう!?、なにじでるのおおおお!!!!?」
「なにって・・・いらない子でしょ?だから処分しておいてあげるよ。」
「ぞごまでずるごどないでじょおおお!!!!!」
「いらない子なんだからどうでもいいだろ。変なまりさだな。」
「ゆぐううううううう!!!!!」
男の行動は予想外だった。まさか男への反抗心で言った言葉がこのような事態を引き起こすとは。
しかし今はそんな自分の浅薄さを後悔している場合ではない。
殺すとはっきりは言ってなかったが「始末」「処分」と言えば殺されるのは目に見えてる。
まりさのなかでありすとの間に生まれた子をどう位置づけるかはまだ答えが出ていなかったが、
いくらなんでも殺すというのはやりすぎ以外のなにものでもなかった。

赤ちゃんの命を救うためにまりさは叫んだ。
「う・・・うぞでずうう!!!!まりさはあがぢゃんをあいじでまずうう!!!まりざのだいじなだいじなあがぢゃんでづうう!!!!」
「はいはい、うそうそ。まりさは赤ちゃんなんてどうでもいいんだよな~。」
両手に赤ゆっくり達を抱え、今にも部屋から出ようとしてた男はまりさに背を向けたまま言った。
「どぼじでぞんなごどいうのおおおおお!!!!!」
まりさが叫ぶ。
「普通・・・愛してる子なら挨拶された時にちゃんと返すものだがな~。」
男の台詞にまりさはハッとなった。そして大声で叫んだ。
「まりざのあがぢゃん!!!ゆっくりしていってね!!!!!!」
「「「「「「「ゆっ!?・・・ゆっ、ゆっきゅちちていっちぇね!!!!!!」」」」」」」
赤ゆっくり達が初めて聞いた母の挨拶に喜びの涙を流しながら返事した。
まりさに背を向けていた男が振り向く。振り向いた男のまりさ達を見おろすその目は冷ややかだった。
その冷たい目線にまりさはビクッとした。
「「「「「「「ゆっきゅちちていっちぇね!ゆっきゅちしていっちぇね!!」」」」」」」
男の手の上では赤ゆっくり達が笑顔で何度も例の言葉を繰り返してた。

「駄目だな。なんだ?その小さい声。全然気持ちこもってねえよ。やっぱ愛してるってのは嘘か?」
「ゆううう!!!!ぞんなごどないでづううううう!!!!!!」
「そんなこと言ってる暇があったらもう一度言え。俺を納得させるまで言ってみろ。」
「ゆ・・・!ゆっくりしていってね!!!」
「「「「「「「ゆっきゅちしていっちぇね!!!!」」」」」」」
「イマイチ。」
「ゆうう!!!!ゆっくりしていっでねっ!!!!!!」
「「「「「「「ゆっきゅちしていっちぇね!!!!」」」」」」」
「没。」
「ゆぐうう!!!ゆっぐりじでいっでねっ!!!!!!」
「「「「「「「ゆっきゅちしていっちぇね!!!!」」」」」」」
「やる気あんの?」
「ゆぶううう!!!!ゆっぐりぢでいっでねええええ!!!!!!」
「「「「「「「ゆっきゅちしていっちぇね!!!!」」」」」」」
まりさは何度でもゆっくりの挨拶を叫んだ。子供達もそれに応えた。
その度に駄目だしされ、何度もやり直した。
何度も同じ行為を繰り返すうちにまりさは、少しずつ子供達への愛しさが沸いてくるのを感じていた。
いや、正確には子供達への愛情を包み隠していた「何か」が少しずつひび割れて剥がれ落ちていくのを感じていた。

「どうした、まりさあぁ!!!!お前の子供達への愛情はその程度のもんかっ!!!
 その程度がお前の愛なのかよっ!!!!お前はお母さんだろうがぁっ!!!!
 お前の愛を魂の底から示してみろおおっ!!!!!!!」

