外の世界から流れ着いた面白いものをいただいた。
モノとモノをくっつける液体、接着剤というらしい。
何か面白い使い方がないかな、と考えていると外から
「ゆっくりー♪」
と間抜けなゆっくり達の声が聞こえてきた。
ゆっくり。
知能の低さと畑荒らしに定評のある、命を持った饅頭。
渡りに船、闇夜に提灯とはまさにこのこと。
さっそく捕獲用のお菓子を手にすると、外に向かった。
「ゆ ♪ ゆ ♪ ゆ ♪ ゆ~ん ♪」
「ゆっくりーん♪」
ご機嫌に歌っていたのは2匹のゆっくり。
ゆっくり霊夢とゆっくり魔理沙だった。
「ゆ?おにいさんはゆっくりできる人!?」
「ゆっくりしていってね!!」
俺の姿を確認すると、特に警戒するわけでもなく迎えてくれた。
「おう、お兄さんはゆっくりできるぞ。いまゆっくりできるものをあげるよ」
ポケットからチョコレートやらビスケットを取り出し、地面に撒く。
「ゆ!ちょこれーとだ!!ゆっくりできる!!」
「びすけもあるよ!!おにいさんすごくゆっくりしてるね!!!」
撒き散らされたお菓子に飛びつく2匹を眺める。
両方とも成体なのか、バスケットボールほどもある。
少なくとも生後1年は経っているだろうに、こんな無警戒なゆっくりがよく生き残ったものだ。
「ゆ!おにいさんもっとゆっくり食べたいよ!!」
「もっとまりさ達をゆっくりさせてね!!」
あっという間にお菓子を食べつくし、足元に擦り寄ってくる2匹。
大量に与えて満足されては困るので、あまり持ってこなかったのだ。
「お兄さんのおうちには、もっとお菓子がいっぱいあるよ!凄いゆっくりプレイスだよ!」
「ゆ!じゃあお兄さんのおうちでゆっくりするね」
「はやく連れて行ってね!」
まだ「来い」と一言も言っていないのに。
望みどおりの展開に戸惑うものの、断る理由はない。
俺は2匹を抱っこして家に向かった。
「ゆ!高いよ!遠くまでみえるよ!!」
「おそらを飛んでるみたいだよ!!
「じゃあ、これを食べてね」
部屋に連れてきた2匹を床に下ろす。
脱出ができないよう、窓には鉄の格子がついており、ドアの前は柵でブロックしてある。
そんな脱出不可能な現実に気がつかない2匹は、新たに与えたお菓子に夢中だ。
俺は2匹を放置し、別室に用意しておいた接着剤、そして透明な箱を1つ取りにいった。
「ゆ!おにいさん!その箱はなに!?ゆっくりできるもの?」
「ゆっくりできる箱ならさっさとまりさ達にちょうだいね!!!」
戻ってくると、大量に用意したお菓子がもうなくなっていた。
信じられない食欲だ。
俺はまりさを摘むと、箱の中に入れた。
「ゆーん?そんなにゆっくりできないよ!」
箱は大きめのものであったため、随分とスペースが余った。
きっとれいむを入れたとしても、まだスペースは余るだろう。
そんなれいむは箱に入ったまりさの様子を見ている。
「これからが本番だよ。これを見てごらん」
俺はまりさとれいむに見えるよう、接着剤を見せる。
「ゆ!なにそれ!?ゆっくりできるの?」
「はやくゆっくりさせてね!!」
接着剤をチューブの1/3ほど箱の空いているスペースに垂らし、蓋を閉める。
箱は上部の蓋を閉めれば完全に密閉されるつくりになっている。
「ゆぐっ!!おにいさん、これ凄く臭いよ!!早く出してね!!」
中に接着剤の臭いが充満しているのだろう。
どこに鼻があるのかも分からない顔をしているくせに、悪臭に顔を歪ませている。
「ゆ!おにいさん!早くまりさを出してあげてね!!」
まりさの様子を見て、すぐさま俺に助けを求めるれいむ。
