「神をも恐れぬ」
- 俺設定満載です。
- 善良なゆっくりが大勢虐殺されます。
- 東方キャラっぽいのが見えたり見えなかったり。
- オリキャラ注意。
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「ゆっくりしていってね!」
「「「ゆっくちちちぇいっちぇね!」」」
ここは、人里に近い森の中。
一匹の老ドスまりさが従えるゆっくりプレイスに、いつもと変わらない挨拶が飛び交った。
ただ何時もと少し違うのは、挨拶を投げかけた来客の姿が群れの多くの知る生き物の姿ではなかったことだ。
からだから生えているのは二つのあんよに二つのおてて。ゆっくりの体にあたるあたまは、あんよとおててがはえているからだの上にある。
それはにんげんさん、というゆっくりの友人であり、天敵でもある生き物と良く似た特徴を備えていた。
でもそれはにんげんさん、ではないはずだった。にんげんさんにはむしさんのような透き通ったはねはついていない。
ようかいさんかもしれない、とも思ったが、物知りの大人ぱちゅりーが?マークに溢れた仲間達に少しばかり呆れたような解説を加える。
「むきゅ。あれはようせいさんよ」
妖精。それは自然が意識を持ったものとでもいうべき存在だ。
この世の自然の営みには全て、それにまつわる妖精が生まれる。
氷の妖精、春の妖精、光の妖精などなど、多種多様の種類に及ぶ彼らは、自然の運行の媒介者として幻想郷のあちこちで見られる存在だった。
もっとも自然そのものであるだけに、人里に近づけば近づくほどその姿を見る事は少なくなるようではあったが。
そのため、人里に程近いこの地に暮らすゆっくりの多くが、彼女達の存在を知らないことは道理とも言える。
ともかく、いつの間にかこのゆっくりの里の広場に現れ、ゆっくり流の挨拶を投げてきたようせいさんを、
この場のゆっくり達は多少いぶかしみながらもひとまず客として迎えることにしたようだ。
「おねえちゃんはゆっくちできゆひちょ?」
「うん、お姉ちゃんはゆっくりできる妖精さんだよ」
ことに、子供は警戒心が薄い。ゆっくりできる、と請け負った妖精をたちまち満面の笑顔で迎え、何匹かの赤ゆっくりがその足元に群がっていく。
「ゆ? ようせいさんのおねえちゃん、あちょんでくりぇゆの?」
「ううん、ちがうよー。お姉ちゃん達が遊ぶんだよー」
「ゆっ。いっちょにあちょぼうにぇ!」
会話が、微妙にかみ合っていない。その事に気づいたゆっくりが、どれ程の数いただろうか。
何匹かの親ゆっくりが微妙な顔でこちらを見守ることを知ってか知らずか、ずれた答えを返した妖精は一匹の赤ゆっくりの側に歩み寄った。
そして、すっと両腕を伸ばす。ほっそりとした指先を、赤ゆっくりの腹を抱えるように潜り込ませる。
「ゆっ?」
赤ゆっくりはといえば、成体たちの心配そうな顔などハナから気付いていなかった。
ただ無邪気に近づく妖精の顔を見上げ、指先が自分を包み込むことにも無警戒だった。
抱きかかえられた、と思うや否や、急速に今までいた地面が遠くへ離れていく――ここに至って、赤ゆっくりの内に沸くのは未知の世界への爆発的な歓喜。
ゆっくりの里の広場が、ゆっくりの里全体が、里を含んだゆっくりプレイスが、一望できるほどの高さにいたるまで瞬く間のこと。
「ゆっ! ゆゆっ!! おちょらをとんでりゅみちゃい!」
「ていうか、飛んでるんだけどねー」
くすくすと笑う妖精の口調に微かに含まれた嘲りのトーンに、抱きかかえられる赤ゆっくりは気付かない。
