俺はただの人間だ。
今日は用事で紅魔館の近くまで来ているんだが、何時見てもこの屋敷にはイライラさせられる。
理由は、主人のレミリア・スカーレットだ。
たまに、従者を連れて街まで来るのだが、好き放題言い放って帰っていくだけだ。
俺の露店の商品も何一つ買っていかない。
気が付くと無くなっているので、何かしらの能力を使って盗んでいるのかもしれない。
そんな理由で、イライラしながら紅魔館の近くで用事を済ませる。
粗方終えたところで、不意に前に子供が歩いているのが目に入った。
いや、良く見ると子供じゃない、紅魔館の庭に住んでいるとか言うゆっくりれみりゃの希少種だろう。
うわさに聞くと、従者からの寵愛がすさまじく、実際の主より可愛がられているらしい。
箱入り娘といったところか。
「うっうー♪」
よたよたと、自分で日傘をさして散歩しているようだ。
従者の真似なのか片腕にもう一本同じ日傘をぶら下げている。
いや、違う。人一倍耳のいい俺は、紅魔館の近くから。
また、れみりゃさまがいなくなりました。
とか。
れみりゃさま、おいしいプリンですよ~。
とか言っている声を聞くことができた。
どうやら、自分に付きっ切りの従者の目を盗んで、散歩に来たらしいな。
あの様子だとなんどか抜け出しているようだし。
「う~。う~」
興味深そうに、うろうろしているゆっくりは放っておいて自分の作業を再開する。
今探しているのは、ゆっくり魔理沙か霊夢だ。
既に籠は一杯だが、あと一匹くらいは入る余裕がある。
その籠のゆっくりの声が気になったのか、一匹のゆっくり魔理沙が飛び出してきた。
「おじさん、せなかにせおってるなかから、ゆっくりのこえがきこえるよ」
「これかい、これはとってもゆっくりできる機械だよ」
警戒されないために、真っ黒く縫ってある籠は、一見すると大きな筒のようにも見える。
「ゆっくりできるの!おじさんまりさもゆっくりしたいよ」
どれ、ちょっと待ってな、と言おうとした時、ゆっくり魔理沙が悲鳴を上げた。
振り返るとそこには、傘を器用に肩に掛け、ゆっくり魔理沙を両手で加えて美味しそうに食べるゆっくいりれみりゃ。
迂闊だった、色々な偶然が重なった。
れみりゃ種はゆっくりを食べる、それは知っている。
それに、飼われているといってもあの紅魔館だ、普通の家と違って毎日ゆっくりを食事に出すなんてわけが無いだろう。
しかも、当のゆっくり魔理沙はこれに興味心身だった。
たとえ、弱らせて出されていたとしても、動かないでじっとしているゆっくりを食べるのは造作も無いことだろう。
どうせまた勝手に散歩に言ったんでしょ。
嫌なのよ、あいつほかのゆっくりと違って体まであるんですもの。
私が、ノータリンのちんちくりんに思われるじゃない。
とにかく、今日の夜まで戻ってこなかったら、金輪際ここには入れないこと。
分かったあなた達、咲夜も! もしきたら、殺せとは言わないは、直ぐに追い返しなさい。
あーもう!お気に入りの日傘まで持ち出したのね。
咲夜、今すぐ香霖堂かすきまの所へ行って新しい日傘を準備して。
「う~♪ いっぱい」
ショックのあまり、また聞き耳を立てていたらその間に食べ終わったらしい。
近くに、一つの山高帽だけが残っていた。
お腹が膨れて満足したのだろうか、紅魔館の方向へ向かっていく。
その後姿を、紅魔館の主に重ね合わせていると、無性に腹立たしくなった。
あいつが俺の獲物を取ったのだから、俺もあいつから取ればいいんだ。
ダッシュで近づいて帽子を奪う、れみりゃはその拍子に転んだようだ。
「うー!うー!」
帽子がそんなに大事だったか、俺を追いかけてきた。
それでも、懸命に日傘をさしているあたり、実際の主の真似なんだろうか。
ゆっくり種は、日に当たっても灰にはならないと言うのに。
そのまま、ちょこちょこと追いかけてくる。
顔は可愛らしいまでに泣いてるが。
そのまま俺の家まで着いてきやがった。
農村同士の中間にある俺のは、真昼間なのに人気が殆ど無い。
取り合えず、勝手に中まで入ってきたこいつに、帽子を返してやることにする。
「う-!」
ははは、可愛らしく頬を膨らませてやがる、さて、それがどうなるかな?
家の外に放り出す。
すると、腹いせだろうか扉を何べんか叩いた後、慌てて日傘を差した。
あたりをキョロキョロと見回してるところを見ると、どうやら道が分からないらしい。
そりゃそうさ、追いかけっこが始まったのは10時前、今はとっくにお昼も終わってるぜ。
「う~? う~?」
帰りたくても、帰り方が分からないらしい。
何時は側にいる従者も居ない事が余計不安を加速剤になっている。
そういえば、俺も殆ど何も食っていなかった。
さてと、俺もそろそろお昼にしますかね。
がらっと、扉を開ける。まだれみりゃは玄関にいるようだ。
「どうしたの、帽子は返したからもう帰ったら?」
「う~う~」
あらら、また泣き出した。
「ここにいると邪魔なんだよ!さっさと帰れ!!」
「う゛あー!!」
おっと声が大きすぎた。……しょうがないな。
「!! ……うー」
れみりゃを抱いて歩き出す、手を引こうかとも思ったが、如何せん身長差がありすぎる。
「う~♪う~♪」
はいはい。泣けばいう事を聞いてもらえて良かったね。
近くの山々の谷間辺りまで連れてきて、地面に降ろす。
また何か言っているようだが、無視することにした。
日傘を奪って地面に刺す、ちょうど下に木の根が延びていたの様なので、持ち手の部分を引っ掛けた。
……これ、こうすることを考えていたみたいに急激にまわっているな。
次に落ち葉などをかけて、即席ゆっくりの巣の出来上がりだ。
「ほら、家を作ってあげたよ。昔はこうやって過ごしてたんだろ?」
感謝の言葉を期待したが、まったく無かった。
心優しい俺が、きちんとゆっくりが多く居るあの山を選んであげたのに。
俺は複雑な気持ちで家に帰った。
最終更新:2015年01月22日 01:28