ゆっくりいじめ系1671 ゆっくりと悪魔のような子供達3


「おねえさん! いたいの、とんでった?」

目を細めて、愛嬌のある顔で問いかける子れいむ。
しかし、少女は何も答えない。彼女の相貌は、不気味なほど無表情だった。
ただ、大きな黒い瞳だけが、ギラギラと異様な輝きを放っている。

「ゆぅ……おねえさん、だいじょうぶ?」

情け深い子れいむは、もしかしたら先程の体当たりで、
少女が動けなくなるほどの大怪我をしてしまったのではないかと不安になった。
思っている事がすぐ表情に出るゆっくりらしく、小さな唇がへの字に折れ曲がる。

だが、その心配は杞憂にすぎなかった。
少女は緩慢な動作で上半身を起こすと、憂いを含んだ顔の子れいむに手を伸ばす。
それはまるで、獲物に忍び寄る大蛇を連想させるような、ぬらりとした動きだった。

そんな奇怪な動きでも、少女が再び動いたと言う事実は、優しい子れいむを安心させた。
ほっと安堵の息を吐くと、精一杯の笑顔を作って、差し迫る少女の手に声をかける。

「おねえさん! うごいてもだいじょうぶ? さっきはごめんね! いっしょにゆっくちしようね!」

子れいむが少女に期待する返事は特別なものではない。
たった二文字の簡潔な言葉。ただ一言、『うん』と言って欲しい。
そして、一緒にゆっくりしたい。子れいむの願いは、それだけだった。

その胸中を読み取ったのか、少女は二文字の短い言葉を返した。
肯定を意味する『うん』とはまったく意味の違う、凄惨な言葉を。

「死ね」

少女は能面のような顔で子れいむを掴み上げると、あらん限りの力で地面に叩きつける。

一回目で、子れいむの前歯は粉々に砕け散った。

「おびゅぐっ!? お、おねえざ……?」

二回目で、子れいむの右目は破裂した。

「ぎゅいっ!! や、やめ……で……どう……じ……で……」

三回目で、子れいむの額が割れ、中から餡子が噴出した。

「ゆぶゅ……ぐぅぇ……いっしょ……いっしょに……ゆっく……ち……」

四回目で、子れいむの顔面は、固体の判別が不可能なほどグチャグチャになった。

「ゆ……ゅ……ゅ……」

五回目で、子れいむは悲鳴を発しないボロ雑巾になった。
少女はそのズタボロの雑巾に唾を吐きかけると、茫然自失のゆっくり家族の前に放り捨てる。
そして、ダラダラと出血している自分の手を見ながら、地獄の底から響くような低い声で呟いた。

「……あーあ……血が出ちゃったじゃない……」

先程まで、自分達の完全勝利に酔いしれていたゆっくりファミリーは状況の急転について行けず、
大きな目をぱちくりさせながら、「ゆ!? ゆ!?」と喚いている。

少女はそんなゆっくり達を尻目に立ち上がり、お尻についた砂を軽くはたいて落とすと、
右手の裂傷から流れる血をベロリと舐めとる。それから少年の方を見やって、抑揚の薄い声で無心した。

「ねえ……こいつら全員、私が殺してもいいでしょ?」

「おい、独り占めはずるいぞ」

「お願い」

露骨に嫌そうな顔をする少年に、少女は血濡れの右手をかざす。
少年はそれを見て、諦めたように小さく溜息をついた。

「はぁ……仕方ないな、分かったよ」

「ありがと」

少女は微笑を浮かべると、まりさ達に向き直る。
これから始まるパーティーが、嬉しくて仕方が無いといった表情だ。

「まりさ……あなた、赤ちゃんを返せって言ったよね……」

はっと我に返り、毅然とした表情で少女を睨みつけるまりさ。
三ヶ月前はただ怯える事しか出来なかった事を思えば、大変な成長である。
勘違いとはいえ、一度は人間に勝利した事が、まりさに大きな自信を与えているらしい。

