ゆっくりいじめ系274 れみりゃの帽子

「れみりゃの帽子」





まりさは逃げていた。森の中を、ゆっくりらしからぬスピードで逃げていた。
後ろを見る余裕などないのに、後ろを見ずにはいられない。
何度も何度も自分の後ろから追いかけてくる“それ”の姿を確認した。

「がおー♪たーべちゃーうぞー♪」

胴体のあるゆっくりれみりゃがご機嫌そうな顔で、まりさを捕食しようと追いかけてくる。
顔だけなら、まりさの全身と同じバレーボール大なのだが、胴体付きとなるとその威圧感はまりさにとっては
この上ない脅威だ。
目の前で群れの仲間をれみりゃに食べられたという経験も、まりさの恐怖を増幅させる。

「ま、まりさはおいしくないよ!!ゆっくりたべないでね!!」
「ぎゃおー!おいしいまんじゅうだーべぢゃーうぞー♪♪」

まりさは草を掻き分け、木々の間を抜け、橋を渡り、獣道を駆け上り、とにかく逃げ続けた。
なのに、後ろを振り返るたびにれみりゃが近づいてきているように感じる。
迫り来るニコニコ顔のれみりゃは、まりさにとって恐怖の対象でしかない。
その声は、もう耳元でささやいているぐらい近く感じられた。

「ゆっ、ゆっ、ゆっくりついてこないでね!!」

出かけるときに、お母さんは後頭部に赤い綺麗なリボンを結んでくれた。
何事もなく、無事に帰ってこられるように…というおまじないだった。
だからまりさは信じている。自分は絶対に帰り着いて…お母さん達とゆっくりできる、と。
このまま逃げ切って、自分のおうちにたどり着いて、お母さんに精一杯甘えながらゆっくりしたい。
赤いリボンを大きく揺らしながら、一刻も早く日常に戻るためにまりさは逃げ続ける。

「うー♪もーすこしでおいつくどー♪」

すぐ後ろに、れみりゃの気配を感じていた。ちょっとでも気を抜いたら…捕まる。
そうしたらどうなるか、まりさはよく分かっている。だから、何が何でも逃げるのだ。
今がゆっくり出来なくても、いつかきっとゆっくりできるようになると信じて。

そして…

まりさが木の根を飛び越えた瞬間。

「がおー!づーがまーえぶぎゅえ!!??」
「だべないでええええぇぇぇぇえっぇええ!!!」

木の根につまづいたれみりゃは、華麗に宙返りし…地面に強く叩きつけられた。
死を覚悟したまりさはそのまま目をつぶってしまい、勢いあまって正面の木に激突した。

「ぶぎゃ!!」

痛みに涙を滲ませながら、後ろを振り向くと…
そこには、全身の痛みにのた打ち回るれみりゃの姿があった。

「ぶー!!れびりゃのぶりでぃーなあじがー!!!ざぐやー!!ざーぐやああぁぁぁっぁっぁあ!!!!」

れみりゃの両脚は、膝のところで明らかにおかしな方向に折れ曲がっていた。

「びゃー!!れみりゃのうでがー!!ぶーてぃほーふぇいすがああぁぁぁぁ!!ざぐやどごおおおぉぉ!!?」

両腕もぐしゃぐしゃに折れ曲がり、顔は地面と擦ったことによって平らになり、ところどころ肉がはみ出ている。
胴の部分からも肉汁が染み出している。とくに腰辺りからの流出は多く、水溜りを作るほどだった。
死に物狂いで暴れるのだが、もはや膝や肘から先はれみりゃの意思どおりに動かずぶら下がっているだけ。
結局その場から数センチも動けなかったれみりゃは、疲れて暴れるのを止めた。

「ゆ……ゆっくりしていくの?」

まりさは、状況を把握できずにいる。
先ほどまで自分を追いかけていた天敵が、目の前に倒れている。
動かない?…いや、ちがう。大怪我で動けないのだ。
…ならば、やることはひとつである。

