ゆっくりいじめ系62 ある男のゆっくりレポート

 ある男が居た。
 まじめで、明るく皆から頼りにされる男だった。
 そんな男は、洪水で氾濫しそうな川に土嚢を敷いている最中に川に流されて死んだ。
 危険な箇所、誰も行きたくない箇所の作業での事故。
 まさに、その男の生き様を象徴するような事故だった。
 ……その男が残したレポートがある。
 数冊にまとめられたそのレポートは、幻想郷に住まうある物体の観察を記したものだった。
 その物体の種族名はゆっくり。
 幻想郷で家・畑問わず荒らしまわっている害蟲である。
 そのゆっくりについて書かれたレポートの、最初の観察を読んでみることにする。

 今日から、ゆっくりについての観察したデータをまとめる事にする。。
 記録などした事がないので、日記のようにまとめていこうと思う。

 その日は長かった残暑もひと段落し、逆に暖房が欲しいほど冷えた10月の初め。
 今日は近くの森からゆっくり霊夢の一家を家に連れてきた。
 聞けば、何日か前に散歩から帰ると、魔理沙種に家を取られておりその日から何も食べていないらしい。
 なるほど、近くの洞穴を見るとゆっくり魔理沙一家が元気よく過ごしていた。
 これまた、ほのぼのする様な一家の光景だ。
「おじさんの家でゆっくりしないかい?」
 籠から大きな肉まんを差し出しながら一家に提案した。
 これだけで良い。
 肉まんの足の先から羽に至るまで数分で食べつくしたゆっくり霊夢一家は、先程とは打って変わって、ワイワイと自分の後ろをついて来た。
「ゆっくりできるね!」
「おいしいものもたくさんたべれるね」
 賑やかに後ろをついてくるゆっくり一家。
 少ないが、食べ物を口に入れたことで少しは元気が出たのだろう。
「ここがおじさんの家だよ」
「ゆ! おおきいね!」
「おじさんのおうち、とってもおおきいね!」
 ご機嫌を取ろうと、口々にお世辞の言葉を話すゆっくり達。
 さすがに家のものを壊されちゃかなわないので、早々に庭の離れへと連れて行く。
 離れは、和風建築の家には珍しく入り口は引き戸になっている。
 その中は和風そのもの、違う点といえば珍しい石油ストーブが置いてあることだ。
 珍しいものを見たからだろう、興味津々でその周りに集まるゆっくり一家。
「ゆゆっ! あったかい! おじさんこれあったかいよ」
「なつみたいだね!」
「それはストーブって言って、部屋を暖かくするものだよ。あんまり近づくと火傷するから気を付けてね」
 放っておいて、そのままダイブしたら危ないので注意する。
 直ぐに全員に伝わったらしく、はぁーいの大合唱が返ってきた。
「寒かっただろ、暫くここで過ごせばいいよ。外に出たかったら言ってくれれば何時でも出してあげるから」
「おじさんありがとう! ゆっくりするよ」
 信用されたのか、あちらこちらに散らばっていたゆっくり達も、ゆっくりするよと声をかけてきた。
 一家で散歩するなら、自分の畑に連れて行って取れたての野菜を食べさせるのも良いかもしれない。
 きちんと、言って聞かせれば大丈夫だろう。
 しかし翌日も、その翌日もゆっくり達は部屋から出てこなかった。
 食事はきちんと与えているので、共食いの心配はない。
 寧ろ最近は、食事の量を増やせといってきた。
 快く応じる、どうせ野菜は一杯あるのだ。
 ストーブも石油が切れないように心がける。
「おじさん! はやくいれてきてね!! ゆっくりできないよ!!」
「ゆっくりできないよ!」
 お母さんゆっくりが偉そうに急かしてくるので急いで石油を入れる。
 子供達が温まれないのを嘆いているのだ、無理に怒っても仕方が無い。
「ごめんね、遅れて。今火をつけるからね」
「おそいよ! もっとゆっくりはやくしてね!!!」
 母親が強気に出ているのに気付いたのか、子供達も自分にタックルしてきた。
 取り合えず、その場は謝って部屋を後にする。
 一ヶ月と時間が過ぎて、綺麗な紅葉も地面に還ろうとしていた。
 勿論、ずっと部屋に居るゆっくり達には、残念ながらその変化は感じられなかったようだ。
 一緒に散歩に行こうと誘っても、ここでゆっくりしてるよと言って一緒にきてくれない。
 母親に居たっては、途中で美味しいもの見つけてきてね、と言う始末だ。
 しかし、初めに家でゆっくりしていいよ、と言ったのは自分なので悪くいう事は出来ないが、全く遠慮と言う言葉を知らないようだ。
 それから更に一ヶ月あまり過ぎ、相変わらずゆっくり一家は離れに居座り続けた。
 おそらく、ゆっくり達にとっては至宝の時間だったのだろうが、こちらもこの時期は色々と忙しい。
 さすがに十数匹のゆっくりの面倒は見ることが出来ない。
 残念だが巣に帰ってもらう事にするほか無いようだ。
「おじさんなにいってるの? ゆっくりたちのおうちはここだよ! はやくたべものもってきてね♪」
 分かっていたことだが、ゆっくりの頭の中ではここが自分達の巣になっているらしい。
 随分おめでたい頭をしてので、お母さんゆっくりにもう一度『お話を聞いて』貰ったら、今度は直ぐに嘘を認めた。
「ごめんなざい! ゆぐっりたべれだがらごごにいまじだ!」
 誠心誠意謝ってくれた、あのゆっくりが自らの過ちを認めてくれたことは嬉しかった。
 やはり話し合いと言うのは大事である、これはゆっくりにも共通しているようだ。
 逆にこちらが恐縮してしまったので、離れる前に最後の食事として沢山のわたあめを持たせてあげた。 
 大きな袋に入れたので持てるかどうか不安だったが、子ゆっくりも全員きちんと口で挟んで運べるようで一安心。
「おじさん! こんなにありがとう!」
「おうちにかえってゆっくりたべるね!」
「さよなら!!」
「おじさんゆっくりしてね!!」
 思い思いの言葉を話して別れを惜しむゆっくり達、全員が扉の前に集まったのを確認して扉を開けた。
 ゆっくり出来たといっても狭い部屋だ、普段から広い外の世界を走り回っていたゆっくりは窮屈だったのだろう。