「そ、そうだよ! ゆっくりかえしてね!」

「……じゃあ、お望みどおり返してあげる」

そう言うと少女は、まりさの下唇を足で踏みつけた。

「ゆぶぇっ!? や、やめでぬびゅえ!?」

困惑して文句を言おうとするまりさ。だが、その言葉を最後までつむぐ事は出来なかった。
少女の血濡れの右手に、上唇をしっかりと掴まれてしまったからだ。
新鮮な血の味がまりさの口内に広がっていく。

「んんんんん!? んん!? んむうぅうううう!?」

無理な体勢で口をこじ開けられ、苦しげなうめき声をあげるまりさ。
少女はそんなまりさを見てニタリと笑うと、既に火が消えていた赤ちゃんれいむの死骸と、
大量の水を吸ってぶよぶよになった赤ちゃんまりさの死骸を、大きく開かれた口の中に放り込んだ。

「んぶぅぎゅんんんん!? んんん!! んぶゆゅうぅうううう!!!」

口内に愛しい我が子の死体を入れられて、平静でいられる親などいない。
まりさは舌を使って懸命に赤ちゃんの死骸を吐き出そうとする。
ところが、もう少しと言うところで、少女に口を押さえられてしまう。

「んんむぶぐぅ!? ぶぐぅゆぅゅぅうううううぅぅぅうううう!?」

「どう? 自分の子供は美味しい?」

『美味しい?』と聞かれても、口を押さえられているのだから、答えられるはずが無い。
赤ちゃん達を無理やり食べさせられる嫌悪感と、死骸が喉に詰まる苦しさで、涙を流しながら必死に首を横に振る。

「んぶぅっ! んぶぅっ! びゅぎゅぅゆぅゅぅゔゔゔううぅぅぅうううう!」

「言いなさいよ! 『むーしゃ! むーしゃ! しあわせー♪』って! ほら! ほら!」

少女はまりさの口を、左手で押さえたまま、
血まみれの右手で、黒帽子ごと脳天を何度も殴りつける。
その一撃ごとに、上歯と下歯が乱暴に噛み合わされ、口内の死骸はバラバラに砕かれていく。

死骸から漏れ出した餡子の味が、まりさの口内に広がっていった。
甘いけど甘くない。美味しいけど美味しくない。
出来る事ならば、絶対に味わいたくなかった、甘味。

『おとーしゃん! ゆっくちちていってにぇ!』

『おとーしゃん! だいちゅきだよ!』

まりさの心に、生前の赤ちゃん達の可愛らしい笑顔が浮かぶ。
その暖かい思い出が、強烈な嘔吐感となってまりさを襲う。

「ん゙ぐぇびゅっ! ゆ゙ぶぶゅぅっ! お゙ぶぎゅぅゆ゙ぅゅぅゔゔうぅぅぅうぇうぇうぇう!!!」

しかしながら、どんなに子供達を吐き出そうとしても、唇はがっしりと押さえられてしまっている。
まりさは助けを求めて、パートナーであるれいむに視線を送る。

「ゆぅー! やめてね!」

それに答えるように、真っ青な顔をしたれいむが少女の前に躍り出た。
れいむは、どんなに直訴したところで、この悪魔が拷問を止めない事など分かっていたが、
それでも叫ばずにはいられなかった。『我が子を無理やり食べさせる』という惨い仕打ちを、
黙って見ている事など、出来なかった。

