ゆっくりいじめ系1216 実力の無い話

※俺設定があります。
※他SS様の設定が混じっている可能性があります。
※多少の矛盾な点はありますが、気にしないでいただけると助かります。















『実力のない話』






 ゆっくりからしたら、野菜なんてものは勝手に生えてくるものであり、人間はそれを独り占めする悪い奴なのだそうだ。

「ゆっ! はやくここからだしてまりさをゆっくりさせるんだぜ! はやくするんだぜ!」
「ごはんちょうだいね! そこのおやさいでもいいよ! ゆっくりしてないでさっさとゆっくりちょうだいね!」
「おやさいをひとりじめするじじいがわるいのよ! これだからいなかものはまなーがなってないわ!」
「むきゅー……」

 毎度おなじみゆっくりまりさ(だぜ口調)、ゆっくりれいむ(喋ってること矛盾してるぞオイ)、ゆっくりありす(まなー、ねぇ)、ゆっくりぱちゅりー(相変わらずひ弱そうである)の四種である。
 ちょうどウチの畑を狙ってたようなので、ぱぱっと捕まえて毎度おなじみ透明の箱の中にそれぞれ入れてみました。

「ならば聞こう。野菜は勝手に生えてくるのか?」

 無駄であろうが一応聞いてみる。が、結果は言わずもがな。

「ゆ? あたりまえでしょ? だからさっさとおやさいちょうだいね!」
「なにばかなこといってるんだぜ? ばかなこといってないでさっさとまりささまをここからだすんだぜ!」
「まりさ! きっとこのにんげんはばかだからありすたちのいってることをりかいできないのよ!」
「むきゅー……」

 上かられいむ、まりさ、ありす、ぱちゅりーである。
 れいむ、まりさ、ありすは完璧に野菜は勝手に生えるものだと思い込んでいるようだ。だが、ぱちゅりーの反応だけは他のと異なっている。
 さすがゆっくりの中でも頭のいいぱちゅりー種、野菜は勝手に生えるものではないと理解しているようだ。
 俺はぱちゅりーを除いた三体に問うた。

「じゃあなんで『勝手に生えてくる野菜』が、人間の畑でしか見ることができない?」

「にんげんがひとりじめしてるからでしょお!?」
「ゆっへっへ、やっぱりこのにんげんばかだぜ! なあれいむ!」
「そうだよ! ばーかばーか!」
「そうよそうよ! このいなかものー!」
「むきゅー……」

 ぱちゅりー、さっきから同じセリフしか言ってないよ。
 ふむ、この一団の力関係が見えてきた。まずれいむがいて、まりさはそのれいむに気がある。そのまりさにありすは好意を抱いている、といったところか?
 れいむはあまり頭がよくないようだが、他の三体よりやや体が大きいところをみると、この四体の中では一番強いのかもしれない。
 まりさはとにかく自己中心的。あとキミ、他人のことバカバカ言ってるとしっぺがえしが恐ろしいことになるよ。
 ありすはまりさに依存しているようである。ありすがまりさに気があるのならば、もしかするとまりさはガキ大将的な立場なのだろうか。それでれいむとありすを引っ張っている?
 ということは、ぱちゅりーは他の三体に無理やりつれまわされてるいじめられっこ的な立場ということか。

 少し読めてきた。
 ここの近くにはドスまりさの率いる群れがいるらしい。この四体はその群れでドスの言いつけを守らずに人間の畑を襲おうとした、若い連中だろう。
 ぱちゅりーはドスの言いつけを理解していながらも、他の三体に無理やり連れてこられた、といったところか?
 自分の意見を言えるほどの度胸もなく、付いていかなかったことで仲間はずれにされることも怖がる。
 そして他の個体よりなまじ知恵があるから罪悪感を、いや、死への恐怖を感じて泣いている。
 そう、ぱちゅりーは泣いていた。他の三体は俺に罵声を浴びせることに夢中で気付いていないようだが。

「ぱちゅりーは理解しているんだな」
「むきゅ……」

 俺がぱちゅりーに話しかけると、ぱちゅりーは縮こまった。俺怖がられてるなぁ、まぁ仕方ないか。
 しかし他の三体は一斉にぱちゅりーの方を向き、何故か罵倒し始めた。

「ゆゆっ!? ぱちゅりー、どういうことなんだぜ!? まさかまりさたちをうらぎったのかだぜ!?」
「どうしてれいむたちをうらぎったのぉ!? ばかなの!? しぬの!?」
「とかいはのありすたちをだますなんてぱちゅりーはとんだいなかものね!」

 いやいや待て待て、ぱちゅりーが何をどう騙して裏切ったんだよ。……とツッコミをいれたいが、どうせ無駄なので黙っておく。
 他の三体からいわれもない裏切りの罪を問われるぱちゅりーはというと、静かに涙を流していた。多分、こんな経験は一度や二度ではないのだろう。

「ないてないでどういうことかせつめいしてね、ぱちゅりー!」
「ないてすむんならどすはいらないんだぜ!」
「ほんとうにぱちゅりーはいなかものよね!」

 ああ喧しい。五月の蝿みたいだ。
 あとありす、おまえいなかものいなかもの連呼しすぎ。おまえは新しい言葉を知って喜んでそれを連呼する子供か。……ああ、子供以下の知能だっけか。

