ゆっくりいじめ系1223 終わらないはねゆーん 前編

※Q:「はねゆーん」って?
 A:「ハネムーン(新婚旅行)」のゆっくり版です
※現代日本、幻想郷の外が舞台です
※ゆっくりの存在がある程度浸透している世界です


「ゆっ、まりさ。れいむといっしょにゆっくりするの?」
「ゆっ、ありす! そうだよ! ず~っと、いっしょにゆっくりするよ!」
「じゃあ〝はねゆーん〟にいくのね」
「ゆっ? ありす、〝はねゆーん〟ってなに?」
「〝はねゆーん〟っていうのはね────」










野生のゆっくりが住む山に、とある一組のゆっくりの番がいた。
ゆっくりれいむとゆっくりまりさである。この二匹はつい先日一緒にゆっくりする事を決めた仲だ(人間で言うと結婚のようなもの)。

「ゆっ! かえったよ、はにー♪」

二匹が住む巣にまりさが帰ってきた。『はにー』とはまりさがれいむを呼ぶ時の呼称である。

「ゆゆ~♪ おかえりだーりん♪」

狩りを終えて巣に帰ってきたまりさをれいむが笑顔で出迎えた。『だーりん』とはれいむがまりさを呼ぶ時の呼称である。
れいむとまりさの番の場合、れいむがにんっしんっ! するケースが多いので、それを想像すると理解しやすいかもしれない。

まりさが口の中や帽子に溜め込んだ、狩りの成果を巣の中に広げていく。
ちなみにれいむの役割は巣の拡張である。まだこの二匹の愛の巣は、二匹が最低限眠れる程度の広さしかないため、日中にれいむが掘って広くしているのだ。

まりさの採ってきたエサを「む~しゃ、む~しゃ、しあわせ~」とれいむが食べていると、まりさが神妙な面持ちで話を切り出した。

「ねぇ、はにー。あしたから〝はねゆーん〟にいこうっ!」
「ゆっ? 〝はねゆーん〟ってなぁ? だーりん」

まりさはれいむに、ありすから聞いた〝はねゆーん〟について説明した。
曰く、一緒にゆっくりしていく事を決めたカップルが、将来を誓い合って愛の旅行をする事だという。
世間で言うハネムーンや他のゆっくりの〝はねゆーん〟がどうかは知らないが、ありすはまりさにそう説明したようだ。

「ゆゆ~♪ とってもゆっくりできそうだね、だーりん!」
「そうだよ、とってもゆっくりできるよ、はにー!」

二匹はそう言い合うと頬を寄せながら仲良く巣の中で跳ね始めた。
そして明日のために今日は早く寝ようという結論に達し、二匹寄り添って仲良く眠り始めた。
寝る前に決めた旅行先は、山を降りた先の人間の町である。






まだ陽が山から現れきっていない早朝に、二匹は目覚めた。
二匹は昨日採ってきたエサで朝食を食べると、残った少量のエサを〝お弁当〟としてまりさの帽子に詰めた。
そして二匹は出発する。新婚旅行、〝はねゆーん〟に。

「ゆっくりしようね~、だーりん♪」
「ゆっくりするよ~、はにー♪」

頬をす~りす~りして睦言を交わすれいむとまりさ。五分ほどそうしていたが、やがてどちらからともなく跳ね始めた。
山を降り始めた。

「ゆゆ~、どんなところかな~」

ぽよんぽよん跳ねながら、道中れいむが呟いた。
二匹はこれから先に待っている素晴らしいゆっくりを楽しみにしているが、れいむはやはり行ったことの無い場所ゆえに多少不安なようだ。

「だいじょうぶだよ、はにー♪ まりさがいるよ!」

そんなれいむの不安を取り除いてあげようとまりさが言う。
まりさもれいむと同じく、人間の町には行ったことは無いのだが、元飼いゆっくりであるありすから〝はねゆーん〟や人間の町についてはたくさん聞いていた。
とてもゆっくりできる場所とも聞いていた。
それに、れいむには内緒であるがまりさはありすから〝はねゆーん〟のコースも教えてもらっていたのだ。