「やめてね! まりさにあかちゃんたべさせないでね!」

額にたっぷりの汗を浮かべて、ぴょんぴょん飛び跳ねるれいむ。
眉は八の字に垂れ下がり、隻眼は今にも溶けてしまいそうなほど潤んでいる。

その哀切極まる容貌は、少女の嗜虐心をたまらなく刺激するものだった。
彼女はまりさを乱暴に放り捨てると、視線をれいむに移す。ターゲット変更だ。

「ゆぶぅぇぇぇええええええ! おぅえぇぇぇええええええ!」

ようやく解放されたまりさは、グチャグチャのミンチになった赤ちゃんを、
泣きながら必死に吐き出している。その姿が癇に障ったのか、少女はまりさを思い切り蹴飛ばした。

「ゆびゅぅぅぅううううう!?」

「汚いわね。向こうでやってよ」

吐瀉物を撒き散らしながら転がっていったまりさに、
少女は吐き捨てるような調子でそう言うと、れいむを見下ろして歪んだ笑みを浮かべる。

「……ねえ、れいむ。あなた、さっき面白い事言ってたわね」

「ゆゆっ!? おもしろいこと?」

頭上に大きな疑問符を浮かべて、小首をかしげるれいむ。
悪魔達がやって来てから、面白い事など何一つ無い。

「……あんた、さっき反省しろって言ってたよね? ねえ、言ってたよね?」

「い、いったよ! でも、それはおねえさんがひどぅぶぎゃぁぁぁあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!!」

れいむの言葉が途中から絶叫に変わる。
三ヶ月前に右目を潰されて、ぽっかりと開いたままの穴に、少女が右の拳を突っ込んだのだ。

「饅頭の分際で人間に命令するな」

そう言うのと同時に、左手でれいむの頭を抑えて、どんどん右拳をねじこんでいく。
ブチブチと右目(もう目は無いが)の穴が広がり、少女の右手は肘までれいむの体に埋まってしまった。
遠目に見れば、大きなポンポンをつけたチアガールに見えない事も無い。

「いだいいい゙い゙! いだいいい゙い゙い゙!! ぬ゙い゙で!!! ゆっぐりじないでぬ゙い゙でぇ!!!」 

「本当に痛いのはこれからだよ」

無慈悲で悪辣な笑みがれいむに注がれる。
少女はれいむの体内で手を握ったり開いたり、肘から先を大きく動かしたりして、
ゆっくりにとっての内臓ともいえる餡子を、滅茶苦茶に引っ掻き回す。

暖かい餡子が皮の中を行ったり来たりするくぐもった音が聞こえる度、れいむは気が狂いそうになった。
一寸法師に腹の中から刺された鬼なら、少しはれいむの気持ちを分かってくれるだろうか。

「ゆぎゅ゙ぐあ゙ぁぁぁあ゙あ゙ぁぁあ゙あ゙あ゙あ゙!!!!! ゆがぎゅぐぐゔががが!!!!!!!」

「生きたまま、餡子を掻き乱される気分はどう? あはっ! もう聞こえてないか!」

その通りだった。
雷鳴が荒れ狂うような凄まじい激痛に悶えるれいむには、
少女の声はおろか、自分の悲鳴さえ聞こえていなかった。
れいむの餡子脳を支配するのはたった一つの感覚、『苦痛』だけだった。

「あ゙ぐがががあ゙あ゙ぅあ゙ぅあ゙あ゙っぁあ゙ぁぁあ゙あ゙っあ゙あ゙あ゙あ゙ぁぁぁぁあ゙あ゙あ゙!!!!!!!」

「あんたの悲鳴も、いい加減聞き飽きたわ。耳障りだから死ね」

少女は大量の餡子を掴んで、れいむの体から右手を引き抜く。
握りこぶしの隙間から、黒光りする餡子がボタボタこぼれ落ちた。
そのまま拳を振り上げ、引きつけを繰り返す瀕死のれいむに、とどめを刺そうとする。

だが、その拳に、突然チクリとした痛みが走った。
れいむの処刑を止めさせようとした子まりさが、全力で噛み付いていたのだ。
『窮鼠、猫を噛む』ならぬ、『窮ゆっくり、悪魔を噛む』である。

