ゆっくりいじめ系269 雪中のゆっくり前編

 あれは今年5回目の雪が降る日の事だったと思う。
その時、里の北東に位置する防御陣地には私一人しか居なかった。
襲撃を掛けていたゆっくりの群れは殲滅した上に、そもそもゆっくりは冬眠の時期であったので畑をまじめに防御する必要は無くなっていたから、晩秋まであれほどいた加工所職員や農夫はみな自分が居るべき場所に帰っていた。

我々はゆっくりがどういう生物か失念していたのだ。
あの生物の習性は年が変わるごとに変化していき、その度に人間が対応を迫られていることをすっかり忘れており、今年の冬もゆっくりは来ないだろうから防御の必要は無い、そう思っていた。
古来より慢心は身を滅ぼしてきた。それは幻想郷でも同じことだ。




 「あ~寒い。暖冬に慣れた身には厳しいな…。」
陣地に居住スペースを作り、里の家から移り住んだ私はこの頃幻想郷の寒さに参っており、陣地を放棄して里の家に逃げ帰ろうかと本気で考えるようになっていた。
薪を燃焼させる調理暖房兼用のストーブが置いてあるのだが、空調による暖房に慣れた身には如何とも頼りなかった。要するに寒い。

ホットコーヒーでも飲んで暖まるか。うん、そうしよう。外側から温められないなら内側からだ。

粗末な椅子から立ち上がり、戸棚をあけて大量のインスタント・コーヒーの瓶のうち中身が半分ほどになっている物を取り出す。入れっぱなしのスプーンで一さじすくい、外から持ち込んだ数少ない自分の持ち物であるマグカップに入れ、ストーブの上で湯気を噴出しているケトルを手に取る。湯を注ぐとホットコーヒーの完成だ。

戸棚に1ダースも工業製品たるインスタント・コーヒーが入っているのには理由がある。
里には喫茶店が何軒か有り、そこでは中々美味いコーヒーが供されている為に味が劣るインスタントのそれは酷く人気が無く、それ故に香霖堂で廃棄寸前だったのを運良く二束三文で購入できたのだ。

コーヒー通ならおそらく我慢ならないんだろうが自分としては一応コーヒーであれば良い、などと考えつつ粉っぽい液体をすすっていると、前線方向の彼方に何か見えることに気がついた。

陣地最前面の鉄条網、そのさらに向こう側で黒い塊がうごめいているようだ。
晴れた日でもなく吹雪の日でもない今日この時間帯だからこそ見つかったのかも知れないと思いながら双眼鏡を取り出す。
視界の中央に拡大されたのは金髪に黒いとんがり帽子のゆっくり、まりさ種らしい。
必死の形相で這いずりながら此方へと向かってくる。

ゆっくりまりさが何でこんな冬に?冬眠してるはずじゃないのか?

そのまま力尽きて凍え死ぬのを見ていても良かったが、状況から何かただ事ではないと判断した私はコートを引っつかみ、外に出た。
真新しい雪を踏みつける音が心地よい。生憎と気温はそうでもなかったが。
雪で埋まりかけた壕に足を取られないよう気をつけて跨ぎ、確認が難しくなりつつある鉄条網を記憶を頼りに乗り越え、殆ど動かなくなったゆっくりまりさへと近づく。
最後の鉄条網を乗り越えたところでゆっくりはこちらに気づき、震えながら顔をあげてきた。

畜生、そんな顔をされたら助けない訳にはいかないじゃないか。

先ほどまでゆっくりと降っていた雪が吹雪きはじめた。
このままここでゆっくりしていると一人と一匹そろって凍えてしまいかねないので、ゆっくりまりさが動かなくなった事により彼女に付着し始めた雪を払おうと姿勢を下げた。

視界の端に違和感を感じる。
視線が低くなったことにより森の奥まで見渡せるようになったが、その奥にいたのはふくれた表情でこちらにやって来る巨大なゆっくりだった。
このゆっくりまりさを追いかけて来たらしい。
助けに来たのだろうかと思ったが、それにしては表情がおかしい。
これではまるで、このゆっくりまりさを始末に来たような──。

