ゆっくりいじめ系1541 ゆっくり破壊爆弾(前編)

「ゆっくり破壊爆弾」(前編)






「おにーさん!!まりさにゆっくりあわせてね!!」

扉の向こう。いるであろう男に、一匹のゆっくりれいむは呼びかけた。
反応が返ってこないことが、れいむを少しずつ不安にさせる。

「どうしてむしするのおおおぉぉぉ!?まりさにあわせてよおおおおぉぉぉぉ!!!」

全方向をコンクリートで固められた、無機質な部屋。
外部に通じるのは鉄の扉と、上方の窓のみ。どちらもれいむの身体能力では突破不可能である。

いや、無理をすれば窓からなら脱出できたかもしれない。
……れいむ一匹であれば、窓の高さまでジャンプして脱出することは、決して困難ではないのだ。


れいむが脱出できない理由、それは―――頭上に生えた3本の茎、実っている12匹の赤ん坊である。


「ゆぅ…せめてあかちゃんたちはゆっくりさせてあげたいよぉ!!」

れいむ種6匹、まりさ種6匹。
いずれもプチトマト大に成長しており、あと半日もすれば生まれるだろう。
だから、一刻も早くこんなゆっくり出来ない場所から脱出したい。赤ちゃんをゆっくりさせてあげたいのだ。

「まりさああぁぁぁぁぁ!!!ゆっくりでてきてよおおおおおぉぉぉぉ!!!」

男への呼びかけは、いつの間にかパートナーであるまりさへの呼びかけに変わっていた。
妊娠しているゆっくりは、日常生活の多くをパートナーに依存することになる。
パートナー不在という今の状況は、れいむにとってとてつもなく不安なものだった。

「ゆぐううぅぅぅぅ………まりさといっしょにゆっくりしたいよぉ……」

どうしてこんなことになったのか。どうしてこんな不安を味わわなければならないのか。
自分達はただ、仲良くゆっくりしていただけなのに……



れいむとまりさは、森に暮らす普通のゆっくり夫婦だった。
3日前に実った子供が誕生するのをゆっくりと待っている、普通のゆっくり夫婦だった。

「ゆ~♪とてもゆっくりしたあかちゃんだね!!」
「ゆっくりうまれてきてね!!ゆっくりでいいからね!!」

一緒に歌って赤ちゃんに聞かせてあげたり、天気のいい日に日向ぼっこをしたり。
とても平和で、とてもゆっくりした日々だった。
これからもずっとゆっくりできる。子供が生まれたら、皆で一緒にゆっくりできる。
れいむとまりさは、そう信じて疑わなかった。

その平和が終わったのは、6時間前のことだった。

外部からの侵入者―――人間である。

男は、巣のすぐ外にいたれいむとまりさを、品定めするような視線で見下ろしていた。
妊娠時期のゆっくりは、特に外敵に対して敏感になる。
恐怖心でぶるぶる震えているれいむに背を向けて、まりさは男に飛び掛った。

「ゆぅぅぅぅ……ゆっくりできないよおぉぉぉぉ……」
「ゆっ!!れいむはまりさがまもるよ!!おにーさんはゆっくりむこうにいってね!!」

だが、まりさの体当たりはあっさり避けられ、逆に強烈な蹴りを受けて飛ばされてしまった。
そして、その飛ばされた方向が……とても悪かった。


ボチャン!!


池に落下した音である。

「ゆっぷ!?うっぶ!?だずげでえええぇぇぇ!!!おみずはゆっぐりでぎないよお゛お゛お゛おおお゛お゛!!」

先ほどの勇敢な姿は見る影もなく、情けない声を上げて助けを求めるまりさ。
それに引き寄せられるように、男は池の畔へゆっくりと歩いていく。
れいむは頭上の赤ん坊を気遣いながら、すりすり這って男を追った。

「ゆっ!おにーさん!!まりさをたすけてあげてね!!」

男はれいむの要求を完璧に無視し、時間を気にしているような様子で懐中時計を見た。
じたばた暴れて水を撒き散らすまりさと懐中時計の間で、視線を往復させている。
まるで、まりさが死ぬのをゆっくりと待っているかのように。

