白玉楼×ゆっくり系1 月見ゆっくり

「じゃあ行って来るわね」
「行ってらっしゃいませ、幽々子様」
冥界を管理する事を仕事とする西行寺幽々子はこの日、閻魔と大事な話し合いがある為早朝から出かけていった。
残された庭師兼幽々子の剣術指南役である魂魄妖夢は、滅多に無い事実上の休暇という事になる。
「とりあえず庭の手入れをやってしまおう。その後は……昼寝でもしようかな。最近夜遅かったし」
確認するように呟くとすぐさまと広い庭の手入れにかかる。
太陽が高く昇る頃、漸く手入れを一通り終えた妖夢は、後の事を他の使用霊に任せて自室に向かう。
畳の上に寝そべってぽかぽかとした陽光を全身に浴びながらとろとろと目を閉じる。
意識が途切れる直前、何かが近付いてくる気配がする。
使用霊だろうか、と思いゆっくりと視線を気配の方に向ける。その瞬間、
「みょんっ!?」
妖夢に電流走るっ……!一瞬で眠気が吹き飛ぶ妖夢。
一体何事かと見てみると、そこには妖夢の半霊にかぶりつくゆっくりの姿が!
「んなっ……!」
この冥界にゆっくりが居る事なんて滅多にある事ではない。というか、まずありえない。
どうやって結界を越えてきたのか、そして何故半霊にかぶりついているのか。様々な疑問が妖夢の頭に浮かぶ。
「ゆゆ~!あま~!!」
どうやら半霊を食べようとしているらしい。自身の数倍の大きさの半霊に食いつくとは、見上げた食欲だ。
半ば感心している妖夢はやはりまだ寝ぼけているのかもしれない。
そんなうっかり者の妖夢を余所に、ゆっくりゆゆこは半霊にかぶりつき続行。途端、
「ひゃあっ!?……んんっ…!」
再び妖夢に電流走るっ……!まずい。呆けている場合では無い。早く止めないと半霊が食べられてしまう!
慌てて起き上がり半霊の救出に向かおうとする妖夢。だが、
「ゆっゆっゆゆ~っ!ちゅっぱちゅっぱ!」
「はひぃっ!……っくぁん……あふっ!」
どこぞのちゅぱ衛門の如き勢いで半霊にしゃぶりつくゆっくりゆゆこ。
まるで糸の切れたマリオネットのように畳に倒れこむ妖夢。起き上がろうと膝を付くも、足腰がガクガクと震えている。
(何だ、これは…?か、体に力が入らな


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ぽたぽたぽた、と音がする。気付けば妖夢が先程まで寝そべっていた畳に水溜りが出来ている。
(ああ、やってしまった……いい年をしてこんな粗相を……もう駄目だ、これでは幽々子様にも軽蔑される……)
色々な意味で崩れ落ちる妖夢。もう先程まで全身を襲っていた電流は無い。
見ればゆっくりゆゆこは半霊を食べるのを諦めたのか、横ですやすやと眠っている。
「お、お前が…お前のせいでえぇぇぇ!!」
その安らかな顔を見てカッとなった妖夢は背中の刀を引き抜き、一瞬で間合いを詰めてゆっくりゆゆこを切り裂いた。
悲鳴すら上げる間も無く寸断されるゆっくりゆゆこ。顔や半霊に返り血、いや返り餡を浴びる妖夢。
その時、
「妖夢~?居るならちゃんと返事しないと駄目よ~って……妖夢!?」
「あ……幽々子、様……お、おかえりなさい……!あ、ああ!!?」
慌てて刀を納め、水溜りを隠すように立つ妖夢。
顔に付いた返り餡、透明な液体に塗れた妖夢の脚、畳の水溜り、半霊にかかっている大量の餡と歯型。
そして部屋に漂う香り。
それらの状況から瞬時に事の成り行きを把握する幽々子。何も言わずに、妖夢をそっと抱き寄せる。
「あ、あの…幽々子様…?あっ!こ、これはですね!その、決しておもらしとかそんなではなくてですね!!」
「妖夢…とりあえずお風呂に入って来なさい。ここは私が片付けておくから」
「へ?で、でも幽々子様にそのような事をさせる訳には……」
「いいから行きなさい。これは命令よ?」
「は、はぁ…分かりました」
箪笥から着替えを出し、ぱたぱたと風呂場へ向かう妖夢。
妖夢を見送った後、雑巾を持ってきて部屋の掃除をする幽々子。
その顔には、妖夢が見た事も無い程の怒気が滲み出ていた。
「ゆっくり……まさか逃げ出すとは思わなかったわ。しかも妖夢に手を出すなんてね……」
そう、あのゆっくりゆゆこは幽々子が妖夢にも内緒で飼っていたものだった。
夜中にこっそり食べる秘密のおやつとして。
「ゆ、許さん……絶対に許さんぞ饅頭ども!ジワジワと嬲り殺しにしてやる!一匹たりとも逃がさんぞ覚悟しろ!!」
とりあえず叫んでみた。その怒声は屋敷内にいる全てのゆっくりにまで届いていた。