「ゆゆぅー! おかーしゃんをいじめないでね!」

れいむを殺す絶好のタイミングを邪魔されて、露骨に舌打ちする少女。
自分の右手に噛り付いている子まりさを、鬼の形相で睨みつける。

「……こいつ、鬱陶しいわね。そんなに死にたいなら、あんたから殺してあげる」

その身震いするような恐ろしい目つきに、子まりさは竦みあがった。
あわてて噛み付くのを止めると、底部から地面に降りる。

それは、十点満点の綺麗な着地だったが、
降りたところが、周囲に比べてかなり傾斜していたので、
子まりさは、あさっての方向にコロコロと転がっていった。

「ゆぅー!?」

自分の意思を離れて回転する体に困惑する子まりさ。
だが、回転する事で餡子脳が良い具合にシェイクされ、
明敏になったのか、子まりさは良いことを思いついた。

「ゆゆっ! ゆっくちまわって、ゆっくちにげるよ!」

跳ねるのではなく、転がって逃げる。
一見、馬鹿馬鹿しい方法だが、それは素晴らしい発想だった。
手足が無く、丸い体のゆっくりならではの高速移動方法だ。
子まりさはでんぐり返しを繰りかえし、ゴロンゴロンと音を立てながら、少女から逃げる。
お気に入りの黒帽子が地面と擦れて、形が歪むのが嫌だったが、今は緊急事態だ。我慢するしかない。

「こいつ、待ちなさいよ!」

猛スピードで自分から遠ざかって行くお饅頭に、少女は怒声を浴びせる。
予想外の事態に戸惑っている事が、険しい表情から見て取れた。

「このっ! 待ちなさいって言ってるでしょ!」

少女の必死な声を聞いて、子まりさの心に少しだけ余裕が生まれた。
人間よりも素早く移動できるという事は、大変なアドバンテージだ。

「ゆっゆゆ! これなら、おねえさんにもつかまらないよ!」

笑顔でそう言った直後、子まりさは大変な事に気がついた。
回転の勢いがつきすぎて、自分で進行方向をコントロールする事が出来なくなっていたのだ。

「ゆ? ゆゆぅー!? ま、まがれないよ!? どうちてえ!?」

だが、その疑問に答えてくれる者はいなかった。
子まりさの眼前に、赤茶けた洞窟の岩壁が、無情に迫る。

「ゆー! ゆゆー! とめてね! だれかとめてね!」

泣きそうな顔で、必死に助けを求める回転饅頭。
その願いは、結果的に叶った。子まりさが岩壁に衝突する、という最悪の形で。

「ゆびゅうっ!?」

愛らしい大きな瞳から、閃光と火花が散る。
軽い餡子脳震盪を起こした子まりさは、泥酔者のような動きでよろめいた。

「ゆぅ~ゆぅ~。おほしさまが、まわってるよ……」

しばらくして、徐々に意識がはっきりしてきたのか、
水を被った犬そっくりに、ぷるぷるっと首を振ると、大きく息を吐く。
かなりの速度で激突したわりに怪我が無かったのは、不幸中の幸いだった。

「ゆぅゆぅ……。はやすぎて、こわかったよ……。やっぱり、ゆっくちがいちばんだね!」

身をもって『ゆっくりする事』の素晴らしさを痛感した子まりさ。
これからは、二度と転がって移動したりしない。そう思った。
巣の外を移動するときに 誤って池などに落ちてしまったら、大惨事になることは必至だからだ。
しかれども、子まりさに再び『巣の外を移動するとき』があるかどうかは、怪しかった。

「てこずらせてくれたわね……。あんたは特別に、たっぷり可愛がってあげなくちゃね……」

子まりさが前後不覚の状態になっている間に距離を詰めたのだろう、
額に汗を浮かべ、柳眉を逆立てた少女が、傲然と子まりさを見下ろしていた。
その視線には、多種多様のネガティブな感情が含まれていた、憤怒、害意、嘲り、そして殺意。

毒蛇と毒虫と毒草を一つの鍋で煮込んだような禍々しい色の瞳に、
言い知れぬ恐怖を感じた子まりさは、身を翻して少女から逃げようとする。

「ゆうぅー!? こ、こっちこないでね!」

「もう逃がさないよ」

「ぴゅっ!?」

小さな悲鳴を上げて転んでしまう子まりさ。
長く伸ばした金髪の後ろ髪を踏みつけられ、身動きが取れなくなったのだ。
この時点で、子まりさの運命は決まった。苦しんで死ぬか、悶えて死ぬかだ。

