ゆっくりいじめ系1527 ゆめであえたら

ゆめであえたら


夕方、家に帰って玄関で靴を脱いでいると、奥からゆっくりまりさが跳ねて来た。
「おにいさん、まりさはおなかがすいたよ!」
おどおどして、顔色を窺うような表情。よく考えたら、昨日の朝からずっと、こいつに餌を与えていなかった。
俺は玄関にあがるため、ゆっくりを足で蹴ってどかした。
「ゆぎゅっ!」
顔面に蹴りを貰って壁に激突する。ゴムボールのような感触で、蹴り心地がいい。
「ゆっぐり……」
顔を真っ赤に腫らせ、目に涙を湛えながら、台所へ向かう俺の後をヨロヨロとついてくる。
俺は冷蔵庫を開けると、しおれた野菜の切れ端や、古くてカピカピになった牛肉などを適当にかき集めて深皿に入れ、
その上から賞味期限を切らしてしまった牛乳を、なみなみとかけた。
「ゆゆー! おにいさん、ゆっくりたべるね!」
皿を床に置くと、ゆっくりは腫れあがった顔を輝かせて貪りついた。むっしゃ、むっしゃ。うっめ、これ、めっちゃ、うっめ。
全然ゆっくりしてねえし。俺は思った。
こんなひどい残飯でも何でも、こいつは実にうまそうに食べる。こいつが家に来てから、生ごみの処理に困らなくていい。
もっとも最初のうちは、なにやら文句を言っていたっけな。
「べーこんごはん」がどうとかこうとか。顔面を餌皿にぶち込んで踏みつけてやったら、それ以来文句を言わなくなったけど。


「ゆーっ、ゆーっ」
リビングでテレビを見ていると、食べ終わった皿を、口でズリズリと苦労して引きずりながら、ゆっくりがやって来た。
何やら得意げな様子で、持ってきた皿を俺の前に差し出してみせる。
丁寧に舐めあげられていて、ピカピカだ。餌を食べ終わったらいつも、こうやって皿を見せに来るのだ。
しかし今日は、こぼした牛乳が皿の縁を伝って底についていたため、皿をひきずった床には、白い軌跡ができていた。
当然、そんなことには気付いていない。
「ゆっゆーん! おにいさん、ゆっくりこれをみてね! まりさはじょうずに、きれいきれいできたよ! 」
「なに床汚してんだ、コラアア!」
「ゆっ!? ゆゆぅぅっ!?」
いつもなら、俺の「あーはいはい」とか「ワースゴイネー」と言った適当な返事に褒められた気になって喜びまわる場面だが、
予想外の展開に真っ青になって狼狽するゆっくり。冷や汗をタラタラ流しながら、「ゆゆー!? ゆゆうー!?」と、
わざとらしく皿と床の白い軌跡を何度も見比べてみたりして、必死にわざとじゃないことをアピールしようとしている。
こういう情けないうろたえっぷりが、いつも俺の嗜虐心をくすぐる。
「このクソ饅頭!」
力いっぱい平手打ちを見舞う。
「 ゆぎゅん゛っ!!」
パァンッ、と良い音がして、ゆっくりはまたもぶっ飛ばされて壁に激突、床にドスンと落下してゴロゴロと転がった。
その衝撃が、餌がたっぷり詰め込まれたゆっくりの腹の中をかき乱す。
「ゆぐっ……!ゆっぷ!……ゆぷっ!…………………!」
ゆっくりは激しく嘔吐した。
「ゆぇれっ!……え゛っ、え゛れっ……お゛っ、え゛ろろろろろろっ」
体をポンプのように上下させ、ビチャビチャと白い吐瀉物を噴出させる。
「ゅお゛ろっ! お゛ろろろろろろろろろぉっ!」
部屋に立ち込める酸臭。やれやれ、と俺は腰を上げると、流し台へ雑巾を取りに行った。
リビングに戻ると、ゆっくりは、青い顔で涙と涎を流し、ひゅーひゅーと苦しそうに息をしていた。
傍に立ち、無言で見下ろすと、たじたじと後ずさり、壁に背中をはりつけてすくみ上がった。
ゲロでまた床を汚してしまったお仕置きをされると、わかっているのだ。
「ゆゆゆ……おにいさん、ごめんなさい! けらないでね! けらないでね!」
おびえてプルプルとふるえるゆっくりをたっぷりと睨みつけた後、おもむろに頬を踏みつけた。
「ゆぴゅうっ!?」
強い力で床に押さえつけられて、横たわったまま身動きが取れなくなる。
「やめへね! やめへね!」
足の下から脱出しようと、ウネウネもがく。
俺はかまわず、ゆっくりに置いた足にじわじわと体重をかけてゆく。
「ゆぐぅ!? ゆっ……ゆっぐっ、ぐぐっ、ぐぐぐぐぐぐぐ」
ゆっくりの柔らかい体は、いとも簡単にたわんでいった。
「食べ物を粗末にするなって、言ったよな」
「ぐぐぐぐぐぐぐぐ」
ゆっくりはただ、呻くことしかできない。
足の裏に、ゆっくりの中に詰まったものが圧力でグネグネとうごめく感触を感じる。
俺はさらに体重をかけた。
「ゆぐぐぐぐっ!? ぐっ! ぐむむむむむむー!」
するとゆっくりは、全身にダラダラと汗をかきはじめた。
そして突然、「ぐみ゛ゅっ!」っと小さい悲鳴を上げ、