「よし、ぱちゅりーは解放してあげることにしよう!」
「むきゅ!?」
「ゆ゛っ!? どぼじでぞんなごどいうのぉぉぉぉぉぉぉ!?」
「ゆっ! やっぱりぱちゅりーがうらぎったんだぜ! うらぎりものはぜったいにゆるさないんだぜ!」
「おにーさんそんないなかものぱちゅりーよりもとかいはなありすたちをかいほーしてね!」

 うん、予想通りの反応……だが、ぱちゅりーを解放すると言ったのにそのぱちゅりーがガタガタ震えてるのはどういうことだ。

「ぱちゅりーは群れに戻りたくないのかい?」
「むきゅ……もどりたいけど……」

 他の三体のほうをチラリと見る。なるほど、ここで一人だけ戻ったら、後でこの三体にいじめられるんじゃないかと恐れてるわけか。饅頭社会も世知辛い。
 しかし俺はそんなゆっくりの事情なんか知らないね。ぱちゅりーを透明箱から出してやり、地面に置く。

「ほら、さっさと帰りなさい」
「むきゅ……むきゅぅ……」

 おー困ってる困ってる。他の三体は相変わらず罵倒を続けてるし、ぱちゅりーは今にもクリームを吐き出してしまいそうだ。
 しかしここで、俺はぱちゅりーだけに聞こえるように囁いてあげた。何がなんでも帰らなくてはいけなくなる魔法の呪文である。

「もたもたしてると、れいむとまりさとありすを殺しちゃうよ?」
「むきゅ!?」
「ドスを呼ぶといい。ドスがここに来たら、この三体を無事に帰してあげよう。もちろん君がいじめられることはない。さぁ、早くいきなさい」

 殺す、という言葉に青ざめたぱちゅりーは慌てて森の方へぽよぽよと跳ねていった。体の弱いぱちゅりーだ、ゆっくりの中でもそのスピードは特に遅い。それでもぱちゅりーの必死さはここからでもよく見える。
 しかし残念なことに、俺は嘘吐きなのである。
 ぱちゅりーがもたもたしていてもしていなくてもこの三体が死ぬことに変わりはないし、ぱちゅりーがいじめられることにも変わりはない。
 何より、ドスが俺の家に来ることはできない。
 ぱちゅりー、君が理解していようと、ゲスなゆっくりに無理やり連れてこられたのであろうと、畑を襲おうとしたことは事実なんだよ。その報いは、受けなければならないんだ。
 逃げ出したぱちゅりーを罵りながら騒ぐ三体を無視して俺は隣人の家に行き、その家にいる『彼ら』に合図を送った。
 これでドスの群れが一つ全滅するだろう。『彼ら』はゆっくりと全力で跳ねていくぱちゅりーをゆっくりと追跡し始めた。
 こっちはこれでいい。俺はゆっくりを三つ得たのだ、かねてから行おうとしていた実験ができるからそれでいい。
 必死のぱちゅりーをゆっくり追いかけていく虐待お兄さんたちを眺めながら、俺は自分の家に入った。



 早速畑を囲む柵を確認する。この柵によってゆっくりは畑に侵入することはできず、畑の中のゆっくりは逆に外には出られない。
 うーパックによる侵入に対してはなすすべもないが、このあたりにうーパックが出没したという話は聞かないのでまだこのままでもいいだろう。
 もちろん柵はドスまりさでもなければ壊すことはできない。
 俺は部屋に入って、飼っているゆっくりゆうかを呼んだ。

「おーい、ゆうかー」
「ゆー……、おにーさんなんのよう?」

 昼寝していたところを起こされたからか、少し機嫌が悪そうだ。
 普通ゆっくりの間で異端とされるゆっくり種は、時々人間に飼われることがある。
 捕食種であり、ゆっくりを餌とするゆっくりれみりゃやゆっくりフラン。
 畑の番人として使われるゆっくりめーりん。
 ゆっくりを嫌い、ゆっくりをゆっくりさせないことに全力を注ぐきめぇ丸。
 そして農耕の知識を持つゆっくりゆうか。
 ウチで飼ってるゆうかは何ヶ月か前に怪我していたところを拾い、それから畑の野菜を育てるのを手伝ってもらっている。
 最初は俺のことを警戒していたが、今はそこそこの仲だ。

「ゆうか、畑の大根の収穫は明日だよな」
「うん、そうだよ。それがどうかしたの?」
「明日収穫したら、ゆうかにもう一度働いてもらいたい」
「……なんで?」
「身の程知らずアンド野菜が勝手に生えると勘違いしている連中に思い知らせてあげようと思うのですよ、ゆうかりん」

 そう言いながら例の三体の入った箱を指すと、ゆうかの口が吊りあがった。
 あまり知られてないことだが、ゆうかは捕食種だ。それも、他のゆっくりを虐めることが大好きなドSゆっくりである。
 特にこのゆうかは、かつて自分の畑を他の無知なゆっくりに食い尽くされたことでゆっくりへの憎悪が一割り増しの素敵なゆうかである。