「おにぃさぁあぁぁぁぁん!!!はやぐまりざをだづげでよおおおおお!!!まりさがゆっぐりでぎなぐなるうぅぅぅ!!!」
「れっ、れいむぅ……だず…げでぇ……」

表皮がどろどろになり、これ以上放っておけば崩壊してしまうというところまで水に侵されたまりさ。
男は、懐中時計をポケットに突っ込み、やっとまりさを池から引き上げた。
そして、透明な箱にまりさをそっと突っ込んだ。

「動くなよ。動いたら死ぬからな」

まりさは箱の中でおとなしくしていた。暴れることも喋ることもせず、じっと堪えている。
口は爛れた皮で塞がっているので、言葉を発することは出来ない。
全身がデコボコに歪み、ところどころ皮が薄くなって中身が透けて見えている。
ちょっとでも動こうものなら、水分を吸った皮は簡単に破れてしまうだろう。

全身どろどろのまりさは、悲しげな目でれいむを見つめている。
れいむにも理解できた。これは放っておいて治るものではないのだ、と。

「おにーさん!!まりさをゆっくりなおしてあげてね!!」
「そうだな……お前の態度次第では、治してやらんこともない」

男の言っている事が、れいむには分からなかった。
でも、拒絶はされていない。ということは治してくれるに違いない。れいむはそう考えた。

「ゆ!?ゆっくりせつめいしてね!!」
「僕の命令に従うと約束するのなら、まりさは治してやる、ってことだ」

れいむは、まりさを見つめ返した。
物言わぬ口、無言で何かを伝えてくる目。まりさが何を言いたいのか、れいむにはわからなかった。
けれど、ここで何をするべきかは頭の悪いれいむでもわかった。

「ゆっ!!ゆっくりやくそくするよ!!だからまりさをなおしてあげてね!!」

れいむは、自分達がゆっくりできない原因を作った張本人に、まりさの治療を任せることにした。
そして男の言葉に従って別の透明な箱に自ら入り、運ばれてきたのが……今いるコンクリートの部屋である。



ドアを開ける音で、れいむは我に返った。
入ってきたのは、まりさを痛めつけておきながらまりさを治療すると約束した、例の男だった。

「やぁ、ゆっくりしているかな?」
「ゆっ……こ、こんなところじゃゆっくりできないよ!!さっさとまりさにあわせてね!!」

恐る恐るではあるが、男に対して強気の要求をするれいむ。
男はクスクス笑いを堪えながら、れいむの頭を撫でてやった。

「まりさの手術は半分終わったよ。あとは体力が回復するのを待って、もう一回手術するだけだ」
「ゆゆっ!そうなの?だったらもうすぐまりさとゆっくりできるね!!おにーさんありがとう!!」

まりさが治りつつと知るや否や、れいむは頭上の赤ん坊の存在も忘れて跳びはねた。
茎を伝わってくる重みを感じて、すぐに跳びはねるのを止める。

「ゆっ!!まりさにあわせてね!!れいむはまりさとゆっくりするうぱぁっ!?」

調子に乗って、そんなことを口にした時。
男が腕を振ったかと思うと、れいむの頬が赤く染まった。
びりびり響くような痛みを感じて、じんわりと目が潤んでいく。

「ゆっぐ!?なにをするの!?れいむにはあかちゃんがいるんだよ!?」
「目を瞑っていろ。そこを動くな。何も喋るな」

れいむの抗議に、男は3つの命令で返す。
圧倒的な威圧感を受けて、れいむは思わずたじろいだ。

「ゆゆゆ!!ゆっくりやめてね!!いたいことしないでね!!」
「おいおい、忘れたのか。まりさを治してやる代わりに、お前は僕と約束したじゃないか」

つい数時間前のことを、れいむは何とか思い出そうと努めた。
そして、思い出した。自分が目の前の男を交わした約束を。

―――僕の命令に従うと約束するのなら、まりさは治してやる

「約束したよなぁ。僕の命令に従うってさ。まりさを治してるんだから、今更約束は無効っていうのは……ナシだぞ?」
「ゆっ!?でもゆっくりできないのはいやだよ!!ゆっくりできないやくそくなんて―――
「約束を破るのか。それなら、僕も約束を破ることにするよ」

