ゆっくりれみりゃ系いじめ21 ゆっくりれみりゃいぢめ~おめぇに食わせるぷっでぃんはねぇ!~

「美鈴、調子はどう?」
「万全ですよ咲夜さん。今なら、黒白辺りが来ても撃退できそうです」
「そう、ならその調子を維持してね」
「了解です!」
 様子を見るメイドと、そのメイドに防御体勢の万全さをアピールする門番。
 普通に考えるとややおかしな組み合わせであるが、ここ紅魔館では日常的に見られる光景である。

 咲夜さんと呼ばれた人物……十六夜咲夜は、紅魔館のメイド長である。
 仕事は完璧にこなし、主には絶対服従、決して出過ぎないだけの謙虚さも持ち合わせる。
 『完全で瀟洒なメイド』の二つ名に恥じないだけの能力を持つ、従者として最高の能力の持ち主である。

「しゃくや!」
「……」
 そんな咲夜に声をかける人影。
 3~4歳児程度の背丈と頭脳を持つ、ゆっくりれみりゃである。
 咲夜は、目を細め、端から見ると怒りを堪えている様な視線をゆれみりゃにぶつける。
 当然だろう。自ら絶対的な忠誠を誓った主と同じ名前というだけの肉塊に、呼び捨てにされているのだ。
 瞬間、得意武器であるナイフを投げつける……かと思いきや、目を疑う様な反応を見せた。



「しゃくや~♪ ぷっでぃんたべたい~♪」
「はいはい、ただいまお持ちしますね~」
 突然笑顔になり、ゆれみりゃのわがままを聞いて、台所へと急いだのである。
 その顔は本当に楽しそうで、スキップまでして全身で喜びを表していた。

 十六夜咲夜。
 完全で瀟洒なメイドの二つ名に恥じないだけの能力の持ち主。
 そして、無類のゆっくりれみりゃ好きである。
 彼女は、今日も甲斐甲斐しくゆれみりゃの世話を焼いていた。





 『ゆっくりれみりゃいぢめ~おめぇに食わせるぷっでぃんはねぇ!~』




 レミリア・スカーレット。
 紅魔館の主であり、十六夜咲夜が絶対の忠誠を誓うただ一人の妖怪。
 永遠に紅い幼き月の二つ名を持つ、ヴラド・ツェペシュの末裔を自称する吸血鬼。
 紅霧異変と言われる事件の主犯でもある、幻想郷屈指の実力者。
 彼女は、現在二つの事に頭を悩ませていた。
「う~う~♪ ぷっでぃんくれないとたべちゃうぞ~♪ がぁお~♪ がぁお~♪」
 一つは、こうやって近づいてくるゆっくりれみりゃ。
 もう一つは、それを可愛がる従者の悪癖である。

「ぷっでぃんよこせ~♪ たべちゃうぞ~♪ がお~がぁお~♪」
「醜いわ……消えなさい」
 にこにこと近づいてくるゆっくりれみりゃに、手で振り払う仕草をするレミリア。
 その顔は嫌悪に満ちており、通常の人間が同じ事をされたならば、十中八九は後ろも顧みずに逃げ出すだろう。
 ただ、自分を恐れる人間の血のみを飲むレミリアにとっては、それは自殺行為であるのだが……。
 閑話休題。
 危機回避能力が異常に低いゆれみりゃは、指を動かしただけでも消えるほどの力の隔絶に気付かず、ちょこちょこと近づいていった。
「がぁお~♪ ぷっでぃんくれないとしゃくやにいいつけるぞ~♪ がぁお~♪」
「咲夜ね……貴方の言いつけを聞いて、私の従者が私に何をするのかしら」
 レミリアの声色が不快の度合いを増す。
 ゆれみりゃは、こんな生物がなぜ生きられるのかと不思議に思えるほどに無防備に近寄って、ついに言ってはならない事を口にしてしまった。
「がぁお~♪ しゃくやなしでもおまえなんかやっつけちゃうぞぉ~♪ れみりゃはこうまかんのあるじなんだぞぉ~♪」
「……そう」
 レミリアは、一瞥さえせずにゆれみりゃの方に向かって、軽く指を動かした。
「がびゅっ!?」
 たった一発の弾幕、いや弾が、ゆれみりゃに突き刺さる。
 ゆれみりゃは、その瞬間何が起こったかもわからないまま、ただの肉塊と化した。

