ゆっくりいじめ系1800 パティシエールな小悪魔3

  • この物語は、幻想郷の日常を淡々と描写したものです。過度な期待はしないでください。
  • 原作キャラ崩壊、独自設定、パロディーなどなんでもあり。
  • 以上に留意した上でどうぞ。







          パティシエールな小悪魔3





「美味しい! 何ですかこの肉まん?! まるで舌の上でとろけるような感じです!」

一口その肉まんを齧った小悪魔は、そのあまりの柔らかさに驚いた。
明らかに普通のものよりも柔らかく、とろりとした肉汁が溢れそうになっている。

「これは、確かに今まで食べたことがないほど柔らかいわね」

隣で同じように肉まんを食べたパチュリーも、驚いている。

「どうです、中国四千年の味は?」

特製肉まんを賞味する二人に、テーブルの向かいからニコニコしながら声をかけたのは紅美鈴。
紅魔館の門番であり、赤い髪に緑色の中華風衣装を纏った、気を使う程度の力を持つ妖怪である。

ここは紅魔館の門の内側に作られた、門番のための詰所。
美鈴は紅魔館内にも自室を与えられていたのだが、勤務時間中以外も何かと便利なので、この詰所で過ごす事が
多かった。





今日は美鈴にとって、久々の休日であった。
門の外では、代わりの妖精メイドが門番を務めている。
とはいっても、上空を含めた紅魔館の周りには美鈴が気を張り巡らせて、侵入者があった場合にはすぐ判る
ようにしていた。
大体、危険な侵入者は殆どが空からやってくる。紅白とか白黒とか。
そういう意味では、外に立っていなくても警備は出来る。
毎日外に立っているのは、紅魔館の示威行為であり、デモンストレーションでもあるのだ。

余談だが、幻想郷の人里では、美鈴の人気は高い。親しみやすい雰囲気の美貌で、紅魔館一のナイスバディー、
その上拳法の達人だが、普段はのんびりとした性格で、礼儀正しく人間にも好意的である。
人里の男どもが勝手にやっている人気投票では、優勝したこともあるくらいだ。そのため、紅魔館には美鈴を
一目拝もうと遠巻きに見に来る里の者や、腕試しと称して殴られに来る者など、様々な人間が現れる。
いつも適当にあしらっているそれらの対応が、危険な侵入者よりよほど多いので、今日はその相手をしなくて
いいだけ気楽な様子だった。
閑話休題。





今日のお茶会は、美鈴の招待で、門番詰め所の中の部屋で行われていた。
メニューは、美鈴特製、新作ゆっくりれみりゃの肉まんと、仄かに甘い香りが漂うジャスミンティー。
なんでも、この前小悪魔に貰ったクリーム・ブリュレのお返しに、新作点心の味見をして欲しいとの事だった。
美鈴は非番の日には時々、パチュリーや小悪魔のお茶会に参加し、点心をご馳走する事があるのだ。

「この柔らかさ、まるで高級霜降り肉のような… いや、もっと溶けて無くなる様な儚さ…」

きらきらと目を輝かせて賞賛する小悪魔。
このれみりゃの肉まんは、幸せな味がする。
栄養状態も最高で、思う存分ゆっくりしていたのだろうな、と小悪魔は感じていた。
美鈴は、小悪魔の幸せそうな顔に気を良くして言った。

「そう、そこでこれ、ゆっくりれみりゃの豚トロ饅頭なんて名前でどうでしょう?」

「そうね、鮪のトロは、人肌で脂肪分が溶けるので食すと溶けるように柔らかいと聞くわ。
食べたことはないけど、こんな感じかしら?」

パチュリーはいつか本で読んだ、未だ見ぬ外界の食材へと思いを馳せているようだ。

「食べるたびに熱々の肉汁がぴゅっぴゅっって飛び出してきますよ。とってもジューシィで美味しいです!」

「我等が紅魔館のパティシエール、小悪魔にそこまで褒めてもらえるとは、嬉しいですねえ」

「いえいえ、私のお菓子作りなんかただの趣味ですから。そんなに凝った物は出来ませんし…
それにしてもの肉まん、中から肉汁がトロトロと溢れてきて、普通のゆっくりれみりゃの肉まんともぜんぜん
違いますよ、どうやって作ったんですか?」

