ゆっくりいじめ系1672 ゆっくりと悪魔のような子供達4


「ゆふっ! ふぅっ! ゆっぐりじだいっ! ゆっぐりじだいぃっ!」

まりさは人里へと続く道を必死に走っていた。
三ヶ月前、自分とれいむを助けてくれた上白沢慧音に会いに行く為だ。

「ゆふっ! ゆふっ! だずげでっ! おねえざんっ! だずげでぇっ!」

まりさが洞窟から命からがら脱出したのは、
少女が子まりさの目玉をサッカーボール代わりにしていた時だ。
恐ろしくて、悲しくて、とてもその場に留まっていられなかったのだ。

親としては少々問題のある行動だが、あのまま洞窟に残っていても、
皆殺しにされるだけなのだ。誰もまりさを責められないだろう。
それに、まりさはただ悪魔達から離れたくて逃げたのではない。
慧音に助けを求めるつもりで出てきたのだ。言わば、勝利への脱出だ。

「ごわいっ! ごわいよぉっ! おねえざんっ! おねえざぁんっ!」

まりさは大地を蹴り、草を掻き分け、走る、走る。
頭に浮かぶのは、三ヶ月前の優しい慧音の微笑み。

『困った事があったら、いつでも私の所に来るんだぞ』

慧音はあの時、そう言って頭を撫でてくれた。
あの恐ろしい悪魔達も、慧音の前では大人しいものだった。

まりさにとって慧音は、まさに救いの女神だった。
彼女に会えさえすれば、この悪夢が終わる。まりさはそう信じた。

「ゆふっ! ゆふぅっ! おねえざんっ! ゆふっ! おねえざんっ!」

やがて、畑が見えてきた。
腰をかがめて田んぼの雑草を取るおじさん。赤ん坊を背負って子守唄を歌うおばさん。
初夏の爽やかな風を受けて、気持ち良さそうに昼寝する野良猫達。

洞窟での惨劇が嘘だったかのような、のどかな風景だった。
畑を抜ければ人里はすぐだ。もう少し、もう少し。

『もうすぐ慧音に会える』

そう思うだけで、疲れた体に活力がよみがえる。
まりさの瞳には、希望の光がまばゆく輝いていた。

すれ違う人間達が、「あ、ゆっくりだ。可愛い!」とまりさを指差したり、
優しい笑顔で「そんなに急いで、どこに行くんだい?」などと声をかけてくる。

いつもなら、最高のゆっくりスマイルを作って「ゆっくりしていってね!」と言うところだが、
今はそんな事をしている場合ではない。二人の悪魔が、いつ追いかけてくるか分からないのだ。
まりさは、まあるい体を目一杯躍動させて、走る、走る、走る。

そしてとうとう、小さな家々が立ち並ぶ里に到着した。
まりさは全身から噴き出す汗を路上に振りまきながら、必死に慧音の姿を探す。

「ゆゆっ!? おねえさん!?」

幸運な事に、慧音はすぐに見つかった。神様はまだ、まりさの事を見捨てていなかったらしい。
慧音は道端で、若い女性と立ち話をしていた。まりさの瞳に、思わず暖かい涙が滲む。
だが、慧音と話している女性の存在が、まりさを不安にさせた。

「ゆぅ……。しらないひとがいるよ……」

すぐにでも慧音に飛びつきたいまりさだったが、
子供達に散々拷問されたせいで、まりさは極度の人間不信に陥っていた。

『慧音と話している女性が、あの悪魔達のように恐ろしい人だったらどうしよう』

そう思うと、足が竦んで動かない。
とりあえず、どこかの家の洗濯物が詰まった桶の陰に隠れて、二人の様子を伺うまりさ。
女性は、慧音に何かを差し出していた。それは、とても良い匂いがしたので、
まりさの口内にじんわりと唾液が分泌された。

「慧音様。これ、うちの畑で取れた大根で作った煮物です。よろしければ召し上がって下さい」

「これは美味しそうだ、お昼にいただくとするよ。いつも気を使わせてすまないな」

「とんでもない。私達が妖怪に怯えずに暮らせるのも、慧音様のおかげですから」

女性から手放しに褒められて、慧音は照れ臭そうに人差し指で頬をかく。

「ふふふ……そんなにおだてても、何もでないぞ」

「あら、それは残念です。期待してたのに」

「こいつめ」

お互いの顔を見合わせて、楽しそうにクスクスと笑う慧音と女性。
まりさはその和やかなやり取りを見て、『なんてゆっくりしているんだろう』と思った。

そして、確信した。慧音と会話している女の人は優しい、ゆっくり出来る人だ。
あそこはゆっくりプレイスなのだ。あの二人の所まで行けば、ゆっくり出来る。
もう少し、あと少し。あそこまで行けば……あそこまで行けば……。