「…まりさたちをたべるれみりゃは、ゆっくりしんでね!!」
「ぎゃお?やめでええぇぇ!!やめないどだーべぢゃーぶべっ!!??」

一瞬で立場が逆転した。
れみりゃが動けないと分かったまりさは、れみりゃの全身を思い切り踏み潰していく。
全力でジャンプし、れみりゃの体の上で着地する。
ひたすら恨みをこめて。かつてれみりゃに食べられていった仲間の顔を思い浮かべながら…

「ゆっくりしね!!ゆっくりしね!!」
「ぶぎゃ!!やめぶへ!!ざぐぎゃ!!どぼ!!」

最初は脚、次は腰、次は腹、次は腕、最後は顔面。という具合にジャンプと着地を繰り返す。
まりさが着地するたびに、れみりゃは奇妙な声を上げる。
悪路を舗装するように、れみりゃの身体が薄く平らに均されていく。

「ゆっゆっ…ゆっくりしねえええぇぇえぇぇっぇえ!!!!」
「ざああああぐうううううやああああぁぁぁぁぁぁぁぶぎゅえ゛え゛え゛っ!!!」

最後の一撃はれみりゃの顔面に炸裂した。“顔のようなもの”が肉とかいろいろ吐き出した。
そこにいるのは、すでにれみりゃではなかった。もうれみりゃの原形をとどめていない。
どこが脚で、どこが腕で、どこが胴だかわからない。ここまで来るとれみりゃ種でも回復不可能だ。

「ゆぅ………ゆっくりたおしたよ!!」

今まで何匹もの仲間がれみりゃに食べられてきた。
恐怖を忘れて復讐を遂げたまりさの顔は、すっきりしていた。
れみりゃの残骸を食べながらしばらくゆっくりしていたまりさだったが…あることに気づいた。

「…ゆ!?まりさのぼうしどこ!?」

さっきまではれみりゃを倒すのに必死で気づかなかったが、まりさの帽子はいつの間にか脱げていた。
命と同じぐらい大事な帽子を失くしたら一大事である。後頭部に赤いリボンがあるが、それでは不十分だ。
まりさはすぐに探し始め…すぐに見つけた。帽子は、ついさっき自分が木と正面衝突したところに落ちていた。

「ゆっくりみつけたよ!!」

安心したまりさは、嬉しそうに跳びはねて帽子をかぶろうとするが…そこでまた異変に気づく。

「ゆ゛っ!?まりさのぼうしがやぶれてるよ!!なんでええええぇぇぇ!?」

木にぶつかった時の衝撃によって、まりさの帽子は酷く破れていた。
もう少し引っ張れば真っ二つに千切れてしまうというくらい、その帽子は破れている。
頭の後ろに結んである赤いリボンが切れていないのが、唯一の救いであるが…
これでは、まりさはこの帽子をかぶることができない。

「どうじで!!どうじでまりざのぼうじやぶれでるの!?これじゃかぶれない゛い゛いいいぃぃぃぃぃ!!」

ゆっくりたちは、通常自分の髪飾りや帽子を自力で直すことは出来ない。
このまりさも例に漏れず、帽子を自分の力で直すことなど不可能だった。
帽子をかぶれない、ゆっくりできないと知ったまりさは、復讐を遂げた幸福感から一転、絶望の底に
叩き落された。

しかし…

「まりざのぼうしがあああああああぁぁぁぁ……ゆゆ!?」

そこには、もうひとつ帽子が落ちていた。
それは、まりさの執念の復讐により絶命した…ゆっくりれみりゃのピンク色の帽子。
壮絶な攻撃にもかかわらず、帽子だけは無傷でその場に残っていた。
この状況で迷うほど、ゆっくりの餡子脳は精巧に作られていない。

まりさは迷わず、ぴったりサイズのれみりゃの帽子をかぶってこう宣言した。

「ゆゆ!!きょうからこれがまりさのぼうしだよ!!」



巣への帰り道。
自分より上位種であるゆっくりれみりゃを、運を味方につけて倒したまりさ。その顔は自信に満ち溢れていた。
帽子が破れて被れなくなるというトラブルはあったが、代わりにれみりゃの帽子を被ることで解決した。
おうちに帰ったら、お母さんや妹達に自慢しよう。きっと褒めてくれるに違いない。
そう思うと、まりさの跳ねるペースは自然に速まっていく。

