ゆっくりいじめ系1792 子育て物語 前編

※ゆっくりの幸せ描写が半分以上
(編注:収録時に分割しました 前編は全て幸せ描写)

『子育て物語』








長かった冬も明け、ぽかぽかとした陽気に包まれた春の日。
あたりに花が咲き乱れた美しい森では無事に冬を越えられたゆっくり達の姿が見受けられる。
彼女らは春になると子供を作る。
今森の中を駆け回っているゆっくりは子作りの準備として食料を集め、赤ちゃんの寝床用の草木を集めているのだ。

その中で今まさに赤ちゃんが目を覚まそうとしている夫婦がいた。

「ゆゆっ? あかちゃんうごいたよ!!」
「ゆ! もうすぐうまれるんだね! ゆっくりうまれていってね!!!」

去年の秋に見つけた洞穴の中、一匹のまりさと一匹のれいむが頭上を見上げていた。
れいむの頭からは茎が生えていて、さらにその先にはプチトマトサイズの小さなれいむが一匹だけ実っている。
この夫婦の子供である。

通常、頭から茎を生やして赤ちゃんを実らす植物型出産では数匹の赤ちゃんが実る。
だがこの夫婦は初めての出産で慣れない育児は危険が多いということで一匹だけ産むことを選んだ。
二匹の願いが通じたのか、茎には赤ちゃんれいむが一匹だけ実った。
そんな訳でこの夫婦の間には子供が一匹。
でも一匹しかいないからこそこの子に全ての愛情を注ぐつもりでいた。

「ゅ、ゅっくち…」

―と、茎の先の赤ちゃんから小さな声が聞こえた。
その声に親二匹は色めきたった。

「ゆっくり! ゆっくりしていってね!!」
「あかちゃん! おかーさんだよ! まりさとれいむだよ!!」
「ゅ…ゅ…ゆっくち! ゆっくちしていっちぇね!!!」

母の言葉に反応して赤ちゃんは元気な声をあげた。
初めての「ゆっくりしていってね」だ。
舌足らずなのはしょうがない。誰でも最初は同じだ。
親にとっては元気な産声が聞こえただけで十分。
それだけで最高の幸福感に包まれた。

「あかちゃん! ゆっくりしていってね!」
「これからゆっくりしようね!!」
「ゆっくちー! ゆっくちしていっちぇね!!」

「ゆっくり! すごくゆっくりしたこだよ!!」
「そうだね!! こっちまでゆっくりしてくるよ!!」
「ゆゅーん! ゆっくちー!!」

赤ちゃんゆっくりはまだ基本的な言葉しか喋れない。
基本的な言葉とはつまり「ゆっくりしていってね」である。
他は「ゆー」とか「ゆぅ」と言った鳴き声だけ。
それ以外の言葉はこの先親が教えていかねばならない。


「ゆーん、ゆーん!!」
「ゆ! いっぱいすりすりしようね!!」

茎から外れた赤ちゃんれいむが甘えた声で鳴きながられいむにスリスリしてきた。
れいむは可愛い娘のスリスリを嬉しそうに受け止めた。

「すーりすーり」
「まりさもあかちゃんとすりすりしたいよ!!」
「ゆーん、ゆーん!!」

まりさも混じって親子三人で肌を擦りつけ合う。
だがどうも赤ちゃんの様子がおかしい。

「ゆぅぅぅぅん!!」

泣いていた。
赤ちゃんは喜んでいると思っていたれいむ達は頬に涙が当たるまで気付かなかった。

「ゆゆっ? あかちゃんどうしたの!? なんでないてるの?」
「ゆゆーん! ゆゆーん!!」

れいむは赤ちゃんれいむに理由を聞くが言葉を喋れない赤ちゃんはただ泣くだけ。
泣きながられいむに小さな体を擦りつけてくる。
よく見ると赤ちゃんれいむが見上げているのは母であるれいむの顔よりもっと上だった。
れいむの頭には赤ちゃんの実っていた茎がある。
ここで気が付いた。赤ちゃんはお腹が空いていることを訴えていたのだ。

「ゆ、れいむ! あかちゃんはきっとおなかがすいてるんだよ!!」
「そうだね! それはゆっくりできないね!! ごめんねあかちゃん!!」

まりさがれいむの頭に生えた茎をもぎ取ると赤ちゃんの前に置いた。
赤ちゃんは茎から離れた後には何故かお腹が空いている。
だから最初の食事として赤ちゃんの実っていた茎を与えるのだ。
茎から栄養を貰っていたばかりなのにすぐ食事を必要とするのはいささか不思議だ。
それでも赤ちゃんがお腹を減らしているのは本当だ。

「ゆっくりたべていってね!!」
「ゆー!!」

赤ちゃんれいむは笑顔で自分の実っていた茎に吸いついた。
ちょうど赤ちゃんれいむが繋がっていた場所にある穴から茎の中身を吸うのだ。
通常は一本の茎に対して複数の赤ちゃんがいるのでが今は一匹。
中身を全部吸うには数日かかるだろう。
れいむやまりさは産まれてくる赤ちゃんのためにおうちの奥にたくさんの食料を貯蓄している。
これも数日分あるからしばらくは家族三匹で一緒に居られる。