「おにいさん!そのこをゆっくりこっちにわたしてね!そうすればおにいさんみのがしてあげるよ!!」

何を言ってるんだこいつは。
おそらく渡したらこのゆっくりまりさは始末される。今の発言でその可能性は強化された。
ゆっくりまりさが死んでしまったら、いや、そもそもこのまりさを起こして話を聞かなければ一体何が起こっているか分からない。
わざわざ巨大ゆっくりが来るという事は、まず間違いなく何かが起きている。
ともかく、ゆっくりまりさは渡せない。

「断る!このゆっくりは俺が先に見つけたんだ!お前にはあげられないよ!」
「おにいさん!れいむにかてるとおもってるの!ゆっくりあきらめてね!」

ますます体を大きく膨らませる巨大ゆっくり。
聞く耳持たずか。あの巨体に相当自信があるんだろう、こちらに勝つ気でいる。
ならば、それ相応のおもてなしをしてやらなきゃな。

「きいてるの!おにいさん!それともりかいできないばかなの!」

無視して背負っていた小銃を構え、膝立ちして攻撃体勢に持っていく。
発言に返答がないことで巨大ゆっくりはもうこれ以上はというほど膨れ、顔を赤くしている。
こんな寒いのに頭から湯気を上げるほど体温を上げて大丈夫なのだろうか。

「もういいよ!ふたりともころすからあのよでゆっくりこうかいしてね!」

巨大ゆっくりがこちらを踏み潰すための助走体勢に入った。
その巨体ゆえに一回で最大跳躍できない巨大ゆっくりはホップ、ステップ、ジャンプのプロセスを踏んで敵を踏み潰す。
目の前の巨大ゆっくりはホップを終え、ステップに入ったところだ。
完全に勝ち誇っているニヤついた顔。
すぐに恐怖に染まるんだけどな。

ヤツがステップを終えて着地をする前に引き金を引く。
空中で下半身に銃弾を食らった巨大ゆっくりは物理の法則に従い前傾方向に回転する。
結果、いわゆる「足」の部分で受け止めるはずだった運動エネルギーを、顔面をしこたま打ち付ける事により吸収することとなった。

「ゆ゛っ!ゆ゛ぅう゛う゛ぅぅ~!!」

よほど痛かったのか、降り積もった雪を振動で舞い散らせるほどの叫び声があがる。
巨大ゆっくりは通常のゆっくりに比してかなり耐久力が高いと聞いたことがあったので、攻撃の手は緩めない。
ボルトを操作して排莢、次の銃弾を装填する。
再び引き金を引いて発射。

二発目の銃弾は巨大ゆっくりの頭頂部から餡子へと音速で進入し、中核部分の餡子を切り裂いたのちに「足」の皮を衝撃波で破り、ついでにかなりの量の餡子を引き連れて森へと飛んで行った。

痛みを堪えて起き上がった巨大ゆっくりが睨みつけてくる。

「ゆ゛ーーっ!もうおこった!おにいさんはく゛るし゛んて゛し゛んて゛ね!!!」

滝みたいに涙を流しやがって、そんな顔で言われても説得力ねえよ。
構わず三発目を発射、貫通した瞬間に巨大ゆっくりの後頭部で何かが飛び散った。
こいつの後頭部だった物が銃弾の衝撃で吹き飛んだらしい。

巨大ゆっくりは涙を流す表情のまま前に倒れ、二度と動かなくなった。
まだ暖かい餡子が露出して美味しそうな香りをまとった湯気が上がっている。

岩のように凍りついたゆっくりまりさを拾い上げ、掛けた部分はないか確認。問題なし。
「帝国の逆襲」ならここでゆっくりまりさを巨大ゆっくりだった物の中へ入れてやる所だろうが、帰るべき場所はすぐそこなのでそのような事はしない。
小銃を背負い、冷凍ゆっくりを持ってその場を後にした。




 本格的になり始めた吹雪にコートの襟を立てる事で対処しつつ、居住スペースへと戻った。
空調でなくとも暖房を掛けている部屋は外に比べれば天国のような暖かさ、ストーブを頼りないと思った事を反省する。
流石にテーブルの上に置いたマグカップはすっかり冷めていたが。
ゆっくりまりさを解凍するため、鍋を取り出しケトルから熱湯を入れる。
流石にそのままでは氷ごと饅頭ボディまで溶け出しかねないので、外から雪を持ってきてその中に溶かした。
風呂よりも熱いかなという位になったところで冷凍ゆっくりを鍋に放り込む。
放置していればそのうち解凍されるだろう。


