ゆっくりいじめ系1769 らふぃんぐゆっくり・前編

※某ゲームのパロディです。



ゆっくり。人間の生首にも似た、言葉をしゃべり動き回る不思議な饅頭。
世界中にゆっくりが現れだして数年、人々が彼女らに見せた反応は様々なものだった。
無邪気に虐待をしたり、可愛がったりという人間ばかりとはいかない。
生理的に受け付けない、宗教上の理由から生物として認められないなど、
この奇妙な食べ物の存在を受け入れられない人々は、当然のことながら世界中に少なからずいた。
そして中には、ゆっくりの存在自体を蔑視、或いは『人類の敵だ』などと危険視し、
ゆっくりは絶滅させるべきだと主張するような過激な集団もあった。
北欧の或る地方、人里離れたゆっくりの集落。そんなカルトの一団の影が、ゆっくりと忍び寄っていた。


「それじゃあね、まりさ!」
「れいむ、ごちそうさま!またこんどゆっくりたべさせてね!!」

ここは木の根元に掘られたゆっくり一家の巣。
住んでいるのはれいむ・まりさ夫婦と、その子供達だ。
母親であるれいむとまりさ、そして長女子れいむが一匹に、赤ちゃんれいむとまりさが二匹ずつの計七匹家族である。
今夜は長女れいむが友達のまりさを招き、家族を伴って夕食会を開いていた。
お客さんと一緒に食べるごはんは、いつもとはまた一味違った美味しさがあった。
まりさの言う冗談はとても面白く、食べ方も誰とも違って豪快で、
明るく笑顔の絶えない、ゆっくりした食卓を囲むことが出来た。
赤ちゃん達はまりさのどこか粗野な雰囲気にかっこよさを感じ、すっかり懐いていた。

「あしたもゆっくりあそぼうね!」
「ゆゆっ!あしたはきれいなかいがらをさがしにいこうね!」
「「「「まりしゃおねーちゃん、またあしょびにきちぇね!!」」」」

暗くなった森の中を駆けていくまりさの背中を見送るれいむ。
このあたりには補食種もおらず、多少暗くなっても巣の外を出歩くことが出来た。
さて、晩御飯を食べ終わったらそろそろお休みの時間。
一日のゆっくりを締め括る、最高にゆっくりしたひとときである。

「もうよるもおそいから、みんなですーやすーやしようね!」
「おふとんをしこうね!」
「ちびちゃんたちのぶんはおねえちゃんがしいてあげてね!」

親達の号令で、子供達は一斉に寝る準備に入る。
と言っても赤ちゃん達は、お姉ちゃんれいむが寝藁を床に敷いてくれるのをゆっくり待っているだけである。
この日もいつものように、子れいむが赤ちゃん達の寝藁を部屋の隅から引っ張り出そうとしていた。
すると普段とは違い、ゆっくりしているはずの赤ちゃん達から声が上がった。

「ゆっ、まっちぇねおねーちゃん!」
「まりしゃたち、もうじぶんでおふちょんしけゆよ!」
「おひるにれんしゅうちたんだよ!!」
「ゆゆゆ!ほんとう!?」

これには子れいむもびっくりである。
少し前まで、柔らかい葉っぱさんすらも一人では食べられなかったようなおちびちゃん達が、
自分達で寝床の面倒を見れるようになっていたなんて! 赤ちゃんの成長は、何と速いのだろう。

「ゆゆっ、おちびちゃんたちすごいよ!!」
「ゆっくりおふとんをしいてみてね!!」

両親も我が子の成長ぶりを見ようと大興奮で駆け寄ってくる。
赤ちゃん達は乱雑に集積されている藁束から、端っこの数本を口にくわえて引っ張り出した。

「ゆっ・・・ゆっくちぃ!」
「ゆんしょ!ゆんしょ!」

がんばって引っ張り続けるが、絡み合った藁は赤ちゃんの小さな力ではなかなか引き出せない。
ようやく一匹の赤まりさが数本の藁をずるずると引きずり出し、寝室の真ん中へと運んでいく。