「ゆぅー! ゆっくりしていっちぇね!!」
「ゆっくりしていってね!!」
「いっしょにゆっくりしようね!!」

お腹いっぱいになった赤ちゃんは今度こそ母親二匹に甘えだす。
赤ちゃんれいむを真ん中に、三匹並んで体をくっ付け合う。
家族みんな幸せそうな笑顔を浮かべる。


しばらくして赤ちゃんれいむはスヤスヤと眠りはじめた。

「ゅー…ゅー…zzZ」
「ゆっくりねむっちゃったね」
「ねがおもゆっくりできるね!!」
「ゆー、まりさおおごえだしちゃだめだよ」
「ゆゆ、ゆっくりごめんね」

赤ちゃんれいむはれいむやまりさの作った寝床の上で安らいだ表情で眠っている。
とてもゆっくりした寝顔である。不安なんてまるで感じてなさそうだった。
だがそれを見ているれいむは幸せを感じている一方で不安も感じていた。
この赤ちゃんれいむにはゆっくりしたれいむに育ってほしい。
しかしそう願うだけではそのように育つ訳もなく、親であるれいむとまりさが導かなければいけない。
その親としての責任。それが不安としてれいむの心に在るのだ。

「ゆっ、だいじょうぶだよれいむ」

まりさがれいむの不安を察してか、身を擦り寄せてきた。
れいむは心が少し安らぐのを感じながらまりさにスリスリし返した。

そうだ。
れいむは一人じゃない。まりさと一緒だ。
初めての育児は大変だけど二人ならきっとやっていけるはずだ。

「ふたりでがんばってそだてようね」
「ゆっくりがんばろうね。まりさとれいむならいいこにそだてられるよ」

その後安心したれいむはしばらく赤ちゃんの寝顔を眺めていた。
まりさと一緒にこの子をゆっくりした子に育てよう。
教えることはたくさんある。

話すこと。
遊ぶこと。
危険なこと。
他にもゆっくりするために必要なこと。
数えだしたらきりがない。

れいむは考えているうちに頭が混乱して眠くなってきた。
とにかくゆっくり出来ることを教える。
そういうことにして眠りについた。










赤ちゃんれいむが産まれてから三日ほど経った。
茎の中の餡子もほとんど無くなり、おうちの貯蓄も尽きかけていた。

「ゆー! ゆー!」

赤ちゃんれいむは吸いついていた茎から口を離して親に向かって鳴いた。
れいむとまりさは赤ちゃんが何を伝えようとしているのか少し考えた後、茎の中身が尽きたことに気が付いた。

「ゆっ! じゃあこんどはこっちをたべようね!!」
「ゆー!!」
「おかーさんがやわらかくしてあげるね!!」

れいむは茎を一口分噛みちぎって咀嚼する。
赤ちゃんれいむは食べ物を柔らかくしてくれる母れいむの前で「ゆっくりしていってね!!」と待っている。

「ゆぺっ!
 さあ、ゆっくりたべていってね!!」
「ゆっくりかんでたべてね!!!」
「ゆー!!」

赤ちゃんれいむは元気の良い返事と共に柔らかくなった茎にがぶりついた。
一口頬張ると、むーちゃむーちゃといった風によく噛んで食べる。

「ゆっくりしていってね!!!」

美味しかったようで、にっこり笑ってそう鳴いた。
ある程度育つと「しあわせー!!」と叫ぶところだが、まだ赤ちゃんなので基本の鳴き声しかできない。
『むーしゃ×2、しあわせー』もちゃんと教えなければならない。

れいむのゆっくりした赤ちゃんはそれから噛む→飲み込む→ゆっくりしていってね!!を数回繰り返して食事を終えた。
何て言うかもう、れいむはそれを見てるだけでお腹いっぱいの気分だった。

とはいえそれで本当にお腹いっぱいになることはない訳で。
おうちの食料はもう残り少なかった。そろそろ食糧調達に出かけなければならない。
まりさも同じように考えていたようだ。

「ゆっ! そろそろたべものとってくるね!!」
「ゆっくりがんばってね!!」

赤ちゃんが産まれる前から役割は話し合って決めていた。
運動能力の高いまりさが狩りに出かけ、育児の知識に明るいれいむがおうちに残って赤ちゃんの世話をする。
適材適所というやつだ。それにれいむもまりさも親がそうだったのでそういうものだと思っていた。
そしてまりさは数日ぶりの狩りに出かけようとした。
だがそれを見た赤ちゃんれいむが突然泣き出した。

「ゆーん! ゆゅーん!!」
「ゆ? どうしたの!? なんでないてるの!?」
「ゅー!! ゅぅー!!」

赤ちゃんれいむはまりさの頬に体を擦りつけながら涙をボロボロ流していた。
それから赤ちゃんれいむはまりさを見上げ、何かを訴えるように激しく鳴いていた。

「ゆゆ、あかちゃんのためにもたべものとってくるからね。
 ゆっくりまっててね!!」
「ゆうぅぅぅ!!!」

しかし赤ちゃんれいむはイヤイヤする。
まりさがおうちから出ようとすると、押し戻そうとしているのか小さな体でまりさを押してきた。
れいむはここで赤ちゃんが何を考えているのか分かった。
赤ちゃんれいむはまりさが家から出て行ってそのまま帰ってこないと誤解しているのだ。
れいむ自身もかつてはそうだった。
れいむは笑顔で赤ちゃんれいむに体を寄せた。