ぷすっ、ぶぴっ、すぴぴっ

と、ゆっくりの肛門が、屁のような音を立てた。
ゆっくりの背後の壁を見ると、白い壁紙に黒い餡子が小さく飛び散っている。
「ははっ、何オマエ? うんこ我慢してるの!? くっさー!」
「ぐぎゅみゅっ! ぎゅむむむむむー!」
ゆっくりは踏みつけられながら、顔面を紅潮させ、口を真一文字に硬く結び、必死になって肛門を引き締めようと努力している。
一度部屋の真ん中でうんこ(というか餡子)をして、こっぴどく痛めつけてられて以来、絶対にトイレ用の段ボールの中以外では
餡子を出さなくなった。そして、今も必死に耐えている。見上げたものだ。
だが、こういう、馬鹿なくせに妙に「いい子」なところがまた、俺の暗い衝動を煽るのだ。
「いいか、絶対に漏らすなよ。漏らしたらどうなるか、わかってるな」
俺はさらに足を踏み込んだ。
「むぎゅ! むぎゅぐむむむむ!」
ゆっくりの顔が、熱したヤカンのように真っ赤になる。
ぶっ、ふすっ、ぷうっ、ぷぴぴっ。
肛門からは、圧力に耐えかねて、断続的に空気が漏れ出す。
「むっむむむむむ! む゛むむむむむむー!」
どんどん噴き出してくる大量の冷や汗。
もうほとんど全身の体重を足にかけているが、なんとか踏ん張っている。
そこで、足を高く持ち上げ、ゆっくりの体内にかかっている圧力を解放してやった。
「ゆっ……」
瞬間、ゆっくりは息をぷひゅうっと吐き出し、安堵の表情を浮かべる。そこをすかさず、ドスンと思いきり踏みつけた。
「ぎゅうん゛っっっっ!!!!!!」
ゆっくりの体は、ひょうたんのような八の字型にひしゃげ、