「さっすがだーりん♪ とてもたのもしいよっ!」

ぽよんぽよん跳ねながら、頬をぷるぷるさせて嬉しさと信頼の証を示すれいむ。
まりさはそんなれいむの期待に応えようと、俄然〝一緒にゆっくりしよう〟と気合を入れた。
れいむはそんなまりさに気付いていながら、そんなまりさも大好きと心中惚気ていた。







二匹が山を降りきった頃には、既に陽も昇りきっており、通勤通学ラッシュも終えた朝のゆっくりとした時間帯だった。
まだ人通りは少ない地帯であったが、れいむとまりさは多くの、それも初めて見る人間とその生活圏に目を輝かせていた。

「ゆ~、すご~い」
「ゆ~、でもみんなゆっくりしてないね」

二匹のゆっくりは相変わらず寄り添いながら、ぽよんぽよんと歩道を歩く。
真ん中の大きな道はとてもゆっくり出来ないものが通っていたためだ。

「ねぇ、だーりん。これからどこにいくの?」

進む足を止めずにれいむはまりさに訊ねた。
れいむはまりさに〝はねゆーん〟については任せて欲しいと言われていたので任せていたが、まだ何処に行って何をするかは聞いていないのだ。

「ゆっ、まずは〝ばすてい〟にいって〝ばす〟にのるんだよ、はにー!」

不安げに訊ねたれいむに、まりさは力強くそう答えた。れいむはそんなまりさの声と姿に惚れ直した。
もっとも、そのプランはまりさがありすに聞いたものではあったが。れいむは〝ばすてい〟なる物がなんなのか分からなかったが、愛するまりさに任せておけば安心だと判断し、ただ自分はゆっくりと〝はねゆーん〟を楽しもうと思った。

初めて見る人間や人間の町並みにキョロキョロと目移りするれいむを連れて、まりさはバス亭を探した。
ありすに特徴や見つけ方を聞いていたとはいえ、まりさも現物は見たことないのだ。決して見落とさぬように目を光らせていた。

しかし、この二匹とも。しっかりと周りを見ていたのにも関わらず、道行く人の多くが、自分達を嫌悪の眼差しで見ていたことには気付かなかった。
やがて二匹はバス亭に辿り着いた。最初まりさはそこがバス亭だと確信はもてなかったので、そこにいた人間に訊ねた。
ありすから人間はちゃんとゆっくりの言葉が通じると教えてもらっていたからだ。

「ゆっ! ねぇおにいさん、ここ〝ばすてい〟?」
「……チッ、見りゃわかんだろ」

訊ねられた青年は露骨に嫌そうな顔と態度で答えたがまりさは気にしてないようだった。いや、気付いてないと言うべきか。
ともかく、今いる場所がバス亭だと分かった二匹は、しばらくバス亭のベンチで休むことにした。

「ゆゆ~、つかれたよだーりん」
「ゆっくりやすんでね、はにー♪」

二匹はベンチに乗るとすりすりと頬をすり合わせ、睦言を交わしながらバスが来るまでゆっくりすることにした。
まりさはありすに、しばらくバス亭でバスを待つように教えてもらっていたのだ。

「それにしてもすごいね、だーりん」
「これが〝とかいは〟なんだよ、はにー」

バス亭にいる他の人間からの嫌悪の眼差しには露とも気付かず、二匹だけの世界に浸っているれいむとまりさ。
やがてバス亭バスがやってきて、人々が続々とバスに乗っていく。降りる人間は居なかった。

「ゆっ、これにのるんだよはにー!」
「ゆゆっ? ゆっくりできるの、だーりん?」

バスが来たらゆっくりせずにすぐに乗るようにありすに言われていたまりさは、ハテナマークを浮かべるれいむを引っ張ってバスに乗り込む。
間一髪バスの扉が閉まる前に乗り込めた二匹は、入り口の近くにあった丁度開いていた座席に乗った。

「ゆ~、ゆっくりできないよだーりん……」
「だいじょうぶだよ、はにー! ここならゆっくりできるよ!」

突然のことで目を回しそうになったれいむをまりさは優しく落ち着かせる。
れいむも最初はゆっくりできないと思っていたが、座席の感触とバスの適度な揺れ、向かいの窓から見えるいつもとは違う世界の風景に心躍らせた。