「ゆぅー! ゆぅー! はなしてね! ゆっくちはなしてね!」

子ゆっくり独特の、可愛らしい言い方で嘆願するが、
その稚拙な言葉遣いが、少女を余計にイラつかせたようだ。
彼女の額に浮き上がった大きな血管が、怒りの強さを如実に物語っていた。

「『ゆっくち』って何よ? 『ゆっくり』でしょ? その言葉遣い、死ぬほどムカツクのよ!」

少女は右足で髪の毛を踏みつけたまま、左足で子まりさの頬に靴のつま先をぶち込んだ。
ぶちぶちっと嫌な音をたてながら、子まりさ自慢の金髪が頭皮ごと半分ちぎれる。

「あびぎゅぅぅうううううううう!!」

「ねえ? 勝てると思ったの? 人間に勝てると思ったの? ねえ!? ねえ!? ねえ!?」

激しく詰問しながら、靴のかかとを子まりさの目玉に押し付けてグリグリと踏みにじる。
寒天のように脆くて柔らかい眼球に、アウトソールの蛇腹が容赦なく食い込んだ。

「ゆぎゅぅあ! いぢゃい! いぢゃいい! ……あぎゅっ!?」

子まりさが、驚愕の色を含んだ悲鳴を発する。
眼球が圧力に耐え切れず、ブチュリと音を立てて破裂したのだ。
直後、全身を駆け巡る悪寒と激痛により、洞窟が崩れそうなほどの大絶叫を張り上げる。

「ゆぎゅ゙ぐぎぃあ゙ぁぁぁあ゙あ゙ぁぁあ゙あ゙あ゙あ゙ぁぁあ゙あ゙あ゙!!!!!!」

右目が潰れたのを確認した少女は満足気に微笑むと、左目を踏みつけた。
今度は圧力を加えるのではなく、手加減しながら何度もコツコツと蹴りつける。
成体ゆっくりに比べて柔らかい子ゆっくりの眼球は、一蹴りごとにプリンのように形を歪ませた。

「ご、ごめんなちゃい! ゆるちてね! ゆるちぶぎゅえ!」

「許すわけないじゃない」

子まりさの謝罪などおかまいなしに目玉を蹴り続ける少女。
そういう目的の為に作られた機械のように、ひたすら蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る。

「ゅぎっ! ぎゅっ! ぎゆぅっ! いぎっ! ぎっ! ぃぎっ! ぎぃ!」

二十六回目の蹴りで、子まりさの眼球の耐久力は限界を超えた。
水風船を割ったような音が洞窟に響き、左目の残骸が地面に四散する。

「いぎゃあ゙あ゙ぁぁあぐあ゙ぁぁぁあ゙あ゙ぁぁあ゙あ゙あ゙あ゙!!!」

子まりさは、これで永久に光を失った。
日輪の力強い輝きも、風に揺れる草花の美しさも、二度と見る事は出来ない。

「みえないよ……なにも、みえないよ……。こわいよ……ゆっくちできないよぉ……」

痛々しい子まりさの姿を見て、少女は何かを思いついたのか、踏みつけていた髪から足をどけた。
とりあえず自由の身になった子まりさは、満身創痍の体で、ふらふらと両親に助けを求める。

「おとーしゃん……どこなの? おかーしゃん……たすけてぇ……」

両親の暖かい頬を求めて、洞窟内をさまよう子まりさ。
だが、目の見えぬ悲しさか、小さな段差で転んだり、
壁にぶつかったりするだけで、一向に目的の場所にはたどり着けない。
寂しさと悲しみと疼痛で、子まりさはとうとう大声で泣き出してしまった。
眼窩の窪みから、餡子交じりの黒い涙が、はらはらとこぼれ落ちる