「ゆっふひ!ゆっふひ!」

寝藁を口にくわえながら掛け声をかける赤まりさ。
たった数本の藁であるが、小さな身体にとってはかなりの重さなのだろう。
一生懸命なその姿は、赤ちゃんの小ささ、儚さを感じさせ、可愛らしさをより際立たせていた。
眺めていた両親からも、自然と笑みがこぼれだす。

「ゆふふふ!あかちゃん、がんばってね!」
「ふふふ、もうちょっとでおふとんがしけるよ!」
「ゆ?おかーしゃん、どうちてわらってゆの?」
「ゆっ!それはまりさがとってもかわいいからだよ♪」
「ゆゆっ!まりしゃきゃわいい?ゆふーん!」

赤まりさは身体を伸ばして恥ずかしそうに笑い、両親に媚を売ってみせる。
そんなことをしている間に他の姉妹達はどんどんおふとんを敷いていき、それに気付いたまりさは慌てて作業に戻る。
その様子を見て、またも両親からは愛玩の笑みがこぼれるのだった。
一家の姿を眺め、子れいむも思わず笑いを浮かべる。
れいむは、長ぱちゅりーが言っていた「笑う門にはゆっくり来たる」という言葉が大好きだった。
ゆっくりすると笑顔になる。笑顔になるとますますゆっくり出来る。
きっと自分達の毎日は、それを繰り返してゆっくりと過ぎていくのだろうと思う。
未来に広がり続けるゆっくりという希望を、れいむは全く疑おうともしなかった。
おふとんを敷き終わり、「ゆっくりおやすみなさい!」と家族全員で宣言すると、一斉に睡眠に入る。
家族みんなの幸せそうな寝顔を見回して「ゆふふ」と微笑んだれいむは、自らもゆっくり目を閉じた。
れいむは夢を見る。大好きなまりさや家族達、そして群れのゆっくりみんなが笑って暮らす夢だ。


「おきてね!ゆっくりしないでおきてね!!」

れいむの幸せな夢は、親れいむの悲鳴にも似た呼び声によって無理矢理中断された。
「れいむはたのしいゆめをみてたんだよ!」とぷんぷん怒ろうともしたが、
母親のゆっくりしていないただならぬ様子に、事態の把握に努めることが先だと悟った。

「おかーさん、どうしたの?」
「「「「まだねみゅいよー・・・」」」」

外からは赤い光が差し込んでいる。朝焼けの光だろうか、とれいむは思った。

「わるいにんげんたちがせめてきたんだよ!ゆっくりしないではやくにげてね!!」
「ゆ・・・?ゆゆゆゆ・・・・!?」

れいむは何を言われているのか解らなかった。
自分達はずっと平和に暮らして来た。人里離れたこの地で生まれ育ったれいむは、人間を見たことがない。
その人間が外敵として、暴力を振るってくる……その全く未知の恐怖を、すぐには想像出来なかったのだ。
しかし親達は人間の脅威を知っているのだろう、その慌て様はれいむが生まれて初めて見るものだった。

「ゆ?にんげんしゃんたちがきちゃの?」
「まりしゃたちどうなっちゃうの?」
「みつかったらころされちゃうよ!!ゆっくりにげてね!!」
「「「「ゆゆゆゆゆ!?」」」」

赤ちゃん達はれいむ以上に困惑している。まだ生まれて間もなく、家族の愛しか知らない赤ちゃん達は、
暴力というものに対する知識や想像力を全く持ち合わせていなかった。
怖いことが起こっているということは何となく理解出来ても、それ以上の認識は持てなかったのだ。