「ゆ、わかったよおにいさん。ゆうかりんがんばるね」
「がんばってくださいねー、と」

 まずは例のゆっくりトリオの箱を畑の前に置いた。
 ゆうかや俺の愛(?)がこもった畑に広がる大根に、ゆっくりがまた騒ぎ出す。

「ゆゆっ、すごいね! おじさんはやくれいむにそこにはえてるおやさいちょうだいね! ぜんぶくれてもいいよ!」

 やっぱりこのれいむ、頭悪いねぇ。まぁこれがゆっくりのスタンダートなんだから仕方が無い。しかし全部よこせとは図々しい。

「おじさん! このいだいなるまりささまにおやさいをよこすんだぜ! そしたらゆるしてあげないこともないんだぜ!」

 ゆっくりに赦されてもなぁ。ありがたみが感じられない。

「いなかもののおじさんはさっさとありすたちにとかいはなおやさいをちょうだいね!」

 都会派な野菜ってなんだよ。
 ううむ、どうやらこの三体はどうも頭がよくない個体のようだ。
 体は成体に近いが、どうやら体が大きいだけでまだ子供の域を出ていないようである。
 多分妊娠型出産での誕生で、生まれてまもなくに狩りを成功させた感じだろう。確認のために聞いてみる。

「ところでおまえら、群れの中じゃ狩りはうまいほうなのか?」
「ゆ? そんなことはいいからおやさいを──」
「答えたらそこに生えてる大根を一本くれてやる」
「ゆゆっ! れいむもまりさもありすも、かりはだいとくいだよ!」
「ゆっへん! むれのなかでもまりさたちのかりのうでまえはおとなかおまけなんだぜ!」
「とかいはのありすたちにかかればらくしょーよ!」

 あっさりと釣れた。
 狩りを行うゆっくりはまず体力が必要になる。そして食物を口の中に溜め込むために、必然的に体の方も大きくなろうとする。
 狩りをしている途中でつまみ喰いとかしていれば、自然に他のゆっくりよりも成長は早くなるだろう。
 もうひとつ、妊娠型出産は植物型出産とは違い、親の記憶を多く受け継ぐ。それによって狩りに必要な知識を受け継げば、早いうちから狩りを行うこともできるだろう。

「ということは、おまえらは群れの中じゃリーダーに近い位置にいたのか」
「ゆっ! りーだー? りーだーはどすだよ?」
「ゆゆっ、たしかにどすはりーだーだけど、まりささまのほうがよっぽどりーだーにふさわしいぜ!」
「そうよ! れいむもありすもぱちゅりーも、ちぇんもみょんもみんなまりさがりーだーとみとめてるわ!」
「ゆっ、そうだね! りーだーはまりさだね!」
「ゆっへん!」

 なるほど、他の個体よりも狩りのうまいこの三体はやはりガキ大将のような立場だったようだ。
 ……無謀なだけのこのだぜまりさがドスより優れているとは思えないが。
 さて、約束通り大根を一本持ってきて、三体の目の前に転がしてやった。虫に食われたやつだが、ゆっくりからしたらこんなくず野菜でもご馳走だろう。
 箱から三体を出してやると、あっという間に大根に群がり、ほぼ一瞬で大根が消えた。物凄い食欲である。

「おじさんもっとちょうだいね! こんなんじゃぜんぜんたりないよ!」
「もっとおやさいをよこすんだぜ! いたいめみたくなかったらさっさとよこすんだぜ!」

 約束は大根一本なので無視。約束は破ってはいけません。
 が、ここでありすがとんでもない発言をしやがった。

「ゆっ! なにいってるのふたりとも! おやさいならめのまえにたくさんあるじゃない!」
「ゆゆっ? そういえばそうだったね!」
「きがつかなかったんだぜ! さすがありすだぜ!」

 おいこらキミタチ、その畑の持ち主の目の前でなんつーことを。足蹴にされて潰されても文句は言えないぞ。
 というわけでぱぱっと再び透明箱の中に戻してやる。

「ゆーっ! ここじゃゆっくりできないよ!」
「はやくまりささまをだすんだぜ!」
「こんなのとかいはじゃないわ!」

 無視。

「はーい静粛に。君たちには特別に大根をプレゼントしよう」

 ゆっくりどもがまた何かわめくが、完全無視でルールを押し付けてやる。

「ただし、その大根はおまえらが自分で育てること。あるヒトに譲ってもらった特別な種で、三日間大事に育てればそれはもう立派な大根が出来上がる。
 ちゃんと水を与え、肥料を与え、愛を込めればとても美味しい大根になる。
 で、だ。おまえらとは別の畑で、ゆうかが同時に同じ種を育てる。参考にするといい」

 ゆうかがぽよんぽよんとはねてくる。その姿を三体の前に晒した途端、三体がまた喚き出した。

「ゆっ! ゆうか!?」
「ゆゆっ! おはなをひとりじめするわるいゆっくりだぜ!」
「ぜんぜんとかいはじゃないわ!」
「おまえらの隣で、このゆうかがおまえらとまったくの同条件で大根を育てることになる。理解した?」
「ひとりじめするゆうかはゆっくりしね!」
「おはなをぜんぶまりささまたちによこすんだぜ!」
「いなかもののゆうかはゆっくりしんでね!」