「ゆぅぁぁああ~ん! ゆぅぁぁああ~んあんあん! ゆっくちしたいよぉ!」

その時だった。子まりさの頬に、暖かい感触が伝わってきた。
生まれた時から、何度もすり寄せて来た、柔らかな物体。それは、れいむの頬だった。

「ゆゆっ!? おかーしゃん!?」

少女が、死にかけのれいむを捕まえて、子まりさの頬にくっつけてやっていたのだ。
もちろん善意からの行動ではない、子まりさに最高の苦痛を与える為だ。
しかし、そんな邪悪な思惑など知らない子まりさは、
れいむの頬に、火傷しそうなほど激しく頬を擦り付ける。

「おかーしゃん! おかーしゃん! こわかったよぉ!」

「……ゅ……ゆ……ちび……ちゃん……?」

これこそ、母子の情愛が引き起こした奇跡なのだろうか。
体内の餡子をしっちゃかめっちゃかに掻き乱され、ほとんど植物状態になっていたれいむが、
子まりさの頬の温もりで、おぼろげながらも意識を取り戻したのだ。
隻眼から涙の雫をこぼしながら、必死に言葉をつむごうとする。

「……ちび……ちゃん……ゆっくり……して……ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙!!!!」

それは、突然の変化だった。
蚊の鳴くような声だったれいむの囁きが、
まるで、昆虫の羽音のような奇怪な音になったのだ。
最愛の母親が発する、あまりにも異常な絶叫に、子まりさは困惑した。

「おかーしゃん!? どうちたの!? おかーしゃん!?」

「ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙!!!!」

子まりさがどんなに呼びかけても、喉を震わせて怪音を発し続けるれいむ。
目の見えない子まりさには、何が起こっているのか、まったく分からなかった。
そんな子まりさに、胸焼けしそうな甘ったるい声で、少女が話しかける。

「まりさ、私ね。今、あなたのお母さんで遊んでるの」

「ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙!!!!」

「ゆゆっ!?」

少女の言葉は、子まりさをさらに悩ませた。
こんな奇声を発する遊びなど、聞いた事がない。

それに、お母さん『で』遊んでいるとは、どういう事だろう。
お母さん『と』遊んでいるの間違いではないのか。

「ねえ。何して遊んでると思う?」

「ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙!!!!」

「わ、わからないよ! なにしてあそんでるの?」

子まりさはそう質問してから、
れいむの声に混じって、奇妙な音が聞こえる事に気がついた。

グッチャグッチャ……ヒューン……ベチャ!

それは、非常に生々しい音だった。
子まりさはその音を聞いて、何故だか分からないが、とても嫌な気持ちになった。

グッチャグッチャ……ヒューン……ベチャ!

「ねえ。何して遊んでると思う?」

少女が先程の質問を繰り返した。
小さな餡子脳をフル回転させて、少女の言う『遊び』の内容を考える子まりさ。
だが、どんなに考えてもまったく分からないので、早々にギブアップを宣言する。

「わからないよ! こうさんするから、こたえをおしえてね!」

少女はその言葉を待っていたかのように、大声で答えを教えてやった。

「あんたの母親の頭を引き裂いて、中身をそこら辺にばら撒いてるのよ!」

グッチャグッチャとれいむの頭の中から引きずり出した餡子を、
子まりさの目の前にヒューンと投げつける。

ベチャ! 

飛び散った餡子の雫が、子まりさの頬に小さな斑点を作った。
音の正体を知った瞬間、声にならないうめきを上げ、カタカタと震えだす子まりさ。
その振動は、足の裏から黒帽子のてっぺんまで緩やかに伝わっていく。