「ゆゆ~♪ すごいねだーりん! ゆっくりできるね!」
「ゆっへん、そうでしょ♪」
「ゆ~、だーりんはすごいよ」

す~りす~りとまた頬をすり合わせるれいむ。
この二匹、頻繁に頬擦りをするがこれが二匹の習慣なのだ。いわゆるバカップルのようなものだ。
これからどこに行くのかとれいむが訊ね、「ゆーえんちにいくんだよ!」とまりさが答えたその時だった。
二匹の前に、一人の人間が現れた。

「「ゆっ?」」

自分達の前に立つ青年に気付いた二匹は首を傾げる。青年の視線は明らかに二匹に向けられていたが、何故見られているのか分からなかったからだ。

「ゆっ、ゆっくりしていってね!!!」
「ゆっくりしていってね!!!」

取り敢えず挨拶することにしたまりさと、それに続くれいむ。
だが青年はそんな二匹の挨拶にまったく反応を示さず、「チッ」とわずかに舌打ちしたのみだ。
ゆっ? と再び首を傾げるれいむとまりさ。
なんでこの人は挨拶したのに無視するんだろうと思っていた二匹を、

「「ゆっ!?」」

青年がガッシリ掴んだ。

「ゆぅ! おにいさん、なにするの! ゆっくりやめてね!」
「ゆっくりしていってよー!」

髪を掴まれジタバタと暴れる二匹。ほぼ無抵抗に近い抵抗に青年は更に不快感をあらわにする。
髪を掴まれているため髪が頭皮を引っ張る痛みに涙目になる二匹をよそに、青年はまりさを掴んでいる手の指でバスの窓を開けた。
まりさは覚えていなかったが、この青年はバス亭でまりさが話しかけた青年だった。

「なんでゆっくりがバスに乗ってるんだよ……」

バスの窓を開けて苛立ち気味に呟く青年。その青年の手に掴まれたれいむと二匹は

「ゆっぐぢはなぢでよぉぉぉ! いだい゛ぃぃ!!」
「やべでねっ! はに゛ーにひどいごどしないでね!」

と涙混じりに訴えかけていたがまるで無視された。それは青年だけでなく、バス内の他の乗客にもだ。
乗客は声には出さなかったが、内心青年の行動を支持していた。
過去にこういった事例がある。

まだゆっくりが現れたばかりの、好奇心からかバスや電車に紛れ込むゆっくりが少なく無い頃だった。
バスの座席でゆっくりしていたゆっくりがいた。乗客も少なく、可愛らしい外見から人々も無碍にはしなかった。
だが、乗客が増えてきても変わらず能天気な顔でゆっくりするゆっくり達の前に腰の不自由なお年寄りが現れた。
老人は揺れるバスにふらつきながらもなんとかバランスを保って踏ん張っていた。ゆっくり達はそんな老人の目の前で幸せそうな顔で座席に鎮座していた。(もちろんその様子を見ていた別の者が席を譲ったが)

こんな事例が数多くあったことから、今ではバスや電車に紛れ込んだゆっくりは邪険にされている。
たとえ座席に座っていなくても床を占領して邪魔になる。

窓の外を流れる景色。ゴウ、とうなる風。
青年はゆっくりと二匹を開けられた窓に近づけると

「ゆぐっ!? ゆっぐりなにずるの!?」
「だーりん、だづげでぇぇぇぇ!!」

喚く二匹を車外に放り捨てた。

「「ゆ゛ぐぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!?」」

走行中のバスの窓から捨てられた二匹。
突然の出来事に何がなんだか分からないまま宙を舞う。先ほどまで乗っていたバスが遠ざかっていくのを視界に収めながら二匹は、

「ゆべっ!!」
「ぶぎゅっ!?」

ガードレールに衝突。ゆっくり特有の弾力を持って弾かれ、歩道に打ち捨てられた。
二匹を捨てたバスの中では運転手が『窓からゴミを捨てるのはおやめ下さい』と呼びかけていたが、れいむとまりさが聞くことは無かった。

