ゆっくりいじめ系1139 やねのうえのゆっくり

「「ゆっくりしていってね!」」
「「「「「ゆっきゅりちちぇっちぇね!」」」」」

もはや幻想郷の名物と化したその言葉を聞いた刹那、俺は目の前に居た“それら”のうち小さい奴を一つだけ乱暴に掴み、
力任せに玄関の戸を開けると、勢いよく外へと飛び出してとっぷりと日も暮れて闇の色に染まってゆく秋の空を仰いだ。

「いちゃいよ!やめちぇ!ゆっきゅりやめちぇね!?」
「ゆーっ!おにーさん、れいむのかわいいあかちゃんになにするの!?」
「やめるんだぜ!あかちゃんがいたがってるんだぜ!」
「「「「ゆっきゅりやめちぇね!」」」」

俺の手の中で喚いているのは先ほど掴んだもの・・・俗に“ゆっくり”と呼ばれる生首型餡子生命体の赤ちゃんだ。
そして、俺を追いかけて外に飛び出してきたその赤ちゃんの親や姉妹もまた空気を口内に溜めてぷくぅっと膨らんだ姿で足元で喚き散らしている。
が、俺はそいつらの言葉に耳を貸すことなくおもむろに振りかぶると、手の中の赤れいむを家の屋根めがけて放り投げた。

「そぉい!!」
「わーい、おしょらをとんでりゅみちゃーい!」

放物線を描く軌道で放り投げられた赤れいむは満面の笑みを浮かべて浮遊感を楽しんでいる。
その表情からは落下時のことを考えているとは到底思えず、ただ今現在の浮遊感と疾走感に酔いしれるばかり。
しかも本人どころか足元の両親でさえも「れいむも!れいむもおそらをゆっくりとばせてね!」などと言っている。
どうやらこいつらには屋根に激突した赤れいむが「ゆぇーん!ゆえーん!」と泣いているのは全く聞こえていないらしい。

「よし、じゃあ・・・まずは赤ちゃん達からだ」
「わぁい!おにーしゃん、れいみゅからなげちぇね!」
「ゆゆっ!まりちゃがしゃきだよ!」
「じゅるいよ!れいみゅもはやきゅおしょらをとびちゃいよ!」

俺の言葉をきっかけに赤ゆっくり達は我先にと元気いっぱいに自己主張し、やがて順番をめぐって喧嘩を始めてしまった。
喧嘩から真っ先に脱落したのはれいむ種の2匹で、勝ち残ったまりさ種の2匹は一番最初にお空を飛ぶ権利をめぐってまだ争っている。
が、いちいち順番が決まるのを待つのも億劫なので、俺はさっさと喧嘩の疲れを癒すために頬を寄せ合っている赤れいむの片割れを掴むと、
さっきと同じように振りかぶり、きっちりと屋根に乗るように加減して赤れいむを放り投げた。

「れいみゅおしょらをとんでりゅよ~!」
「「ゆゆっ!れいみゅ、じゅるいよ!」」
「ちゅぎはれいみゅだよ!」

さっき投げた赤れいむが屋根に着地する前に、足元に居たもう一匹の赤れいむを掴むと再び勢い良く放り投げる。
すると、後に放り投げられた赤れいむは不運にも前の赤れいむが着地する際に顔面から落下して痛い目に遭うのを空中で目の当たりにしてしまった。

「ゆえーん!いぢゃいよおおおお!」
「ゆゆっ!いちゃいのはやだよ!?」

しかし、れみりゃのように空を飛べるわけでもない赤れいむが空中で方向転換することなんて当然ながら不可能。
先に飛んだ2匹の赤れいむが「ゆっぐ・・・ゆぐぅ・・・」などと泣きじゃくるのを見ながら、自分の身に起きることを想像して恐怖におののくことしか出来ない。
僅かな時間だが赤れいむ自身にとっては永遠とも思えるような長い時間引きつった表情のまま宙を舞った後、地球の物理法則に従って眼下に広がる屋根へと落下し、
目玉や餡子がはじけ飛びそうなほどの衝撃がありもしない鼻から後頭部へと突き抜け、じんじんと餡子内に響くような痛みを残していった。