「むぎゅうううううーーーーーー!!!」

その時、絹を引き裂くような悲鳴が巣の中に飛び込んでくる。
親れいむと子供達は、みな一様に身体をビクリと震わせた。

「い、いまのはぱちゅりーのこえだよ!!」
「おかーしゃん、ぱちゅりーおねえちゃんどうしちゃの!?」
「ゆっくちできない・・・こわいよぉぉ・・・・・」
「ぱちゅりーはにんげんにつかまっちゃったんだよ!みんなもにげないとつかまっちゃうよ!!」

知人の死というリアルな恐怖に晒され、現実を認識し始めた赤ちゃん達の目から涙が溢れ出す。
れいむも例外ではない。ぱちゅりーとは仲良しで、まだ教えてもらいたいことが沢山あったのに。
気付いてみれば、外からはゆっくりの悲鳴や何かを叩くような音が絶え間なく聞こえ続けていた。

「ゆっ・・・ゆぇ・・・・・」
「ゆわあぁぁぁん、やぢゃやぢゃやぢゃ!!れいみゅいたいのやぢゃよぉぉぉぉ!!」
「おかーしゃん、にゃんとかしちぇね!!まりしゃたちをゆっくちたしゅけてね!!」

恐慌状態に陥った赤ちゃん達は、巣の中を暴れるように跳ね回り、悲鳴を上げて助けを求めた。
れいむはお姉さんとしてそれを抑えなければならないと思ったが、一緒になって泣き叫びたい気持ちでいっぱいだった。
すると、親れいむが子供達をキッと睨み付ける。

「しずかにしてねっっ!!」
「「「「ゆっ!!」」」」

いつも優しいお母さんが、初めて見せる鬼の形相。
赤ちゃん達はあまりの恐怖にすくみ上がり、お母さんの方を向いて静かになった。

「うるさくしてるとにんげんにみつかっちゃうよ!!みんなころされちゃってもいいの!?」
「や、やぢゃよ・・・」
「だったらおかあさんのいうことをきいてね!!」

親れいむはこれからすべきことについて、子供達に説明する。
木の根元に掘られたこの巣には、木の真下をくぐって反対側に非常口が作られている。
一度も使われたことはなく、落ち葉に覆われているので見つかることは絶対に無い。
そこから出た先の森にはゆっくりは住んでいないので、人間の襲撃の手が回ることもないだろう。
真っ直ぐ行って三本目の木の近くに、親れいむが昔親まりさと一緒にかくれんぼをした洞穴がある。
そこに潜んで、人間達が去るまでやり過ごして欲しい、と。
特に子れいむには、妹達を守ってあげてほしいとよく言って聞かせた。

「ゆ、ゆっくりわかったよ!それじゃあおかあさんもいこうね!!」
「ゆっ・・・だめだよ!おかあさんはおうちにのこるよ!!」
「ど、どうして!?にんげんさんにつかまっちゃうよおおおぉぉぉ!!」
「ゆっくりのおうちにゆっくりがいなかったらあやしまれるよ!!
 おかあさんたちがにんげんたちをくいとめておくから、ちびちゃんたちはゆっくりにげてね!!
 まりさもいりぐちでがんばってくれてるよ!!」
「いやだよ!!いやだよ!!おかあさんがいないとゆっくりできないよぉぉぉぉぉ!!」
「おかあさんのいうことをゆっくりしないできいてねっ!!」

どん、と親れいむから体当たりを受けてしまう子れいむ。生まれて初めて味わう親からの体罰だった。
そしてそれは、自分達のためにお母さんがどれだけ必死になってくれているのかということを、そのまま子れいむに伝えた。
痛みと悲しみから目に涙を滲ませながら、子れいむは親を置いて逃げ出す決心を固める。

「お、おかあさん・・・ゆっくりしていってね!!」
「ゆっくりしていってね、れいむ・・・おかあさんたちになにがあっても、
 れいむだけはぜったいにいきのびてね!!ちびちゃんたちをまもってあげてね!!」

互いに泣き顔を伏せ、背を向け合う。
れいむはおろおろしている赤ちゃん達を半分は頭に載せ、半分は口に含み、巣の奥へと駆け出す。
後ろの方から、親まりさの「いだいよ!!やべでね!!!」という声が聞こえてきて、ぎゅっと目を瞑った。

(おかあさんたちごめんね!!れいむはおかあさんのぶんもゆっくりいきるよ!!
 いきてまりさといっしょにゆっくりするからね!!)