ただ、体験したことのない大空の飛翔に大いに喜び、僅かに竦み、きゃっきゃと腕の中で喚声を上げていた。
眼前に広がるのは、見たことがあるはずの、見たこともない世界。地を這うれいむ種には見ることができないはずの世界。
それをもたらしてくれた「ようせいさん」に、無垢な赤ゆっくりが警戒心を抱くほうが無理な話というものだ。
「ゆ? ゆっくちはやくなにきゃとんでくりゅよ? ありぇもみんなおねえ……」
何かを遠くに見つけてはしゃぐ赤ゆっくりの様子に、妖精はくすりと優しい微笑を作り。
何を思ったのか、片翅を大きく傾けて、捻りを加えた急ターンをかけた。
「ちょっとアクロバット、いくよーっ♪」
「ゅっ……ゅきゃあぁぁぁぁぁっ!!?」
……視界が反転、急加速。
突如掛かった強力なGに、それまでの喚声が悲鳴へと変わる。
――惨劇は、ここから始まった。
「ゆー、たのしちょう……」
急旋回の重圧に晒されている当人にとっては、それはすでに「たのちい」ものではなかったのだけど。
地上から見上げる分には、縦横無尽に空中を飛び回るその姿は確かに楽しそうにも見える光景だった。
「ゆっ! もどっちぇくりゅよ!」
「ちゅぎはれいみゅのばん――ありぇ?」
ようせいさんはきっと順番に、おそらまで子供たちを連れて行ってくれる。
そんな事は誰も一言も請合っていないにも関わらず、この場の子供ゆっくり達の中ではそれは既成事実となっていた。
だから、急に戻ってきたようせいさんがそのままあっという間に自分達の頭上を飛び越していったことに、一様にぽかんとした顔をした。
「ぴぎゃぁっ!!」
反応が遅れたのは、そのせいだけではなかっただろうけど。
頭上をフライパスするついでに妖精が落としていった何かが、地面に激しく激突した。
危うく一匹の子まりさの側を掠めるようにしてすっ飛んできたそれは、小石や砂を巻き上げ、柔らかい何かをぶちまけて粉々に砕け散る。
落下地点のすぐ側にいた子供たちを、小石やその柔らかい何かは強かな衝撃と痛みを齎した。
「ぃぎゅうぅ、いだいよ……」
「ゆっくちちていっちぇえ!」
「ゆっくちできないようせいさんはゆっくちどきょかにいっちぇね!!」
一体何が起きたのか。何が降ってきたのか。わからないまま、突然の衝撃にそこかしこで抗議の声があがるった
先ほどまでの楽しい雰囲気も雲散霧消し、傷付いた子や赤ゆっくりは無傷の姉妹に助けられてふらふらとその場を離れようとする。
「……ゆゅっ?」
その中で、状況をゆっくり観察するだけの余裕があった個体が、異常にようやく気が付いた。
落下点。地面に出来た小さな窪み、それを中心にして広く爆散した黒い餡子。
そこにへばりついているのは、つい今しがたまでの記憶に残るそれよりは損傷が激しいとは言え明らかに見覚えのあるリボン……?
「どぼぢでぇぇ……っ!?」
何が起きたのか。何が潰れたのか。
最初理解できず、次に信じたくない思いから理解を拒み、一縷の望みを掛けて大空に戻った妖精を見上げる。
ぐるぐると自分達の頭上を旋回する妖精たちは、誰一人として『何も持っていない』。
その事実を認識して、ようやくゆっくりと理解が浸透していく。
それは紛れもなくを原型を留めないほどの勢いで大地に叩きつけられ、絶命した子ゆっくりたちの姉妹だった。
そして、頭上を見上げたことでようやくそれがゆっくり達の低い視界に映り込む。
何時の間にだろう。周囲全体を大勢の妖精達がくすくすと笑いながら取り巻いているではないか――!!