そういうと、男はれいむに背を向けて出て行こうとする。

「れいむが約束を守らないなら、まりさは治してあげられないな。手術前のドロドロの状態に戻して、ゆっくりと死んでもらおう」
「ゆゆううぅぅぅぅ!?ゆっくりやめてね!!まりさにひどいことしないでね!!」

地面を這いずって追いすがるれいむ。
男はしゃがみ込むと、れいむの頭上に実っている赤ん坊の一匹を、ぎゅうっと握った。
赤ちゃんの苦しそうな声を聞いて、れいむの顔がさぁっと青ざめる。

「ゆっっゆうううぅぅ……」
「や、やめてあげてね!!あかちゃんがいたがってるよ!!」
「だったら約束は守れよ。約束っていうのは、守るためにあるんだから」

冷たく微笑む男を、れいむは心底怖いと思った。
何を考えているのかが分からない。どうして笑いながら、こんな酷い事が出来るのか。
わからない。わからないけど……れいむはガクガク震えながら、ゆっくりと頷いた。

「ゆっぐ……ゆっくりりかいしたよ!やくそくはまもるから、まりさをなおしてあげてね!!」
「最初からそう言えばいいんだよ、クズ」

男はもう一度「目を瞑っていろ。動くな。喋るな」と指示を出した後、ハチマキのようなものでれいむに目隠しを施した。
そして、怯えるれいむの体を優しく撫でながら、念を入れて命令する。

「いいか。何があっても動くなよ。僕がいいと言うまで絶対に動くな。そして何も喋るな」
「……!!」

れいむは恐る恐る頷いた。もし動けば、まりさの命はないからだ。
必死に口を結び、叫ぶ代わりに涙を流す。れいむの目を覆う布がじんわりと濡れた。

「そうだ、それでいい。僕の言うことを聞いていれば、まりさに会わせてやる」

男はれいむの頬を優しく撫でると、道具を取りに一旦部屋を出て行く。
戻ってきた男の手が持ってきたのは、“ゆっくり治療セット”だ。

12匹の赤ちゃんゆっくりの中から一匹選び、茎から離れぬよう注意しつつぎゅぎゅっと強く握り締める。
握られた赤ん坊は、言葉にならない悲鳴を上げた。

「ゆがっ!ゆああぁぁぁぁぁあ……」
「ゆゆっ!?あかちゃんがくるしんでびゅあっ!?」

その瞬間、男はれいむの頬を思い切り抓った。じんわりと切れ目が入る、れいむの頬。
激痛によって約束を思い出したれいむは、再び口を強く噤む。

「っ………!!!」
「何度も言わせるなよ。動くな。喋るな」

それ以降、どんなに赤ちゃんが苦しむ声を上げても、れいむは辛抱し続けた。
というよりは、“動くな。喋るな”という言葉を頭の中で反復させるのに夢中で、赤ちゃんの声が聞こえていないのだ。

握り締められている赤ちゃんは、ゆぅゆぅと力のない呼吸をしながら、閉じられた目から涙を流している。
男はゆっくり治療セットから取り出した針で、赤ちゃんの頬にうまく切込みを入れた。
そして、全ての赤ちゃん達に“あるもの”を埋め込み、皮を元通りにする。

1時間後、男は12匹の赤ちゃんゆっくり全員に“手術”を施し終えた。
涙でずぶぬれになった目隠しを取り去ると、れいむは潤んだ目で男を見上げる。

「よし、もう動いても喋ってもいいぞ。赤ちゃんが生まれる頃にまた来るからな」
「ゆゆぅ……ゆっくりつかれたよ…ゆっくりさせてね……」

緊張を強いられていたれいむは身体を脱力させ、その場にへたり込んだ。
頭上の赤ちゃん達の変化には、どうやら気づいていないらしい。



数時間後。
茎を伝わる振動を感じ、れいむは身構えた。

「ゆっ!!あかちゃんがゆっくりうまれるよ!!」

その声に呼ばれるように、男は部屋に入ってきて床に座り込む。
赤ちゃんたちの誕生を待ち望んでいるかのように、嬉しそうな目でれいむの頭上を見ている。
れいむは、男が自分の赤ん坊に見惚れているのだと思った。

「ゆゆっ!!おにーさん!!れいむのあかちゃんにむちゅうだね!!」

そんなことを言っているうちに、一匹目の赤ちゃんが体を震わし始める。
待ち望んだ赤ちゃんともうすぐ会える。れいむの顔は希望に満ちていた。

ぷちっ!