「ゆ゛っ、ゆっぐり゛ぃ……」
「はに゛ぃ、だいじょうぶ……?」

窓から捨てられてガードレールにぶつかって、アスファルトの歩道に投げ捨てられて全身打ち身の二匹。
呻くれいむにまりさは自分の痛みもこらえつつ最愛の相手を気遣う。
餡子は少量吐いてしまったものの、幸い皮は破れておらず軽傷ではあったが、痛み自体はこれまでの生涯で受けたことのない最高位の物だった。

「ゆぐっ、えぐっ……いだいよ゛だーりん……」
「ゆっ、ゆっくりしていってねはに゛ー」

体の痛みをこらえつつ、ずりずりと這ってれいむの許へ向かうまりさ。れいむへと辿り着くと頬をすり合わせながら涙目のれいむをペロペロと舌で舐めて慰める。
「ゆぐぅ……」と涙を零していたれいむだったが、愛するまりさの行動でなんとか泣き止んだ。
自分も痛いはずなのに自分を気遣って……。
そう思うとれいむは自分だけいつまでも泣いていられない、と涙を振り切って強気をもつ。

「ゆっ! もうだいじょうぶだよ、だーりん!」
「ゆゆっ、よかった! ゆっくりしてね、はにー♪」

突如襲った理不尽な仕打ちもこの二匹の絆を断ち切ることは出来なかった。互いの頬をすり合わせて互いを元気づける二匹。
何故自分達があんな目に遭わされたのかはまるで理解できず、バスではゆっくりできなかったが、ここから先のはねゆーんはとってもゆっくりした物にしよう。
まりさだけに任せるばかりではなく、自分も頑張ろうとれいむもそう決意する。


ただ、そういった事はもっと別の場所でやるべきだった。
れいむとまりさが居るのは、歩道のど真ん中であった。

「ゆぐっ!?」
「ゆびっ!?」

不意打ちだった。二匹にとっては。
自分達の世界に浸っていたところに突如見舞わされた人間の蹴り。側頭部を蹴られた二匹は蹴りをまともにくらい、ゴロゴロと転がりながら歩道の脇に寄せられる。
二匹を蹴り飛ばした青年は、二匹がいた場所をスタスタと歩いていった。
れいむとまりさは、交通の邪魔であった。

「ゆぐっ……ゆっぐりじでいっでね……」

呟くように言ったまりさの声は、青年には届かなかった。









バスから強制退出させられたれいむとまりさは、歩いて〝ゆーえんち〟に向かうことにした。
もっとも、まりさもありすに聞いただけなので遊園地の場所は分からなかったので、とりあえずバスが去っていった方向を目指している。

ぽよんぽよんと跳ねて進むれいむとまりさを、すれ違う人々は嫌悪感の眼差しや好奇心の眼差し、物珍しさで眺めていったりする。
ゆっくりが人前に現れて数年も経つ現在、現れた当初は大騒ぎされたが今ではさほど珍しい存在ではない。
では何故そのように注目するかというと、ゆっくりが珍しいのではなく人の町にいるゆっくりが珍しいのだ。
現れた当初は頻繁に人の生活圏内でも見かけられたゆっくりであったが、

歩道や車道に出て通行の邪魔になる。
無謀な行動によって潰れたゆっくりの死骸が町中に溢れる。
公共施設や公共交通機関に潜り込んでは我が物顔で闊歩する。
人間の所有物であるという概念が理解できず、少しでも隙があれば人間の食べ物を盗んだりする。

などと言った理由で市町村がゆっくり狩りを決行、ゆっくり保健所に収容された。
他にも研究用、ゆっくり製品のための素材用、養殖用などといった理由で乱獲され、野生で生き残っているゆっくりは人の目に付かない場所にいる者ばかりなのだ。
あまりにも乱獲しすぎたせいで、ある市ではゆっくり保護区を制定し野生ゆっくり種の保存に努めている。
もっとも、増えすぎれば問答無用で間引きされているが。