「ゆぎゃああああぁぁぁぁっ!!?」
ソレに気付いたものが撒き散らした恐慌は、ゆっくり、しかし確実に周囲全体に伝播した。
絶叫をあげて逃げ出した子ゆっくりの頭上に、風を切り裂く音と共に黒い影が迫った。自分の番だろうか。
瞬間、走る事も忘れて全身を強張らせる。
……だが、一陣の風が子ゆっくりの傍らを通り過ぎても、恐れていた衝撃や浮遊感はない。
――その代わり、どんどん前方へ遠ざかる妖精の腕には、別の恐るべき事態が抱きかかえられていたのだけど。
「れいむのいもうとがぁぁぁぁぁっ!!!」
その呼び声に応えるかのように、恐るべき事態――別の赤ゆっくりを抱えた妖精が空中で急制動を掛けて反転した。
その赤れいむのつけたリボンに、子れいむは見覚えがある。
傍らを逃げていたはずの妹が、いなかった。
自分が生まれた次のにんっしんっで生まれたその妹は、子沢山の家族の中で子育てを分担する内に特に自分に懐いてくれた、
目に入れても痛くないような妹だった。
その愛する妹を奪ったやつが、自分を、笑いながら、見ている。
「ゆっくちいもうとをはなちてね! ゆっくちできないようせいさんは、ゆっくちちないではやくちんでね!」
その意味を、子れいむは全く理解しなかった。理解できなかった、と言い換えてもいい。
容易く今の状況を忘れるゆっくりの習性が、恐怖を怒りで上書きさせていた。
ただ憤りのままに、妹を殺し、また拉致した相手に抗議と呪詛の言葉を投げつける。
子れいむの義憤が再び恐怖で上書きされるのはその僅か後、反転した妖精が再び高速でこちらに迫ってきた時のことだ。
「は゛な゛ぢでぇ゛ぇ゛ぇ゛っ、お゛どざな゛い゛でぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛っ!」
「ゆ゛っ!? や゛ぁ゛だあ゛あ゛ぁ゛、ごな゛い゛でぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛っ!」
「「ぶりゅびゃっ!?」」
仲良し姉妹が最期に見たのは、互いの涙と鼻水に塗れ、恐怖と絶望でしわくちゃに歪んだなんとも薄汚い顔だった。
正面から熱烈な抱擁を交わし、次の瞬間十分な威力を持った運動エネルギーが二匹を液状の何かに変えて周囲一帯へと降り注がせる。
そのすぐ傍らでは駆けつけた親まりさが、抵抗する間もなく数人の妖精に抱えられて大空へと昇っていく。
命乞いの声など、誰の耳にも届かない。恐らく数分後、上空数百メートルの高空からゆっくりの巣穴に質量爆弾として投下されるだろう。
そのまりさが連れ去られた場所で、三人組の妖精が遺された赤ゆっくりを捕まえてお喋りしながら間食に耽っている。
彼らが犠牲になっている間がチャンスと見てその脇を駆け抜けようとした成体ありすは、降り注いだ光弾にカチューシャと髪の毛を持っていかれた。
それでもなんとか巣穴に帰り着いたところを、親を親と認識しない愛妻まりさに拒絶され、入り口で揉み合う内に二匹とも光弾の餌食となる。
「だづげでぇ゛ぇ゛ぇぇ゛ぇ゛ぇ゛!!! 」
「ゆ゛っぐり゛でぎな゛い゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!」
「てっきらいしゅー、きゅうこうかだねー」
楽しかったはずの、ゆっくりプレイス。だが今ここにあるのはすでに戦場――いや、屠殺場以外の何者でもない。
阿鼻叫喚の騒ぎの中、一人足を止めて何もかもを諦めたように呟くちぇんはすぐさま投下された小石爆弾の直撃を受けて散華した。
その飛び散る餡子を掻い潜るようにして、高速かつ低空飛行で飛ぶ二人一組の妖精が飛び去る。
こちらは何も抱えてはいない。その代わりに、彼女達の両の翅近くから生まれるのは死を齎す光の玉だった。
「「「ゆぎゃぁぁぁああぁぁぁっ!!」」」
前方数十メートルで交叉する、二条の光弾の連続射撃。
地面を舐めるように迫るその掃射に、追いつかれた赤ゆっくりから粉々の餡子片へと変わってゆく。
