パルスィ×ゆっくり系1 秘目

 百合とか緑とか苦手なら読まない方がいいです。
 髪の毛は金ですけれどね。









 地底に人間が来たあの日から、地上との交流が一部の人間と妖怪の間で始まった。
 私にとって見慣れた地底も、地上の妖怪にとっては珍しい光景であるらしく観光気分で訪れる者が増えた。
 本来交流を断絶していたのにも関わらず、このような運びになったのは、地霊殿の主である古明地 さとり様の計らいでもあり、地下の妖怪は誰も反対は出来なかった。
 理由は、あの方の妹君であるこいし様にあるらしく、地上との交流が彼女の閉じた心に何らかの布石になればとお考えになったのであろうと私の友人達が飲みの席で分析していた。
 さとり様でもこいし様の心を読む事が出来ないとの事。一番知りたい相手の心が解らないのは誰も一緒なんだ、あの方の凶悪な能力ですらこの理は崩せなかった。だからこそ、あの方はこいし様を気になさっているのかもしれないが。
 …其処まで想う、想われる相手がいるなんて



 妬 ま し い わ 。



 水橋パルシィは守護の神。地下から地上へ、地上から地下へ無事にたどり着けるように見守ってくれる橋姫(はしひめ)。
 楽しそうにしている存在を見かけると邪魔をしたくなるという悪癖を持つ狂気の橋姫。


 地上との交流が始まってからは観光客相手に無闇に力を使う事も禁じられ、目の前を通る者たちの安全を祈願してあげる毎日が続いていた。
 どういうわけか、地上からやって来る者は二人や三人の少人数で来る事が多く、決まって甘ったるいオーラを発散している。私の司る分野が酷く揺さぶられて仕方が無い。
 今日も、あの時に来た黒白が人形と本を連れてココを渡って行った。

「…で、前に来たときに入りそびれたし、どうせなら二人もさそって行こうと思って。」
「…せ、折角だから付き合ってあげるわ。…パチュリーの肌のお手入れの仕方も気になるし。ほんと綺麗な肌よね。妬けちゃうわ。」
「貴女が言う事?…特に凝った事はしてないけど。…強いて言うならば、本を読む事かしら。」

 此方には見向きもせずに通り過ぎていった。直視出来ない位の恥ずかしいオーラに緑色がいっそう激しくなる。

 またも誰か来た。今日は嫉妬する暇も無い。
 小さいながらも何処か感じた事のあるタイプの妖気。これと似てる妖気はよく知っている。
「ん、あぁ、橋姫か。ちゃんと見守ってくれてるのねぇ。」
 瓢箪に二本の角。鬼。体は小さいが、纏うオーラは大鬼そのもの。…アイツと同じ。目的もきっと
 無視するのもどうかと思うので軽くお辞儀だけした。

「勇儀は旧都かい?」

 …やはりその名前が出たか。
 鬼に嘘を付けない。どういうわけか染み付いてしまっている私の癖。
 言葉は出せない。頷くだけ。

「そっか。んじゃね。」

 私のそっけない態度が気に入らなかったのか、それとも単純にそういう性格なのか、鬼はさっさと旧都へと向かってしまった。
 どういうわけか、進ませたくなかった。何でかわからないが行かせたくなかった。如何してなのか、解らない。

 …本当に私のお仕事って体に悪いわ。特にあの子鬼が旧都に向かうのを見送った辺りからはどうしてか解らないが、胸が痛む。
 新手の病気?ヤマメを怒らせた時に感染した熱病にも勝るとも劣らない苦しみ。
 妖怪、人間、妖精。私の前を過ぎていく。皆、一様に笑顔で笑っていて…。
(…妬ましいわ。)
 いつものセリフが頭の中をよぎる。よぎるも口から出るのは
「…はぁ。」
 溜息。思えば、地上との交流が始まってからはほぼ毎日嫉妬している。