「それは禁則事項です」

「それって、私の口癖、真似しないで下さいよぅ」

美鈴と小悪魔は、仕える主こそ違え、同じ紅魔館に住む者として仲が良かった。
赤いロングヘアーが共通する二人は、傍目には姉が美鈴、妹が小悪魔という姉妹のような雰囲気だ。
それを眺めてパチュリーは目を細める。

「お正月には、この豚トロ饅頭で飲茶スタイルのパーティーやりましょうか?」

「飲茶スタイルって?」

美鈴の提案に、パチュリーが疑問系で聞き返す。

「飲茶スタイルは、給仕用のワゴンにコンロや鍋を載せて、テーブルのそばで注文に応じて料理をする。
っていう形式の事ですよね? 居ながらにして屋台料理の雰囲気が味わえるという」

小悪魔は知っている範囲で答えた。
それに美鈴が相槌を打つ。

「そうそう、それですよ。
豚トロ饅頭を蒸かす以外に、ゆっくりめーりんを使った刀削麺の実演なんかもやっちゃいますよ?
あいつら、面の皮が厚いから丁度良さげだし」

「あ、あの包丁で削って作った麺を、そのまま鍋の中に放り込むのですか?
良いですね、美鈴さんと咲夜さんの競演なんて、見てみたいなあ」

「中身はピリ辛ピザまんだから、坦々麺風スープかな」

もうもうと湯気を上げる大釜の前でナイフを構え、目にも留まらぬスピードでゆっくりめーりんの皮を削る
美鈴と咲夜。
小悪魔はその横で、ピリ辛のスープを作っている…
二人の楽しげな会話を聞くパチュリーの頭の中には、そんなビジョンが鮮明に浮かんだ。

「まあ、館の食堂なら良いけど、図書館ではやらないでね。
これ以上部屋の湿度を上げられたらかなわないわ」

「あー、私も泣きます」

最近特に、かび臭い本の手入れが大変なのだ。
パチュリーの言葉に本来の司書の仕事を思い出した小悪魔は、一転して本当に泣きそうな顔をしている。
それを見た美鈴は、思わず苦笑してしまう。

「はいはい、じゃあ食堂で」





そんなわけで、新作、ゆっくりれみりゃの豚トロ肉まん試食会は好評のうちに終了した。
美鈴は最後まで作り方を教えてくれなかったが、

「この肉まんは、仕込みが肝心でちょっと時間がかかるんです。
作り方は中国四千年の秘儀なんで秘密ですよ。特に咲夜さんには見せられませんからね。ウフフ…」

などと、意味深な事を言っていたのだった。





大図書館に戻った後、小悪魔は蔵書を整理しながら、クリスマスに作るケーキのレシピを考えていた。

(クリスマスにはやっぱり、ブッシュ・ド・ノエルが良いかな?
チョコレートクリームが沢山要るから、ゆっくりちぇんを発注しようかな…
でも、悪魔がクリスマスを祝うのも変な気もしますが…ケーキくらい良いですよね)

パチュリーは中央のテーブルで本を読んでいたが、考え事をしているのか、どこか集中できない様子だった。
小悪魔を見ると、唐突に口を開く。

「美鈴の豚トロ饅頭だけど」

「はい?」

パチュリーの目が、悪戯っぽくきらっと輝く。

「中国四千年の秘密と言われると、是が非でも暴きたくなるわね」

流石、ノーリッジの名前は伊達ではない。
その知識欲は、自身に知らないことがあるのを許せないかのようである。
確かに小悪魔も、気にならないと言ったら嘘になる。
料理人としての好奇心が、あの肉まんの秘密に迫りたいと囁くのだ。