しかし助けるわけにはいかない。
「大丈夫だよ!ちょっと我慢してね!!すごくゆっくりするよ!!」
蓋にしっかりと南京錠を閉める。
「ゆ゙っ!!!ゆっぐりできないよ!!!ぐざいよ!!!」
相当に苦しいのだろう。
涙を流し、ヨダレを撒き散らしながら助けを求めて箱にへばりつく。
「もうすぐゆっくりできるから頑張って耐えてね!!いまからお兄さんはご飯を作ってくるよ!!」
箱で暴れるまりさと、それを心配するれいむを置いて俺は部屋を後にした。
30分後。
まだまりさは箱の中で苦しんでいた。
「おにいざん!!!まりざを早くだしであげで!!!」
「お゙に゙いざんおねがいじまずゔゔゔゔゔ!!!だじでえ゙え゙え゙え゙え!!!ゆ゙っ゙ぐり゙じだい゙よ゙お゙お゙お゙」
用意したご飯を床に置き、箱の南京錠を外す。
「ゆ!はやく開けてあげてね!!」
「おにいざんはやぐうううう!!!!」
蓋を開けると、中から接着剤独特の臭いが溢れる。
まりさをつまみ、外に出そうとするが、暴れたせいかところどころ接着してしまい、なかなかはがれない。
「ゆっぐああああ!!!どうじでええ!!!どうじで出゙ら゙れ゙ないのお゙お゙お゙お゙!?!?!?」
無理矢理に皮を引っ張り、なんとかまりさを取り出すことに成功した。
そのままご飯の前に置いてやる。
「ひどいよおにいさん!!もうゆっくりできないよ!!!」
「ごはんを食べたらおうちかえるよ!!!」
文句を言いつつ、用意したご飯に飛びつく2匹。
「遠慮しなくてもいいよ。ここでずっとゆっくりしていってね!」
「やだよ!!おにいさんはゆっくりできない人だよ!!!」
「もうあんな臭い箱はいやだよ!!おうちかえる!!!」
もちろん2匹の言うことなど無視する。
俺は空になった皿を持って部屋から出た。
しばらくして部屋に戻ると、酷く不機嫌な顔をした2匹が待っていた。
「おにいさん!まりさがカピカピしててすっきりできないよ!!」
「はやくまりさをつるつるにもどしてね!!」
話を聞くと、どうやら俺がいない間に交尾をしようとしたのだが、まりさの皮がカピカピになっていて興奮しないのだという。
ためしにまりさの体に触れると、ところどころ硬い薄皮のような部分があった。
おそらく乾いた接着剤だろう。
「これはさっきの箱に入れた液体が固まったんだよ。まりさが暴れなければカピカピしなかったのに」
「ゆっ!?おにいさんが箱にいれたのが悪いんだよ!!はやくれいむとすっきりさせてね!!」
「そうだよ!!はやくまりさとすっきりしたいよ!!」
ゆーだのやーだの文句を言ってくるが、ヘタにすっきりされて子供ができても困る。
俺はちょうど良い避妊方法の発見に感謝しながら、まりさを摘む。
「じゃあまた箱だ。今度は暴れてカピカピにならないように」
「ゆ゙!!!いや゙あ゙あ゙あ゙ぁぁ!!!ぐざい゙の゙はいや゙あ゙ぁぁ!!!!」
暴れるまりさを強引に箱に入れ、また同じ量の接着剤を箱に垂らす。
「ぐざいっ!!!ぐざいよ゙お゙お゙お゙!!!!れ゙いむ゙ゔゔうゔうう!!!!!」
「まりざああ!!!」
「また30分したらご飯だからそれまでゆっくりしていってね!!」
2匹を置いて、また俺は料理をしに台所へと向かった。
それから3日が経った。
まりさは、毎日5回行われる接着剤ボックスへの幽閉に耐えていた。
騒いでいたのは初日と2日目の中盤ぐらいまでであり、その後は特に何も言わなくなった。
れいむに関しては何も手をつけていない状態だ。
そして今日、ついにまりさに変化が訪れた。