「ゆ・・・ゆ・・・ゆ っ く り し て い っ て ね ! ! ! ! ! ! 」

まりさが最初の挨拶の倍近い音量で叫んだ。
「「「「「「「ゆっきゅちしていっちぇね!!!!」」」」」」」
それに応じるかのように最初より少し音量の増した声で赤ゆっくり達の挨拶が返ってきた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

男がまりさの箱の前に来て座り込んで、赤ゆっくりを包み込んだ両手をまりさの目の前に持ってくる。
「おきゃーしゃん、ゆっきゅちぃ♪」
「ゆっくちぃ♪ゆっくちぃ♪」
「きゃっ♪きゃっ♪」
赤ゆっくり達が母親を間近にしてはしゃぐ。
「見ろ。かわいいだろ?こいつら。みんなお前を慕ってるんだぜ。」
「・・・うん・・・かわいいね・・・・・・・・・」
まりさは素直にそう答えた。
既にまりさの中にはありすに無理やりすっきりさせられて生まされた子供達だというわだかまりはなかった。

男がまりさに向かって話し始めた。
「確かにありすに無理やりすっきりさせられて子供を生まされるってのは屈辱かも知れない。
 でもなぁ、子供に罪はないんだぜ。何も知らずに生まれて来た子に親が受けた屈辱の罪を背負わせるなんて・・・
 余りにも理不尽でかわいそうだと思わないか?」
「・・・うん」
「もし自分がそんな子供として生まれてたらどうする?子供は自分を産む母親選べないからね。
 自分にとって身に覚えのないことで母さんから愛されなかったら嫌だろう?」
「・・・・・・ゆ・・・」

まりさは自分を育ててくれた母のことを思い出していた。母だったお母さんまりさ。
母はたった一匹で自分達を育ててくれた。母のつがいのはずのもう片方のお母さんは家族を庇ってれみりゃに喰われて命を落としたと聞かされた。
母は自分の手一つでまりさ達姉妹を育ててくれた。厳しい親だった記憶がある。
他の家族の親のように子にベタベタと擦り寄ってくることもなければ、微笑みかけてくれることも余りなかった。
でも自分達を飢えさせたりすることなかったし、狩りの仕方も教えてくれた。その他色んな知識も。
特に「すっきり」については姉妹の片方の種がありすであったこともあってか、発情ありすの危険性、下劣っぷりについては耳にタコが出来るほど教えてくれた。
もし自分がありすによる無理やりすっきりによって生まれた子で、母から見捨てられていたかと思うと、とても怖かった。
間違いなくここまで生きていないだろう。

自分がもっとも尊敬するゆっくりであるお母さんまりさ。
・・・・・・そういえば・・・もう自分は、そのお母さんまりさと同じ「おかあさん」・・・になったんだよね。

「赤ちゃんの味方はお母さんしかいないんだよ。この子達を愛せるのお前だけだよ、まりさ。」
そう言って男は両手の中の赤ゆっくり達をまりさの箱の中にそっと置いた。
男の手から解放された赤ゆっくり達がまりさに駆け寄っていく。
「おきゃーしゃん、ゆっきゅりー♪」
「ゆっきゅちー、おきゃーしゃーん♪」
「ゆっ♪ゆっ♪」
「おきゃーしゃん、しゅりしゅりちてぇ♪」
自分の目の前で無邪気にはしゃぐ自分の子供達。

可愛かった。本当に可愛かった。そして愛しかった。

まりさは目に涙を溜めながら自分が今まで押し殺していた感情を解き放った。
「まりさのかわいいあかちゃん、ゆっくりしていってね!!!!!」
「「「「「「「ゆっきゅちちていっちぇね♪」」」」」」」
まりさの目から涙がポロポロとこぼれた。愛しい子供達との幸せな時間が始まった。