そんな帰り道。別のゆっくりが通りかかった。

「まりさ!ゆっくりしていってね!!」

目の前に現れたのは、ゆっくりありすだった。
このありすは発情期に我を忘れて交尾するタイプではないが、ことあるごとにまりさにくっついて、

『とかいはのありすが、いっしょにゆっくりしてあげるね!!』

などと押し付けがましいことを言いながら、頬をすり寄せてくるのだ。
まりさとしては妹達や他の友達とゆっくりするほうが楽しいので、どちらかと言うとこのありすが嫌いだった。
とは言っても、遊んであげないと木の陰に隠れてこちらをじっと見つめるという奇行に走るので、
いつも仕方なく遊んであげているのだが…今回は様子が違った。

「ま、まりさ…そこでゆっくりしててね!!こっちにこないでね!!」
「ゆ?ありす?ゆっくりどうしたの!?」

ありすの様子がおかしいということは、まりさにもすぐに分かった。
いつもだったら、2人きりなら一目散に飛びついてきてすり寄ってくるはずなのに…
そんな疑問を抱きながら、一歩前に出た。

「ゆぎゃああぁあぁぁあ!!!ごっぢごないでね!!ずっとそこでゆっぐりじででね゛!!」

都会派らしくないありすの動揺に、まりさはさらに疑問を深めた。
目には涙を浮かべて、こっちをじっと見てがくがく震えている。
一体何をそんなに怖がっているのか…と考えているうちに、ありすは勢いよく跳びはねて帰ってしまった。

「……ゆっ!まりさつよくなったからね!!ありすはまりさよりよわいから、にげたんだね!!」

餡子脳は、当然の帰結として都合のいい解釈をする。
まりさは更に自身をつけて、森の奥の集落にある自分の巣へと向かった。



巣の入り口の前まで来ると、そこでは母れいむと妹ゆっくり達が楽しそうに遊んでいた。
妹ゆっくり達が作った花の冠を、母れいむは嬉しそうにかぶっている。
赤いリボンに黄色い花。まりさの目には、母れいむがいつもより綺麗に見えた。

「ゆっくりただいま!!」

まりさの声に一家は振り向く。
いつもなら、この後みんなで巣に戻って美味しいご飯を食べるのだが…やはり、いつもとは様子が違った。

「ゆ!!ゆっくりこっちにこないでね!!そこでゆっくりしててね!!」

まずは母れいむが警戒心を示す。周りの妹達も、不安そうな顔をして母れいむの後ろに隠れた。
やはりいつもと違う。まりさは、ありすに会った時と同じような疑問を頭に浮かべていた。

「どうしたの?まりさかえってきたよ!!いっしょにごはんたべようね!!」
「い、いいからそこにいてね!!そこからうごかないでね゛!!」

母れいむは恐怖に耐えながら、必死に言葉を紡ぐ。
まるで…捕食種であるゆっくりれみりゃと対峙している時のように。
その表情、その行動、全てがまりさには理解できなかった。

「みんな!!おかーさんのおくちのなかにはいってね!!ここならあんぜんだよ!!」
「ゆ!!ゆっくちはいるよ!!」「おがーざん!!ごわいよお゛ー!!」

母れいむの呼びかけに従って、合計7匹の妹ゆっくりが母の口の中に収まる。
すると、母れいむはまりさに背を向けて一目散に逃げ出した。

「そこでずっとゆっくりしててね!!こっちにこないでね!!」
「ゆ゛っ!!ゆっくりまってね!!まりさもいっしょにいくよ゛!!」

家族に置いて行かれると思ったまりさは、全力で母まりさの後を追いかける。

「ゆっくりおいてかないで!!まりさもいっしょにゆっくりしたいよ゛ぉ!!」
「ついてこないでね!!いっしょにゆっくりできないよっ!!」

しかし、母れいむも全力で逃げる。それはもう、ゆっくりれみりゃに追いかけられているかのように。
まりさはかなり成長したとは言え、母れいむと比べればまだ子供だ。
体格差を考えれば、全力で逃げる母れいむに追いつけるわけがなく…
数分追いかけ続けたが、結局母れいむには追いつけず完全に姿が見えなくなってしまった。