冷めてしまったインスタント・コーヒーの酷さを再確認していると、鍋の中のゆっくりがわずかに震え始めた。
餡子が解けて生命活動を再開、融解を加速するために自らも震えて熱を発生させようとしている。
その段階からさらに10分経過してようやくゆっくりまりさは口がきける様になった。
ジャバジャバ音を立てて鍋の水をかき乱しながら左右を見回すゆっくり。
今すぐ叩き潰してやりたいが、何があったかを聞き出すまでは我慢我慢。

「やあやあお目覚めかな?ゆっくりしていってね!」
「ゆっ!?ゆっくりしていってね!」

お馴染みの挨拶をすると、すばやくこちらを向いて反応。起きたばかりだというのに流石ゆっくり。

「単刀直入に聞こうか。何があったんだ?なんで仲間に追われてたんだ?」
「ゆ…なかま…?……ゆっ!!ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛ぅ゛わ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛!れ゛いむ゛ー!は゛ち゛ゅりー!なんでえぇー!」
「オイオイ、どうした。何かあったんだな?」

巨大ゆっくりに追われていた事を教えてやると泣き出してしまった。
仲間の名を叫んでいると言う事はその名の仲間はもう生きていないのだろう。
おそらく、そいつらが死んだ理由に巨大ゆっくりが関わっている筈だ。




 「ゆっくりを養殖する巨大ゆっくりか、聞いたような話だな…。」
今は泣き疲れて眠っているゆっくりまりさ曰く、巨大ゆっくりの養殖場から命からがら逃げてきたらしい。
生まれたときから仲良くしていた友達が食い殺されるのを見て脱走を決心したという話だ。
まりさは眠る直前に、「おにいさん、あいつらにんげんをおそうつもりだよ。かえりうちにしてやってよ…。」と言っていた。
あんな大きさのゆっくりが里を襲うのか。
巨大ゆっくり、ゆっくりを養殖、里を襲撃…やはり聞き覚えがある。一体何の話だったかな…

里長なら何か知っていると思い、机に置かれた電話から受話器を取った。

「交換さん?里長のところに繋いでくれ。防御陣地からだ。」

交換手が接続するまでのこの空白時間は何時までたっても慣れない。大体交換手が必要なほど電話普及してるのかと。
しばらくして交換手が繋がった事を伝えてきた。里長の声それに続く。


里長は、それは今年の春に隣の里が巨大ゆっくりに襲われた話じゃないかと言っていた。
確かにそれだ。隣の里が急ごしらえの防御線で何とか殲滅したとかいう話だ。
その時の群れは人間の手により消滅した上にそもそも歴史ごと抹消されている、故に今ここにいるゆっくりまりさが逃げてきたのは別の群れだろう。
とにかく対策を検討しなければならない。
今のところ里が襲われる可能性を示唆しているのはこのゆっくりまりさの証言だけなので、流石に防衛体制を引き上げる訳には行かない。
せいぜい春の話の資料を手に入れて対策を練るぐらいか。
明日、里長のとこまで行って資料を貰わなきゃな。


眠ってしまったまりさは結局起きなかった。命からがら逃げてきたんだろう、全身かすり傷だらけで疲労が溜まっている様で、泥のように眠るという表現が相応しかった。
その日の夕食は窓の外に見える気味の悪いオブジェ──粉砕された巨大ゆっくりを見ながら袋麺を啜るというひどい物になった。




 里長が言うには隣の里の勝利においては情報収集と初動の早さが大きな役割を果たしたらしい。
定期的なものではない為に人の少ない寄合所でそんな話が出始めた頃から嫌な予感がしていた。
頼むから偵察に行けとか言わないで下さい、せめて行かせるなら他の人にどうかお願いします、などと祈ってはいたもののその祈りは全くの無駄に終わった。
隣の里の巨大ゆっくりとの戦いの資料に、「巨大ユックリノ営巣地ヲ偵察スルトキハ、自衛ガ可能ナ者ガ望マシイ。」等と書かれており、現状で巨大ゆっくりを屠ったのは私だけだったから斥候として指名されたのは当然だろう。納得できないが。
「自衛ガ可能ナ者トハ、身体頑健デ何ラカノ格闘技ヲ修メタ者。」とか書かれており、自分は明らかに不健康で貧弱であると出来る限り抵抗してみたものの、「巨大ユックリトノ戦闘経験者ガ最モ適ス。」という記述を引っ張り出された挙句に、銃器で戦闘能力は補えると言われては両手を挙げざるを得なかった。
分かったよ。行けばいいんだろう?