もう様子を伺う必要は無い、まりさは桶の陰から飛び出そうとした。
その時である。突然、まりさの後頭部に、鋭く重たい衝撃が走った。

激しい衝撃は、やがて烈火のような痛みに変わり、体中に広がっていく。
まりさはたまらず悲鳴を上げようとしたが、何故か声が出なかった。
その理由はすぐに分かった。舌が、動かないのだ。

(ゆっ!? あれ……? しゃべれないよ?)

おかしいのは舌だけではなかった。
まりさの体は、まるで地面に縫い付けられたかのように動かなかった。
不可解な事態に当惑し、首を捻ろうとするが、そんな小さな動作さえも出来なかった。

(うごけないよ……? どうして……? どうして……?)

どうして? さっきまでは普通に動けたし、声も出せたのに、どうして?
それに、頭が痛い、舌も痛い。口の中に、餡子の甘い味がする。どうして?
分からない。分からないが、ゆっくりプレイスはもう目の前だ。
こんな所で、這いつくばっている訳にはいかない。

(ゆっくりなんか、してられないよ!)

まりさは全身の力を振り絞って前に進もうとする。
だが、動けない。どんなに頑張っても体が言う事を聞いてくれない。
まるで、まりさの意思と肉体をつなぐ何かが、スッパリと断ち切られてしまったかのようだ。

(どうしてうごけないのお!?)

ゆっくりプレイスを目前にして、身動きが取れないもどかしさから、
滂沱の涙を溢れさせるまりさ。喉の奥から、かすかなうめき声が漏れる。舌は、相変わらず動かない。

「ゅぅあぁぁ……!」

「ん? 今、何か聞こえなかったか?」

「そうですか? 私には何も……」

「空耳かな……」

小首を傾げる慧音。まりさの心に、小さな希望の光が瞬く。
舌が動かないのでまともな言葉は喋れないが、うめく事は出来る。
もっとうめいて、慧音に見つけてもらおう。

「ゅぅうああぁぁ……! にゅぅあぁぁ……!」

「ほら、やっぱり聞こえるぞ。この音、なんだろう?」

しきりに首を捻る慧音。そんな彼女に、女性は言いにくそうな顔で告げる。

「あの……これ……猫が発情してる鳴き声じゃないですか?」

まりさの甲高いうめき声は、発情中の猫の鳴き声にそっくりだったので、
女性がそう思うのも無理は無かった。『発情』という言葉が出て、慧音は小さく頬を染める。

「そ、そうか……。まったく、こんな時間から、けしからんな」

二人の思いもよらぬ反応に、戸惑うまりさ。

(ちがうよ! ねこさんじゃないよ! まりさだよ!)

「にゅぅうあぅうあぁぁ……! にゅぅあああぁぁああ……!」

だが、必死にうめけばうめくほど、その声は発情した猫そっくりになった。
なんとも気まずい雰囲気が慧音と女性の間に漂う。

「そ、それじゃあ、私は家事がありますから、これで」

「あ、ああ。引き止めてすまなかった」

女性は慧音に小さく頭を下げると、足早にそこから離れて行った。
慧音も、煮物の入った容器を小脇に抱えると、自宅に向かって歩き出す。

(いかないで! おねえさん! ゆっくりしていってよぉ!)

すると、まりさの願いが通じたのか、慧音は立ち止まり、
まりさの隠れている桶の方を見やった。

(おねえさん! ゆっくりしていってね!)

自分に気づいてくれた。まりさは、そう思った。
しかし、慧音の口から躊躇いがちに発せられた言葉は、
まりさの期待していた内容とは異なるものだった。

「その……なんだ……そういう事は、人のいない所でやりなさい」

慧音は困った顔でそう『教育』すると、スタスタと立ち去ってしまった。
最後まで、発情猫の正体がまりさだとは、気がつかなかったのだ。
まりさは絶望し、もううめく事も出来なかった。

かわりに、とても眠たくなってきた。

(なんだか……ねむいよ。とっても、ねむいよ)

薄れ行く意識の中で、まりさは今日の出来事が、全て夢なのではないかと思い始めていた。
今自分がいるのは夢の世界であり、ここで眠ると、現実の世界に帰れるのではないか?
そう、考えた。考えずには、いられなかった。