「ゆ……ゆぅあぁぁ……そんなの……ひどい……ひどいよぉ……」

子まりさの弱々しい態度に、少女は拍子抜けしたようだった。
もっと盛大に泣き叫ぶのを期待していたのだろう。

「あれ? どうしたの? 『やめてね!』とか言わないの?」

そう言われても、子まりさはめそめそと泣くだけだった。
かけがいの無い家族を次々に殺された挙句、視力まで奪われた幼い体は、もう疲れきっていたのだ。

「ふん、つまんないの。それじゃ、もうれいむを殺そうっと」

少女は小さく舌打ちすると、ほとんどの餡子が無くなったれいむの体を踏み潰そうとした。
『殺す』という悪意溢れる言葉に、ぐったりとしていた子まりさが敏感に反応する。

「ゆ!? そんなのだめだよ! おかーしゃんをころさないでね!」

「だったら命乞いしてよ。上手に出来たら、私の気持ちも変わるかもよ?」

「ゆぅ……いのちごい……」

『命乞いしろ』と言われても、幼く、語彙の少ない子まりさは、どうすればよいのか分からない。
だがこのままでは、悪魔に母親が殺されてしまう。必死に知恵を絞った結果、
子まりさが導き出した方法は、『母親の良いところを一つずつ列挙していく』事だった。

「おかーしゃんはね、とってもやさしいんだよ!」

「ふぅん……」

「それからね、すっごくおうたがじょうずなんだよ!」

「へぇ……そうなんだ」

「まりさがねるときは、おやすみのちゅうをしてくれるんだよ!」

「ふぁ~あ、そう……」

「あとね、あとね……」

「ごめん、もう飽きたからいいや」

楽しそうに母親の長所を言い立てる子まりさにそう吐き捨てると、
少女は渾身の力を込めてれいむの脳天に拳を振り下ろした。

ボグシャアッ!

カンシャク球が爆発したかのような炸裂音が、洞窟内に轟く。
目玉の無くなった子まりさでも、れいむが死んでしまった事はすぐに分かった。
『ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙』という鳴き声が聞こえなくなったのもあるが、
先程までは確かにそこにあった、暖かな生命の存在感が、完全に消失してしまっていたからだ。

「ゆぁ……ゆあぅぁ……おかぁ……しゃん……おか……しゃ……」

子まりさの胸中で、母親との暖かい記憶を映した走馬灯が、
楽しげな音楽と共にくるくると回りだした。それは、とても幸福な幻影だった。

まだ母親の胎内にいる時に、毎日朝晩『ゆっくりうまれてね!』と声を掛けてくれた事。
自分が生まれた時、ニッコリと微笑んで『ゆっくりしていってね!』と言ってくれた事。
姉妹達と喧嘩した時、きつく叱られて泣いてしまったが、その後優しく慰めてくれた事。
初めて歌を一緒に歌った時、上手くリズムをとれない自分に、調子を合わせてくれた事。

どの思い出も、決して忘れえぬ、素晴らしい宝物だ。
これからも、そういった宝物がどんどん増えていくはずだった。はずだったのに……。

深い悲しみに呼応するかのように、突然、走馬灯に映される記憶が一変した。
そこに映し出されたのは、今日一日で起こった、地獄絵図の模様だった。

ただ微笑んで挨拶しただけなのに、燃え盛る炎で焼き殺された赤ちゃんれいむ。
仮死状態から蘇生し、必死に呼吸しているところを踏み潰された赤ちゃんまりさ。
その二人の死骸を無理やり口の中に放り込まれ、何度も何度も殴られた父親。
思いやりの心で、少女を治療しようとしたのに、地面に叩きつけられて死んだ姉。

そして、走馬灯の最後に映しだされたのは、映像ではなかった。
そこには、真っ黒なキャンバスに血のような赤い文字で『ボグシャアッ!』と書かれていた。
それを見た瞬間。子まりさの精神をギリギリ正常な地点に繋ぎ止めていた鎖が、音を立てて崩れ落ちる。

「ゆフっ♪ ユふっ♪ ゆっヒゅ♪」

子まりさは、空っぽの眼窩を突然あらぬ方向に向けて、ニヤニヤと笑い出した。
幼い体には酷過ぎる、執拗な肉体的、精神的拷問により、とうとう心が壊れてしまったのだ。
沖に打ち上げられた魚のようにビチビチと跳ね回りながら、トーンの安定しない声で喚く。