 理解してくれないようです。
 どうしようかとゆうかの方を見ると、ゆうかは三体を鼻で笑った。

「ゆううーっ! いまれいむたちのことばかにしたでしょ! ゆうかのくせにぃぃぃぃ!」
「あやまってもゆるさないんだぜ! このまりささまのちからでじきじきにころしてやるんだぜ!」
「とかいはのありすのぜつみょうなてくにっくでしぬまでいかせてあげるんだから!」

 うわー、こいつらあっさりとゆうかの挑発にひっかかっちゃったよ。冷静さが足りてないな。若い。
 本来感情に任せやすいれいむ、まりさ種をたしなめる役の頭がいいぱちゅりーはいないし、冷静であるべきはずのありすはレイパーの片鱗を見せてしまっている。
 そんな三体の罵詈雑言をやっぱり無視して、ゆうかは部屋に戻っていった。
 ゆっくりを相手にするときの一番の手段は、無視することである。
 俺もゆっくりどもを無視して部屋に戻った。暇な時間は読書で潰してしまおう。



 翌日、早速大根を収穫した。普通の農家の人の畑に比べたら狭いが、それでもゆうかのおかげでなかなか品質のいい大根を収穫することができた。
 俺の大切な収入源である。昨日から同じ場所に置いておいた三体のようなゆっくりに食わせる大根なんて無い。

「ゆゆっ! みてみんな、じじいがありすたちのだいこんをもっていこうとしてるわ!」
「ゆっ! ほんとうなんだぜ! おいじじい! なにかってにまりささまのだいこんをもっていこうとしてるんだぜ!」
「ゆーっ! むししてないでこたえてね!」

 ついにじじいに格下げのようだ。あとこの大根はもともと俺のだ。
 収穫し終わった野菜をまとめて蔵に入れ、戻ってくると、ゆうかが三体に向かって再度ルール説明をしていた。

「れいむ、まりさ、ありす。あなたたちはだいこんをつくってもらうわ」
「ゆゆ? なにいってるの? だいこんさんはかってに──」

「だまれ。ゆうかりんのはなしをきけ」

「ゆっ!?」
「ひるむんじゃないぜれいむ! ゆうかなんてさいきょーのまりささまにかかればいちころなんだぜ!」
「そうよ! きっとありすたちよりよわいから、こんなはこのなかにとじこめてるのよ!」
「ゆっ、そうだったんだね! ゆうかはよわかったんだね!」

 何度も言うようだが、ゆうかは捕食種である。当然一般種じゃ相手にならない。ただ狩りをしてはねているだけのゆっくりとは違う。
 一日に何度も水場と自分の畑を往復する運動量、外敵から畑を守らなければならないという必要な進化、それらによってゆうかはかなりの強靭な種となった。
 1vs3程度の戦いなど、ゆうかにとっては普通種狩りと同然である。さすがにドスや他の捕食種が群れで襲ってきたらひとたまりもないが。
 力量の差を見抜けない三体に哀れな視線を向けながら、ゆうかは続けた。

「たねをつちにうめればみっかでだいこんになるよ。でもちゃんとみずをやって、ひりょうをあげないと、だいこんにはならないよ。ちゃんとそだててね」

 そこまで言うと、ゆうかは畑に飛び降り、俺の方を見た。
 早速俺はこの日のために加工場から譲ってもらったものを持ってきた。
 とても大きな、透明な板である。廃棄処分になっていたものを、俺がそこそこの値段で買い取った。
 これを畑を分断するように地面に垂直に設置し、向かって右側にゆうか、左側に例の三体を置いた。

「よーしおまえら、今から種をやろう」

 三体とゆうかにそれぞれ、かの大妖怪、風見幽香女史にお願いして譲ってもらった特殊な種の入った包みを渡す(この種を使う目的を話したら、意外とあっさりとくれた。意外といいヒト?)。
 ゆうかは包みをもらうと早速口でくわえて、自分の畑の真ん中に持っていった。
 三体の方はというと、包みを不思議そうに眺めている。

「なんで人間の畑でしか野菜がとれないと思う?」
「ゆ? だからそれはにんげんがひとりじめしてるからでしょ? そんなこともわからないの? ばかなの?」

 馬鹿はおまえだろとは突っ込まない。

「理由を教えてやろう。おまえら、花の種くらいは見たことあるだろ」
「ゆっ?」
「ゆゆっ、ありすはみたことあるわ! どすのそっきんのぱちゅりーがいってたよ、はなのたねをじめんにうえておけば、はながさくんだって!」
「ゆっ、ほんとうかだぜ! さすがありすだぜ!」
「その通りだ。つまり、人間の畑にしか野菜が無いのはな、野菜の種を人間が持っているからなんだよ」
「「「ゆゆゆっ?」」」
「で、その包みの中に小さな粒があるだろ。それが野菜の種だ。それを土に埋めて、水をかけて、肥料をやれば野菜ができる」

 物凄くアバウト。だが、三体はこれだけで理解してくれたようだ。

「ゆっ! じゃあそのたねをうえればおやさいになるんだね! じゃあはやくたねをちょうだいね!」
「れいむ! このくろいのがたねみたいだぜ!」
「ゆゆ? じゃあそのたねをゆっくりとうめようね! おやさいがたべほうだいだよ!」
「とかいはね!」
「「「ゆっくりしていってね!!!」」」