皆、幸運を祈るだとか防寒対策に気をつけろよとか言いたい放題言いながらこっちを見送っていた。
畜生。このクソ寒い季節に森へ入れというのか。

ボヤいても問題は解決しない為、ヤツらの巣を探ろうとその場所を知っていそうな者、すなわちあのゆっくりまりさを取りに陣地へと取って返した。




 怖いから行きたくないよとか泣き叫んでゴネるゆっくりまりさを「説得」し、準備万端整えて陣地を出たときにはもう昼飯の時間が終わる頃だった。
せっかくの昼飯を台無しにしてくれた巨大ゆっくりには必ずお礼をしてやると決意を新たにし、ゆっくりまりさの先導に従って森へと入る。
森の外は照りつける太陽光線を反射する雪が火傷するほど眩しいが、ありがたい事に森の中は薄暗かった。
光量の急激な変化についていけない目を瞬かせながら前を飛び跳ねていくまりさを注視する。
目的地に着いたのは陣地を出てから30分後だった。


斜面にぽっかりと空いた明らかに人の手で造られた穴に巨大ゆっくりが出入りしているのが見える。連中は鉱山跡を巣として利用しているようだ。
普通のゆっくりと違って連中の巨体じゃ巣を探すのに一苦労しただろう。
あの鉱山の大きさならまさにベスト・ゆっくり・プレイス。もうじきそうじゃなくなるんだがな。

双眼鏡をぐるりと巡らせて入り口の陣容を眺める。
入り口の右側に巨大ゆっくりがおり、そいつが出入りする仲間を監視していた。
あれで守らせているつもりらしい。あの巨体なら存在するだけで十分威圧感があるからだろう。
入り口を中心として半径10メートルの円状に柵が設置されているのも見える。
柵の形状から推測するに、内部で養殖しているという通常ゆっくりの脱走防止用かな。
あの大きさになると生意気にも知恵を付けるようだ。これでは中まで偵察するのは不可能かもしれない。

さて、困った。これでは連中の規模が分かりゃしない。
通常の生物なら廃棄物なりが出てくるだろうからそこから概算する方法があるが、ゆっくりという生物はコトに食物の摂取に関しては有得ないほどの効率を誇り、廃棄物を殆ど出さない事からこの手段は使えない。
歩哨の巨大ゆっくりを狙撃して強襲しようかと思ったが、流石に一人じゃ袋叩きだろうし、射撃音で気づかれたらアウトだ。

どうしようか?と話しかけようとゆっくりまりさの方を向くと、先に話しかけるまりさ。

「おにいさん。まりさのともだちをたすけてほしいよ…。」
「そうは言ってもね。あの見張りが邪魔なんだ。どうにかできないか?」

何と言うべきか、まりさは元気の無い顔からますます生気を失い、この世の終わりを表現した絵画の登場人物のような様子を見せた。
どうしたもんかな。いっそコイツを放り込んでから突入しようか?いや、せめて囮でもいいか。
できるかどうか聞いてみる価値はあるな。何せこいつは追撃から一回逃走に成功している。

「まりさ。この森の中だったらあの巨大ゆっくりから逃げきれるか?」
「ゆっ。たぶんできるよ…。おにいさん、あそこにはいってくれるの?」
「あの見張りが居なくなればな。どうだ?できるか?」
「やってみるよ。まりさがしんじゃってもなかまをたすけてね。」

囮になって欲しいと伝えると、まりさの顔に僅かながら生気が戻ってきた。
まりさ種は仲間思いのゆっくりになりやすいとは事実らしい。
こういうゆっくりは死ぬべきではないな。生き残って他のゆっくりのリーダーとなるべきだ。