「どぼじでええぇぇぇぇ!!おがーざんどいっじょにゆっぐりじだいのにいいいいぃぃぃぃ!!」

何故?
どうして自分は、家族に置いていかれるのか。お母さんはどうして自分を置いていくのか。
家族だけではない、よく考えたらありすも同じだ。どうして皆…自分から逃げるのか。自分を避けるのか。
まりさは餡子脳で必死に考えたが、答えらしきものはまったく思い浮かばなかった。

とぼとぼと、誰も居ない巣に帰りついたまりさ。
まりさは、逃げていった一家が帰ってくるのを一人で待ち続けた。
日が沈んで空が赤らみ、そして更に日が落ちて黒い空に綺麗な星々が輝く時間になっても…帰ってこない。

「ゆっくりぃ…」

一人さびしく呟くまりさ。
空腹に耐えかねて、母れいむが昼間に集めたであろうご飯を、一人ぼっちで口に運ぶ。

「むーしゃ…むーしゃ…」

ご飯は美味しかった。お母さんが頑張って取ってきてくれたものだから。
でも…幸せじゃなかった。お母さんと、妹達と、皆で食べないと楽しくない。幸せじゃない。

『ごはんおいしーね♪』『まりさもっとたべるよ!!』『れいむもたべるよ!!』
『ゆ!!れいむはじゃましないでね!!』『まりさこそじゃましないでね!!』
『みんなけんかしないでね!!ごはんはたくさんあるからね!!』

そんな団欒の声も、今は聞こえてこない。
そういえばご飯の時間は、いつもひとつ下の妹れいむとご飯の取り合いで喧嘩になったっけ。
お母さんは、そんな自分達を仲裁して…お母さんの分のご飯も分けてくれた。
いろんなことがあったけど、いつもご飯の時間は楽しかった。

でも、今はそこには誰もいない。自分ひとりだけだ。

「…いっしょにゆっくりたべたいよぅ!」

まりさの言葉は、巣の中に響いたと思うとすぐに消える。
誰の耳にも届かず、減衰して…消えうせるのだ。

夜。ゆっくりが眠りにつく時間は早い。

「ゆっくりねむくなってきたよ…」

まりさは、自分以外誰も居ない巣の中で…静かに眠りについた。



早朝。
夜早い分、やはり目覚める時間も早い。
が、れみりゃの帽子をかぶっているまりさはいつも以上に早く目覚めた。外が異様に騒がしかったからだ。

「ゆ?…ゆっくりしていってね!!」

目が覚めたまりさは、他の家族を起こす意味もこめて声を張り上げた。

「……ゆぅ」

しかし、反応は返ってこない。それもそのはず、家族は昨日の夕方から行方不明なのだから。
自分の姿を見るや否や、一家揃って逃げていってしまった母親と妹達。
起きた直後はご機嫌だったまりさだが、昨日の事を思い出して憂鬱になってしまう。

「ゆっくりぃ…どこにいったの?」

その問いに答えるゆっくりは、どこにもいない。
まりさはすっかり意気消沈してしまい、丸みのある身体が脱力して潰れた饅頭のような形になった。
朝になっても家族は帰ってこない。もしかして自分は捨てられてしまったのではないか…
どんどんネガティブな方向に思考が進んでしまい、いつしかまりさの目には涙が浮かんでいた。

「ゆっぐりー!!…いっじょにゆっぐりじだいよ゛!!」

…そのときだった。

「「「…っくり………てね!!!」」」

巣の外からの、声。
まりさはこの声によって目覚めたのだったが、まりさはそのことに気づいていなかった。

「ゆ!?だれかゆっくりしてるの!?」
「「「ゆっく………ね!!!!」」」

その声は、大勢のゆっくりが一斉に発しているように聞こえた。
巣の中に居るせいか、内容がよく聞き取れない。
だが、巣の外に仲間がたくさんいる…その事実だけで、まりさの憂鬱な気分は吹き飛んだ。
家族はどこかに行ってしまったけど、まだ集落の仲間がいる。
もしかしたら、お母さんや妹達もすぐそこに戻ってきているのかも…
まりさは晴れやかな笑顔で、巣の外に飛び出した。