1匹目。赤ちゃんれいむがコンクリートの上に生れ落ちる。
れいむは口を閉じて、赤ん坊の第一声を待った。

「ゆっ…ゆゆ…ゆっくちしちぇいってね!!!」
「ゆううううううぅぅぅ!!!ゆっくりしていってねぇ!!!」

ちゃんと挨拶ができた。それだけでれいむは嬉しくて、涙が止まらなくなった。
そこに理屈はない。心の底から子供の誕生を喜んでいるのだ。

「ゆゆっ!!れいむがおかーさんだよ!!いっしょにゆっくりしようね!!」

続々と生まれてくる12匹の赤ちゃんゆっくり。
そのいずれもが健康で、第一声もとても元気なものだった。
12匹が無事に生れ落ちると、赤ちゃん達は母れいむに向かって一斉に大声を上げた。

「「「「ゆっくちしちぇいってねぇ!!!」」」」
「ゆうううぅぅぅぅ!!!ゆっくりしていってね!!!」

これほど生きてて良かったと思ったことはない。それぐらい、母れいむは子供たちの誕生が嬉しかった。
そして、これから沢山の子供たちとゆっくりできる、そんな未来が楽しみだった。
子供たちは母れいむの周りに集まり、生まれて始めての“すりすり”をする。
ゆっくりにとっての親愛の証。子を愛し、母を愛する、家族の絆の証である。

「おかーしゃんのしゅりしゅり、とってもきもちいいよ!!」
「ゆぅ~しあわしぇだよぉ~!!」
「もっちょしゅりしゅりしてぇ~!!!」
「ゆっくちすりすりしてにぇ!!」

「ゆゆぅ~!!みんなとてもゆっくりしているね!!!」

その様子を都合5分程度、男は時計を眺めつつ観察していた。
時計の長針が文字盤の12を指したところで、男はゴミ袋を取り出してれいむ一家に近づく。
これが最初で最後の“すりすり”になってしまうとは、一家の誰も予想していなかった。

「さて、そろそろ始めるぞ」

すりすりの最中の一家に割って入り、赤ちゃんゆっくりたちを次々とゴミ袋の中に放り込んでいく。

「ゆっ?ゆっくちゆひゃああぁぁあぁ!!?」
「ゆっくりやめちぇね!ゆっくちしちぇよおおおおっぉぉお!!!」

甲高い叫び声と共に袋へ吸い込まれていく赤ちゃん達。
母れいむの笑顔が、一気に崩れた。

「ゆっ!おにーさんなにするの!?あかちゃんたちをだしてあげてね!!」
「黙れ。動くな」
「びゅっ!?」

圧倒的な低音の声で、2つの命令を母れいむに突きつける男。
それだけで母れいむは、びくっと震えて口を噤んでしまう。
男の命令は聞かなければならない。そうしないと、まりさを助けてもらえないからだ。
母れいむが怯えているうちに、男は12匹の赤ちゃんゆっくりを回収し終えてしまう。

「っ……!!!」

れいむは叫ばず、動かず、嗚咽を我慢しながら涙を流している。
それを確認した男は、れいむから離れて作業を開始した。

「全員出してやるからな。でもお兄さんがいいって言うまで、動くんじゃないぞ。
 言いつけを破ったら、今度は二度と袋から出してやらないからな」

男は袋の中から、先ほど捕まえた赤ちゃんゆっくりを一匹ずつ取り出し、等間隔で床の上に置き始めた。
壁に沿って、一辺が4匹ずつになるように正方形の形に、赤ちゃんゆっくりを並べていく。