 畑の前に水の入った桶を置いてやる。その隣に肥料を団子状にしたものも置く。

「肥料はこれだ。これを種と一緒に埋めれば、よく育つ。あとは定期的に水をかけてやるといい。その種は特別製で、すぐに水を吸い取っちまうからな」

 一番重要なことをさらりと言ってみたが、案の定三体とも聞いてない。
 それどころか、ゆうかに攻撃しようとする始末である。

「ゆゆっ! あのゆうかもおやさいのたねをもってるよ!」
「ねぇまりさ! ゆうかのたねももらっちゃいましょうよ! いなかもののゆうかがたねをもってるひつようなんてないわ!」
「ゆっ! そのとおりなんだぜ! おいゆうか! そのたねよこすんだぜ!」

 ゆうかはまりさの言葉を無視して、大根の種を埋める作業をしている。

「ゆううーっ! むしするなだぜ! ゆぎゃっ!?」

 あっ、飛び掛った。でも透明板のおかげで体当たりをしようとしたまりさのほうがダメージを受けている。

「ゆうっ! まりさ、ここにみえないかべがあるよ!」
「ゆゆっ! ほんとうなんだぜ! しゃらくさいんだぜ!」
「ぜんぜんとかいはじゃないかべね!」

 しかし今ので学習してくれたのか、透明板に攻撃するような真似はしなくなった。畑から家の中には入れないようにしてあし、しばらくはこのままでも大丈夫だろう。
 俺は昨日の戦果を聞くために、隣人の家へ向かった。



 隣人の家で昨日の戦果であるゆっくりたちを見せてもらい、その足で上白沢先生に報告しに行き、ゆっくり羊羹を買って、我が家に帰った頃には既に日が大分傾いていた。
 畑のほうを除くと、ゆうかが種を植えた場所に口に含んだ水をかけており、ゆうかの方は順調のようだ。
 で、三体の方はというと。

「おいじじい! なんでここにはくさしかはえていないんだぜ!? はやくたべものをもってくるんだぜ!」
「おなかすいたわ! はやくとかいはのありすたちにでぃなーをもってきてちょうだいね!」
「かわいいれいむたちがおなかすかせてるっていうのになんにもださないなんてばかなの!? しぬの!?」
「……おいおまえら、隣のゆうかを見てみろ。ゆうかは何か食べたか?」
「ゆうかにはたべものをださなくてもいいよ! ゆっくりとしんでね!」
「そうだぜ! ゆうかみたいなくずにたべものをやるなんてもったいないんだぜ! まりささまがぜんぶたべてやるからはやくもってくるんだぜ!」
「いなかもののゆうかにだすたべものはないわ!」
「なんだおまえら、ゆうかにも出来る程度のことがおまえらは出来ないのか。おまえら全然ゆっくりしてねぇな」
「ゆっ!? れいむたちはゆっくりしてるよ! ばかなこといわないでね!」
「そうだぜ! これほどゆっくりしてるゆっくりはまりささまやれいむやありすいがいにありえないんだぜ!」
「だからゆっくりできないいなかもののじしいはたべものをありすたちによこして、ゆっくりとしね!」

「黙れ饅頭。ゆうかもそこらに生えてる雑草で我慢してるんだ。おまえらは大根育てて、それを食ってればいいんだよ」

 見ると、畑のほんの一箇所だけ水分が枯れ果てている。……水遣りを忘れたな。それに一箇所に種を集中して埋めてしまっている。こんなんじゃまともな大根は育たない。
 ゆうかのほうを見ると、しっかりと間隔をとって種を植えて、十分に水を与えているようだ。これならば三日後には立派な大根になるだろう。



 二日目、ゆうかの畑に芽が出た。
 三体は自分たちの畑のどこに種を植えたか忘れたようで、やがてお互いをののしりだした。

「どうしてわすれちゃったのぉぉぉぉぉぉぉ!!?」
「ふん! うめたのはれいむとありすだぜ! まりささまはわるくないんだぜ!」
「なにいってるのよぉぉぉぉぉぉ! うめたのはまりさじゃないのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 うわぁ醜い。
 その後いつの間にか三体の意見は「じぶんたちをうらぎったぱちゅりーと、おやさいをひとりじめするゆうかがわるい」ということになったらしい。なんでだ。



 三日目。ちゃんと育てれば今日の昼ごろに収穫できるはずだが。

「おー、ちゃんと育ってるな」

 ゆうかの畑にはそれはもう見事な大根が並んでいる。ゆうかもこんなに早く成長したことに驚いているようだ。
 で、例の三体の畑はというと、枯れた部分は一日目とまったく変わらず、もう駄目だろう。三体はというとそれでもぱちゅりーとゆうかを罵り続けていた。元気だなぁ。

「なんだよおまえら、ちゃんと育てなかったのか」

 三体に呼びかけてやると、一斉に矛先をこっちに向けてきた。

「なんでうそついたのぉぉぉぉぉぉぉ!?」
「何がだよ」
「ありすたちのおやさいがはえなかったわよ! なのになんでゆうかのところはおやさいはえてるのよぉぉぉぉぉぉ!」
「だって水やらなかったじゃん」
「そんなのしらないよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! だったらじじいがみずあげればよかったんでしょおおおおおおおお!?」