「でも、どうやって探るんですか?
流石に私やパチュリー様が嗅ぎ回ると、目立ちすぎて美鈴さんにばれちゃいますよ?」

「そうね、そこで、これを使ってみようと思うんだけど…」

「むぎゅ…ぎゅ…ぎゅ…ぎゅ…」

「チルノフの冷蔵庫で冷やされていた所為か、妙に顔色が悪くてガタガタ震えてるわね?」

小悪魔はパチュリーの取り出した直径15cmほどの水晶球と、同じく15cmほどのゆっくりぱちゅりーを見ると、
パチュリーのやろうとしている事に合点がいくと同時に、ちょっと残念気味に言った。

「ゆっくりに偵察させる気ですか?
まあそれはともかく、その子は使えないと思いますよ」

「どうして?」

「外見は変わってませんけど、中身いじっちゃいましたから。
その子の中身の生クリームを半分抜いて、代わりにコーヒーゼリーを入れてありますから、
多分まともに動けないと思います」

小悪魔はパチュリーの手からゆっくりぱちゅりーを受け取ると、ちょっとシェイクしたり揉んだりした後に、
頭頂部に太目のストローを突き刺した。

「むぎゅっ!」

その瞬間だけ大きく痙攣したゆっくりぱちゅりーだが、それ以外は真っ青な顔でぶるぶると震えるのみだ。

「どうぞ。新しいデザートを試作中だったんです。ちょっと試食してみて頂けますか?」

パチュリーはそれを受け取ると、恐る恐る飲んでみた。
太目のストローを咥えるパチュリーの口に、白と黒のマーブル模様の液体が吸い込まれると、透けるように白く
細い喉がコクコクと微かに上下する。

「んっ、ちょっと喉に絡みつくような感じがするけど、トロっとして美味しいわ、これ!」

そう言うパチュリーは、唇に付いた白い生クリームを舌でペロッと舐めとる。
その光景に小悪魔はにっこり微笑むと、パチュリーに見えないように小さくガッツポーズをした。

「それ、ドロリッチなんとかって名前で、外界で流行っている最新スィーツだそうです。
山の上の神社の巫女さんに教えてもらったんで、試しに作ってみたんですけど」

「ふぅん、外界では不思議なものが流行るのね…
それはともかく、あの娘は巫女じゃなくて…」

「まあ良いじゃないですか、青巫女さんのほうがわかり易いですし」

そうこうしているうちに、ゆっくりぱちゅりーは萎んでしわしわの干物のようになってしまう。

「思わず飲み干してしまったわ…どうしましょう」

「とりあえず厨房にストックしてある加工前の子なら居ますが、あんまり期待できないと思いますよ?
加工所で食用に育てられた子は、殆ど体力無いですし…」

「まあ実験だし、いいわ、一匹持ってきてくれない?」





「むきゅぅ…」

そんなわけで小悪魔に持ってこられた、直径15cmほどのゆっくりぱちゅりー。
箱から出され目は覚ましているが、半眼で眠そうな表情をしている。
まあこれは、ゆっくりぱちゅりー種に共通する特徴だが。

パチュリーは水晶球とゆっくりぱちゅりーをテーブルに置くと、何やら呪文を唱え始めた。
水晶球とゆっくりぱちゅりーの上に手をかざすと、それぞれの下に光り輝く魔方陣が出現し、今までうとうと
していたゆっくりぱちゅりーが、急に痙攣したように動きを止める。

「むきゅ!」

それと同時に、水晶球にはテーブルの反対側からゆっくりぱちゅりーを覗き込む小悪魔の姿が映し出された。

「えっと、これはこの子の見ている景色。って事ですか?」

水晶球を指差しながら尋ねる小悪魔に、パチュリーは頷く。

「それだけじゃなくて、こちらからその子を自由にコントロールする事が出来るわ。
ゆっくりは構造が単純だから、魔法がよく効くわね」

なるほど、術をかけた相手を、遠隔操作出来る魔法らしい。水晶球はモニター代わりのようだ。
パチュリーが水晶球の上に両手をかざすと、ゆっくりぱちゅりーはきょろきょろと辺りを見回し始めた。
それと同期して、水晶球の景色も左右に動く。