 右手を口元に当て思案をめぐらせていたら、逆の手の裾が何か引っ張られるような感じがして現実に戻り振り向いた。
「……。(ペコリ)」
 桶から顔を出し頭を下げる緑髪の女の子に
「や。何ボケッとしてるのよ?声かけてるのに。」
 特徴的な服の土蜘蛛。
 どうやら彼女等の挨拶を無視してしまった形になってしまったようだった。
「あ、ごめんなさい。…考え事してたわ。」
 こんな嫉妬深い私にも親交を持ってくれてる、言い方は失礼かもしれないが、数少ない『奇特』な友人。
 桶に入っているのがキスメ。恐るべき井戸の妖怪…とは言っても、実際は、狭い所が大好きで内気で優しい子。
 土蜘蛛の子はヤマメ。病を操る能力を持っているが、とても明るくて一緒に居ると楽しくなる子。
「…ふーん。相談なら乗るよ?」
「…。(コクコク)」
 キスメも頷きながら私の方を見る。
「…いえ、大丈夫よ。」
 何が大丈夫なの?自分でも解らない。ともかく、今の胸のモヤモヤを言葉で表現出来なかった。
 何でこんなに気持ちが落ち込んでいるのだろう?解らない。…解らない。
「…まあいいけどさ。」
 困ったような、それでも笑顔を浮かべながらヤマメが私の内心を少しばかり察してくれたようだった。
 今の自分の表情、なんとなく解る。鏡がなくても。
 此方を見るキスメの表情が物凄く心配そうなのを見れば誰にでも解るか。
「ちと、地上に出掛けてくるよ。…今晩遊びに行くからさ、お土産楽しみにしててよ。」
 明らかに気を使わせてしまっている。なんだか悪い気がしてきたが、同時に嬉しくも思えた。
「ええ、いってらっしゃい。気をつけて」
「…あー、やっぱり言う。」
 見送りの挨拶の途中にヤマメが続けた。
「…私さ、ずっとパルスィといたからさ、解るんだ。」
 なんだろう??
「…さっき、地上の鬼が旧都に行くの見たよ。」
 ヤマメの咄嗟の一言が心臓を打った。体全体が無意識にビクリと震えた。何故其の話題が来る?
「星熊様の所、早く行きなよ。…私等見送ったら直ぐにさ。」
 言葉を返すことが出来ない。何で?ヤマメは何を言っているの?なんであの鬼の名前が出るの?
 それに、私はここで地上と地下を行き来するものを見守る仕事が
「見守る仕事?そんなの理由にならない。他の奴の事なんかどうでもいいじゃないか。」
 言葉に出す前に潰された。…言い返せない。
「キツイかも知れないけれどさ、その病気の治し方ってそれしかない。」
 病気?え?
「…!(グッ)」
 隣に居たキスメは両腕を体の前で曲げ、顔の前に両手を握り力を込めて、グッっと下げた。『頑張ってください!』そういわれた気がした。
「え?…ええ解った?わ。」
 頑張れって言われても未だよく解らないが、この二人の息の合い方に圧倒されてしまって、気の抜けた返事しか返せない。というよりも返してしまった自分。
「よし、よく言った、パルスィ!!…んじゃ、今晩報告よろしく!行こ、キスメ!」
 なんか褒められた。
 嵐のように去っていく二人を見送り、本日二回目の溜息が出た。
 友人達に押されながらも交わした約束。背中を押されまくってやっと動ける自分。
 …何が「解らない」だ。ヤマメにもキスメあっさり看破されるって事は自分が解ってないわけない。気付いているよ。
 とにかく、二人に貰った勇気を今日こそ勇儀にぶつけよう。とりあえず、今日の橋姫はおしまいにしなければ。


『地上と地下を安全に行き来!の、パルSYSTEMは本日終了しました。これから行き来する方は自己責任でお願いします。』
 看板を立てておいた。抜かりはない。


 地上へ向かう二人。道中、ヤマメの服の裾が引っ張るキスメ。
「なんだいキスメ?」
 桶から半分顔を出し、心配そうな目をヤマメに向ける。
「大丈夫だって。星熊様もパルスィの事気にしてるからさ。」
「…!」
「驚くほどでもないって。あの方、事有る毎に、“橋で飲むぞー”っておっしゃるし、パルスィばっかりみてるじゃん。」 
「…!?(コクコク)」
 言われてみればと何度も頷くキスメ。
「きっと上手くいくって。」
 二人は地上へと上っていった。



