ゆっくりいじめ系42 ゆっくり一家と俺の冬 後編


ゆっくり一家と俺の冬 後編


 次の日の朝、俺は台所で朝食の用意をしていた。俺一人、食べるだけの分を。台所の窓から差し込む光に、眩しそうに
目を細める。他人が見たら、今の俺はとても清々しい顔をしているように見えただろう。昨日の夜、あのような惨劇を楽しげに
見ていた奴などと思うまい。

 あのあと、俺はゆっくり達を丁度いい大きさの籠に閉じ込めると、残りの夕食を一人で食べ、布団を敷いてさっさと寝てしまった。
次の仕置きまでには時間をおくことが必要だったからだ。寝ている最中、時々親ゆっくりの呻き声が聞こえてはいたが、
それでもすぐに寝付けたのは、鬱憤を多少なりとも晴らしたからだろう。おかげで、久しぶりに目覚めのいい朝を迎えることが出来た。

 起きた後、倉の中へ食料を取りに行くと、相変わらず、食い荒らされた様子が目に入った。見ていると、昨日の怒りがまた湧き上がってくる。
俺は忌々しげに鼻を鳴らすと、散らかった食べ残しを拾い集めると、いくつか食材を抱えて家に戻り、朝食の準備に取り掛かった。
 台所でにいる俺を見て、ゆっくり達がこちらを怯えた様子で見つめてきた。昨日あんな目に合わせたのだから、まぁ無理も無いか。
親のゆっくりまりさの方は相変わらず調子が悪そうだ。まぁ、子供が3匹も体内に入っているのだから仕方ないか。
仔のちびゆっくり達はそんな親を気遣うように、ぴったりと親ゆっくりに体を寄せていた。

 忌々しい奴ら。じきに、ゆっくりしていられないようにしてやろう。

 俺は包丁を握ると、まな板の上に載った野菜に勢いよく突き立てた。


 朝食を作り終え、居間に戻ると、ゆっくり達が期待を込めた目で俺を見つめていた。どうやら、飯を与えてもらえるなどという
甘い期待を抱いているらしい。俺は自分の分の朝食を床に置くと、ゆっくり達に近づく。すると、怯えた様子をみせながらも、
仔ゆっくりは俺に喋りかけてきた。

「ゆっ…おなかへったよ…」「なにかたべさせてね…。」

 精一杯の媚びた表情で俺に愛想を振りまく仔ゆっくり。俺は籠を開けると、仔ゆっくり達の目の前に持っていたものを放り投げてやった。
 倉の中にあった、ゆっくり達が食い散らかしたゴミだ。

「自分達で食い散らかしたものは、自分達で片付けな。」

 仔ゆっくりはそれを見て悲しそうな顔をすると、口々に文句を言い始めた。俺は返事の代わりに地面を勢いよく踏みつけてゆっくり達を黙らせると、朝食を食べようと振り向いた。
 だが、その時俺の視界に入ったのは、なんと一匹の仔ゆっくりが俺の朝食に向かってにじり寄って行く光景だった。

 こいつっ!!