「ゆぎゅん!!?」

想像を絶する痛みに赤れいむはしばし動くことはおろか、呻くことも出来ずにぴくぴくと小さな体を痙攣させる。
その傍らでは先に飛んだ赤れいむ2匹が痙攣している彼女を気遣う素振りも見せず、ただ口々に自分自身がどれだけ痛い目に遭ったのかを泣き声によって語っていた。
一方、最初の赤ゆっくりと違ってこちらから見える場所に落ちたためにそんなものを見せ付けられ、あるいは聞かされてしまってはたまったものじゃないのはまだ下にいる両親と2匹の赤まりさ。
特にさっきの喧嘩に勝って先に飛ぶことになってしまった赤まりさは既に俺の手の中にいて、何とか抜け出そうと必死にもがきながら何やら叫んでいる。
うざいので足元で我が子を助けるべき必死に体当たりを敢行している親ともども、その叫びを無視してさっさと放り投げる。

「ゆきゃああああああ!?おきゃーしゃん、たしゅけでええええええええ!!」
「でいぶのあがぢゃんがあああああああ!?」
「まりさああああああああ!?」

赤まりさは近所迷惑な助けを求める叫び声を撒き散らしながら弧を描いて屋根へと飛んでいくが、両親にそれを止める手立てはない。
それでも両親は天高く舞う我がからぽかん子を目で追いかけているが、そんなものは気休めにさえならないわけで。
やがて、べちゃ!っという若干汚らしい音を立てて赤まりさも屋根に激突した。
さっきの赤れいむ同様にしばらくは静かだったがやがて泣き始め、先に屋根に放り投げられた3匹と一緒に泣き声の四重奏を奏で始めた。

「あかぢゃんだちがあああああ!まりぢゃあああ!どほぢよ・・・・・・どほぢでにげるのおおおおおお!?」
「そろーり・・・そろーり・・・ゆっ!?」
「しょろーり・・・しょろーり・・・ゆゆっ!?」

どうやら人間相手に何も出来ないことを悟った親まりさと赤まりさは尻尾を巻いて逃げるつもりだったらしい。
その事実を目の当たりにした親れいむは「どうしてそんなことするのっ!」だの、「れいむのあかちゃんかわいくないのっ!」などと憤りを露わにしているが、
自力で助けることは不可能な上に、家屋侵入したゆっくりは愛でお兄さんも修繕費などを請求されたくないため助けてくれないので実際のところはまりさの判断が正しい。
とは言え、俺は人間であり、ゆっくりが生き延びるための手助けをする理由もないので・・・

「そうか、まりさはゲスまりさなんだな。仲間を平気で見捨てるゲスはこの村では加工所に提供することになっているんだが、どうしようか?」
「ゆゆっ!かこうじょいやだよっ!!」
「まりちゃゆっくちちちゃいよ!!」
「だったらあかちゃんをゆっくりたすけてね!!」

う~ん、自分は何もせずにつがいに赤ちゃんを助けろと要求するれいむの方がよっぽどゲスのような気がする。
もっとも、そんなことを懇切丁寧に指摘する必要も義理も無いので、俺はさっさと親まりさを両手で掴むと、屋根めがけて放り投げた。
まりさは俺の手の中で「おにーさん、やめてね!ゆっくりやめてね!」と涙ながらに懇願し、赤まりさは「やめちぇね!おきゃーしゃんをなげにゃいでね!」と泣いていたが、
その傍らでれいむは「おにーさん、ゆっくりしないでさっさとなげてね!」とどこか嫌らしい笑みを浮かべながらふんぞり返っていた。

「ゆぎゅううううううううう!?」
「おきゃああああしゃああああん!?」
「おお、ぶさいくぶさいく・・・・・・ゆぅ?」

もちろん、言われるまでもなく放り投げてやると親まりさは赤ゆっくり達以上に必死の形相を作って絶叫しながら宙を舞う。
その様子をのん気に眺める間もなく俺は親れいむを両手で掴むと、続けざまにまりさと同じ投法で屋根めがけて思いっきり放り投げた。
どうやら自分は大丈夫だと思っていたらしい親れいむはぽかんと口を開いたどこか間抜けな表情を浮かべて首をかしげていたが、宙を舞う瞬間には親まりさと同じ表情になっていた。

「ゆうううううううううううう!?」
「おきゃああああしゃああああん!?」

その間にも親まりさは屋根へと落下し、そして激突すると体を(ゆっくりなりに)ピンっと伸ばしたような妙な姿勢で硬直し、その状態から身じろき一つしない。
気を失っているらしく、後頭部からは少量ながらも餡子が漏れ出している。彼女が意識を取り戻して「ゆぎぃいいい!いぢゃいいい!」などと泣き出したのは親れいむが屋根に激突した直後。
その上、健気にも自分が投げられたときには笑っていた親れいむをつがいとして気遣い、傍に寄り添って頬ずりをしながら「で、でいぶ・・・だいじょうぶ?」などと言っている。
見てみればそうやって寄り添う夫婦の周りに屋根に放り投げられた赤ゆっくり達が集まってその比較的大きな体に顔をうずめて泣いていた。