「い゛や゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛、でい゛ぶの゛あ゛が゛ぢ゛ゃ゛ん゛が゛がっ!!!?」
愛する子供達の虐殺を目撃し、その窮地を救うことどころか駆け寄ることすら出来なかった親れいむは、
これ以上ないほど大きく口を開いて叫ぶ形相のままに厚い氷の中に閉ざされた。
「こーんなおっきなゆっくりも、一撃で凍らせられるんだから。あたいってば最強ね!」
やがて自慢げな声が、氷漬けにされた親れいむの頭上から聞こえた。それが、この世で耳にした最期の声となる。
直後、なにか硬いもの――妖精が振り下ろした靴底――が、激しく親れいむの頭頂を打つ。
憎悪に濡れた視線をなんとか仇に向けようとするれいむの視界に生まれたのは、縦横に走る無数の皹。
それが何を意味するか、理解する間も思考を走らせる間もなく、それはれいむの意識ともども微細な破片となって砕け散った。
ゆっくり達の中には、それなりに機転の利くものもいる。
一匹のぱちゅりーが、空を飛ぶ妖精たちは障害物の多い中では動きも鈍るだろうと、鬱蒼と木々が覆い茂る森の中へ逃げ込んだ。
確かに、この森の中を開けたゆっくりプレイスのように高速で飛びまわれば、たちまち立ち木に衝突するだろう。
「むきゅっ。このままどこか、こかげにかくれていればだいじょうぶね」
多くの仲間を見捨てたことは悲しいが、そもそも他のゆっくりに比べても体の弱いぱちゅりーに、戦うことなどできはしない。
せめて少しでも多くの仲間が、この場を生き延びてくれたら。せめて、ドスの近くに逃げ込めば、何とか命は永らえるだろう。
自分の弱さを呪う贖罪の気持ち、仲間の無事を願う心からの祈り、群れのリーダーであるドスへの無条件の信頼。
それらをないまぜにして、ぱちゅりーは未だ悲鳴が絶えない恐るべき殺戮の野を振り返る。
「……むぎゅぅっ!?」
そして、絶句した。殺戮の野を後にしたつもりが、ここもその領域の一部でしかない事を突きつけられて、絶句した。
「やっ、鶯饅頭。どーこいくつもりなのさ?」
ぱちゅりーが向けた視線の先。真新しい玩具を目にした子供の無邪気さをこちらに向ける『敵』が、そこにいた。
森は、確かに高速では飛べない。そう、高速では、飛べない。
高速では、飛べない、だけだ。
二本の足で下草の上を歩き回り、翅を小刻みに羽ばたかせて低速で飛ぶ妖精の一群が、ぱちゅりーの姿を捉えていたのだった。
「おうちについちゃよ!」
「これであんちんちてゆっきゅりできりゅね!」
安心してゆっくりできる巣穴に逃げ込んだゆっくりも、少なからず存在した。
「あかちゃんたち、ゆっくりしないではやくおくまではいってね!」
どうにもおつむが足りないらしく、巣穴に帰り着くや否や入り口近くでゆっくりしはじめた赤ゆっくりを親ゆっくりが叱り付ける。
ゆっくりの巣穴はそう大きくはないが、討手である妖精たちもまた小柄なのだ。
人間なら諦めるしかないサイズでも、妖精たちは這って入り込むこともできない訳ではない。
いや、人間ですら腕一本もぐりこませることはできる。巣穴にたどり着いたぐらいで、油断できるはずがないのだ。
「ここだここ。ここに今何匹か逃げ込んだよー」
現に、すぐ外には既に何人もの妖精の気配があった。れいむとまりさの夫婦は、息を潜めて外からのアクションを待ち受ける。
たぶん、他の機会には見ることなどできないだろうゆっくり夫婦の悲壮な決意に固められた顔つき。
口に含んでいるのは、里の近くで拾った錆びた鉄釘だ。手なり、上半身なり乗り入れてきたら、これで突き刺し抵抗してやる――、
「おーい、雨か水の妖精いるー?」
だが。
両親ゆっくりの決死の覚悟は予め無為となることが約束されていた。
「なになにー?」
「細い巣穴に逃げ込んだちびがいるのー。服が汚れるのやだからさ、水流しこんじゃってくれないー?」
「んー、そっか。ゆっくりって水に弱いんだっけ。わかったー」
外から流れ込んでくる会話は、両親達の戦意を奪い去るには十分だった。