「ゆっ!!ゆっくちりかいしたよ!!」
「れいみゅはうごきゃないよ!!」「だからゆっくちしゃせてね!!」

生まれたてのわりには物分りのいい赤ちゃん達。男の言いつけを忠実に守って、ゆっくりできる時を待ち続ける。
一方母れいむは、男のとった行動の意味が理解できずにいた。

「さて、皆には一つだけ話しておかなきゃいけないことがある」

赤ちゃんゆっくりを並べ終えた男は、部屋の中央にいる母れいむの傍に立ち、説明を始めた。
それと同時にポケットに手を突っ込み、中のリモコンのボタンを手探りで押す。

「単純明快に説明しよう。12匹の赤ちゃん達には爆弾が埋め込まれている。そして母親に近づくと爆発するようになっている」
「「「………ゆっ?」」」

赤ちゃんゆっくりは、揃って首を傾げる。
発言を許されていない母れいむも、内心同じ気持ちでいるだろう。

「実際にやってみた方がわかりやすいよな。それじゃぁ……お前、お母さんに近づいてすりすりしろ」
「ゆっ?うごいていいの?」

指名されたのは、部屋の出口に一番近い場所にいた赤ちゃんまりさだった。
母親とすりすりできる期待感に笑顔を浮かべるまりさ。
男に背中を押され、それが自由に動いていい合図なのだと判断した赤ちゃんまりさは、一目散に母れいむへと跳ねていった。

「ゆ~っ!!おかーしゃんとしゅりしゅりするよ!!!」
「ゆっ!!おちびちゃん!!ゆっくりすりすりしようね!!」

母れいむも出迎える体勢を整える。
だが、赤ちゃんまりさが母れいむの頬に飛びかかろうとしたその瞬間―――


パンッ!!!


赤ちゃんまりさの姿は消え、饅頭の皮と餡子が母れいむの顔面に降りかかる。
数秒後、爆風で飛び上がった帽子が床の上に舞い落ちた。
母れいむは……目の前で起こった事が、理解できていない。笑顔のまま硬直している。
その傍らで、男は説明を再開した。

「ゆっ?………おちびちゃん、どこにいったの?……かくれてないででてきてね!」
「見ての通りだ。赤ちゃんが母親に近づくと、爆発する。
 爆発するっていうのは、身体がバラバラになってしまうということだ。こんな風にね」

母れいむの顔面に張り付いていた皮をつまみ上げ、母れいむを含む一家全員に見せてやる。
爆発の瞬間。一瞬の激痛に歪んだ、最期の顔。死を表現しているその顔を見て、赤ちゃんゆっくりは“爆発する”ことの意味を知った。
そして母れいむも、赤ちゃんまりさが“どこ”に行ったのか理解した。

「ゆっ!?ゆううううぅぅぅぅ!?れいむのあがぢゃんがああぁぁぁぁぁぁぁ!!??」
「いぎゃああぁあぁぁぁぁぁぁあ!!!ゆっぐぢでぎないいいいいぃぃぃぃ!!!」
「どぼぢでごんなごどじゅるのおおおおぉっぉぉ!?!?」
「れいみゅたちゆっぐじしだいよおおおおおおおぉぉぉぉお!!!」

赤ん坊にとって、“ゆっくりする”とは母親とのふれあいを示す。
しかし、ゆっくりしようとすれば爆発する。つまり、先の赤ちゃんまりさのようになるのだ。

「今ので理解できたよな。お前達は母親に近づかないでゆっくりすればいいんだ。……簡単なことだろう?」
「おにーざんのばがあああぁぁぁ!!ゆっぐじさせでよおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「おがーぢゃんどいっじょにゆっぐじぢだいいいぃぃ!!!」
「おう、自由にゆっくりしていいぞ。この狭い部屋の中で、思う存分ゆっくりしていってね!!!」

一家の叫びが止むのを待たず、男はコンクリートの壁に囲まれた部屋から出て行く。
12匹分の叫びが男に通じることはなく、母れいむたち一家は跳ね回る元気も失い、互いを見つめ合っていた。