 聞く耳持ってくれねぇ。ああ畜生、失敗だ。
 もっと計画を練るべきだった。本当は野菜は勝手に生えるものじゃないことをちゃんと理解させつつ、餓死させようとしたのに。
 他のベテランはもっとうまいやり方を思いつくんだろうか。畜生、種をくれた幽香女史に申し訳が立たない。
 ああ畜生、この未熟者め。

 思いっきり、れいむを蹴飛ばしていた。
 一瞬で砕けた歯。足は口を蹂躙し、あっさりと餡子を貫き、柵まで吹き飛び、破裂する。

「──ゆ?」
「……ゆ?」

「……おにーさん、おちつきなよ」

 一瞬の出来事に固まるありす。何が起きたのか理解できないまりさ。
 呆れたように俺に言葉をかけてくれるゆうか。うん、落ち着いた。

「やっぱりさぁ、大した実力も無い奴が大掛かりなことしようとしてもさぁ、無駄だよな。そう思わない?」
「あ……あああ…………!!」
「れ、れいむが、れいむが」
「だから」

 魚のように口をパクパクさせているありすを鷲掴みにして透明箱に詰める。畑を隔てていた透明板も片付ける。

「やっぱり」

 ゆうかの畑の大根も全部収穫する。


「こうしようか」


 ありすのカチューシャを奪って踏み砕き、まりさの帽子を奪ってビリビリに破いた。


「や゛へ゛て゛えええええええええええええ!!!」
「ま゛り゛さ゛の゛ほ゛う゛し゛か゛あああああああああああああああああッ!!!」

「はいこれで君らは群れには戻れなくなりました」

「こ゛ろ゛し゛て゛や゛る゛!!! こ゛ろ゛し゛て゛や゛る゛ううううううううううううううう!!!」

 今まで呆然としていたまりさがようやく動き出した。
 全身をバネに、俺の脚に体当たりする。だが、多少の重みを感じるだけで、ダメージはまったくのゼロだ。
 弱い。さすが饅頭、清々しいまでの弱さである。

「まぁ落ち着けよ。おまえの帽子、戻してやらんこともない」
「ゆ゛うっ!?」
「簡単だ、そこのゆうかに勝てばいい」
「ゆうかはゆっくりとしね! まりささまのちからでぎったぎたにしてやるんだぜ!」

 うおお、さすが餡脳、ここまで切り替えが早いとは思わなかった。しかもゆうかが帽子を破ったことになってるし。
 さて、俺はありすをいじりながら、ゆっくりとまりさvsゆうかを眺めることにしようか。
 とはいっても、一方的すぎるけど。

「ゆうかはしねぇぇぇぇ!」
「おそい」
「ゆびぃ!?」

 早速渾身の体当たりをかわされた上に、横から思いっきりゆうかに体当たりされて吹っ飛ぶまりさ。
 まぁ、ゆっくりだしね。遅いのも無理はない。

「まりさぁぁぁぁぁぁぁ!? どうしてええええ!?」
「それはね、弱いからだよ」
「いだいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 ありすの髪の毛を一本ずつ引っこ抜きながら、まりさがゆうかにフルボッコされている姿を眺める。
 おっと、まりさは俺の「弱い」という言葉に反応したようだ。

「まりざざまはぁ……よわぐなんが、ないんだぜぇぇぇ……! まりざざまはぁ……さいきょうで、てんさいの、むれのりーだーなんだぜぇぇぇぇ……!」
「よわいよ。ものすごくよわい。しかもあたまわるいし。『ちるの』いかだよ」
「ゆぎいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!? ていせいするんだぜぇぇぇ! いだいなるまりささまがあのまるきゅーちるのいかなんてありえないんだぜええええ!!」
「というか、ちるののほうがまりさよりよっぽどつよいし、あたまがいいよ。ばかでよわいまりさのほうがまるきゅーにふさわしいよ」
「ゆがあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 ゆっくりちるの。俺は見たことがないが、ほんの僅かだが氷を操る力を有すゆっくりらしい。
 なんでも一般ゆっくり種はちるのは弱くて馬鹿であるという認識で、ゆっくりめーりんと同等に差別されているため、希少種扱いされているそうだ。
 そのゆっくりちるの以下と言われたら、そりゃ怒るだろうな。人間だって、ゆっくり以下とか言われたくはない。

「それにりーだー? りーだーはどすじゃないの?」
「ふん! いつもすのおくでめいれいだけしてるどすなんてりーだーのうつわじゃないぜ!」
「まりさもりーだーのうつわじゃあないね。よわいし、ばかだし、ゆっくりできてないし。そんなのでよくいきてこられたね」
「まりささまはよわくなんかないんだぜぇぇぇぇぇ!!」
「じゃあなんでゆうかにもかてないの? いっておくけど、ゆうかよりつよいゆっくりはたくさんいるよ。よくそいつらにであわなかったね」
「ゆ゛ぅっ!?」
「そしてゆうかりんはどすまりさにはかてないわ。ねぇまりさ、どすにはかてるの? どすにかてないのに、ゆうかりんにかてるとおもってたの? ……ばかだね」
「ゆぎぃぃぃぃ……!!」

