ゆっくりいじめ系1129 庇護

※人間にイラッとくるかもしれませんが、ゆっくりが苦しむ様をお楽しみ、またはご期待下さい




ある所にごく普通のゆっくりの群れがあった。
その群れはドス級ゆっくりが統率するような厳格な群れではなく、複数の一家がより集まった集合体だった。
それでも群れ全体で行動を起こす時は、れいむ種の代表、まりさ種の代表、ありす種の代表の三匹が集まって協議するという、若干民主主義システムを採用していた。
人間の生活圏内に踏み込んで殺される個体もいれば、不慮の事故で死ぬ個体もいる。
時折群れのゆっくりの何割かが神隠しにあったかのように突然消えることを除けば、わりかし普通の群れだ。
この群れのゆっくり達は皆自由気侭な、ゆっくりとした生活を送っていた。

そしてその群れと友好関係を築いていた人間の青年がいた。
人間と野生のゆっくりの関係としては珍しく、人が滅多にこない場所に巣を構えるその群れは、青年を歓迎していた。

「ゆっ、おにいさん。きょうもゆっくりしていってね!」
「ゆっくちちていってね!」
「おにいしゃん、あしょぼ~」

群れに訪れた青年をゆっくり達が出迎える。もっとも、今は日中のため半分以上のゆっくりはエサを集めに出かけていたが。

「有難う、ゆっくりさせてもらうよ」

青年は足元に群がるゆっくり達を適当にあしらうと、群れの巣の外側に向かっていった。
そこには柵があった。
人間がゆっくりの侵入を防ぐためのものではない。ゆっくりの群れに他の野生動物が入りにくくするためのものだ。
ゆっくりが通れるだけの領域は確保せねばならないため、磐石とは言い難いが、それでもかなり役に立ってはいる。
青年は定期的にここの柵が壊れていたりしてないかチェックに来ているのだ。

「うん、異常はないな」

一通り見て周ると、青年は一旦群れに戻った。
そしてエサを取りに行ったゆっくり達が戻るまでの間、子ゆっくり達の遊び相手を務めた。
日が山にさしかかるころ、ぞろぞろと狩りに行っていたゆっくり達が帰ってきた。

「ゆゆっ? おにいさんきてたの?」
「ゆっくりしていってね!」

帰ってきたゆっくり達も青年に好意的な言葉をかける。
青年はそれに微笑みながら「今日はもうゆっくりしたよ。またね」と返すと手を振りながら帰っていった。
群れのゆっくりはそんな青年を盛大に見送った。
青年は毎日来ているわけではない。週に一度くらいの頻度だが、だからこそ青年は群れに来れる日を大事にしていた。

何故青年が野生のゆっくりの群れでこうも歓迎されているのか。
確かに野生のゆっくりにとって人間は基本的に敵対する者だが、あの青年は群れのゆっくり達に一切危害を加えないどころか子供の遊び相手までしてくれる。
更に越冬前になるととても美味しいお菓子を差し入れしてくれる。
群れに何か問題がおこれば知恵を貸してくれたり問題解決を手伝ってくれもする。そんな青年をゆっくり達は歓迎していたのだ。










「防護柵は問題無い……、けれどもやはり数が増えすぎている……」

ゆっくりの群れと別れた青年は家に帰る道中、ぶつぶつと呟きながらある事を考えていた。
それは群れのゆっくりの数。成体の数はあらかじめ把握しているので、問題は子供の数だった。
前に来た時より三割以上も増えている。恐らく欲望に任せてすっきりした個体が多かったのだろう。
あの群れは人間に危害も加えず、周りの自然環境から摂ってきたエサでしっかりと成り立っている。数自体もそれほど多くないので生態系に深刻な被害を与えるまででもない。
しかしそれは、この青年が群れの総数調整を行なっているからだ。
あの群れ自体は何の対策も行なっていない。間引きもすっきり制限もせず気の向くまま欲望の趣くまますっきりして子供を作っている。
越冬前にもなんの躊躇もなく子供を作る一家まであった程だ。

青年はそんな群れをみかねて、行動を起こした。
すっきり制限はあの群れが受け入れるはずもないため行なってはいない。いや、実は一度代表ゆっくり達に打診してみたことはあったがその時は