二匹はそんな人間達の視線には気づくことなく、歩を進めていた。

さっきは〝たまたま〟ゆっくり出来なかったが、まりさと一緒なら大丈夫。それに自分も頑張る。
れいむはそう信じながら。
さっきは〝たまたま〟ゆっくり出来なかったが、れいむと一緒なら大丈夫。次こそ頑張る。
まりさはそう信じながら。

だから二匹は気付かなかった。
横断歩道の信号が赤になっていたことに。赤になると人間が足を止めることに。

「ゆっ?」

横断歩道の中ほどまで来てようやくまりさは気付いた。
今まりさとれいむが居る場所は人間達も通っていた。だからまりさ達もそこを通ろうとした。既に誰かが安全に通った場所は安全に通れると思ったからだ。

だがどうだ。
今横断歩道を渡っているのはれいむとまりさのみ。人間達は横断歩道の両端で待機している。

「ゆゆっ? どうしたの? なんでしましまにだれもいないの?」

まりさに遅れてれいむも気付いた。気付いたが、後の祭り。既にれいむとまりさに危険はあと一秒というとこまで近づいていた。
歩道かられいむとまりさに視線を向ける人間達はれいむ達の危険に気付いていたが、誰もそれを教えようとはしない。
ゆっくりが死のうがどうでもいい、と皆が思っているからだ。せいぜい死んだら死骸が邪魔だろうな、としか思わなかった。
ゆっくり愛護派の人間がいたら呼びかけたりしたのだろうが、生憎マイノリティ。今この場には居ない。

ゴォッ!

れいむとまりさのすぐ脇を、鋼鉄の猛獣が走り抜けた。

「「ゆゆっ!?」」

遅れて感じる突風に煽られながら目を向くれいむとまりさ。
そんな二匹の驚愕には一切斟酌することなく、車は次々と走り抜けていく。
幸いれいむとまりさは車道のど真ん中。間一髪といったところではあるが、車に轢かれない安全地帯にいた。

しかし、それでれいむ達が感じる恐怖がやわらぐ訳ではない。

「ゆっぐりじでいっでねぇ!! ゆっぐりじでいっでね!」
「どぼじでゆっぐりじないのぉ!?」

横断歩道の真ん中でオロオロしながら車に呼びかけるれいむとまりさ。もちろん届かない。
ゴォッ、ブォンとすぐ側を走り抜ける車に恐怖しながらも、涙交じりの声で必死に叫ぶ。
車の怖さと、それに当たったらゆっくり出来ないという事は瞬時に理解した。理解したが故に、自分達ではどうしようもない恐怖の暴風に翻弄されている。

れいむは我慢しかねて歩道に向かおうとした。だがその直後に眼前をタイヤが駆け抜けて硬直する。

「はに゛ー! あぶない゛よ゛ぉぉぉ!!」
「だっで、ゆっぐぢでぎない゛よ゛だぁ゛り゛ぃぃぃん!!」

車にぶつかりに行ったように見えたれいむをまりさが押し留める。
そのまりさに向かって滝のように涙を流しながら振り返ったれいむに、まりさは何も言えず、一緒になって涙を流した。

やがて信号が切り替わり、鋼鉄の恐怖から解放された。
歩道にいた人間たちが再び横断歩道を渡り始めたのを合図に、れいむとまりさは一目散に歩道に駆け出す。
人間たちが邪魔と感じて人間たちを避けるように走ったため、幸いにも蹴られることは無かった。
もし人間に向かって走っていったら、蹴り飛ばされるか、最悪踏み殺されていたことだろう。

世間での一般の人たちのゆっくりへの心象はいまや低い。
犬や猫と違って人語を解するため行動原理が簡単に理解でき行動の身勝手さが目立つ、
かつ動物のような純粋さに欠けてゲスのような個体までいるゆっくり。
一時期ゲス行動やゆっくりの身勝手な行動を特集したゆっくり番組が流行ったこともあり、一般的な意見としてはゆっくりは嫌われ者であった。