「ゆぶひ!おにぃざん!!ばやく箱に入れてね!!!」
部屋に入ると、ヨダレを垂らしながらまりさが擦り寄ってきた。
遠くでれいむが困惑した目で眺めている。
「なんだ、箱に入りたいのか?嫌がってたじゃないか」
「ゆ゙ふっ!まりざがばがだったんだよ!!あぞごはずごくゆっぐりできるどごろなんらよ!!!」
音を鳴らせ、霧のようなヨダレを勢いよく吹き出すまりさ。
完全に中毒になっている。
外の世界ではシンナー中毒というらしい。
この接着剤の臭いを嗅いでいると、人間の脳がおかしくなるとか。
「おにいざん~♪ ばやぐゆっぐりしよんよん♪ くひっ!!」
焦点の定まらない瞳に光はない。
俺が箱の蓋を開けると、まりさは自分から箱に飛び込んだ。
「ゆ!まりさ!だめだよ!!なんだかその箱は怖いよ!!」
れいむの忠告にもまりさは耳も貸さない。
「うるざいよ!!!ブヒッ!!まりざはゆっぐりじだいんだど!!!」
俺は黙って接着剤を垂らし、蓋を閉める。
「ぎゅ゙ゔああ゙あ゙っ!!!い゙いにお゙いだよ゙お゙お!!!ゆっぐりじでぎだあああああああ!!!ぶっひっ!!!」
前までの苦しみから暴れるのではなく、気持ちよさから箱を暴れだすまりさ。
奇声を上げながら転がりまわる姿に、れいむはすっかりおびえてしまった。
「どうじでえ・・まりさへんだよ・・・ゆっくりしてないよ・・」
そのあともまりさはしばらく箱の中を転がり続けた。
そのためか、箱から出す時間になる頃には疲れ果てたかのようにぐったりと仰向けになって息を荒くしていた。
しかし、その表情はヨダレと体液でぐしゃぐしゃになりながらも満足げであった。
「ゆっふん!すっきりー!!!」
箱から取り出されたまりさは一言そういうと、そのままご飯にかじりつく。
相変わらず、まりさの皮はあちこちに乾いた接着剤の後がある。
「まりさ!箱の中で暴れたられいむがすっきりできないよ!ひとりですっきりしないでね!!」
空気を吸い込み、大きく膨れて怒っていることをアピールするれいむではあったが、まりさはどこか冷ややかである。
「ゆひっ!れいふもあの箱ですっきりすればいいよぉ!ゆっふひへひるんらよ?なんれ入らなぁいの!?」
「ゆ!まりさは最近、何だか変だよ!!!そんなのは本当のすっきりじゃないよ!!まりさはゆっくりできてないよ!!」
痴話喧嘩を見せ付けられてもつまらないので、そのまま放置して帰ることにする。
ドアの前まで来ると、まりさが俺に声を掛けてきた。
「おにさんぁ!!あひたもゆっくひでひる箱をおねがいれ!!」
遠くから見ると分かるが、微妙に左側に傾いている。
平衡感覚までおかしくなってきたようだ。
翌日、部屋に入ると餡子を撒き散らしながられいむが駆け寄ってきた。
「おにいさん助けて!まりさがああああ!!!」
見ると、顔を真っ赤にしたまりさが飛び散った餡子を食べていた。
食べ終わり、何もなくなった床を一心不乱に舐めている光景は実に不気味だ。
集中しすぎて、俺が部屋に来たことも分かっていないようだ。
「れいむ、一体何があったの?」
「ゆ!今日はもう臭い箱に入らないでって言ったら、いきなり噛み付かれたんだよ!!!いたかったよ!!」
れいむの皮はあちこち剥がれている。
あとで水に溶かした小麦粉を塗ればすぐ治るだろう。
「ひゅっひゃ!ありす可愛いひひ!ずっきりじようふぇええ!!」
まりさが壁に向かって会話をしている。
ゆっくりアリスが目の前にいる幻覚でも見ているのだろう。
「びゅっぶひゅひゅひゅー!!!ありずずゔゔううふいひひ!!ずっぎじいい゙ぃぃぃぃぃぃ!!!」