「ゆっ? どうしてすっきりしちゃいけないの?」
「かわいいあかちゃんがいっぱいいればとってもゆっくりできるんだぜ!」
「すっきりはとってもゆっくりできるのよ!」

と、一顧だにもされなかった。
だから青年は間引きをすることにした。群れのゆっくりの数が一定を超えると、いくらかのゆっくりを秘密裏に誘拐し、加工場へと持っていく。
加工場へ多数のゆっくりを持ってきたものは、ささやかではあるが謝礼が渡される。青年は普通お金で渡されるそれを、加工場製のお菓子にしてくれと頼んでいた。
青年は間引きして手に入れたお菓子は、群れへと与えていたのだ。

青年は心を痛めた。だがこれもあの群れのためと実行してきた。
何もせず増えるだけ増やせば間違いなくあの群れは不幸なことになる。辺りの虫や植物を食い荒らし、やがて生態系を崩してエサが足りなくなる。
そしてエサが足りなくなったら餓死する個体も多く現れ、挙句エサを求めに人間の生活圏内に来るかもしれない。

群れの周りに設置した柵も青年が作ったものだ。
野生で生きる以上他の野生動物に襲われるのは仕方のないことではあるが、それでも可能な限りその被害を少なくしてあげたいという思いから作ったものだ。
それ以外にも青年はゆっくりの群れに尽力している。
この青年はつまり、あのゆっくりの群れの保護者なのだ。青年がいなければ、恐らくあの群れはとうに滅んでいたことだろう。

力も知能もないゆっくり達。繁殖力が高く、早死にし世代交代の早い種族。
半端な知能と手足の無い体。体が饅頭というその性質は、他の動物達に食べられるために生まれてきたとしか思えない。
誰かの庇護がなければ数多の不幸によって苦しみ、息絶えていく種族。たくさん産み、たくさん死ぬ。
弱肉強食の世界において、それは避けがたいゆっくり達の運命であった。

青年はそんなゆっくりを愛していた。捕食という関係ではなく、共に笑い合う友として触れ合いたかった。
だから、少しでもゆっくりに降りかかる不幸を除こうとこうしてゆっくりの群れを保護している。
全てのゆっくりを救うことなど出来ないし、青年もそうしようと思うほど傲慢でもなかったが、少なくともあの群れは助けてやりたかった。
それは青年の偽りない本心だった。

ゆっくり達は柵の事以外青年のしていることを知らなかった。
青年は感謝されたくてやっているわけでは無いというのが理由の一つだが、最も大きい理由は嫌われたくないから、青年はゆっくりの群れに教えていないのだ。
勝手に群れの仲間を持って行って殺すなど、そんなことを言えば嫌われる。青年は、ゆっくりに嫌われることを恐れているのだ。ゆっくり達が居なくなったら群れが怪しむのではないかと思えるが、そもそも自然で死に易い種族の上に、青年が吹き込むでっち上げの理由説明によって納得させられる餡子脳のおかげでそんなことはなかった。

次の週、青年は再び群れを訪れた。

(また増えている……)

群れを訪れた青年は心の裡で嘆息した。
どうしてこうも際限なく増やすのだろうか、と。本当に何も考えず欲望のままに生きているなと思った。
もっとも、この異常なまでの子作りでもしなければ、ゆっくりは絶滅する。死に易いのを数でなんとか補っているのだ。
繁殖力だけでなんとかなるのかと思うかもしれないが、あくまでゆっくりは死に易いだけで全個体が死ぬわけではない。やはりある程度の生きる術は持っていた。
微々たるものではあるが。

(やはり、やるべきか…………)

子ゆっくりの遊び相手をしながら、青年は決意した。行動に起こすと。
青年は一旦ゆっくり達に用事があると告げると、群れから離れたところに置いておいた台車に向かった。
この台車にはゆっくりを捕獲するための道具が載せられていた。青年はホッチキスと竹篭を用意すると、狩りをしているであろうゆっくり達を探しに行った。