「ってわけさ、勇儀!」
 相も変わらず酔っ払った彼女の古い仲間。ちょっとばかり行きたい所もあったが、懐かしい顔だし無下にする事もない。
 さらに、萃香が持つ瓢箪は無限に酒の湧く素敵アイテム。お互い酒が大好きな性分だから楽しくないわけが無い。
「地上も大分たのしそうだねぇ。」
 主に天人をボッコボコにした話をしてくれたが、そういう話を聞くとどうにも疼く、もてあまし気味の力。
 最近、面白い人間が来てほんの少しばかり遊べたがかえってそれが拙かったのかもしれない。
「旧都でずっと生活してて腕にぶったんじゃないか?」
 そんな事は有り得ないと解ってて挑発する萃香。いつもなら軽く流すところだったが
「んー?怪力乱神を見縊るか?なんなら試そうかい?」
 笑いながらも乗ってみる。
「わたしらがここで暴れたら色々まずいでしょ。」
 顔色変えずに杯に酒を注ぎ足す萃香をみて、杯に酒を受けながらもちょっとだけ残念に思う。
(あんた相手だったら満足できるほど暴れれるだろうねぇ。)
 その後も問題なく続く会話。彼女の友達のうさんくさい大妖怪やら、幽霊のお嬢様、サボリ気味の死神など地上で起きた天人の騒動の続き。 弾幕も悪くないが、最近の事でしかも、腕っ節で物事を語った一件だけに彼女の中ではとても楽しい事だったのであろう。
「勇儀も居たらもっと楽しかったのにな~。」
 萃香が話の締めに付け加えた。確かに、私と言わずいっそ皆で弾幕格闘大会でも開催してくれればねえ。
「…しかし、紫も幽々子もあの死神もさ」
 言葉が止まる。いきなり胸元に伸びてくる両腕。
「ちょ、萃香!」
「大きいんだよね。勇儀も相変わらずでっかいし。」
 掴まれる量房。咄嗟の事で反応が遅れてそのまま押し倒される。手から落ちる杯。こぼれる酒。
「こらっ、酔いすぎだ萃香!」
 小さくても自分と同等の鬼。並みの妖怪であれば直ぐにでも引き剥がせるものだがコレは手こずりそうだ。
「やぁらかいなー。」
 まあいいか、減るもんでもないし。酒の席、無礼講。水をさすのは無粋か。


 無粋でも止めるべきだった。

 背後で音がした。
 …嫌な予感しかしない。倒れた状態なのでそのまま目線を上にやると
「…!…ごめん、星熊!!」
 見慣れた顔がさかさまに映る。
 呼び止めるにも、目線が合う前に踵を返し走り去るパルスィ。

 完璧に誤解された。

 誰も悪くない。誰も悪くは無い。自分の上でいつの間にか寝息をたててる鬼も、この場に訪れたパルスィも、多分であるが自分自身も。
 しかし、何たるタイミング。悪くない筈なのに、自己嫌悪を感じる。
「…まずった。」
 寝てる同輩をひっぺはがしあぐらをかいて頭をかき溜息をついた。
「こりゃ、流石の私でも酔いも醒めるねぇ…。」
 謝るか?謝りに行くって行っても何をどう謝る?
「すまん!あんな所で飲んでて!」
 いや、おかしい。いつもここで飲んでるし。
「あー、ったく!こういうのってどうすればいい!」
 言い表せない感覚に苛立ちながら、誰にでもない悪態が頭をよぎる。…幸せそうに眠っていられる同輩が若干恨めしい。
 ほおって置く訳にはいかない。去り際のパルスィの表情が酷く悲しそうだったのが見えてしまっていたから。



 あの場から逃げ出した。息を切らせるのなんて久しぶりだった。
 逃げて走って逃げ出して、いつもの自分の場所に戻っていた。
 立てかけた看板はそのまま。仕事などとてもする気にもなれないから。
 橋から川を眺め、落ち着こうとするも波は荒れるばかりで。