 黒々とした空間を見せる鉱山入り口にさらに近づいた。
こちらの姿を見張りゆっくりの視線から遮るものは子供の背丈ほどの藪しかない。

『…よし、行け!絶対に捕まるなよ!』
『おにいさん!がんばってね!』

出入りする巨大ゆっくりの姿が途絶えたところで作戦を実行に移す。
藪から全速力で駆け出すゆっくりまりさ。

「おおきいゆっくりはきもちわるいよ!ゆっくりしないでね!」
「ゆっ!?れいむのことばかにするの?ゆっくりしんでね!」

早速挑発の言葉を投げかけるまりさ。見張りゆっくりはまんまと釣られ、まりさを踏み潰そうと跳ねだした。

「ゆっくりおいかけてね!」
「ころしてあげるからゆっくりまってね!」

まりさは一瞬こちらを見た後、森の彼方、里の方向へと逃走に移る。
見張りゆっくりはその巨体が生み出す歩幅(?)によりあっという間に追いつくかと思えたが、まりさは倒木や木立の間をたくみに抜け、巨大ゆっくりを引き離しすらしている。
巨大ゆっくりは体重で障害物を踏み潰しながら追いかけるが、時々木に挟まってはマヌケな声を上げている。

これで良し。あいつが逃げている間に侵入しよう。

雪で反射された太陽光を浴びる銃剣が「白兵戦」の語源が何であったかを見せ付けるようにきらめく。
巨大ゆっくり相手では気休めにしかならない着剣した小銃を構えて突入した。




 鉱山跡は不気味なほど静まり返っている。地中の適度に保温された空気が心地よい。連中は留守のようだった。
分岐が出て来るたびにその先を調べ、行き止まりであるのを確認する事5回。
6つ目の分岐先で巨大赤ちゃんゆっくりの部屋を発見した。

うん、資料にあるとおり、デカイな。普通の成体ゆっくりとほぼ同じとは…。

全員寝ているようだ。「ゅ…ゅゅゅ…」「ゅぅー…ゅぅー…」という寝息が聞こえてくる。
その幸せそうな寝顔と相まって直ちに殺戮する衝動に駆られるが、騒ぎになって親が戻るとまずい。
騒ぎになる前に始末できるような物─テルミット手榴弾は持ってきていない。
名残惜しいが赤ちゃんゆっくりの量を数えてその場を後にした。
こいつらを始末するのは後だ。


さらに奥へと進んで行き、10回目の巨大ゆっくりが掘り進んだと思わしき分岐をうんざりしながら通る。
その先の通路は巨大ゆっくり一匹分しかない。すれ違うときどうするのだろうと疑問に思いながら歩いていくと、100メートルほど進んだ辺りで急に道が広くなった。部屋に出たらしい。
部屋を見回すと、壁に掘られた幾つもの標準ゆっくりサイズの穴とそれを塞ぐ格子がある事に気が付いた。
どうやらここが養殖場らしい。

それにしては静かだな…。まさか全部食われたとは思えない、何せ『養殖場』だから。
だいいち、穴を覗き込んでみたが最近ゆっくりが形跡などは影も形も無い。
ここにゆっくりが閉じ込められていたのは昨日今日の話ではなさそうだ。
じゃあ、あのゆっくりまりさは一体…。

「おにいさん!ゆっくりのいうことをしんじるなんてばかなの?」

入り口からゆっくりが話しかけてきた。巨大ゆっくりの低い声ではない。通常サイズの声だ。
そこにいたのはさっき別れたゆっくりまりさ。なぜここに…。

「まだわからないの!?ほんとうにばかだね!おにいさんはまりさにだまされたんだよ!」




 ゆっくりまりさが話し掛けてきてから3分経過した。
ゆっくりとしては驚異的なことにまだ話し続けている。曰く、まりさがどれだけ賢いかとか、巨大ゆっくりは自分の仲間だとか、人間を人質にして里から食料を奪うつもりだとか、本当に色々ベラベラ喋っている。
おしゃべりな悪党は死に易いんだがな。

「ちょっとおしゃべりしすぎちゃった!それじゃ、おにいさんはゆっくりしばられてね!ていこうはむいみだよ!」

やっと話が終わったまりさが得意げな顔で私を拘束しようと近づいてくる。
いつのまにか現れた巨大ゆっくりれいむがその後ろに続いており、口にはロープのような物をくわえていた。
通常サイズのゆっくりでは人間に力で勝つのは到底無理だから、仲間の巨大れいむに拘束させるのだろう。