ぶばっ、ぶりりりりり、ぶぼぼぼぼぼっ、ぼたぼたぼた

うっかりゆるめてしまった肛門から、情けない音を発して、大量の餡子がまるで大便のようにほとばしり出た。
あたたかな餡子が、少し肌寒い室内の空気にさらされてホカホカと湯気を立て、あたりには甘い香りが漂った。
ゲロの酸臭とは対照的だ。どんな残飯でもこいつが食べて消化すると、餡子に変わってしまう。
不思議な生き物だ。
こいつを見つけたのは、二か月ほど前の、近所のゴミ捨て場。
カラスとフライドチキンの骨を取り合っていて、まんまと奪い取られていた。
なんだか面白いから拾って帰ってみたのだが、その前は一体どこにいたのだろう。
とてもこの世界の生き物とは思えない。
まあ珍しくてコイツにかまっていたのは最初のうちだけで、今は単なる残飯処理機兼、サンドバッグだが。
「ゆ゛っ……!ゆ゛っ……!」
ゆっくりは床に突っ伏してむせび泣いている。ひっくひっくと揺れる帽子。体の周りには、流した涙で池ができていた。
その背中に、俺は雑巾を投げつける。
「いいか、明日の朝までにゲロも餡子も片づけておけ」
「ゆっ、ゆゆうっ!!?」
「できなきゃフライパン百叩きのうえ、三日間飯抜きだ」
こんな頭だけのヤツに、雑巾がまともに扱えるわけはない。明日起きたらどんな顔して俺を出迎えてくれるか、楽しみだ。
雑巾を前に困り果てるゆっくりをリビングに残し、寝室に引き上げた。やらなければいけない仕事が残っていた。


ゆっ、ゆっ、という声がして目を覚ますと、すぐ目の前にゆっくりまりさの顔があった。
「おわっ!?」
驚いた俺は反射的にゆっくりを払いのけた。
「ゆべっ!?」
ベチッと頬を打たれてコロコロと部屋を転がっていくゆっくり。
辺りを見回すと、そこはベッドではなく、仕事用に使っているちゃぶ台のそばの床だった。
どうやら、昨日仕事をしながら眠ってしまったらしい。硬いところで寝てしまって、体のあちこちがズキズキと痛む。
自分の体を見ると、不器用に毛布がかけられていた。
ゆっくりは、床で眠る俺に毛布をかけてくれようとしていたようだ。
「びっくりさせやがって……」
ふう、と大きくため息をつく。部屋の隅でひっくり返っていたゆっくりは、ヨタヨタと起き上がって元気よく言った。
「おにいさん、ゆっくりおそうじできたよ!!!」
しかし俺はそれには答えなかった。午前九時十三分を指し示す時計が視界に飛び込んできたからだ。
「やばい、遅刻だ!」
俺は跳ね起きると、あわただしく身支度をし、家を飛び出した。
家を出る時、閉まっていくドアの隙間から、玄関で所在なげに俺を見送っているゆっくりの姿が見えた――


それから七日間、俺は家に帰らなかった。急な出張や、友達との遊びの約束が重なった。
夕方家に帰ると、いつも出迎えに来るゆっくりまりさが出てこない。
奥で、ソファの上でカサカサに乾いて横たわっているゆっくりを発見した。
「おい」
「………………」
「おいコラ!」
「……………ゅ」
話しかけてもろくに返事もしないし、ただ横たわって弱々しい呼吸を繰り返すばかりだった。
ああ、こりゃもう駄目だな。
俺はゆっくりを抱えて台所へ行き、生ゴミ用のゴミ袋へ放り込んだ。明日は燃えるゴミの収集日だし、丁度よかった。
リビングに戻ると、テレビをつけた。
そういや、床や壁の汚れが綺麗になっているけど、誰が掃除してくれたんだろ。
留守にしている間に、おふくろが来たのかなあ。まあ、どうでもいいけど。
俺は一つあくびをしてリモコンに手を伸ばし、テレビのチャンネルをかえた。