「やぁ、まりさ。ゆっくりしていってね」
「ゆっ? おにいさん! ゆっくりしていってね!」

一匹で狩りをしているゆっくりまりさを見つけた青年は、警戒心を与えぬように道具を背中に隠しつつゆっくり流の挨拶をする。
まりさはいつも群れに優しくしてくれる青年にまるで警戒を懐かず、挨拶をするとすぐに背を向けた。

「ゆっくりまってね! まりさはいまみんなのごはんをあつめているの!」

ある一家の大黒柱なのだろうそのまりさは、青年に背を向けつつせっせと草花や虫を帽子や口の中に蓄えていく。
青年はそんな無防備なまりさの背中ににじりよりながら、ホッチキスを手に持ち構える。

「ねぇ、まりさぁ」
「ゆっ! ごめんね、あとにしてねおにいさ──」

バチン!

振り向いた瞬間まりさの口をホッチキスで留めた。凄まじい早業、熟練の技である。
突然の激痛に目を向き涙を流すまりさ。
「ゆ゛っー! ゆ゛っー!」と呻くが目の前の青年以外には聞こえるわけもない。
涙で溢れたその目には、「どうして?」、「なんでこんなことするの?」というまりさの声が表れているようだった。

(ごめん、まりさ……。ごめん)

青年は心の中で必死に謝りながら、口に一部の隙間も作らぬよう、バチンバチンとホッチキスで口を留めていく。
まりさはその度に激痛に震えながら涙を流し、くぐもった音を出す。
痛む胸をおさえて、ホッチキスで口を留めたまりさを竹篭に放り入れた。逃げ出せず、呻き声が漏れぬよう蓋もする。

一匹捕獲。
まりさを入れた竹篭を担ぐと、青年は他のゆっくりも捕まえに行く。まりさが暴れて竹篭が揺れるのが、青年の心を締め付けた。

「ゆゆっ? おにぃさんどうしたの?」

今度はゆっくりれいむとありすのペアを見つけた。恐らく二匹で協力して狩りをしていたのだろう。
青年が「ゆっくりしていってね」と言いながら屈むと、二匹がぴょこぴょこと近づいてくれた。

「「ゆっくりしていってね!!!」」

すかさずホッチキスを取り出し、ありすの口をバチンバチンと留めた。突然の青年の行動に目を見開き驚愕するニ匹。
ありすは口に走る激痛で顔をくしゃくしゃにし、涙を垂らしている。
「う゛っー、う゛っー!」とうなりながら顔をイヤイヤとする様に横に振っている。青年はそんなありすの行動も心情も無視するように、ぞんざいに竹篭に放り入れた。

片手でありすの体を押さえ、片手でホッチキスを持っているためその間れいむは無防備。
青年がホッチキスでありすの口を留めている間に、れいむは逃げ出した。青年は慌ててれいむに飛び掛り、押さえつける。

「ゆぐっ! おにいざんどぼぢでごんなご──ッ!?」

大声を出されて他のゆっくりに気付かれてはいけない。すかさずれいむの口も三回四回とホッチキスで留めていく。
口で留めたのを確認すると、れいむも竹篭に放り入れた。青年はすぐに、他のゆっくりも捕まえに行った。








「このぐらいか……」

竹篭一杯に詰まったゆっくり達を見て青年は一息つく。このぐらい間引きすれば大丈夫だろう、と。
成体ゆっくりを入れた竹篭は、蓋をしてはいるもののガタガタと揺れている。蓋をして縄で縛り付けてあるので抜け出すことはないだろうが、危ないので上に石を置いて重石にする。
子ゆっくり達が入った竹篭は成体ゆっくりよりは中に余裕があって力もないためか揺れたりはしていない。一応念のため成体ゆっくりの竹篭と同じように蓋をして縄で縛って重石を置いてはいるが。

子ゆっくりを捕まえるのもわりかし簡単だった。子ゆっくりは成体ゆっくりよりも注意散漫で無鉄砲なので事故死することが多い。
親の目の届かないところまで連れていけば後は簡単だ。居なくなっても青年が用意しておいた言い訳で親は簡単に納得する。
餡子脳ということもあるし、何より群れのゆっくりは青年を信じきっているからだ。
青年は群れから離れたところにゆっくり達が入った竹篭を置いた台車をおくと、群れの巣に向かった。