(まりさはねるよ……。ゆっくりねるよ……)

どうしてこんなに眠いのか、理由は分からなかったが、もう、どうでもよかった。
とにかく、疲れた。眠い、眠りたい。そして、この悪夢から脱出するのだ。

(おきたら、れいむとゆっくりしたいよ……。ちびちゃんたちとも、あそびたいよ……)

ぼんやりとしたまりさの視界に、れいむと子ゆっくり達の姿が浮かぶ。
皆、とても楽しそうに笑っていた。だから、まりさも笑った。

優しいパートナーに、素直で可愛い子供達。ああ、理想の世界、理想のゆっくりプレイスだ。
これこそ、自分がいるべき世界なのだ。今いる世界は、自分には合わない、ゆっくりしていない世界だ。

(わるいゆめさん、さようなら。おやすみなさい……)

まりさは、悪夢におやすみの挨拶をすると、ゆっくりまぶたを閉じた。

まりさの背中には包丁が突き刺さっていた。
刃渡り二十センチメートルはありそうなその包丁は、
美しい金髪の間を縫って、後頭部を深々とつらぬき、口内の舌ごと、その体を地面に縫い付けていた。

喋れないのも、動けないのも当然だった。
地面に串刺しになっているまりさに、二人の子供が近づく。

「危なかったな。慧音先生に今日の事がばれたら、今度は頭突きじゃ済まないところだった」

「本当だよね。私、焦っちゃって、思わず包丁を投げちゃったよ」

少年と少女は、まりさが慧音に助けを求めに行くと考え、人里に戻ってきた。
そこで、二人は肝を潰しそうになった。なんせ、まりさと慧音は目と鼻の先にまで接近していたのだ。

「まりさは、どうして桶の陰に隠れてたんだろうな? 慧音先生は目の前だったのに」

「さあ? ゆっくりの考える事はわからないわ」

少女は大げさに肩をすくませると、まりさの死骸を軽く蹴飛ばした。
先程、散々殴られたせいでボロボロになっていた黒帽子が、音もなく地面に落ちる。

「それにしても、お前の包丁投げ、上手いもんだな」

「百匹くらいこの方法で殺してるからね、あの程度の距離なら楽勝だよ」

少年に柔らかい笑みを向けて、片目をつむる少女。
投げナイフの要領で、数多のゆっくりをいたぶり殺してきた経験が生きたらしい。
サーカスの団員でも驚くようなその手並みに、少年は舌を巻く。

「お前、将来は曲芸師にでもなったらどうだ?」

「嫌よ。私、普通のお嫁さんになりたいんだもん」

平凡だが、少女には似合わない夢を聞いて、少年は思わず吹き出してしまう。
ゆっくりを拷問して殺すのが趣味の狂人が、普通のお嫁さんになりたいとは、酔狂にも程がある。

「お前みたいな異常者が、普通のお嫁さんになれる訳ないだろ」

小石を投げつけるような言い方で少年は呟いた。
まったくもって正論だが、言われた方は面白くない。
少女は心外そうな表情で少年を睨む。

「うるさい、あんたには言われたくない。それに……」

「それに?」

「世の中には、普通の人のふりをした異常者がいっぱいいるのよ。だから、きっとなれるわ」

「そうかもな。自分の事を、普通の人だと思ってる異常者もいっぱいいるしな。きっとなれるな」

おかしな子供達は、奇妙な事を囁きあうと、
牙のように尖った犬歯が見えるほど唇を吊り上げて、ケタケタと笑いだした。

「……ゅ」

その時、二人の足元から、かすかに声がした。
少年と少女は目をぱちくりさせて、お互いの顔を見合わせる。

「……今の、聞こえたか?」

「うん」

それから二人で、まりさの頭を靴底で揺する。

「……ゅ……ゅ……ゆ゙っぐ……り゙……」

驚くべき事に、まりさは絶命していなかった。
大変な深手を負ったが、どうやら急所は外れていたらしい。
傷口から餡子がほとんど漏れ出ていないのも、よかったのだろう。
死ななかった事……いや、死ねなかった事が、この場合幸いな事かどうかは別の話だが。

「こいつ、まだ生きてるぞ。すごい生命力だな」

少年は、腹の底から感心した声を吐き出した。
今までおびただしい数のゆっくりを殺してきのだろうが、
包丁で刺されても死なないゆっくりを見たのは、初めてらしい。

可愛くて、優しくて、頑丈なゆっくり。
それは、二人にとって、最高のオモチャだった。

「……ねえ、この子を家に持って帰ろうよ。私、試してみたい遊びがあるの」

邪な笑みを作って、少年に囁きかける少女。
その瞳は、サンタさんにプレゼントを与えられた幼児のように、キラキラと輝いていた。
もっとも、彼女の所に、本物のサンタクロースは決してやってこないだろうが。