奥にいる子供たちは、迫る死をはっきりと自覚しその恐怖から早くも餡を吐き出している。
「「ゆっくりやめてね! あかぢゃん゛だげでも゛だずげでね゛!!」」
巣穴を水浸しにするという攻撃の前には、抵抗の手立てなどありはしない。
この上はせめて、己を生贄にしてでも子供たちを助けてもらおう。
後半泣き声に替わった悲痛な叫びと共に出口へと駆け出した親ゆっくりは、しかし再び外気を吸うことすら赦されなかった。
「「い゛ま゛おぞどにででい゛「注水開始ー!」ぶびゃぇべべっ!!」」
巣穴の外、入り口に向けて差し向けられた妖精の指先から高圧の水流が迸る。
その長く延びる水槍は大口を開けたれいむの口中に飛び込み、後頭部を粉砕して即死に至らしめた。
すぐ後ろにいたまりさが、その死を理解する暇もない。
そうと気付くより早く水の穂先がまりさの眼球を貫き、体内の餡子をかき混ぜ、溶かして目から耳から洗い流す。
二匹を貫き注ぎ込まれる水流は途中で土壁に当たって砕け、子供達の逃げ込んだ奥底までは届かなかった。
断末魔を上げることすら赦されなかった親の死に気付かぬ子らは、入り口近くから土を這って迫る水に怯えながらしばらく過ごすことだろう。
そして、体の底を水が浸すに及んでやがて気が付くのだ。
両親がもはやこの世におらず、助けに来てはくれないこと。
この暗い地面の底から広くて楽しい場所に再び出ることもできず、自分たちも溶けて崩れて両親の後を追うのだということに。
「どぼじでぞん゛な゛ごどずる゛の゛お゛お゛お゛お゛お゛!!??」
泣き叫ぶドスまりさの声は、大空の更なる彼方から降り注いだ。
まりさ種に連なるドスまりさにしては極めて珍しいことではあったが、このドスには飛行能力が――当然、備わってなどいない。
見慣れた黒い三角帽子に金色の髪、三メートル近い巨体、口の中の茸、ドスまりさが備えているのはありふれた同族の特徴でしかない。
ドスが空に浮かんでいる理由。それは眼下の惨劇と全く同じことだ――違いを上げるとすれば、ドスの巨体を持ち上げる為には無数の妖精を必要としたという所だろうか。
「あっはは。」
その周囲を、それよりやや小さな妖精達がいやらしい笑みを浮かべて円を描くように飛びながらいう。
「ねぇねぇ、ドスの奥さんがおバカなよーせーに氷漬けにされちゃったよ? 今どんな気持ち?」
「ねぇねぇ、生き残りの子供たちを匿ってた巣穴も見つけられて、もうすぐぜーんぶ殺されちゃうよ? 今どんな気持ち?」
幻想郷に無数棲息する妖精は、ある意味において人間以上にゆっくりという種にとっての天敵となる存在だった。
何しろ、悪戯好きな種族である。しかも加減と言うものを知らない種族でもあった。
ドスは今まで多くの仲間達が、妖精達の遊び道具として嬲り殺される姿を見てきた。
多くの民間伝承で、彼らは人間を悪戯のままに死に至らしめることも多い妖精たち。その姿は幻想郷でも変わる事はないのだ。
――だが。
地上の悲惨な光景に対する絶望、遠く離れた人里すら遠望できる高空に持ち上げられた恐怖、それらを推して必死に現状を考える。
今まで多くの危地を、思慮に思慮を重ねる事で生き延びてきた。その記憶が、事ここに至ってもドスに現状の把握と打開策の模索という苦行を止めさせない。
確かに妖精たちは自分たちを玩具とするために襲う。その点は、人間と同じだ。
でも、妖精たちは飽き易い生き物だった。その場で遊べる犠牲者さえ手に入れれば、人間みたいに執拗に追いかけてなぶり者にする
ことなんてあんまりなかった。
そもそも大勢で群れそのものを全滅させようと襲ってくることなんて見たことも、聞いたこともない。
そしてその襲撃を押し止める術も、どれ程考えても欠片も思い浮かばなかった。
「ようせいさんやめてよおおおおぉ!!! もうやべでええええぇ!!!」
――仮に考えついたところで、今この状況から眼下数百メートルの仲間達に指示を下す術など何もなかったのだが。
長いゆっくり生から得られた経験と知識を総動員し、ありとあらゆる可能性を考え、全てにおいて不可の結論を得たドスには、