 さすがゆうか、言葉責めである。まりさは今にも怒りのあまり憤死しそうだ。

「ああ、ちなみに君らの群れのドスはもう死んだよ」

 横槍補足。ありすは髪の毛を毟られる痛みを忘れて呆然とし、まりさも驚きのあまり白目を剥いた。

「そして君らが連れてきたあのぱちゅりーだがね、踏み潰されて死んだそうだ」
「ど……」
「ん?」
「どぼじでごんなごどずるのおおおおおおおおおおおおおおおおお!!?」

 半狂乱で叫ぶありす。俺はため息を吐いた。

「おまえらが」
「ゆぎぃぃぃぃぃぃ!?」

 ありすの髪の最後の一房をまとめて引っこ抜いた。禿げ饅頭の完成である。

「じぶんのじつりょくもりかいしないで」
「ゆげぇっ!」

 ゆうかがまりさを一気に体当たりで吹っ飛ばした。あのまりさはそろそろ精神的に限界がくるだろう。
 無根拠な自信は、実力とは不相応な自信は、壊されたほうがいい。

「……人間に勝てると思ったからだよ」
「ゆうかりんにかてるとおもったからだよ」


 何故ゆっくりはこうも愚かなのだろう? 俺はふと考える。
 ただの生ける饅頭なのに、自然を蹂躙し世界に生き延びようとした人間に勝てると豪語する。
 すべてが無限であるわけがないのに、植物はひとりでに生えてくるものと思い込んで貪り尽くす。
 結果、人間に殺される。餌が足りなくて餓死する。
 獣ですら自らより強いものには敬意を払い、食物を底が付くまで食い散らかしたりはしないというのに。
 ……いや、こいつらはただの饅頭。獣と同等などありえないことだ。
 ごめん、森の獣たちよ。



 俺の計画はあっさりと失敗した。
 そのことを手土産と一緒に幽香女史に報告しようと人里に来ると、幽香女史は花屋にいた。

「あら。種はどうだったかしら」
「申し訳ありません、失敗してしまいました」
「そう」
「お詫びといっちゃなんですけど、これをどうぞ」
「……あら」

『ゆっきゅりしちぇいっちぇね!!』

 木箱に入っているのは、ありす種とゆうか種の赤ゆっくりがそれぞれ五体ずつである。
 あの後、ありすの安いプライドをぶち壊すために、発情させた禿げありすをゆうかに向かわせた。
 ゆうかはかつてレイパーありすの群れに襲われかけたことがあるらしい。その時と比べると今の禿げありすは何も感じないに等しいとのことで、逆にありすの方をにんっしんさせてしまった。
 植物型妊娠で子を宿したありすはレイパーとしての自信も砕かれたまま黒ずんで朽ち、ありす種を五、ゆうか種を七ほど成して死んだ。
 ゆうかは「あかちゃんはふたりがげんかいだよ。のこりは……ゆうかのあかちゃんをゆっくりさせてくれるひとに、おねがい」と言っていた。
 本当なら七体とも(ありす種は勘定に含まれていない)育てたかっただろう。しかし、子育て経験の無いゆうかは七体もいっぺんに育てるのは難しいことを理解していた。
 そんなわけで、幽香女史である。ゆうか種は草花を育てるゆっくり、彼女のお気に召すと信じることにしよう。ありす種はおまけだ。
 少しびくびくしながら木箱を渡すと、幽香女史は花のような微笑を見せた。

「それじゃあ、有難く頂戴するわ。また何か必要になったら言いなさい」

 幽香女史、意外といいヒトだ。

 ……後に彼女の妖怪としての恐ろしさを知るのは、ゆっくりとは関係ないまったく別のお話。
























   *   *   *   *   *   *

 時間は少しさかのぼる。

 木々の生える道を一体のぱちゅりーがはねていた。
 そう、例の三体に無理やり連れられた気弱なぱちゅりーである。
 彼女は急いでいた。早くドスを連れてこないと、あの三体を死なせてしまう。
 人間の足なら十分もかからない道を、ぱちゅりーは一時間近くかけてたどり着いた。それでもゆっくりの移動速度、特にぱちゅりーの病弱さから考えると驚異的である。

「むきゅっ……ゲホッ、ようやくさとがみえてきたわ……」

 彼女の視界の先には、ぱちゅりーたちが暮らすドスの里が見えていた。さぁ、もうひとふんばり。
 ぱちゅりーは気力を込めて、跳ねようとした
                     が、人間の足が、思考する時間も、痛みを感じる暇も与えず、ぱちゅりーを踏み潰していた。

「残念だったねぇ」



 深く広く掘られた洞窟、その最奥でドスは群れの巣が全て完成したことをゆっくりたちと喜び合っていた。

「むきゅ! これでようやくゆっくりできるわ!」
「かりでたくさんたべものをとってこれたし、ここはほんとうにゆっくりぷれいすだね!」
『明日には人間さんのところにいって協定を結んでもらうよ! これで本当にゆっくりとできるね!』
「むきゅ! がんばりましょーね!」
「「「「「「「「ゆっくりしようね!!!」」」」」」」」