 元々肉弾戦を好むレミリアであるが、ゆれみりゃに対してだけは弾を使う。
「当然よ、パチェ。だって、あんなもの触ったら感染りそうじゃない」
 それを不思議に思ったパチュリー・ノーレッジが聞いた時の、レミリアの答えがそれだった。
 レミリアにとって、ゆっくりれみりゃはそれほどに疎ましい存在なのである。
 一方で咲夜は、前述した通りゆっくりれみりゃを我が子の様に可愛がっていた。
 レミリアにとってはそれもまた不快の一つである。
 だが、咲夜はゆっくりれみりゃ以外の事に関しては極めて有能な従者であるため、彼女にしては驚異的と思えるほどの忍耐力で、紅魔館内部のゆれみりゃの数を一定以下とする事で、どうにか妥協していた。


 その結果が、自分を紅魔館の主と思い込むほどに増長した肉塊である。
 レミリアの、元々大きくない堪忍袋の緒は、音を立てて引き千切れた。
「咲夜っ! 咲夜! いないの!?」
 つかつかと目的の人物を探すその姿は、何も知らない者が見ればとても愛らしいが、レミリアという吸血鬼を知る者にとっては、恐怖そのものとなる。
「はいはい、どうかされましたか~?」
 だが、咲夜は主の怒りに、のんびりと答えた。
「どうもこうもないわ! 何よあのクズ饅頭、自分が紅魔館の主なんて勘違いしているのよ!? 全部皆殺しにして、屋敷には永久に出入り禁止になさいっ!!!」
 怒鳴り散らすレミリアに対し、困った顔で咲夜は答えた。
「はぁ、可愛いと思うんですけどねぇ」
「可愛くない! あんな饅頭は二度と見たくないわ! 奴らは全てこの屋敷から叩き出しなさいっ!!!」
「えぇ~……可愛いじゃないですか。あの真ん丸な所とか、創作ダンスとか『う~う~』言って笑っている所とか……」
 その後も、ここが可愛いあそこが可愛いと、ゆっくりれみりゃの良さを列挙して笑う咲夜は、本気であの豚饅頭を可愛いものだと考えているらしい。
 レミリアは、信頼する部下のあまりの趣味の悪さに、流石に頭を抱えてしまった。

「分かった、もう良いわ。いいから……」
「お分かりいただけましたか!?」
 100は下らないほどの大量の『ゆっくりれみりゃの良い所』を列挙されて、レミリアは力尽きてしまった。
 どうすればそこまで可愛く思えるのか……レミリアは、忠実な従者に対し、ほんの少しだけ恐怖を感じてしまう。
「……分かったけど、許すとは言っていないわ」
「どういう事です?」
 可憐に小首をかしげる咲夜に、やっと自分のペースが戻ったとばかりに、レミリアは非情な命令を出した。
「一匹だけ許可します。その代わり、そいつが紅魔館の評判を落とす事がない様、調教なさい」
 えぇ~、と不満を顕わにする咲夜を見向きもせず、レミリアは蝙蝠風の羽を伸ばし、その場を後に……しようとして、空中で静止した。
「そうそう、期限は決めないけれど、見つけたら叩き潰すからそのつもりでね」
 えぇえ~、と不平アリアリの従者のその姿を見て、やっと溜飲を下げたレミリアは、今度こそ優雅な動きで飛び去っていった。

「……どうしましょう」
 その場に残された咲夜は、困ったわ、と頬に手を当てた。
 実のところ、彼女の趣味の悪さの犠牲者は、精々がレミリア一人。広く取っても紅魔館の住人に対してたまに行う、この『ゆっくりれみりゃはいかに可愛いかを教える』事だけである。
 それも強引にはやらないし、そもそも自分の仕事が忙しいのであまり布教はできない。
 当然だが、人里で騒ぎを起こしたりなどした事もなければ、するつもりもない。
 レミリアは幻想郷での体面を何よりも重んじるから、そんな事をしてしまえばその日の内に追い出されるか、運命を変えられてゆっくりれみりゃを皆殺しにする役目をやらされるかのどちらかになるだろう。
 人里で流布している噂は、ただの噂でしかない。
 紅魔館内でゆっくりれみりゃを可愛がっている咲夜を見た者(=紅魔館に侵入した者)を排除した事が、尾ひれが付いてそんな風評となってしまったという所だろうか。
 余談はさておき、咲夜は見た目よりも本気で困っていた。
「あのゆっくりゃ、わがままな所も可愛いのに……どうしましょう」
 だが、忠実な従者である咲夜にとって、主の命令は絶対である。
 咲夜はため息を一つつき、門へ向かった。
「美鈴……あら」
「……zzz」
 美鈴は眠っていた。
「美鈴ったら……」
 穏やかな寝顔を見て、笑顔を浮かべる。
 咲夜は寝ている門番を起こさない様にそっと目の前に立ち、いきなりナイフを突き立てた。
「うぁぢゃぁぁぁぁあ!!??」
「お仕事しなきゃダメよ、美鈴」
 銀のナイフを頭に突き刺された美鈴は、形容不明な叫び声をあげて飛び起きた。
 激痛に苦しむ美鈴の前で、イタズラした子にめっ、とする様に人差し指を立てる咲夜。
 だが、ごろごろと転がって痛みを訴える美鈴の様子を見て、やっとまずい状態だと気付き、慌てて館内へ走っていった。