 扉を開けたとたん勢いよく飛び出すゆっくり一家。
「ゆ! さむいよ」
「さむいよ! さっきまであったかかったのに!!」
「おじさん! へんだよ、きゅうにさむくなったよ!」
 別に変な事は何もないんだけどなぁ。
「だって今は冬じゃぁないか。君達がこの部屋に住みだしたのは秋の初め頃だろ? 寒いだろうと思って今までストーブをつけていたのを忘れたのかい?」
 ……どうやらそこまで馬鹿じゃないらしい。
 俺が言ってから、少し時間がかかったが全員が理解したらしい。
 おやおや、雪遊びでもしたいのかな?
 みんな元気よくガタガタとはしゃぎ回っている。
 既に幻想郷は一面中銀世界だ、これだけ雪があればさぞかし楽しいだろう。
「それじゃあ、さよなら。気を付けて帰るんだよ」
 楽しそうにしているゆっくり達家族の団欒に、踏み込むなんて無粋な真似はしないさ。
 玄関の外まで案内したら、そう一声かけて門を閉じた。
 ちょうどチラチラと雪も降り始めた、少し硬そうな雪なのであまり積もらないだろう。
 目を閉じると、今までゆっくり達を過ごしていた日々が蘇った。
 同時に何故一家を家に置いていたのかも思い出した。
 参った、最近は忙しかったからすっかり失念していた。
 イケナイ、イケナイ、善は急げだ。
 幸い玄関先を確認すると一家はまだ近くにいたので、邪魔をしないように裏口から巣へ向かった。
 ゆっくり一家の巣へまでは、これまで何度か足を運んでいるので簡単にたどり着いた。
 さすがに冷えるのだろう、ゆっくり霊夢の巣の入り口には、以前来た時にはなかった大量の松葉と石で見事に塞がれていた。
 時間が惜しいので乱暴に蹴り崩す、早くしないとゆっくり霊夢達が戻ってきてしまうかもしれない。
 散らばったそれらを退かすと、中にはゆっくり団欒していた魔理沙一家。
 皆一様に自分に視線を送っていた。
「おじさん、またきたの! ここはまりさたちのおうちなの! あとかられいむたちがうばおうとしたからおいかえしたの!!!」
 またまた、お母さん魔理沙が突っかかってきた。
 数匹の子魔理沙は随分と大人しいのだが、何時もこれが頑固に自分の家だと主張するので言い争いになっていた。
「もうすぐ霊夢たちが帰ってくるんだけど? やっぱりここを出て行かないのかい?」
「おじさんしつこいよ! ここh!」
 時間が惜しい、やっぱり返事はいらないよ。
 言葉の代わりに、お母さん魔理沙を外に引きずり出した。
「ゆゆ! おじさんなにするのゆっくりできないなら、すぐにゆっくりいりぐちをなおしてかえってね!!!」
「お菓子をくれようと思ったんだけど……」
「ゆっ! おかし! たべるたべる!! おじさんはやくちょうだい!!」
「わかったよ。おーい、君達にもあげるよ!」
「おじさん!! はやくちょうだい!!」
 子供達を呼んでいる間中、お母さんゆっくりはずっとそんな事を言っている。
「わかったよ、口を大きく開けてね」 
 余りにも煩いので、先にお菓子をあげる事にした。
「!!!???」
 涎を流しながら大きく開けている口へ勢いよく押し込める。
 とても美味しかったのか、楽しく跳ね回っている親は放っておいて、子供達にもキンキンに冷えたアイスキャンディーを数本、口に押し込んだ。
 やはり、親と同様に元気一杯跳ね回る。
 ほのぼのとした雰囲気だったが、時間が迫っているのを思い出し、約束通り一家には他所へ移ってもらう事にする。
 霊夢達に返してもらうよ、と一声かけて次々と裏側の崖へ落としていく。
 この深い谷の下なら、洞窟も沢山あるし雪が入り口を塞いでくれるから、中はとっても暖かくなっているだろう。
 別に子ゆっくりはここに残しても大丈夫そうだったが、以前よんだSF超大作にこんな台詞があった。
「間違った指導者を選んだ者の末路だ」
 そういうことなので一家全員で、新しい家を探してもらうことにした。
 食べ物も与えたし、巣を探しているくらいの間は大丈夫だろう。
 あぁ、そういえば霊夢達もストーブの効いた部屋で美味しそうに食べていたなぁ。
 ゆっくり達にとっては、冬場の方がアイスを美味しく感じるのだろうか?
 夏場にあげた事はないからなんとも言えないが。
 等と考えている間に、辺りは薄暗くなってきた。
 それにしたがって辺りから物音が消えていく、無音の中で深々と雪が降っているだけだ。
 急いで散らかしてしまった石や松葉をかき集める、これは霊夢たちが使っていたのかもしれないから。
 しかし、中の食べ物は魔理沙達のものだろう。
 さすがのゆっくりと言えども、家をのっとったモノの食べ物は食べたくないだろう。
 仕方がないので、全て俺が持って帰ってあげることにした。
 ヤギの餌くらいにはなるから。
 黙々と袋に詰めていると、日は更に傾いていた。
 同時に訪れる、普通の黄昏時とは違う恐怖心。
 これ以上ここにいるとこちらの身も危ない、なによりゆっくり達とかち合ったら折角の親子水入らずの邪魔をしてしまう。
 手早く荷物をまとめて家路を急いだ。
 門の前に着くと、既にそこにはゆっくりの姿はなかった。
 巣に戻ったのだろう。
 空き巣を心配して裏口を確認するが異常は無いようだ、きちんと鍵をかけていたので当たり前と言えば当たり前なのだが。
 その後、食事をして風呂に入り、この記録を書いている。
 この二ヶ月間、ゆっくり達を観察して分かった事は以上の通りだ。
 明日からは、町外れの木の室に住んでいるゆっくりパチェリーについて観察してみようと思う。
 仲良しの霊夢種と魔理沙種と共に越冬しているかもしれないが、それはそれで貴重な記録が取れるかもしれない。
 三匹くらいなら十分に面倒を見ることも出来る。
 なにより、一人には広すぎる我が家が賑わうのは喜ばしいことだ。
 あまり役には立ちそうもないが、ゆっくりを愛する人がこの記録を読んでくれることを切に願う。
                             想幻210年12月31日