「ゆっくりあんしんしてね! まりさはちゃんとかえってくるよ!!」
「ゆぅぅん!! ゆぅぅぅん!!!」

だが…やっぱり赤ちゃんはイヤイヤした。
赤ちゃんは言葉を喋れないのと同時に言葉をほとんど理解できない。
だから言葉で言っても「まりさが帰ってくる」だなんて理解できない。なので安心出来るはずもない。

それかられいむとまりさは幾度と赤ちゃんを説得したが、赤ちゃんれいむは泣くばかりだった。
仕方のなくなったれいむとまりさは強硬手段を取ることにした。
外に行ってもちゃんと帰ってくること、そして食べ物を取ってくることを言葉じゃなく経験的に伝えるためだ。
れいむはおうちを出るまりさを邪魔しないよう赤ちゃんのリボンを咥えて持ち上げる。

「ゆー!! ゆゅーん!!」
「ちゃんとかえってくるからね! ゆっくりいいこにしていってね!!」
「ゆ"うぅぅぅぅ!!!!」

まりさはそれだけ言い残すとおうちから出ていった。
れいむにリボンを咥えられて宙ぶらりんの赤ちゃんれいむはその後ろ姿に向かって泣き続けた。
もう帰ってこない(と思い込んでる)まりさお母さんに「行かないで」と言っているかのようだ。
れいむは赤ちゃんの泣き声に心が締め付けられるようであった。
でも口をリボンから放すと赤ちゃんれいむはまりさを追って外に行きそうな勢いなのでしばらくリボンを放せなかった。


しばらくすると赤ちゃんは泣き疲れて眠りだした。
れいむは赤ちゃんを寝床に降ろすと涙の跡が残る頬を舐めてあげた。
それかられいむは軽くため息をついた。

本当に教えることが多い。
親が外に食糧調達に出かけるということすら教える必要がある。
それも言葉が聞くのも話すのも満足に出来ない状態で、だ。
言葉に関してはゆっくり覚えていくしかない。
とにかくれいむとまりさとでたくさん話しかけよう。
ゆっくりが言葉を覚えるにはとにかく話すこと。それしかない。

ああ、でも今はまず赤ちゃんれいむが起きた後どうするか考えないと。
きっと起きた時にまりさがいないとまた泣きだすだろうから。




それから数日経つとようやく赤ちゃんはまりさがおうちにいなくても泣かなくなった。
何度かまりさが家を出て、それから食べ物を持って帰ってくると赤ちゃんはようやく食糧調達というものを理解したようだ。
これでようやく赤ちゃんと二人きりの時に教育らしい教育が出来るようになった。

ちなみにまりさは昼と夕の二時間前ぐらいに外へと出かける。
夕過ぎに暗くなると何も見えないので眠るから、一日の半分弱は家にいないことになる。
その間はれいむが教育を行う。
今一番教えないといけないのは何よりも言葉だった。


「れいむはね、あかーさんだよ! お、か、あ、さ、ん!」
「ゆ、ゆゅ…よや、ややん!!」
「ゆゆ、おかーさんだよ! ゆっくりおぼえてね!」
「よやーやん!!」
「ゆぅ…」

赤ちゃんは喋ろうとしているのだが残念ながら発音が"やゆよ"だった。
しかしれいむの声を聞き、口の動きを必死で真似ようとしているのはよく分かる。

「よやーやん! ゆっくりしていってね!!!」
「ゆっくりしていってね!! でもおかーさんだよ!! よやーやじゃないよ」

ちゃんと会話が出来るようになるのはいつのことか。先は長そうだ。
だがゆっくりの場合、会話が出来るようになるのはそう難しいことではない。
親の知識を潜在的に引き継いでいるおかげで人間の赤ちゃんよりもずっと早く言葉を覚えるのだ。




何も教育してばかりではない。
おうちの中限定だが赤ちゃんと一緒に遊ぶのも大事なことだった。

「ゆー!!」
「ゆっ、おかーさんはこっちだよ! ゆっくりはしってきてね!!」
「ゆっくりー!!」
「ゆゆ!? おそとはだめだよ! ゆっくりできないよ!!」
「ゆぅ?」

とまあ運動させたり、

「おかーさんがおうたをおしえてあげるね! ゆーゆゆーゆゆゆー!!」
「ゆ? ゆー! ゆー!!」
「いっしょにうたおうね!! ゆゆゆゆーゆーゆー!!」
「ゆーゆゆゆーゆゆゆゆゆゆゆー!!!」
「すごいよ! すっごくじょうずだね!!」

