HTPテスト


 描画テストであるS-HTP法は家と木と人を入れて何でも好きな絵を描かせるというテストである。1948年にBuckによって創始されたHTP法は家と木と人を別々に描くというテストであったが、それを統合型(synthetic)にしたものがS-HTP法である。
 このテストから検査者は被験者のパーソナリティの感受性、成熟性、柔軟性、能率性および統合度やパーソナリティと環境との相互作用などに関する情報を得ることができる。日本において、HTP法は精神医学の治療場面で使われ、分裂病者に対する心理的研究に用いられた。S-HTP法によって、家、木そして人の関連付けからの情報が得られたり、自由度が高まったりする。それにより、描画の部分的特徴よりも全体的な評価のほうが信頼性は高くなる。
 では、なぜ家と木と人なのだろうか。その理由は幼児を含め、あらゆる年齢層で受け入れやすいということが理由の1つにあげられる。その他の課題に比べて好意的に受け入れられ、絵の内容を話させるPDI法(Post-Drawing-Interview)を行う際にも率直に自由に言語表現させることができると考えられている。PDI法は検査者が描画をより正確に判読するためだけではなく、被験者が自分の絵をより深く理解し、自らの内面を意識化するために行われる。


テストの実施法

 S-HTP法ではA4判の画用紙1枚を使う。(HTP法の場合はB5版を3枚使用)その他にHBの鉛筆を2~3本と消しゴムを1つ用意しておく。
画用紙を横にして使用するように伝えたあとに、「家と木と人を入れて何でも好きな絵を書いてください」と教示する。その際に、絵の上手い下手を見るのではないこと、いい加減ではなく、ていねいに描くこと、写生ではなく思ったとおりに描くこと、時間は自由であること、隣の人の絵を見たり邪魔したりしないこと、という注意を加える。
受検中の被験者の言動や描いた順番、修正箇所など特徴的なことはすべて記録しておく。検査者はできるだけ被験者の描画のプロセスを把握するよう努め、わかりにくい箇所については可能な範囲で質問しておくことも大切である。


テストの評価

1.全体的評価

 描画テストの解釈においては考えることよりもまずは描画の全体の印象を直感的にとらえることからはじめ、その後細部の解釈へ移っていくことが原則である。そのため、S-HTP法では家、木、人といった個々の解釈をする前にまずは全体的評価を行う必要がある。
 全体的評価の観点は、まず1つめに、家と木と人が羅列的ではなく関係性を持って描かれているかという「統合性」が挙げられる。羅列的な絵が描かれた場合、何らかの問題が背景にあることはほぼ確実となる。統合性をみることはパーソナリティを総合的に評価するうえで最も重要な判断基準となる。2つめに「描画サイズ」があげられる。ここでは描画の大小や筆圧の強弱から内的エネルギーの高さをみることができる。3つめの「付加物」は家や木、人以外に何がどのくらい描かれているかに着眼する。そして4つめは外界と自分との距離感をみる「遠近感」、5つめは人と家がどのような関係にあるのかという「人と家、木との関連づけ」6つめは「描線・形・体の確かさ」7つめは葛藤を示す「切断」、8つめに「修正」などがあげられる。さらに9つめとして対称性や自然さに着眼する「その他」が加わる。

2.家の評価

 このテストにおいて、家は家庭との関係、現実との関わり、他者への接触性、自我の強さ、情緒的安定性、性的発達度などを表す、と言われている。
家の評価で注目すべき点は「大きさ」「安定感」「壁の面数」「ドア、窓」「屋根」「その他の付属物」「特殊な家」といった項目である。まず、大きさからは被験者にとっての家族の存在価値や家族への依存度を示すものと言える。安定感は基底線がしっかりと水平に描かれているか、壁面が基底線に対して直立に描かれているかということに着目する。これは家族との関係や被験者自身の情緒的安定性をする上で重要なポイントとなる。次に、壁の面数は知的発達を反映するもので、例えば3面、壁面を描いた場合は特殊な病的描写であるといえる。ドアは外界との直接的な交流の場として積極的な人間関係への態度を、一方窓は受動的な外界との接触の仕方を少量するといわれている。さらに、屋根は大きさや模様から精神生活や思考、空想を象徴するものといわれている。その他の付属物は煙突やアンテナ、カーテン、呼び鈴などが描かれているかどうかに着目する。特殊な家とは団地やマンションといった一戸建ての家ではない場合を指す。

3.木の評価

 このテストにおいて、木は無意識的な深層の自己像を表し、それゆえにより深い感情や禁止されている感情が自己防衛の必要性なしに投影されやすいといわれている。また再検査の際、もっとも変化が少ないことが特徴である。
木の評価では「豊かさ」「自然さ」「幹」「枝」に注目する必要がある。まず、豊かさでは枯れているのか、生えてきたばかりなのかということに注意する。また、主に「葉」は気分や感情の動き、自己表現、他人とのかかわりを表し、「枝」は情緒や知性の発達度、成熟度、他人との関わり、または攻撃性を示す場合もある。「幹」は本来持つ基本的性格や生命力、「地面」は親子など親近な人との関係、そして「基部」は生命力を表している。また、木と人のバランスに注目することも必要である。さらに、木に外傷がある場合は描画後に被験者に確認を取る必要がある。また、木に実がなっているかどうか、根や樹幹はどのように描かれているかということも木の評価には重要となる。

4.人の評価

このテストにおいて、人は意識的な自己像または特定の他者、人間一般の表われであると解釈される。
人についてみていく時に注目されるのが「人数」「大きさ」「性別」「向き」「運動」「簡略化」「部分」などである。「人数」では何人描かれているのかということだけではなく、描かれている人物が誰であり、どのように描かれているのかということが問題となる。これは描画後に質問して確認する必要がある。「大きさ」では全体のバランスがとれているかどうかということに着目する。木と比較することで意識的な自己と無意識的な自己との関係性を捉える事もできるだろう。「性別」は異性を描いたのか同性を描いたのか、あるいは性別不明の人が描かれているのかというところを確認する必要がある。そして「向き」は正面向きなのか、横向き、あるいは後ろ向きなのかということをおさえる。しかし、意味を解釈する場合には他との関連性において読み取っていくことが必要となる。さらに、人は何をしているところなのか、人を描く際に記号化されていないか、そして人の部分的なところに着眼し頭の大きさといったバランスや表情、衣服の詳細さなどについても見る必要がある。



めぐみ
最終更新:2008年07月12日 13:54