「……落ち着いた?」
「……はぁ、まー、なんとか」
 頭に包帯を巻かれ、ふらふらしている美鈴。そのあまりの包帯を手に持った咲夜は、流石にやりすぎたと思ったか、苦笑いを浮かべている。
「ちょっと出かけるから、私。留守はよろしくね」
「分かりましたー……」
 美鈴は、実はまだ意識がハッキリしていないから、反射的に答えているのではないかと疑わせる様な頼りない声で返事をする。
 だが咲夜は、本人が大丈夫と言っているし、何かあっても妖怪だから平気だろう、と根拠のない信頼を寄せて、屋敷を後にした。
 完璧なメイドは、細かい事にこだわらないのである。


「ゆっくりの飼い方ですか?」
 ええ、と咲夜は、ほとんど面識のない少女に頷いた。
「ええと、私は別にペットの飼い方について詳しい訳ではないのですが……なぜ私に?」
 少女……東風谷早苗は、ハッキリ顔に書いてあるほど困り果てた表情を浮かべている。
 だが、咲夜は世間話でもする様な気軽さで、先ほどのゆっくりれみりゃが追い出されそうになるに到った経緯を簡単に説明した。
「なるほど。それでしたら、微力ながら協力させていただきます」
 先ほどの困った様子はどこかに吹っ飛んでしまった様に、早苗の目が燃えている。
 『可愛いゆっくり』が追い出されそうになるなど、とてもガマン出来ない事態だ。そう、早苗は思った。

――いざとなったら、奇跡を起こしてでも止めてみせます。

 早苗はそう考え、手を差し出す。
 咲夜もその意思を捉え、早苗の手を握った。
 『ゆっくりは可愛い』
 この日、幻想郷住民の過半数からの支持が得られないであろう考えの下、早苗と咲夜の間に同盟が結ばれたのである。


 『ゆっくりキモ可愛い同盟(略してゆっキモ同盟)』が樹立してから一週間が過ぎた。
 相変わらず、ゆっくりれみりゃはウザい行動をしてはレミリアに潰され、咲夜は屋敷の維持から何から、全てを一手に担って仕事をしている。
 だが、咲夜の日課に、ほんの少しだけ変わった所が出来た。
 暇を見つけては、美鈴に指示をして、どこかへふらっと出かけていくのである。
「うー……」
 レミリアは、それが不満だった。
 別に、多少出かけても問題はない。
 紅魔館内外の仕事は完璧に終っているから、咲夜がいなくて起こる不具合など何一つ存在しないからだ。
 一度、咲夜が淹れなければ紅茶の味が悪いと言った時は、その時だけ戻って、即座にどこかへ飛び出していった。
 疲れは一切見せないが、恐らくはかなりの疲労が蓄積されているだろうその姿も、レミリアの不満の一つである。
「うぅー……」
 ごろごろとベッドで転がる。
 不満げに顔を膨らませ、手足をじたばたさせるその姿は、駄々をこねる子供そのものである。
 実際、レミリアは駄々をこねているだけである。
 どうしても咲夜を屋敷から出したくないのであれば、外出禁止令でも出せば良いのだ。そうすれば、忠誠心の高い咲夜は屋敷から出ようとはしないだろう。
 だが、それもプライドが傷つくし、そもそも子供のわがままの様で格好悪い。
 そのため、不満に思ってはいてもレミリアはそんな命令は出さなかった。
「うぅうーーー……」
 ごろごろごろ。
 転がりながら、うなり声をあげるレミリア。
 紅魔館のお嬢様の一日は、こうして過ぎていった。


「お邪魔するわ」
「いらっしゃーい」
 咲夜を出迎えたのは、八坂神奈子。神様である。
 神様の出迎えという、物凄くレアな体験に、咲夜は全く心を動かさず、目的の人物を呼んでくれる様頼んだ。
「はーい……あ、いらっしゃいませ」
 家の奥から、エプロン姿の早苗が駆けて来る。
 若奥様の様な女子高生の出迎えに、咲夜は笑顔を浮かべた。最も、我々が浮かべるのとは別の意味での笑顔であるが。
「今日もよろしくね」
「はい、よろしくお願いしますね。……あ、こんなところで立ち話もなんですから、奥へどうぞ」
 早苗達に促され、奥へと入っていく咲夜の手には、一つのカゴ。中には、ゆっくりれみりゃが入っていた。
 咲夜が出かけていたのは、この守矢神社。
 二人はここでゆっくりの教育をしていこうという考えで合意し、咲夜は可能な限り毎日ここへ通っていたのである。