「おきゃーしゃん、しゅりしゅりしよー♪」
一匹の赤まりさがそう言って、まりさに頬擦りしてきた。
「うん♪おかあさんとすりすりしようねっ♪」
まりさもそれに応じて赤ちゃんと肌を擦り合わせた。
生まれたばかりですべすべの柔らかい肌がとっても気持ち良かった。
まるでほっぺたがとろけ落ちているかのように気持ちよかった。
溶けた頬が赤ちゃんとくっついてしまってたらどうしようかと思うほどだった。
「じゅりゅいー、ありしゅもおきゃーしゃんとしゅりしゅりしゅるよー♪」
「まりちゃもしゅりしゅりー♪」
他の姉妹達も揃って、まりさに頬擦りしてくる。
「ゆっ!ありちゅはおきゃーしゃんにぺろぺろするもんにぇ♪」
一匹の赤ありすがまりさの頬をペロッと舐める。
「ゆゆっ♪あかちゃん、くすぐったいよ。そんなあかちゃんにお返しだよっ♪」
まりさが自分の頬を舐めた赤ありすの頬をその大きな舌でベロッと舐める。
「きゃっ♪こりょこりょちゅるよ~♪」
赤ありすは嬉しそうにころころ転がっていった。その姿がとても可愛らしくってまた涙が溢れた。
まりさの胸の中に長い間忘れていた幸福感が溢れる。
ああ、赤ちゃんはこんなに可愛くってゆっくり出来るのに、自分はなんて小さなことにこだわってたんだろう。
ごめんね、赤ちゃん達。そしてこれからお母さんとずっとゆっくりしようね。
まりさは心の中で、これから可愛くて愛しい赤ちゃんとずっとゆっくりすることを誓った。
かつて自分を育ててくれたお母さんまりさのように。

やがて赤ちゃん達は全員まりさと頬擦りするようになった。
「しゅりしゅり~♪しゅりしゅり~♪」
「おきゃーしゃんとしゅりしゅりー♪」
「おきゃーしゃん、だいしゅきー♪しゅりしゅり~♪」
一緒に生まれた姉妹と遊ぶものはいない。
ずっと相手してもらえなかった反動で今は姉妹と遊ぶことより最愛の母と頬擦りすることが最優先なのだ。
「おかあさんはにげないから、ちびちゃんたちは、あわてずゆっくりすりすりしてね♪」
まりさは体の九箇所で感じられるとろけるような感覚と幸せに目を細めて浸っていた。
目からはどんどん涙が溢れてきて視界がぼやけた。今まで生きてきた中で一番幸せなひと時だった。

(挿絵06)

そんな時だった。ぼやけた視界の隅にひょいっと人間の手らしき物が入ってきたかと思うと、
まりさの肌から赤ちゃん一匹分の感触が消えてしまった。
その心当たりとして、自分に赤ちゃん達の可愛さと愛しさを教えてくれた男の手しかなかった。

男もかわいい赤ちゃんたちにすりすりしたいんだね。
まりさは今の幸せも、自分に本当に大切なことを教えてくれた男のおかげだから、すりすりくらいならしてもいいと思った。
まりさは男のことを全く疑わなかった。まりさの頭の中は幸せでいっぱいだった。

やがて、男が再び箱の中に手を入れた。視界の隅で赤ちゃんらしきものをまりさから離れた場所に置いたような気がする。
もういいのだろうか。もっとすりすりしててもまりさは構わないのに。まりさはそう思った。
「おぎゃーじゃん・・・・・・びえないよ・・・・・・ぐりゃいよ・・・・・・」
そう思ってると、男の手が別の赤ちゃんを一匹つまんでいってしまった。肌からまたも赤ちゃん一匹分の感触が消える。
さっき別の赤ちゃんとすりすりしたばかりなのにせっかちで欲張りなお兄さんだ。でもそれだけまりさの赤ちゃんが可愛いということなんだね。
それにさっき返してもらった赤ちゃんがまた自分とすりすりしてくれるんだから、自分とすりすりする赤ちゃんの数はさっきと同じになる。
そう考えれば男が別の赤ちゃんを持っていったこともたいした問題ではなかった。
変な雑音が聞こえ始めたが気がするが、自分と赤ちゃん達の幸せで満たされたこの空間で、
小さな雑音の一つや二つ気にはならなかった。