人間の子供に似ているという意見もあるが、ゆっくり迫害派からすればそれは人間への侮辱といった意見も出る。
人間の子供の場合、身勝手な言動をとったとしても幼いから、自分も通った道だからと見守ったりする。大人になれば分別もつくだろう、と。
だがゆっくりは成体幼体に関わらずだ。人間と違って理性が欠片ほどしかない。
将来性も見込めず、人間ならば子の不始末は親が諌めたり責任とったりするものだが、ゆっくりは親子共々である。
人間でもそのような親子は嫌われたりするのだから、それが種族単位であるゆっくりでは言うに及ばずだ。

それが全ての人の意見ではなく、中にはゆっくりをペットとして飼ったり野生のゆっくりを保護する人もいる。
だが残念ながら、それは少数派だった。
嫌われ者の動物なんて珍しくも無い。ゆっくりもその中の一種。ただそれだけのことだ。

もちろん積極的に迫害したりはしない。稚拙ではあるが人語を解するため、断末魔や悲鳴に罪悪感や嫌悪感を覚える人が多数だからだ。

そのため、せいぜい邪険に扱って近寄らせないか、駆除を専門家に頼む程度。
また、あまり表には出てこないアングラではあるが、ゆっくりを虐待する事が一つの趣味としても確立されていた。

そんな人間たちの事情なんか知らないれいむとまりさは、涙を流しつつも寄り添いながら走っていく。
人々はそんなゆっくり達を即座に意識から追い出した。









経験が活きたのか歩道の真ん中を走ることもなく、横断歩道では他の人の真似をして(人間の邪魔にならないように)信号を守ったれいむとまりさは、
太陽が頂点を過ぎ、昼食時が終わる時間帯になってようやく、運良く遊園地への人の流れを見つけることができた。

「ゆっ、はにー! もうすぐゆっくりできるよ!」
「ゆゆ~♪ さすがだーりん」

先ほどまでの辛い出来事も忘れて目先の楽しみに心躍らせるゆっくり。流石餡子脳、と人は言うが一説によればこの物忘れの良さは一種の防衛行動ではと言われている。
弱い故に生活の中で数多の悲劇に見舞われるゆっくり。人間に近しい思考と精神を持つ身ならば、精神崩壊を起こしても仕方のない程だ。
だから、それを防ぐために嬉しいことがあれば記憶の中でそちらを優先し、辛い事を忘れるのだ。
その上精神的耐久力も凄い。どれだけの精神的に負荷に耐えられるかという実験で、死ぬまでに精神崩壊を起こした個体は百対中二体だけであった。

人の流れを辿りながら、二匹は遊園地の入り口まで辿り着いた。
人が多くてゆっくり出来ないと初めは思ったが、遊園地に行く人や出てくる人が皆一様に楽しそうな顔をしていたことから、ここはゆっくりできるとれいむは思った。

「はにー、ここが〝ゆーエスジェイ〟なんだよ!」
「ゆゆっ、だーりんものしりだね!」

まりさがれいむにそう自慢げに説明していたが、もちろん違う。日本モン○ー○ークの程の小さい遊園地だ。
まりさの知識はもちろんありすの受け売りである。

まりさはここが、〝はねゆーん〟のメインのつもりだった。
ここまで二匹共に苦労してきたが、全てはここのため。れいむと一緒に今日はここで一日中遊んでゆっくりしよう。
そう期待に胸躍らせながら、人に踏まれないようにしつつ入り口のゲートをくぐった。その際、係員がどこかに無線で連絡をした。

「ゆ~! すごぉぉい」

ゲートを通り目に飛び込んできた広大な敷地と数多の人、巨大な建築物に目を輝かせるれいむ。まりさはそんなれいむの反応に満足気に微笑んだ。

「とってもゆっくりできるでしょ?」
「とってもゆっくりできそうだよだーりん♪」

さすがれいむのだーりん、と言いながらまりさに寄り添い頬をすり寄せるれいむ。
まりさは顔を赤くしながら、

「ゆゆっ、はにー。みんなみてるよ~」

と言いながらも自分もれいむに頬を寄せている。
しばらくその場です~りす~りしていたが、折角来たのだから遊ぼうとまりさが提案し、遊園地の奥へと向かおうとした。
しかし、その行動は止められた。れいむとまりさがここでゆっくりする事はまかりならぬ。