「…何よ。あんな事してて…。
 …病気、余計酷くなっちゃったじゃない…。
 …星熊…のばか…。」

 真緑の目。光が失われたかのように虚ろ。一筋の雫が頬を伝わり、みなもに波紋を作る。
 魔緑の目。次に写った存在を嫉妬の海に沈めかねない黒い意志。
(…星熊。こんなに嫉妬させるなんて…。…妬ましく思わせるなんて。嫉ましい、妬ましい…。)

 その沈鬱な表情は特定の嗜好の存在には堪らないほどに美しかった。


 砂の擦れる音。何者かがこの場所に近づいてきている。
 恥ずかしい事に期待で胸が高鳴った。追いかけて来てくれた…?
 …でも、絶対に振り向くもんか。

 でも、期待は直ぐに裏切られるのが世の常。
「「「ゆっくりしていってね!!」」」
 期待していたのは一角。…なのに、なにコレ。ちっとも角ばってないわ。


「おねーさん、ここどこ?」「このあなはおおきすぎてゆっくりできないわ!」「むきゅん!はやくはらっぱにかえして!!」
 地上に住む下賎な妖怪の類であろう。見た目は丸っぽくて何処となく小憎たらしい顔。あの時現れた人間に似ていなくも無い。
(強い者に似せて身を守るための擬態か?浅知恵も此処に極まり、ね。)
 仮に擬態であるならば逆効果であろう。真似された本人達がまず黙ってはおるまい。…幸い、私に似たのは居ないみたいだが。
「きーてるの?だまってないでこたえてね!!」「はらっぱよ!わからないの?」「はやくしてね!!」
 …煩わしい。
「でも、このはしならゆっくりできそうだよ!」「ゆ!さすがまりさね!!とかいはらしくべっそうにしましょ!!」「むっきゅん!そういうわけだからおねーさんはかえっていいわ!!」
 観光客という訳ではなさそうだ。橋にこんな物を置いておきたくも無い。ならば、行き場の無い妬みを浴びせる格好の獲物。
 悪いとも思わない。橋の上から先は自己責任でお願いしているから。
「…ところでお前達は、つがいとか恋人なのかしら?」
 咄嗟の問いの恋人の部分に反応し、真っ赤になる黒大福とかちゅーしゃとむらさき。
「ゆ!?なんでわかったの?」「そうよ!つきあいはじめてまだいっしゅうかんだけど」「むれでいちばんのらぶらぶかっぷるよ!」
 そう。
「…へぇ。でもおかしいわ。普通は一対一のペアになるものじゃないの?」
 さも、疑問そうに大福その他に投げかける。別にそうと限ったことではないけれど。
「それは、まりさがありすもぱちゅりーもおなじくらいあいしてるからだぜ!」「「…!?ゆゆぅん!!」」
 真っ赤になりながら告白する大福、それを受け顔をよじらせる二個。
 …妬ましい。饅頭すら想いを成就出来て、私は…。…私は。
「…へぇ。同じくらいってどの位なのかしら?私が見ただけでも其処の二匹、全然違うように見えるけど。」
 実際は色以外は同じにしか見えないが。
「そ、それはおなじくらいだよ!!」
「物には好みがあるでしょう?
 順位があるでしょう?
 同じ位?一番があるでしょう?
 じゃあその二人は中身も見た目も性格も仕草もまったく同じなのかしら?
 あなたは本当に等しい愛情を持っているのかしら?
 例えあなたがそうしていたとしても、そこの二匹が本当に同じ量の愛情を貰っていると感じているのかしら?
 本当に同じなのかしら?そこの二匹はあなたにとって本当に同じなのかしら?」
 二匹の方を見る。
「…ねえ。あなた達は全く同じなのかしら?」
 真緑に染まりきった瞳で。
 二匹は黙るも、思い当たる点は多々あったらしく
「…むきゅ、いわれてみればまりさはぱちぇよりもありすとよくでかけるわ!!」
「そういえば、ぱちぇは、かりにつれていかずにおうちでやさしくしてるわ!!」