 俺は素早くその仔ゆっくりを捕まえると、怒りのままに手の中で強めに圧迫してやった。握りつぶす一歩手前だ。

「ゆ゛ぶっ、ゆ゛ぶう゛う゛う゛う゛う゛…!!!」

 握られたゆっくりは顔が大きくひしゃげる。その目は大きく見開かれ、口から餡子をわずかに吹き出し始めている。
その様子を見た仔ゆっくり達と親が悲しげな絶叫を上げた。

「や゛め゛でえ゛ぇぇ!!」「ばな゛じであ゛げでぇぇ!!!」

 俺は手の中に仔ゆっくりを握ったまま、親ゆっくりの元へ荒々しく近づいていき、手の中のゆっくりを突きつけた。

「人の物を勝手に横取りするということはどういう事か!まだ判っていない奴がいるようだな!!」

 既に親も仔も、完全にガタガタと震え、涙を流して怯えきっていた。俺はゆっくり達に手の中がよく見えるようにし、言い放った。

「よく見ていろよ…!!」

 そしてそのまま、手の中にいる仔ゆっくりに勢いよく齧りついてやった。

「びゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 齧られた仔ゆっくりが凄まじい断末魔の叫びを上げた。まだ生まれて間もない仔ゆっくりの餡はかなり甘く、しっとりとしていた。これは旨い。普通の饅頭とは比べ物にならない味だ。里の連中はよくゆっくりを捕まえて食べているらしいが、わかる気がする。
久々の甘味に植えていた俺は、手の中で白目を剥いている仔ゆっくりを貪り食った。

「や゛め゛でえ゛ぇ!!どうじで、どうじでぞん゛な゛ごどずる゛の゛お゛お゛ぉぉ!!!」

 親ゆっくりはこれ以上ないというくらいに体を怒りに震わせ、涙ながらに俺に突進してきた。俺が親ゆっくりの前に足を差し出してやると、
勢いづいた親は自分から俺の足に突っ込み、もんどりうった。苦痛の表情を浮かべる親ゆっくりの目の前に、俺は既に帽子と一部の皮だけになってしまった仔ゆっくりの残骸を置いてやった。

「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁ……」

 最早見る影も無くなってしまったわが子に、親ゆっくりはただ俯いて涙を流していた。俺はそんな親ゆっくりを見て満足すると、ゆっくり達に背を向けて囲炉裏の傍に戻った。そして少し冷めてしまった朝食を口に運んだ。



 昼時になり、また俺は食べかけのゴミをゆっくり達に差し出した。また同じ食事を出された仔ゆっくり達はひどく落ち込んだようだが、先ほどの見せしめが効いたのか、文句一つ言わずにゆっくり食べ始めた。親ゆっくりは身動き一つせず、ただ仔ゆっくり達がゴミを食べ漁るのを呆然と見つめているだけだった。時折、短く「ゆっ、ゆっ」と呻いていた。
もしこの場に他の誰かがいたら、親ゆっくりは目の前でわが子を食べられてしまったショックで、おかしくなってしまったと思い込んだだろう。
 だが、そんなことより遥かに異常な事態が親ゆっくりの体に起きていることを俺は知っていた。

「ゆ゛!ゆ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ!!」

 丁度俺が、自分の昼飯を半分程食べた頃だろうか。突然親ゆっくりが跳ね起き、半開きの口から涎を垂らしながら体を痙攣させ始めた。

「ゆ、ゆっくり!?」「だいじょうぶおかあさん!?」「ゆ、ゆっくりして!!」

 親の奇妙な行動に驚いた仔ゆっくりは、成す術なくおろおろするばかりだった。その間にも親ゆっくりはのたうち回り、口から泡と餡子を撒き散らす。よく見ると、親ゆっくりの顔の中で、何かが蠢いている。そしてその度に、親ゆっくりがもがき苦しんでいた。
 異物の正体は、昨日親ゆっくりの体内に閉じ込めた仔ゆっくりだった。身を焦がす熱から何とか逃れたものの、昨日の夜から今日の昼まで、
当然何も食べていなかった。いつこの狭い空間から出られるかもわからない。空腹と絶望にあえぐ仔ゆっくりの目の前にあるのは、
親ゆっくりの体内の餡子だった。
 生き延びるために、必死で餡を貪る仔ゆっくり達。そしてそれが親ゆっくりに、体内からじわじわと食われていく激痛として伝わっているのだ。