さて…どうしたものか。小銃弾では3発以上命中させねばこの巨大れいむは無力化できない。
距離から言って、2発目を放つ余裕は無いだろう。1発目を当てた時点で飛び掛られて哀れ私は潰される。
悪役っぽくて嫌だが、この手しかないか。畜生。

「君はゆっくりれいむかい?とても大きいね!」
「ゆっ!れいむおおきいでしょ!」

私が話しかけると、胸を張って返事をする巨大れいむ。
ゆっくりまりさはそれが気に入らない様子だ。

「れいむ!にんげんとおはなししちゃだめだよ!はやくこいつをしばってね!」
「ごめんなさい!まりさ!いまやるね!」

まりさが叱り付けると巨大れいむは酷く怯えた顔で謝りだした。彼女の群れでの地位はそうとうのものらしい。これじゃ仲間というより手下じゃないか。

しかし、叱り付けられた巨大れいむは不満を覚えた素振りを見せず私に近づいてきた。
行動に移るなら今しかない。

「れいむ!僕を助けてくれたら美味しい物を食べさせてあげるよ!」
「おにいさんほんとうにひっしだね! れいむ!いうことをきいちゃだめだよ!このおにいさんはどうせあとでれいむをころすつもりだよ!」
「ゆっ!にんげんってばかだね!れいむがだまされるわけないじゃん!」

当然の反応だな。この程度で私を騙してここまで誘導するようなゆっくりまりさとその手下が騙される訳は無い。
なので、再び口を開く。

「れいむ!僕が君を殺すだって!?れいむみたいな大きいゆっくりにはとても勝てないからね!殺すなんてできないよ!」

巨大れいむはこの言葉を聞いて酷く動揺した。彼女にとってこの言葉は納得のできる物だからだ。

「れいむ!!にんげんはうそつきだよ!きかないではやくこいつをしばってね!」

まりさが動揺する巨大れいむをなだめようとするが、彼女の言葉を聞いても巨大れいむは動揺したままだった。

「れいむっ!!!にんげんはつよいんだよ!こいつがそのぼうでおおきいゆっくりをころすところをみたよ!!!」
「れいむ。騙されちゃダメだよ!僕がこんな棒切れでおおきいゆっくりに勝てる訳無いじゃん!」

相反する言葉を聞いて動揺の度合いを深める巨大れいむ。
暫くの間、ふらつきながらどうすべきか考えた後、彼女はどちらの味方をするか決めた。

巨大れいむが私のほうに向かっていくところを見たまりさは勝利を確信したような笑顔になったが、巨大れいむが私の横を通り過ぎ、その巨体を180度反転させてまりさのほうを睨み付けた時、彼女の笑顔は崩れた。

「おにいさんのいうとおりだよ!うそつきなのはまりさだよ!うそつきゆっくりはゆっくりしねぇ!」
「な゛んて゛ええ゛ぇぇぇえ゛ええ!ま゛り゛さ゛うそ゛つ゛い゛て゛な゛いよ゛お゛お゛ぉぉお゛ぉお゛!!!」

巨大れいむが頼もしさすら感じさせる身体を跳躍させ、まりさに飛びかかる。
勝負はあっという間についた。
まりさは踏み潰された後もしばらく叫びながら抵抗していたが、すぐに声が聞こえなくなった。
流石巨大ゆっくりだ。