もはや泣き叫ぶだけの巨大饅頭と成り果てる他何も出来なかった。
「くすくすくす。ドス、ゆっくりにしてはお利口さんなのにまだわかんないんだー?」
「わかんないんだー?」
狂ったようにやめてやめてと懇願するドスまりさを囲いながら、だが妖精達の態度は欠片も変わらない。
「じゃあ教えてあげなきゃねー」
「あげなきゃねー」
一人が傲慢な口振りで言い放ち、周囲を回り、或いはドスを支える妖精達がそれに続いて唱和する。
「神様がどんだけ怒ってるか、教えてあげなきゃなねー」
「あげなきゃねー」
歌声が、回る。ドスの周りをくるくると回る。
厄神さまの周りを回る厄のように、くるくると。もっともこの厄は、その真ん中にいるものを祟り殺す厄だったけど。
話は、この夏にまで遡る。
恐らくそれは村人の思いつきだっただろう。その年の夏祭り――当然、収穫前だ――に、常と違って秋穣子が招かれた。
彼女は豊穣の神だ。人間はすっかり忘れ去ってしまっているが、彼女の豊穣を授ける力は、収穫前に彼女を祀る事によって約束される。
そして偶然の産物ではあったが、この年、穣子は久方ぶりにその本来の神徳を幻想郷の人々に授ける事となった。
その年の秋。
適度な降雨と好天に恵まれ、作物はこの数年来なかったほどにたわわな実りを見せ、家畜も大いに肥え太った。
紛う事なき豊作だ。人間の民草からは多くの感謝、多くの信仰がこの恵みを授けてくれた穣子に向けて捧げられ、
彼女は日ごろ弾幕が弱いだの神力そのものが弱いのではないのかだのと疑問を呈される面目を躍如することとなった。
だが、感謝だけではなかった。
上機嫌だった穣子の顔色を一変させたのは、ある農民が捧げた祈りだった。
曰く、彼の村の農地は里外れにあり、日ごろ鳥獣の被害を受けやすい場所だった。
それが、今年の豊作では神のご加護もあり獣は出なかったものの、鈴なりに実った野菜を狙い集ったゆっくり達の間断ない襲撃で、
却って常より大きな被害を出してしまったというのだ。
農民の訴えを聞いた穣子は、怒った。
被害の過多は問題ではなかった。神の授けたご利益を、下等生物ごときに台無しにされたのだ。
それも他の鳥獣らは穣子の禁制に従って耕地に近づく事すらしなかったのに、である。
「あんた達、今すぐ人里まで出向い一里四方のゆっくりどもを根絶やしにしなさい」
豊穣の神――自然神たる穣子は、すぐさま眷属とも呼ぶべき秋の妖精たちや神々に従順な山の動物たちを集めてこう命じた。
神々の下僕はその命を受け、さらに他の同族たちを誘った――理由は簡単、面白そうだからだ。
「ゆっ!? そ、それならわるいのはにんげんさんのものをぬすんだゆっくりできないゆっくりだよ!」
妖精の説明を聞いたドスが、「だからはやくまりさたちをいじめるのはやめてね!」と血相を変えて訴える。
これは、まりさ種によく見られる責任転嫁などではない。
間違いなく、このドスの群れには人間の畑で悪さを働くようなゆっくりはいなかった。
それどころか、人間の恐ろしさを知るドスの群れは山に踏み入った人間に近づく事もせず、人間の気配が近づく度に
巣を別の場所へと移動させる事すらしていたのだ。
過剰とも思える、人間との接触の忌避。
だが、その徹底振りが虐待愛好家や加工所の手がこれまでこの群れに及ばなかったことの最大の理由だった。
「そうね、あなた達の群れが何も悪さをしてないのは知ってるわ♪」
だと言うのに、ドスの目の前で綺麗な翡翠の羽根を羽ばたかせるオレンジ色の妖精は、にこやかな笑顔でそんな事を言い放つ。
だったら、とドスは混乱する。
なぜ、何も悪い事をしていない――まさしく、人間の目から見ても善良な――自分たちまで罪を問われなければならないのか。
なぜ、他人のモノを盗ったという罪が皆殺しという過剰な罰でもって報いられなければならないのか。
よしんばそれらの罪と罰の因果が自分たちに結びついているとして、なぜ、人間ではなく妖精によってその罪が断罪されなければならないのか?