「今日は、どんな事を教えていただけるのかしら?」
「はい、今日は叱り方について学んでいただきます」
 広い一室にゆっくりれみりゃのカゴを置き、二人は向かい合って話し合う。
 咲夜は、早苗が驚くほどに優秀な生徒だった。
 これまで、褒め方・エサのやり方など、いくつかの事を教えてきたが、その全てを完璧にこなしていた。

――これまでは大丈夫だから……後は、咲夜さんの頑張り次第です。

 こんなに簡単でいいのかしら、などと内心思っていた早苗。
 だから、その考えはが誤っていたと思い知る事となるとは、思いもしなかっただろう。


「じゃあ、まずは咲夜さんのやり方で叱ってみて下さい」
「わかったわ」
 ゆっくりれみりゃ人形を、咲く夜の前に置く早苗。
 これまでの講義でも、まずは必ず人形に向かってやってみるというやり方で進んでいった。
 早苗がにこにこと笑いながら見つめている前で、咲夜はどういう方法で叱るか考えた。

――叱る……しかる、叱る?

 思い出したのは、よりによって一週間前の美鈴の姿。
 ナイフを頭に突き刺し、ごろごろと転がる美鈴は、確実に反省していたに違いない。

――そうだわ、あれなら絶対に大丈夫、間違いなく反省する。


「だめじゃないのっ!」
 咲夜の言葉と共に飛んでいくナイフ。
 ざくざくと音を立ててゆっくりゃ人形に突き刺さり、あっという間に人形なのかナイフの塊なのか良く分からない物体へと化した。
 早苗は、その様子を見て笑顔のまま固まった。

「えーと……これで良いかしら?」
 ナイフまみれの物体を前に、おずおずと聞く咲夜。
 その様子から、真剣にやった結果がこれなのだと知り、早苗の意識は彼方へ飛んだ。


 一週間、二週間……瞬く間に、一ヶ月が過ぎた。
 泣き叫ぶゆっくりれみりゃの前に、咲夜と早苗が立っている。
 咲夜は真剣そのものの表情であるが、早苗は巫女であるにも関らず、悟りでも開いたかの様な穏やかな表情をしていた。
「なんでかしら?」
「……やりすぎです、咲夜さん。もっと優しくしなきゃ」
「優しく、優しく……こうね!?」
 ざしゅ。
「う”あ”ーーーーーー!!! い”だい”、い”だい”ぃぃぃ!!!」
 ごろごろと転がるゆっくりゃ。
 それを、咲夜は不思議そうに、早苗はまたやったとばかりにため息をついて眺めた。

「咲夜さん……ですから、ナイフは使わないで下さいって」
「でも早苗、言う事を聞かせるには、これが一番なのよ?」
「うー……ごあいー、ごあいよー……だれかたすけて、たすけてー……」
 先ほどのナイフがトラウマにでもなったらしく、震えるゆっくりゃを前にして、早苗は咲夜に一枚の紙を渡した。
「これは?」
「ゆっくりれみりゃ……いえ、ゆっくりの育て方です。読んでみてくださいね」
 ぺらぺらの紙に、いかにも女子高生らしい丸文字が踊っている。
 早苗の手書きらしいそれは、かなり詳しく育て方について書かれていた。
「ふんふん……分かったわ、これを参考にしていけば良いのね」
 やっと分かってくれた……早苗は、ある意味ゆっくりより教えにくいこのメイドが理解してくれた事を悟り、密かに涙した。
「ちなみに、ここの『体罰』というところは、ナイフで代用しても良いのよね?」
「ダメですっっっ!!!」
 同盟を組んでから一ヶ月が経過しても、この有様である。
 流石に、早苗は疲れてきていた。
 このデコボココンビが、果たしてどこまでやれるか……それは、早苗の頑張り次第かもしれない。
 遠く果てない未来を思い、早苗は深く深くため息をついた。





 ゆっくりれみりゃをペットとして扱う咲夜さんが見たいのと、早苗さんが見たくなったので、ちょっと自分で書いてみた。
 案外書けるもんだな……出来はさておき、ですが。
 自分の中のイメージですが、ゆっくり……というかペットへの接し方、2人はこんな感じです。
 咲夜:可愛がり方も叱り方も、やたら激しい。そのため、饅頭の強度しかないゆっくりを調教するのはほぼ無理と言える。
 早苗:『ペットの飼い方』とか持ってきて、マニュアル通りにやってる。優しすぎ、甘えさせすぎで困った子に育つ。
 by319

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2022年01月31日 01:30
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。