    ◇



「まりさー! お昼ごはんよ!」
その声に反応して、隣の部屋からゆっくりまりさがあわてて跳ねてくる。
「ゆっ、ゆっ!」
女が持っているのは、白いご飯に生卵を混ぜ、その上にアツアツに焼いた大きくてぶ厚いベーコンを一枚乗せた、まりさの大好物。
「ゆゆー! べーこんごはん! ゆっゆっゆっー!」
ゆっくりまりさは喜びの余り、女の足元をピョンピョン跳ねまわる。
皿がコトリと床に置かれると、ゆっくりはわき目も振らず、餌にかぶりついた。
「むーしゃ、むーしゃ! 」
口いっぱいにごはんを頬張って、ごくんと飲み込む。
そしてパアアッと輝く表情を女の方に向けて、言った。
「しあわせー♪」
ベトベトの生卵と米粒が口の周りに張り付いている。
女はにっこりと答える。
「よかったわね」
その言葉が聞こえているのやらいないのやら、ゆっくりは再び皿に顔を突っ込むと、また一心不乱に食べ始めた。
しばらくの間、部屋に響く音は、カタカタと皿が揺れる音と、ゆっくりの咀嚼音だけになる。

カタカタ、むっしゃむっしゃ、カタン、じゅるっ、じゅるるっ、ずずっ、むっしゃ、カタカタカタ。

女はゆっくりの食事を、椅子に腰かけて静かに眺めていた。
やがてベーコン一枚を残して、皿の中身をあらかた食べ終わった。
ベーコンはゆっくりまりさの好物中の好物だから、いつも一番最後に取っておくのだ。
はむ、っと端っこをくわえ、じゅるるるっ、と大きなベーコンを一枚まるまるすすりあげて、もっしゃもっしゃと咀嚼する。
口の中いっぱいにジュワーっと広がる肉汁に、思わず目を細め、弛緩しきった表情を浮かべて、ゆっくりは再び言った。
「ひあわひぇ~♪」
入念にベーコンを咀嚼し、ゴックンと飲み込んだ後、まだ少し米粒が残っている皿をベーロベーロと舐め始めた。
ゆっくりまりさの一番幸せな時間である。
皿をピカピカに舐め終わったゆっくりは、ケプ、と一つ息をついて、女に言った。
「ゆっくりたべおわったよ!!!」
全然ゆっくりしていなかったじゃない、と女はほほ笑んだ。
そしてハンカチを取り出すと、ピカピカの皿を前に誇らしげなゆっくりの方に身をかがめ、
米粒と卵の白身にまみれ、ベーコンの油でテカテカ光っているゆっくりの口元を丁寧に拭いた。
「ゆっ、ゆゆっ」
くすぐったくて嫌そうに体をねじるゆっくりだが、逃げるわけでもない。女のことを完全に信用しきっていた。
「お口を綺麗にしたら、リビングで髪をとかしましょうね」
「ゆゆっ!? まりさのかみをきれいにしてね!」
昼食の後は、ブラッシングの時間。
ゆっくりは女に髪の毛をブラッシングしてもらうのが大好きだった。いつも女の膝の上で髪にブラシを当ててもらいながら、
あまりの気持ちよさに、口の端からよだれを垂らして眠ってしまうのだ。
お腹はいっぱいで、窓からはポカポカの陽気も差し込んでいる時間帯なのだから、無理もないことかもしれない。
ところが、女がゆっくりの口を拭き終えて、ゆっくりを抱えてリビングへ行こうとした時、家の外から声が聞こえてきた。
「ゆっくりしていってね!!!」
その声を聞いたゆっくりまりさは、あわてて女の腕の中から飛び降りると、窓に貼りついて外を見た。
そこにいたのは、ゆっくりれいむ。ゆっくりまりさの友達だった。
「じゃじゃーん! れいむがあそびにきたよ!」
「ゆっくりー! まりさもすぐにいくよ!」
そう言って急いで玄関まで跳ねていくと、ドアの前でピョンピョンと跳ねて、女に言った。
「おねえさん、はやくドアをあけてね!」
大好きなブラッシングも、大大大好きなゆっくりれいむには敵わない。
仕方ないわね、と女はほほ笑んで、ドアを開けてやる。
「夕方までには戻ってくるのよ?」
「ゆっくりりかいしたよ! おねえさん、いってくるね!!!」
「はいはい、いってらっしゃい!」
やわらかな午後の日差しの中、二匹はぼいんぼいんともつれ合いながら、丘の向こうへ跳ねていった。