「あっははー。こーゆー時はー、わからないよー、って言うんじゃないのー?」
赤色の妖精が、愉快そうに尋ねた。
「まだわからないんだ? わからないよねー、かとーせいぶつのあんた達にわかるはずないよねー」
青色の妖精が、小馬鹿にするように謳った。
「だから、あたし達がとくべつにあんた達が殺される理由、教えてあげるねー?」
黄色の妖精が、わざとらしく悲しげな顔を作って告げた。
「神様はね、こう決めたの。今回の事件はゆっくりって種の罪だー、ってね」
「誰が悪い、って吟味はめんどいからパス。とりあえず全部懲らしめちゃえば、悪いのも漏れなくパニッシュできるじゃん?」
「だ・か・ら☆ あんた達、ゆっくりは全員皆殺しなの。悪い事しててもしてなくても、関係ないの。ゆっくり理解してねー♪」
「ゆ゛、ゆ゛、ゆ゛……!?」
あまりに理屈の通らない死刑宣告に、ドスは口をぱくぱくさせる事しかできなかった。
神の怒りは古来より常に理不尽だ。そこに畑を荒らしたゆっくりたちと、
ドスまりさの群れに代表される『慎み深い』ゆっくりたちとの区別はない。
穣子は、里に近いゆっくり尽くを誅戮すると定めた。
畑作を行っている、ゆうかやみのりこすら例外ではなかった――ゆっくりは神を奉じないから、赦す理由など何一つない。
だから、ドスも、その群れの仲間も、神の怒りを逃れる事など叶わない。ただ、それだけのこと。
……もっとも、ドスが痴呆のように言葉を失っていたのは、今の事態の入り口、人間や妖精、さらには妖怪の上位に君臨する
『神』という存在の概念すら理解できていなかったからというだけなのだけど。
「どぼじでぞん゛な゛ごどに゛な゛る゛の゛お゛お゛お゛ぶべら゛っ!!??」
急速に遠ざかるドスの悲鳴が長く尾を引き、やがて大地を震わせる轟音が鳴り響くと共に途絶えた。
ゆっくりにしてはよく回る餡子脳も、自身の能力を超越する状況にはなんらの貢献を果たすこともなかった。
ただその重さ数トンに達しようかと言う鈍重な巨体は、自由落下の果てに群れの倉庫として用いられる自然洞穴の天蓋をぶち抜き、
その中に逃げ込んだ群れの最後の生き残りを殲滅する役には立ったことを、付記しておく。
この日から一昼夜、神勅を受けた妖精や神の眷属たちが里の一里四方を徘徊し、野生のゆっくりを悉く根絶やしにした。
神罰の嵐を辛くも逃げ延びたゆっくりも、長く生き延びることはできないだろう。
彼らには秋の終わりを告げる紅葉の神、秋静葉の手によって『食べようとする植物が枯れ果てる祟り』が掛けられているのだから。
人里から遠く逃げても、彼らは誰にも受け入れてもらえないはずだ。
同じゆっくりですら、彼らを拒み、殺そうとするだろう。
生き残りが食物を探すだけで、食い扶持が文字通り根から絶えていくのだ。見過ごせるわけがない。
かくして人里近くのゆっくりは全滅し、神の怒りはその顛末を見届けた人間たちに神々への畏怖を刻んだ。
それでもゆっくりはまた奥地から絶えず湧き出し、次の春にはまた人里近くに巣を作るだろう。
夏にはまた畑に出没し、農夫の丹精込めて育てた作物を食い荒らす事だろう。
それもまた、この幻想郷に織り成す自然の一環だから。
姉妹の女神はただ今回の一件が、少しはゆっくりの本能に教訓を刻んでくれる事を祈るばかりなのだ。
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初SSになります。
コンゴともよろしくお願いしますです。
……このSS書いてる間に、前スレで信仰云々が出てしまったのは不覚のキワミ。
最終更新:2008年11月24日 17:14