閉じられた非常口を体当たりで押し開け、言われた通りの場所へと、音を立てないように急ぐれいむ。
赤ちゃん達の半分はれいむの口の中だし、もう半分はれいむの髪の毛に口を使って必死にしがみついているので、
悲鳴を上げる余裕などなかった。赤ちゃん達を口に含んでいるれいむも静かにならざるを得ない。
途中何度か振り返って様子を見てみると、ゆっくり集落のあちこちが炎に包まれ、
まだ深夜の暗闇に包まれる森の中を赤々と照らしていた。
どれほどか昔、なぜか人間がこの森に作り捨てていった、小さな木の小屋。
群れをまとめてくれた長ぱちゅりーが住んでいたそれは、既に黒い炭を残すのみとなっていた。
れいむはそれを見て、(もうむれはおしまいなんだ)と嫌でも悟らざるを得なかった。
ゆっくりの返り餡を浴びた何人もの人間達が、炎に照らされて狂乱の宴を繰り広げている。
その手には各々、ゆっくりを屠殺するための何種もの武器が握られ、風を切って唸りを上げていた。
これが本物の恐怖。
れいむは、動かなくなりそうな足を引きずり……お母さんの言っていた洞穴へと辿り着いた。

「ゆっ!ここまでくればもうだいじょうぶだよ!!」

何せ、あのお母さんが用意してくれた隠れ場所。見つかるはずがない……そう信じたかった。
口の中の赤ちゃんを吐き出し、頭に載せていた赤ちゃんもゆっくり降ろしてやる。一同はようやく一息つくことが出来た。
おうちに比べれば遥かに狭い洞穴の暗闇で身を寄せ合いながら、赤ちゃん達はプルプルと震えている。

「ゆぅ・・・にんげんしゃんきょわいよぉ・・・」
「ぜんぜんゆっくちちてない・・・どうちてあんなことしゅるの・・・」
「ほんとだね・・・にんげんさんがあんなにこわいなんて・・・」

頭の上から人間の蛮行を目の当たりにした赤ちゃん達は意気阻喪し、へたりと潰れて弱弱しく泣いている。
ゆっくり達を潰して回る人間達の表情は、みな一様に笑顔だった。
れいむですら、食べ物である虫を殺す時に罪悪感を覚えることがある。
食べるのは生きてゆっくりする為に、生き物誰にでも必要なことだ。そう自分に言い聞かせ、尊い犠牲を摂取している。
しかしあの人間達は、食べるでもなく、ただゆっくりを殺戮する事に快感を覚えていた。
れいむには理解できぬ死生観……聞いていた人間というイメージとは違う、異形の怪物がそこにいるような気がした。

「ゆゆっ!ゆっくちできにゃいにんげんしゃんなんて、まりしゃおねーちゃんがやっちゅけてくれゆよ!」
「まりしゃおねーちゃんはちゅよいんだよ!!いぬしゃんにもかったことがありゅんだよ!!」

口の中にいた赤ちゃん達が、他のみんなをそう言って励ます。
まりさお姉ちゃんとは、れいむの親友のまりさのことだ。
お食事会の時、じゃれてきた赤ちゃん達にまりさは自らの武勇伝を語って聞かせていた。
野犬に襲われた時に、まりさが知恵と体力の限りを尽くして撃退した現場には、れいむも居合わせた。
その時のまりさの姿は、この世の何よりも強く頼もしく、かっこよく映ったものだ。
れいむはイメージを反芻し、自分を勇気付ける。あの強いまりさなら、人間達にも負けはしない……。