それから数十秒が経過した。
「しゅりしゅり~♪」
「おきゃ~しゃん、だいちゅき~♪」
「ゆべぇっ・・・いぢゃいよ・・・びえないよ・・・・・・」
「ありしゅとしゅりしゅり~♪」
「おぎゃ・・・ざん・・・・・・どごいづの・・・まりざをだずげでよォ・・・・・・」
「きゃっ♪きゃっ♪おきゃーしゃーん♪」
「おべべ・・・びえないよ・・・・・・いだいよぉ・・・ぐらいよお・・・・・・・・・」
ぼーっと、まりさは幸せを堪能していた。
変な雑音は次第に増えていったが、今の幸せの前には些細なことだ。
今でも肌を溶かすような気持ちいい感触があっちこっちで感じられるのだ。まりさはそう考えていた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ゆぅ?」
まりさはふと違和感を覚えた。赤ちゃんが自分にすりすりしてる感触がさきほどと比べて明らかに少ないのだ。
男はあれからも赤ちゃんを持ってったが、すぐに返してくれていた。
なら何故箱に戻された赤ちゃん達は自分のそばに戻ってこないのだろうか。
確かにこの箱は以前の箱と比べれば広かったし、離れたところに置かれたとはいえ、所詮箱の中だ。
赤ちゃんでも十分に戻ってこれるはず。なのに戻ってこない。何かがおかしい。
そう思っているうちにまりさの体から最後の赤ちゃんの感触が消えていた。
「ゆっ!!!?ゆううううっ!!!!!!!?」
ようやく事態がおかしいことに気付いたまりさは、急いで状況を確認すべく半分閉じていた目を開き周囲を見渡した。

狭い箱の中、まりさは離れたところに置いてある小さな物体を目を奪われた。
それは小さく弱弱しい音を発していた。先ほどから聞こえる雑音はそれが発したものであろう。
だが、何よりまりさが気になったのは、ある一点を除いてそれらが自分の赤ちゃん達とそっくりなことだった。
形は違うものの金色で統一された髪の色、ちっちゃくてころころした丸い体、ちんまりして可愛らしい唇、
まりさ種の帽子とありす種のカチューシャ。さきほどまで自分のそばにいた赤ちゃん達にとてもよく似ている。
ただ一点、目にあたるはずの部分に本来あるはずの眼球が無く、黒い餡子と黄色いカスタードを覗ける穴が開いてることを除けば。

まりさには正確に自分の赤ちゃんを見分ける自信があった。
昨日じっくり見ていくつもの自分との共通点を発見したのだ。
さらに個体識別のための帽子とカチューシャがあれば、まりさでなくとも見間違いようがない。
そのような点が一致する赤ちゃんそっくりの物体が目を無くしているということが示す結論は一つのみだった。

まりさは絶叫した。

「ば で ぃ゛じ ゃ゛の゛あ゛が ぢ ゃ゛ん゛ん゛ん゛! ! ! ! ! ! ! 
 ど ぼ゛じ で ぇ゛お゛ぉ゛べ べ ぇ゛な゛い゛の゛お゛お゛お゛お゛! ! ! ? ? ?」

(挿絵07)

先ほどまで幸福の真っ只中にいたまりさは、突然の惨事に頭がついていくはずもなく、顔を醜く歪めて泣き叫んだ。
ありえない現実がまりさの全身にちくちくと針で刺されるような錯覚をもたらす。
「ぴぎゃあああ!!!」
自分の頭で甲高い叫び声が聞こえた。
まりさは急いで声の聞こえた方を見上げた。
そこで見たものは更に信じられない光景だった。
さっき自分に赤ちゃんの愛しさを教えてくれたはずの男がピンセットを使い、赤ちゃんありすの目をくり抜いていたのだ。