「ひぎい゛い゛い゛い゛い゛!!!!」

「お゛があ゛ざん゛ん゛ん゛!!」

 俺は手に持っていた茶碗を床に置くと、親ゆっくりに近づいていった。そして、暴れないように押さえつけると、親ゆっくりに一つ選択をさせてやった。

「このままだとお前は死ぬぞ?子供か自分か…どちらか残しておきたいほうを選びな。」

 その言葉を聞いて、しばらく親ゆっくりは悶えるのを止め、大人しくなった。目からは大量の涙が溢れ、
口はこみ上げてくる悲鳴を押し殺すかのように堅く閉じられていた。だが、しばらく時間が経つにつれ、体が震えだし、口の端から泡が漏れ出す。

 子供を潰したりして殺すまいと必死に耐えているのだろうが、いつまで続くものか、見物だな。

 俺は昼食の残りを頬張りながら、その様子を見守っていた。


 しかし、幕切れは意外に呆気ないものだった。数分もしないうちに、親ゆっくりが何かに弾かれたように飛び上がり、奇声を上げながら物に、床に、壁に体を叩きつけ始めた。

「ぎい゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!!」

 顔が潰れて歪もうが、口から餡子が漏れ出そうが、親ゆっくりは止まらなかった。仔ゆっくり達は暴れる親に押しつぶされないように、部屋の隅で固まって泣いていた。

 ようやく親ゆっくりの暴走が収まる頃には、部屋の中は散々な状態になっていた。そこら中に餡子が飛び散り、物は倒れ、囲炉裏の灰は撒き散らされていた。壊れ易い壷のようなものが無かったのが幸いだ。
 部屋の中央では親ゆっくりが憔悴しきった様子で動かなくなっていた。その体はあちこちが凹み、破れ、襤褸雑巾のようになっていた。かろうじて体を上下させているところを見ると、死んではいないようだ。

 子供より自分をとったか。まだ犬や猫の方がましだな。

 部屋の中の惨状を、笑いを浮かべながら見回していると、餡子に混じっていたあるものが目に入った。
それは最早原型を留めぬまでにひき潰された仔ゆっくりの死骸だった。一匹分しかないところを見ると、残りは体内で死んでいるのだろう。
 俺はその残骸を親ゆっくりに投げつけて、一言言ってやった。

「生還おめでとう。」

 親ゆっくりからは、何の反応も返ってはこなかった。



 俺はそれからというもの、ゆっくり達に一切食事を与えなくなった。ゆっくり達は、何日かの間、食べ残したわずかな野菜の切れ端、
肉の破片などを家族同士で分け合い、必死に飢えを凌いでいた。
親ゆっくりは、何とか気力で生きているという有様だった。弾力のあった皮膚がひびわれ、顔からは生気を失っている。
ほとんど動くことをせず、仔ゆっくりが食べかけを持っていったものを弱弱しく食べるだけであった。
 ゆっくり達は、確実に衰弱していった。


 そんなある時、一匹の仔ゆっくりが空腹に耐え切れず、食べ残しを全て食べてしまうことがあった。

「ゆっ…ず、ずるい!!」「はやく吐き出してね!!」

 他のゆっくり達が、一匹の仔ゆっくりを責め始める。
だが、口の中に入れた食べ物をなかなか吐き出さない一匹に、仔ゆっくり達の怒りと疲労がついに限界に達した。

「ゆっくりできないやつは、ゆっくりしね!!」

 仔ゆっくりの一匹が体当たりをしかけたのを皮切りに、他のゆっくり達が一匹を取り囲んで攻撃し始めた。

「ゆ゛ぎゃっ!!ゆ゛っぐり、ゆ゛っぐりやべでぇぇ!!」

 攻撃されている一匹が涙を流しながら必死に助けを乞うが、他のゆっくり達は攻撃を止めない。

「ゆ゛ぶぇっ!!!」

そしてついに、体の大きめの仔ゆっくりが上から踏みつけた時、下敷きにされた仔ゆっくりは口から餡子を吹き出して動かなくなった。
動かなくなった一匹を見て他の仔ゆっくり達は、逃げるようにその場から離れていった。潰れた一匹は、飛び出た餡子もそのままに放置された。