「リンクはOKのようね、行くわよ、ドロリッチ2号!」

「むきゅっ!」

ドロリッチ2号というのはこの子の名前らしい。パチュリーが号令をかけると、ドロリッチ2号は、
ぽよん、ぽよんと軽い音を立てながら跳ねて前進する。

「うっ」

数歩行ったところでドロリッチ2号は急停止し、パチュリーは口に手を当てる。

「どうしたんですか! パチュリー様!?」

「…酔うわね、これ」

水晶球を覗き込んで青ざめるパチュリーを見て、不安になる小悪魔だった。

「大丈夫かなあ、これで…」





結論から言うと、ゆっくりぱちゅりーをリモートコントロールし、美鈴の豚トロ饅頭製作現場をスパイする、
「ドロリッチ計画」は頓挫した。
4機もの精鋭を送り込んだのだが、全て稼動不能という散々な結果に終わったのだ。

2号は気分の悪くなったパチュリーがコントロールを失った間に、小悪魔が止めるより早くテーブルから落下、
3号は階段を昇る途中で同じくコントロールを失い転落、
4号は扉に挟まれ作戦行動不能、
5号は庭に出たところで、うろついていたゆっくりれみりゃに捕食されてしまった。

「全く…、想像以上に…脆弱な種ねえ…、こんなので良く…今まで絶滅しないで…居るわね…」

青ざめた顔で、ぜいぜいと肩で息をして憤るパチュリー。
小悪魔は、ぱちゅりーの操縦で酔ってふらふらしているパチュリーをなだめながら、これ以上食材を無駄に
するのは避けたいと思っていた。

「まあ、この子達は天然ものじゃなくて、加工所の養殖ものですから…あぁ、勿体無い…」





「やっぱり、食用のゆっくりを転用するのは無理があるわね」

「そういう問題でも無いような気がしますが…」

「仕方が無いわね、こんな事もあろうかと、密かに用意していたアレを出すわ」

パチュリーは暫く考えた末、ついに虎の子の最終兵器投入を決めたようだ。

「…まだやるんですか?」

何だか目的と手段が入れ替わっているような気もする小悪魔だが、パチュリー様は結構頑固なので、
言い出したら聞かない所がある。

(それに、こんなに楽しそうな主を見るのも久しぶりだ、自分も結構悪戯は好きだし、もう少し付き合おう…)

小悪魔は傍観するだけだと甘く見ていたのだ。その時までは。





パチュリー様が魔法の実験に使う小部屋から、見慣れない一匹のゆっくりを抱えて戻ってきた。
直径15cmほどの饅頭形態に、側頭部に蝙蝠のような羽。遠目にはゆっくりれみりゃの様に見えたが、めーりんの
様な赤い髪。おまけに、細くて黒い尻尾も見える。

(これって、もしかして…)

「こぁ!」

それが鳴いた。
小悪魔はある確信を得たが、あえて尋ねてみた。

「あのぅ、それって…」

「そう、あなたのゆっくり、“ゆっくりこぁ”よ」

「こぁ!」

「やっぱり…でも初めて見ました」

「そうね、だって、私が魔法で作り出したんだもの。
ゆっくりちぇん以上の俊敏性と、れみりゃやふらんより速く飛べる羽と強靭な牙、めーりんより強い皮膚と
赤い髪、もちろん知能も強化してあるし、必殺技も仕込んであるわ。
これが、“私の考えるちょっと強いゆっくり”よ!」

「こぁ!こぁ!」

パチュリーの説明に合わせて、何だか自慢げに鳴いてみせるゆっくりこぁ。

「えー、“さいきょうのゆっくり”じゃないんですか…」

自分で突っ込んでから、そんなのは自分に似合わないな、と思う小悪魔だった。

「でも何で…?」

と言いかける小悪魔を制し、パチュリーが続ける。

「本当はあなたへのクリスマスプレゼントにしようと思ってたんだけど。
あなた、咲夜が“ゆっくりゃざうるす”の話をするの、いつも羨ましそうに聞いてたでしょ?
まあ、いつもお世話になってるから、これ位良いかなって。
ちょっと早いけど丁度良いわ、これから実戦投入よ」