 緑は伝染する。感情を持っていれば。
「ほら、違うって言ってるじゃない。同じなんて失礼よ。どっちの方が一番なのかハッキリしなきゃ。」
 困った様子の大福を見下しながら饅頭にも聞こえる大きさで言った。
 緑色の目をした二匹がゆまりさにゆんゆんと近づく。
「「どっちのほうがずぎなの!?」」

 愛は綺麗。最も純粋な感情。…綺麗で、誰もが渇望する。

「えらべないよぉぉぉ!!!」
「「どっじなのがはっぎりじろぉぉ!!」」

 愛は脅威。最も歪に変化する感情。…その癖、誰もが渇望する。

「ゆひぃぃ!!こわい!!れいむぅぅ!!たすげでぇぇぇ!!!」
「「どぼじでそいづのなまえがでるのぉぉぉぉ!!!!!」」

 愛は化物。私が嫉妬をという“感情”を司っていても理解できない。弱者を強者に変える糧になったり、善人が狂人になったり…。

「まりざはありずのものよ!!」「むぎゅ!!ぱちぇのよ!!」
「ゆぎぃ!!ひっぱらないでぇぇぇ!!ひっぱらないでよぉぉぉ!!!」
 物思いに耽っていたら、大福の両脇を噛み付いて引っ張り合う饅頭が居た。
 ほんの数分前までは愛を語っていても、この様。
「だずげで、おねえざん!!ちぎれじゃうよぉぉ!!!!」
「だって。放して上げたら?」
 苦しむまりさを見てハッとする二匹。だけれど二匹は
「まりさがいたがってるわ!!はやくはなしてね!!」「やめてあげてね!!ありすこそはやくはなして!!」
 緑のまま。
 お互いを牽制しあい、より強く引く始末。嫉妬が焚き付けるは独占欲。
 だらしなく伸びる大福の皮が僅かに裂け目。
「ゆぎゃぁぁぁぃぃぃ!!!しっがりひっばられだげっかがこれだよぉぉ!!!」
 みちみちと音を立て裂ける大福の皮。ボトリと落ちる中身。
「あががぁ!まりざのながみがぁぁぁ!!」
 底辺部から、あごにあたる部分が裂け、白目をむき出しにした表情の黒大福。激痛に身を焼かれているその姿。
「まりざぁぁ!なんでごどなのぉぉ!!」「むきゅ!むきゅ!むきゅん!!」
 嫉妬と愛憎のツープラトンは的確に致命傷を与えていた。
「あぁ…。どちらかが放していれば助かったろうに。」
 煽る。もはや口元の歪みなど隠す必要も無い。必死な饅頭は互いに罪の擦り付け合いを始めていた。
「ありずのまりざをごろじだのはぱちゅりーだよ!」「むきゅん!!ありすはひきょうよ!!」
 真ん中のまりさの脇を通り、詰め寄るぱちゅりーにカウンターの体当たりを仕掛けるありす。あまり身体能力の無いぱちゅりーには回避できるはずもなく正面から受ける形。
「みゅぎゅー!!」
 顔を歪ませながら吹っ飛び、後方に居たまりさにぶつかる。
「ゆぎゃっぁぁあ!!!」
 ぱちゅりーのダイブに更に中身が加速し、橋を汚す。
「れいむ、もっとゆっぐりじだか…。」
 大福は絶命した。最後に呼ぶは、この場に居ない誰か。
 ダイブしたぱちゅりーはまりさの返り餡を浴び、ショックで目を見開き硬直していた。
「よぐもまでぃさをころじだなぁぁぁ!!!」
 絶対的な原因であるのが自身である事など考えもせず、全てをぱちゅりーに押し付けるありす。
 他人目から見ても、この場合止めをさしたのはありすだと思うが、私は成り行きを見守るだけ。
「しね!まりざをころじだぱちゅりーはじね!!!」
 こうなるともはやただの片殺し。見開いたまま動かないぱちゅりーにかみつき、裂傷が付いたら体当たり。数分でぱちゅりーは物言わぬクリームの固まりになっていた。
「はぁ、はぁ、までぃさ!どぼじでなのぉぉ!こんなすがたじゃゆっぐりできないよぉ!」 
 動かぬゆまりさに語りかけるゆありす。
「…地上はあっちよ。」
 思ったよりも楽しめたので余りは帰してやることにした。だって
「ゆぅぅ…。もう、まりさがいないちじょうなんて…もうどうでもいいわ。ここでゆっくりするわ…」
「…いいの?…れいむを排除しなきゃあなたはまりさの一番になれないのよ?」
 まだ楽しめそうだもの。
「ゆ”っ!?」
「まりさが死に際に言ったのはれいむって奴でしょう?じゃあれいむってやつもそこのむらさきのようにしなきゃ。
 本当にまりさを愛しているなら、一番になりたいなら…解る?」
 再び魔緑の目を向ける。
「ゆぅぅ…わかったわ!ありすがまりさのいちばんになるのよ!」
 二個の残骸を残し、ゆありすは地上へ帰っていった。