ゆっくりたちの秘密の遊び場。一匹のカタツムリが地面を這っている。
ゆっくりまりさは、そばでそれをじっと眺めて、顔をほころばせていた。
「ゆゆー! すごくゆっくりしてるよ!!!」
ゆっくりは、ゆっくりした生き物が好きで、カタツムリや亀などの生き物を一日中飽きることなく眺めていたりする。
「かたつむりさん、ゆっくりしていってね!!!」
ゆっくりまりさはかたつむりの緩慢な移動にあわせて自分も時々じりじりと移動しながら、そのゆっくりっぷりを堪能していた。
そこへ、ゆっくりれいむがやってきた。遊び場に着くなりそわそわし始めて、一人でどこかに行ってしまっていたのだ。
その口元には、輪っかのようなものがくわえられている。
「ゆっ! れいむ、それはなに!?」
「ゆっふっふーん! まりさへのぷれぜんとだよ!!!」
それは、草花で作られたかんむりだった。不器用なゆっくりれいむが何日もかけて、苦労して作り上げたのだ。
ところどころほつれていて、少々見栄えが悪かったけれど、ゆっくりまりさには、世界で一番美しいティアラに見えた。
「まりさ、これからもずーっといっしょに、ゆっくりしようね!!!」
そう言ってゆっくりれいむは、ゆっくりまりさのとんがった帽子に草花のかんむりをかけた。
「ゆっくりー!!! まりさとれいむは、これからもずーっと、ずぅーっと、ともだちだよ!!!」
ゆっくりまりさとゆっくりれいむは頬と頬を擦り合わせ、ゆっゆっゆっ~♪と歌を歌い、永遠の友情を誓いあった。