風呂から上がった妖夢に食事の用意をさせている間、幽々子は屋敷内に散ったゆっくり達を探し始めた。
次々と見つかり、不可視の籠に放り込まれていくゆっくり達。
屋敷内全てのゆっくりが籠に入った頃、妖夢が夕食が出来上がった事を知らせに来た。
「幽々子様~!お食事の用意が出来まし…た……ゆ、ゆっくり!?」
昼間の出来事がトラウマになっているのか、ゆっくりの姿を見るなり後ずさる妖夢。
「大丈夫よ、妖夢。こいつらはちゃんと籠に入ってるから」
「は、はぁ、そうですか……そ、そう、お食事の用意が出来ましたよ幽々子様」
「そう、ありがとう。じゃあ行きましょう。丁度いいデザートも手に入ったから、食後にいただきましょう?」
妖夢の背を押して食卓へ向かう幽々子。途中、厨房にゆっくり入りの籠を置いて行く。
「ゆ゛っぐりじだい゛よ゛お゛お゛お゛お゛お゛!!」
「ゆ゛っぐりざぜでよ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!」
「わ゛がら゛な゛い゛よ゛お゛お゛お゛お゛!!」
「ぢんぼお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!」
「や゛だや゛だお゛うぢがえる!ざぐや゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
「たべられちゃうんだってさ」「おお、こわいこわい」
厨房に、自らの運命を知らされたゆっくり達の絶望の叫びが木霊する。

「ごちそう様。今日も美味しかったわ妖夢」
「お粗末さまでした」
二人分の食器を片付ける妖夢。幽々子は手ぶらで厨房まで付いて行き、
泣き叫ぶのに疲れて眠っているゆっくり達の入った籠を取る。
「じゃあ、早速いただきましょう。妖夢、お茶の用意をして」
「分かりました」
手早くお茶の用意をしてお盆に載せて、先導する幽々子に従う妖夢。
「どうぞ、幽々子様」
「ありがとう。ささ、妖夢もお一つ」
そう言って籠からゆっくりようむを取り出し、無造作に半分に千切る。
「ぢい゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛んぼお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!」
「あ、あの……幽々子様?これは一体……」
「お饅頭よ、お饅頭。美味しいわよ」
「は、はあ……ではいただきます」
悲鳴を上げて苦しむゆっくりを平然と差し出す幽々子に戸惑いながらも受け取り、食べる。
「い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛ぎい゛い゛い゛い゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!」
一口齧る度に凄まじい悲鳴を上げる饅頭。だが
「あ、美味しい」
「でしょう?」
そんな苦痛の叫びも気にならない位、口の中に広がる芳醇な甘みは脳を痺れさせた。
「すごく美味しいです、これ。私こんな美味しいお饅頭食べた事ありません」
「そうでしょうそうでしょう。それに加えてこの音楽がたまらないわよねぇ」
「音楽、ですか?……いや、私はそういう趣味は無いんですけど……」
「あらそう?これの良さが分からないなんて、妖夢もまだまだ半人前ねぇ」
「そうでしょうか……?」
絶対それは関係ないと思う、とは言わず黙ってゆっくりを食べ続ける。
幽々子と並んで月を見ながら、美味しいお茶とお饅頭を食べるのはこの上なく幸福な時間だった。
……いちいち耳をつんざくような悲鳴が無ければ、もっと良かったのだが。
「あの、幽々子様……昼間の事……怒らないんですか?」
「あら?私が可愛い妖夢の事を怒ったりなんてすると思う?」
「いや、結構怒られてますが……」
「そんな事は無いわよう。愛よ、愛の鞭」
「はあ……私は剣士なんですが」
ズレた回答をしながらも、内心で胸を撫で下ろす妖夢。
「ねえ妖夢。今夜貴女と一緒に寝てもいいかしら?」
「ええ?どうしたんですか急に?」
「妖夢は私と寝るのは嫌なのね……そうよねぇ、私なんて……」
「あっあっ!嫌じゃないです、嫌じゃないですよ!だから泣かないで下さい!」
「そう?嬉しいわ。妖夢と一緒に寝るなんて何年ぶりかしら。ふふ、楽しみだわ」
「もう……」
自然と顔をほころばせる妖夢に満足して、最後のゆっくりを手に取る幽々子。
「あっ!幽々様いつの間にそんなに食べてるんですか!ずるいですよ!」
「いいじゃない少しくらい」
「少しじゃないです!私まだ2個しか食べてないんですよ!」
「じゃあ半分こね。ん」
ゆっくりを口に咥えて、目を瞑って妖夢に顔を突き出す幽々子。
「な、何をやってるんですか幽々子様!そ、そんな事……」
耳まで真っ赤にしてもじもじする妖夢。そんな妖夢に目だけでニヤニヤと笑いかけながら促す。
「じゃ、じゃあ、いただきます……」
「い゛だい゛い゛だい゛い゛だい゛い゛い゛い゛!!や゛べで!どうじでごん゛な゛ごどずる゛の゛お゛お゛!!」
(あなたの同族が私の可愛い可愛い妖夢を傷付けたからよ)
内心で答える幽々子。一瞬その瞳に冷たいものがよぎったのに、無意識の内に目を閉じていた妖夢は気付かなかった。

LOVELY LANDSCAPE GOOD NIGHT...


作:ミコスリ=ハン

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最終更新:2008年09月14日 11:39
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