「こぁ!」

「パチュリー様…」

照れ隠しなのか、ツンデレ口調で早口のパチュリー様。
本当は、クリスマスの朝にこっそり枕元に置いておくつもりだったのだろう。
アレな理由で先に貰ってしまい、サプライズは無くなったが。いや、今十分驚いた。
逆に、こんなに顔を真っ赤にしてプレゼントを渡してくれるパチュリー様が見られたのだ。
小悪魔は嬉しさで感無量だった。

「悪魔がクリスマスプレゼントなんて、貰っても良いんでしょうか?」

「ここは幻想郷、何でも受け入れる場所でしょ、そんな細かいこと誰も気にしないわ。
でもそうね、渡すタイミング外しちゃったから…お歳暮だとでも思えばいいでしょ?」

気恥ずかしさが増したのか、真っ赤な顔でツンツンした態度のパチュリー。

「ありがとうございます!」

「こぁ!こぁ!」

嬉しさは伝播するのだろう。
小躍りしそうにはしゃぐ小悪魔につられたように、ゆっくりこぁも嬉しそうにしている。

「さあ、感動のご対面のところ悪いけど、あなたには早速その子を操縦してもらうわよ。
私たちには、その子しか残されてないの」

パチュリーの言葉に、我に帰る小悪魔。

「でも私、そんなのコントロールできませんよ?」

水晶球を指差して言う小悪魔に、パチュリーが返す。

「大丈夫よ、私の魔法で、あなたの意識をこの子の中に飛ばすの。
それで、シンクロ率も上がって思ったようにコントロールできるわ」

「それってもしかして、幽体離脱とかいう厄いものでは…?」

何やら危険な香りを感じた小悪魔は、恐る恐る聞いてみる。

「大丈夫よ、危なくなったらすぐに引き戻してあげるわ」

「はぁ…」

あんまり大丈夫じゃないような気もするし、何より折角パチュリー様から貰ったプレゼントを、危険な目には
遭わせたくないと思うが、パチュリー様はやる気だ。
むしろその為に渡されたのだから。
仕方なく覚悟を決める小悪魔だった。

「お願いします…」

「こぁ!」

何故だかやる気満々のゆっくりこぁと、椅子に座る小悪魔。
パチュリーはにっこり笑うと、それぞれの額に手をかざす。
その手前に光り輝く魔方陣が現れると同時に、小悪魔は意識を失い、そのままテーブルに伏してしまう。
次の瞬間、テーブルに伏している自分の姿が見えた。
不思議な光景だな、と小悪魔は思う。
寝ている自分の姿を外から眺めるなんて、めったに出来ることではないだろう。

「シンクロ率は80%以上ね、どう、調子は?」

後ろからパチュリー様の声が聞こえる。

(はい、大丈夫そうです)
「こぁ!」

自分の考えた言葉とは違う鳴き声が発せられた。
やはり、自分がコントロールしているとはいえ、この子はこぁとしか喋れないようだ。
だが、人語を喋れない事と、頭の良さは別である。
小悪魔には、生まれてから今までパチュリー様に育てられた、この子の記憶の断片が感じられた。
パチュリー様は私にばれない様に、苦労してこの子を育てたようだ。
そして、パチュリー様の私への感謝の気持ちと、この子の、育て親であるパチュリー様への感謝の気持ち、
両方が感じられるその記憶の断片は、とても暖かいものだった…

(ありがとうございます、パチュリー様)
「こぁ!こぁ!」

「凄いわね、シンクロ率100%よ」

ゆっくりこぁはパチュリー様に向き直ると、感謝の意を込めた挨拶をした。
パチュリー様は、水晶球に表示される数字を見て驚いた様子だが、こちらを見るとにっこりと笑う。
こちらの思いは、言葉にならなくともなんとなく伝わっているのだろう。小悪魔はそう思った。