「ゆえーん、ゆえーん・・・」

ゆっくり一家の様子を眺めていた俺が足元を見るとその泣き声の主のまだ一匹だけ放り投げていないゆっくりまりさの赤ちゃんが、逃げようともせずに泣きじゃくっていた。
どこか哀れみを誘う光景ではあるが、ここは無慈悲に徹してさっさと赤まりさを掴むと、屋根の上のゆっくり家族の傍へと放り投げた。
宙を舞いながら「ゆきゃあああああああああ!」などと叫びつつ恐怖に満ちた表情を浮かべる赤まりさは、やがて親れいむの隣に落下した。
こうして、屋根の上のゆっくり一家のゆっくり出来ない日々が始まった。




1日目

「「「「おきゃーしゃん、おなかしゅいたよ!」」」」

昨日、男性の手によって屋根の上に放り投げられてから15時間以上が経過しており、この台詞も既に4回は口にしていた。
当然のことながら何度その言葉を口にしたところで食べ物は出てこないどころか、両親は食べ物を取りに行こうとする気配すら見せない。

「ゆっ!まりさ、れいむもおなかすいたよ!ゆっくりたべものをとってきてね!」
「ゆゆっ!?そんなのできないよ!」

親れいむも食べ物を取りに行こうとしない親まりさに抗議するが、彼女は一向に動こうとはしなかった。

「「「「ゆえーん、おなきゃしゅいたよおおおお!!」」」」
「あかちゃんたちがおなかすかせてるんだよ!どうしてたべものをとりにいかないの!?」
「こんなたかいとこからおちたらしんじゃうよ!」

今度は赤ちゃんを引き合いに出して親まりさに詰め寄る親れいむは目を少し吊り上げ、ぷくぅっと頬を膨らませている。
だが、どんな風に詰め寄られようと、どんなに泣きつかれようとゆうに4m以上の高さのある屋根の上から飛び降りればただではすまないし、
よしんば着地できても屋根の上に戻ることが出来ないため、結局何をどうやっても八方塞りにしかならないのだ。
しかし、お腹の空いた赤ちゃん達にはそんな事は理解出来ず、またパートナーのれいむは母性の強いれいむ種ゆえに泣きじゃくる我が子を前に冷静さを失っている。
そんな訳で傾斜のせいで非常に危険な屋根の上の、数少なく、なおかつ狭い平らな場所で親まりさは四面楚歌の状況にただひたすら耐えていた。

「「「「おかーしゃん、おにゃかしゅいたよー!」」」」
「ごめんね、あかちゃんたち。まりさがのろまなせいでたべものがないんだよ!」
「「ゆええええん、おにゃかしゅいたよおおおおお!」」
「「ゆっくちできにゃいよおおおおおお!」」
「ゆゆっ!そんなにいうなられいむがとりにいけばいいでしょ!なんでまりさだけのせいなの!?」
「れいむはあかちゃんといっしょにいなくちゃいけないんだよ!ゆっくりりかいしてね!」

まりさの抗議に母れいむは悪びれる様子もなくそう言い返すと、赤ちゃん達に頬ずりをし始める。
「あかちゃんのせわならまりさもできるよ!」と反論するが、赤ちゃん達に一斉に「ゆっくちさしぇてくれにゃいおかーしゃんなんてきりゃいだよ!」と罵られ、
更に親れいむが「ほらね!まりさはごはんをあつめるしかできないんだよ!」と何か非常に不愉快な笑みを浮かべつつ赤ちゃんの言葉に便乗した。
もっとも、まりさが「ゆっくりさせてくれないもの」と認識されているのはれいむが上手いこと餌集めの役目を全てまりさに押し付けたからなのだが。

「どほぢでそんなごどいうのおおおおおお!?」
「いわれたくなかったらごはんをもってきてね!」
「だがらだがぐでむりなんだよおおおおおお!?」
「「「「おきゃーしゃんのばきゃあああああああああ!」」」」

もう何度目になるかもわからない集中砲火を前に、親まりさは涙目になるがどうしようもないのでさっきと同じように怒りが収まるまでただ耐え続ける。
が、さっきまでと違って赤ちゃんの空腹が限界近くに達していたらしく、容赦ない言葉の集中砲火は一向に止む気配を見せない。