 憐れだな、と俺は思った。こいつらは自分の身が危なくなると、あっさりと仲間を捨てる。それが家族という絆でつながれていても、だ。
所詮こいつらにとって家族というものは、その程度のものなのだろう。
 部屋の隅に打ち捨てられた自分達の仲間だったものに、最早目を向ける奴もいなくなった。

 やがて夜になり、仔ゆっくり達は体を動かしたことの疲れからかすぐに眠ってしまった。
もっとも、その体力は仲間の命を奪うために消費されたものであったが。
俺も布団を敷いて、眠ろうと目を閉じる。
 すると、部屋の中を何かが這いずる音が微かに俺の耳に聞こえてきた。薄目を開けて辺りを伺うと、親ゆっくりが憔悴しきった体を引きずって動いているのがみえた。親ゆっくりはそのまま、昼間死んだ仔ゆっくりの元へと向かう。そして、辿り着いたと同時に親ゆっくりは仔ゆっくりに顔を近づけた。
 俺は笑みを浮かべながら再び目を閉じ、眠りについた。暗闇の中、仔ゆっくりの寝息と何かを咀嚼するような音だけが聞こえていた。


 そして次の日の朝。目を覚ますと、昨日潰れゆっくりが放置されていた場所には何も無かった。

 いよいよ仕置きも大詰めだな…。

 俺はいつものように朝食を作り、居間で食べ始めた。勿論、ゆっくり達には与えない。一人で黙々と箸を進めていると、数匹の仔ゆっくり達が朝食をじっと見つめていることに気がついた。俺はそれを無視し、ゆっくり達から食器を遠ざける。泣きそうな顔をする仔ゆっくり達。
 そのとき、親ゆっくりが一匹の仔ゆっくりの後ろに近づいた。その姿は、異様な雰囲気を放っている。
仔ゆっくりが何事かと振り向く間も無く、

 そのまま親ゆっくりは仔ゆっくりの頭を喰いちぎった。

「ぴぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 一拍遅れて響く凄まじい悲鳴。頭の半分を喰いちぎられた仔ゆっくりは、白目を剥いて激しく痙攣し始めた。
親ゆっくりは、そんな様子を意に介さず、仔ゆっくりの餡子を味わって食べていた。

「ハァハァ…めっちゃうめぇ…めっちゃうめぇコレ…」

 残っていた仔ゆっくり達は、何が起こったのか理解できていなかったらしい。皆それぞれ目を見開き、絶句している。
しばらくして、親ゆっくりが仔ゆっくりを食べ終えたようだ。その目は、妖しく狂気の光を宿していた。
自分達の方を振り向いた親ゆっくりを見て、緊張の糸が切れたかのように仔ゆっくり達が逃げ惑い始める。

「いやあああああああ!!!」「お゛があざん゛だべな゛い゛でぇぇ!!」「ゆ゛っぐりぃぃぃぃ!!」

 蜘蛛の子を散らすように仔ゆっくり達が逃げる。しかし、空腹のあまり長い距離を跳ねることができないのか、仔ゆっくりの逃げる速度は遅い。親ゆっくりはゆっくり這いずりながらも、確実に仔ゆっくりを追い詰めていった。
仔ゆっくりはそれでも、少しでも親から逃げようと姉妹同士で押し合って逃げる。そのとき、一匹の仔ゆっくりが他のゆっくりに潰され、その場に取り残された。

「ゆ゛、ゆ゛っぐり゛じでぇぇ………!」

 どうやら、潰されたにも拘らずまだ息があるようだ。しかし、もう跳ねて逃げる気力も残っていないらしい。
壁際に追い詰められた仔ゆっくりが涙を流しながら必死に助けを嘆願するも、その声は飢えで理性のタガが外れた親ゆっくりにはもはや届いていないようだ。
そのままじりじりと隅に追いやられ、成す術なく親ゆっくりの餌食となる。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