ひどい音程とカオスなリズムなのだがゆっくり的には上手らしい。
というよりもまあ、れいむからすれば赤ちゃんがリズムを取ってるだけでも十分なのだ。

赤ちゃんれいむは母親のれいむと遊べてとてもゆっくり出来ているようだ。
身を擦り寄せ、精一杯の笑顔で甘えてくる。
れいむはその笑顔を見ると幸せな気持ちになれた。
育児は辛くてもこの笑顔が見れるだけで頑張れるのだ。
本当はまりさもこの場にいれば良いのだけれど、食べ物が必要な以上は仕方がない。




まりさが帰ってくる。

「ゆっくりかえってきたよ!!」
「ゆー!!」
「ゆっ、ただいまあかちゃん!!」

まりさが帰ってくると赤ちゃんれいむはまりさのお腹にポコンと顔を埋める。
嬉しそうな顔で甘えてくる赤ちゃんにまりさはお腹を貸していた。
れいむは邪魔しないようにしばらく待ってからまりさにおかえりを言う。

「おかえりまりさ! ゆっくりしていってね!!!」
「ただいまれいむ!! ゆっくりしていくね!!」
「ゆゆ! よやーやん! ゆっくり!! よやーやん!!」

赤ちゃんれいむは今日覚えた「お母さん」をれいむに向かって連呼する。
翻訳するなら『おかーさん、かえってきたよ! おかーさん!』と言ったところか。

「ゆっ? あかちゃんいましゃべったの!?」
「そうだよ! あかちゃんはね、おかーさんをおぼえたんだよ!!」
「よやーやん! よやーしゃん!!」

まりさは驚いていた、と同時に喜びを隠せずにいた。思わず顔がニヤける。
我が子におかーさんと呼ばれるのは何とも甘美な響きだ。
まだ発音が上手くないのはしょうがないが、それでもおかーさんと言おうとしているのはよく分かる。

「ゆゆ、すごいよれいむ! きょうはごちそうにしようね!!」
「そうだね! あかちゃんにおいわいしようね!!」
「ゆゆ? ゆー! ゆー!」

「ごちそう」とか「おいわい」とか、難しい言葉は赤ちゃんに理解できない。
でもゆっくりした雰囲気を感じ取った赤ちゃんれいむは飛び跳ねて喜びを表現していた。

その日の赤ちゃんの食事は茎の残りじゃなく、甘い花と小さな果実だった。




夕食の後、寝るまでの時間は家族三匹の時間となる。
そのほとんどは赤ちゃんと会話して過ごすことになる。

「ゆっ、あかちゃんこうだよ。ゆっくりまねしてね!
 お、か、あ、さ、ん、だよ!!」
「お、やゆ、やん? ゆゆー」
「もうちょっとだよ! おかあさん、だよ!!」
「お、かー、しゃん?」
「ゆ! いいかんじだよ! ゆっくりしてるよ!!」

今はとにかくお母さんと喋らせたかった。
れいむもまりさも母となった以上は子にそう呼ばれたいのだ。

「おかーしゃん! おかーしゃん!!」

褒められたことが嬉しかった赤ちゃんは母に向かって「おかーしゃん」と連呼する。
これでもまだ舌足らずな感じがあるが、今はこれで十分だった。




外が真っ暗になって何も見れなくなると就寝時間だ。
寝るときには赤ちゃんれいむを真ん中にして、家族寄り添って眠る。

「ゆーゆー、ゆっくりー♪ ゆゆゆー♪」
「ゅゅー、ゅ、ゆ〜♪」

れいむは子守唄を赤ちゃんに聞かせる。
初めは母の歌に続いて歌う赤ちゃんだったが、しばらくするとすぅすぅと寝息をたてはじめた。

「ゅ、まりさもねるね」
「ゆっ、れいむもねるね。おやすみまりさ」
「おやすみれいむ」

本当に真っ暗なのでまりさの顔は見れなかったが、きっと狩りの疲れもあって眠たかったのだろう。
おやすみを言ったあと、まりさはすぐにぐーぐーといびきをかき始めた。




育児の日々は続く。
れいむも赤ちゃんも外に出ることはないが、この時期のゆっくりはほとんど育児でおうちに籠っている。
これは地域によって変わるのだが、れいむ達の森で外に出ているのは食料を探す片親、家族のいない独身貴族。
後は危険を顧みないのか考え無しなのか、赤ちゃん達を連れて外に遊びに出てしまう家族ぐらいのものだ。
大抵そういった家族の赤ちゃんは外敵に襲われるとか迷子になるとかで数匹いなくなる。
れいむ達の赤ちゃんは一匹なので外に出ても大丈夫そうだが、逆に言えば一匹しかいないので外に出るのは怖かった。

と、そんな訳でおうちで今日も教育、明日も教育である。
赤ちゃんれいむがプチトマトサイズからリンゴサイズの子れいむに育つまではこれが続く。
全ては赤ちゃんれいむのゆっくりした未来のため。
そのためにれいむとまりさは精一杯の愛を込めて頑張っていた。