(…ともされた緑、願わくば地上の光に消されぬように)

 余興を演じさせても晴れない胸の中のモヤモヤ。
 どうにかしたくても離れない。星熊の顔。
(…ヤマメ、この病気は、…きつ過ぎる。)
 思い出したらまた緑が潤んだ。

 どうして記憶の中の貴女はいつも笑っているの?
 貴女は私をどう想っているの?
 どうして私の中にこんなに強く居続けるの?
 初めて会った時からずっと。ずっと。
 こんなに想っているのに、どう想われているか解らない。
 どうして貴女はいつも笑って接してくれるの?笑顔が、その暖かさが、私から放れない。

「嫉ましい、妬ましい…。」
 呪言のように呟く狂気。橋姫の目、緑。


 見つけた。やはり橋か。
「おい!パルスィ!!」
 同輩を起して自分に残った酒気を散らさせた。
 酒の勢いなんて要らない。自分の意志を今日こそ伝える。
 邪魔な誤解はさっさと排除して、長かったこの胸の内を吐き出す。


 どうして記憶の中のお前はいつも私にその綺麗な目を向ける?
 パルスィ、お前が私をどう想っているか解らない。
 何故、私の中で綺麗に輝き続ける?
 この地に降り立ったあの日からずっと。ずっと。
 こんなにも気になるのに、お前の心が解らない。
 その綺麗な目は私をどう想っている?その瞳が、輝きが、私から離れない。

 橋の上で水面を眺めるその姿、振り向く瞳は緑の弧を描く。
「星熊?…貴女の笑顔が妬ましい。…私の中で大きくなっていく。」
 シロい灰が、桜の花が舞い吹雪く。敵意は無い。殺意は明確だが。
「なぜ攻撃する!?さっきのことは」
「さっき?そんな事どうでもいい。…星熊の笑顔が私の中でざらつく。」
 繰り出される弾幕をかわしながらもなお会話を試みる。
「なら笑うのを止める。だから攻撃をやめろ!」
 数年ぶりの真顔。デリケートなお姫様の機嫌を損ねると大変なのは過去からの経験で解ってはいたが、今回ほどの事は一度もなかった。
「ダメ、星熊、違う。笑うの…私の中の貴女が。暖かいの。でも胸が痛い。ネェ?どうしたらイイノ?」
 緑に溜まる涙。純粋な嫉妬が表現するは、彼女の想い。

 …そうか、お前もだったのか。
 …此処まで溜め込ませてしまった自分が腹立たしい。

 張り続ける弾幕は晴れなかったが、彼女の想いを感じれてクリアになっていく己の思考。
 積年のモヤモヤが晴れていく。なら、話は簡単だ。
「いいねぇ!乱暴は大好きさね!パルスィ、殺す気で来な!!」
 いつもの笑顔で真正面からぶつかってやる。
「…あぁ、その顔、その笑顔よ。…嬉しい。…ずっと切り取って持っていたい…。…勇儀、勇儀、私だけの物にしたい…。」
 もはや止めるものが無い裸の心。溢れ出る思いは嫉妬と恋慕。
(お前に殺されるなら笑って死んでやるさ。)言葉には出さずに飲み込んだ。最も死ぬ気なんてこれっぽちもないが。
 初対面のあの時からずっとずっと溜まっていたパルスィの嫉妬を今日で全部ご破算させる。疼いていた体もそれで収まるってもんさね。