「おきゃーしゃんのばきゃ!」
「きゅじゅ!」
「にょろま!」
「やきゅたたじょ!」
「ゆっくちできにゃいおきゃーしゃんにゃんてだいきりゃいだよ!」
「はやきゅおはんしゃがしにいっちぇね!」
「おはんをしゃがしゃないおきゃーしゃんなんておきゃーしゃんじゃないよ!」
「ゆっくちできにゃいよ!」
「「「「ゆっくちちたいよー!!」」」」

本来、赤ちゃんゆっくりにこんな語彙はないのだが、若干ゲス資質の高い母れいむが散々まりさを罵り倒した結果、こんな言葉を吐くようになってしまったのだ。
当の親れいむは体力の消耗を抑えるためにまりさを罵るのを赤ちゃん達に任せているらしく、「そうだよ!もっといってね!」などと言葉少なに赤ちゃん達をあおり続けている。
赤ちゃん達が疲れても、どれだけ涙ながらに「やめてい!」と言っても止むことのない罵詈雑言がどうしようもないほどに親まりさを傷つける。
やがて、その家族からの無慈悲な仕打ちに耐えかねた親まりさは・・・

「もうやだ!おうちかえる!・・・・・・・・・ゆぎゅううううううう、ゆげえ!!?」

泣き叫びながら屋根の傾斜を滑り落ちるように飛び跳ね、4m以上も下にある地面へと落ちていった。




2日目

「「「「おきゃーしゃん・・・おにゃかしゅいたよおー・・・」」」」

泣きじゃくる体力もなくなった赤ちゃん達はそう呟き、親れいむにご飯を催促するが、屋根の上にいる以上餌を探しに行くことは不可能。
今まで屋根から落ちたっきり、恐らく潰れてしまったであろうまりさを悪役に仕立て上げて赤ちゃん達の気を紛らわせていたがそれももはや限界に来ていた。
何度か道を通りかかる人間に「れいむたちをゆっくりたすけてね!」と言ってみたものの、信じられないことに人間はこんなに可愛いれいむを平気で見捨てて行く。
そんな調子で何の打開策も見出せないまま、赤ちゃん達の体力はもはや相当危険なところまで来ていた。

「ゆゆっ!ゆっくりだまってね!れいむもおなかすてるんだよ!」
「ゆぅ~・・・おこらないでね、ゆっくちできにゃいよ・・・」
「ゆっくちちたいよ~・・・」
「おきゃーしゃん、ゆっくちしゃせてよ・・・」
「ゆぅ・・・もうひちょりにおきゃーしゃんのほうがゆっくちできちゃよ・・・」

口々に文句をたれる赤ゆっくり達の最後の一言で怒りが頂天に達したれいむはその場でどんどんと跳躍を繰り返す。
心の中は自分よりずっとグズで、のろまで、せっかく自分が見つけてきたおうちを人間に乗っ取られたあのまりさ以下と言われたことで煮えくり返っていた。
実際にはこのおうちは本来人間のものだし、れいむだって人間に敵わなかったのだがそんなことを冷静に内省するつもりは微塵もなく、その怒りを我が子にぶつけた。

「ごちゃごちゃうるさいよ!なにもかもまりさがわるいんだよ!」
「「「「ゆ、ゆっ!?」」」」
「なんなの!どうしてもんくばっかりいうの!?ここはたかいんだよ!おちたらしぬんだよ!ゆっくりできないんだよ!」
「おきゃーしゃん、きょうわいよ・・・」
「ゆっくちちてよ~・・・」
「ゆっくりできるわけないでしょ!おまえたちがいなければおおきなおうちをさがさなくてもよかったんだよ!」
「ゆぅ~・・・」
「おまえたちがうまれたからおおきなおうちをさがさなくちゃならなくなったんだよ!おまえたちのせいなんだよ!ゆっくりりかいしてね!」
「これじゃゆっくちできにゃいよ~・・・」
「あたりまえでしょ!あんなのろまのこどもにゆっくりするしかくなんてないよ!」
「どほぢでそんなこというのぉー!」
「おまえたちがぐずでのろまでゆっくりできないからだよ!」
「「「「ゆえーん・・・ゆえーん・・・」」」」
「なくのはやめてね!れいむがゆっくりできないよ!!」

怒りに我を忘れた母親に罵り倒らせ、悲しみのあまりに力なく泣く赤ゆっくり達。
しかし、今の親れいむには「あかちゃん、なかないでね!す~りす~り」などとやるような精神的余裕はない。
それどころか、何も出来ないくせに自分勝手なことを喚き散らす赤ゆっくり達が自分のゆっくりを妨げる害悪のようにさえ思える。
そして、親れいむは昨日はまりさに散々子どもを云々と言っていたことも忘れて、近くにいた赤まりさを踏み潰した。