数時間後。バケツ一杯分の餌を持って、男が部屋に戻ってきた。
それまで数センチも動くことなくゆっくりしていた一家は、男を見上げながら声を上げる。

「おにーさん!!おちびちゃんたちを“ばくはつ”しないようにしてね!!」
「しょうだよ!!まりぢゃはおかーしゃんとゆっくちしたいよ!!」
「れいみゅばくはちゅしたくないよ!!ゆっくりしゃせてね!!」

そんな懇願を華麗に受け流した男は、部屋の中心にいる母れいむの近くに餌をばら撒いた。

「これが今日のお前らの餌だ。好きなだけ食べていいぞ」

山盛りのクズ野菜。見た目は多いように見えるが、実際は母れいむ一匹が全部食べてやっと満腹になる程度。
合計12匹のれいむ一家を満足させられる量ではなかった。
それでも食べないよりはマシだと思ったのだろう、周囲の11匹の子供たちは餌に集まってくる。

「ゆ~!!ごはんごはん!!」「ゆっくちたべりゅよ!!」
「ゆ!そうだね!!おかーさんがやわらかくしてあげるから、それをたべてね!!」

母れいむは、自分が野菜を噛み砕いて軟らかくしてから、赤ちゃん達に食べさせるつもりらしい。
やっと母親らしい事ができる、と張り切って口の中に野菜を詰め込んでいく。
だが、目の前に美味しい食べ物が用意されたせいか、とても大事なことを一家は忘れていた。
それも、ついさっきまで覚えていたことである。

「むーしゃむーしゃ!おちびちゃん!ゆっくりたべさせてあげるね!!」
「ゆ~♪おかーしゃんだいちゅきー♪」
「れいみゅたちをたくさんゆっくちしゃせてね♪」

口の中で野菜を噛み砕き、赤ん坊でも食べられる軟らかさにしてやる母れいむ。
周りからは、11匹の赤ちゃんが我先にと母れいむの元へ集まってくる。
そして、最初の赤ちゃんが母れいむの正面に飛び込んでいった、その瞬間―――


パンッ!!!


赤ちゃんれいむの姿が、母れいむの正面から消えた。

「ゆ?おねーちゃん?」「ゆっくち…?」

残ったのは、焦げた皮と餡子。ぱさっと赤いリボンが床に落ちる。
身動きを忘れた母れいむの口からは、どろりと唾液にまみれた野菜が漏れ出した。
我に返った母れいむは、硬直している残りの10匹の赤ちゃんに向かって叫んだ。

「にげてえええぇぇぇぇぇ!!!ゆっぐじしないでにげでえ゛え゛え゛え゛ぇぇぇぇ!!!」
「いやああぁぁぁぁぁぁ!!!ばくはちゅしたくないいいいぃぃぃ!!!」
「ゆっぐぢでぎるとおもっだの゛に゛い゛い゛い゛い゛い゛ぃぃぃ!!!」」

それまで母れいむのもとに集まろうとしていた赤ん坊は、我先にと部屋の隅っこへ逃げていく。
同時に思い出した。自分達のおかれた状況を。自分の身体に埋め込まれた“爆弾”の存在を。
赤ちゃんゆっくりたちの笑顔は一転、死の恐怖に歪められた。



「おなかしゅいたよぉ…」「ゆっくちできないよぉ…」

遠く離れたところから、母れいむの傍らにあるクズ野菜の山を見つめる赤ちゃん達。
とても美味しそうなご飯。お母さんに食べさせてもらうのを、楽しみにしていたのに……

「おにーさん!!あかちゃんたちがおなかをすかせてるよ!!ゆっくりごはんをたべさせてあげてね!!」

母れいむは、声を張り上げて男に懇願する。
お腹をすかせて泣いている子供たちが、かわいそうで仕方なかったのだ。
本当なら自分が口移しで食べさせてあげたい。けど、そんなことをしたらゆっくり出来なくなってしまう。
自分の気持ちが通じるよう、母れいむは祈りを込めるように男にお願いした。

「ダメだ。お前が方法を考えて、赤ちゃん達にご飯を食べさせろ。……これは“命令”だぞ」
「ゆ゛っ!そ、そんな……」

「お腹いっぱい食べてね」と赤ちゃん達に笑顔で言い残し、男はクククと笑いながら部屋を去っていった。
残されたのは、空腹の苦しみですすり泣いている赤ちゃん達と、山盛りのクズ野菜。
母れいむは、赤ちゃん達にご飯を食べさせる方法を、ない頭を使って必死に考える。
そして、1時間かけてやっと思いついた方法が、これだった。