 この群れは一週間ほど前、この人里近い森の中に移動してきた。
 以前いた場所は草木や昆虫を食い潰し、何もかも無くなってしまったのだ。もちろんそれは後先考えずにゆっくりした結果である。
 しかも悪いことに、このドスは体が大きいだけであまり頭がよくなかった。前の森が荒れ果てたのが自分たちのせいだという自覚を持っていなかった。
 実質この群れを仕切っていたのは側近のぱちゅりーであるが、それでも前の森が荒れ果てたのは仕方が無いという考えの持ち主であった。
 側近ぱちゅりーはこの群れのドスが知らなかった、ドスの群れが人間たちと結ぶ不可侵協定を知っており、それでドスの側近に選ばれたのである。
 まぁ、そんなぱちゅりーの裏話も、ほとんど意味を成さなくなるのだが。
 そう、この巣に近づく虐待お兄さんの集団によって、意味は剥奪される。

「……ゆ! にんげんだよ!」
『ゆ? 人間さん?』

 数十人の男性が洞窟に入ってくる。
 先頭に立つ、みょんな雰囲気を漂わせる男が囁くように言った。

「ドスまりさ君。こんな話を知っているか?」
『ゆゆ?』

 突然問われて、不思議がるドス。まわりのゆっくりたちは心配そうだ。

「荒れ果てた森の中を、一人の男が歩いておった。その男の名は──」

 男たちが、一斉に思い思いの武器を取り出した。
 あるものは竹槍、あるものはトンカチ、あるものはスプーン、あるものは鍬、あるものはパチンコ、あるものは包丁、あるものは己の拳、あるものは──
 ゆっくりたちは戦慄というものを生まれて初めて味わうことになった。
 彼らの武器、衣服にこびりついているあれは、あれは、あれは、

「虐待お兄さん!」

 ゆっくりたちの、中身ではないか。

「ゆひぃっ!?」
「ゆゆゆゆゆゆゆ……」
「な、なんてこと……」
『ゆぎぃっ……!』

「虐待お兄さんの右手には黒い武器、その先に突き刺さりたるゆっくりもまた黒く……、
 …………何が面白いのかね」

 あんただよ。というツッコミはなかった。
 胡散臭い男は続けた。

「虐待お兄さんの諸君、足に根っこがついておるんじゃないのか?
 ……追跡は終わった。これからは──

 ────虐待<ライブ>だ」

「「「「「「「「ヒャア! 虐待だぁ!」」」」」」」」

 男たちに攻撃を仕掛けようと飛び掛るゆっくりたちは一瞬で潰され、先ほどまで巣が完成したことを喜んでいたゆっくりたちはパチンコの弾丸に潰されていく。
 側近のぱちゅりーはある男に捕まり、別の男によってドスが何事か言う前に、何かを注射する。
 あまりにも唐突な出来事に思考が追いつかないドスは、追いつかないまま、意識を失った。





 ドスが目を覚ますと、洞窟の中には何もなかった。

『……ゆ?』

 側近のぱちゅりーもいない。みんなどこにいったんだろう?
 ふと、洞窟の入り口に誰か立っていることに気付いた。

「ボンソワール、マドモワゼル。そんな浮かない顔をして、何事かお悩みかな?」

 その男は。その男は。
 その男の靴には、ゆっくりの中身がこびりついて──

『ゆがあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?』

「はぁっはっはっはっはっはっ! はぁっはっはっはっはっはっ!」

 高笑いする男。こびりついた餡子。
 頭の悪いドスでも理解できた。「ゆっくりできない」。「みんなゆっくりできなかった」。

『どぼじでごんなごどずるのおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?』

 ドスが叫ぶ。男は途端に哀しそうに目を伏せた。
 そして、囁くようにドスに語りかける。

「ドスよ、私は悲しい。君ならば虐待の真意が理解できると思っていたのだがね。
 ……まあよい。人間を従わせられると思い上がっているのなら、いつでもかかっておいでなさい。
 はぁっはっはっはっはっ! 聞こえないのか。

 我々を歓喜へと導くあの声が!」

 ドスは、聞こえてしまった。



「ゆがああああああああああああ!!」
「でいぶのあがぢゃんがああああああああああ!!」
「ま゛り゛ざの゛ぼう゛じも゛や゛ざな゛い゛でええええええええええ!!」
「おがあぢゃんをいじめないでええええええええ!!」
「ちぇえええええええええええええええええええん!!」
「い゛や゛あああああああああ! も゛う゛ずっぎり゛じだぐな゛い゛いいいいいいい!! すっきりー!」
「あ゛り゛ずの゛べにべにがあっあああっ!!」
「べに゛ずううううううううううううううううううううう!?」
「も……っと、ゆっくり、したかったよ……」「ゆっくりしてたけっかがこれだよ……」
「たすけてどすぅぅぅぅぅぅ!! ぷげゃっ!?」
「ゆっきゅりしちぇいっちぶっ!?」
「むきゅうううううううううううん!!」



『ゆぎいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!
 ……どぼじでうごげないのおおおおおおおおおおおおおおお!!?』

 底面を満遍なく燃やされて焦げたドスの体は、もはや動くことは叶わない。
 舌に隠してあるキノコも既に没収され、ドスパークを放つこともできない。
 弱者は強者に屠られる。残酷な真理は当然ゆっくりにも適用されるのだ。


 確実な死を強制的に与えられたドスの叫びは、それはそれは虚しいものであった。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2008年10月27日 01:31
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。