赤ちゃんれいむが産まれてから一ヶ月。
この頃には体も大きくなり、一般的な子供サイズのゆっくりに育っていた。
そろそろ家族三匹で外に出てもいい時期だ。

「ゆっ、れーむ! いっしょにおそとにいこうね!!」
「きょうはさんにんでたべものあつめようね!!」

れいむとまりさは子れいむにそう提案する。
それを聞いた子れいむはぴょんと飛び跳ねて嬉しそうに返事をする。

「ゆー! おそと! れいむおそとでゆっくりしたいよ!!」

一ヶ月も薄暗いおうちの中にいたのだから外に出たかったのだろう。
何度も飛び跳ねて喜びを全身で表現する。

「それじゃあゆっくりでかけようね!」
「みんながゆっくりしてるひろばにいこうね!!
 おかーさんにゆっくりついてきてね!!」
「ゆっくり? れいむゆっくりできる?」
「ゆっくりできるよ! いっしょにゆっくりしにいこうね!!」
「ゆー! ゆっくりしようね!!」


子れいむの歩幅に合わせて森を跳ねる三匹。
初めて見る風景に興味津々の子れいむはあっちへ跳ね、そっちへ跳ねていく。
そして気になる物は触るか咥えようとする。

れいむとまりさは子れいむが変な物を食べないように気を配りつつ、子れいむの寄り道に付き合った。
本当は他の家族も集まっている森の広場に行こうと思っていたが子れいむの楽しむ姿を見ていると、今日はいいかと思えた。

「ゆっくりしていってね!! ゆっくりしていってね!!
 くささんゆっくりしていってね!! おはなさんゆっくりしていってね!!!」

おうちとは違って陽の光が溢れるこの世界全てが新鮮なのだろう。
子れいむは目に付くもの全てに声をかけていた。

それを眺めるれいむは元気に遊ぶ子れいむを見て何だか幸せだった。
まりさも同じで安らいだ表情をしていた。
もし数匹の子供を授かっていたとしたらこうはいかなかっただろう。
あちこちと飛び跳ねていく子れいむを見ていれば分かる。
とてもじゃないが数匹の子ゆっくりの面倒を見るのは無理だろう。
ただ一人の子のゆっくりした姿をこうやって眺められるのが幸せだったのだ。

「おかーさん! ゆー! ゆっくりー!!」
「ゆゆ? どうしたの?」

幸せすぎて軽くヘブン状態に入っていたれいむだったが、子れいむの呼ぶ声に我に返った。
自分たちを呼ぶ子れいむの元へ跳ね寄ると、子れいむは蟻の列を不思議そうに眺めていた。
初めて見る生き物だから興味を持ってるのだろう。

「むしさん! ゆっくりしていってね!!!」

子れいむはそう挨拶するが蟻は気に留めることもなく行進を続ける。

「ゆー…」

子れいむは返事も反応もされなかったことに不満らしい。
口をへの字に曲げて頬をぷくーっとしている。
れいむはそんな子れいむを可愛いと思いながらも子れいむに話しかける。

「ゆゆ、ありさんはいそがしいからじゃましちゃだめだよ」
「じゃましたらかまれるよ! だからゆっくりできないよ!」
「ゆー? ゆっくりできないの?」
「ゆ、そうだよ! だからこっちであそぼうね!!」
「ゆー…」

まだ不満は残っているようだが子れいむは渋々蟻の列から離れた。
その不満顔もまりさが枝を使った遊びを教えるとすぐに満面の笑顔に変わった。


結局その日は子れいむとおうちの周りを探索するだけで終えた。
初めての外出としてはむしろこれで良かったかも知れない。
外にある色んな植物、昆虫、他にもたくさん教えることができた。
まりさとしても一日中子供と一緒に過ごすのが久し振りで、大満足だったようだ。




翌日は予定通り近隣のゆっくりが集まる広場へと出かけた。
森の中に広がる春の陽光が差し込むのどかな草原だ。
辺りには子持ちの家族が集まっている。
子ゆっくりは友達を作って草原を駆けまわり、赤ちゃんゆっくりは親の近くで他の家族の赤ちゃんとゆーゆーと鳴き合っている。
親はもちろんその赤ちゃんの近くだ。
赤ちゃんや子供の様子を見つつ他の親とお喋りしていた。

もちろん家族持ちだけではない。
冬を越える間に一人立ちしたゆっくりが集まっている。
彼女たちは広場の外れで一人立ちした者同士集まり、伴侶となるゆっくりを探している。
この集団はカップルが出来るごとに減っていき、夏になると大半が子を引きつれてここへ来るのだ。

とにかくたくさんゆっくりがいる広場にれいむ達もやってきた。

「ゆっ、いっぱいいるね! みんなゆっくりしてるよ!!」
「そうだね! まりさたちもいっしょにゆっくりしようね!!」
「ゆっくり! ゆっくりしたいよ!!」

子れいむはその場で跳ねながらやや興奮気味にそう叫んだ。

「ゆっ、じゃあいこうね!
 おともだちをいっぱいつくろうね!!」
「おともだち? ゆっくりできる?」
「ゆっくりできるよ! だから100にんつくろうね!!」
「ゆー!!」