(今までありがとうございました、行ってきます)
「こぁ!」

パチュリー様に挨拶をして、ゆっくりこぁは飛び立った。
小悪魔は、普段と同じように側頭部の羽を動かすことが出来、あまり違和感を感じることは無かった。
普段から空は飛べるが、本当に羽を使って飛んでいるわけではない。魔力を使って浮き上がっているのだ。
ゆっくりこぁも、よく分からないがそんな不思議な力で飛べるのだろう。





図書館を飛び出したゆっくりこぁは、門番の詰め所を目指した。
ゆっくりれみりゃの肉まんは、詰め所の奥のキッチンで作られたようだ。
秘密があるとすれば、その先だろうと思ったのだ。

「こぁ!」

「うー? うー?!」

紅魔館の庭に出たこぁは、ゆっくりれみりゃを見つけた。
ゆっくりれみりゃもこちらを見つけたようだ。
仲間だと思ったのか、食べ物だと思ったのか、ニコニコしながら近寄ってくる。
だが、こんな所で遊んでいるわけにはいかない。
こぁは、飛行速度を上げた。
その飛行速度は、ゆっくりれみりゃよりずっと速く、その高度はずっと高かった。

「ぅーっ!」

ゆっくりこぁは、今まで籠の中で飼われていた。無論、パチュリーがこっそり育てていたからである。
はじめて見る外の世界は光に溢れ、広く、清々しい空気に包まれている。
外の世界を自由に飛びまわれるって、こんなにも素晴らしいものだったんだ。
こぁの意識を感じ取った小悪魔も、嬉しくなる。そういえばこんなに自由に飛ぶのは、久しぶりだ。

「こぁ!」





そのころ大図書館では、パチュリーが水晶球を見て目を瞠っていた。

「凄い、シンクロ率が150%を超えたわ。 俄かには信じられない値ね…」

無論、危険なことがあれば、意識は引き戻すつもりだ。
傍らでテーブルに伏している小悪魔を、ちらりと見る。





ゆっくりれみりゃを振り切ったこぁは、門番詰め所にたどり着いた。
中に美鈴が居る様子は無い。
幸いにも自室に戻ったのか、出掛けているのか。
この隙に、こぁは詰め所の中へと入り込む。
控え室の奥には洗面所や小さな炊事場があり、簡単な調理が出来るようになっている。
そこにはコンロの上に蒸し器が載っているのが見えた。そこで豚トロまんを蒸しあげたのだろう。
しかし、蒸し器の中は綺麗に片付けられ、周りにもそれらしいものは置いていない。

「こぁ!」

さらに奥の階段を目指す。
こぁの意識が、更に奥にある階段に何かがあると囁くのを感じていた。
上に通じる階段は仮眠室へ。下に通じる階段には、小悪魔は入ったことがない。

(この階段は、地下牢に通じていると聞いたことがあります。この紅魔館は、中世ヨーロッパの城を改装して、
そのまま幻想郷入りしたものだそうですから。
詰め所の地下には、当時の敵の侵入者や不審者を閉じ込めたり、拷問したりする部屋があると…)

(ちょっと怖いですが、行ってみよう…)

薄暗い階段に、ちょっとびくびくしているこぁ。
だが、ここで引き返すわけにはいかない。
小悪魔はこぁの意識を宥めながら、先へと進む。

(この先に、美鈴さんの言っていた秘密が?)

地下の扉の奥からは、「う゛う゛う゛…」という、うめき声のようなノイズが漏れてくる。
よほど凄惨な現場が待っているのであろうか?果たして中国四千年の秘儀とは?