群れの者が一日に多くいなくなり、悲しみにくれる群れに帰る旨を伝えた青年は、捕まえたゆっくりを連れて加工場へ向かった。
一日に多くいなくなると青年が疑われるかと思われるが、そもそも自然で死ぬことの多いゆっくりだ。
青年が手を出さなくても一日に多く死ぬものが出る日はある。数は今日ほどではないが。
それに、今日程の数の者が居なくなるのもこれまでに何回かあったため(全て青年がしたことだが)、今回だけ疑われるということはなかった。





これまでに何回も大量のゆっくりを持ってくる青年は、加工場の受付の人にとって顔見知りも同然だった。

「ようこそ、また来ましたね」
「えぇ、これです」

既に何回も行なわれたやり取りのため正規のものより簡略化されたやり取り。
青年は台車から竹篭を下ろすと蓋を開けて加工場の人と中身を確認する。青年が中を覗くと、口をホッチキスで留められ涙目で青年の顔を
見上げるゆっくり達が見えた。

「…………ッ」

何回見ても慣れるものではない。青年は自分の胸がきつく締められるような感覚を覚えた。
ゆっくり達の目には悲しみと困惑が浮かんでいる。なぜ、と。どうしてこんなことをするのか、と。何故裏切ったのかとその目が訴えかけている。

「はい、確かに。それにしても毎回結構な数持ってきますね」
「……えぇ、まぁ」
「では謝礼の方を……いつものように和菓子でいいんですか?」
「はい」

これも何時ものやり取り。もう何回やったのか、加工場の奥へと向かう職員を見送りながら青年は思う。
もう限界だ。
ゆっくりを愛する男にとって、この行為は堪えられるものではない。毎回毎回、精神がすり減らされていく。
そして今回、遂にその限界が訪れた。ゆっくり達のためだと言い聞かせてきた薄っぺらな精神防壁が擦り切れた。
辞めることは出来ない。それでも、一人で抱えていくのはもう嫌だった。
打ち明けよう。青年は決めた。
せめて、群れに自分のやったことを打ち明ける。そしてあわよくば、青年の意志を汲み取り自分たちで総数管理をしてくれれば、と思う。






翌朝、青年は加工場製の和菓子を持って群れに向かった。和菓子の原材料はもちろんゆっくりだ。
二日続けて群れに行くことは初めてだ。青年にも仕事がある。だが今回は、その仕事を休んででも伝えたいことがあった。
群れの巣の近くまで来ると、青年は深呼吸をし心を落ち着かせる。
目を閉じて、決意する。しっかりと意志を固く持つ。どんな結果が待っていようとも、後悔はしないと。
だが青年の中には、ゆっくりにこの気持ちを分かってもらい、助けて欲しいという願望もあった。

「やぁ、皆。ゆっくりしていってね」

群れに来ると、どうやらまだ狩りに出かける前だったようで群れのゆっくりが全員いた。
青年の姿を見つけると群れのゆっくり達は総勢で「ゆっくりしていってね!!!」と歓迎した。

「おにいしゃんどうちたの?」
「ゆっ? それおかち?」

子ゆっくり達がわらわらと青年の足元に集まってくる。
青年は優しく微笑みながら屈むと、加工場製の和菓子を渡した。子ゆっくり達は喜んでそのお菓子に群がり、ガツガツと食べ始めた。

「「「「む~ちゃ、む~ちゃ、ちゃ~わせ~♪」」」」

居並ぶ子ゆっくり達の幸せそうな笑顔と嬉し涙。滅多に食べられぬ人間製の食べ物を食べ、絶頂せんほどの顔だ。
親達はそんな子ゆっくり達の様子を見守りながらニコニコとしている。
この顔を、この幸せを今から壊すかもしれないと思うと、気が滅入って躊躇しそうになる。
だが、もう決めたのだ。やらねばならない。

「皆、実は大事な話があるんだ」

青年はゆっくり達に打ち明けた。
これまでに多数のゆっくりが消えた事。それを自分がやったという事。それを加工場に持っていったという事。これまで上げていたお菓子はその謝礼として貰った物だという事。
ゆっくり達は最初、静かに青年の話を聴いていた。
だが、青年がゆっくり達を攫ったという段階から徐々に騒ぎ始め、話し終える時には群れのゆっくり全てが喚きたてるという有様だった。