「ゆきゅう!?・・・もっと、ゆっくちちちゃかっちゃよ・・・」

蚊の泣くような踏み潰された赤まりさの断末魔。
しかし、愛する母親に目の前で姉妹をつぶされた他の赤ちゃん達には耳元でダイナマイトを発破されたかのような轟音にも等しく、
あっという間に踏み潰された赤まりさの恐怖と絶望が他の赤ちゃん達にも伝染した。

「おきゃーしゃん、なにしてりゅるのおおおおお!!」
「れいみゅのいもうちょがあああああああああああ!!」
「ゆっくちできにゃいよおおおおおお!」

赤ちゃん達は目の前の死の脅威に空腹も忘れて泣きじゃくるが、親れいむはそんな彼女たちをぎろりと睨みつけ、こう一喝した。
「うるさいよ!ゆっくりできないあかちゃんはゆっくりしんでね!」

「きょわいよおおおおおおお!?」
「ま、まりしゃ、あぶにゃ・・・!?」
「まりしゃあああああああああ!!」

母親への恐怖が我慢の限界に達したのは目の前で同じ姿の姉妹を潰された赤まりさ。
ただ、目の前のゆっくり出来ないものから逃げ出したい一心で彼女は平坦場所から飛び出し、躓いて転倒すると、
饅頭ゆえの丸い体で屋根の傾斜をごろんごろんとゆっくり転げ落ちていき、昨日親まりさが消えていった屋根の下へと落ちていった。

「ゆゆっ?!ま、まりさがおちちゃったよ!?」

どうやらその光景を目の当たりにしたことと、赤ちゃん達が文句をたれるのを止めたおかげで我に返った親れいむは何故か飛び降りた我が子の安否を気遣う。
勿論、自分が赤まりさを潰したから恐怖に駆られたという発想は無いらしく、そもそも赤まりさを潰したことを覚えているかどうかさえ怪しい。
そんな親れいむはふと足元を見て、潰れた我が子を視界に収めると・・・

「あかちゃんたち、きょうがこれをたべるよ!」

と、全く悪びれる様子も、同族食いへの嫌悪感を示すことも無く、いけしゃあしゃあとそんなことを言ってのけた。
確かに死んだ同族を食べることは割とよくある事なのだが、自分で殺した我が子を平然と食べようと提案するのはやはり異常としか言いようが無かった。




3日目

「「おきゃーしゃん、おなきゃがしゅいたよ!」」

昨日の一件でまりさ種の赤ちゃんは全滅しているので、昨日食べた姉妹の亡骸から得た栄養を使って元気良くその言葉を口にするのは赤れいむ2匹。
とは言え、先日の母親の恐ろしい姿をしっかり記憶しているので、あの時のようにあまりしつこく催促したり、無意味に罵倒したりはせず、
どうしても我慢できないほどの空腹感が襲ってきたときだけ、ただ本能に従ってその言葉を口にしていた。
もっとも、親れいむにだって屋根の上に放置されたこの状況を打開するすべはないのだから、回数が減ったところで不愉快なことに変わりは無いのだが。

「ゆぅ・・・おなかがすいたよ・・・これじゃゆっくりできないよ!」

それに、何よりも一番空腹を感じているのは体格が3匹の中ではずば抜けて大きく、その分だけ大食いな親れいむ自身だ。
今までずっと我慢してきたがいい加減我慢の限界も近づいてきていて、あと少しでゆっくり出来なくなりそうな状態。
そういうわけで彼女は頭の中で自分がゆっくりするために我が子を食べることを画策していた。

「おなかがすいたんならゆっくりねむってね!」
「ゆぅ・・・ゆっくちりかいちたよ・・・」
「おきゃーしゃん、こもりうちゃうちゃって!」
「そんなのつかれるだけだよ!ゆっくりおねんねしてね!」

そんな親れいむの腹のうちを知る由も無い赤れいむ達は親れいむに促されるがままに空腹を紛らわせるために眠りにつく。
一方、親れいむは我が子がちゃんと眠りにつくまでじっくりとその様子を観察し続け、ゆっくりとチャンスの到来を伺っている。
そうして機を伺うこと27分、赤れいむが2匹ともゆぅゆぅという寝息が、千載一遇のチャンスの到来をれいむに告げた。