「おにいさん!たすけてあげたからおいしいものはやくちょうだい!」
「そうだな。取り出すからちょっとゆっくりしててね!」
「ゆっくりまつよ!」

身体が大きくなると余裕が出てくるらしい。巨大れいむは私の言うことを素直に聞き、身体を重力に任せる楽な姿勢をとった。

ビニールの包装を施された一口サイズの羊羹を取り出し、れいむの方を向く。

「お待たせ!今あげるから口を大きく開けて舌を出してね!そこに乗せるよ!」

れいむは口をあーんと開け、おいしい食べ物を今かと待ち構える。
ビニールをやぶき、中の羊羹を舌に直接乗せてやった。

「れいむ!ゆっくり味わってね!」
「むーしゃ…むーしゃ…。」

私に言われた通り、口で何度も咀嚼するれいむ。口を動かすたびに目が垂れ下がり、頬が赤く染まっていく。
そんなにおいしく食べてもらえるなんて幸せだよお兄さん。

「しあわせー!」

食べ終わったようだ。発情してるんじゃないかという程に赤くなった表情で声を上げるれいむ。
余韻を味わった後、私のほうを向いてきた。

「おにいさん!もっとほしいよ!」
「ああ、ちょっと待ってな。」

欲の皮の突っ張ったヤツだ、予想はしていたが。
欲求に答えてやる為、再び荷物を開けた。
先ほどの羊羹とは別のところから紙で包まれた一本の羊羹に見えなくも無い直方体を取り出す。

巨大れいむはそれを見て再びあーんと口を開け、早く頂戴と視線で要求してくる。

「これも美味しいからね!ゆっくり味わってね!」

包装を解いて舌に乗せてやると、あっという間に口の中に入れたれいむはよく味わおうとなめまわし始めた。
口からはみ出した紐が何とも珍妙な雰囲気を醸す。

「ふぉにいふぁん!ふぁんふぁりふぉいひくはいよ!(おにいさん!あんまりおいしくないよ!)」
「そういうのは大人の味って言うんだ。れいむは大きいからもちろん分かるよね!」
「ひゅ、ふぉうふぁね!ふぉいひいよ!(ゆ、そうだね!おいしいよ!)」

アホか。それは食い物ですらねえよ。
それにしても口から紐が出てて食いにくくないだろうか?

「ふぉにいふぁん!ふぉっふぉひふぉふぁひゃひゃふぁお!(おにいさん!ちょっとひもがじゃまだよ!)」
「自然に生えている羊羹だからね、蔓が付いたまんまなんだよ。」
「ふぉうふぁふぉ?(そうなの?)」

巨大とは言え所詮ゆっくりか、この程度の知能らしい。
れいむが思い込みにより再び幸せそうな顔になってきたところで、紐の一端を持って伸ばしながら部屋の外へと出て行く。
部屋の中が完全に見えなくなったところで荷物からドロップ缶の上に取っ手が付いたような物体を取り出し、紐と接続。

部屋から微かに聞こえる声で、巨大れいむが未だにお楽しみ中であることを確認し、取っ手を掴んだ。




 おにいさんのこと、まりさはうそつきだっていってたけど、おいしいものくれたしゆっくりできるひとだね!
ようかんってあまくておいしくてしあわせー!

巨大れいむはそう思いながら渡された物体をしゃぶり、味を楽しんでいた。
最初こそ変な味だと思った彼女だが、大人の味だと指摘されるとだんだんと甘く感じるようになり、今では十分美味しいと感じるようになっている。

さいしょもらったやつはすぐにたべちゃったから、こんどはゆっくりあじあわなきゃ!

れいむは噛む事すら躊躇しながら物体を舌で転がす。
最初に食べた物体があまりにも美味しかった為に思ったよりゆっくり味わえなかった後悔がある彼女は、今度こそ楽しむという不退転の決意で居た。

彼女はそれをくれた人物が部屋から消えたことに最後まで気が付かなかった。



取っ手を捻った瞬間、先ほどの部屋から猛烈な爆発音が発生、殆ど同時に部屋の入り口から黒や茶の飛沫が散弾銃のごとく噴出した。

セムテックスが巨大れいむの口内で起爆したことにより、彼女は発生した膨大な量のガスによって瞬時に膨張、次の瞬間当然の結果として破裂し、その身体の破片をあたり一面に飛び散らせた結果だった。

部屋に戻ったとき目にしたのは、壁や床、そして天井に存在する餡子をブチまけたような(実際そうなのだが)抽象芸術だった。
あまりにも斬新過ぎる芸術に目を奪われた私は、部屋をよく見回さなかったことを後で後悔する。


部屋の隅、かつて巨大れいむの一部だった餡子の山が呻きながらわずかに動いていた事に、私は気が付かなかった。



書いているうちにタイトルと内容が剥離してきた。次で何とかする。したい。

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最終更新:2022年01月31日 01:11
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