「あら、どうしたの、そのかんむり」
「れいむにもらったよ! まりさとれいむのゆうじょうのあかしなんだよ!」
ゆっくりまりさは、れいむにもらったかんむりのこと、二人が誓った永遠の友情のこと、かんむりを使ってお姫様ごっこを
したことなどを、何度も何度も話した。女はそれを、何度でも聞いてあげた。
ゆっくりが本当に嬉しそうに話すので、聞いていた女も、なんだか幸せな気分になった。
夜も更けて、女はそろそろゆっくりまりさを寝かしつけることにした。
「さあ、そろそろおねむの時間よ」
ゆっくりを抱き上げる。風呂上りのゆっくりは、皮膚がホカホカとあたたかく湿っていて、抱き心地がたまらない。
抱き上げて寝床まで連れてゆく。ゆっくりの寝床は、リビングのソファ。ふかふかのクッションがゆっくりのお気に入りなのだ。
「寝る前に、今度こそ髪をとかしましょうね」
「ゆっゆー!」
女はソファに腰かけると、ゆっくりを膝の上に抱いた。
まりさは、れいむにもらったかんむりをくわえて、放そうとしない。今夜はかんむりと一緒に寝るのだそうだ。
「まりさの宝物ね」
「ゆふふーん! ゆっくりだいじにするよ!」
自慢げにかんむりをくわえ、体をそらして、えっへん、としてみせる。
「おねえさんのたからものは、なあに?」
まりさは無邪気に尋ねた。すると、女はいつもゆっくりの髪をとかすクシを取り出して、見せた。
「これ。おばあちゃんに貰ったの。古いけど、いいものなのよ」
「ゆう? おばあちゃん?」
「私の、お母さんのお母さん。とっても優しかったのよ。おばあちゃんの作ってくれたおはぎ、甘くておいしかったわあ」
「ゆっゆっ! おはぎ! まりさも、おねえさんのおばあちゃんにあわせてね!」
「食いしん坊さんね。でも、それは無理よ」
「ゆゆっ!? どうして?」
「おばあちゃんは、もう死んじゃったの。十年くらい前かな」
「しぬ? しぬって、どういうこと?」
「違う世界へ行ってしまって、もう会えなくなっちゃうの。生き物は誰でも、いつかは死んじゃうのよ」
「ゆゆう!?」
それを聞いたゆっくりは、女の顔をしげしげと見つめ始めた。
黙りこくって、なんだか神妙な表情を浮かべている。
「どうしたの?」
「おねえさん!」
「なあに?」
「おねえさんも、いつかしんじゃうの?」
不安そうに、ゆっくりは聞いた。
「おねえさんも、いつかいなくなっちゃうの?」
女は、こんな表情をするゆっくりを初めて見た。
真剣な様子があまりに似合ってなくて、なんだか可笑しい。とてもかわいらしいかった。
だから女は、ゆっくりをからかってやりたい気分になる。
おどけた調子でこう答えた。
「さあねえ~。まりさが悪い子にしていたら、いなくなっちゃうかも知れないわよ?」
それを聞いたゆっくりは、顔を皺くちゃにして、泣きだした。
「ゆ゛ぅうう゛ううううん! ゆ゛ぁああああ゛ああん!」
「あらあら、どうしたの?」
「い゛な゛くなっぢゃやだあああああ! ゆ゛っゆ゛っゆう゛う゛う!!」
両目から滝のように涙があふれ出る。
女はゆっくりのあまりの泣きっぷりに驚いた。
今までに何度もいたずらしたゆっくりを叱りつけたことがあったが、ここまで激しく泣いたことはなかった。
「お゛ねえ゛さんもま゛りさとずっとゆ゛っくり゛していってよおお!」
そう言って、抱きついてくる。
「ま゛り゛さい゛いこにするからああ! ゆ゛う゛ぅうう! ゆ゛う゛ううううん!」
私は、なんて馬鹿なことを言ってしまったのだろう。
女は自分の言葉を後悔する。
そして、こんなにもゆっくりが自分を慕ってくれていることに、胸がいっぱいになった。
「おね゛え゛さんい゛かないでええええ! ゆっぐう゛ううぅん!」
「ごめんね、ごめんね、まりさはとってもいい子よ」
優しく女は言った。
「どこにもいったりしないわ」
女は泣きじゃくるゆっくりをギュッと強く、抱きしめた。とてもとても、あたたかかった。


しばらくそうして抱いていると、ゆっくりはようやく落ち着いてきた。
「おねえさん、ほんとにどこにもいかない?」
まだ少ししゃくりあげながら、ゆっくりは女に尋ねる。
「どこにもいくもんですか。だって、まりさはやさしくて、とーってもいい子なんだから」
くしゃくしゃと髪をなぜながら、答える。
「ほんと?」
「ほんと」
「これからもまりさと、ずーっとゆっくりしていってね?」
「ええ、ずっとずっと、ずーっと、一緒よ」
女は約束した。
「さ、髪をとかして、もう寝ましょう? 明日もおいしいご飯を作るわ」
「ゆっくりー!」
まだ少し泣き顔のゆっくりの髪を、女がやさしく丁寧にとかす。とかしながら、静かな声で歌を歌ってやる。
寝かしつけるときにいつも歌ってやる子守唄だ。
すると、ゆっくりの表情はみるみる和らいでゆき、さっきまでの不安もすっかり忘れて、ゆっくりする。
やがて、いつものように、「ゆぅ…ゆぅ…」と気持ち良さそうな寝息を立て始めた。
安らかに深いところへと落ちてゆくゆっくりの意識に、女の柔らかな声音が優しく降り積もった。

「おやすみなさい、まりさ」

――おやすみなさい、おねえさん!

ゆっくりは声に出さずに答えた。

――おやすみなさい、おねえさん、れいむ!
  あしたも、
  あさっても、
  そのまたつぎのひも、
  ずーっとずーっと、まりさといっしょに、ゆっくりしていってね!!!