 ―
 数刻の時が経ち、パルスィに疲弊の色が見え初めた。
(…今!)
 折れそうなほどに細い彼女の両腕を掴み、背中に回りこむ。
「…大分すっきりしただろ?」
 耳元でささやいた。
 黙ったまま頷くパルスィ。


 Spell Broken
 →積嫉「豪気なる慕人への片想」


「いやぁ、パルスィ、お前強いじゃないか!!」
 戦闘終了の開口一番にこのセリフ。嬉しそうにあははと笑う鬼と赤面する橋姫。
「…戦闘馬鹿。…私の力は想いの力。こんなになったのは誰のせいよ。」
 もはや隠す必要が無い想い。
「楽しかった。…なんて言うかさ、その。」
 勢いに任せて言うはずだったのに、言えない。酒気を散らさない方がよかったかもしれない。
「星熊。…言って。」
 クリアに澄んだ緑の瞳。
 重なり合う二つの影。


 反対側の橋の上。
「…でだ、何で私等が橋の掃除してんのかな?」
 地蜘蛛がぼやく。
「…♪(にこにこ)」
 邪魔しちゃ悪いでしょ?笑顔が語っていた。
「ですよねー。でも、このお土産じゃ全然たりない位のモン見れたわ。」
 ニヤニヤと笑いながら橋を掃除する。
 さ、どうやってパルスィをからかおうか。あえて見なかったことにして一から百まで全部喋らせるのもいいかもしれない。
 多分、キスメもノリノリでついてきてくれるはず。
「でも、ホント嫉妬しちゃうくらいイイ笑顔だね、パルスィ。」
 笑顔のヤマメの言葉に嬉しそうに頷くキスメ。

 忘れた頃に落ちてきた桜の花びらが朱に染まり、みなもへ落ちて流された。





「ばげものおぉぉぉ!!!」
 まりさとぱちゅりーも帰ってこない。きっとコイツに殺されたに違いない。
「まりさのいちばんはありすのものなんだよ!!」
 既に3匹ものゆれいむを殺してなお緑色の目をした化け物は同属を殺し続けた。
「みんな!このありすはゆっくりできないよ!!」
 逃げ惑うゆれいむが叫んだ。
 おぞましく光る緑の目が恐怖を煽る。
「れいむぅぅ!!しね!ゆっくりしね!!」
「い゛や゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛!」
 ぶちゅりと噛み切り、ぱちゅりーの時のように体当たり。苦しみもだえるゆれいむを見守りながら、その皮を餡で濡らす。
「いちばん、ありすはいちばんになったわ!!まりさの」
 黒い帽子のゆっくりが木の枝を突き立て突進してきた。ゆありすは激痛に身を委ねながら満足そうな顔で動かなくなった。
 あたりに散らばる5つのゆっくりの死骸。この惨劇は何故起きたのか?
 止めを刺したゆっくりには最後まで解らなかった。

                                         おしまい

 ―おまけ―
「なぁ、星熊じゃなくてさ、下でよんでおくれよ。」
「…嫌よ。」
「私だけの物にしたいんじゃなかったっけ?」
「…馬鹿。」
「あー、そんなに怒るなって。私が悪かった。」
「…勇儀の、ばか。謝るなら初めから、言わないで、よ。」
「テンション上がってきた。今日は飲み明かすぞ!!」

 ノリノリだったのはあちらさんだった。
「ケッ。キスメさん、私等は帰りますか。」
 おなか一杯。胸焼けがしそうなほどに。
「…。(コクコク)」
 キスメは桶から白旗を上げてひらひらと振って涙した。


                                         おまけもおしまい

 ―あとがき―
 緑髪分足りない。
 あと色々ごべんなざい。
                                                          Y・Y

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最終更新:2008年11月08日 17:20
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