れいむたちの家族は他の家族たちの元へと跳ねていく。

「ゆ? ゆっくりしていってね!!」
「ゆっくりしていってね!!」「ゆっくりしにきたの? ゆっくりしようね!!」

れいむ達に気付いた他の家族は笑顔でそう挨拶をし、れいむ家族たちを温かく迎え入れてくれた。
それに周りで遊んでいた子ゆっくり達は新たに来た子れいむに興味があるのか近づいてきた。

「ゆー! まりさはまりさだよ!! れいむもいっしょにあそぼうよ!!」
「れいむはれいむだよ! ゆっくりあそぼうね!!」
「みょんはみょんだみょん!! ちーんぽ!!」
「おともだちだね! わかるよー」

「ゆっ・・・」

10匹近くの子ゆっくり達に話しかけられて流石にたじろいだ。
しかしすぐに笑顔に戻ると…

「ゆっくりしていってね!! れいむはれいむだよ!!」

元気に挨拶を返した。
これでもう友達同士だ。
れいむはその様子を見て安心した。
お友達が出来るのはこれからゆっくりする上でとても大事なことだ。
…まあ、ゆっくりの場合はこうして挨拶をし合うだけでもうお友達なので心配することでもないのだが。

まりさはそんな子れいむの元へ近づき、
他の子と一緒に遊んでくることとあまり遠くに行かないことを告げると戻ってきた。

「れいむ! れーむにおともだちできたよ!」
「そうだねまりさ! ゆっくりしたいいこがおともだちでゆっくりできるね!!」

嬉しさ余りにれいむとまりさは頬を擦り合わせた。
そのまましばらくスリスリしたかったが他の親ゆっくりが見ているので程ほどにしておいた。



子れいむが色んな子ゆっくりと遊ぶのを眺めながられいむ達は他の親とお喋りする。
話題はもちろん子供のことだ。

「まりさのこどもはね! むしさんとるのがじょうずなんだよ!!」
「ちぇんのこどもはわかるわかるよー!」
「みょんのちんぽ、ちーんぽ!!」
「れいむのこどもはおうたがとってもじょうずだよ!!」

とまあ、我が子がどれだけ可愛いかの自慢大会がメインだ。
数匹が我が子について叫び、他のゆっくりはそれを聞いて「ゆっくりしてるね!」「すごいね!」と返すのである。
そんな話の中から自分もこういうことをしようだとか、そういうことをさせてみようだとか思うわけだ。
他にもいい狩り場があったとか、ゆっくり出来る遊び場があったなどの情報も聞けたりもする。
れいむとまりさも他の家族に負けじと我が子自慢をする。

「れいむのれーむはね! おはなさんがだいすきなんだよ!!」
「それにおうたもじょーずだよ!!」

「ゆーすごいね!」
「すごくゆっくりしてるね!!」
「ちぇんのこどももおはなさんすきだよ。わかってるねー」

こんな感じの会話を午前中ずっと続ける。
同じ事を何度も言ったりするがそんな事を気にするゆっくりはいない。
ゆっくり出来る話題ならば既出だろうと何だろうと構わないのだ。



お昼の時間、お腹が空いてくると遊んでる子供を呼んで食事を始める。
広場のみんなでわいわいと食べるようなことはしない。
この近隣に住むゆっくりにとっては大事なゆっくりプレイスなので草木を食い荒らすわけにはいかないのだ。
だから数組の家族ごとに辺りへ出かけて食事を済ませてくるのだ。


午後になると今度は広場のみんなで遊び始める。
そこには親も子もなく、きゃっきゃと跳ねまわっている。
参加しないのは赤ちゃんの世話をする親ゆっくりぐらいのものだ。

数組の家族でちょうちょさん待ってねゲームしたり、
長い蔓を使って綱引きの真似ごとをするなどと全員参加型の遊びをすることがほとんどだ。
後は疲れたら木陰に入って休んだり、特に仲の良い友達と遊んだりと自由に過ごしてる。



日が落ちてくると一組、また一組とゆっくり達はおうちへと帰っていく。
れいむ達の家族も広場のゆっくり家族が数組にまで減ったところで帰宅した。

「ゆっくりできたね!」
「ゆー、たのしかったね! れーむはゆっくりできた?」
「ゆっくりしたよ! おともだち! おともだちできたよ!!」

子れいむは跳ね回りながら笑顔でお友達が出来たと報告する。
その大袈裟までの喜び方を見ると相当楽しかったのだとよく分かる。

「ゆーん! れーむにゆっくりしたおともだちができて れいむもうれしいよ!!」
「ゆっくりー! もっとあそびたいよ!」
「きょうはくらくなるからあしただよ! あしたになったらまたいこうね!」
「ゆー!!」

れいむは喜びの鳴き声をあげる子れいむを見て思う。
あの広場に行って本当に良かった。
まりさの言うようにまた明日も行こう、と。


れいむもまりさもまた、あの広場と共に育ったゆっくりだ。
この二匹の場合は去年の夏の終わりに産まれた。
秋から冬にかけて広場で遊び育ち、まりさと出会って雪の季節を越え、それから子れいむを授かった。
れいむとまりさの思い出のほとんどはあの広場での出来事だ。
きっと子れいむにとってもそうなるのだろう。