「そろーり・・・そろーり・・・」

何の必要も無い擬音をわざわざ口にしながらおもむろに子ども達に近づく親れいむ。
昨日食べた赤まりさのとろけるように繊細で柔らかい皮の舌触りと、やや控えめな甘さの餡子の風味を思い出すその表情は緩みきっていて、
ゆひひ・・・と品の無い笑みを浮かべる口元からはぽたぽたと涎が滴り落ちている。
そうして、1匹の赤れいむに皮と皮が触れそうな距離まで近づき、正面から食べるのは気が引けたのか背後に回りこんだところで・・・

「ゆっくりいただきま~す!」

と、またしても何の必要も無いのに元気良く叫ぶと、思いきり良く赤れいむの後頭部を食いちぎった。

「ゆきぃいいいいいいいいいいいいい!?」
「む~しゃ、む~しゃ・・・しあわせ~!」
「ゆぅ・・・?ゆっ!おきゃーしゃん、なにちてりゅの!?」

突然の出来事に目を覚ました赤れいむは後頭部をかじられたことには気づかないものの、餡子を駆け巡る強烈な痛みと喪失感で金切り声を上げ、
つられて目を覚ましてしまったもう一匹の赤れいむは自分と同じ姿の親れいむが、自分と同じ姿をした姉妹を捕食する凄惨な光景を目の当たりにして泣き叫ぶ。
しかし、親れいむは2匹の様子などお構い無しに、昨日の姉妹を食べる光景を見せ付けられた恐怖と、その怖いものとずっと一緒にいる恐怖からか、
赤れいむの赤まりさより濃厚な甘みを堪能し、空腹が満たされる喜びと、今まで食べたことの無い美味しさに感動して涙を流していた。

「む~しゃむ~しゃ、すごくゆっくりできたよ!」
「ゆきゅぅ・・・お、おにぇーちゃんが・・・」
「ゆふぅ・・・すごくゆっくりできるよ!」
「れ、れいみゅ、おきゃーしゃんとはゆっくちできにゃいよ!!」

まりさが食べられて、れいむも食べられて、最後に残ったのは自分だけになった赤れいむは「次は自分だ」と言うことを本能的に理解し、屋根の上で唯一平らな場所から飛び出した。
そして、親まりさや子れいむと同じようにゆっくりにとっては奈落の底にも等しい遥か(と言っても4m程度)下の地面へと真っ逆さまに落ちていった。

「ゆゆっ!?れいむのあかちゃ~~~~~~~~~ん!!!」

その自殺行為にも等しい我が子の常軌を逸した突然の行動を眺めながら叫ぶ親れいむ。
こうして、最後の一匹になってしまった親れいむはほぼ全て自分の責任であることにも気づかずに、ただ静かにすすり泣いて夜を明かした。




4日目

「ゆぅ~・・・でいぶのあがぢゃん・・・どほぢであんなごど・・・」

親れいむは昨日の最後のゆっくり出来ない生活に耐えられなかった(と言う理由にれいむの中ではなっている)我が子の自殺の後からずっと悲しんでいた。
一体、どうしてこんなゆっくり出来ない状況になってしまったんだろうか?
ほんの3日、4日前までは凄くゆっくり出来ていたはずなのに・・・気がつけば餌もない場所で孤独に耐える生活を強いられている。

「ゆぅ・・・おなかがすいたよ!」

一体、誰のせいでこんなにゆっくり出来ない生活をする羽目になったのだろうか?
そうだ、あの人間のせいだ。れいむのおうちに勝手に上がりこんできてこんなところにれいむ達を放り投げた人間が悪いんだ。
それから、まりさのせいだ。れいむがおうちを見つけてあげたのに人間にも勝てないで、あまつさえれいむを見捨てようとしたあの愚図が悪いんだ。
ああ、美味しいご飯が食べたい。

「ゆうぅ・・・さぶいよ!ここじゃゆっくりできないよ!」

それだけじゃない、赤ちゃん達のせいでもある。どうして自分を置いてあんな自殺行為に走ったんだろうか。
ゆっくり出来なくて辛いのはわかるけれど、こんなにゆっくり出来るお母さんがいるのに・・・あまりにも堪え性がなさ過ぎる。
それに、そもそも赤ちゃん達が生まれなければ人里に下りてくる必要も無かったんだ。
ぽんぽんがペコペコだよ!