「ギギギ…」

体全体を使って扉を押し開けると、そこは奥の牢屋に通じる小部屋の様である。
壁際には、奇怪なオブジェが置かれていた。
壁に固定されているらしい棚のような木の板の上に、ゆっくりれみりゃの頭が置かれている。
その顔は上に向けられ、その口には上から固定された大きな漏斗が差し込まれている。
暗く見難かったので、最初は頭だけのゆっくりれみりゃ、胴なしに見えたが、そうではない。
木の板は前後に分割されており、半円形にくりぬかれた部分に挟まれるようにれみりゃの首が嵌っているのだ。
ピンク色の服を着た胴体は、木の板の下に見える。
そして驚くべきことに、その体はぶくぶくと肥大化し、通常のれみりゃ種より2倍は大きい。
ピンク色の服は、肥え太った胴体ではちきれそうに膨らんで、まるでボンレスハムのようだ。
その丸々と太った足でも、通常のれみりゃよりはるかにふとましい体を支えられないのか、床に座り込むような
形で手足を時折じたばたさせている。

「う゛ぷぅーっ、う゛ぷぅーっ」

弱々しい叫び声も、口に差し込まれた漏斗の所為か、太りすぎた所為なのか、濁音交じりで聞き取りにくい。

(何ですか、これ…でもどこかで見たような?)

小悪魔はこんなに太ったゆっくりれみりゃは見たことがない。
通常の状態では、胴体つきのゆっくりれみりゃはここまで大きくならないのだ。
ゆっくりれみりゃには骨格が無いので、あまり大きくなると自重で潰れて動けなくなる。
今目にしているゆっくりれみりゃは、まさにそんな状態だ。
だが、どこかで見たような気もする。不思議な感覚だった。





と、そのとき部屋のさらに奥にある牢らしき部屋から物音が聞こえた。
こぁは飛び上がって驚き、咄嗟に壁の近くの物置らしき所に飛び込む。
体が小さいから出来た芸当だ。
小悪魔は恐怖に怯えるこぁの意識を宥めつつ、奥の部屋へと意識を集中した。

そこから現れたのは、美鈴その人であった。
ニコニコしながら、ゆっくりれみりゃに話しかける。

「さ、食事の時間ですよ、おぜうさま!」

そして、奥の牢屋らしい部屋からリボン付きの子ゆっくりを5,6匹持ってくると、壁に固定されている
ゆっくりれみりゃに近づき、子ゆっくりをごろごろと漏斗に流し込んだ。

「ゆっ、ゆっくりやめてね!」
「れみりゃいやぁー!」
「れいむおいしくないよー!」
「だべだいでぇー!」

叫ぶ子ゆっくりに構わず、美鈴は木の棒で上から子ゆっくりを突き、漏斗の真ん中のれみりゃの口に繋がって
いる穴にぐいぐいと押し込んでゆく。

「むぎゅ、やべでっ!」
「いだいいだいだい!押さないでね!ゆっくり押さないでね!」
「ぶぺっ!ぶごっ!」

漏斗の中で潰されながら叫ぶ子ゆっくりたちと、

「ぶぅ゛ーっ!ぶぅ゛ーっ!」

漏斗を咥えさせられ叫び声も上げられず、涙を撒き散らしもだえるれみりゃの頭。
餡子がのどに詰まると呼吸が出来ないのか、その顔は青くなったり赤くなったり忙しい。
その机の下では、ぶくぶくに太った体がじたばたと無駄な足掻きを続けている。
中々にシュールな光景だ。
そのうち、子ゆっくり達は美鈴の手によって、無理やりゆっくりれみりゃの口の中に押し込まれてしまった。
小悪魔は、この光景が何かに似ていると考えていたが、暫くしてそれを思い出す。

(そうだ、フォアグラだ、これ)

フォアグラというのは、人為的に太らせたガチョウやアヒルのレバーを使った料理を指す。
このれみりゃと同じように首を固定して、漏斗で無理やり餌を与え続けると、レバーに脂肪が蓄積されて、
いわゆる脂肪肝と同じような状態になるのだ。
それを使ったフォアグラ料理は、脂が乗って軟らかく、世界三大珍味の一つと呼ばれる。
そういえば先程のとろけるような肉まんの食感、それもフォアグラに良く似ている。
このゆっくりれみりゃの仕込みだろう作業も、以前、大図書館の資料で見たことがあるフォアグラの写真に
そっくりだった。