待ち構えていたのは、総勢数十匹のゆっくり。皆同じ集落の仲間だ。
まりさたちの巣の入り口を取り囲むように、半円を描いて並んでいる。
よかった、やっと皆とゆっくりできる!
まりさは、本能に刻み込まれたあの言葉を







「「「ゆっくりしんでいってね!!!!」」」」

…発する前に、飲み込んでしまった。
数十匹のゆっくりの魂が篭った声は、すさまじい音圧となってまりさの身体を揺さぶる。
その声に吹き飛ばされそうになりながらも、まりさは何とかその場に留まった。

「い、いまなんていったの!?へんだよ!!まりさのききまちがいだよね!!」

聞き間違いに違いない。集落の仲間が“ゆっくりしんでいってね!”なんて自分に言うわけがない。
そう信じて疑わないまりさは、仲間の言葉を疑う代わりに自分の耳を疑った。

「みんな!!いっしょにゆっくりしていってね!!」
「「「……………」」」

普通なら元気な返事が返ってくるはずなのに、目の前の仲間達は誰一人として返事をしない。
癒されるはずだった孤独感は、仲間の殺意に近い視線を浴びることによって…さらに膨れ上がっていく。

「「「ゆっくりしんでね!!!!」」」
「ゆ゛!!ひどいいいいぃぃぃぃ!!!どうじでそんなごどいうのお゛お゛おおお゛ぉぉぉ!!??」

…聞き間違いではなかった。仲間は確かに“しね”と言っている。
どうして?どうして?昨日まで共に仲良く過ごしてきた仲間なのに、どうしてそんなことを言うの?

「みんなゆっぐりじようよお゛おお゛お゛おぉぉぉぉぉ!!!」

どんなに呼びかけても、返事は返ってこない。冷たい目でまりさを見つめているだけだ。
いや、ただ見ているだけではない。仲間達は少しずつ…まりさの方へにじり寄ってきている。
恐怖と、憎しみと、殺意と、狂気を帯びた、冷ややかな視線。
まりさはこの場から逃げ出したかったが、四方を囲まれているためそれも叶わない。

「ゆっぐりだずげでええぇぇぇぇええぇえ!!ゆッぐりじだいよ゛お゛おおお゛おぉぉぉおお!!!!」
「…ゆっ!!」

その声に反応して群れから飛び出してきたのは、昨日の夕方姿を消した母れいむだった。
真剣な表情で、まりさをじっと見つめている。まりさは目の前の母の姿を見て、泣き叫びながら飛びついた。

「おがーじゃああぁぁぁん!!どごいっでだの!?ざびじがっだお゛おお゛お゛ぉぉぉぉ!!!
 もうどごにもいがないで!!いっじょにゆっぐりしようね゛えええぇぇぇ!!!」

“まりさはあまえんぼさんだね!”と言われてもいい。とにかく母に甘えたい。
誰も居ない巣の中で、一人寂しく眠った昨日の夜…もう二度とあんな思いはしたくない。
だから、このまま母れいむを捕まえたら絶対に放さない、そのつもりだった…が。

「…ゆっぐりしねっ!!」
「ぶぎゅあ!!?」

予想に反する位置からの、予想に反する攻撃。
その衝撃で、まりさは地面に叩きつけられ…少量の餡子を吐き出した。

まりさは自分の耳を疑い、今度は目を疑った。
自分を攻撃したのは…正面に居る母れいむだったのだ。
ショックのあまり動けずいるまりさは、母れいむの目を見てあることに気づく。