「むーしゃむーしゃ!ぺぺっ!!」

噛み砕いた野菜を、母れいむは部屋中央の床の上に吐き出していく。
そして部屋の中央から離れると、10匹の赤ちゃんに呼びかけた。

「おちびちゃんたち!!そこにあるごはんをゆっくりたべてね!!」

こうすれば、赤ちゃん達が爆発してしまう心配はない。母れいむはホッとため息をついた。
しかし、赤ちゃん達の方は不満顔だ。

「むーしゃむーしゃ……それなりー」「ゆぅ…おかーしゃんにたべさせてもらいたいよ…」

通常、生後2週間までの赤ちゃんゆっくりは、母親から口移しによって食べ物を食べさせてもらう。
そういったスキンシップは、赤ちゃん達に大きな安心感を与えるのだが、今の赤ちゃん達にはそれがない。
本能的な不安を感じながらとる食事は、美味しくもなんともないだろう。

「ゆぅ~……ゆっくりがまんしてね!!」

母れいむの虚しい呼びかけが、部屋の中に響いた。
言われるまでもなく、赤ちゃん達は空腹を満たすために我慢して食べる。
そして母れいむが用意した食事の半分以上を残して、部屋の隅っこへ戻っていく。

「ゆぅっ……まりさぁ…いっしょにゆっくりしたいよぉ……」

姿を見せぬパートナーに思いを馳せながら、母れいむは赤ちゃん達と反対のほうへ這っていった。



「バカ野郎っ!!」
「ゆっぼがあっ!!??」

部屋に入るなり、男は母れいむを思い切り蹴飛ばした。
壁にぶつかり、跳ね返って男の足元に戻ってきた母れいむを、男は靴底で受け止める。

「僕の命令を忘れたか? 『赤ちゃん達にご飯を食べさせろ』と言ったのに……この野菜の山は何だ!?」
「ゆっ!?だ、だってあかちゃんたちが……!」

男が指差したのは、赤ちゃん達の食べ残し。
母れいむの唾液にまみれて異臭を放っている、ゴミクズの山だった。

「言い訳なんか聞いてない。このゴミクズを、今すぐ、子供たちに、食べさせろ……まりさを助けたかったらな」
「ゆひゅっ!!」

強く踏みつけられた母れいむは、忘れかけていたことを思い出した。
男の命令を聞かなければ、パートナーであるまりさに会えないどころか、その命すら助けてもらえないのだ。

「ゆっ!!おちびちゃんたち!!ごはんをのこさずたべてね!!」

母れいむはゴミクズの山を視線で示しながら精一杯呼びかけるが、子供たちはそれに応じようとしない。
口移しでない、愛情のないご飯など、唾液塗れの汚い野菜クズでしかないのだ。

「いやだよ!!おかーしゃんにむーちゃむーちゃしてほしいよ!!」
「そうだよ!!むーちゃむーちゃしてもらわないとおいちくないよ!!」
「わがままいわないでねええぇえぇぇえぇぇぇ!!!まりさのためなんだよおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」

理解を示さない子供たちに対し、母れいむは苛立ちを募らせていく。
口移しするために近づいたら、爆発してゆっくりできなくなるのに……そんなこともわからないのか!
まりさのことで頭がいっぱいの母れいむは、子供たちに対して初めて憎しみを抱いた。

……殺したいぐらいの、憎しみを。

「むーしゃむーしゃさせてね!!!」「むーしゃむーしゃしてくれないと、ゆっくちさせてあげないよ!!!」
「おなかしゅいたよおおおおおぉぉぉぉ!!!」「ゆっくちしたいよおおおおぉぉっぉ!!!」
「むーしゃむーしゃしてくれないおかーしゃんは、ゆっくちどっかいってね!!!」

その瞬間、母れいむはキレた。


作:避妊ありすの人








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最終更新:2008年11月17日 20:27
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