「どぼぢでぞんなごどずるの゛ぉぉぉぉ!!」
「かごうじょはゆっぎり゛でぎないんだよ゛ぉぉぉぉ!!」
「がえぜぇぇぇぇぇ!! でいぶのあがじゃんがえぜぇぇぇぇぇ!!!!」
「がわいいばりざをゆーがいずるなんでどがいはじゃないわ゛ぁぁぁぁ!!!」
「ゆっぎぢでぎないおじざんはででってよ゛ぉぉぉぉぉ!!」


「ま、待ってくれ皆! これは皆がゆっくりするために必要なこ────」
「うそつかないでね!」

ピシャリ、と青年の言葉を断ち切ったのは群れの代表れいむだった。

「そうだぜ! おじさんはじぶんがゆっくりするためにまりさたちをだましてたんだぜ!」
「うらぎりはいなかもののすることだわ!」

代表れいむに追従してきたのは代表まりさと代表ありす。
青年はその言葉にただならぬ衝撃を受けた。青年はこれまでゆっくり達と友好的な関係を築けていたはずだ。確かに自分がやったことは褒められるものではない。
だがそれはゆっくり達を思っての事。しっかりと話し合えば、ちゃんと分かり合えるはずだと、そう思っていた。
甘いといえば甘い。自分勝手といえば自分勝手。
だがそれでも、青年は諦めなかった。同じ言葉を話すのならば、きっと分かり合えるはずだと。

「……すまない。確かに私のやったことは悪い事だ。謝る、この通りだ!」

青年はゆっくり達の罵声が飛び交う中、地べたに頭をこすりつけるように土下座をした。
ゆっくり達に土下座という文化はないが、それが何を意味するかは知っていた。

「ゆっへっへ、うらぎりものはじべたにはいつくばれなんだぜ!」
「ゆるざない゛よ゛っ!! でいぶのだいぢなばりざがえぢでね!」
「おにぇちゃんかえちてよぉぉぉ!!」

それでもゆっくり達は止まらない。これまで味わった行き場のない悲しみが今、行き場を見つけて濁流の如く青年に押し寄せる。
青年はそれを受け止める。これは自分が勝手にやって来たことのツケだ。それはしっかりと受け止めなければならない。
だが、ゆっくり達が今自分たちの感情をぶつけているだけなのに対し、青年は先を見ていた。
この先、つまり群れのゆっくりの数をどうするかということ。

青年はすまない、すまないとひたすら頭を下げ続けた。ゆっくり達の気が済むまで、と。
そのうち罵声だけではなく、暴力に訴えるものも出てきた。

「ゆぐぅぅぅぅぅ!!! でいぶのおぢびぢゃんをよぐもごろぢだなぁぁぁぁぁ!!」
「ばりざのいもうちょかえちちぇよ゛ぉぉぉぉ!!!」
「じんでね! じんでねっ! ばりざをごろぢだにんげんはゆっぐりじないでね!」

ボスッ、ボスッ、と土下座を続ける青年に体当たりをするゆっくり達。
ゆっくりの体当たりなど人間にとっては大したダメージになりはしない。だがゆっくり達の体当たりは、青年の心にしっかりと傷を与えた。

やがて体当たりしているゆっくり達の気が済んだのか、ゆふー、ゆふーと息を荒くしながら体当たりをやめた。
青年に傷はないものの、土による汚れが目立っていた。
青年は顔を上げる。ゆっくり達の罵声が一旦止んだ短い時間が生まれている。
青年は今だと、この先のことについて話すなら今だと顔を上げ口を開こうとし──