それは今の子れいむを見れば分かる。
明日を楽しみにそわそわしている様子はかつてのれいむ自身と同じなのだから。
きっと大きくなって一人立ちをしたらあの広場で伴侶を探すのだろう。
それは寂しくもあるが、立派に育つのは望むところである。

れいむは子れいむに頬を擦り寄せる。
子れいむは背伸びの要領でれいむに頬擦りし返してきた。
可愛い娘だ。あの広場でゆっくり育って欲しい。

「れーむ。ゆっくりそだってね」
「ゆー? ゆっくりしていってね!!!」

最高の返事だった。




それからは毎日あの広場へと出かけることになった。
たまには別の所をとも考えたが、子れいむの意見を尊重した結果広場一択だった。

森の広場にはれいむ家族のように毎日出てくるものや、
色んな場所に出かけているのか数日に一回しか来ない家族もいる。
この数日に一回しか来ない家族からは面白い話が聞けることが多い。
同じ話題でも気にしないゆっくりとは言っても新鮮な話題はやっぱり格別楽しいのである。

「ゆー、きょうはね。にんげんさんにあったんだよ!!」
「ゆっ!? にんげんさん!?」
「すごーい! ゆっくりできた??」

人間さん。
それはこの近辺に住むゆっくりにとって特別な言葉だった。
人里離れたこの森で人間さんに会うなんて稀だ。
しかし人間さんに会ったゆっくりの話ではお菓子という美味しい食べ物をくれたり、遊んでくれるらしい。
今この広場で流行っている遊びの半分は人間さんに教えてもらったという噂もある。

そんな訳でこの森のゆっくりの中では人間さんに会うことはかなりの幸運とされていた。
だからこそ人間さんに会ってきたという家族の話には遊んでいた子も集めて聞き入った。
その家族を中心に輪を作り、話に耳を傾ける。

「あっちのかわであったんだよ!」
「そしたらおかしをくれたんだよ!!」
「あとねあとね! おそらをとんでるみたいなことしてくれたよ!!」
「それとね!!」


れいむもまりさも、そして二匹の真ん中の子れいむも目を輝かせて話を聞いていた。
どれもこれも楽しそうでゆっくり出来そうな話ばかりだった。
自分たち出来ることなら会いたい。
しかし人間さんが森に出現するのは一ヶ月に一度あるか無いかだ。
それを考えると子れいむの心次第でもあるが会えるとも分からない人間さんを探しに行くのはどうかと思えた。

実際子れいむに聞いてみると、

「にんげんさん! ゆっくりあいたいよ!!」

と答えたものの広場に行くのとそれ以外の場所へ行くのとを選ばせると広場を選んだ。
事前に「人間さんはほとんど会えない」「広場なら毎日友達と遊べる」と話したから子れいむの選択は同然と言えば同然だった。




そういう新鮮な情報が時折ありつつも、それからの数週間はほとんど同じような日々を過ごした。
日中は広場で遊び、日が沈むまでにはおうちに帰って家族でお喋りをする。
そんな平和な日々。
しかし変化の無い日々でもあった。
だがゆっくりはゆっくり出来ればそれで満足なのでそれでも問題なかった。

しかし日々の過ごし方に変化が無くても子供のれいむは別の変化がある。
少しずつ体は大人へと近づき、毎日遊ぶ中で少しずつ語彙を増やしていた。
さらに生きる上で必要な知識も着々と身に付けて来ているようだった。

一人立ちの時は近い。











ある晴れた日の朝。
随分と窮屈になったれいむ達のおうちでれいむは目を覚ました。

「ゆっくりしていってね!!!」
「ゆー? ゆっ、おかーさんゆっくりしていってね!!」
「きょうもゆっくりしていってね!!!」

三匹の顔はとても近かった。
もう子れいむは子という割には大きく、成体のゆっくりに育っていた。
今ではおうちの奥にいると他の二匹に出てもらわないと外に出られなかった。
そろそろ別居の時期だ。

何もおうちが狭いから追い出すという訳ではない。
あくまで自立のための成人の儀式だ。
それに子れいむぐらいのゆっくりはそろそろ伴侶が欲しくなってくる年頃である。
だから伴侶を迎えるために一人立ちさせておうちを用意させるのだ。
それに若いゆっくりのことだ。いざというときにおうちが無くては色々と困るのだ。

あとは他の家族も次々と子を一人立ちさせているのもれいむ達に子れいむとの別居を決断させた要因である。
れいむは昨日広場でまりさと相談した話を切り出すことにした。

「れーむ。ゆっくりきいてね」
「ゆ? どうしたの?」
「れーむはきょうからおとなだよ。
 だからゆっくりひとりだちしようね」
「さびしいけどもうじぶんでおうちをみつけるんだよ」
「ゆ…」

子れいむは突然の話にしばらく押し黙った。
れいむとまりさも黙って子れいむの反応を待つ。
子れいむはしばらく考えた後、おずおずと話し出した。

「ゆっくりりかいしたよ。
 きょうから…きょうかられいむはひとりぐらしするよ!」

子れいむは明るくそう言い放った。
何も予見してなかった話でもなかったのだろう。
子れいむの友達だって一人ずつ一人立ちし、新しい家探しで広場に来なくなっていたのだから。
それが子れいむの番になったというだけである。