どこからともなく、一人の青年が駆け足でれいむとまりさに近づいてきた。青年は遊園地スタッフの制服を着ている。
二匹はそんなゆっくりしていない青年に向け、心からの善意をもって相対した。

「「ゆっくりしていってね!!!」」

挨拶だけでなく、相手にもゆっくりしてもらいたいというゆっくり原初の願い。
その願いは、もちろん届かない。

「「ゆっ!?」」

目の前まで来て屈んで青年に突然掴まれて二匹は同様した。れいむはモミアゲのような房を、まりさは長い金髪を掴まれている。
二匹の同様をよそに、青年は何食わぬ顔でその二匹を持ち上げた。
その際、引っ張られた髪と重力に引かれる体により、髪の生えた頭皮がミチミチと音を立て、

「ゆ゛ぎぃぃぃぃぃ!?」
「いぢゃい゛ぃぃぃぃ!!」

二匹を苦しめた。
ぞんざいに扱われ痛みに身を捩らせるれいむとまりさであったが、僅かにぶら下げられた体が揺れるだけでそれ以外は何の効果も無い。
遊園地スタッフの青年は、そんなゆっくりの涙と痛みからの叫びに顔色一つ変えることなく、スタッフ用の裏口へと向かった。

「ゆびっ!」
「ゆべっ!」

裏口からスタッフの青年に、地面に叩きつけられるように外に追い出された二匹。
顔面から地面に激突したのだが、二匹は痛みを堪えながら立ち上がると、裏口から再び進入を試みた。
だが、れいむとまりさが一歩踏み込んだその瞬間

ドグォ!

と、青年の蹴りが二匹の顔面に叩き込まれた。

「ゆっぐぢぃぃ!?」
「ゆぶびっ!!」

蹴りによって数メートル地面を転がるゆっくり二匹。顔を痛みと涙で歪ませながらも、なんとか再び立ち上がる。
れいむとまりさはそうして再び遊園地に入ろうとしたが、

「さっさと出て行け!」

そう大声を張り上げながら青年に再び蹴り飛ばされた。
口に足を突っ込まれる形で蹴られたため、叫び声をあげることなくまりさが吹っ飛んだ。
れいむはそんなまりさと青年を見ながら、泣いて叫ぶ。

「どぼじでごんなごどずるの゛ぉ!? でいぶだぢはゆっぐぢじだいだげだよぉぉぉ!!」

後ろでゆぐっ、えぐっ、と嗚咽を堪えながら再び立ち上がるまりさを背にれいむは青年へと抗議する。
青年はそんなれいむの行動には構わず、此処へ持ってくる際にも掴んだ髪の房を再び掴むと

「ゆべっ!!」

地面にたたきつけた。

「はに゛ぃぃぃぃぃ!!」

目から液体を撒き散らせながら愛するれいむの許へ駆け寄るまりさ。痛みで呻きピクピクと痙攣するれいむの頬をなめながら慰める。
青年はそんなゆっくりの愛情劇を、二匹ごと蹴り飛ばした。
再び呻き声を上げながら地面を転がっていく二匹は、再び立ち上がった後ようやくここではゆっくり出来ないと理解したのか、青年に背を向けて立ち去っていった。
スタッフの青年はそれを見届けると遊園地内へと戻って行った。

遊園地にゆっくりが居ては景観を損ねる。人を不快にさせる言動をするゆっくりが遊園地にいては、楽しみに来た客に失礼になる。
だから遊園地からゆっくりを追い出した遊園地は、当然の対応であったといえる。飲食店にハエが出るようなものだ。
二匹を追い出した青年は、虐待趣味ではないがゆっくりに暴行を加えることに抵抗を覚えない人間であった。
そのためこの遊園地ではゆっくりの追い出しをよく任されているのだ。

もちろんそんな人間の事情などゆっくりは知らない。
幸せにゆっくり出来るはずだった未来図をぶち壊され、痛みを堪え泣きながら逃げ去るのみであった。
まだまだ〝はねゆーん〟は始まったばかり。
れいむとまりさの新婚旅行は、終わらない。


つづく



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最終更新:2022年01月31日 03:15
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