“目”が同じだったのだ。他の群れの仲間と。
まるで親の敵を見るような、冷たく攻撃的な目。どう考えても、子供を見る目ではなかった。

「みんな!!このれみりゃはちいさいから、きょうりょくすればたおせるよ!!」

群れ全体に呼びかける母れいむ。まりさは、何がなんだか分からなかった。

「れみりゃ?そんなのどこにいるの?ここにいるのはまりさだよ!!」
「みえみえのうそをつかないでね!!れみりゃがまりさなわけないよっ!!」

言い放つ母れいむ。周りのゆっくりたちも“そうだそうだ!”と同意する。

「どうじで!?まりざはまりざだよ゛!!れびりゃじゃないよ゛!!!」
「まだうそをついてるよ!!うそつきれみりゃはみんなでころそうね!!」

その母れいむの言葉が、合図となった。
一斉にまりさに襲い掛かる、数十匹のゆっくりの群れ。
すでに成体に近い体格とはいえ、たった一匹で数十匹の成体ゆっくりに勝てるわけがなかった。

「びぎゃああぁぁぁぁあぁ!!やめで!!ゆっぐりでぎいなおおrてお!!?」
「れいむたちをたべるれみりゃは、ゆっくりしね!!ゆっくりしね!!」

四方から押し寄せるゆっくりの群れに、まりさは全身を蹂躙される。
目玉を押しつぶされ、口は無様に引き裂かれ、頬は痛々しく噛み千切られ…

「いだい!!いだいよ゛!!まりざにら゛んぼうずるのやめでぇえ゛ぇぇぇ!!」
「れみりゃは、とかいはのありすのこどもをたべたよね!!ぜったいゆるさないよ!!ゆっくりしねえ゛ぇぇえ゛!!!」
「まりさのともだちもれみりゃにたべられたよ!!ゆっくりあのよではんせいしてね゛!!」

家族を、友達を、れみりゃに奪われた…群れの仲間達。
心にぽっかり空いたままの空洞…その痛みが、嫌と言うほど伝わってくる。
まりさは教えたかった。そのれみりゃを自分は倒したんだ、と自慢したかった。そして褒められたかった。
でもできない。させてくれない。絶え間ない暴力が、まりさを徹底的に甚振り続けるから…
喋る間も、泣く間も、許しを請う間も与えられず、ただひたすら嬲られる。

全身隙間なく打ちのめされる。裂けた傷から中身を引き出される。
黒い餡子が自分の周りにばら撒かれるたびに…まりさは、何か大切なものを失っていくような気がした。

「やべでね!!まりじゃじんざうお゛!!ながみ゛!!ながみ゛どらないでえ゛え゛ぇぇぇぇえ!!!」
「れみりゃはゆっぐりじねえぇぇぇ!!」「わるいれみりゃはしね!じね!じね゛!!」
「ありずのごどもをがえぜ!!がえじで!!がえじでよおおおおおおぉおぉぉぉお!!!」
「みんなの゛!!みんなのどもだじもがえじで!!もっどいっじょにゆっぐりじだがったのに゛!!」

被食種であるが故の悲しみと憎しみ。それらを全て、まりさにぶつける群れの仲間。
その深い感情が、まりさの心と身体を深く傷つける。

どうして…どうしてこんなことになったのだろうか?
自分はただ、皆とゆっくりしたかっただけなのに。家族と一緒にゆっくりしたかっただけなのに。
なのに皆は、一緒にゆっくりさせてくれない。もっと…もっともっとゆっくりしたかったのに。
こんなことなら…一人で出かけないで皆と一緒にゆっくりしていればよかった…

「ゆ゛っ!!ゆっぐでぃじだぎゃあdっだあよおおおえおええおおぉtっげろがおp!!!」

「ゆ゛ッぐりじねえ゛えぇえ゛え゛ぇえ゛ぇぇぇぇ!!!!」

母れいむの最後の一撃。
まりさが最後の餡子を吐き出したのは、その直後だった。



「ゆっ!!ゆっくりたおしたよ!!」

母れいむの宣言に、歓声が沸き起こる。

「やったね!!ちいさなれみりゃをたおしたよ!!」
「これでゆっくりできるよ!!」「みんなでゆっくりしようね!!」
「これならおおきいれみりゃにもまけないよ!!」

大勢で跳びはねて、喜びをかみ締めるゆっくりたち。
今までたくさんの家族や仲間をれみりゃに食べられ、そのたびに悲しみのどん底に突き落とされてきた。
そんな日々は、今日を境に変わるだろう。
何故なら群れの仲間達は、自分達の力を合わせることでれみりゃを倒せることを知ったのだから。