しかし分かっていたといっても親元を離れるのはやはり寂しいのだろう。
子れいむの表情はどこか寂しげで不安が入り混じっていた。

「ゆぅ…ごめんねれーむ。このおうちがせまいから…」

れいむはそんな子れいむを見てついついそんな事を口にしてしまう。
しかしそんな母親に対して子れいむは笑顔で返した。

「あやまらないでねおかーさん!
 れいむはいちにんまえのゆっくりになるためにひとりだちするんだよ!」
「れーむ…
 おかーさんはれーむがゆっくりしたこにそだってうれしいよ」

れいむは子れいむに頬を擦りつけた。
いつもよりも長く、別れを惜しむように長くスリスリする。
傍観していたまりさも子れいむに頬を擦りつけ始めた。

「ゆ、れーむ。
 とおくにいっちゃだめだよ。ちかくにおうちをみつけてね」
「ゆっくりわかったよ!」

確かに子れいむが遠くまで行かない限りはまた会える。
このおうちもそうだし、森の広場でもきっと会えるだろう。
しかし分かっていても寂しいものは寂しい。

「ゆ、ゆー、ひとりでもゆっくりしていってね!」
「からだにはきをつけてね。さびしくなったらいつでももどっていいからね!」
「ゆー、おかーさんありがとう…
 ゆ、ゆ"う"う"う"!」

子れいむが泣きだした。
やっぱり親元を離れるのは寂しく、無理に明るく振舞っていたのだろう。
そんな子れいむの健気な心にれいむもまりさも心を打たれ貰い泣きしてしまう。

「ゆ"う"う"う"! ゆっぐり"、ゆっぐりじでってねぇ!!」
「げんぎでゆっぐりじでねぇぇぇ!!!」

それから家族三匹、しばらく泣きながら頬を擦り合わせ続けた。





「ゆっくりいってくるよ!!」
「ゆっくりきをつけてね!」

結局一時間ぐらいおうちで別れを惜しんだ。
だが、これ以上は一人立ちの邪魔になるということでとうとう子れいむが家を出る時が来た。
おうちの前でれいむとまりさはおうちの入口を背にして子れいむと向き合う。

「きょうはどこでゆっくりおうちをさがすの?」

まりさが子れいむに聞く。
親としてもいきなり手放しというのは怖いのだろう。
れいむとしても子れいむが始めにどこへ行くのか気になっていた。

「ゆっ、まずはひろばにいっておともだちにあってくるよ!!」
「ほうこくにいくんだね! ゆっくりやさしいこだね!!」
「ゆーん、ふつうだよぉ」

子れいむは照れながら微笑んだ。
れいむはそんな娘に再び頬を擦りつけたかったがここは我慢しておいた。
だから笑顔で子れいむを見つめるだけに留めた。

………

少しの間三匹は気の利いた言葉も見つからず黙ったまま見つめ合う。
やがて子れいむが口を開いた。

「それじゃあもういくね。
 いままでそだててくれてありがとう!
 これからまいにちあえなくなるけど…またあいにくるよ!
 だから、おかーさんゆっくりしていってね!!!」

それだけ言うとれいむ達の返事を待たずに背を向けた。
最後の挨拶で子れいむは笑いながら泣いていた。
これ以上涙を見せて母親に気を使わせないため、涙を見せぬようにあっちを向いたのだ。
れいむとまりさは目線を交わすと互いに頷き…

「「ゆっくりしていってね!!!」」

息の合った挨拶で子れいむを送り出した。

「ゆっぐり、じでぐるね…!!」

涙声でそう答えると今度はもう振り返ることもなく、立ち止まることもなく広場の方へと跳ねていった。
れいむとまりさはその姿が見えなくなるまで見届けた。


「いっちゃったね」
「そうだね。これからさびしくなるね」

れいむとまりさは寄り添いあい、その後も子れいむの去った方向に視線を向けていた。
それは名残惜しさからそうしているのであって決して不安からそうしているわけじゃなかった。
別れ際の子れいむのしっかりした姿はれいむを安心させていた。

「でもだいじょうぶだよ! れーむはとってもゆっくりしてるから!!」

そしてまりさも同じように思っていたようだ。

「そうだよね! しっかりしたれーむなられいむたちがいなくてもゆっくりできるよ!!」
「ゆー、つぎあうのがたのしみだね!!」
「そうだね! またあうときはもっとゆっくりしてるかもね!!」

れいむ達は寂しくてゆっくり出来ないよりもゆっくり出来る未来を想像することにした。
そうするとれいむは何だか楽しい気分になれた。
きっとあの子は良き大人のゆっくりに育ち、いずれは良き母となるに違いない。

一匹の子を立派にここまで育て上げることが出来たのだ。
これ以上の幸せは今までになかった。
考えると考えるほどれいむもまりさも最高に幸せなんだと実感できた。




だが、そんな幸せな時こそ不幸は牙を剥く。


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最終更新:2009年01月29日 23:31
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