「オかーアしゃん♪ マりサとぉー♪ あーソびマっしょー♪」

母の名を呼びながら、あまりにも痛ましい姿で洞窟内を跋扈する子まりさ。
硬い岩壁に何度もぶつかり、少女に蹴られた傷口から餡子が飛び出しても、決して跳ねるのを止めない。
ゆっくりにとっての生命そのものとも言える黒塊を、そこらじゅうに撒き散らしながら跳梁し続ける。

「ゆヒっ♪ ユほっ♪ ゆっヒょひょ♪」

やがて、餡子が漏れすぎたのか、子まりさは飛ぶ事が出来なくなった。
その代わり、その場でぐるぐる回転しながら、今度は歌を歌いだした。

「ゆ~♪ ゆ~♪ ゆっくり~♪ ゆっく~り~し~ていってね~♪」

それは、悪魔達がやってくる前に、れいむと歌っていた曲だった。
母親と、姉と、夜遅くまで何度も何度も練習した、大好きな歌。
心は壊れても、子まりさの体はその歌を忘れていなかったのだ。
陽気で楽しい歌声が、洞窟に悲しく響く。

「み~んな~♪ ゆ~っくり~し~ていってね~♪」

少女は、ヘラヘラと笑いながら歌い続ける子まりさをしばらく観賞した後、
だらしなく開きっぱなしになっている口腔に、トゥ・キックをぶち込んだ。
小さな歯がバラバラに砕け散り、可愛らしい舌がグチャリと潰れる。

「んぶぐゆぅぅゅぅうううううぅ♪」

「あははははははははは! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね!」

発狂した子まりさの悲惨な姿を見て、倒錯した悦楽が頂点に達したのだろう。
少女はけたたましい声で哄笑した。もう先程のように狙いを定める事もなく、
ありったけの力を込めて、思いつくままに子まりさの顔面を蹴りまくる。

「あはっ! あははははっ! あはははははっ! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ねえ!」

「ゆぎゅ……ゆぎゅぅ……おが……しゃ……♪」

小さくて幼い饅頭ボディが、そのような激しい蹴撃に耐えられるはずがなく、
あっという間に、子まりさはもの言わぬ餡子と皮の残骸に成り果てた。

だが少女は、子まりさが絶命してからも蹴るのを止めようとしなかった。
もはや何だか分からない物体になりつつある子まりさの死骸を、
奇声を発しながら狂ったように蹴り続けた。



五分ほど経過し、少女は冷静さを取り戻したのか、蹴るのを止めて肩で大きく息をする。
その様子を見て、今まで黙って成り行きを見守っていた少年が声をかけた。

「落ち着いたか? 血を見ると逆上する癖は直したほうが良いぞ」

「はぁ……はぁ……ごめん。頭に血が上っちゃって……でも、もう大丈夫だよ」

「そうか、それは良かった」

「はぁ……はぁ……後は、まりさだけだね。殺さなきゃ……殺さなきゃ……」

少女は額の汗を拭いながら、先程転んだ時に地面に落ちてしまったカバンを拾い上げると、
中から禍々しい銀色の輝きを放つ物体を引っ張り出した。それは、包丁だった。

「まりさなら、洞窟の外に逃げていったぞ」

「えぇ!? なんで捕まえなかったの?」

獲物をみすみす逃がした事をさらっと答える少年に、少女は憮然とした眼差しを向ける。
血濡れの右手に包丁を携えたその姿は、子供とは思えない威圧的な迫力があった。

「迂闊に動くと、俺までお前に殺されそうだったからな」

冗談なのか本気なのか分からない顔でうそぶく少年。
だが、先程の少女の狂った暴れぶりから察すると、それも十分ありうる事かもしれなかった。
それでも、少女にとっては思いも寄らない指摘だったのか、真っ赤になって抗議する。

「もう、そんな事するわけないでしょ! どうするの? 皆殺しにするつもりだったのに」

「心配ない。まりさの行き先は分かってる。自分を助けてくれる人の所だ」

「本当? どこなの?」

「それは……」



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最終更新:2008年12月09日 19:08
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