「おぎいいいいいいざんんん!!!!!!まりじゃのあがじゃんになにじでるのおおおおおお!!!!!!!!!」
「え?何って。見ればわかるでしょ。赤ちゃんの目ン玉えぐりとってんだよ。」
「どぼぢでええええええええええええええええええ!!!!!!!?????」
「えっとね・・・まりさが赤ちゃんと幸せそうにしてるの見ててさ・・・
 もし・・・・・・赤ちゃんの目ン玉全部とっちゃったらどうなるのかなぁ~って思って・・・。駄目?」
「だ べ に゛ぎ ば っ゛で づ で じ ょ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛! ! ! ! !
 お゛ぶ ぇ ぶ ぇ な゛ぐ な゛っ だ ら゛ゆ゛っ ぐ り゛で ぎ な゛い゛い゛い゛ぃ゛!!!!!!」
「あっそ。ま、いいや。そんじゃ残りの目ン玉もえぐるね。これで生まれた子、全員お目目見えない赤ちゃんだよ。」
「や゛ぶ ぇ゛ぶ え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!!!」

まりさが大声で泣き叫ぶも男の手は止まらない。止めようにも男が天井を塞いでしまったので外に出ることすら出来ない。
「ありすちゃん、これからキミの片方のお目目えぐって一生何も見えなくしてあげるよ。
 とっても痛いよ~。すっごく痛いよ~。ゆっくり出来ないよ~。お母さんに助け呼ばなくていいのかな~?」
男はピンセットを赤ありすの目の前に持ってきてそう言った。
身の危険を感じてピンセットを警戒し凝視していた赤ありすは、それを聞いて初めてピンセットから目を逸らし母であるまりさを見た。
その目は恐怖に怯え、涙がポロポロと溢れ、助けを求めていた。
「おきゃーじゃんんん、ぎょわいよおおおお!!!!だじゅげでええええぇぇええぇえぇぇ!!!!」
生まれたてのか細い声で必死に泣き叫ぶ。
「あ゛り゛ずう゛う゛う゛う゛う゛う゛!!!!あがぢゃ゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛!!!!!!」
だがまりさには、そんなありすを前に同じように泣き叫ぶことしか出来ない。
「ゆびぃぃぃいいい!!!いぢゃいいぃぃ!!ありじゅのおべべぎゃああああああああ!!!!!!」
そして赤ありすの残った目も抉り取られてしまった。
「ほい、終了~。」
男はそう言って天井をちょっとずらし、両目を失ったばかりの赤ありすを箱の中に戻した。

「ゆびぃ・・・びえないよおおお・・・・・・いだいよおおおお・・・・・・」
「おがあざん・・・どごおおお・・・・・・」
「ぐらいいいよおおお・・・・・・なんであざなのによるなのおおお・・・・・・・・」
「おべべ・・・おべべ・・・・・・まりじゃのおべべ・・・・・・だれぎゃ・・・ざがじでぇ・・・・びえないい・・・」
「ぐらいぃ・・・ごわいい・・・ごんなの・・・じぇんじぇんどがいばじゃないいい・・・・・・」

箱の中では光を失った赤ちゃん達が泣いていた。
まりさはその光景を眺めながら何も言えず呆然と固まっていた。
だが数秒ほどすると我を取り戻し、男にむかって叫んだ。
「どぼじでごんなごどずるのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!
 あがぢゃんのおべべなぐなっぢゃら、ゆっぐりでぎないでじょおおおおおおお!!!!!!!」
目からは滝のように涙が溢れている。
「どぼじでええええ!!!!!どぼじでえええええ!!!!!!
 あがぢゃんのおべべがえじでえええええ!!!!!!がえじでええええええ!!!!!!」
何度も何度もまりさは男に向かって叫んだ。男はそんなまりさに対して何も応えなかった。
うっとりとした表情でまりさを見ていただけだった。
「・・・・・・はぁぁぁ~、気持ちいいぃなぁ~・・・・・」
やがてそう言うと部屋から出て行ってしまった。
愛しい赤ちゃんとの幸せな時間は、まりさが最初に赤ちゃんと頬擦りし始めた時から僅か三分で崩壊した。


中編 3につづく

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最終更新:2009年05月23日 15:20
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