「ゆぎゃあああぁぁぁ!!やべでっ!やべでねえぇぇぇぇ!!ばりざにひどいごどじないでねぇぇぇ!!」
「ゆっ・・・このこえ!!」

その時森の方から聞こえて来たのは、紛れも無い大好きな親友、まりさの声だった。

「ゆぎっ、ぞれはやべで!!ほんとうにいだいがらやべでね!!ぞれはほんどうにだべなのぉぉあびびびびびび!!」

聞いたことも無いような声。
野犬に噛まれて餡子がはみ出した時も、「こんなのなんともないよ!」と言っていたまりさ。
そのイメージは、霞のようにれいむの中から消え去ろうとしていた。

「やだ、やだよぉ・・・もうごろじでね・・・ゆびっ!?な、なんでおがあじゃんがあぁぁぁぁぁ!!」

一度は絶望の底に追いやられたらしいまりさの声に、再び恐怖という生気が宿る。
何が起きているのかは全く解らない。窺い知ろうとも思えない。
ただただ、その場の「おそろしさ」だけが、まりさの悲鳴を通じてれいむ姉妹に届けられていた。

「まりざじにだぐないよ!!だずげで!!だずげでれいむぅぅぅぅぅ・・・ゆぎゃっ!」

それきり、何も聞こえなかった。

「ま、まりざっ・・・」

思わず声が漏れ、はっと口を噤むれいむ。
「あしたはきれいなかいがらをさがそうね!」と言うまりさのゆっくりした笑顔が脳裏に浮かぶ。
そのイメージすらもガラガラと消え去る。れいむの精神的支柱は崩壊したのだ。
もしも両親がいなくなっても、大好きなまりさと一緒なら生きていけると思っていた。
人間に殺されているかも知れない。だとしても人間達が去るまで、その可能性には触れまいと思っていた。
しかし、思わぬ形で最悪の現実を目の当たりにしてしまう。既にれいむの感情を縛るものは何もなかった。
もう生きていてもしょうがない。悲しい。怖い。沢山泣いて楽になってしまおう。
そう思い始めたれいむだったが、赤ちゃん達のすすり泣きに出鼻を挫かれてしまう。

「ゆぁ・・・まりしゃおねーちゃん・・・どぼちて・・・」
「うしょだよ・・・まりしゃおねーちゃんはちゅよいんだよ・・・にんげんしゃんにゃんかにまけにゃいよ・・・」

まりさを絶対のヒーロー視していた赤ちゃん達にとって、
憧れのお姉さんが惨めに助けを求めながら死んでいったのは大きなショックだった。
小さな身体が枯れ果ててしまいそうなほどの大粒の涙を流し、泣き声は次第に大きくなっていく。

「ゆっ・・・ゆええぇぇん・・・・」
「おかーしゃぁん・・・おねーちゃん・・・・まりしゃおねーちゃぁん・・・」
「どうちてれいみゅたちをいじめゆの・・・かわいいれいみゅをいじめちゃだめなにょにぃ・・・」
「ゆぇぇ・・・ゆっくちちたい・・・ゆっくちちたいよおぉぉぉむぐ!」

大声を出しそうになった赤ちゃんまりさの口を、咄嗟に舌を伸ばして塞ぐれいむ。外に漏れるような悲鳴は防ぐことが出来た。
口から抑えられた悲鳴がそのまま涙となったかのように、小さな瞳からはぼろぼろと砂糖水が溢れて来る。
そうだ。生まれて間もないこの子達は、きっと自分よりも大きな恐怖を味わっているはず。
この子達には、生きることの喜び、ゆっくりすることの素晴らしさを沢山知ってもらいたい。
まだ成体ですらないれいむにそこまで思わせたのは、
「ぜったいにいきのびてね!!」という親れいむの力強い言葉だった。
自分だけは恐怖に呑まれるわけにはいかない。赤ちゃん達の為にもしっかりしなければ。
そのまま舌を使ってよしよしと身体を揺すってやり、赤まりさの気を落ち着けてやろうとする。