だが、母れいむだけは何故か浮かない顔をしていた。

「ゆぅ…まりさがかえってこないよ!どこにいったの?」

まりさというのは、母れいむの一番上の子まりさのことである。
昨日の昼に出かけたきり、帰ってきていない…普段なら晩御飯の時間には帰ってくるのに。
もしかして、別のれみりゃに食べられたのでは…!
そうでないなら、道に迷ったのかもしれない。だとしたら今頃お腹を空かして泣いているだろう。

「ゆ!!れいむはまりさをさがしてく…る………よ?」

ぴょんと一回跳ねて、森のほうへ自分の子供を探しに行こうとする母れいむ。

「………ゆぅ?」

ふとその視界に…先ほど撃退したれみりゃの残骸が入った。
ズタズタに引き裂かれた皮から漏れ出す餡子。何かがおかしいと感じた。

…れみりゃの中身って、餡子だっけ?

そういえば餡子だったかもしれない。いや、餡子に違いない。
結論付けた母れいむ。しかし、違和感は他にもあった。
餡子に隠れて目立たないが…そこには金色の髪の毛が残っている。何かがおかしいと感じた。

…れみりゃの髪って、金色だっけ?

そういえば金色だったかもしれない。いや、金色に違いない。
母れいむの頭の中には、中身が餡子で金髪のれみりゃがでっち上げられていた。

よく見ると、れみりゃの帽子は脱げて地面に落ちている。
帽子を被っていないれみりゃの残骸を見て、母れいむはそれが何かに似ているような気がした。
つい最近、どこかで見たような…気のせいだろうか?

などと考えながら適当に跳ね回っていると、母れいむはれみりゃの残骸に埋もれたあるものを見つけた。


それは、赤いリボンだった。


昨日の昼、自分が子まりさの頭の後ろに結んであげた、赤い綺麗なリボン。

何事もなく、無事に帰ってこられるように…そんな願いをこめてまりさに結んであげた、赤いリボン。

…そんなリボンと同じ色で、同じ形。

瞬間、母れいむは今まで自分がしたことの本当の意味を理解した。

昨日から今日にかけての出来事を、ゆっくりと思い出す母れいむ。

小さなれみりゃから逃げ出した後、群れの仲間に相談してれみりゃを倒す作戦を立てた。

ちょうど自分の巣にれみりゃが忍び込むのを見ていたので、作戦を立てるのは容易だった。

朝になって、れみりゃが出てきたところを…袋叩きにした。

小さなれみりゃなら、数十人でかかれば倒せる。すべては作戦通りだった。

突如侵入してきた外敵を排除するためと思ってやってきたこと全ての結果。それが目の前にある。

「おかーしゃん!!ゆっくちしようね!!」「ゆっきゅりー!!」
「あれー?まりしゃおねーちゃんはー?」
「まりさおねーちゃんといっしょにゆっくりしたいよ!!」

子供たちの声に、母れいむは何も答えない。

「ゆ?おかーしゃんどうしたの?げんきないよ!!」
「げんきだちてね!!ゆっくりげんきだしてね!!」
「いっしょにゆっくちすればげんきになるよ!!」
「…………」

無言のまま、子供たちのほうを向く。

母れいむの目に映るのは、無邪気な子ゆっくりたち。

自分がやってしまったこと。自分が殺したものの正体。自分が子供たちから何を奪ったか。

母れいむは、それらをゆっくりとゆっくりと理解した。

だから、母れいむは…考えるのを止めた。

何もかもを、考えるのを止めた。

悲しみの声を上げることも、絶望の涙を流すこともせず。

ただ、考えることを放棄した…





ビュウッと強い風が、木々の間を駆け抜ける。

赤くて綺麗なリボンは、高く舞い上がって…どこかへ消えてしまった。




(終)



あとがき

最初は軽快なのを書こうと思ってたのに…おかしいなぁ。

悪いことしたゆっくりがIKEMENお兄さんの制裁を受ける、そんな王道を今度は書きたい。

作:避妊ありすの人

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最終更新:2008年09月14日 05:05
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