「ゆぅ・・・どほぢででいぶがゆっぐぢでぎないのぉおおおおお・・・・!」

どうして何も悪いことをしていない自分がこんな酷い目に遭うんだろうか?
どうしてこんなに可愛いれいむがこんな酷い目に遭うんだろうか?
どうしてこんなにお腹が空いているのに美味しいものを食べてゆっくり出来ないのだろうか?
気がつけばれいむの悲しみは我が子を失ったことから自分が理不尽な仕打ちを受けていることにすり変わっていた。




5日目

「ゆぅ・・・おなかがすいたよ・・・」

もう台詞の最後に「!」をつける余裕も無いれいむは虚ろな眼差しで曇り空を見上げ、きょろきょろと何かを探していた。
彼女の探しているもの、それはうーぱっくと呼ばれるゆっくりに対して好意的な飛行能力を有するゆっくりれみりゃの亜種だ。
そいつの力さえ借りることが出来れば何とかここから脱出して森に帰ることが出来るはず。

「ゆぅ・・・うーぱっくさん、ゆっくりしすぎだよ・・・」

どうしてこんなに可愛い自分がずっとゆっくりれいむのところに来てねとお願いしているのに平気で待たせられるのだろうか?
本当に皆してゆっくりし過ぎだよ。可愛いれいむはこんなにもゆっくり出来ない思いをしているのに。
自分のあまりの不遇を考えると思わず涙がこぼれる。

「・・・どほぢでみんなれいぶをいじべるのぉ・・・・」

美味しいご飯をゆっくり食べたい。
暖かい藁や葉っぱの上でゆっくり眠りたい。
風も雨もしのげるおうちの中でゆっくりしたい。
森の中でゆっくりかくれんぼがしたい。
広い原っぱでゆっくりかけっこがしたい。
ああ、何でもいいからゆっくりしたい。

「ゆっくりしたいよ・・・」

酷い空腹感のせいか、昨日のように誰かに不満をぶつけることも無い。
仕方なく眠りにつこうとするが、お腹が空きすぎて全く眠ることができなかった。


「ゆえーん・・・だれがぁ、たしゅげでよぉ・・・」




6日目

「ゆぎぃいいいいいいい!?あめさんなんでふってくるのおおおおおおお!?」

不運にも普段なら日が昇りはじめる頃にゆっくりにとって最も恐ろしいものの一つと言える雨が降って来た。
ゆっくり達が雨を苦手とする理由・・・それは小麦粉で出来た皮が一定量以上の水分を吸うとふやけて、やがては溶けてしまうから。
だから、ゆっくりは雨の日には基本的に外に出ずに巣の中ですごすのだが、屋根の上には雨から体を守るものがどこにもない。
まさに“詰んだ”に等しいほどの窮地に陥っていると言っても過言ではないのだ。

「ゆぅぅぅうう・・・あめさん、ゆっくりやんでね!おねがいだからゆっくりやんでね!」

そう言いながら必死にぴょこぴょこと跳ねるが雨は一向に止む気配を見せない。
それどころか、徐々に雨足が強くなっていき、ポタポタとまばらに降っていた雨がやがて地面や屋根を激しく打ち付ける大雨になってゆく。
れいむが何度「おねがいだよ、ゆっくりやんでね!」とか「あめさん、いじわるしないでよ!」と言ったところで何の意味も無い。
気がついたときにはザァーザァーという雨音が家屋の中にいても聞こえてくるほどの大雨になっていた。

「どほぢであべさんいぢわるずるのおおおおおお!?」

徐々に溶けてゆく皮と雨水のせいで良く見えないが、何処にも逃げ道の無いれいむはぼろぼろと大粒の涙を零しながら天に向かってほえる。
しかし、何を叫んでも返事が返ってくることなどありえず、その声は雨音にかき消されて誰の耳にも届かなかった。
しばらくそうやっていると、自分の体がかなり不自由になってしまっていることに気づく。
足元に出来た水溜りには黒い何かがにじんでいて、れいむにはそれが自分の中に詰まっていたものだとすぐに理解できた。

「ゆうううううう!れいむのあんこさん、でていかないでね!」

雨に流されて屋根から滑り落ちていく黒いそれを拾うために、れいむはぬれて普段よりずっと滑りやすくなっている屋根の傾斜へ思いっきり良く跳躍し、
足を滑らせるとそのまま今まで地面へ落ちて行ったゆっくり達と同様にごろんごろんと屋根を転がり、やがて4m以上も下の地面へと叩きつけられた。
雨でふやけた体で地に落ちたれいむは、それでもなお雨宿りできる場所を求めて、本当なら自分のものだったはずの人間の家の軒下へと這いずっていく。
しかし、彼女の歩みは唐突に止まった。体力が尽きたわけではなく視線の先に、人間の家の中にあったものを見て衝撃を受けたからだ。