   ◇




あたりに充満する騒音で、ゆっくりまりさは目を覚ました。
「ゆゆっ!? ここはどこ!?」
起きてすぐに、周りの状況がおかしいことに気づく。
そこは、おねえさんに髪をとかしてもらっていたリビングではなかった。
まわりは真っ暗で、何も見えないし、生ゴミのような匂いが立ち込めている。
「おねえさーん!!?」
不安にかられてゆっくりはおねえさんを呼んだ。そして、騒音の中におねえさんの声を探すため、耳を澄ませた。
聞こえてくるのは、ゴウンゴウンと巨大な何かが回転しているような音、
バキバキ、グシャグシャという、何かが砕かれているような音。
しかし、どんなに耳を澄ませても、おねえさんの返事は聞こえてこない。
「おねえさーん!! おねえさぁーん!!!」
大きな声で、何度もおねえさんを呼んだ。
「おねえさーん!! ここはどこ!? いたずらはやめてね! かくれてないで、ゆっくりでてきてね!!!」
やはり返事はない。そのかわりに、回転するような音は段々と大きくなってゆく。

ゴウンゴウンゴウン……

どうやらこの回転している何かは、ゆっくりの方へだんだんと近づいて来ているらしい。
「ゆゆゆ……」
本能的に危機を感じたゆっくりは、とにかくこの場を離れようと体を動かした。
「ゆゆゆうっ!?」
しかし、どちらの方向に動いてもすぐにガサガサしたものが体にからまって、うまく動けない。
どうやらゆっくりの体を、袋のようなものが覆っているようだった。
「ゆうう! うごけないよ!!」
「おねえさーん!!!」
「れいむー!!!」
「まりさはうごけないよ!! はやくたすけてね!!」
返事はない。
「どうじでだれもい゛な゛いのおおおおおお!!!?」

ゴウンゴウンゴウン……パキッ、バキッ、ペキペキ……

巨大な物がすぐ近くまで接近している気配を感じる。
「ゆゆゆ……こっちにこないでね!! あっちへいってね!!」

バキバキバキッ……ゴゴゴゴゴゴゴ………!

ゆっくりはパニックを起こして、わめき散らした。
「こわい゛!ごわい゛い!! だれかここからだしてね!!お゛ねえ゛ざあんっ! れいむ゛ーっ!ま゛りさはここだよ!れい」
その瞬間、ゆっくりまりさは巨大な壁のようなものが頭に当たるのを感じ、
「ゆぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅう!」
そのまま強烈な力で地面に押し付けられた。
とんでもない力だったが、栄養不足で弾力を失いしおしおになったゆっくりの体は、すぐには潰れてしまわず、
じわじわと押し伸ばされていった。
「ゆぎゃぎゃぎゅぎゅっぎゅっぎょぎょぎょお!」
圧力に耐えかねて、体のあちこちの皮膚がプツプツと爆ぜてゆき、そこから餡がプシュッ、プシュッと噴き出す。
痛みと恐怖で錯乱した頭で、ゆっくりは思った。
そうか、自分はまた何か悪いことをしてしまって、おにいさんに怒られているのだ、と。
「ごめんなさい!お゛に゛いさんごめんなさい!ま゛りさをゆるしてね!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
ゆっくりまりさは、謝り続けた。口が潰れてしまったら、頭の中でも、ただひたすら謝り続けた。
ごめんなさい、ごめんなさい。
もう悪いことはしないから、いい子にしますから、踏まないでください。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめ



   ◇



「まりさー? まりさー! どこにいったの?」
女はあわただしく、家の中を歩き回っては、ゆっくりを呼んでいる。
朝起きると、ゆっくりまりさの姿が消えていたのだ。
「一体どこにいったのかしら? 家の鍵は全部閉めておいたはずだけど……」
昨晩ゆっくりが眠りに就いたソファには、まあるい形にへこんだクッションと、
まりさがれいむに貰ったかんむりだけが残っていた。
草花でできたかんむりは、一晩を経て水分を失ってしまい、枯れ始めていた。


おわり






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最終更新:2008年11月17日 23:04
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