 仔ゆっくりの餡子が、皮が、悲鳴が、親ゆっくりの口の中へと飲み込まれていく。残りの仔ゆっくり達は、その一部始終を見ていた。
力尽きた者から、食べられる。
それを悟った仔ゆっくり達は、ついに仲間内で争いを始めた。自分の代わりに、誰かを犠牲にして生き延びようと考えたのだ。

 地獄絵図が、始まった。
仔ゆっくり達はお互いを攻撃しあい、弱った個体から集団で袋叩きにしていく。親ゆっくりは弱った子供から容赦なく喰らい、
また仔ゆっくり達を追う。

 固く結ばれた家族の絆は、跡形も無くなってしまった。そこにあるのは、絶望と憎悪と恐怖。
 仲睦まじい親子の光景は、もう見られない。見ることが出来るのは、自分だけが生き残ろうとする者達の、醜い争い。

 一つ、また一つと、悲鳴とともに仔ゆっくりの命が消えていく。たくさんいた兄弟は、もう既に親ゆっくりに食べられてしまい、
残っているのは二匹だけになっていた。
二匹は、最後の生き残りになろうとくんずほぐれつ争っていたが、親ゆっくりが静かに近づいてきたことに気づくと互いに正反対の方向に逃げ出した。
親ゆっくりは、二手に分かれた子供のうち、そのうち一匹に狙いを付けて追い詰めていく。

「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ!!ごな゛い゛でぇぇ!!!」

 必死に逃げる仔ゆっくりは、近づいてくるそれを最早親ではなく、敵としか見ていなかった。それは親ゆっくりも同じことで、
目の前で逃げる仔ゆっくりは、親にとって単なる餌でしかなくなっていたのだ。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

 絶叫とともに仔ゆっくりが親ゆっくりに食べられ、ついに立った一匹の仔ゆっくりだけが残された。仲間を蹴落とし、
家族の絆を捨てて、ようやく自分一人が生き残ったのだ。
 緊張の糸が切れたのか、その場でぺったりと床に伏せて脱力する仔ゆっくり。
しかし、親ゆっくりは止まらない。最後に残った仔ゆっくりを狙って、じわじわと距離を詰めていく。

「ゆゆゆゆっ!?」

 自分に危機が迫っていることを感じ取った仔ゆっくりは、迫り来る親から少しでも遠ざかろうと、懸命に跳ねようとしていた。
だが、極度の空腹と疲労で這うことしかできない。後を追う親ゆっくりも這うことしか出来ないが、いかんせん体格が違いすぎる。
小柄で移動できる距離も小さい仔ゆっくりは、どんどん差を縮められていく。
そしてついに、親ゆっくりが仔ゆっくりに追いついた。背後から近づく巨大な気配を感じ、顔を絶望に歪め泣き出す仔ゆっくり。

「い゛や゛あ゛……」

 もう仔ゆっくりの体は親ゆっくりの届くところにある。ちょっと本気を出して跳躍すれば、仔ゆっくりの命が散らされるのは明白だった。
 だが親ゆっくりが、仔ゆっくりに飛び掛ることは無かった。苦しそうな顔をしてげっぷを一つ吐くと、そのままゆっくりし始めたのだ。

 そりゃあ一度に5,6匹も仔ゆっくりを食べたんだ、体も重くなるだろうな…。

 ここまでずっと囲炉裏の傍で見守っていたが、最後の仕上げをするため、俺はゆっくり達に近づいていった。
仔ゆっくりは、親ゆっくりが動かなくなったことをいいことに、少し離れた場所で親ゆっくりを罵倒していた。

「ずっとそこでゆっくりしていってね!そのままゆっくりしね!!」

 さっきまで命の危機に晒されていたというのに、もう顔には余裕の色を見せている。大した度胸の持ち主か、そうでなければ命知らずの莫迦である。
 俺は手を伸ばすと、暢気に背後を見せている莫迦を苦も無く捕らえた。