「お、おねーちゃ・・・」

ようやく落ち着いて来た頃、後ろから赤れいむの声がかかる。
れいむは洞穴の奥を向いて赤まりさを抑えていたため、外の様子を見ることが出来なかった。
振り返ったれいむが目にしたものは、自分達を覗き込む、大きくつぶらな瞳。
人間だった。

何故?


「俺は人よりちょっと鼻が利くんだよねぇ。お前らの涙って甘ったるくて、そう……クセぇからさあ。
 クセぇニオイが森の外れまで続いてるなぁ、泣いてるゆっくりがいるんだなぁ〜〜〜って、すぐ解っちゃったんだよねぇ」

その手に巨大なナイフを弄びながら、男がれいむの疑問に答えた。
焼きゆっくりや潰れゆっくりの甘い匂いに満ちた森の中で、一筋の涙の匂いを人間が嗅ぎ分けるのは、
もはや嗅覚よりも遥かに強い、ゆっくりへの執念のようなものを感じざるを得なかった。
今れいむ達は男に洞穴から引きずり出され、森の中央にある広場に連れて来られていた。
周囲では幾人もの人間達が、ニヤニヤとれいむ達が震えるのを眺めていた。
他に動くものの姿は無い。そこかしこに散乱した原型を留めないゆっくりの死体が、群れの全滅を雄弁に語った。

「大きな声を上げなきゃ見つけないでいてくれるとでも思ったのかな?
 でもそんなクセーもん撒き散らしてたら片手落ちも良い所だよなぁ〜〜〜」
「ゆっ!ま、まりしゃのなみだはくしゃくにゃいもん!!ぷくぅ!!」

一番多量の涙を流して脅えていた赤まりさが、勇敢にも人間に食って掛かる。
れいむはそれを見てギョッとしたが、赤まりさもれいむと同様、
憧れていたまりさの死を受け入れ、強くあらねばならないと思ったのかも知れない。

「“ほうしぇき”みたいななみだだっておかーしゃんがいっちぇくれたもん!!
 くしゃいのはおにーしゃんだよ!!ゆっくちあやまっちぇね!ぷんぷん!!」
「俺が臭い? だろうなぁ。お前らのお仲間の餡子をたっぷり浴びてるから、全く鼻が曲がりそうだぜぇ〜〜」
「ゆぅぅぅぅぅ!!ちね!!ゆっくちできにゃいにんげんしゃんはゆっくちしにゃいでちねぇ!!」
「あん……?」

男が眉をひそめ、ナイフを握って赤まりさに近づく。赤まりさの頬から息が抜け、「ゆわぁぁぁ」と泣き出してしまう。
まずいと思ったれいむは間に飛び出し、ぷくぅぅぅと膨らんで男を威嚇する。

「ん? 何だコイツ」
「や、やめてね!!れいむのかわいいいもうとにひどいことしないでね!!
 どうしてもやるなられいむにやってね!!れいむはぜんぜんこわくないからね!!」

チョンチョンと男の爪先に突かれ、その度に底知れぬ恐怖を受けながらも、れいむは必死に赤ちゃん達を守った。
赤ちゃん達はれいむの膨らんだ身体の陰に隠れてゆぅゆぅ泣いている。

「そっかぁ……それならお望み通りにしてやるよッ!」
「ゆっ!!」

男がナイフを振り上げたのを見て、れいむは目を瞑る。
何があっても最期まで赤ちゃん達は守り抜く。そう思い痛みを覚悟した時。

「おやめなさい」



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最終更新:2008年12月26日 07:40
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