「ゆっ! おにいさんはゆっくりでてってね!」

代表れいむが先を取った。
話を切り出すタイミングを失った青年が一瞬口ごもると、その隙を逃さず代表まりさと代表ありすが続いた。

「そうだぜ! まりさたちにひどいことするおにいさんは、にどとここにはこないでね!」
「それとあのとかいはじゃない、じゃまなさくももっていってね!」

「ッ! そ、そんな待ってくれ! ちゃんと話し合って──」

「うるさいよ! ゆっくりしていってね!」

グッ、と青年は声を詰まらせた。
確かに青年は悪い事をした。だが、ちゃんと謝り罪を償いつつ、他の方法でゆっくり達の役に立つことで贖罪をしようと考えていた。
甚だ自分勝手な考えではあるが、それがゆっくり達のためになると青年は信じて疑わなかった。
ゆっくり達の罵声も罵倒も暴力も、全てを逃げずに受け入れ、その上で再び仲間として受け入れてくれれば、と。
だがゆっくり達はそんな青年の願いをあっさりと叩き折った。

代表ゆっくり達が青年を追放しようという流れに乗って、他のゆっくり達も次々に青年に怒りをぶつける。

「そうだよ! おにいさんのせいでみんなゆっくりできないんだよ!」
「それにあのさく! ずっとじゃまだったんだぜ! ゆっくりできなかったんだぜ!」
「ゆっくりできないおにいさんはにどとこないでね!」
「でちぇけ~!」

「だが、だが待ってくれ! 僕の話を聞いてくれ! あぁしなければ、数を減らさなければ君たちはゆっくりできなかったんだ!」

「ゆっくりうそつかないでね!」

青年の言葉に反論したのは、やはり代表れいむだった。

「そうやってうそついて、れいむたちをまたころすきなんだよ!」
「ち、違うっ! 待ってくれ! 落ち着いて話を──」
「おにいさんとはなすことなんて、ゆっくりないよ!」
「こっちにはあるんだ! 君たちは、自分達だけではゆっくりできない! だから僕はこうして君たちのために──」
「よけいなおせわだよ! れいむたちはれいむたちだけでゆっくりできるよ! おにいさんはじゃまだよ!」

ハッキリと、拒絶を告げられた。
青年は愕然とすると同時に、どこか素直に受け入れている部分もあった。
自分は、ゆっくり達を自分の保護が無ければ生きていけない惰弱な存在だと決め付けていたのではないか。
強者の傲慢から生まれた一方的な干渉だったのではないかと。
今、ハッキリと自覚した。

「…………分かった。すまない、僕は出て行くよ」

青年がそう言いながら立ち上がると、ドッと群れが沸いた。
二度と来るな、帰れ、ゆっくり殺し! 
様々な声が浴びせかけられる。愛するものから飛ばされる悪態に青年は唇を噛み締めるが、自業自得なのだから仕方ないと受け入れる。
ゆっくり達はハッキリと、青年はいらないと言った。
青年がいなくても、自分達だけでゆっくりできると。ならば、青年はただの邪魔者でしかない。ゆっくり達は自分達だけでゆっくりすることを選んだ。
ならばそう、ゆっくりと立ち去るだけだ。
それでも、去る者として一言言っておきたかった。

「れいむ。これだけは覚えていて欲しい。ゆっくりしたいだけゆっくりするだけじゃ、ゆっくり出来ないんだよ」
「ゆゆっ! わけわかんないこといってないでゆっくりでていってね!」

代表れいむのその言葉を受け、青年は背を向けた。
いらないと言われた巣の周りの柵を回収し、人里への帰路につく。

「バイバイ、愛してる」

途中振り返り、ゆっくりの群れに対し呟いた言葉は、誰にも届かなかった。
青年は二度と、この群れを訪れることは無かった。





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ゆっくり合戦
ゆッカー
ゆっくり求聞史紀
ゆっくり腹話術(前)
ゆっくり腹話術(後)
ゆっくりの飼い方 私の場合
虐待お兄さんVSゆっくりんピース
普通に虐待
普通に虐待2~以下無限ループ~
二つの計画
ある復讐の結末(前)
ある復讐の結末(中)
ある復讐の結末(後-1)
ある復讐の結末(後-2)
ある復讐の結末(後-3)
ゆっくりに育てられた子
ゆっくりに心囚われた男
晒し首
チャリンコ
コシアンルーレット前編
コシアンルーレット後編
いろいろと小ネタ ごった煮

byキノコ馬




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最終更新:2008年10月15日 22:57
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