先ほどの疑問が解消し、美鈴の作業の秘密が分かって、小悪魔はほっとしていた。
だが、ゆっくりこぁの意識はそうではなかったようだ。
はじめて見る恐ろしい光景、怖そうに見えるお姉さんに怯えてしまい、小悪魔が意識を緩めた弾みで、思わず
泣き声をあげてしまったのだ。

「…こぁ!」

小悪魔がしまったと思うより早く、美鈴がこちらに気付いて振り返る。

「おやぁ? いつの間に逃げ出した子が居るのかな?」

(まずい、逃げなきゃ!)
「こぁ!」

だが、恐怖で萎縮してしまったこぁの体は、震えたまま動かない。
目前まで迫った美鈴は、獲物を前にした豹のように、目を輝かせて微笑んでいた。

「みぃつけた!」

恐怖心で震えるゆっくりこぁの意識は、冷たく、暗い闇となり、小悪魔の意識も覆い隠してしまった…





「はっ、ここは!?」

がばっと起き上がった小悪魔。その肩から椅子の上へ、ぱさりと毛布が落ちる。

「図書館よ、私があなたの意識を引き戻したの。
驚いたわね、シンクロ率が急に200%を超えて、危険な波形が見えたのよ。
一体何があったの? 大丈夫?」

パチュリー様が話しかけてくるが、それどころではなかった。

「すみません、あの子が危ないんです! 話は後で!!」

小悪魔はダッシュで図書館を出る。
階段を駆け上り、中庭へと飛び出す。
そこから、詰め所まで飛んで行く。
勿論、普段は歩いて行くのだが、今はゆっくりこぁが心配で気が気ではなかった。
美鈴さんに秘密を探っていたことがばれても、何とかしなければならない。
このままでは、あの子はゆっくりれみりゃの餌にされてしまうかもしれないのだ。

クリスマスにはちょっと早かったけど、パチュリー様から頂いた大事な子だ。
短い間だったが、暖かい記憶も共有したし、一緒に空も飛んだ。
そんな子を失ってしまったら、パチュリー様に申し訳が無い。

飛行の風圧なのか、それとも別の何かか。小悪魔は目尻から暖かいものが零れるのを感じながら、詰め所へと
飛び込んだ。

「美鈴さん! その子は駄目なんです!!」





詰め所の部屋の中には、美鈴と、テーブルの上で肉まんをパクつくゆっくりこぁが居た。
そのゆっくりとした様子は、すでに打ち解けて仲の良い家族のようだ。
その無事な姿を確認すると、小悪魔はその場でへたり込んでしまう。

「はぁ、良かった…」

「どうしたんですか、そんなに慌てて?」

「こぁ!」

のんびりと声をかけてくる美鈴と、小悪魔を見るなりその胸に飛び込んでくるゆっくりこぁ。

「すみません、この子はパチュリー様から頂いたプレゼントなんです。
美鈴さんが食べちゃったんじゃないかと心配になって…」

小悪魔は、ゆっくりこぁの髪を撫でながら言った。
あえて地下室の事については触れないように。

「この子を見つけたときに、小悪魔の気の流れを感じたんですよ。
だから、多分パチュリー様の差し金であそこに忍び込んだんだと、ピンと来ました。
何より、見たことの無い珍しいゆっくりでしたからね」

やはり小悪魔の感じたとおり、美鈴にはすでに察しがついていたようだ。

「良かった、本当に良かった…」

「こぁ!」

「でも、地下室のアレ、咲夜さんには秘密ですよ。
中庭で増えすぎたゆっくりれみりゃの間引きは任されているとはいえ、アレはショックでしょうから」

笑いながら言う美鈴。
小悪魔も尤もだと頷いて見せた。

「とにかく、この子は多分世界で一匹だけの存在なんです。
私はこの子を育ててみようと思います」

「こぁ!」

「分かりました。
まあ、咲夜さんも“ゆっくりゃザウルス”飼ってるし、私もれみりゃ飼育してますから、何かあったら相談に
乗れると思いますよ?」

そう言う美鈴の言葉を聞いて、この二人は当てにならないだろうなあ、と思う小悪魔だった。















by 神父

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2008年12月28日 20:12
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。