「ゆっ!ゆっくりはなしてね!!」

 俺の手の中で必死にもがく仔ゆっくりだったが、親ゆっくりの元に連れて行かれていることに気づくと、再び恐怖に身を震わせ始めた。

「は゛な゛じでえ゛え゛!!だべら゛れ゛だぐな゛い゛よ゛お゛お゛お゛お゛!!」

 親ゆっくりは満腹のためか、しばらく苦しそうな顔でゆっくりしていたが、仔ゆっくりを連れた俺が近づくと再び獲物を狙う狩人の目をみせる。

「ほおら、感動の親子ご対面だ。」

 そういって、俺は手の中の仔ゆっくりを、親ゆっくりに向かって放り投げた。

「や゛だあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

 絶叫と共に綺麗な放物線を描いて飛んだ仔ゆっくりは、そのまま着地点となる親ゆっくりの口の中に吸い込まれ、消えていった。



 最後の仔ゆっくりを食べ終えると、親ゆっくりは俯いて体を奮わせ始めた。

 子供を食べてしまった事を後悔して、泣いているのか…?

 そう思って近づいてみるが、親ゆっくりの顔には濡れた後すら無く、

「うふ、うふふ…うふふふふ……」

 ただ生気の無くなった虚ろな目をして、笑い続けていただけだった。
 親ゆっくりは、完全に壊れてしまった。もう自分の子供と餌を区別することすらできないほどに。

 さて、そろそろ仕上げだ。

 俺は台所に向かうと、まな板の上に乗せてあった包丁を手に取って戻る。そしてゆっくりの背後に静かに立った。

「どうだ?旨かったか?自分の子供の味は?」

 親ゆっくりは答えない。

「味わったか?餓死一歩手前の絶望と恐怖の味を?」

 親ゆっくりは答えない。

「ゆっくりした結果が、これだ…。」

 俺は、吐き捨てるように言った。そのまま、親ゆっくりに近づく。手には包丁を構えて。

「今度生まれてくるときには、もう少しゆっくりすることの意味を考えてみるといい…。もしかしたら、もうちょっとマシな生き方ができるかもしれないな…。」

 そして、俺は狙いを定め、包丁を高々と振り上げる。その時親ゆっくりが振り向いたが、その目にはもう恐怖の色は浮かんでいない。
自分の目の前に存在している死を前に、ただうっすらと壊れた笑みを浮かべた。

 俺はその表情を見届けると、まっすぐに包丁を振り下ろした。

「ゆっくりしね」

 それが、親ゆっくりが聞く最後の言葉になった。







 あれから、既に一ヶ月が経った。心配していた食料も、何とかもっている。今回、倉を荒らされた俺が餓死せずに生き延びていられるのは、二つの幸運があったからだ。

 一つは、倉を荒らしたのがゆっくりだった事。ゆっくりだったおかげで、上の食料が無事だった上に、栄養価の高い饅頭で食いつなぐことが出来た。
もし鼠に食料をやられていたら、今頃俺は冷え切った家の中で冷たい骸になっていただろう。

 もう一つの幸運は、ゆっくりが親子連れだったこと。体が大きく食べる部分も沢山ある親ゆっくりに、生まれて間もなく、皮も中身も新鮮な仔ゆっくり。
もし通常のゆっくりだったら、一ヶ月近くももたせることができたかどうか。

 とにかく、今年の冬は、災難もあったが思わぬ収穫も手に入った。ゆっくり達はかなり優秀な食料になることがわかったし、捕まえる方法も簡単だ。

 来年は、二体を捕まえて仔作りさせて、新鮮な仔ゆっくりを腹いっぱい食べるのも悪くは無いな。

 そんなことを考えながら、俺は額から上を切り取られた親ゆっくりから、もう大分湿気てしまった餡子を掻き出して口に運ぶのだった。




  END

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最終更新:2008年09月14日 18:36
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