「れいみゅ!おにーしゃんがおもちゃをくれちゃよ!」
「ゆゆっ!まりしゃいいな~!れいみゅもおもちゃほちいよ!」
「ふたりとも、なかよくいっしょにゆっくりあそぶんだよ!」
「「ゆっくちりかいちたよ!」」

視線の先にあったもの・・・それは地面に落ちて死んだはずの2匹の赤ちゃんがタンバリンを取り合い、それを人間の膝の上でまりさが見守っている光景だった。
人間の、あの日、自分達を屋根の上に放り投げた男の膝の上に座っているまりさの足に当たる部分には包帯が巻かれているがそれ以外は健康そのものだ。
満面の笑みを浮かべて男性に話しかけてはテーブルの上のクッキーを食べさせてもらい、向かいの人間の女性の膝の上にいるゆっくりありすと楽しそうに談笑していた。

「ど、どういうことなのおおおおおお・・・!?」

訳がわからない。本当に訳がわからない。
どうしてまりさが生きているの?
どうして赤ちゃん達が生きているの?
どうしてその人間と一緒にいるの?
どうしてそんなありすと楽しそうにしているの?
どうして美味しそうなお菓子を食べているの?
どうして人間からおもちゃを貰っているの?
どうして・・・・・・・・・
どうして・・・・・・
どうして・・・

・・・どうしてれいむはそこにいないの?

まりさはれいむが屋根の上でお腹を空かせている時に美味しそうなものをたくさん食べていたの?
まりさはれいむが屋根の上で寒い思いをしている時にあったかいおうちの中でゆっくりしていたの?
まりさはれいむが赤ちゃんを食べていた時に赤ちゃんと一緒に人間のご飯を食べていたの?
まりさはれいむがひとりで寂しい思いをしている時にそこにいるありすとすっきりしていたの?
まりさはれいむが雨に打たれて死にそうな時にどうしてそんなにゆっくりしているの?

そこまで考えたところでれいむの意識は唐突に現実へと引き戻された。
相変わらず降りしきる雨。その雨足はあいかわらず激しく、強くれいむの皮を容赦なく打ち付けていた。
しばらく一人で変な問答をしている間に大分雨にやられてしまったれいむはもはや動くこともままならない。
ただじっと、近くて遠い家の中のゆっくりした光景を眺めながら、体から餡子が漏れ出す感触に怯えながら、れいむは立った一言・・・

「もっと、ゆっくり・・・したかったよ・・・」

と雨音にかき消されて誰の耳にも届かないような小さな声で呟いた。



‐‐‐後書きというか能書き‐‐‐
殺したりせず虐待の労力を最小限度に済ませる方法を考えていた最中に浮かんだネタです。
「ゆっくりプレイス」宣言すらさせずに制裁へと移行するお兄さんマジ外道?

  • ゲス
嫌われがちだけど、こいつらも必要あって存在してるんじゃないかと思う。
考えてみれば、人間に群れが襲われたときゲスがいなければ群れはほぼ100%壊滅するけど、ゲスがいればゲスが生き残る分で98%くらいになるかもしれないわけで。
作中でのれいむの子どもを食ってでもうーぱっくが来るまで生き延びるって判断は屋根の上だけの状況を見ればわりと真っ当な判断じゃないかと。

  • まりさと赤ちゃん達
作中の男性は虐待お兄さんではありあせん。したがって彼がれいむ達を屋根に放り投げたのは制裁のため。
何の被害も無ければ山に捨て置くだけなのですが、家の中でれいむ達を見かけた時点で窓を破られたと判断し制裁。
しかし、後で家の中を見てみると特に荒らされた形跡も無く、玄関から入ったことが判明したので「やりすぎたな」と後悔。
その後、庭で屋根から落ちて大怪我をして、気を失っていたまりさを発見し、保護する。
彼女の治療をお願いした近くのゆっくり愛好家の女性が美人だったので、下心むんむんにまりさを飼うことに。
さらに、まりさが目を覚ます前に赤まりさが落ちて(体重の軽さのおかげで軽傷)きて母れいむの凶行を知らされる。
近所の大工にでも一家を助けてもらおうかと考えていたが、更に赤れいむが落ちてきて母れいむが子どもを全滅させたことを知る。
そして、同族殺しを犯した以上れいむを助けるわけには行かないというまりさの主張を採用して放置決定。
そんな経緯で最後の場面に至ったんじゃないかと思います。

byゆっくりボールマン

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最終更新:2008年10月15日 23:08
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