雄たけびを上げながら、丸い体を上下させるまりさ。
あれは交尾のつもりなのだろう。
ぶるぶると震えるれいむが可愛い。
「まりさあ・・・どうじでえ゙え゙・・・・」
まりさの体が大きく一回揺れると、そのまま動かなくなった。
と、思いきや、いきなり壁に向かって体当たりを始めた。
「ゆっぎぎゅゆああああ!!!いぢゃい゙い゙い゙い゙い゙!!!!いだいいいよお゙お゙お゙お゙お゙ぉぉぉ!!!ゆっぐぢできないいいい!!!」
いいながら、さらに加速をつけて壁に体当たりをする。
体当たりが痛いというよりも、痛みから逃れるために体当たりをしているように見える。
「むじが!!!むじがまりざのながにいるうううう!!!!食べないでえ゙え゙ええ゙え゙えええ!!!!いだいいよお゙お゙お゙お!!!!」
どう見ても虫がいるようにも見えない。
今度は虫が体に入ったと思い込んでいるのだ。
「まりさ!箱でゆっくりしてね!!」
すぐ隣まで来ても気がつかないまりさの目の前に箱を置く。
「ゆきっ!!??おにいひゃん!!!ゆっぐりざぜでえ!!箱でゆっぐじひはぃいいいい!!!」
言うが早いか、素早く箱に収まるまりさ。
俺は嫌がらせをすることなく、すぐに接着剤を垂らしてあげた。
「んっふぉおおほおお!!ひゅっくりしてきひゃよおおおおおお!!!!ひょおっひょおおおお!!!」
さっきまでの苦痛はどこへやら、あっというまに天にも昇りそうな顔でゆっくりし始めるまりさ。
「ひひっ!!れいふもいっひょにゆくりひよぉおおよおお!!ふふひっ!!ぶひゅっ!!」
その相棒の答えに何も答えないれいむ。
「なあ、まりさ。その箱はどうだ?ゆっくりできるか?」
とろんとしたまなざしで俺を見るまりさは、まるで恋する乙女だ。
「ゆふ~ん♪ たまひゃらいよ!!すほふゆっふひしふぇるよ!!ふぅおおおお!!!」
危ない目つきだ。
白目を向いているが、充血が酷く、赤い目なのかと思えるほどだ。
「れいむ、こんなダメになっちゃったまりさは捨てて、おうちに帰るかい?」
「ゆっ!?やだよ!まりさはれいむとずっと一緒なんだよ!!きっとすぐ治るよ!ね、まりさ!?」
「ひゅっ!!ひゅっふひほうふぉおおあおあお!!!」
聞いているのか聞いていないのか。
聞いていてもその声は果たして理解できているのか。
あっと言う間に廃人、もとい廃ゆっくりになってしまった。
いつものように30分の接着剤タイムを終え、まりさを取り出そうとする。
「ゆぎゅあああっ!!?!いだいいいい!!!いや゙ああ゙あ゙あ!!もっとにほひいい!!!もっどいい臭いさせふぇええええ!!!」
あっと言う間に禁断症状が出た。
仕方が無いので、箱に残った接着剤を全て流し込む。
今までの接着剤タイムでほとんどの接着剤を使ったので、残りは少量だった。
今入れたこの接着剤で在庫は無くなった。
このまりさで遊ぶのもこれが最後だ。
接着剤は外の世界から流れ着いたレアもの。
次に手に入るのは、一体いつになるのやら。
「れいむ、このあとまりさと一緒にお外に出してあげるね。きっと、まりさもすぐ前みたいなまりさに戻るよ!」
なんでも、シンナー中毒は重度になると治るのはほぼ不可能だという。
「うん!おそとでゆっくりすればまりさも元気になるよ!ゆっくりするね!!」
「ふひゅうおおお!!!ふひひいあああっひゃあ!!」
ヨダレにまみれたまりさの笑顔。
涙に溢れたれいむの笑顔。
その笑顔はどこまでも明るかった。
最終更新:2022年01月31日 00:52