「お前は洞窟で散々楽しんだだろ。今度は俺の番だぞ」

少年は、あからさまな仏頂面で口を尖らせる。
ゆっくり家族のほとんどを、少女一人が楽しんで殺した事を、少々根に持っているらしい。
そんな相棒を、少女はカラカラと笑いながらからかう。

「ケチな男はもてないよ」

「なんだと」

少女は自分の軽口を後悔した。少年が本気で不愉快そうな顔になったからだ。
ゆっくりを拷問している時からは想像も出来ないような情けない表情で、あわてて陳謝する。

「ご、ごめん。じゃあ、二人でやろうよ。それならいいでしょ? ……駄目?」

詫びを入れながらも、折衷案を提言するあたり、なんとも抜け目ない。
子供とはいえ、女はしたたかである。少年も、少女の猫なで声に毒気を抜かれたようだ。

「まあ、それなら……」

「決まりね。それじゃ、早く治療してあげよう。このままじゃ死んじゃうよ」

「治しても、どうせさっきみたいに、すぐに殺すくせに」

まるで、心優しい天使のような台詞を述べる少女に、
少年は意地悪く嫌味を言う。案外、引きずる性質らしい。

「そんな事ないもん。今度はすぐに殺したりしないわ。もっと、いい事して遊ぶんだから」

「いい事? どうする気だ?」

「聞きたい?」

「もったいぶらずに話せよ」

しかめっ面の少年に促された少女は、
悪戯っぽい笑みを浮かべながら、おぞましい事を嬉々として語りだした。

「小さな箱に監禁して、糸鋸で、何週間もかけて体を切り刻むの。どう? 面白そうでしょ?」

ジェイソンもびっくりの残虐なアイディアに、少年は「おぉ」と、感嘆の声を漏らす。

「その発想は無かった。お前、天才だな」

「ふふふ……そんなにおだてても、何もでないよ」

少女は照れ臭そうに人差し指で頬をかきながら、先程の慧音のような台詞を言うと、
まりさの頭に突き刺さっている銀色の凶刃を引き抜く。

「ゆ゙っ! ゆっくりぃ…………」

刃が抜ける痛みでまりさが一瞬目を覚ますが、衰弱しきっていたので、またすぐに気を失ってしまった。
少女は肩にかけたカバンからガムテープを取り出すと、後頭部と底面の傷にぴったりと貼り付ける。
いつもなら、ゆっくりの口を塞いで窒息死させる為に使うのだが、どんな道具も使い方しだいで毒にも薬にもなる。

「ふぅっ……これでよし。しばらくすれば傷はふさがるはずだよ」

困難な手術を終えた外科医のように小さく息を吐き、少年に笑顔を向ける少女。
包丁が抜けたことで体が楽になったのか、まりさは穏やかな寝息を立て始めた。

「ゆぅ……ゅぅ……」

少女は、まりさを起こしてしまわぬように、優しく抱きかかえる。
その腕は、とても暖かく、羽毛布団のように柔らかかったので、
小さな寝息をたてて眠る(正確には気絶だが)まりさに、幸福な夢を見させてくれた。

「ゆぅ……ゆぅ……みんなで……ゆっくりしようね……」

安らかな笑みを浮かべながら、ムニャムニャと寝言を漏らすまりさ。
きっと、家族皆で、仲良くゆっくりする夢を見ているのだろう。

「ふふっ。寝言、言ってるよ。可愛い」

「本当に可愛いな。今すぐに殺したくなる」

ついさっき少女に言った嫌味を忘れてしまったのか、
少年は、相棒の腕の中で眠るまりさに、殺意のこもった魔手を伸ばす。
だが、指が触れそうなところで、少女にぷいっと背を向けられてしまった。

「やめてよね。この子は時間をかけて、いっぱい可愛がってあげるんだから……」

少女はそう言うと、決死の逃避行でクシャクシャになってしまった、まりさの長い金髪を整えてやる。
それがくすぐったいのか、まりさは「ゆぅん……」と吐息を漏らし、小さく身をよじった。

「……生まれてきた事を後悔するくらい、ね」

どうやら、まりさにとっての本当の悪夢は、これから始まるらしい。



おわり



作:ちはる



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最終更新:2008年12月09日 19:09
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