 パタン。
 今読んでいた本を一旦閉じで目線を上げる。
 その先には、紅茶とお菓子をお盆に載せた赤髪が綺麗な司書。
「小悪魔ご苦労様。取り合えず休憩にするから、紅茶をもう一つ持ってきてくれる?」
「??」
 対する司書―小悪魔はキョトンとしている。
 もうボケたのか? また唐辛子が入ってると思っているのか? いやいや、今日は入れていない 二個いっぺんに飲み干す魔法でもあるのだろうか?。
「あなたも一緒に飲みましょう?」
 合点がいった、要するに一緒に飲んだくれよう、と言うわけだ。
「今度は何を読んでいるんですか?」
 自分用の特上の紅茶を入れて戻ってきた小悪魔が尋ねる。
 パチュリーが自身で手に入れてきた本なので、まだ内容は知らないのだ。
「ゆっくりを可愛がっていた男が残した飼育データよ」
 紅茶の違いに気付き、手を伸ばしながら答えるパチェリー。
「そんな本だったんですか? それを持ってくるの苦労したんですよ。パチュリー様と違って、力のない私は水の流れを変えるのだって大変なんですから」
 それよりも早くカップを口に運びながら答える小悪魔。
「濡れるのはあなた一人で十分よ。それにこれ面白いのよ、あなたにも後で読ませてあげるわ」
「はぁ。……おかわりをお持ちしますね」
 本気でサマーレッドを撃とうとしている事に気付き、急いで特上の葉で唐辛子入り紅茶を作りにいく小悪魔が答える。
 外に出歩かず、ゆっくりを見たことがなかった二人は、アレ以来ゆっくりをいじめる事がブームになっていた。
「本当に興味深いわよ。この資料」
 男の願いが叶い、その資料はとてもゆっくりを愛している魔女の大図書館に、大切に保管させるだろう。


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最終更新:2008年09月14日 18:37
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